シールド掘進機における推進ジャッキの推力設定方法
【課題】同時掘進組立工法において、作動中の推進ジャッキにより必要な総推力及び曲げモーメントを得てシールド掘進機の掘進方向制御を行う。
【解決手段】セグメント組立箇所に対応する推進ジャッキ群(J9〜J12)を不作動とする一方、残りの推進ジャッキを作動させる場合には、J9〜J12の中央位置を軸線角度θ2で表し、J1〜J16を、軸線角度θ2に対応する軸線AX2の両側に二分される2つのグループA2,B2に分け、各グループについて、軸線AX2の方向に傾斜する勾配を有する第1の推力分布LA2,LB2を設定する。この推力分布の勾配率は軸線方向強さr2により決定される。この推力分布に従い、各推進ジャッキの推力分担率Qi’を算出し、偏差係数αA,αBを用いて変更して推力分担率Qiを算出する。推力分担率Qiと目標総推力とに基づいて各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiを設定する。
【解決手段】セグメント組立箇所に対応する推進ジャッキ群(J9〜J12)を不作動とする一方、残りの推進ジャッキを作動させる場合には、J9〜J12の中央位置を軸線角度θ2で表し、J1〜J16を、軸線角度θ2に対応する軸線AX2の両側に二分される2つのグループA2,B2に分け、各グループについて、軸線AX2の方向に傾斜する勾配を有する第1の推力分布LA2,LB2を設定する。この推力分布の勾配率は軸線方向強さr2により決定される。この推力分布に従い、各推進ジャッキの推力分担率Qi’を算出し、偏差係数αA,αBを用いて変更して推力分担率Qiを算出する。推力分担率Qiと目標総推力とに基づいて各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiを設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機の掘進方向制御を推進ジャッキの推力調整により行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シールド掘進機を用いるトンネル施工では、掘進速度の高度化の目的から、地山の掘進を行いつつその後方でセグメントの組立を行ってトンネルを構築する、いわゆる同時掘進組立工法が行われている。
【0003】
この同時掘進組立工法に関する技術としては、例えば、特許文献1に記載の技術がある。
特許文献1には、シールド掘進機において、掘進機本体の周縁線上に配置された複数の推進ジャッキのうち、組立中のセグメントに対応する推進ジャッキ群を不作動とし、不作動の推進ジャッキ群以外の推進ジャッキで既設セグメントから反力を取って推進することが記載されている。また特許文献1では、不作動の推進ジャッキ群に起因して発生する強制的なモーメントを打ち消すように、作動中の推進ジャッキの圧力を制御し、これにより、シールド掘進機をゼロモーメントで推進させている。また特許文献1では、掘進機本体を構成する前胴と後胴とが複数の中折れジャッキにより連結されており、この中折れジャッキを伸縮させることによりシールド掘進機の掘進方向制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−74290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のようなシールド掘進機では、推進と掘進方向制御とを、推進ジャッキと中折れジャッキとで各別に行っているので、シールド掘進機の構成が複雑になり得る。
【0006】
また、シールド掘進機の構成の複雑化を避けるために、中折れジャッキを有さない構成として、シールド掘進機の掘進方向制御を、推進ジャッキを用いて行う場合には、不作動の推進ジャッキ群に起因して発生する強制的なモーメントを考慮しつつ、掘進方向制御にて要求される総推力(全推進ジャッキの推力の合計値)及び曲げモーメントが得られるように、作動中の推進ジャッキの圧力目標値(換言すれば、推力目標値)を設定する必要がある。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑み、中折れジャッキ等を有さない比較的簡素な構成のシールド掘進機にて、セグメントの組立箇所に対応する推進ジャッキ群が不作動であっても、作動中の推進ジャッキにより、必要な総推力及び曲げモーメントを得てシールド掘進機の掘進方向制御を行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのため本発明に係るシールド掘進機における推進ジャッキの推力設定方法では、掘進機本体の周縁線上に配置された複数の推進ジャッキの推力を調整してシールド掘進機の掘進方向を制御するに当たり、掘進とセグメント組立とを同時施工するために、セグメント組立箇所に対応する複数の推進ジャッキを含む推進ジャッキ群を不作動とする一方、この不作動の推進ジャッキ群以外の推進ジャッキを作動させる場合において、シールド掘進機の掘進方向制御に必要な目標総推力及び目標ジャッキモーメントを設定し、不作動の推進ジャッキ群の配置範囲内の所定位置と周縁線の中心とを通る軸線を設定し、作動させる推進ジャッキを、軸線の両側に二分される2つのグループに分け、目標総推力及び目標ジャッキモーメントを得るように、各グループについて、軸線の方向に傾斜する勾配を有する推力分布を設定し、この推力分布に基づいて、各推進ジャッキの第1の推力目標値を設定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作動させる推進ジャッキを、軸線の両側に二分される2つのグループに分け、目標総推力及び目標ジャッキモーメントを得るように、各グループについて、軸線の方向に傾斜する勾配を有する推力分布を設定し、この推力分布に基づいて、各推進ジャッキの第1の推力目標値を設定する。これにより、不作動の推進ジャッキ群に起因して発生する強制的なモーメントを考慮した比較的なだらかな推力分布に基づいて、各推進ジャッキの第1の推力目標値を設定することができるので、この推力目標値に基づいて各推進ジャッキの推力を調整して必要な総推力及び曲げモーメントを得てシールド掘進機の掘進方向制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態におけるシールド掘進機の概略構成を示す図
【図2】推進ジャッキの推力設定方法を示すフローチャート
【図3】セグメント組立前における目標ジャッキモーメント及び推力目標値の設定方法を示すフローチャート
【図4】セグメント組立前の推力分布を示す図
【図5】セグメント組立時における第1の推力目標値の設定方法を示すフローチャート
【図6】セグメント組立時における第1の推力分布を示す図
【図7】セグメント組立時における第2の推力目標値の設定方法を示すフローチャート
【図8】セグメント組立時における第2の推力分布を示す図
【図9】セグメント組立前における推力目標値を示す図(θ1=3/2π[rad])
【図10】セグメント組立時における第1の推力目標値を示す図(θ2=3/2π[rad])
【図11】セグメント組立時における第2の推力目標値を示す図(θ3=3/2π[rad])
【図12】セグメント組立時における第1の推力目標値を示す図(θ2=5/4π[rad])
【図13】セグメント組立時における第2の推力目標値を示す図(θ3=5/4π[rad])
【図14】セグメント組立時における第1の推力目標値を示す図(θ2=π[rad])
【図15】セグメント組立時における第2の推力目標値を示す図(θ3=π[rad])
【図16】セグメント組立時における第1の推力目標値を示す図(θ2=3/4π[rad])
【図17】セグメント組立時における第2の推力目標値を示す図(θ3=3/4π[rad])
【図18】セグメント組立時における第1の推力目標値を示す図(θ2=1/2π[rad])
【図19】セグメント組立時における第2の推力目標値を示す図(θ3=1/2π[rad])
【図20】本発明の第2実施形態における推進ジャッキの推力設定方法を示すフローチャート
【図21】軸線角度の設定方法の変形例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態におけるシールド掘進機の概略構成を示す。
シールド掘進機1は、その掘進機本体2の前面に設けられた回転カッタ2aで地山を掘削しながら土砂を取り込んで後方に搬出して掘進する。
【0012】
また、シールド掘進機1は、掘進機本体2の後方にエレクター3を備える。エレクター3は、セグメント4を組立てて円筒状の覆工体5を構築する。セグメント4は、隣接するセグメント同士を覆工体5の周方向に接続するための継手部(図示せず)を有する。ここで、本実施形態では、覆工体5の1リング分が8ピースのセグメント4により構成されるとして以下説明するが、1リング分のセグメント4のピース数はこれに限らない。
【0013】
掘進機本体2の周縁線上(図4,図6,図8に示す円周C上)には、複数(本実施形態では16本)の推進ジャッキ6が配置されている。
推進ジャッキ6は、シリンダ6aとロッド6bとにより構成される油圧ジャッキである。シリンダ6aは、その一端が掘進機本体2に固定されており、他端側にて、ロッド6bが進出・退入可能となっている。推進ジャッキ6のロッド6bの先端部を既設のセグメント4に当接させた状態で推進ジャッキ6を伸長作動させることにより、シールド掘進機1は推進力を得ることができる。このようにして、推進ジャッキ6は、既設のセグメント4から反力を取ってシールド掘進機1を推進させる。
【0014】
また、推進ジャッキ6のロッド6bの伸縮ストロークの長さは、セグメント4の1リング幅より長くなるように、すなわち、最大伸長時に1リング分のセグメント4の幅より長くなるように(例えば、最大伸長時に1リング分のセグメント4の幅の2倍の長さになるように)構成される。
【0015】
シールド掘進機1は、推進ジャッキ6により常時推進され、これと並行して、エレクター3にてセグメント4の組立てが行われる。この際、組立て中のセグメント4に対応する4本の推進ジャッキ6からなるグループ(以下、「組立ジャッキ群」という)は引戻し(不作動)とされ、それ以外の推進ジャッキ6を伸長作動させて既設のセグメント4から反力を取ってシールド掘進機1を推進させる。ここで、組立ジャッキ群が対応するセグメント4の組立箇所は、掘進機本体2の周縁線(図4,図6,図8に示す円周C)に沿って周方向に移動する。
【0016】
制御部10は、掘進機本体2に予め設けられた図示しない位置センサや姿勢角センサ等からの信号を入力して、シールド掘進機1の運転に関する各種演算や各種制御を行うが、本実施形態では、特に、シールド掘進機1の掘進方向制御を行うべく、各推進ジャッキの推力目標値を設定し、この推力目標値に応じて、各推進ジャッキの圧力制御(油圧制御)を行う。
【0017】
図2は、制御部10を用いて実現される、各推進ジャッキの推力目標値Tiの設定方法を示すフローチャートである。ここで、本明細書において、添字「i」は推進ジャッキ6の本数に対応しており、本実施形態では、推進ジャッキ6の本数が16本であるので、i=1〜16となっている。
【0018】
ステップS1では、シールド掘進機1の掘進方向制御に必要な総推力の目標値(目標総推力)Ttotalを設定する。具体的には、例えば、制御部10の記憶部に予め入力されて記憶された、シールド掘進機1の推進時の目標総推力Ttotalを読み込んで、これを掘進方法制御のための目標値として設定する。
【0019】
ステップS2では、セグメント4の組立前における、シールド掘進機1の掘進方向制御に必要な曲げモーメントの目標値(目標ジャッキモーメント)MPを設定する。また、ステップS2では、セグメント4の組立前に、目標総推力Ttotalと目標ジャッキモーメントMPとが得られるように、各推進ジャッキの推力目標値TPiを設定する。尚、ステップS2における処理の詳細については、図3及び図4を用いて後述する。
【0020】
ステップS3では、目標総推力Ttotalと、目標ジャッキモーメントMPと、セグメント4の組立時の組立ジャッキ群の位置(例えば、後述する図6におけるJ9〜J12)と、を考慮して、セグメント4の組立時における、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiを設定する。尚、ステップS3における処理の詳細については、図5及び図6を用いて後述する。
【0021】
ステップS4では、目標総推力Ttotalと、目標ジャッキモーメントMPと、セグメント4の組立時の組立ジャッキ群の位置(例えば、後述する図8におけるJ9〜J12)と、組立ジャッキ群に対して円周Cの中心Oに関して対称な位置にて不作動とされ得る推進ジャッキのグループ(以下、「対抗ジャッキ群」という)の位置(例えば、後述する図8におけるJ1〜J4)と、を考慮して、セグメント4の組立時における、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiを設定する。尚、ステップS4における処理の詳細については、図7及び図8を用いて後述する。
【0022】
ステップS5では、第1の推力目標値TQiの最大値TQmaxと第2の推力目標値TRiの最大値TRmaxとを比較する。
TQmax>TRmaxの場合には、ステップS6にてTi=TRiとして、本フローを終了する。すなわち、第1の推力目標値TQiの最大値TQmaxが第2の推力目標値TRiの最大値TRmaxより大きい場合には、各推進ジャッキの推力目標値Tiとして、第2の推力目標値TRiを選択する。これにより、推進ジャッキ6の推力の最大値を低く抑制することができるので、セグメント4に局所的に過大な荷重が作用してセグメント4が破損すること、及び、覆工体5が変形することを抑制することができる。
【0023】
TQmax≦TRmaxの場合には、ステップS7にてTi=TQiとして、本フローを終了する。すなわち、第1の推力目標値TQiの最大値TQmaxが第2の推力目標値TRiの最大値TRmax以下の場合には、各推進ジャッキの推力目標値Tiとして、第1の推力目標値TQiを選択する。これにより、推進ジャッキ6の推力の最大値を低く抑制することができるので、セグメント4に局所的に過大な荷重が作用してセグメント4が破損すること、及び、覆工体5が変形することを抑制することができる。
【0024】
このようにして、各推進ジャッキの推力目標値Tiを設定した後に、この推力目標値Tiに応じて、推進ジャッキ6の圧力制御(油圧制御)を行う。
【0025】
次に、上述のステップS2における処理の詳細について、図3及び図4を用いて説明する。
図3は、セグメント組立前における目標ジャッキモーメントMP及び推力目標値TPiの設定方法を示すフローチャートである。図4は、セグメント組立前における推力分布を示す図である。
【0026】
図3のステップS21では、目標ジャッキモーメントMPを設定する。
ここで、目標ジャッキモーメントMPの設定について、図4を用いて説明する。
16本の推進ジャッキ6に対応する推進ジャッキJ1〜J16が掘進機本体2の周縁線上(円周C上)に配置されている場合において、水平及び鉛直の姿勢偏差を修正するために必要な次の掘進目標点を推進ジャッキのための操作目標点と仮定して、上記水平及び鉛直の姿勢偏差から求まる操作目標点までの曲げモーメントを、本実施形態では目標ジャッキモーメントMPと称している。そして、本実施形態では、目標ジャッキモーメントMPを、円周Cの中心Oにおける極座標系の操作強さr1と操作角度θ1とに対応させて表している。すなわち、目標ジャッキモーメントMPの強さが操作強さr1に対応する一方、目標ジャッキモーメントMPの方向(角度)が操作角度θ1に対応する。従って、本実施形態では、制御部10の記憶部に予め入力されて記憶された操作強さr1と操作角度θ1とを読み込むことにより、目標ジャッキモーメントMPが設定される。尚、本実施形態において、操作強さr1は、0≦r1≦1の関係を満たす無次元数であり、後述する直線勾配の推力分布LA1,LB1の勾配率を決定するパラメータである。
【0027】
図3に戻り、ステップS22では、推力分担率Piを算出する。
推力分担率Piは、以下2つのステップを経て算出される。
(1)図4に示すように、操作角度θ1の延長線が円周Cと交わる点E1と、これとは180度反対側の円周C上の点E2とを求める。
(2)点E1にて最大推力、点E2にて最小推力となるように操作強さr1により決定される直線勾配の推力分布LA1,LB1に従い、推進ジャッキJ1〜J16の位置毎の推力分担率P1〜P16を、2つの点E1,E2を結ぶ軸線AX1で二分されるその両側の各グループA1,B1について、以下の式によりそれぞれ求める。
Pi=[1+[{cos(φi−θ1)+1}/2−1]・r1]×100
ここで、φi[rad]は、推進ジャッキJi(i=1〜16)の取付位置を示す。
再び図3に戻り、ステップS23では、ステップS22にて算出された推力分担率Piと目標総推力Ttotalとに基づいて、各推進ジャッキの推力目標値TPiを算出し、設定する。
【0028】
尚、目標ジャッキモーメントMPについては、そのヨー方向(図4のY軸回り)のモーメント成分であるMPXと、ピッチ方向(図4のX軸回り)のモーメント成分であるMPYとが、以下の式により、それぞれ求められる。
MPX=ΣMPXi=Σ(TPi・RC・cos(φi))
MPY=ΣMPYi=Σ(TPi・RC・sin(φi))
ここで、RCは、円周Cの半径である。
【0029】
以上のようにして、ステップS2にて、目標ジャッキモーメントMP及び推力目標値TPiが設定される。
【0030】
また、図4に示すように、直線勾配の推力分布LA1,LB1の境界線である軸線AX1を、操作角度θ1の延長線と同一方向に設定することで、推力分布LA1,LB1が軸線AX1に関する対称性を有する比較的なだらかな勾配(直線勾配)で設定されるので、それらの推力差が全て同一方向の曲げモーメントを生ずることとなり、シールド掘進機1の掘進方向制御に必要な曲げモーメント(目標ジャッキモーメントMP)を効率的に得ることができる。また、この推力設定方式により、推進ジャッキ6の動力設備を簡素化することが可能である。
【0031】
次に、上述のステップS3における処理の詳細について、図5及び図6を用いて説明する。
図5は、セグメント組立時における第1の推力目標値TQiの設定方法を示すフローチャートである。図6は、セグメント組立時における第1の推力分布を示す図である。
【0032】
図5のステップS31では、制御部10の記憶部に予め入力されて記憶された偏差係数αA,αB及び軸線方向強さr2の各々の初期値と、軸線角度θ2とを読み込む。
【0033】
ここで、軸線方向強さr2及び軸線角度θ2について、図6を用いて説明する。
推進ジャッキJ1〜J16が掘進機本体2の周縁線上(円周C上)に配置されている場合において、組立ジャッキ群(図6では推進ジャッキJ9〜J12)の中央位置F1を、周縁線(円周C)の中心Oにおける極座標系の操作角度θ2で表している。換言すれば、組立ジャッキ群の中央位置F1に対応するように、軸線角度θ2が設定されている。ここで、中央位置F1は、本発明における「不作動の推進ジャッキ群の配置範囲内の所定位置」に対応するものである。また、軸線方向強さr2は、後述する第1の推力分布LA2,LB2の勾配率を決定するパラメータであり、無次元数である。
【0034】
図5に戻り、ステップS32では、推力分担率Qiを算出する。
推力分担率Qiは、以下5つのステップを経て算出される。
(1)推進ジャッキJ1〜J16を、軸線角度θ2に対応する軸線AX2の両側に二分される2つのグループA2,B2に分ける。ここで、軸線AX2は、組立ジャッキ群の中央位置F1と、円周Cの中心Oとを通る直線である。
(2)各グループA2,B2について、軸線AX2の方向に傾斜する勾配を有する第1の推力分布LA2,LB2を設定する。ここで、第1の推力分布LA2,LB2は直線勾配を有しており、この勾配率は、軸線方向強さr2により決定される。
(3)第1の推力分布LA2,LB2に従い、推進ジャッキJ1〜J16の位置毎の推力分担率Q1’〜Q16’を、各グループA2,B2について、以下の式によりそれぞれ求める。
Qi’=[1+[{cos(φi−θ2)+1}/2−1]・r2]×100
(4)組立ジャッキ群(推進ジャッキJ9〜J12)に対応するQ9’〜Q12’をゼロとする。これにより、実質的には、作動させる推進ジャッキ(すなわち、組立ジャッキ群以外の推進ジャッキ)が、軸線AX2の両側に二分されるグループA2,B2に分けられたことになる。
(5)推力分担率Qi’を、両グループ間の相対強さに対応する偏差係数αA,αBにより変更する。具体的には、グループA2に属する推進ジャッキJ3〜J10については、各々の推力分担率Qi’に偏差係数αAを乗じることにより変更して、各々の推力分担率Qiを算出する。同様に、グループB2に属する推進ジャッキJ11〜J16,J1,J2については、各々の推力分担率Qi’に偏差係数αBを乗じることにより変更して、各々の推力分担率Qiを算出する。ここで、偏差係数αA,αBについては、αA+αB=2の関係を満たしている。
【0035】
再び図5に戻り、ステップS33では、ステップS32にて算出された推力分担率Qiと目標総推力Ttotalとに基づいて、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiを算出する。このようにして、目標総推力Ttotalを得るように、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiが設定される。
【0036】
ステップS34では、ステップS33にて設定された各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiに基づいて、曲げモーメントに対応するジャッキモーメントMQを算出する。
【0037】
尚、ジャッキモーメントMQについては、ヨー方向(図6のY軸回り)のモーメント成分であるMQXと、ピッチ方向(図6のX軸回り)のモーメント成分であるMQYとを、以下の式によりそれぞれ求める。
MQX=ΣMQXi=Σ(TQi・RC・cos(φi))
MQY=ΣMQYi=Σ(TQi・RC・sin(φi))
【0038】
ステップS35では、ジャッキモーメントMQと目標ジャッキモーメントMPとを比較する。具体的には、ジャッキモーメントMQのヨー方向及びピッチ方向のモーメント成分(MQX,MQY)と目標ジャッキモーメントMPのヨー方向及びピッチ方向のモーメント成分(MPX,MPY)とを比較する。
【0039】
MQがMPに略同等ではない場合(例えば、MQとMPとの差が予め設定された閾値以上の場合)には、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiからなる推力分布により生じる曲げモーメントと、セグメント4組立前の曲げモーメントとの差異が大きいと判定し、ステップS36に進んで、軸線方向強さr2と偏差係数αA,αBとを変更して再設定し、ステップS32に戻って、推力分担率Qiの算出を行う。
【0040】
一方、MQがMPに略同等である場合、(例えば、MQとMPとの差が予め設定された閾値未満の場合)には、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiからなる推力分布により生じる曲げモーメントが、セグメント4組立前の曲げモーメントと略同等であると判定し、このときの第1の推力目標値TQiを、ステップS37にて、制御部10の記憶部に記憶させて、本フローを終了する。
【0041】
このようにして、ステップS3にて、目標総推力Ttotal及び目標ジャッキモーメントMPを得るように、第1の推力目標値TQiが設定される。
【0042】
次に、上述のステップS4における処理の詳細について、図7及び図8を用いて説明する。
図7は、セグメント組立時における第2の推力目標値TRiの設定方法を示すフローチャートである。図8は、セグメント組立時における第2の直線勾配の推力分布を示す図である。
【0043】
図7のステップS41では、制御部10の記憶部に予め入力されて記憶された偏差係数βA,βB及び軸線方向強さr3の各々の初期値と、軸線角度θ3とを読み込む。
ここで、軸線方向強さr3及び軸線角度θ3について、図8を用いて説明する。
【0044】
推進ジャッキJ1〜J16が掘進機本体2の周縁線上(円周C上)に配置されている場合において、組立ジャッキ群(図8では推進ジャッキJ9〜J12)の中央位置G1を、周縁線(円周C)の中心Oにおける極座標系の軸線角度θ3で表している。換言すれば、組立ジャッキ群の中央位置G1に対応するように、軸線角度θ3が設定されている。ここで、中央位置G1は、本発明における「不作動の推進ジャッキ群の配置範囲内の所定位置」に対応するものである。また、軸線方向強さr3は、後述する第2の推力分布LA3,LB3の勾配率を決定するパラメータであり、無次元数である。
【0045】
図7に戻り、ステップS42では、推力分担率Riを算出する。
推力分担率Riは、以下5つのステップを経て算出される。
(1)推進ジャッキJ1〜J16を、軸線角度θ3に対応する軸線AX3の両側に二分される2つのグループA3,B3に分ける。ここで、軸線AX3は、組立ジャッキ群の中央位置G1と、円周Cの中心Oとを通る直線である。
(2)各グループA3,B3について、軸線AX3の方向に傾斜する勾配を有する第2の推力分布LA3,LB3を設定する。ここで、第2の推力分布LA3,LB3は直線勾配を有しており、この勾配率は、軸線方向強さr3により決定される。
(3)第2の推力分布LA3,LB3に従い、推進ジャッキJ1〜J16の位置毎の推力分担率R1’〜R16’を、各グループA3,B3について、以下の式によりそれぞれ求める。
Ri’=[1+[{cos(φi−θ3)+1}/2−1]・r3]×100
(4)組立ジャッキ群(推進ジャッキJ9〜J12)に対応するR9’〜R12’と、この組立ジャッキ群に対して円周Cの中心Oに関して対称に位置する対抗ジャッキ群(図8では推進ジャッキJ1〜J4)に対応するR1’〜R4’とをそれぞれゼロとする。これにより、実質的には、作動させる推進ジャッキ(すなわち、組立ジャッキ群及び対抗ジャッキ群以外の推進ジャッキ)が、軸線AX3の両側に二分されるグループA3,B3に分けられたことになる。
(5)推力分担率Ri’を、両グループ間の相対強さに対応する偏差係数βA,βBにより変更する。具体的には、グループA3に属する推進ジャッキJ3〜J10については、各々の推力分担率Ri’に偏差係数βAを乗じることにより変更して、各々の推力分担率Riを算出する。同様に、グループB3に属する推進ジャッキJ11〜J16,J1,J2については、各々の推力分担率Riに偏差係数βBを乗じることにより変更して、各々の推力分担率Riを算出する。ここで、偏差係数βA,βBについては、βA+βB=2の関係を満たしている。
【0046】
再び図7に戻り、ステップS43では、ステップS42にて算出された推力分担率Riと目標総推力Ttotalとに基づいて、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiを算出する。このようにして、目標総推力Ttotalを得るように、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiが設定される。
【0047】
ステップS44では、ステップS43にて設定された各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiに基づいて、曲げモーメントに対応するジャッキモーメントMRを算出する。
【0048】
尚、ジャッキモーメントMRについては、ヨー方向(図8のY軸回り)のモーメント成分であるMRXと、ピッチ方向(図8のX軸回り)のモーメント成分であるMRYとを、以下の式によりそれぞれ求める。
MRX=ΣMRXi=Σ(TRi・RC・cos(φi))
MRY=ΣMRYi=Σ(TRi・RC・sin(φi))
ステップS45では、ジャッキモーメントMRと目標ジャッキモーメントMPとを比較する。具体的には、ジャッキモーメントMRのヨー方向及びピッチ方向のモーメント成分(MRX,MRY)と目標ジャッキモーメントMPのヨー方向及びピッチ方向のモーメント成分(MPX,MPY)とを比較する。
【0049】
MRがMPに略同等ではない場合(例えば、MRとMPとの差が予め設定された閾値以上の場合)には、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiからなる推力分布により生じる曲げモーメントと、セグメント4組立前の曲げモーメントとの差異が大きいと判定し、ステップS46に進んで、軸線方向強さr3と偏差係数βA,βBとを変更して再設定し、ステップS42に戻って、推力分担率Riの算出を行う。
【0050】
一方、MRがMPに略同等である場合、(例えば、MRとMPとの差が予め設定された閾値未満の場合)には、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiからなる推力分布により生じる曲げモーメントが、セグメント4組立前の曲げモーメントと略同等であると判定し、このときの第2の推力目標値TRiを、ステップS47にて、制御部10の記憶部に記憶させて、本フローを終了する。
【0051】
このようにして、ステップS4にて、目標総推力Ttotal及び目標ジャッキモーメントMPを得るように、第2の推力目標値TRiが設定される。
【0052】
次に、本実施形態における各推進ジャッキの推力目標値Tiが、セグメント4の組立状況に応じてどのように設定されるのかについて、図9〜図19を用いて説明する。
【0053】
図9(a)〜図19(a)は、それぞれ、シールド掘進機の掘進機本体2の後方から見た推進ジャッキJ1〜J16の配置箇所を示している。ここで、推進ジャッキJ1〜J16のうち、黒いドットで示されている推進ジャッキは組立ジャッキ群に属しており、引戻しにより不作動となっている。また、推進ジャッキJ1〜J16のうち、斜線で示されている推進ジャッキは対抗ジャッキ群に属しており、これらも不作動となっている。
【0054】
また、図9(b)〜図19(b)は、それぞれ、各推進ジャッキの推力目標値(TPi,TQi,TRi)の大きさを円柱の高さで示している。
尚、本実施形態では、目標総推力Ttotalを560[kN]と仮定する。また、操作角度θ1を3/2[rad]と仮定する。また、操作強さr1を0.40と仮定する。また、円周Cの半径RCを2[m]と仮定する。
【0055】
[1]セグメント組立前の場合(図9参照)
この場合は、上述の図2のステップS2、図3のステップS21〜S23、及び図4を用いると、以下表1に示す算出結果が得られる。
【0056】
【表1】
また、表1は図9に対応しており、表1における推力目標値TPが、図9(b)に示されている。
【0057】
この場合における目標ジャッキモーメントMPのヨー方向のモーメント成分MPX(0[kN・m])と、ピッチ方向のモーメント成分MPY(140[kN・m])とがセグメント組立時においても維持されるように(すなわち、セグメント組立前の目標ジャッキモーメントMPがセグメント組立時においても維持されるように)、及び、目標総推力Ttotalがセグメント組立時においても維持されるように、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQと第2の推力目標値TRとが設定される。
【0058】
[2]セグメント組立時における組立ジャッキ群がJ7〜J10からなる場合(図10,図11参照)
この場合は、軸線角度θ2=θ3=3/2π[rad]となる。
【0059】
まず、軸線方向強さr2=1.00とし、偏差係数αA=αB=1.00として、上述の図2のステップS3、図5のステップS31〜S37、及び図6を用いると、以下表2に示す算出結果が得られる。
【0060】
【表2】
また、表2は図10に対応しており、表2における第1の推力目標値TQが、図10(b)に示されている。
【0061】
次に、対抗ジャッキ群に属するJ15,J16,J1,J2を不作動とし、軸線方向強さr3=0.84とし、偏差係数βA=βB=1.00として、上述の図2のステップS4、図7のステップS41〜S47、及び図8を用いると、以下表3に示す算出結果が得られる。
【0062】
【表3】
また、表3は図11に対応しており、表3における第2の推力目標値TRが、図11(b)に示されている。
【0063】
表2と表3とを参照すると、第1の推力目標値の最大値TQmaxは104[kN]であり、また、第2の推力目標値の最大値TRmaxは98[kN]であるので、TQmax>TRmaxとなっている。
【0064】
従って、この場合には、図2のステップS5にてステップS6に進むことになるので、各推進ジャッキの推力目標値Tiとしては、第2の推力目標値TRiが選択されて設定されることになる。
【0065】
[3]セグメント組立時における組立ジャッキ群がJ9〜J12からなる場合(図12,図13参照)
この場合は、軸線角度θ2=θ3=5/4π[rad]となる。
【0066】
まず、軸線方向強さr2=0.97とし、偏差係数αA=1.10とし、αB=0.90として、上述の図2のステップS3、図5のステップS31〜S37、及び図6を用いると、以下表4に示す算出結果が得られる。
【0067】
【表4】
また、表4は図12に対応しており、表4における第1の推力目標値TQが、図12(b)に示されている。
【0068】
次に、対抗ジャッキ群に属するJ1〜J4を不作動とし、軸線方向強さr3=0.68とし、偏差係数βA=1.10とし、βB=0.90として、上述の図2のステップS4、図7のステップS41〜S47、及び図8を用いると、以下表5に示す算出結果が得られる。
【0069】
【表5】
また、表5は図13に対応しており、表5における第2の推力目標値TRが、図13(b)に示されている。
【0070】
表4と表5とを参照すると、第1の推力目標値の最大値TQmaxは109[kN]であり、また、第2の推力目標値の最大値TRmaxは99[kN]であるので、TQmax>TRmaxとなっている。
【0071】
従って、この場合には、図2のステップS5にてステップS6に進むことになるので、各推進ジャッキの推力目標値Tiとしては、第2の推力目標値TRiが選択されて設定されることになる。
【0072】
[4]セグメント組立時における組立ジャッキ群がJ11〜J14からなる場合(図14,図15参照)
この場合は、軸線角度θ2=θ3=π[rad]となる。
【0073】
まず、軸線方向強さr2=0.87とし、偏差係数αA=1.15とし、αB=0.85として、上述の図2のステップS3、図5のステップS31〜S37、及び図6を用いると、以下表6に示す算出結果が得られる。
【0074】
【表6】
また、表6は図14に対応しており、表6における第1の推力目標値TQが、図14(b)に示されている。
【0075】
次に、対抗ジャッキ群に属するJ3〜J6を不作動とし、軸線方向強さr3=0.00とし、偏差係数βA=1.14とし、βB=0.86として、上述の図2のステップS4、図7のステップS41〜S47、及び図8を用いると、以下表7に示す算出結果が得られる。
【0076】
【表7】
また、表7は図15に対応しており、表7における第2の推力目標値TRが、図15(b)に示されている。
【0077】
表6と表7とを参照すると、第1の推力目標値の最大値TQmaxは100[kN]であり、また、第2の推力目標値の最大値TRmaxは80[kN]であるので、TQmax>TRmaxとなっている。
【0078】
従って、この場合には、図2のステップS5にてステップS6に進むことになるので、各推進ジャッキの推力目標値Tiとしては、第2の推力目標値TRiが選択されて設定されることになる。
【0079】
[5]セグメント組立時における組立ジャッキ群がJ13〜J16からなる場合(図16,図17参照)
この場合は、軸線角度θ2=θ3=3/4π[rad]となる。
【0080】
まず、軸線方向強さr2=0.74とし、偏差係数αA=1.11とし、αB=0.89として、上述の図2のステップS3、図5のステップS31〜S37、及び図6を用いると、以下表8に示す算出結果が得られる。
【0081】
【表8】
また、表8は図16に対応しており、表8における第1の推力目標値TQが、図16(b)に示されている。
【0082】
次に、対抗ジャッキ群に属するJ5〜J8を不作動とし、軸線方向強さr3=−2.10とし、偏差係数βA=1.10とし、βB=0.90として、上述の図2のステップS4、図7のステップS41〜S47、及び図8を用いると、以下表9に示す算出結果が得られる。
【0083】
【表9】
また、表9は図17に対応しており、表9における第2の推力目標値TRが、図17(b)に示されている。
【0084】
表8と表9とを参照すると、第1の推力目標値の最大値TQmaxは84[kN]であり、また、第2の推力目標値の最大値TRmaxは99[kN]であるので、TQmax<TRmaxとなっている。
【0085】
従って、この場合には、図2のステップS5にてステップS7に進むことになるので、各推進ジャッキの推力目標値Tiとしては、第1の推力目標値TQiが選択されて設定されることになる。
【0086】
[6]セグメント組立時における組立ジャッキ群がJ15,J16,J1,J2からなる場合(図18,図19参照)
この場合は、軸線角度θ2=θ3=1/2π[rad]となる。
【0087】
まず、軸線方向強さr2=0.67とし、偏差係数αA=αB=1.00として、上述の図2のステップS3、図5のステップS31〜S37、及び図6を用いると、以下表10に示す算出結果が得られる。
【0088】
【表10】
また、表10は図18に対応しており、表10における第1の推力目標値TQが、図18(b)に示されている。
【0089】
次に、対抗ジャッキ群に属するJ7〜J10を不作動とし、軸線方向強さr3=−5.20とし、偏差係数βA=βB=1.00として、上述の図2のステップS4、図7のステップS41〜S47、及び図8を用いると、以下表11に示す算出結果が得られる。
【0090】
【表11】
また、表11は図19に対応しており、表11における第2の推力目標値TRが、図19(b)に示されている。
【0091】
表10と表11とを参照すると、第1の推力目標値の最大値TQmaxは70[kN]であり、また、第2の推力目標値の最大値TRmaxは98[kN]であるので、TQmax<TRmaxとなっている。
【0092】
従って、この場合には、図2のステップS5にてステップS7に進むことになるので、各推進ジャッキの推力目標値Tiとしては、第1の推力目標値TQiが選択されて設定されることになる。
【0093】
ところで、特許第3314366号公報には、上述の図3及び図4に示した推進ジャッキの推力設定方法と同様の手法が記載されている。
この特許第3314366号公報に記載のような手法では、図4に示すように、推力分布LA1,LB1の境界線である軸線AX1を、操作角度θ1の延長線と同一方向に設定し、この軸線AX1により二分されるクループA1,B1の各々の推力分布LA1,LB1を軸線AX1に関して互いに対称になるように設定することで、掘進方向制御に必要な曲げモーメント及び総推力を効率的に得ている。
【0094】
しかしながら、同時掘進組立工法において、軸線AX1を、操作角度θ1の延長線と同一方向に設定すると、組立ジャッキ群の位置等によっては、掘進方向制御に必要な曲げモーメント及び総推力が得られない可能性がある。また、施工状態に応じてセグメント4の組立箇所が掘進機本体2の周縁線(円周C)に沿って周方向に移動することにより、これに追従して、不作動となる推進ジャッキ群の位置も移動するので、掘進方向制御が不安定になる可能性がある。
【0095】
この点、本実施形態では、セグメント4の組立箇所の移動に追従して軸線AX2,AX3が移動可能であるので、セグメント4の組立箇所が移動しても、軸線により二分されるクループの各々の推力分布が、互いに、軸線に関する対称性を維持でき、この結果、必要な曲げモーメント及び総推力を得て、安定的に掘進方向制御を行うことができる。
【0096】
尚、本実施形態では、推力分布LA1,LB1、第1の推力分布LA2,LB2、及び、第2の推力分布LA3,LB3が、それぞれ、対応する軸線の方向に傾斜する勾配として、上述の直線勾配を有しているが、勾配の態様はこれに限らず、例えば、特許第3314366号公報に記載のようないわゆる曲線勾配を、本実施形態における各推力分布の勾配に適用することが可能である。
【0097】
本実施形態によれば、掘進機本体2の周縁線上(円周C上)に配置された複数の推進ジャッキ6の推力を調整してシールド掘進機1の掘進方向を制御するに当たり、掘進とセグメント組立とを同時施工するために、セグメント4の組立箇所に対応する組立ジャッキ群を不作動とする一方、この組立ジャッキ群以外の推進ジャッキを作動させる場合に、シールド掘進機1の掘進方向制御に必要な目標総推力Ttotal及び目標ジャッキモーメントMPを設定し、組立ジャッキ群の配置範囲内の所定位置(中央位置F1)と円周Cの中心Oとを通る軸線AX2を設定し、作動させる推進ジャッキ6を、軸線AX2の両側に二分される2つのグループA2,B2に分け、目標総推力Ttotal及び目標ジャッキモーメントMPを得るように、各グループA2,B2について、軸線AX2の方向に傾斜する勾配を有する第1の推力分布LA2,LB2を設定し、この第1の推力分布LA2,LB2に基づいて、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiを設定する。これにより、組立ジャッキ群に起因して発生する強制的なモーメントを考慮した比較的なだらかな推力分布に基づいて、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiを設定することができるので、この推力目標値TQiに基づいて各推進ジャッキの推力を調整して、必要な総推力及び曲げモーメントを得てシールド掘進機1の掘進方向制御を行うことができる。
【0098】
また本実施形態によれば、第1の推力分布LA2,LB2が軸線AX2に関する対称性を有する比較的なだらかな勾配(直線勾配)で設定されるので、それらの推力差が全て同一方向の曲げモーメントを生ずることとなり、シールド掘進機1の掘進方向制御に必要な曲げモーメント(目標ジャッキモーメントMP)を効率的に得ることができる。
【0099】
ところで、シールド掘進機1のジャッキ推力は、シールドトンネルのセグメント4に荷重として加わる。シールド掘進機1の掘進方向制御に必要な曲げモーメントを得るためには、セグメント4に一定の偏った荷重が加わることを許容しなければならないが、既に組立てられたセグメント4への影響を緩和するためには、近接する推進ジャッキ6間の推力の差が小さいこと、換言すれば、円周Cに沿う周方向で見て、推進ジャッキ6間の推力勾配の変節点が少ないことが求められる。ここで、推力勾配の変節点とは、増加する推力勾配から減少する推力勾配への変化点、又は、減少する推力勾配から増加する推力勾配への変化点を意味する。近接する推進ジャッキ6間の推力の差が大きい場合には、セグメント4に偏圧が作用することになり、覆工体5が変形する可能性がある。また、推力勾配の変節点では、セグメント4の主に継手部に、応力が集中する部分、又は、応力が拡散する部分が生じ、これら部分がセグメント組立に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0100】
この点、本実施形態では、第1の推力分布LA2,LB2が比較的なだらかな勾配(直線勾配)を有することにより、推力勾配の変節点が比較的少ないので、セグメント4の主に継手部に作用する応力の集中又は拡散を抑制することができ、ひいては、セグメント組立の施工性を向上させることができる。
【0101】
また本実施形態によれば、組立ジャッキ群に対して円周Cの中心Oに関して対称な位置の対抗ジャッキ群を不作動として、目標総推力Ttotal及び目標ジャッキモーメントMPを得るように、各グループA3,B3について、軸線AX3の方向に傾斜する勾配を有する第2の推力分布LA3,LB3を設定し、この第2の推力分布LA3,LB3に基づいて、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiを設定する。また、第1の推力目標値の最大値TQmaxと第2の推力目標値の最大値TRmaxとを比較し、TQmax>TRmaxの場合には、第2の推力目標値TRiを、各推進ジャッキの推力目標値Tiとして選択する一方、TQmax≦TRmaxの場合には、第1の推力目標値TQiを、各推進ジャッキの推力目標値Tiとして選択する。これにより、推進ジャッキ6の推力の最大値を低く抑制することができるので、セグメント4に局所的に過大な荷重が作用してセグメント4が破損すること、及び、覆工体5が変形することを抑制することができる。
【0102】
図20は、本発明の第2実施形態における推進ジャッキの推力設定方法を示すフローチャートである。
図2に示した第1実施形態と異なる点について説明する。
【0103】
図20に示すフローでは、ステップS6又はS7にて設定された各推進ジャッキの推力目標値Tiについて、ステップS8にて、推力目標値Tiと、所定値Timaxとを比較する。ここで、所定値Timaxとは、推力目標値Tiが、推進ジャッキ6の最大推進能力を超えた値か否かを判定するための閾値であり、予め設定された値である。
【0104】
Ti>Timaxの場合は、ステップS9にて目標総推力Ttotalを低減して、ステップS2に戻り、目標ジャッキモーメントMPの設定を行う。そして、この低減した目標総推力Ttotalと、目標ジャッキモーメントMPを得るように、ステップS3にて各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiを設定し、ステップS4にて、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiを設定する。
【0105】
そして、ステップS8にてTi≦Timaxになるまで、上述のステップS2〜S9の処理を繰り返し、Ti≦Timaxになった時点で、このときの推力目標値Tiを、ステップS10にて目標値と設定して、この推力目標値Tiに応じて、推進ジャッキ6の圧力制御(油圧制御)を行う。
【0106】
次に、本実施形態における目標総推力Ttotalが、第1実施形態における目標総推力Ttotalより大きい700[kN]である場合の、推力目標値Tiの設定方法の一例を説明する。ここで、所定値Timaxは、100[kN]であると仮定する。
【0107】
[1]セグメント組立前の場合
この場合は、上述の図20のステップS2、図3のステップS21〜S23、及び図4を用いると、以下表12に示す算出結果が得られる。
【0108】
【表12】
この場合における目標ジャッキモーメントMPのヨー方向のモーメント成分MPX(0[kN・m])と、ピッチ方向のモーメント成分MPY(175[kN・m])とがセグメント組立時においても維持されるように(すなわち、セグメント組立前の目標ジャッキモーメントMPがセグメント組立時においても維持されるように)、及び、目標総推力Ttotalがセグメント組立時においても維持されるように、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQと第2の推力目標値TRとが設定される。
【0109】
[2]セグメント組立時における組立ジャッキ群がJ7〜J10からなる場合
この場合は、軸線角度θ2=θ3=3/2π[rad]となる。
【0110】
まず、軸線方向強さr2=1.00とし、偏差係数αA=αB=1.00として、上述の図20のステップS3、図5のステップS31〜S37、及び図6を用いると、以下表13に示す算出結果が得られる。
【0111】
【表13】
次に、対抗ジャッキ群に属するJ15,J16,J1,J2を不作動とし、軸線方向強さr3=0.84とし、偏差係数βA=βB=1.00として、上述の図20のステップS4、図7のステップS41〜S47、及び図8を用いると、以下表14に示す算出結果が得られる。
【0112】
【表14】
表13と表14とを参照すると、第1の推力目標値の最大値TQmaxは130[kN]であり、また、第2の推力目標値の最大値TRmaxは123[kN]であるので、TQmax>TRmaxとなっている。
【0113】
従って、この場合には、図20のステップS5にてステップS6に進むことになるので、各推進ジャッキの推力目標値Tiとしては、第2の推力目標値TRiが選択されて設定されることになる。
【0114】
この後、ステップS8では、各推進ジャッキの推力目標値Tiと所定値Timaxとが比較される。この場合では、Tiの最大値が123[kN]であり、所定値Timax=100[kN]を上回るので、ステップS8からステップS9に進み、目標総推力Ttotalを低減して、ステップS2に戻り、目標ジャッキモーメントMPの設定を行う。そして、この低減した目標総推力Ttotalと、目標ジャッキモーメントMPを得るように、ステップS3にて各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiを設定し、ステップS4にて、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiを設定する。
【0115】
特に本実施形態によれば、各推進ジャッキの推力目標値Tiが所定値Timaxを超える場合には総推力Ttotalを低減し、この低減した総推力Totalを得るように、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQi及び第2の推力目標値TRiを設定する。これにより、推力目標値Tiが、例えば、推進ジャッキ6の最大推進能力を超えた値になることを抑制できるので、推進ジャッキ6の故障等を防ぐことができると共に、セグメント4に局所的に過大な荷重が作用してセグメント4が破損すること、及び、覆工体5が変形することを抑制することができる。
【0116】
尚、上述の実施形態では、複数の推進ジャッキからなる組立ジャッキ群の中央位置を、周縁線(円周C)の中心Oにおける極座標系の軸線角度θ2,θ3で表しているが、軸線角度θ2,θ3が対応する組立ジャッキ群の配置範囲内の所定位置は、上記中央位置に限らず、組立ジャッキ群の配置範囲内の任意の位置であり得る。この一例を、図21に示す。
【0117】
図21は、図6及び図12に示した、セグメント組立時における組立ジャッキ群がJ9〜J12からなる場合に対応しており、軸線角度θ2の設定方法の変形例を示す。図6及び図12(a)では、組立ジャッキ群の設置範囲内の中央位置F1に、軸線角度θ2が対応している。一方、図21(a)では、組立ジャッキ群の設置範囲内において、中央位置より掘進機本体2の周縁線(円周C)の中心角で22.5°ずれた位置に、軸線角度θ2が対応している。図21に示す軸線角度θ2を、上述の図2のステップS3、図5のステップS31〜S37、及び図6に適用して、第1の推力目標値TQを算出すると、図21(b)に示すような第1の推力目標値TQの分布が得られる。
【0118】
また、上述の実施形態では、シールド掘進機1が16本の推進ジャッキ6を備える場合を用いて説明したが、シールド掘進機1が備える推進ジャッキ6の本数はこれに限らず、例えば、シールド掘進機1が16本以上の推進ジャッキ6を備えることが好ましい。
【0119】
また、上述の実施形態では、組立ジャッキ群が4本の推進ジャッキ6により構成され、これにより、組立ジャッキ群の配置範囲が、円周Cの中心角で90°の範囲に対応する場合を示したが、組立ジャッキ群の配置範囲と円周Cの中心角の範囲との対応関係はこれに限らず、例えば、組立ジャッキ群の配置範囲が、円周Cの中心角で90°以下の範囲に対応することが好ましい。
【符号の説明】
【0120】
1 シールド掘進機
2 掘進機本体
3 エレクター
4 セグメント
5 覆工体
6,J1〜J16 推進ジャッキ
10 制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機の掘進方向制御を推進ジャッキの推力調整により行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シールド掘進機を用いるトンネル施工では、掘進速度の高度化の目的から、地山の掘進を行いつつその後方でセグメントの組立を行ってトンネルを構築する、いわゆる同時掘進組立工法が行われている。
【0003】
この同時掘進組立工法に関する技術としては、例えば、特許文献1に記載の技術がある。
特許文献1には、シールド掘進機において、掘進機本体の周縁線上に配置された複数の推進ジャッキのうち、組立中のセグメントに対応する推進ジャッキ群を不作動とし、不作動の推進ジャッキ群以外の推進ジャッキで既設セグメントから反力を取って推進することが記載されている。また特許文献1では、不作動の推進ジャッキ群に起因して発生する強制的なモーメントを打ち消すように、作動中の推進ジャッキの圧力を制御し、これにより、シールド掘進機をゼロモーメントで推進させている。また特許文献1では、掘進機本体を構成する前胴と後胴とが複数の中折れジャッキにより連結されており、この中折れジャッキを伸縮させることによりシールド掘進機の掘進方向制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−74290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のようなシールド掘進機では、推進と掘進方向制御とを、推進ジャッキと中折れジャッキとで各別に行っているので、シールド掘進機の構成が複雑になり得る。
【0006】
また、シールド掘進機の構成の複雑化を避けるために、中折れジャッキを有さない構成として、シールド掘進機の掘進方向制御を、推進ジャッキを用いて行う場合には、不作動の推進ジャッキ群に起因して発生する強制的なモーメントを考慮しつつ、掘進方向制御にて要求される総推力(全推進ジャッキの推力の合計値)及び曲げモーメントが得られるように、作動中の推進ジャッキの圧力目標値(換言すれば、推力目標値)を設定する必要がある。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑み、中折れジャッキ等を有さない比較的簡素な構成のシールド掘進機にて、セグメントの組立箇所に対応する推進ジャッキ群が不作動であっても、作動中の推進ジャッキにより、必要な総推力及び曲げモーメントを得てシールド掘進機の掘進方向制御を行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのため本発明に係るシールド掘進機における推進ジャッキの推力設定方法では、掘進機本体の周縁線上に配置された複数の推進ジャッキの推力を調整してシールド掘進機の掘進方向を制御するに当たり、掘進とセグメント組立とを同時施工するために、セグメント組立箇所に対応する複数の推進ジャッキを含む推進ジャッキ群を不作動とする一方、この不作動の推進ジャッキ群以外の推進ジャッキを作動させる場合において、シールド掘進機の掘進方向制御に必要な目標総推力及び目標ジャッキモーメントを設定し、不作動の推進ジャッキ群の配置範囲内の所定位置と周縁線の中心とを通る軸線を設定し、作動させる推進ジャッキを、軸線の両側に二分される2つのグループに分け、目標総推力及び目標ジャッキモーメントを得るように、各グループについて、軸線の方向に傾斜する勾配を有する推力分布を設定し、この推力分布に基づいて、各推進ジャッキの第1の推力目標値を設定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作動させる推進ジャッキを、軸線の両側に二分される2つのグループに分け、目標総推力及び目標ジャッキモーメントを得るように、各グループについて、軸線の方向に傾斜する勾配を有する推力分布を設定し、この推力分布に基づいて、各推進ジャッキの第1の推力目標値を設定する。これにより、不作動の推進ジャッキ群に起因して発生する強制的なモーメントを考慮した比較的なだらかな推力分布に基づいて、各推進ジャッキの第1の推力目標値を設定することができるので、この推力目標値に基づいて各推進ジャッキの推力を調整して必要な総推力及び曲げモーメントを得てシールド掘進機の掘進方向制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態におけるシールド掘進機の概略構成を示す図
【図2】推進ジャッキの推力設定方法を示すフローチャート
【図3】セグメント組立前における目標ジャッキモーメント及び推力目標値の設定方法を示すフローチャート
【図4】セグメント組立前の推力分布を示す図
【図5】セグメント組立時における第1の推力目標値の設定方法を示すフローチャート
【図6】セグメント組立時における第1の推力分布を示す図
【図7】セグメント組立時における第2の推力目標値の設定方法を示すフローチャート
【図8】セグメント組立時における第2の推力分布を示す図
【図9】セグメント組立前における推力目標値を示す図(θ1=3/2π[rad])
【図10】セグメント組立時における第1の推力目標値を示す図(θ2=3/2π[rad])
【図11】セグメント組立時における第2の推力目標値を示す図(θ3=3/2π[rad])
【図12】セグメント組立時における第1の推力目標値を示す図(θ2=5/4π[rad])
【図13】セグメント組立時における第2の推力目標値を示す図(θ3=5/4π[rad])
【図14】セグメント組立時における第1の推力目標値を示す図(θ2=π[rad])
【図15】セグメント組立時における第2の推力目標値を示す図(θ3=π[rad])
【図16】セグメント組立時における第1の推力目標値を示す図(θ2=3/4π[rad])
【図17】セグメント組立時における第2の推力目標値を示す図(θ3=3/4π[rad])
【図18】セグメント組立時における第1の推力目標値を示す図(θ2=1/2π[rad])
【図19】セグメント組立時における第2の推力目標値を示す図(θ3=1/2π[rad])
【図20】本発明の第2実施形態における推進ジャッキの推力設定方法を示すフローチャート
【図21】軸線角度の設定方法の変形例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態におけるシールド掘進機の概略構成を示す。
シールド掘進機1は、その掘進機本体2の前面に設けられた回転カッタ2aで地山を掘削しながら土砂を取り込んで後方に搬出して掘進する。
【0012】
また、シールド掘進機1は、掘進機本体2の後方にエレクター3を備える。エレクター3は、セグメント4を組立てて円筒状の覆工体5を構築する。セグメント4は、隣接するセグメント同士を覆工体5の周方向に接続するための継手部(図示せず)を有する。ここで、本実施形態では、覆工体5の1リング分が8ピースのセグメント4により構成されるとして以下説明するが、1リング分のセグメント4のピース数はこれに限らない。
【0013】
掘進機本体2の周縁線上(図4,図6,図8に示す円周C上)には、複数(本実施形態では16本)の推進ジャッキ6が配置されている。
推進ジャッキ6は、シリンダ6aとロッド6bとにより構成される油圧ジャッキである。シリンダ6aは、その一端が掘進機本体2に固定されており、他端側にて、ロッド6bが進出・退入可能となっている。推進ジャッキ6のロッド6bの先端部を既設のセグメント4に当接させた状態で推進ジャッキ6を伸長作動させることにより、シールド掘進機1は推進力を得ることができる。このようにして、推進ジャッキ6は、既設のセグメント4から反力を取ってシールド掘進機1を推進させる。
【0014】
また、推進ジャッキ6のロッド6bの伸縮ストロークの長さは、セグメント4の1リング幅より長くなるように、すなわち、最大伸長時に1リング分のセグメント4の幅より長くなるように(例えば、最大伸長時に1リング分のセグメント4の幅の2倍の長さになるように)構成される。
【0015】
シールド掘進機1は、推進ジャッキ6により常時推進され、これと並行して、エレクター3にてセグメント4の組立てが行われる。この際、組立て中のセグメント4に対応する4本の推進ジャッキ6からなるグループ(以下、「組立ジャッキ群」という)は引戻し(不作動)とされ、それ以外の推進ジャッキ6を伸長作動させて既設のセグメント4から反力を取ってシールド掘進機1を推進させる。ここで、組立ジャッキ群が対応するセグメント4の組立箇所は、掘進機本体2の周縁線(図4,図6,図8に示す円周C)に沿って周方向に移動する。
【0016】
制御部10は、掘進機本体2に予め設けられた図示しない位置センサや姿勢角センサ等からの信号を入力して、シールド掘進機1の運転に関する各種演算や各種制御を行うが、本実施形態では、特に、シールド掘進機1の掘進方向制御を行うべく、各推進ジャッキの推力目標値を設定し、この推力目標値に応じて、各推進ジャッキの圧力制御(油圧制御)を行う。
【0017】
図2は、制御部10を用いて実現される、各推進ジャッキの推力目標値Tiの設定方法を示すフローチャートである。ここで、本明細書において、添字「i」は推進ジャッキ6の本数に対応しており、本実施形態では、推進ジャッキ6の本数が16本であるので、i=1〜16となっている。
【0018】
ステップS1では、シールド掘進機1の掘進方向制御に必要な総推力の目標値(目標総推力)Ttotalを設定する。具体的には、例えば、制御部10の記憶部に予め入力されて記憶された、シールド掘進機1の推進時の目標総推力Ttotalを読み込んで、これを掘進方法制御のための目標値として設定する。
【0019】
ステップS2では、セグメント4の組立前における、シールド掘進機1の掘進方向制御に必要な曲げモーメントの目標値(目標ジャッキモーメント)MPを設定する。また、ステップS2では、セグメント4の組立前に、目標総推力Ttotalと目標ジャッキモーメントMPとが得られるように、各推進ジャッキの推力目標値TPiを設定する。尚、ステップS2における処理の詳細については、図3及び図4を用いて後述する。
【0020】
ステップS3では、目標総推力Ttotalと、目標ジャッキモーメントMPと、セグメント4の組立時の組立ジャッキ群の位置(例えば、後述する図6におけるJ9〜J12)と、を考慮して、セグメント4の組立時における、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiを設定する。尚、ステップS3における処理の詳細については、図5及び図6を用いて後述する。
【0021】
ステップS4では、目標総推力Ttotalと、目標ジャッキモーメントMPと、セグメント4の組立時の組立ジャッキ群の位置(例えば、後述する図8におけるJ9〜J12)と、組立ジャッキ群に対して円周Cの中心Oに関して対称な位置にて不作動とされ得る推進ジャッキのグループ(以下、「対抗ジャッキ群」という)の位置(例えば、後述する図8におけるJ1〜J4)と、を考慮して、セグメント4の組立時における、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiを設定する。尚、ステップS4における処理の詳細については、図7及び図8を用いて後述する。
【0022】
ステップS5では、第1の推力目標値TQiの最大値TQmaxと第2の推力目標値TRiの最大値TRmaxとを比較する。
TQmax>TRmaxの場合には、ステップS6にてTi=TRiとして、本フローを終了する。すなわち、第1の推力目標値TQiの最大値TQmaxが第2の推力目標値TRiの最大値TRmaxより大きい場合には、各推進ジャッキの推力目標値Tiとして、第2の推力目標値TRiを選択する。これにより、推進ジャッキ6の推力の最大値を低く抑制することができるので、セグメント4に局所的に過大な荷重が作用してセグメント4が破損すること、及び、覆工体5が変形することを抑制することができる。
【0023】
TQmax≦TRmaxの場合には、ステップS7にてTi=TQiとして、本フローを終了する。すなわち、第1の推力目標値TQiの最大値TQmaxが第2の推力目標値TRiの最大値TRmax以下の場合には、各推進ジャッキの推力目標値Tiとして、第1の推力目標値TQiを選択する。これにより、推進ジャッキ6の推力の最大値を低く抑制することができるので、セグメント4に局所的に過大な荷重が作用してセグメント4が破損すること、及び、覆工体5が変形することを抑制することができる。
【0024】
このようにして、各推進ジャッキの推力目標値Tiを設定した後に、この推力目標値Tiに応じて、推進ジャッキ6の圧力制御(油圧制御)を行う。
【0025】
次に、上述のステップS2における処理の詳細について、図3及び図4を用いて説明する。
図3は、セグメント組立前における目標ジャッキモーメントMP及び推力目標値TPiの設定方法を示すフローチャートである。図4は、セグメント組立前における推力分布を示す図である。
【0026】
図3のステップS21では、目標ジャッキモーメントMPを設定する。
ここで、目標ジャッキモーメントMPの設定について、図4を用いて説明する。
16本の推進ジャッキ6に対応する推進ジャッキJ1〜J16が掘進機本体2の周縁線上(円周C上)に配置されている場合において、水平及び鉛直の姿勢偏差を修正するために必要な次の掘進目標点を推進ジャッキのための操作目標点と仮定して、上記水平及び鉛直の姿勢偏差から求まる操作目標点までの曲げモーメントを、本実施形態では目標ジャッキモーメントMPと称している。そして、本実施形態では、目標ジャッキモーメントMPを、円周Cの中心Oにおける極座標系の操作強さr1と操作角度θ1とに対応させて表している。すなわち、目標ジャッキモーメントMPの強さが操作強さr1に対応する一方、目標ジャッキモーメントMPの方向(角度)が操作角度θ1に対応する。従って、本実施形態では、制御部10の記憶部に予め入力されて記憶された操作強さr1と操作角度θ1とを読み込むことにより、目標ジャッキモーメントMPが設定される。尚、本実施形態において、操作強さr1は、0≦r1≦1の関係を満たす無次元数であり、後述する直線勾配の推力分布LA1,LB1の勾配率を決定するパラメータである。
【0027】
図3に戻り、ステップS22では、推力分担率Piを算出する。
推力分担率Piは、以下2つのステップを経て算出される。
(1)図4に示すように、操作角度θ1の延長線が円周Cと交わる点E1と、これとは180度反対側の円周C上の点E2とを求める。
(2)点E1にて最大推力、点E2にて最小推力となるように操作強さr1により決定される直線勾配の推力分布LA1,LB1に従い、推進ジャッキJ1〜J16の位置毎の推力分担率P1〜P16を、2つの点E1,E2を結ぶ軸線AX1で二分されるその両側の各グループA1,B1について、以下の式によりそれぞれ求める。
Pi=[1+[{cos(φi−θ1)+1}/2−1]・r1]×100
ここで、φi[rad]は、推進ジャッキJi(i=1〜16)の取付位置を示す。
再び図3に戻り、ステップS23では、ステップS22にて算出された推力分担率Piと目標総推力Ttotalとに基づいて、各推進ジャッキの推力目標値TPiを算出し、設定する。
【0028】
尚、目標ジャッキモーメントMPについては、そのヨー方向(図4のY軸回り)のモーメント成分であるMPXと、ピッチ方向(図4のX軸回り)のモーメント成分であるMPYとが、以下の式により、それぞれ求められる。
MPX=ΣMPXi=Σ(TPi・RC・cos(φi))
MPY=ΣMPYi=Σ(TPi・RC・sin(φi))
ここで、RCは、円周Cの半径である。
【0029】
以上のようにして、ステップS2にて、目標ジャッキモーメントMP及び推力目標値TPiが設定される。
【0030】
また、図4に示すように、直線勾配の推力分布LA1,LB1の境界線である軸線AX1を、操作角度θ1の延長線と同一方向に設定することで、推力分布LA1,LB1が軸線AX1に関する対称性を有する比較的なだらかな勾配(直線勾配)で設定されるので、それらの推力差が全て同一方向の曲げモーメントを生ずることとなり、シールド掘進機1の掘進方向制御に必要な曲げモーメント(目標ジャッキモーメントMP)を効率的に得ることができる。また、この推力設定方式により、推進ジャッキ6の動力設備を簡素化することが可能である。
【0031】
次に、上述のステップS3における処理の詳細について、図5及び図6を用いて説明する。
図5は、セグメント組立時における第1の推力目標値TQiの設定方法を示すフローチャートである。図6は、セグメント組立時における第1の推力分布を示す図である。
【0032】
図5のステップS31では、制御部10の記憶部に予め入力されて記憶された偏差係数αA,αB及び軸線方向強さr2の各々の初期値と、軸線角度θ2とを読み込む。
【0033】
ここで、軸線方向強さr2及び軸線角度θ2について、図6を用いて説明する。
推進ジャッキJ1〜J16が掘進機本体2の周縁線上(円周C上)に配置されている場合において、組立ジャッキ群(図6では推進ジャッキJ9〜J12)の中央位置F1を、周縁線(円周C)の中心Oにおける極座標系の操作角度θ2で表している。換言すれば、組立ジャッキ群の中央位置F1に対応するように、軸線角度θ2が設定されている。ここで、中央位置F1は、本発明における「不作動の推進ジャッキ群の配置範囲内の所定位置」に対応するものである。また、軸線方向強さr2は、後述する第1の推力分布LA2,LB2の勾配率を決定するパラメータであり、無次元数である。
【0034】
図5に戻り、ステップS32では、推力分担率Qiを算出する。
推力分担率Qiは、以下5つのステップを経て算出される。
(1)推進ジャッキJ1〜J16を、軸線角度θ2に対応する軸線AX2の両側に二分される2つのグループA2,B2に分ける。ここで、軸線AX2は、組立ジャッキ群の中央位置F1と、円周Cの中心Oとを通る直線である。
(2)各グループA2,B2について、軸線AX2の方向に傾斜する勾配を有する第1の推力分布LA2,LB2を設定する。ここで、第1の推力分布LA2,LB2は直線勾配を有しており、この勾配率は、軸線方向強さr2により決定される。
(3)第1の推力分布LA2,LB2に従い、推進ジャッキJ1〜J16の位置毎の推力分担率Q1’〜Q16’を、各グループA2,B2について、以下の式によりそれぞれ求める。
Qi’=[1+[{cos(φi−θ2)+1}/2−1]・r2]×100
(4)組立ジャッキ群(推進ジャッキJ9〜J12)に対応するQ9’〜Q12’をゼロとする。これにより、実質的には、作動させる推進ジャッキ(すなわち、組立ジャッキ群以外の推進ジャッキ)が、軸線AX2の両側に二分されるグループA2,B2に分けられたことになる。
(5)推力分担率Qi’を、両グループ間の相対強さに対応する偏差係数αA,αBにより変更する。具体的には、グループA2に属する推進ジャッキJ3〜J10については、各々の推力分担率Qi’に偏差係数αAを乗じることにより変更して、各々の推力分担率Qiを算出する。同様に、グループB2に属する推進ジャッキJ11〜J16,J1,J2については、各々の推力分担率Qi’に偏差係数αBを乗じることにより変更して、各々の推力分担率Qiを算出する。ここで、偏差係数αA,αBについては、αA+αB=2の関係を満たしている。
【0035】
再び図5に戻り、ステップS33では、ステップS32にて算出された推力分担率Qiと目標総推力Ttotalとに基づいて、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiを算出する。このようにして、目標総推力Ttotalを得るように、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiが設定される。
【0036】
ステップS34では、ステップS33にて設定された各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiに基づいて、曲げモーメントに対応するジャッキモーメントMQを算出する。
【0037】
尚、ジャッキモーメントMQについては、ヨー方向(図6のY軸回り)のモーメント成分であるMQXと、ピッチ方向(図6のX軸回り)のモーメント成分であるMQYとを、以下の式によりそれぞれ求める。
MQX=ΣMQXi=Σ(TQi・RC・cos(φi))
MQY=ΣMQYi=Σ(TQi・RC・sin(φi))
【0038】
ステップS35では、ジャッキモーメントMQと目標ジャッキモーメントMPとを比較する。具体的には、ジャッキモーメントMQのヨー方向及びピッチ方向のモーメント成分(MQX,MQY)と目標ジャッキモーメントMPのヨー方向及びピッチ方向のモーメント成分(MPX,MPY)とを比較する。
【0039】
MQがMPに略同等ではない場合(例えば、MQとMPとの差が予め設定された閾値以上の場合)には、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiからなる推力分布により生じる曲げモーメントと、セグメント4組立前の曲げモーメントとの差異が大きいと判定し、ステップS36に進んで、軸線方向強さr2と偏差係数αA,αBとを変更して再設定し、ステップS32に戻って、推力分担率Qiの算出を行う。
【0040】
一方、MQがMPに略同等である場合、(例えば、MQとMPとの差が予め設定された閾値未満の場合)には、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiからなる推力分布により生じる曲げモーメントが、セグメント4組立前の曲げモーメントと略同等であると判定し、このときの第1の推力目標値TQiを、ステップS37にて、制御部10の記憶部に記憶させて、本フローを終了する。
【0041】
このようにして、ステップS3にて、目標総推力Ttotal及び目標ジャッキモーメントMPを得るように、第1の推力目標値TQiが設定される。
【0042】
次に、上述のステップS4における処理の詳細について、図7及び図8を用いて説明する。
図7は、セグメント組立時における第2の推力目標値TRiの設定方法を示すフローチャートである。図8は、セグメント組立時における第2の直線勾配の推力分布を示す図である。
【0043】
図7のステップS41では、制御部10の記憶部に予め入力されて記憶された偏差係数βA,βB及び軸線方向強さr3の各々の初期値と、軸線角度θ3とを読み込む。
ここで、軸線方向強さr3及び軸線角度θ3について、図8を用いて説明する。
【0044】
推進ジャッキJ1〜J16が掘進機本体2の周縁線上(円周C上)に配置されている場合において、組立ジャッキ群(図8では推進ジャッキJ9〜J12)の中央位置G1を、周縁線(円周C)の中心Oにおける極座標系の軸線角度θ3で表している。換言すれば、組立ジャッキ群の中央位置G1に対応するように、軸線角度θ3が設定されている。ここで、中央位置G1は、本発明における「不作動の推進ジャッキ群の配置範囲内の所定位置」に対応するものである。また、軸線方向強さr3は、後述する第2の推力分布LA3,LB3の勾配率を決定するパラメータであり、無次元数である。
【0045】
図7に戻り、ステップS42では、推力分担率Riを算出する。
推力分担率Riは、以下5つのステップを経て算出される。
(1)推進ジャッキJ1〜J16を、軸線角度θ3に対応する軸線AX3の両側に二分される2つのグループA3,B3に分ける。ここで、軸線AX3は、組立ジャッキ群の中央位置G1と、円周Cの中心Oとを通る直線である。
(2)各グループA3,B3について、軸線AX3の方向に傾斜する勾配を有する第2の推力分布LA3,LB3を設定する。ここで、第2の推力分布LA3,LB3は直線勾配を有しており、この勾配率は、軸線方向強さr3により決定される。
(3)第2の推力分布LA3,LB3に従い、推進ジャッキJ1〜J16の位置毎の推力分担率R1’〜R16’を、各グループA3,B3について、以下の式によりそれぞれ求める。
Ri’=[1+[{cos(φi−θ3)+1}/2−1]・r3]×100
(4)組立ジャッキ群(推進ジャッキJ9〜J12)に対応するR9’〜R12’と、この組立ジャッキ群に対して円周Cの中心Oに関して対称に位置する対抗ジャッキ群(図8では推進ジャッキJ1〜J4)に対応するR1’〜R4’とをそれぞれゼロとする。これにより、実質的には、作動させる推進ジャッキ(すなわち、組立ジャッキ群及び対抗ジャッキ群以外の推進ジャッキ)が、軸線AX3の両側に二分されるグループA3,B3に分けられたことになる。
(5)推力分担率Ri’を、両グループ間の相対強さに対応する偏差係数βA,βBにより変更する。具体的には、グループA3に属する推進ジャッキJ3〜J10については、各々の推力分担率Ri’に偏差係数βAを乗じることにより変更して、各々の推力分担率Riを算出する。同様に、グループB3に属する推進ジャッキJ11〜J16,J1,J2については、各々の推力分担率Riに偏差係数βBを乗じることにより変更して、各々の推力分担率Riを算出する。ここで、偏差係数βA,βBについては、βA+βB=2の関係を満たしている。
【0046】
再び図7に戻り、ステップS43では、ステップS42にて算出された推力分担率Riと目標総推力Ttotalとに基づいて、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiを算出する。このようにして、目標総推力Ttotalを得るように、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiが設定される。
【0047】
ステップS44では、ステップS43にて設定された各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiに基づいて、曲げモーメントに対応するジャッキモーメントMRを算出する。
【0048】
尚、ジャッキモーメントMRについては、ヨー方向(図8のY軸回り)のモーメント成分であるMRXと、ピッチ方向(図8のX軸回り)のモーメント成分であるMRYとを、以下の式によりそれぞれ求める。
MRX=ΣMRXi=Σ(TRi・RC・cos(φi))
MRY=ΣMRYi=Σ(TRi・RC・sin(φi))
ステップS45では、ジャッキモーメントMRと目標ジャッキモーメントMPとを比較する。具体的には、ジャッキモーメントMRのヨー方向及びピッチ方向のモーメント成分(MRX,MRY)と目標ジャッキモーメントMPのヨー方向及びピッチ方向のモーメント成分(MPX,MPY)とを比較する。
【0049】
MRがMPに略同等ではない場合(例えば、MRとMPとの差が予め設定された閾値以上の場合)には、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiからなる推力分布により生じる曲げモーメントと、セグメント4組立前の曲げモーメントとの差異が大きいと判定し、ステップS46に進んで、軸線方向強さr3と偏差係数βA,βBとを変更して再設定し、ステップS42に戻って、推力分担率Riの算出を行う。
【0050】
一方、MRがMPに略同等である場合、(例えば、MRとMPとの差が予め設定された閾値未満の場合)には、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiからなる推力分布により生じる曲げモーメントが、セグメント4組立前の曲げモーメントと略同等であると判定し、このときの第2の推力目標値TRiを、ステップS47にて、制御部10の記憶部に記憶させて、本フローを終了する。
【0051】
このようにして、ステップS4にて、目標総推力Ttotal及び目標ジャッキモーメントMPを得るように、第2の推力目標値TRiが設定される。
【0052】
次に、本実施形態における各推進ジャッキの推力目標値Tiが、セグメント4の組立状況に応じてどのように設定されるのかについて、図9〜図19を用いて説明する。
【0053】
図9(a)〜図19(a)は、それぞれ、シールド掘進機の掘進機本体2の後方から見た推進ジャッキJ1〜J16の配置箇所を示している。ここで、推進ジャッキJ1〜J16のうち、黒いドットで示されている推進ジャッキは組立ジャッキ群に属しており、引戻しにより不作動となっている。また、推進ジャッキJ1〜J16のうち、斜線で示されている推進ジャッキは対抗ジャッキ群に属しており、これらも不作動となっている。
【0054】
また、図9(b)〜図19(b)は、それぞれ、各推進ジャッキの推力目標値(TPi,TQi,TRi)の大きさを円柱の高さで示している。
尚、本実施形態では、目標総推力Ttotalを560[kN]と仮定する。また、操作角度θ1を3/2[rad]と仮定する。また、操作強さr1を0.40と仮定する。また、円周Cの半径RCを2[m]と仮定する。
【0055】
[1]セグメント組立前の場合(図9参照)
この場合は、上述の図2のステップS2、図3のステップS21〜S23、及び図4を用いると、以下表1に示す算出結果が得られる。
【0056】
【表1】
また、表1は図9に対応しており、表1における推力目標値TPが、図9(b)に示されている。
【0057】
この場合における目標ジャッキモーメントMPのヨー方向のモーメント成分MPX(0[kN・m])と、ピッチ方向のモーメント成分MPY(140[kN・m])とがセグメント組立時においても維持されるように(すなわち、セグメント組立前の目標ジャッキモーメントMPがセグメント組立時においても維持されるように)、及び、目標総推力Ttotalがセグメント組立時においても維持されるように、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQと第2の推力目標値TRとが設定される。
【0058】
[2]セグメント組立時における組立ジャッキ群がJ7〜J10からなる場合(図10,図11参照)
この場合は、軸線角度θ2=θ3=3/2π[rad]となる。
【0059】
まず、軸線方向強さr2=1.00とし、偏差係数αA=αB=1.00として、上述の図2のステップS3、図5のステップS31〜S37、及び図6を用いると、以下表2に示す算出結果が得られる。
【0060】
【表2】
また、表2は図10に対応しており、表2における第1の推力目標値TQが、図10(b)に示されている。
【0061】
次に、対抗ジャッキ群に属するJ15,J16,J1,J2を不作動とし、軸線方向強さr3=0.84とし、偏差係数βA=βB=1.00として、上述の図2のステップS4、図7のステップS41〜S47、及び図8を用いると、以下表3に示す算出結果が得られる。
【0062】
【表3】
また、表3は図11に対応しており、表3における第2の推力目標値TRが、図11(b)に示されている。
【0063】
表2と表3とを参照すると、第1の推力目標値の最大値TQmaxは104[kN]であり、また、第2の推力目標値の最大値TRmaxは98[kN]であるので、TQmax>TRmaxとなっている。
【0064】
従って、この場合には、図2のステップS5にてステップS6に進むことになるので、各推進ジャッキの推力目標値Tiとしては、第2の推力目標値TRiが選択されて設定されることになる。
【0065】
[3]セグメント組立時における組立ジャッキ群がJ9〜J12からなる場合(図12,図13参照)
この場合は、軸線角度θ2=θ3=5/4π[rad]となる。
【0066】
まず、軸線方向強さr2=0.97とし、偏差係数αA=1.10とし、αB=0.90として、上述の図2のステップS3、図5のステップS31〜S37、及び図6を用いると、以下表4に示す算出結果が得られる。
【0067】
【表4】
また、表4は図12に対応しており、表4における第1の推力目標値TQが、図12(b)に示されている。
【0068】
次に、対抗ジャッキ群に属するJ1〜J4を不作動とし、軸線方向強さr3=0.68とし、偏差係数βA=1.10とし、βB=0.90として、上述の図2のステップS4、図7のステップS41〜S47、及び図8を用いると、以下表5に示す算出結果が得られる。
【0069】
【表5】
また、表5は図13に対応しており、表5における第2の推力目標値TRが、図13(b)に示されている。
【0070】
表4と表5とを参照すると、第1の推力目標値の最大値TQmaxは109[kN]であり、また、第2の推力目標値の最大値TRmaxは99[kN]であるので、TQmax>TRmaxとなっている。
【0071】
従って、この場合には、図2のステップS5にてステップS6に進むことになるので、各推進ジャッキの推力目標値Tiとしては、第2の推力目標値TRiが選択されて設定されることになる。
【0072】
[4]セグメント組立時における組立ジャッキ群がJ11〜J14からなる場合(図14,図15参照)
この場合は、軸線角度θ2=θ3=π[rad]となる。
【0073】
まず、軸線方向強さr2=0.87とし、偏差係数αA=1.15とし、αB=0.85として、上述の図2のステップS3、図5のステップS31〜S37、及び図6を用いると、以下表6に示す算出結果が得られる。
【0074】
【表6】
また、表6は図14に対応しており、表6における第1の推力目標値TQが、図14(b)に示されている。
【0075】
次に、対抗ジャッキ群に属するJ3〜J6を不作動とし、軸線方向強さr3=0.00とし、偏差係数βA=1.14とし、βB=0.86として、上述の図2のステップS4、図7のステップS41〜S47、及び図8を用いると、以下表7に示す算出結果が得られる。
【0076】
【表7】
また、表7は図15に対応しており、表7における第2の推力目標値TRが、図15(b)に示されている。
【0077】
表6と表7とを参照すると、第1の推力目標値の最大値TQmaxは100[kN]であり、また、第2の推力目標値の最大値TRmaxは80[kN]であるので、TQmax>TRmaxとなっている。
【0078】
従って、この場合には、図2のステップS5にてステップS6に進むことになるので、各推進ジャッキの推力目標値Tiとしては、第2の推力目標値TRiが選択されて設定されることになる。
【0079】
[5]セグメント組立時における組立ジャッキ群がJ13〜J16からなる場合(図16,図17参照)
この場合は、軸線角度θ2=θ3=3/4π[rad]となる。
【0080】
まず、軸線方向強さr2=0.74とし、偏差係数αA=1.11とし、αB=0.89として、上述の図2のステップS3、図5のステップS31〜S37、及び図6を用いると、以下表8に示す算出結果が得られる。
【0081】
【表8】
また、表8は図16に対応しており、表8における第1の推力目標値TQが、図16(b)に示されている。
【0082】
次に、対抗ジャッキ群に属するJ5〜J8を不作動とし、軸線方向強さr3=−2.10とし、偏差係数βA=1.10とし、βB=0.90として、上述の図2のステップS4、図7のステップS41〜S47、及び図8を用いると、以下表9に示す算出結果が得られる。
【0083】
【表9】
また、表9は図17に対応しており、表9における第2の推力目標値TRが、図17(b)に示されている。
【0084】
表8と表9とを参照すると、第1の推力目標値の最大値TQmaxは84[kN]であり、また、第2の推力目標値の最大値TRmaxは99[kN]であるので、TQmax<TRmaxとなっている。
【0085】
従って、この場合には、図2のステップS5にてステップS7に進むことになるので、各推進ジャッキの推力目標値Tiとしては、第1の推力目標値TQiが選択されて設定されることになる。
【0086】
[6]セグメント組立時における組立ジャッキ群がJ15,J16,J1,J2からなる場合(図18,図19参照)
この場合は、軸線角度θ2=θ3=1/2π[rad]となる。
【0087】
まず、軸線方向強さr2=0.67とし、偏差係数αA=αB=1.00として、上述の図2のステップS3、図5のステップS31〜S37、及び図6を用いると、以下表10に示す算出結果が得られる。
【0088】
【表10】
また、表10は図18に対応しており、表10における第1の推力目標値TQが、図18(b)に示されている。
【0089】
次に、対抗ジャッキ群に属するJ7〜J10を不作動とし、軸線方向強さr3=−5.20とし、偏差係数βA=βB=1.00として、上述の図2のステップS4、図7のステップS41〜S47、及び図8を用いると、以下表11に示す算出結果が得られる。
【0090】
【表11】
また、表11は図19に対応しており、表11における第2の推力目標値TRが、図19(b)に示されている。
【0091】
表10と表11とを参照すると、第1の推力目標値の最大値TQmaxは70[kN]であり、また、第2の推力目標値の最大値TRmaxは98[kN]であるので、TQmax<TRmaxとなっている。
【0092】
従って、この場合には、図2のステップS5にてステップS7に進むことになるので、各推進ジャッキの推力目標値Tiとしては、第1の推力目標値TQiが選択されて設定されることになる。
【0093】
ところで、特許第3314366号公報には、上述の図3及び図4に示した推進ジャッキの推力設定方法と同様の手法が記載されている。
この特許第3314366号公報に記載のような手法では、図4に示すように、推力分布LA1,LB1の境界線である軸線AX1を、操作角度θ1の延長線と同一方向に設定し、この軸線AX1により二分されるクループA1,B1の各々の推力分布LA1,LB1を軸線AX1に関して互いに対称になるように設定することで、掘進方向制御に必要な曲げモーメント及び総推力を効率的に得ている。
【0094】
しかしながら、同時掘進組立工法において、軸線AX1を、操作角度θ1の延長線と同一方向に設定すると、組立ジャッキ群の位置等によっては、掘進方向制御に必要な曲げモーメント及び総推力が得られない可能性がある。また、施工状態に応じてセグメント4の組立箇所が掘進機本体2の周縁線(円周C)に沿って周方向に移動することにより、これに追従して、不作動となる推進ジャッキ群の位置も移動するので、掘進方向制御が不安定になる可能性がある。
【0095】
この点、本実施形態では、セグメント4の組立箇所の移動に追従して軸線AX2,AX3が移動可能であるので、セグメント4の組立箇所が移動しても、軸線により二分されるクループの各々の推力分布が、互いに、軸線に関する対称性を維持でき、この結果、必要な曲げモーメント及び総推力を得て、安定的に掘進方向制御を行うことができる。
【0096】
尚、本実施形態では、推力分布LA1,LB1、第1の推力分布LA2,LB2、及び、第2の推力分布LA3,LB3が、それぞれ、対応する軸線の方向に傾斜する勾配として、上述の直線勾配を有しているが、勾配の態様はこれに限らず、例えば、特許第3314366号公報に記載のようないわゆる曲線勾配を、本実施形態における各推力分布の勾配に適用することが可能である。
【0097】
本実施形態によれば、掘進機本体2の周縁線上(円周C上)に配置された複数の推進ジャッキ6の推力を調整してシールド掘進機1の掘進方向を制御するに当たり、掘進とセグメント組立とを同時施工するために、セグメント4の組立箇所に対応する組立ジャッキ群を不作動とする一方、この組立ジャッキ群以外の推進ジャッキを作動させる場合に、シールド掘進機1の掘進方向制御に必要な目標総推力Ttotal及び目標ジャッキモーメントMPを設定し、組立ジャッキ群の配置範囲内の所定位置(中央位置F1)と円周Cの中心Oとを通る軸線AX2を設定し、作動させる推進ジャッキ6を、軸線AX2の両側に二分される2つのグループA2,B2に分け、目標総推力Ttotal及び目標ジャッキモーメントMPを得るように、各グループA2,B2について、軸線AX2の方向に傾斜する勾配を有する第1の推力分布LA2,LB2を設定し、この第1の推力分布LA2,LB2に基づいて、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiを設定する。これにより、組立ジャッキ群に起因して発生する強制的なモーメントを考慮した比較的なだらかな推力分布に基づいて、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiを設定することができるので、この推力目標値TQiに基づいて各推進ジャッキの推力を調整して、必要な総推力及び曲げモーメントを得てシールド掘進機1の掘進方向制御を行うことができる。
【0098】
また本実施形態によれば、第1の推力分布LA2,LB2が軸線AX2に関する対称性を有する比較的なだらかな勾配(直線勾配)で設定されるので、それらの推力差が全て同一方向の曲げモーメントを生ずることとなり、シールド掘進機1の掘進方向制御に必要な曲げモーメント(目標ジャッキモーメントMP)を効率的に得ることができる。
【0099】
ところで、シールド掘進機1のジャッキ推力は、シールドトンネルのセグメント4に荷重として加わる。シールド掘進機1の掘進方向制御に必要な曲げモーメントを得るためには、セグメント4に一定の偏った荷重が加わることを許容しなければならないが、既に組立てられたセグメント4への影響を緩和するためには、近接する推進ジャッキ6間の推力の差が小さいこと、換言すれば、円周Cに沿う周方向で見て、推進ジャッキ6間の推力勾配の変節点が少ないことが求められる。ここで、推力勾配の変節点とは、増加する推力勾配から減少する推力勾配への変化点、又は、減少する推力勾配から増加する推力勾配への変化点を意味する。近接する推進ジャッキ6間の推力の差が大きい場合には、セグメント4に偏圧が作用することになり、覆工体5が変形する可能性がある。また、推力勾配の変節点では、セグメント4の主に継手部に、応力が集中する部分、又は、応力が拡散する部分が生じ、これら部分がセグメント組立に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0100】
この点、本実施形態では、第1の推力分布LA2,LB2が比較的なだらかな勾配(直線勾配)を有することにより、推力勾配の変節点が比較的少ないので、セグメント4の主に継手部に作用する応力の集中又は拡散を抑制することができ、ひいては、セグメント組立の施工性を向上させることができる。
【0101】
また本実施形態によれば、組立ジャッキ群に対して円周Cの中心Oに関して対称な位置の対抗ジャッキ群を不作動として、目標総推力Ttotal及び目標ジャッキモーメントMPを得るように、各グループA3,B3について、軸線AX3の方向に傾斜する勾配を有する第2の推力分布LA3,LB3を設定し、この第2の推力分布LA3,LB3に基づいて、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiを設定する。また、第1の推力目標値の最大値TQmaxと第2の推力目標値の最大値TRmaxとを比較し、TQmax>TRmaxの場合には、第2の推力目標値TRiを、各推進ジャッキの推力目標値Tiとして選択する一方、TQmax≦TRmaxの場合には、第1の推力目標値TQiを、各推進ジャッキの推力目標値Tiとして選択する。これにより、推進ジャッキ6の推力の最大値を低く抑制することができるので、セグメント4に局所的に過大な荷重が作用してセグメント4が破損すること、及び、覆工体5が変形することを抑制することができる。
【0102】
図20は、本発明の第2実施形態における推進ジャッキの推力設定方法を示すフローチャートである。
図2に示した第1実施形態と異なる点について説明する。
【0103】
図20に示すフローでは、ステップS6又はS7にて設定された各推進ジャッキの推力目標値Tiについて、ステップS8にて、推力目標値Tiと、所定値Timaxとを比較する。ここで、所定値Timaxとは、推力目標値Tiが、推進ジャッキ6の最大推進能力を超えた値か否かを判定するための閾値であり、予め設定された値である。
【0104】
Ti>Timaxの場合は、ステップS9にて目標総推力Ttotalを低減して、ステップS2に戻り、目標ジャッキモーメントMPの設定を行う。そして、この低減した目標総推力Ttotalと、目標ジャッキモーメントMPを得るように、ステップS3にて各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiを設定し、ステップS4にて、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiを設定する。
【0105】
そして、ステップS8にてTi≦Timaxになるまで、上述のステップS2〜S9の処理を繰り返し、Ti≦Timaxになった時点で、このときの推力目標値Tiを、ステップS10にて目標値と設定して、この推力目標値Tiに応じて、推進ジャッキ6の圧力制御(油圧制御)を行う。
【0106】
次に、本実施形態における目標総推力Ttotalが、第1実施形態における目標総推力Ttotalより大きい700[kN]である場合の、推力目標値Tiの設定方法の一例を説明する。ここで、所定値Timaxは、100[kN]であると仮定する。
【0107】
[1]セグメント組立前の場合
この場合は、上述の図20のステップS2、図3のステップS21〜S23、及び図4を用いると、以下表12に示す算出結果が得られる。
【0108】
【表12】
この場合における目標ジャッキモーメントMPのヨー方向のモーメント成分MPX(0[kN・m])と、ピッチ方向のモーメント成分MPY(175[kN・m])とがセグメント組立時においても維持されるように(すなわち、セグメント組立前の目標ジャッキモーメントMPがセグメント組立時においても維持されるように)、及び、目標総推力Ttotalがセグメント組立時においても維持されるように、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQと第2の推力目標値TRとが設定される。
【0109】
[2]セグメント組立時における組立ジャッキ群がJ7〜J10からなる場合
この場合は、軸線角度θ2=θ3=3/2π[rad]となる。
【0110】
まず、軸線方向強さr2=1.00とし、偏差係数αA=αB=1.00として、上述の図20のステップS3、図5のステップS31〜S37、及び図6を用いると、以下表13に示す算出結果が得られる。
【0111】
【表13】
次に、対抗ジャッキ群に属するJ15,J16,J1,J2を不作動とし、軸線方向強さr3=0.84とし、偏差係数βA=βB=1.00として、上述の図20のステップS4、図7のステップS41〜S47、及び図8を用いると、以下表14に示す算出結果が得られる。
【0112】
【表14】
表13と表14とを参照すると、第1の推力目標値の最大値TQmaxは130[kN]であり、また、第2の推力目標値の最大値TRmaxは123[kN]であるので、TQmax>TRmaxとなっている。
【0113】
従って、この場合には、図20のステップS5にてステップS6に進むことになるので、各推進ジャッキの推力目標値Tiとしては、第2の推力目標値TRiが選択されて設定されることになる。
【0114】
この後、ステップS8では、各推進ジャッキの推力目標値Tiと所定値Timaxとが比較される。この場合では、Tiの最大値が123[kN]であり、所定値Timax=100[kN]を上回るので、ステップS8からステップS9に進み、目標総推力Ttotalを低減して、ステップS2に戻り、目標ジャッキモーメントMPの設定を行う。そして、この低減した目標総推力Ttotalと、目標ジャッキモーメントMPを得るように、ステップS3にて各推進ジャッキの第1の推力目標値TQiを設定し、ステップS4にて、各推進ジャッキの第2の推力目標値TRiを設定する。
【0115】
特に本実施形態によれば、各推進ジャッキの推力目標値Tiが所定値Timaxを超える場合には総推力Ttotalを低減し、この低減した総推力Totalを得るように、各推進ジャッキの第1の推力目標値TQi及び第2の推力目標値TRiを設定する。これにより、推力目標値Tiが、例えば、推進ジャッキ6の最大推進能力を超えた値になることを抑制できるので、推進ジャッキ6の故障等を防ぐことができると共に、セグメント4に局所的に過大な荷重が作用してセグメント4が破損すること、及び、覆工体5が変形することを抑制することができる。
【0116】
尚、上述の実施形態では、複数の推進ジャッキからなる組立ジャッキ群の中央位置を、周縁線(円周C)の中心Oにおける極座標系の軸線角度θ2,θ3で表しているが、軸線角度θ2,θ3が対応する組立ジャッキ群の配置範囲内の所定位置は、上記中央位置に限らず、組立ジャッキ群の配置範囲内の任意の位置であり得る。この一例を、図21に示す。
【0117】
図21は、図6及び図12に示した、セグメント組立時における組立ジャッキ群がJ9〜J12からなる場合に対応しており、軸線角度θ2の設定方法の変形例を示す。図6及び図12(a)では、組立ジャッキ群の設置範囲内の中央位置F1に、軸線角度θ2が対応している。一方、図21(a)では、組立ジャッキ群の設置範囲内において、中央位置より掘進機本体2の周縁線(円周C)の中心角で22.5°ずれた位置に、軸線角度θ2が対応している。図21に示す軸線角度θ2を、上述の図2のステップS3、図5のステップS31〜S37、及び図6に適用して、第1の推力目標値TQを算出すると、図21(b)に示すような第1の推力目標値TQの分布が得られる。
【0118】
また、上述の実施形態では、シールド掘進機1が16本の推進ジャッキ6を備える場合を用いて説明したが、シールド掘進機1が備える推進ジャッキ6の本数はこれに限らず、例えば、シールド掘進機1が16本以上の推進ジャッキ6を備えることが好ましい。
【0119】
また、上述の実施形態では、組立ジャッキ群が4本の推進ジャッキ6により構成され、これにより、組立ジャッキ群の配置範囲が、円周Cの中心角で90°の範囲に対応する場合を示したが、組立ジャッキ群の配置範囲と円周Cの中心角の範囲との対応関係はこれに限らず、例えば、組立ジャッキ群の配置範囲が、円周Cの中心角で90°以下の範囲に対応することが好ましい。
【符号の説明】
【0120】
1 シールド掘進機
2 掘進機本体
3 エレクター
4 セグメント
5 覆工体
6,J1〜J16 推進ジャッキ
10 制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘進機本体の周縁線上に配置された複数の推進ジャッキの推力を調整してシールド掘進機の掘進方向を制御するに当たり、掘進とセグメント組立とを同時施工するために、セグメント組立箇所に対応する複数の推進ジャッキを含む推進ジャッキ群を不作動とする一方、この不作動の推進ジャッキ群以外の推進ジャッキを作動させる場合において、
シールド掘進機の掘進方向制御に必要な目標総推力及び目標ジャッキモーメントを設定し、
前記不作動の推進ジャッキ群の配置範囲内の所定位置と前記周縁線の中心とを通る軸線を設定し、
前記作動させる推進ジャッキを、前記軸線の両側に二分される2つのグループに分け、
前記目標総推力及び前記目標ジャッキモーメントを得るように、各グループについて、前記軸線の方向に傾斜する勾配を有する推力分布を設定し、
この推力分布に基づいて、各推進ジャッキの第1の推力目標値を設定することを特徴とする、シールド掘進機における推進ジャッキの推力設定方法。
【請求項2】
前記セグメント組立箇所は前記周縁線に沿って周方向に移動することを特徴とする、請求項1記載のシールド掘進機における推進ジャッキの推力設定方法。
【請求項3】
前記不作動の推進ジャッキ群に対して前記周縁線の中心に関して対称な位置の推進ジャッキ群を不作動として、前記目標総推力及び前記目標ジャッキモーメントを得るように、前記各グループについて、前記軸線の方向に傾斜する勾配を有する推力分布を設定し、この推力分布に基づいて、各推進ジャッキの第2の推力目標値を設定し、
前記第1の推力目標値の最大値と前記第2の推力目標値の最大値とを比較し、
前記第1の推力目標値の最大値が前記第2の推力目標値の最大値より大きい場合には、前記第2の推力目標値を、各推進ジャッキの推力目標値として選択する一方、
前記第1の推力目標値の最大値が前記第2の推力目標値の最大値以下の場合には、前記第1の推力目標値を、各推進ジャッキの推力目標値として選択することを特徴とする、請求項1又は請求項2記載のシールド掘進機における推進ジャッキの推力設定方法。
【請求項4】
前記選択された推力目標値が所定値を超える場合には前記目標総推力を低減し、この低減した目標総推力を得るように、各推進ジャッキの前記第1及び第2の推力目標値を設定することを特徴とする、請求項3記載のシールド掘進機における推進ジャッキの推力設定方法。
【請求項1】
掘進機本体の周縁線上に配置された複数の推進ジャッキの推力を調整してシールド掘進機の掘進方向を制御するに当たり、掘進とセグメント組立とを同時施工するために、セグメント組立箇所に対応する複数の推進ジャッキを含む推進ジャッキ群を不作動とする一方、この不作動の推進ジャッキ群以外の推進ジャッキを作動させる場合において、
シールド掘進機の掘進方向制御に必要な目標総推力及び目標ジャッキモーメントを設定し、
前記不作動の推進ジャッキ群の配置範囲内の所定位置と前記周縁線の中心とを通る軸線を設定し、
前記作動させる推進ジャッキを、前記軸線の両側に二分される2つのグループに分け、
前記目標総推力及び前記目標ジャッキモーメントを得るように、各グループについて、前記軸線の方向に傾斜する勾配を有する推力分布を設定し、
この推力分布に基づいて、各推進ジャッキの第1の推力目標値を設定することを特徴とする、シールド掘進機における推進ジャッキの推力設定方法。
【請求項2】
前記セグメント組立箇所は前記周縁線に沿って周方向に移動することを特徴とする、請求項1記載のシールド掘進機における推進ジャッキの推力設定方法。
【請求項3】
前記不作動の推進ジャッキ群に対して前記周縁線の中心に関して対称な位置の推進ジャッキ群を不作動として、前記目標総推力及び前記目標ジャッキモーメントを得るように、前記各グループについて、前記軸線の方向に傾斜する勾配を有する推力分布を設定し、この推力分布に基づいて、各推進ジャッキの第2の推力目標値を設定し、
前記第1の推力目標値の最大値と前記第2の推力目標値の最大値とを比較し、
前記第1の推力目標値の最大値が前記第2の推力目標値の最大値より大きい場合には、前記第2の推力目標値を、各推進ジャッキの推力目標値として選択する一方、
前記第1の推力目標値の最大値が前記第2の推力目標値の最大値以下の場合には、前記第1の推力目標値を、各推進ジャッキの推力目標値として選択することを特徴とする、請求項1又は請求項2記載のシールド掘進機における推進ジャッキの推力設定方法。
【請求項4】
前記選択された推力目標値が所定値を超える場合には前記目標総推力を低減し、この低減した目標総推力を得るように、各推進ジャッキの前記第1及び第2の推力目標値を設定することを特徴とする、請求項3記載のシールド掘進機における推進ジャッキの推力設定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2013−7226(P2013−7226A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141407(P2011−141407)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]