説明

シールド掘進機の緊急止水シール装置

【課題】繰り返し使用することができる拡幅型シールド掘進機の緊急止水シール装置を得ることを目的とする。
【解決手段】移動ブロック51bの内面に基端側が設置され、該基端側を支点として先端側が回動可能に構成され、圧力液体を注入できる圧力液注入部20dを備えた第2シールパッキン20と、中央ブロック50の内面に基端側が設置され、該基端側を支点として先端側が第2シールパッキン20の回動によって回動される第1シールパッキン1とを有している。圧力液注入部20dに液体を加圧注入することによって、第1シールパッキン1および第2シールパッキン20の先端側は回動してセグメント46との間に隙間を形成し、圧力液注入部20dの圧力液体を排出することによって、第1シールパッキン1および第2シールパッキン20の先端側は前記と反対方向に回動してセグメント46に当接し、止水する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシールド掘進機の緊急止水シール装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中を掘進するシールド掘進機においては、その後胴部においてセグメントを組み立ててトンネルを構築する。このときセグメント(トンネル)の外周面と後胴部の内周面との間には隙間があり、この隙間をテールクリアランスと言うが、このテールクリアランスからシールド掘進機の内部に地下水や土砂が浸入するのを防止するために、シールド掘進機の後胴部にはテールシール装置が設けられている。
【0003】
しかしながら、後胴部に設置したテールシール装置のテールブラシは長距離掘進すると損傷し、止水機能が低下する。このため、テールブラシを交換しないでそのまま放置したのでは機内に地下水や土砂が浸入し、セグメントを安全に組み立てられなくなる。しかも、テールブラシの止水機能が低下した状態では、テールクリアランスから地下水や土砂が浸入してくるので、テールブラシの交換作業自体が安全に出来なくなる。
【0004】
この問題を解決するための装置として、例えば図8に示す緊急止水シール装置がある。以下、図8に基づいて従来の緊急止水シール装置の構成について説明する。図8はシールド掘進機の後胴部の一部をその軸線に沿う断面で示したものであり、40は後胴部の外殻、41は外殻40の内面に設置された緊急止水シール装置である。緊急止水シール装置41は、ゴム性のシールパッキン42の前端側を外殻40の内面に固定し、シールパッキンの後端側を保持金具43で保持した構造である。そして、シールパッキン42の上面側にはゴム性のチューブからなるシールパッキン押し出し装置44が設けられている。
【0005】
上記のような従来の緊急止水シール装置41の作用を簡単に説明する。通常の掘進時においては、図8に示すように、シールパッキン42の後端側を保持金具43で保持し、シールパッキン42を外殻40の内面とほぼ平行な状態にしておく。
【0006】
そしてテールシール装置のテールブラシの交換時などのように、緊急止水シール装置41を使用する際には、シールパッキン押し出し装置44のチューブに圧力液を圧入して、チューブを膨張させることによって、シールパッキン42を下方に押し出すようにする。すると、シールパッキン42の後端が保持金具43から外れ、図9に示すようにシールパッキン42の後端側がセグメント46の表面に当接する。これによって、一時的にテールクリアランスがほぼ確実にシールされるので、この間に緊急止水シール装置41より機内側に設置されていたテールブラシを安全に交換することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、緊急止水シールは、緊急時に確実かつ迅速に止水機能を発揮する必要があるため、一般的にテールブラシとして用いられるワイヤブラシよりも止水性の高いゴム性のパッキンを用いる。しかし、ゴム性のパッキンは摺動による摩擦の影響を強く受け、耐久性が低いため、長時間摺動させると止水機能がすぐに低下してしまう。
ところが、上述した従来の緊急止水シール装置は、内側に押し出すだけの構造であり、また外圧によるセルフシール効果があるため、一旦機能させるとセグメント外面から離れることなく摺動し続けることになり、すぐに摩耗してしまいシール機能を発揮しなくなる。そのため、上記従来の緊急止水シール装置は事実上一回のテールブラシ交換にしか使用できないのが現状である。
【0008】
また、掘進途中でトンネルの一部の断面を変化させたいときにシールド掘進機の本体を拡幅させて掘進する多連型シールド掘進機が、例えば特開平6−146776号公報に開示されている。
図10及び図11は同公報に開示されたシールド掘進機のテール部の構造を模式的示したものであり、図10は後端部の正面図、図11は動作説明図である。
図において、50は後胴部の中央ブロック、51,52はそれぞれ中央ブロック50の左右に幅方向に移動可能に設置された移動ブロックである。50a,51a,52aはそれぞれ中央ブロック50、移動ブロック51,52の内周面に設置されたテールシールである。テールシール50a,51a,52aは、後胴部内で構築されたセグメントの外周面に当接して、テールクリアランスから土砂等がシールド掘進機の内部に侵入するのを防止する。
【0009】
ところで、移動ブロック51,52が幅方向へ移動すると、図11に示すように、中央ブロック50と移動ブロック51,52との間に隙間が生じることになるが、拡幅時においてもテールシールの交換をする必要が生じる場合もあり、拡幅時における緊急止水シール装置には、拡幅時の隙間について考慮する必要性がある。
【0010】
しかしながら、上記の図8、図9に示した従来の緊急止水シール装置はシールド掘進機の後胴部が拡幅する場合については想定しておらず拡幅型のシールド掘進機に適用することはできない。
【0011】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、第1には何度も繰り返し使用することのできる緊急止水シール装置を得ることを目的としている。また、第2には拡幅型シールド掘進機にも適用できる緊急止水シール装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る緊急止水シール装置は、後胴ブロックを構成する複数のブロックのうち、隣り合う各ブロックの外郭の一部をトンネル径拡大方向にスライド可能に重ね合わせてなる拡幅可能なシールド掘進機の緊急止水シール装置であって、
前記互いに重なり合う外郭のうち外側に配置された外郭の内面に設置され、基端側を支点として先端側が回転可能に構成された第1シールパッキンと、前記互いに重なり合う外郭のうち内側に配置された外郭に設置され、その一部が前記第1シールパッキンと互いに重なり合いを保つように配置されるとともに、基端側を中心として先端側が回動可能に構成された第2シールブラシと、該第2シールパッキンを回動させる回動手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の別の形態においては、後胴部を構成する複数のブロックのうち、隣り合う各ブロックの外郭の一部をトンネル径拡大方向にスライド可能に重ね合わせてなる拡幅可能なシールド掘進機の緊急止水シール装置であって、
前記互いに重なり合う外郭のうち外側に配置された外郭の内面に設置され、基端側を支点として先端側が回動可能に構成された第1シールパッキンと、前記互いに重なり合う外郭のうち内側に配置された外郭に設置され、その一部が前記第1シールパッキンと常に重なり合いを保つように配置された第2シールパッキンとを備え、該第2シールパッキンは基端側を中心として先端側が回動可能に構成されると共に、該第2シールパッキンを強制的に回動させる回動手段を備え、該回動手段によって前記第2シールパッキンを回動させることによって前記第1シールパッキンをも回動させてセグメントとの間に隙間を確保したり、該隙間をシールしたりできるように構成されているものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る緊急止水シール装置は、拡幅可能なシールド掘進機の緊急止水シール装置であって、外郭の内面に設置され、回転可能に構成された第1シールパッキンと、その一部が前記第1シールパッキンと互いに重なり合いを保つように配置される回動可能に構成された第2シールブラシと、該第2シールパッキンを回動させる回動手段と、を備えたことを特徴とするから、セグメントの間の隙間を確保したり、テールクリアランスをシールすることができる。
【0015】
本発明の別の形態においては、さらに、第2シールパッキンを強制的に回動させることによって第1シールパッキンをも回動させてセグメントとの間に隙間を確保したり、該隙間をシールしたりできるように構成したので、前記セグメントの間の隙間の確保や、テールクリアランスのシールが、確実に実行される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図5は本発明の実施の形態の説明図であり、拡幅型シールド掘進機の後胴部を示した図11におけるA部の斜視図、図6は図5の一部を破砕して示す説明図、図7は図6におけるB−B断面矢視図である。まず、図5乃至図7に基づいて、本実施の形態における中央ブロック50と移動ブロック51との関係について説明する。
【0017】
中央ブロック50の側端部には、内面側に突出する段部50bが形成され、さらに該段部50bには移動ブロック51の一部が挿入される深溝部50c及びこれの後方側に連続する浅溝部50dが形成されている。また、移動ブロックの側端部には中央ブロック50側に突出する凸部51bが形成されている(図6参照)。
そして、移動ブロック51の端部と中央ブロック50の端部はそれぞれ重なり合うと共に、移動ブロック51の凸部51bが中央ブロック51の深溝部50cに挿入され、この状態で移動ブロック51は中央ブロック50に対して幅方向に移動可能に構成されている。
【0018】
図1は図7における矢印C方向から見た状態における要部を示す図である。次に、図1に基づいて本実施の形態の要部の構成を説明する。
図において、1は中央ブロック50の内面に設置された第1シールパッキン、20は移動ブロック51に取り付けられた第2シールパッキンである。ここで、第1シールパッキン1及び第2シールパッキン20の構成について、中央ブロック50と移動ブロック51とを分離して示す図3及び図4に基づいてそれぞれ説明する。
【0019】
まず、図3に基づいて第1シールパッキン1について説明する。第1シールパッキン1はシールド掘進機の幅方向に延びる帯状の形状をしており、その基端側が深溝部50cの後方側の側壁に設置され、(シールド掘進機の)後方側に傾斜させた状態で設置されている。第1シールパッキン1はゴムなどの弾性部材から形成され、その傾斜部の下面側には反転防止用の鋼板3が設置されている。また、第1シールパッキン1の先端部1aは水平方向に屈曲して、図示しないセグメントとの接触面積が広くなるように構成されている。
【0020】
なお、第1シールパッキン1は外力が作用しない状態では、図3に示すように後方側に傾斜した状態となるが、弾性部材で形成されているので、その下方から上方に力を作用させた場合には図1に示すようにほぼ水平状態になることができる。
5は中央ブロック50の内面に設置された止水用のパッキンであり、中央ブロック50の内面と移動ブロック51の凸部51b間の隙間からの地下水の浸入を防ぐものである。
【0021】
次に、図4に基づいて第2シールパッキン20について説明する。第2シールパッキン20は弾性部材をチューブ状にしたものであり、チューブを構成する弾性部材の前方側約半分の部分における上部側が移動ブロック51の凸部51bの下面側に設置された構造である。また、第2シールパッキン20は外力が作用しない自然状態においては、図4に示すように、後方の半分の部分が後方に向かって傾斜した状態になるように構成されており、この状態ではチューブの下部側が図4に示すように弛んだ状態になっている。
【0022】
そして、傾斜部の内部には反転防止用の鋼板21が設けられている。また、第2シールパッキン20の後部側の先端部には、自然状態において水平となる水平面部20aが形成されている。また、この水平面部20aの内部側には、空洞部20bが形成されている。この空洞部20bを設けることで、水平面部20aが接触面(セグメントの表面)密着できるようになっている。
【0023】
ここで第2シールパッキン20の基本的な機能について説明する。第2シールパッキン20は前述の通りチューブ状になっており、チューブの内部空間である圧力液注入部20dには液体を加圧注入することができ、またこれを排出できる構成になっている。圧力液注入部20dに液体を加圧注入すると、チューブが膨張して下部側のチューブが伸び、図1に示すように傾斜部が水平状態になるように構成されている。なお、圧力液注入部20dに圧力液を注入した際にチューブの下部側が下方に膨らんだのでは傾斜部を水平にさせることができないので、チューブの下部側にこの下部側が膨らまないにように、あて板のようなものを設けるようにしてもよい。圧力液注入部20dの液体を排出させると第2シールパッキン20は、図4に示すように、傾斜状態に戻る。
【0024】
図2は本実施の形態の動作を説明する説明図である。以下、図1及び図2に基づいて本実施の形態の動作を説明する。
通常の掘進時においては、図1に示すように、第2シールパッキン20の圧力液注入部20dに圧力液を注入して第2シールパッキン20を水平状態にし、この第2シールパッキン20によって第1シールパッキン1を持ち上げてほぼ水平状態にしておく。この状態では、第1シールパッキン1及び第2シールパッキン20共に、セグメント46の表面から離れた状態になっている。この状態で、これら第1シールパッキン1及び第2シールパッキン20の前後に設置された図示しないテールブラシによってテールクリアランスから地下水や土砂が機内に浸入するのを防止しながら掘進する。
【0025】
次に、テールブラシの交換が必要となった場合には、第2シールパッキン20の圧力液注入部20dの液体を排出する。これによって、第2シールパッキン20のチューブの下面側が縮み、図2に示すように、自然状態である傾斜状態に戻る。このとき、第1シールパッキン1は、第2シールパッキン20からの力が作用しなくなり、第2シールパッキン20と同様に、自然状態である傾斜状態に戻る。この自然状態では、図2に示すように、第1シールパッキン1及び第2シールブラシ20の先端部がセグメント46の表面に接触することになる。これによって、テールクリアランスは確実にシールされることになる。
【0026】
この図2に示す状態でテールブラシの交換作業を行う。そして、交換作業が終了すると、再び第2シールパッキン20の圧力液注入部20dに液体を加圧注入することによって、第1シールパッキン1及び第2シールパッキン20を図1に示す状態にする。これによって、これ以後は第1シールパッキン1及び第2シールブラシ20共にセグメントの表面に接触しないので、掘進しても第1シールパッキン1及び第2シールパッキン20が摩耗することがない。したがって、何度でも使用することができる。
【0027】
次に、移動ブロック51が移動する場合(シールド掘進機を拡幅する場合)の第1シールパッキン1及び第2シールパッキン20の作用について説明する。第1シールパッキン1と第2シールパッキン20とは、図1に示すように、第1シールパッキン1の下面に設置した反転防止板3と第2シールパッキン20の上面とが当接している。そして、第2シールパッキン20は図6に示すように、移動ブロック51の下面(凸部51bの下面を含む)に設置されており、シールド掘進機が縮幅状態では第1シールパッキン1と第2シールパッキン20とは互いに重なり合いの部分を多く有していることになる。
【0028】
そして、シールド掘進機を拡幅する場合には第1シールパッキン1と第2シールブラシ20とが摺動して、両者重なり合う部分が少なくなって行く。この場合、第1シールパッキン1と第2シールパッキン20は第1シールパッキン1の下面の反転防止板3と第2シールパッキン20とが当接する構成であり、スムーズな摺動ができる。そして、シールド掘進機が最大量拡幅した状態でも、第1シールブラシ1と第2シールパッキン20はその一部が互いに重なり合っているので、拡幅時においても第1シールパッキン1と第2シールパッキン20との間に隙間が生ずることがなく、テールクリアランスを確実にシールすることができる。また、重なり合う部分があるので、第2シールパッキン20の圧力液注入部20dに液体を加圧注入して第2シールパッキン20を可動することによって第1シールブラシ1を動作させることができる。
【0029】
以上のように、上記の実施の形態においては、圧力液注入部に液体を加圧注入することによってシールパッキンを回動させてセグメントとの間に隙間を確保でき、また圧力液注入部の圧力液体を排出することによってシールパッキンを反対方向に回動させてテールクリアランスをシールすることができるように構成したので、必要な時だけシールパッキンをセグメントに当接させることができ、シールブラシの摩耗を防止できるので、緊急止水シールを何度も繰り返して使用することができる。
なお、上記の実施の形態においては、拡幅型のシールド掘進機の緊急シール装置について説明したが、拡幅機構を有しない通常のシールド掘進機の場合には、第2シールパッキン20のみを設置することで、緊急止水シール装置を構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は以上であるから、拡幅型のシールド掘進機および拡幅機構を有しない通常のシールド掘進機の緊急止水シール装置として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施の形態の要部を説明する説明図である。
【図2】図1に示した実施の形態の動作説明図である。
【図3】図1に示した実施の形態の一部分を説明する説明図である。
【図4】図1に示した実施の形態の一部分を説明する説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態を説明する斜視図である。
【図6】図5の一部を破砕して示す斜視図である。
【図7】図6のB−B矢視断面図である。
【図8】従来の緊急止水シール装置の説明図である。
【図9】従来技術の動作説明図である。
【図10】拡幅型シールド掘進機の後胴部の図である。
【図11】拡幅型シールド掘進機の後胴部の拡幅状態を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 第1シールパッキン
20 第2シールパッキン
50 中央ブロック
51 移動ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後胴ブロックを構成する複数のブロックのうち、隣り合う各ブロックの外郭の一部をトンネル径拡大方向にスライド可能に重ね合わせてなる拡幅可能なシールド掘進機の緊急止水シール装置であって、
前記互いに重なり合う外郭のうち外側に配置された外郭の内面に設置され、基端側を支点として先端側が回転可能に構成された第1シールパッキンと、
前記互いに重なり合う外郭のうち内側に配置された外郭に設置され、その一部が前記第1シールパッキンと互いに重なり合いを保つように配置されるとともに、基端側を中心として先端側が回動可能に構成された第2シールブラシと、
該第2シールパッキンを回動させる回動手段と、
を備えたことを特徴とするシールド掘進機の緊急止水シール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−241973(P2006−241973A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170057(P2006−170057)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【分割の表示】特願平9−355479の分割
【原出願日】平成9年12月24日(1997.12.24)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】