説明

シールド掘進機及びそのトンネル工法

【課題】テールクリアランス内への裏込め材又は地下水の侵入を確実に検知可能なシールド掘進機及びそのトンネル工法を提供する。
【解決手段】胴体14の後部の内方にて複数のセグメント22を筒状のセグメント環体23に組み立てながら、後方の既構築のセグメント環体23に継ぎ足すことにより、前記掘削孔2の内周面2aを筒状に覆う覆工体24を連続させて構築し、前記掘削方向への前進に伴って前記胴体14から後方に抜け出る前記覆工体24の部分と前記掘削孔2の内周面2aとの間隙に裏込め材26を充填するシールド掘進機であり、前記胴体14の内周面14aと前記覆工体24の外周面との間の環状のテールクリアランスCt内に前記裏込め材26又は地下水が侵入するのを防止するテールシール30と、前記テールクリアランスCt内への前記裏込め材26又は前記地下水の侵入を検知する異物検知センサーと、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機及びそのトンネル工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水の存在する地盤や比較的軟弱な地盤中にトンネルを形成する方法として、シールド掘進機を用いたトンネル工法が知られている。
【0003】
このシールド掘進機は、円筒状の胴体の前端部に設けられたカッターディスクにより地盤を掘削して円形状の掘削孔を形成しつつ掘削方向に前進するとともに、前記胴体の後部の内方にて複数のセグメントを円筒状のセグメント環体に組み立てながら、後方の既構築のセグメント環体に継ぎ足すことにより、前記掘削孔の内周面を円筒状に覆う覆工体を連続させて構築し、そして、前記掘削方向への前進に伴って前記胴体から後方に抜け出る前記覆工体の部分と前記掘削孔の内周面との間隙にモルタル等の裏込め材を充填し、これにより、掘削方向に沿って順次トンネルを形成するものである。
【0004】
ここで、前記胴体の内周面と前記覆工体の外周面との間には、所定寸法の環状のテールクリアランスが設定されている。これは、シールド掘進機が掘削方向を現行方向から変更する際に、前記胴体と前記覆工体との物理的干渉を防ぐための緩衝空間である。
【0005】
但し、このテールクリアランスを通じて、地盤中の地下水や、充填中の裏込め材がシールド掘進機内に侵入する虞があるため、このテールクリアランスには、その侵入を防ぐためのテールシールとして例えば環状のワイヤーブラシ等が設けられている。そして、場合によっては、更にテールクリアランス内に、ゲル状シール剤が充填されることもある(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2000−328887号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記テールシール等を設けても前記裏込め材等の侵入を完全に防ぐことは難しい。そして、特に、裏込め材が侵入した場合には、当該裏込め材がテールクリアランス内にて固化するが、そうすると、この裏込め材の体積分だけ、テールクリアランスの実効寸法が小さくなって、覆工体に対して胴体を傾斜させ難くなり、結果、トンネルのコース取りに支障を来したり、無理に傾斜させると、固化した裏込め材を介して胴体と覆工体とが競って覆工体を破損する虞もある。
【0007】
そのため、適宜なタイミングで作業者が、前記セグメント環体に形成された裏込め材注入孔からテールクリアランス内に探査棒を挿入して、その探査棒の感触に基づいてテールクリアランス内の裏込め材の侵入状況を確認しているが、目視もできないために、その確認は確実性に乏しい。
【0008】
本発明はかかる従来の課題に鑑みて成されたもので、テールクリアランス内への裏込め材又は地下水の侵入を確実に検知可能なシールド掘進機及びそのトンネル工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
筒状の胴体の前端部に設けられたカッターディスクにより地盤を掘削して掘削孔を形成しつつ掘削方向に前進するとともに、前記胴体の後部の内方にて複数のセグメントを筒状のセグメント環体に組み立てながら、後方の既構築のセグメント環体に継ぎ足すことにより、前記掘削孔の内周面を筒状に覆う覆工体を連続させて構築し、前記掘削方向への前進に伴って前記胴体から後方に抜け出る前記覆工体の部分と前記掘削孔の内周面との間隙に裏込め材を充填するシールド掘進機であって、
前記胴体の内周面と前記覆工体の外周面との間の環状のテールクリアランス内に前記裏込め材又は地下水が侵入するのを防止するテールシールと、
前記テールクリアランス内への前記裏込め材又は前記地下水の侵入を検知する異物検知センサーと、を備えていることを特徴とする。
上記請求項1に示す発明によれば、前記異物検知センサーにより、前記テールクリアランス内への前記裏込め材又は前記地下水の侵入を確実に検知することができる。
【0010】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載のシールド掘進機であって、
前記テールシールは、一端部が前記胴体に固定されつつ、他端部が前記覆工体の外周面に摺接されて設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に示す発明は、請求項2に記載のシールド掘進機であって、
前記テールシールが、少なくとも前記掘削方向の2カ所に設けられているとともに、前記テールクリアランスにおいて、前記掘削方向に互いに隣り合う前記テールシール同士の間に区画形成される室内にはゲル状シール剤が充填されており、
前記異物検知センサーの感知部は、前記室内に配置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に示す発明は、請求項3に記載のシールド掘進機であって、
前記ゲル状シール剤の電気抵抗の大きさは、前記裏込め材又は前記地下水の電気抵抗の大きさと相違し、
前記異物検知センサーは、
前記感知部として正負の一対の電極と、
前記一対の電極間の電気抵抗の計測値に基づいて、前記裏込め材又は前記地下水の前記室内への侵入の有無を判定する判定部と、を有することを特徴とする。
上記請求項4に示す発明によれば、前記裏込め材及び前記地下水の前記室内への侵入を、前記電気抵抗の変化で検知することができる。
【0013】
請求項5に示す発明は、請求項3に記載のシールド掘進機であって、
前記ゲル状シール剤のpH(水素イオン指数)の大きさは、前記裏込め材又は前記地下水のpHの大きさと相違し、
前記異物検知センサーは、
前記感知部として、前記室内のpHを計測するpHセンサーと、
前記室内のpHの計測値に基づいて、前記室内への異物の侵入の有無を判定する判定部と、を有することを特徴とする。
上記請求項5に示す発明によれば、前記裏込め材及び前記地下水の前記室内への侵入を、前記pHの変化で検知することができる。
【0014】
請求項6に示す発明は、請求項5に記載のシールド掘進機であって、
前記ゲル状シール剤は酸性であり、
前記裏込め材はモルタルであることを特徴とする。
上記請求項6に示す発明によれば、前記pHの計測値に変化によって、前記室内への前記裏込め材の侵入を確実に検知することができる。
【0015】
請求項7に示す発明は、請求項4乃至6のいずれかに記載のシールド掘進機であって、
前記ゲル状シール剤を、前記室内へ所定の基準供給圧力で圧送供給するポンプを有し、
前記判定部が、前記室内への前記裏込め材又は前記地下水の侵入が有りと判定した場合には、前記判定部は、前記基準供給圧力よりも高い供給圧力に変更することを特徴とする。
上記請求項7に示す発明によれば、前記裏込め材又は前記地下水の侵入を検知したら、前記ゲル状シール剤の供給圧力を高める。よって、更なる前記裏込め材又は前記地下水の侵入を抑制し、また、場合によっては、侵入した前記裏込め材及び前記地下水を前記室から外へ押し出して排出することができる。
【0016】
請求項8に示す発明は、請求項3乃至7のいずれかに記載のシールド掘進機であって、
前記ゲル状シール剤は、グリースであることを特徴とする。
【0017】
請求項9に示す発明は、筒状の胴体の前端部に設けられたカッターディスクにより地盤を掘削して掘削孔を形成しつつ掘削方向に前進するとともに、前記胴体の後部の内方にて複数のセグメントを筒状のセグメント環体に組み立てながら、後方の既構築のセグメント環体に継ぎ足すことにより、前記掘削孔の内周面を筒状に覆う覆工体を連続させて構築し、前記掘削方向への前進に伴って前記胴体から後方に抜け出る前記覆工体の部分と前記掘削孔の内周面との間隙に裏込め材を充填するシールド掘進機を用いたトンネル工法であって、
前記胴体の内周面と前記覆工体の外周面との間の環状のテールクリアランス内に、該テールクリアランスへの前記裏込め材又は地下水の侵入を防ぐテールシールを、前記掘削方向の2カ所に設けるとともに、前記テールシール同士の間に区画形成される室にはゲル状シール剤を充填し、
前記室内への前記裏込め材又は前記地下水の侵入を、前記室内の電気抵抗の変化又はpH(水素イオン指数)の変化に基づいて検知することを特徴とする。
上記請求項9に示す発明によれば、シールド掘進機のテールクリアランス内への前記裏込め材又は前記地下水の侵入を確実に検知することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシールド掘進機及びそのトンネル工法によれば、テールクリアランス内への裏込め材又は地下水の侵入を確実に検知可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係るシールド掘進機10及びそのトンネル工法の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1は、本実施形態のシールド掘進機10の全体構造を示す断面図であり、一部を側面視で示している。また、図2は、図1中のII−II断面図である。なお、以下では、掘削方向における切羽側を前方といい、その逆側の坑口側を後方という。
【0021】
このシールド掘進機10は、図1に示すように、地盤Gを掘削して掘削方向に前進してトンネルを形成するものであり、胴体としての円筒状のスキンプレート14を有している。そして、スキンプレート14の前端部には、地盤Gを掘削して掘削孔2を形成するカッターディスク12が設けられている。また、スキンプレート14の内方の作業空間16の前方部分には、掘削土砂を取り込む隔室18が設けられるとともに、カッターディスク12の駆動装置や制御装置及び掘削土砂の排出装置等(何れの装置も不図示)も設けられている。他方、上記作業空間16の後方部分には、セグメント組み立て装置(不図示)やシールドジャッキ20等が設けられている。セグメント22は、図2に示すように円弧状ブロックである。そして、セグメント組み立て装置によって、複数のセグメント22が円筒状のセグメント環体23に組み立てられるとともに、図1に示すように、このセグメント環体23が、後方の既構築のセグメント環体23に継ぎ足されることにより、前記掘削孔2の内周面2aを円筒状に覆う覆工体24が連続し構築される。
【0022】
そうしたら、上記の新たに継ぎ足されたセグメント環体23の前端面に、上記シールドジャッキ20を押し当てて、これを伸長させることによりスキンプレート14を前方へ押し出してカッターディスク12を前進させる。そして、この前進に伴って前記スキンプレート14から後方に抜け出る覆工体24の部分と掘削孔2の内周面2aとの間隙Sにモルタル等の裏込め材26を充填し、これにより、前記覆工体24の部分が掘削孔2に固定され、これらを順次繰り返すことで、徐々に掘削方向に沿ったトンネルが形成されていく。
【0023】
ところで、図1及び図2に示すように、スキンプレート14の内周面14aと覆工体24の外周面24aとの間には、所定寸法の環状の隙間たるテールクリアランスCtが設定されている。これは、シールド掘進機10が掘削方向を現行方向から傾いた方向に変更する際に、スキンプレート14と覆工体24との物理的干渉を防ぐための緩衝空間である。
【0024】
但し、このテールクリアランスCtを通して、地盤G中の地下水や、充填中の裏込め材26がシールド掘進機10内に侵入する虞があるため、このテールクリアランスCtには、その侵入を防ぐべくテールシール30が設けられている。
【0025】
図3は、上記のテールシール30を説明するための拡大断面図である。テールシール30は、図2及び図3に示すようにスキンプレート14の内周面14aに、周方向に沿って環状に配置されたワイヤーブラシ30である。詳しくは、図3に示すように、ワイヤーブラシ30の結束された基端部30aはスキンプレート14の内周面14aのガードリング15にボルト止め等で固定されるとともに、このスキンプレート14から内方に向かって延びる先端部30bが、覆工体24の外周面24aに摺接するようになっており、これにより、後方からの裏込め材26等の侵入が抑制される。なお、ワイヤーブラシ30の両側にばね板(不図示)を配置すれば、当該ばね板の弾発力によってワイヤーブラシ30の先端部30bが覆工体24の外周面24aに押し付けられて、より密閉性が向上する。
【0026】
このようなテールシール30は、スキンプレート14の内周側において掘削方向に少なくとも2列設けられ、図示例では3列が設けられている。そして、これら3列のテールシール30によってテールクリアランスCtには、前後に隣り合う2つの室SP1,SP2が区画形成されている。以下では、これら室のうち前方の室SP1を第1室とも言い、この第1室SP1よりも後方に位置する室SP2を第2室とも言う。
【0027】
これら2つの室SP1,SP2には、テールクリアランスCtの密閉性を更に高めるべく、それぞれ、ゲル状シール剤の一例としてグリースが充填されている。このグリースは、例えば、松村石油株式会社製テールシーラー#9000(商品名)等であり、このグリースの前記室SP1,SP2への供給は、グリース供給機構によって行われる。グリース供給機構は、不図示のグリース貯留タンク及びグリース供給ポンプを有する。また、スキンプレート14の内周面14aにおいて前記室SP1,SP2と対向する部分には、複数のグリース吐出口40が形成されており、これらのグリース吐出口40は、スキンプレート14に設けられた適宜な管路42によって上記グリース供給ポンプに接続されている。よって、このグリース供給ポンプによってグリース貯留タンク内のグリースが管路42を経てグリース吐出口40へ所定の基準供給圧力にて圧送され、これにより前記室SP1,SP2へとグリースが常時供給される。
【0028】
但し、このようにテールシール30を設置したりグリース充填したりしても、裏込め材26や地下水の侵入を完全に防ぐことは難しく、ある量ある頻度で、前記テールシール30等を越えて地下水や裏込め材26がテールクリアランスCt内を通過してシールド掘進機10内に侵入してしまうことがある。
【0029】
そして、特に裏込め材26が侵入した場合には、当該裏込め材26がテールクリアランスCtにて固化するが、そうすると、この裏込め材26の体積分だけ、テールクリアランスCtの実効隙間が小さくなってしまい、シールド掘進機10の進路変更の際に覆工体24に対してスキンプレート14を傾斜させ難くなり、その結果、トンネルのコース取りに支障を来したり、また、無理に傾斜させると、固化した裏込め材26を介してスキンプレート14と覆工体24とが競って覆工体24が破損する虞もあった。
【0030】
そのため、適宜なタイミングで作業者が、図1に示す前記セグメント環体23の裏込め材注入孔23bからテールクリアランスCt内の前記室SP1,SP2に探査棒を挿入し、その探査棒の感触に基づいてテールクリアランスCt内の裏込め材26の侵入状況を確認しているが、目視もできないために、その確認は困難を極め又確実性に乏しいものであった。
【0031】
そこで、本実施形態のシールド掘進機10では、テールクリアランスCtにおける前記室SP1,SP2に、当該室SP1,SP2への裏込め材26又は地下水の侵入を検知すべく、異物検知センサーの感知部52を配置している。
【0032】
図4A及び図4Bは、この異物検知センサーの概略説明図であり、図4Aは、図3と同矢視の拡大断面図である。また、図4Bは、図4A中のB−B矢視図である。なお、図4A及び図4Bの何れも、グリース吐出口40や管路42を省略して示している。また、図4Bについては、ワイヤーブラシ30も省略して示している。
【0033】
始めに、検知原理について説明する。前述したようにテールクリアランスCtにおける前記室SP1,SP2内には、上記グリースが充填されている。そして、一般にグリースは概ね絶縁体であることからその電気抵抗は非常に高い(例えば、上記の松村石油株式会社製テールシーラー#9000(商品名)の電気抵抗は、テスターにて計測不能の無限大である)。他方、地下水は言うまでも無く、裏込め材26も一般にモルタル等の含水物であるため、これら裏込め材26及び地下水の電気抵抗は、前記グリースと比べて格段に低い。
【0034】
よって、これら裏込め材26又は地下水が上記室SP1,SP2に侵入した場合には、当該室SP1,SP2における電気抵抗が低下することになり、もって、この電気抵抗を常時計測しておけば、この電気抵抗の変化に基づいて、裏込め材26や地下水の侵入を検知できる。
【0035】
そして、このような検知原理に基づけば、異物検知センサーの構成として、以下を例示できる。すなわち、異物検知センサーは、感知部52としてスキンプレート14の内周面14aに固定された正負の一対の電極棒52a,52bと、前記一対の電極棒52a,52bにそれぞれ信号線54a,54bによって接続されるとともに、前記一対の電極棒52a,52b間の電気抵抗を計測しその計測値に応じた大きさの信号を出力するテスター(不図示)と、このテスターから出力される前記信号がリアルタイムで入力されるコンピュータ(不図示)と、を有する。また、コンピュータのメモリには、CPU(判定部に相当)によって読み出し実行される常時監視プログラムが格納されており、当該常時監視プログラムに基づいて、CPUは、前記信号がコンピュータに入力される度に、当該信号の大きさを所定の閾値と比較し、前記信号が前記閾値を下回った際に異常警報を発する処理を行う。そして、これにより、裏込め材26や地下水の侵入が常時監視される。
【0036】
ちなみに、上記異常警報を発する処理に代えて又は同処理に加えて、侵入した裏込め材26又は地下水を前記室SP1,SP2から外に排出する処理や、侵入した裏込め材26の固化を抑制する処理を行うようにしても良い。具体的に言えば、前者の処理としては、例えば、前記グリース供給ポンプの供給圧力を前述の基準供給圧力よりも高めるとともに、前記信号の大きさが前記閾値を上回ったら前記供給圧力を前記基準供給圧力に戻すこと等が挙げられる一方、後者の処理としては、裏込め材26の固化を抑制すべくアルカリ度を低める溶液を、図3の前記管路42を用いて前記室SP1,SP2内に供給するとともに、前記信号の大きさが前記閾値を上回ったら前記溶液の供給を停止すること等が挙げられる。
【0037】
図2に、スキンプレート14の円周方向における感知部52の配置位置を示す。なお、同図2中では、第1室SP1内の感知部52の配置位置を白三角印で示し、第2室SP2内の感知部52の配置位置を黒三角印で示している。
【0038】
図2からわかるように、後方の第2室SP2には、スキンプレート14の円周方向に等間隔を隔てつつ(90°おきに)4つの感知部52が配置されており、第1室SP1には、同じく円周方向に適宜間隔を隔てつつ3つの感知部52が配置されている。なお、ここで、第1室SP1よりも後方に位置する第2室SP2の方が、感知部52の配置数を多くしているのは、テールクリアランスCtの後方から侵入するはずの裏込め材26及び地下水を、より早期に検知可能にするためである。
【0039】
ところで、異物検知センサーの種類は上述の電極棒52a,52bの構成に限るものではなく、例えば、物質のpHを計測可能なpHセンサーを感知部52として用いた構成も例示できる。
【0040】
このpHセンサーによる検知原理は次のとおりである。図4に示すように、テールクリアランスCtにおける前記室SP1,SP2に充填されたグリースたるテールシーラー#9000は、pHが4.2の弱酸性であり、何事も起きなければ基本的には、上述の4.2というグリース固有のpH値(以下、これを基準pH値と言う)がほぼ経時的に維持される。他方、地下水のpHは、その周辺土壌の状態に応じて変化するが、この地下水のpHが、上記基準pH値と異なる場合には、当該地下水の前記室SP1,SP2への侵入によって、前記室SP1,SP2のpHは、前記基準pH値から変化する。また、裏込め材26も一般にモルタルが使用されるため、裏込め材26が前記室SP1,SP2に侵入すると、そのアルカリ性に起因して、前記室SP1,SP2のpHは前記基準pH値から変化する。従って、前記室SP1,SP2のpHを常時計測しておけば、このpHの変化に基づいて、裏込め材26や地下水の侵入を検知することができる。
【0041】
そして、このような検知原理に基づけば、pHセンサーを用いた異物検知センサーの構成としては以下を例示できる。すなわち、異物検知センサーは、感知部52としてのpHセンサーと、このpHセンサーから計測されたpHの計測データがリアルタイムで入力されるコンピュータ(不図示)と、を有する。また、コンピュータのメモリには、CPU(判定部に相当)によって読み出し実行される常時監視プログラムが格納されており、当該常時監視プログラムに基づいて、CPUは、前記計測データがコンピュータに入力される度に、当該計測データのpH値を、前記基準pH値を含む所定の許容範囲と比較し、前記計測データのpH値が前記許容範囲を外れた際に異常警報を発する処理を行う。よって、この異物検知センサーの構成により、裏込め材26や地下水の侵入が常時監視される。
【0042】
ちなみに、望ましくは、予め掘削対象地盤Gの地下水のpHを調べておき、そのpH値とは大幅に異なる固有pH値のグリースを選択して上記のゲル状シール剤として用いると良い。
【0043】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0044】
(a)上述の実施形態においては、裏込め材26としてモルタルを例示し、また、前記室に充填されるゲル状シール剤としては電気抵抗が略無限大のグリースを例示したが、互いに電気抵抗が異なるのであれば、裏込め材26の侵入により前記室SP1,SP2の電気抵抗が変化するため、何等これに限るものではない。
【0045】
例えば、裏込め材26としては、テルナイト社製のものを用いても良い。この裏込め材26は、A液及びB液を混合することによりゲル化を開始し所定期間を経て固化するものであり、A液とB液の容積配合比は0.93:0.07である。例えば、1000mlの裏込め材26を生成する場合には、930mlのA液を生成すべく、水841mlに対して、セメント等からなるBSパック(商品名)230g、ベントナイト等からなるBSサンド(商品名)30g、BS安定剤(商品名)2.8gを混入するとともに、このA液に対して、70mlのB液(急結剤)を混入すれば良い。そして、かかるA液B液混合後の電気抵抗値は、直後が1.4MΩであり、15分後が6.3MΩ、30分後が9.2MΩ、45分後が9.27MΩ、60分後が8.38MΩ、3時間後が2.1MΩ、18時間後が4.8MΩであり、もって、前記グリースと比べて極端に低い値となっている。
【0046】
(b)上述の実施形態においては、前記室に充填するゲル状シール剤としてpHが4.2のグリースを例示し、裏込め材としてモルタルを例示したが、互いにpHが異なるのであれば、何等これに限るものではない。例えば、アルカリ性のグリースを用いても良い。
【0047】
(c)上述の実施形態においては、円筒状のスキンプレート14を例示したが、その形状は何等これに限るものではなく、掘削孔2の形状に応じて適宜変更しても良い。例えば、矩形筒体であっても良いし、めがね形筒体であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施形態のシールド掘進機10の全体構造を示す断面図である。
【図2】図1中のII−II断面図である。
【図3】テールシール30を説明するための拡大断面図である。
【図4】図4Aは、図3と同矢視の拡大断面図であり、図4Bは、図4A中のB−B矢視図である。
【符号の説明】
【0049】
2 掘削孔、2a 内周面、
10 掘進機、12 カッターディスク、
14 スキンプレート、14a 内周面、
15 ガードリング、16 作業空間、18 隔室、
20 シールドジャッキ、
22 セグメント、23 セグメント環体、23b 裏込め材注入孔、
24 覆工体、24a 外周面、
26 裏込め材、
30 ワイヤーブラシ(テールシール)、30a 基端部、30b 先端部、
40 グリース吐出口、42 管路、
52 感知部、52a 電極棒、52b 電極棒、
54a 信号線、54b 信号線、
Ct テールクリアランス、SP1 第1室、SP2 第2室、G 地盤、S 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の胴体の前端部に設けられたカッターディスクにより地盤を掘削して掘削孔を形成しつつ掘削方向に前進するとともに、前記胴体の後部の内方にて複数のセグメントを筒状のセグメント環体に組み立てながら、後方の既構築のセグメント環体に継ぎ足すことにより、前記掘削孔の内周面を筒状に覆う覆工体を連続させて構築し、前記掘削方向への前進に伴って前記胴体から後方に抜け出る前記覆工体の部分と前記掘削孔の内周面との間隙に裏込め材を充填するシールド掘進機であって、
前記胴体の内周面と前記覆工体の外周面との間の環状のテールクリアランス内に前記裏込め材又は地下水が侵入するのを防止するテールシールと、
前記テールクリアランス内への前記裏込め材又は前記地下水の侵入を検知する異物検知センサーと、を備えていることを特徴とするシールド掘進機。
【請求項2】
請求項1に記載のシールド掘進機であって、
前記テールシールは、一端部が前記胴体に固定されつつ、他端部が前記覆工体の外周面に摺接されて設けられていることを特徴とするシールド掘進機。
【請求項3】
請求項2に記載のシールド掘進機であって、
前記テールシールが、少なくとも前記掘削方向の2カ所に設けられているとともに、前記テールクリアランスにおいて、前記掘削方向に互いに隣り合う前記テールシール同士の間に区画形成される室内にはゲル状シール剤が充填されており、
前記異物検知センサーの感知部は、前記室内に配置されていることを特徴とするシールド掘進機。
【請求項4】
請求項3に記載のシールド掘進機であって、
前記ゲル状シール剤の電気抵抗の大きさは、前記裏込め材又は前記地下水の電気抵抗の大きさと相違し、
前記異物検知センサーは、
前記感知部として正負の一対の電極と、
前記一対の電極間の電気抵抗の計測値に基づいて、前記裏込め材又は前記地下水の前記室内への侵入の有無を判定する判定部と、を有することを特徴とするシールド掘進機。
【請求項5】
請求項3に記載のシールド掘進機であって、
前記ゲル状シール剤のpH(水素イオン指数)の大きさは、前記裏込め材又は前記地下水のpHの大きさと相違し、
前記異物検知センサーは、
前記感知部として、前記室内のpHを計測するpHセンサーと、
前記室内のpHの計測値に基づいて、前記室内への異物の侵入の有無を判定する判定部と、を有することを特徴とするシールド掘進機。
【請求項6】
請求項5に記載のシールド掘進機であって、
前記ゲル状シール剤は酸性であり、
前記裏込め材はモルタルであることを特徴とするシールド掘進機。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれかに記載のシールド掘進機であって、
前記ゲル状シール剤を、前記室内へ所定の基準供給圧力で圧送供給するポンプを有し、
前記判定部が、前記室内への前記裏込め材又は前記地下水の侵入が有りと判定した場合には、前記判定部は、前記基準供給圧力よりも高い供給圧力に変更することを特徴とするシールド掘進機。
【請求項8】
請求項3乃至7のいずれかに記載のシールド掘進機であって、
前記ゲル状シール剤は、グリースであることを特徴とするシールド掘進機。
【請求項9】
筒状の胴体の前端部に設けられたカッターディスクにより地盤を掘削して掘削孔を形成しつつ掘削方向に前進するとともに、前記胴体の後部の内方にて複数のセグメントを筒状のセグメント環体に組み立てながら、後方の既構築のセグメント環体に継ぎ足すことにより、前記掘削孔の内周面を筒状に覆う覆工体を連続させて構築し、前記掘削方向への前進に伴って前記胴体から後方に抜け出る前記覆工体の部分と前記掘削孔の内周面との間隙に裏込め材を充填するシールド掘進機を用いたトンネル工法であって、
前記胴体の内周面と前記覆工体の外周面との間の環状のテールクリアランス内に、該テールクリアランスへの前記裏込め材又は地下水の侵入を防ぐテールシールを、前記掘削方向の2カ所に設けるとともに、前記テールシール同士の間に区画形成される室にはゲル状シール剤を充填し、
前記室内への前記裏込め材又は前記地下水の侵入を、前記室内の電気抵抗の変化又はpH(水素イオン指数)の変化に基づいて検知することを特徴とするトンネル工法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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