説明

シールド機、シールド機の発進方法、シールド機の到達方法

【課題】トンネルを掘削する際の線形制御が容易で、かつ、発進時に地山を傷めないシールド機及びその発進方法を提供する。
【解決手段】上段のカッター部2及び下段のカッター部3のカッターヘッド10で法面19を掘削しつつ、地山13内にシールド機1を進入させる。地山13内にシールド機1を進入させるときの土被り厚は、シールド機1の高さHの0.3倍になる。したがって、地山13内へのシールド機1の進入に伴って地山13とシールド機1との間に生じる摩擦力よりも、土被り部分の自重が大きいので、シールド機1の進入方向に伴って土被り部分が引っ張られて盛り上がることは無い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド機、シールド機の発進方法及び到達方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路等をアンダーパスするシールド機に関して、本出願人は、例えば、特許文献1において、互いに独立して前進及び後進可能な複数の主シールドを縦横に所定の配列で組み合わせ、各々の主シールドを独立して掘進させて地山を掘削するシールド機を開示している。このシールド機でトンネルを掘削する際は、まず、複数の主シールドのうちの最上段の外側に位置する主シールドを先に掘進させ、次に、その内側に位置する主シールドを掘進させて最上段の主シールドをすべて突出し、それから、下段の主シールドを掘進させる。
【0003】
また、特許文献2には、カッター部が上段及び下段に分割されたシールド機を、その上段のカッター部を下段のカッター部よりも進行方向に突出させた状態で推進させる方法が開示されている。この方法は、下段のカッター部の上部が地表面よりも上に露出する程度の深さの立坑内にシールド機を傾斜させた状態で設置し、発進とともに、まず、下段のカッター部で立坑の土留め壁を掘削し、その後、上段及び下段のカッター部で地山を掘削しつつ、地山内を掘進する。
【特許文献1】特開2006−46061号公報
【特許文献2】特開2006−207141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されているシールド機では、複数の主シールド毎にジャッキ等の推進装置やスクリューコンベア等の排土装置が設置されているので、シールド機の前部の重量が重くなって、推進時における線形制御が難しい。また、小土被り区間を掘削する際は、土被りが浅いので線形制御に多少のずれが生じるとすぐに地上に影響を与えてしまう。
【0005】
また、特許文献2に記載のシールド機の推進方法では、シールド機の上段のカッター部が地山内に進入する際の土被り厚はほとんど無い。したがって、土被り部分の自重は、シールド機の地山内への進入に伴って地山とシールド機との間に生じる摩擦力よりも小さいので、シールド機の上段のカッター部が地山内に進入する際に、シールド機の進行方向に土被り部分が引っ張られて盛り上がり、地山を傷めてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、トンネルを掘削する際の線形制御が容易で、かつ、発進時や到達時に地山を傷めないシールド機、そのシールド機の発進方法及び到達方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明のシールド機は、地山内を掘進するためのシールド機であって、シールド機の前部に、互いに独立して駆動可能なカッター部が上段及び下段に配置され、これら上段及び下段のカッター部は、上段のカッター部が下段のカッター部よりも進行方向に突出するように配置されていることを特徴とする(第1の発明)。
【0008】
本発明によるシールド機によれば、上段のカッター部は下段のカッター部よりも進行方向に突出するように固定配置されているので、掘削対象断面を上段と下段とに小さく分割して掘削することができる。また、先行する上段のカッター部で土被り部を支持しつつ、下段のカッター部で残りの断面を掘削するので、掘削による土被り部への影響を無くすことができる。したがって、掘削対象の全断面を同時に掘削する全断面掘削に比べて、小土被りの地盤を掘削する場合であっても、地盤変状が発生するような虞は無い。この結果、小土被りの部分に地盤改良等の地盤変状の対策工を実施する必要は無く、工期を短縮することができるとともに、工事費を削減することができる。
【0009】
さらに、上段のカッター部及び下段のカッター部は固定されているので、これらのカッター部を単独で前進又は後進させるための駆動装置等が不要である。そして、カッターを回転させるための駆動装置等の簡単な機構のみを備えているので、シールド機の前部の重量を従来のシールド機よりも低減することができる。したがって、推進時における線形制御が容易となり、正確にトンネルを掘削することができる。また、シールド機本体内の装置類が少なくてすむので、シールド機本体の設備投資費を低減することができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記上段のカッター部及び前記下段のカッター部は、それぞれ複数のカッターを備えていることを特徴とする。
本発明によるシールド機によれば、各カッター部はそれぞれ複数のカッターを備えているので、これらのカッターの組み合わせにより、様々な掘削断面形状及び大きさのトンネルに対応することができる。
【0011】
第3の発明のシールド機の発進方法は、シールド機の前部に、互いに独立して駆動可能なカッター部が上段及び下段に配置され、これら上段及び下段のカッター部は、上段のカッター部が下段のカッター部よりも進行方向に突出するように固定配置されたシールド機を進行方向に法面が形成されている穴内に設置し、前記シールド機をその法面に向かって推進させて、その法面を掘削しつつ地山内に進入させることを特徴とする。
【0012】
本発明によるシールド機の発進方法によれば、進行方向に、地山からなる法面が形成された穴内から発進させ、その法面を掘削しつつ地山内に進入させるので、従来のようにコンクリート等で構築された土留め壁を掘削する場合よりも短時間で地山内に進入することができる。
【0013】
また、シールド機の上段のカッター部は下段のカッター部よりも進行方向に突出するように固定配置されているので、法面を上段と下段とに小さく分割して掘削することができる。そして、上段のカッター部で土被り部を支持しつつ、下段のカッター部で残りの断面を掘削するので、掘削による土被り部への影響を無くすことができる。したがって、土被り部分の地盤変状が発生するような虞は無い。
【0014】
さらに、穴の中でシールド機を組み立てることにより、穴の側面が防音壁代わりとなり、シールド機を組み立てる際に生じる騒音を低減することができる。
【0015】
第4の発明は、第3の発明において、前記シールド機が前記法面を掘削して地山内に進入する際の土被り厚は、前記シールド機の高さの0.3倍以上であることを特徴とする。
【0016】
本発明によるシールド機の発進方法によれば、シールド機が地山内に進入するときの土被り厚をシールド機の高さの0.3倍以上にするので、地山内へのシールド機の進入に伴って地山とシールド機との間に生じる摩擦力よりも、土被り部分の自重が大きくなる。したがって、土被り部分がシールド機の進入方向に引っ張られて盛り上がることは無い。
【0017】
第5の発明のシールド機の到達方法は、シールド機の前部に、互いに独立して駆動可能なカッター部が上段及び下段に配置され、これら上段及び下段のカッター部は、上段のカッター部が下段のカッター部よりも進行方向に突出するように固定配置されたシールド機を、地山内から法面が形成されている穴内に到達させる際に、前記シールド機をその法面に向かって推進させて、その法面を掘削しつつ前記穴内に到達させることを特徴とする。
【0018】
本発明によるシールド機の到達方法によれば、シールド機を地山からなる法面が形成された穴に地山内から到達させる際に、その法面を掘削しつつ穴内に進入させるので、従来のようにコンクリート等で構築された土留め壁を掘削する場合よりも短時間で穴内に進入することができる。
【0019】
また、シールド機の上段のカッター部は下段のカッター部よりも進行方向に突出するように固定配置されているので、法面を上段と下段とに小さく分割して掘削することができる。そして、上段のカッター部で土被り部を支持しつつ、下段のカッター部で残りの断面を掘削するので、掘削による土被り部への影響を無くすことができる。したがって、土被り部分の地盤変状が発生するような虞は無い。
【0020】
さらに、穴内に到達後、穴の中でシールド機を分解することにより、穴の側面が防音壁代わりとなり、シールド機を分解する際に生じる騒音を低減することができる。
【0021】
第6の発明は、第5の発明において、前記シールド機が前記法面を掘削して前記穴内に到達する際の土被り厚は、前記シールド機の高さの0.3倍以上であることを特徴とする。
【0022】
本発明によるシールド機の到達方法によれば、シールド機が地山から穴内に到達するときの土被り厚をシールド機の高さの0.3倍以上にするので、穴内へのシールド機の到達に伴って地山とシールド機との間に生じる摩擦力よりも、土被り部分の自重が大きくなる。したがって、土被り部分がシールド機の推進方向に引っ張られて盛り上がることは無い。
【発明の効果】
【0023】
本発明のシールド機、シールド機の発進方法及び到達方法によれば、トンネルを掘削する際の線形制御が容易となり、かつ、発進時や到達時に地山を傷めることが無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1及び図2は、それぞれ本発明の実施形態に係るシールド機1の正面図及び側断面図である。
【0025】
図1及び図2に示すように、シールド機1は、互いに独立して駆動可能なカッター部2、3をそれぞれ上段及び下段に備えたフード部4と、シールド機1本体を推進させるためのシールドジャッキ5等を備えたガーダ部6と、セグメント7を組み立てるエレクタ8等を備えたテール部9とから構成されている。
【0026】
上段のカッター部2及び下段のカッター部3は、シールド機1本体の前面に設けられ、地山13を掘削するためのカッターヘッド10と、カッターヘッド10を回転させるための駆動源11とを備えており、各カッター部2、3は、それぞれ独立して駆動可能である。
【0027】
上段のカッター部2は、シールド機1本体内に、下段のカッター部3よりも進行方向に所定の長さだけ突出するように配置されている。なお、突出する長さは、地質条件等により異なる値であって、設計等により現場毎に適宜決定される。
【0028】
各カッター部2、3は、それぞれ複数のカッターヘッド10を備えており、本実施形態においては、それぞれ3台ずつ設けた。なお、掘削対象断面の形状、大きさ等に応じて適宜のカッターヘッド10の数を変更する。
【0029】
ガーダ部6には、シールド機1本体を推進させるためのシールドジャッキ5や各カッター部2、3で掘削した土砂を排出するためのスクリューコンベア12等が設置されている。
【0030】
テール部9には、エレクタ8等が設置されている。このエレクタ8により、掘削したトンネル22の内面に順次セグメント7が組み立てられ、内壁が構築される。
【0031】
次に、上述したシールド機1でトンネル22を掘削する際の地山13の沈下量について有限要素法を用いて検討した結果を説明する。
【0032】
図3は、掘削対象の地山13の二次元用解析モデルを示す図である。
図3に示すように、掘削対象の地山13は、地表から深部に向かって、アスファルト層14と、砂質土層16と、砂礫層17とからなる地層構造とした。各層の地質条件を以下に示す。
【0033】
アスファルト層14の厚さ、ヤング率、ポアソン比、単位体積重量、静止土圧係数は、それぞれ0.75m、600MPa、0.25、14.7kN/m、0.5とした。
【0034】
砂質土層16の厚さ、N値、ヤング率、ポアソン比、単位体積重量、静止土圧係数、粘着力、内部摩擦角は、それぞれ6.00m、10、60MPa、0.3、18.6kN/m、0.5、10kPa、30°とした。
【0035】
砂礫層17の厚さ、N値、ヤング率、ポアソン比、単位体積重量、静止土圧係数、粘着力、内部摩擦角は、それぞれ10.70m、50、60MPa、0.3、19.6kN/m、0.5、10kPa、40°とした。
【0036】
まず、高さが8.25mのシールド機A〜D(後述する)で地山13の深さ3.0mから11.25mまでの砂質土層16を掘削した場合、つまり、土被り厚がシールド機A〜Dの高さの概ね0.3(=3.0m/8.25m)倍の場合における沈下量について二次元の有限要素法にて解析した。解析は、3通りの異なる掘削方法で掘削した場合についてそれぞれ行った。
【0037】
図4〜図6は、解析ケース(a)〜(c)における地山13の掘削方法をそれぞれ示す図である。
【0038】
解析ケース(a)においては、図4に示すように、掘削対象の全断面を同時に掘削する全断面掘削による場合とした。具体的には、高さ、幅が、それぞれ、8.25m、10.5mのシールド機Aを用い、全断面掘削を行った場合について解析を行った。
【0039】
解析ケース(b)においては、図5に示すように、上述した構成のシールド機1の上段のカッター部2を下段のカッター部3よりも進行方向に1.0m突出させた状態で掘削する上下段差掘削による場合とした。具体的には、高さ、幅はシールド機Aと同一にし、上段のカッター部2及び下段のカッター部3の高さが、それぞれ3.3m、4.95mで、その上段のカッター部2の先端と下段のカッター部3の先端との差が1.0mのシールド機Bを用い、上下段差掘削を行った場合について解析を行った。
【0040】
解析ケース(c)においては、図6に示すように、上述した構成のシールド機1の上段のカッター部2を下段のカッター部3よりも進行方向に0.5m突出させた状態で掘削する上下段差掘削による場合とした。具体的には、高さ、幅はシールド機Aと同一で、かつ、上段のカッター部2及び下段のカッター部3の高さはシールド機Bと同一で、その上段のカッター部2の先端と下段のカッター部3の先端との差が0.5mのシールド機Cを用い、上下段差掘削を行った場合について解析を行った。
【0041】
次に、解析ケース(a)〜(c)による地山13の沈下量の解析結果を示す。
図7は、解析ケース(a)の全断面掘削による沈下量の解析結果を示す図である。
【0042】
図7に示すように、全断面を同時に掘削した場合の最大沈下量は2.78mmであった。
図8は、解析ケース(b)の上段のカッター部2の先行量を1.0mとする上下段差掘削による沈下量の解析結果を示す図である。
図8に示すように、上段のカッター部2の先行量を1.0mにして上下段差を設けて掘削した場合の最大沈下量は1.42mmであった。
また、図示はしないが、解析ケース(c)の上段のカッター部2の先行量を0.5mにした場合の上下段差掘削による最大沈下量は2.34mmであった。
【0043】
上述した二次元の有限要素法による解析結果より、上下段差を設けて掘削した場合は、全断面を同時に掘削した場合よりも沈下量が少なくなることがわかる。また、上段のカッター部2の先行量が0.5mの場合よりも1.0mの場合に沈下量が少なくなることがわかる。
【0044】
次に、上記と同様に、地山13の深さ3.0mから11.25mまでを掘削した場合におけるこれら両層の沈下量について三次元の有限要素法にて解析した。解析は、2通りの異なる掘削方法で掘削した場合についてそれぞれ行った。
【0045】
図9は、地山13の三次元用解析モデルを示す図である。図9に示すように、地山13の地層構造は二次元用解析モデルの地層構造及び地質条件と同一にした。
【0046】
図10及び図11は、それぞれ解析ケース(d)及び(e)における地山13の掘削方法を示す図である。
解析ケース(d)においては、図10に示すように、上記シールド機Aを用いた全断面掘削による場合とした。
解析ケース(e)においては、図11に示すように、上記シールド機Bを用いた上下段差掘削による場合とした。上下段差掘削については、上述した二次元の有限要素法による解析結果から、上段のカッター部2を下段のカッター部3よりも1.0m先行させた場合についてのみ解析した。
【0047】
次に、解析ケース(d)及び(e)による地山13の沈下量の解析結果を示す。
図12は、解析ケース(d)の全断面掘削による沈下量の解析結果を示し、掘削断面の片側側方を拡大した断面図である。
図12に示すように、全断面を同時に掘削した場合の沈下は、切羽側方に広い範囲にわたって生じた。具体的に、最大沈下量は1.64mmであった。
【0048】
図13は、解析ケース(e)の上下段差掘削による沈下量の解析結果を示し、掘削断面の片側側方を拡大した断面図である。
図13に示すように、上下段差を設けて掘削した場合の沈下は、切羽側方の狭い範囲にのみ生じた。具体的に、最大沈下量は0.56mmであった。
【0049】
上述した三次元の有限要素法による解析結果より、沈下量は、上下段差を設けて掘削した場合が全断面掘削した場合よりも少なくなることがわかる。
また、上下段差掘削する場合は、土被り厚がシールド機A〜Dの高さの概ね0.3倍という土被り厚の条件が厳しい場合であっても土被り部分の沈下を抑制できるので、土被り厚がシールド機A〜Dの高さの0.3倍以上あれば充分に土被り部分の沈下を抑制できることがわかる。
【0050】
なお、本実施形態においては、地山13の地層構造が、アスファルト層14と砂質土層16と砂礫層17とからなる場合について検討したが、現場の地層構造が異なる場合には、それぞれの現場に応じた検討が適宜必要である。
【0051】
次に、シールド機1の発進方法及び到達方法について以下で説明する。
図14及び図15は、それぞれシールド機1を発進及び到達させるための穴18の平面図及び側断面図である。
【0052】
図14及び図15に示すように、地山13にシールド機1を発進及び到達させるための穴18をそれぞれ発進地点及び到達地点に掘削する。この穴18は、シールド機1の高さHの1.3倍の深さで、外周全体に法面19が形成されている。なお、本実施形態においては、穴18の外周全体に法面19を形成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、シールド機1の進行方向のみに法面19が形成され、他の側面には土留め壁が形成されていてもよい。
【0053】
まず、シールド機1の発進方法について説明し、次に、到達方法について説明する。なお、以下の説明では、それぞれ発進時、到達時に利用する穴18をそれぞれ発進穴18a、到達穴18bという。
【0054】
図16は、発進穴18a内に架台20及び反力壁21を設置した状態を示す側断面図である。
図16に示すように、発進穴18aの底盤に掘削予定のトンネル22の傾斜角度に沿った架台20と、シールド機1の発進の際に反力を得るための反力壁21とを構築する。
【0055】
図17は、シールド機1を発進穴18a内の架台20上に設置した状態を示す側断面図である。
図17に示すように、シールド機1を架台20上に設置する。また、このシールド機1の後端と反力壁21との間にセグメント7を設置する。
【0056】
図18及び図19は、シールド機1の発進方法を示す図である。
図18に示すように、上段のカッター部2及び下段のカッター部3のカッターヘッド10を回転駆動させるとともに、シールドジャッキ5を伸張させることによりシールド機1本体を推進させる。そして、進行方向に位置する法面19を上段のカッター部2及び下段のカッター部3のカッターヘッド10で掘削しつつ、地山13内にシールド機1を進入させる。
【0057】
法面19を掘削しつつ、地山13内にシールド機1を進入させるときの土被り厚は、シールド機1の高さHの0.3倍になる。したがって、地山13内へのシールド機1の進入に伴って地山13とシールド機1との間に生じる摩擦力よりも、土被り部分の自重が大きいので、シールド機1の進入方向に土被り部分が引っ張られて盛り上がることは無い。
シールド機1が地山13内に進入する際に、シールド機1と地山13との間に滑剤等を注入して、シールド機1と地山13との摩擦力を低下させてもよい。
そして、シールド機1を所定の距離だけ掘進させたら、上段のカッター部2及び下段のカッター部3のカッターヘッド10の回転を停止し、掘削を一旦停止する。
【0058】
次に、図19に示すように、シールドジャッキ5を収縮させて、テール部9とセグメント7との間に生じた空間に新たなセグメント7を構築する。
【0059】
そして、上述したように、上段のカッター部2及び下段のカッター部3のカッターヘッド10を回転駆動させ、シールドジャッキ5を伸張させることにより所定の距離だけ掘進してから、シールドジャッキ5を収縮してセグメント7を構築するまでの一連の作業を1サイクルとし、このサイクルを複数回繰り返すことにより、発進穴18a内から発進しつつ、地山13内にシールド機1全体を進入させる。
【0060】
次に、シールド機1の到達方法について説明する。
図20は、到達穴18b内に架台20を設置した状態を示す側断面図である。
図20に示すように、到達穴18bの底盤に掘削予定のトンネル22の傾斜角度に沿った架台20を構築する。
【0061】
図21は、シールド機1の到達方法を示す図である。図21に示すように、上段のカッター部2及び下段のカッター部3のカッターヘッド10を回転駆動させるとともに、シールドジャッキ5を伸張させることによりシールド機1本体を推進させて、進行方向に位置する法面19を上段のカッター部2及び下段のカッター部3のカッターヘッド10で掘削しつつ、到達穴18b内にシールド機1を進入させる。
【0062】
法面19を掘削しつつ、到達穴18b内にシールド機1を進入させるときの土被り厚は、架台20に沿って到達穴18b内に進入させるので、シールド機1の高さHの0.3倍になる。したがって、到達穴18b内へのシールド機1の進入に伴って地山13とシールド機1との間に生じる摩擦力よりも、土被り部分の自重が大きいので、シールド機1の進行方向に土被り部分が引っ張られて盛り上がることは無い。
シールド機1が到達穴18b内に進入する際に、シールド機1と地山13との間に滑剤等を注入して、シールド機1と地山13との摩擦力を低下させてもよい。
【0063】
図22は、シールド機1が到達穴18b内の架台20上に到達した状態を示す側断面図である。
図22に示すように、上段のカッター部2及び下段のカッター部3が法面19を通過したら、両カッター部2、3のカッターヘッド10の回転を停止し、シールド機1を、シールド機1の解体等の作業が容易となる到達穴18bの中央付近まで推進させる。
【0064】
なお、本実施形態においては、発進穴18aから地山13に進入する際及び地山13内から到達穴18bに進入する際の土被り厚が共にシールド機1の高さHの0.3倍となるように発進穴18a及び到達穴18bの深さをシールド機1の高さHの1.3倍とした場合について説明したが、この値に限定されるものでは無く、土被り厚がシールド機1の高さHの0.3倍よりも大きくなるように発進穴18a及び到達穴18bの深さを深くしてもよい。しかし、発進穴18a及び到達穴18bの深さがシールド機1の高さHの1.7倍よりも深くなると、発進穴18a及び到達穴18bの掘削が大掛かりとなり、一般的な立坑を構築する場合と同様の工期及び費用がかかるので、発進穴18a及び到達穴18bの深さはシールド機1の高さHの1.7倍以下が好ましい。つまり、土被り厚は0.7倍以下の場合が好ましい。
【0065】
上述した本実施形態におけるシールド機1によれば、上段のカッター部2は下段のカッター部3よりも進行方向に突出するように配置されており、常に上段のカッター部2が下段のカッター部3よりも先行して地山13を掘削するので、掘削対象断面を小さく分割して掘削することができる。また、先行する上段のカッター部2で土被り部を支持しつつ、下段のカッター部3で残りの断面を掘削するので、掘削による土被り部への影響を無くすことができる。したがって、全断面掘削に比べて、小土被りの地盤を掘削する場合であっても、地盤変状が発生するような虞は無い。この結果、小土被りの部分に地盤改良等の地盤変状の対策工を実施する必要は無く、工期を短縮することができるとともに、工事費を削減することができる。
【0066】
また、上段のカッター部2及び下段のカッター部3は、カッターを回転させるための駆動装置等の簡単な装置しか備えていないので、シールド機1の前部の重量を、進行方向に単独で前進又は後進するような機構を備えた従来のシールド機よりも低減することができる。したがって、推進時における線形制御が容易となり、正確にトンネル22を掘削することができる。また、シールド機1本体内の装置類が少なくてすむので、シールド機1本体の設備投資費を低減することができる。
【0067】
さらに、各カッター部2、3はそれぞれ複数のカッターヘッド10を備えているので、これらのカッターヘッド10の組み合わせにより、様々な掘削断面形状及び大きさのトンネル22に対応することができる。
【0068】
また、シールド機1は、進行方向に地山13による法面19が形成された発進穴18a内から発進し、その法面19を掘削しつつ地山13内に進入するので、従来のようにコンクリート等で構築された土留め壁を掘削する場合よりも短時間で地山13内に進入することができる。そして、到達穴18bへの到達時も発進時と同様に、地山13からなる法面19を掘削しつつ到達穴18b内に進入するので、土留め壁を掘削する場合よりも短時間で進入することができる。
【0069】
また、シールド機1が発進穴18aから地山13内に進入する際及び地山13内から到達穴18b内に浸入する際の土被り厚をシールド機1の高さHの0.3倍以上にするので、地山13とシールド機1との間に生じる摩擦力よりも、土被り部分の自重が大きくなる。したがって、土被り部分がシールド機1の進行方向に引っ張られて盛り上がることは無い。
【0070】
また、発進穴18a及び到達穴18bの中でそれぞれシールド機1を組み立てたり、分解することにより、発進穴18a及び到達穴18bの側面が防音壁がわりとなり、シールド機1の組み立てや分解に伴い生じる騒音を低減することができる。したがって、周辺の生活環境に与える影響を少なくすることができる。
【0071】
なお、本実施形態において、シールド機1を傾斜させた状態で発進させたり、到達させる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、水平に発進又は到達させてもよく、この場合においても、シールド機1が法面19を掘削して地山13内に進入するとき又は到達穴18bに進入するときの土被り部分は、少なくともシールド機1の高さHの0.3倍の厚さを有するので、土被り部分がシールド機1の進行方向に引っ張られない。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施形態に係るシールド機の正面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るシールド機の側断面図である。
【図3】掘削対象の地山の二次元用解析モデルを示す図である。
【図4】解析ケース(a)における地山の掘削方法を示す図である。
【図5】解析ケース(b)における地山の掘削方法を示す図である。
【図6】解析ケース(c)における地山の掘削方法を示す図である。
【図7】解析ケース(a)の全断面掘削による沈下量の解析結果を示す図である。
【図8】解析ケース(b)の上段のカッター部の先行量を1.0mとする上下段差掘削による沈下量の解析結果を示す図である。
【図9】地山の三次元用解析モデルを示す図である。
【図10】解析ケース(d)における地山の掘削方法を示す図である。
【図11】解析ケース(e)における地山の掘削方法を示す図である。
【図12】解析ケース(d)の全断面掘削による沈下量の解析結果を示し、掘削断面の片側側方を拡大した断面図である。
【図13】解析ケース(e)の上下段差掘削による沈下量の解析結果を示し、掘削断面の片側側方を拡大した断面図である。
【図14】シールド機を発進及び到達させるための穴の平面図である。
【図15】シールド機を発進及び到達させるための穴の側断面図である。
【図16】発進穴内に架台及び反力壁を設置した状態を示す側断面図である。
【図17】シールド機を発進穴内の架台上に設置した状態を示す側断面図である。
【図18】シールド機の発進方法を示す図である。
【図19】シールド機の発進方法を示す図である。
【図20】到達穴内に架台を設置した状態を示す側断面図である。
【図21】シールド機の到達方法を示す図である。
【図22】シールド機が到達穴内の架台上に到達した状態を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 シールド機 2 上段のカッター部
3 下段のカッター部 4 フード部
5 シールドジャッキ 6 ガーダ部
7 セグメント 8 エレクタ
9 テール部 10 カッターヘッド
11 駆動源 12 スクリューコンベア
13 地山 14 アスファルト層
16 砂質土層 17 砂礫層
18a 発進穴 18b 到達穴
19 法面 20 架台
21 反力壁 22 トンネル
A 解析モデルのシールド機
B 解析モデルのシールド機
C 解析モデルのシールド機
D 解析モデルのシールド機
H シールド機の高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山内を掘進するためのシールド機であって、
シールド機の前部に、互いに独立して駆動可能なカッター部が上段及び下段に配置され、これら上段及び下段のカッター部は、上段のカッター部が下段のカッター部よりも進行方向に突出するように固定配置されていることを特徴とするシールド機。
【請求項2】
前記上段のカッター部及び前記下段のカッター部は、それぞれ複数のカッターを備えていることを特徴とする請求項1に記載のシールド機。
【請求項3】
シールド機の前部に、互いに独立して駆動可能なカッター部が上段及び下段に配置され、これら上段及び下段のカッター部は、上段のカッター部が下段のカッター部よりも進行方向に突出するように固定配置されたシールド機を進行方向に法面が形成されている穴内に設置し、
前記シールド機をその法面に向かって推進させて、その法面を掘削しつつ地山内に進入させることを特徴とするシールド機の発進方法。
【請求項4】
前記シールド機が前記法面を掘削して地山内に進入する際の土被り厚は、前記シールド機の高さの0.3倍以上であることを特徴とする請求項3に記載のシールド機の発進方法。
【請求項5】
シールド機の前部に、互いに独立して駆動可能なカッター部が上段及び下段に配置され、これら上段及び下段のカッター部は、上段のカッター部が下段のカッター部よりも進行方向に突出するように固定配置されたシールド機を、地山内から法面が形成されている穴内に到達させる際に、前記シールド機をその法面に向かって推進させて、その法面を掘削しつつ前記穴内に到達させることを特徴とするシールド機の到達方法。
【請求項6】
前記シールド機が前記法面を掘削して前記穴内に到達する際の土被り厚は、前記シールド機の高さの0.3倍以上であることを特徴とする請求項5に記載のシールド機の到達方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図7】
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【図8】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−243221(P2009−243221A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93221(P2008−93221)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】