説明

シールド機および矩形断面トンネルの構築方法

【課題】 前方の地山を一対のカッタのみによって略矩形断面トンネルの掘削が可能であり、シールド機のローリング等が防止可能なシールド機およびこれを用いた矩形断面トンネルの構築方法を提供する。
【解決手段】 シールド機1の略中央でシールド機1の掘削範囲は2分される。2分されたそれぞれの掘削範囲(シールド機1の左右半分の範囲)には、それぞれ掘削部が設けられる。一方の側の掘削範囲には、当該掘削範囲の略中央を回転体回転軸33aとする回転体21aが設けられる。回転体21aにはフレーム25aが接合される。フレーム25aは回転体21aの径方向に向けて延伸されており、端部にはカッタ29aが設けられる。他方の側の掘削範囲にも、同様の掘削部が設けられる。すなわち、一対の掘削部が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、略矩形断面形状であって、上下面の略中央位置に内方へ向かうくびれ部を有するトンネルを掘削可能なシールド機およびこれを用いた矩形断面トンネルの構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の掘削機の多くは、掘削方向に対面する略円形のカッタの回転により掘削機前方の地山を掘削するものであり、この場合、トンネルは円形断面形状となる。これに対し、複数のカッタを用いて、矩形断面トンネルが掘削可能な掘削機が開発されている。
【0003】
このような矩形形状等断面形状を有するトンネルを掘削可能なシールド機としては、例えば、シールド機本体前面にメインカッタを設け、メインカッタと一体に回転する回転体の径方向に変位可能な遊星カッタを備え、遊星カッタの公転軌道を制御部により制御し、メインカッタで掘削不可能な部位を遊星カッタの動作によって掘削する自由断面シールド機がある(特許文献1)。
【0004】
また、シールド機の前面にセンターカッタが設けられ、センターカッタの回転体から外れた位置に回動部材およびこれに設けられた遊星カッタを有し、遊星カッタの軌道を規制するガイド部材が設けられる自由断面シールド機がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−140585号公報
【特許文献2】特開平2−311692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、特許文献2に記載されたシールド機は、前方の地山を掘削するメインのカッタをシールド機の前面に設ける必要がある。例えば矩形形状の断面を掘削する場合には、メインのカッタによって円形に掘削されたトンネルの4隅の掘削を補助的に設けられた遊星カッタにより行うものである。このため、メインカッタに加え遊星カッタが必要となり、複数の形状のカッタを必要とする。
【0007】
また、特許文献1、特許文献2いずれのシールド機も、矩形形状の4隅を遊星カッタで掘削するものであり、矩形形状の水平方向略中央の一部にくびれ部を有するような形状想定されていない。この場合、特許文献1、2のシールド機では、メインカッタのサイズダウンを行う必要があることから、遊星カッタによる掘削量を増やす必要がある。このため、遊星カッタを大型化する必要がある装置が大型化するという問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、前方の地山を一対のカッタのみによって略矩形断面トンネルの掘削が可能であり、シールド機のローリング等が防止可能なシールド機およびこれを用いた矩形断面トンネルの構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するための第1の発明は、地山を掘進するシールド機であって、略矩形断面形状のシールド機本体と、前記シールド機本体を推進するジャッキと、前記シールド機本体前方が2分され、それぞれの掘削範囲に設けられる一対の掘削部と、を有し、一対の前記掘削部は、前記掘削範囲の略中心をそれぞれ回転軸とする回転体と、前記回転体の前面に、前記回転体の回転軸に対して略垂直な方向に設けられ、一方の端部が前記回転体の回転軸から偏心した位置に回転可能に配置されたフレームと、前記フレームの他方の端部に設けられ、複数の刃を有する回転カッタと、をそれぞれ具備し、前記回転カッタのみで前記シールド機本体前面を掘削可能であることを特徴とするシールド機である。
【0010】
2分された前記掘削範囲それぞれの下方には、前記フレームよりも幅が広く、掘削土砂を排出する孔に通じる開口部が設けられることが望ましい。
【0011】
前記回転カッタは、前記回転カッタの回転軸と略垂直な面であるシールド機進行方向前面を掘削する前方掘削部と、前記前方掘削部の周囲に設けられ、前記シールド機進行方向前面とは略垂直な面を掘削する側方掘削部と、を有し、前記前方掘削部により掘削される前記シールド機進行方向と、前記側方掘削部に設けられる刃の配置方向が所定の角度を有することが望ましい。
【0012】
第1の発明のシールド機によれば、掘削部が、回転体とこれに設けられるフレームとフレームに設けられる回転カッタにより構成され、シールド機前面が2分され、2分されたそれぞれの掘削範囲を掘削可能な一対の掘削部が設けられるため、回転カッタが掘削面全域に対して移動可能であり、一対のカッタのみによってシールド機前方の地山を略矩形断面形状に掘削することができる。
【0013】
また、2分される掘削範囲それぞれの下方に掘削土砂を排出するためのスクリューコンベアへつながる孔が設けられ、孔の前方にはフレーム幅よりも広い開口部がそれぞれ設けられれば、カッタの移動位置によって、フレーム及びカッタで孔を塞ぐことがない。したがって、カッタ位置によらず、確実に掘削土砂を排出することが可能である。
【0014】
また、回転カッタが、シールド機の前方を掘削する前方掘削部と、シールド機前面と略垂直な面方向を掘削する側方掘削部とが設けられれば、回転カッタが取り付けられるシールド機の進行方向と、進行方向に略垂直な方向の両方向を掘削することができる。
【0015】
第2の発明は、第1の発明にかかるシールド機を用い、略矩形断面トンネルの構築方法であって、シールド機前方から見て、前記回転体の回転軸を中心とした前記回転カッタの回転移動方向が、前記回転カッタの回転方向と逆回転であることを特徴とする略矩形断面トンネルの構築方法である。
【0016】
一対の前記回転体のそれぞれの回転方向が互いに逆回転であり、かつ一対の前記回転カッタのそれぞれの回転方向が互いに逆回転であってもよい。
【0017】
一対の前記回転カッタに設けられる前記複数の刃は、全て同じ周方向に向けられており、前記回転カッタは1方向にのみ回転してもよい。
【0018】
掘削範囲の一部は、前記回転カッタが前記シールド機本体の外周から所定量はみ出す範囲まで掘削を行わせるとともに、他の一部は前記回転カッタが前記シールド機本体の外周から所定量内側までのみの掘削を行わせてもよい。
【0019】
ここで、はみ出す範囲まで掘削するとは、シールド機の前方から見た投影外形に対して、カッタの一部が外周よりはみ出して掘削する場合をいう(以下、はみ出し掘削という)。また、外周から所定量内側までのみを掘削するとは、カッタがシールド機の外周よりも内側までのみを掘削する場合(すなわち、カッタがシールド機の投影外形内に隠れる)をいう(以下、マイナス側掘削という)。
【0020】
第2の発明によれば、略矩形断面トンネルを掘削可能であり、また、シールド機前方から見て、回転体の回転軸を中心としたシールド機の掘進方向に略垂直な方向への回転カッタの移動方向が、当該回転カッタの回転方向とは逆向きであるため、それぞれの回転カッタの移動によるシールド機の回転を回転カッタの回転によって打ち消すため、シールド機のローリングを防止できる。
【0021】
また、一対の掘削範囲において、シールド機前方から見て、回転体の回転軸を中心としたシールド機の掘進方向に略垂直な方向への回転カッタの移動方向が、互いに逆回転であれば、回転カッタの移動によるシールド機の回転が互いに打ち消される。このため、シールド機のローリングを防止できる。さらに一対の回転カッタのそれぞれの回転方向が互いに逆回転であれば、さらに効果的にシールド機のローリングを防止することができる。
【0022】
また、カッタの掘削範囲をはみ出し掘削、マイナス側掘削と変化させることができるため容易にシールド機の姿勢や進行方向を制御することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、前方の地山を一対のカッタのみによって略矩形断面トンネルの掘削が可能であり、シールド機のローリング等が防止可能なシールド機およびこれを用いた矩形断面トンネルの構築方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】シールド機1を示す側方断面図。
【図2】シールド機1の正面図。
【図3】シールド機1における、回転体21、フレーム25、カッタ29の動作を示す図。
【図4】カッタ29の移動方向と回転方向を示す図。
【図5】カッタ29による掘削範囲を示す図。
【図6】カッタ29を示す図で、(a)は正面図、(b)は(a)のH方向矢視図。
【図7】スポーク43の側面を示す図で、刃39の配置角度を示す図。
【図8】シールド機1の外周に対して、(a)はカッタ9がはみ出した範囲まで掘削する状態を示す図、(b)はカッタ9がマイナス側まで掘削した状態を示す図。
【図9】シールド機1がローリングした状態において、シールド機1の前方の掘削範囲の制御方法を示す図。
【図10】シールド機1の進路を変更する場合において、シールド機1の前方の掘削範囲の制御方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1および図2は、本発明にかかるシールド機1を示す図である。なお、図1は図2においてカッタ29a近傍での側方断面図である。図1に示すように、シールド機1は、主に、スキンプレート3、隔壁5、スクリューコンベア15等から構成されるシールド機本体と、シールドを推進させるためのシールドジャッキである油圧ジャッキ7と、シールド前方の地山を掘削するカッタ29a、フレーム25a、回転体21a等からなる掘削部などから構成される。
【0026】
シールド機1は、略矩形断面形状の筒状のスキンプレート3を有し、スキンプレート3の後方には、筒状のテールプレート9が接続される。スキンプレート3の内部には、油圧ジャッキ7が設けられる。テールプレート9内には、図示を省略したセグメント組み立て装置によって組み立てられたセグメント11が設置される。セグメント11とテールプレート9との間はテールシール13によってシールされる。
【0027】
油圧ジャッキ7は、軸方向に往復動作可能である。シールド機1は、油圧ジャッキ7によってセグメント11を押圧し、セグメント11からの反力にて前方に推進する。
【0028】
スキンプレート3の前方には隔壁5が設けられる。隔壁5は、油圧ジャッキ7等が設けられる側と、後述するカッタ29a等が設けられる側(チャンバ19側)とを区画する。隔壁5の下方には、開口部17a、17b(図2)が設けられる。開口部17a、17bは、それぞれ後方のスクリューコンベア15a、15bと連通する。すなわち、隔壁5の前方に向かって開口する開口部17a、17bは後方にスクリューコンベア15a、15bに連通する孔が設けられる。掘削部によって掘削されたチャンバ19内の掘削土砂は、所定の圧力を保持しつつ開口部17a、17b内に取り込まれ、スクリューコンベア15a、15bによって後方に排出される。
【0029】
隔壁5には、回転体21a、21b(図2)が設けられる。回転体21a、21bは、回転体回転軸33a、33bを中心にモータ23によって回転可能である。
【0030】
回転体21aの前面には、フレーム25aが設けられる。フレーム25aは、回転体21aの回転体回転軸33aに対して略垂直な方向にアーム状に設けられる。回転体21aにはフレーム25aを回転させるためのフレームモータ27aが設けられ、フレーム25aは、フレーム回転軸35aを中心に回転可能である。なお、フレーム回転軸35aは回転体回転軸33aに対し偏心している(すなわちずれた位置に位置する)。すなわち、フレーム25aの一方の端部が、フレーム回転軸35aを中心に回転可能なように回転体21aに接合され、フレーム25aは、回転体21aに対して異なる回転軸で回転動作が可能である。
【0031】
フレーム25aの、回転体21aとの接合部とは反対側の端部近傍に、複数の刃を有するカッタ29aが設けられる。カッタ29aは地山を掘削する部位である。フレーム25aにはカッタモータ31aが設けられ、カッタ29aは、カッタ回転軸37aを中心に回転可能である。なお、カッタ回転軸37aはフレーム回転軸35aおよび回転体回転軸33aに対し偏心している(すなわちずれた位置に位置する)。なお、回転体21b等も同様の構成である。
【0032】
図2は、シールド機1の正面図を示す。略矩形の断面形状を有するスキンプレート3はシールド機1の外周を形成する。シールド機1は、上下面それぞれの略中央位置にくびれ部4a、4bが設けられる。すなわち、シールド機1の外形は上下略中央に、シールド機1の内方にくびれたくびれ部を有する略矩形形状断面である。
【0033】
シールド機1の略中央(くびれ部4a、4bを結んだ線)でシールド機1の掘削範囲は2分される。図2においては、くびれ部4a、4bを結んだ線により左右に2分される。2分されたそれぞれの掘削範囲(シールド機1の左右半分の範囲)には、それぞれ掘削部が設けられる。
【0034】
一方の側の掘削範囲(例えば図2の左側半分)には、当該掘削範囲の略中央を回転体回転軸33aとする回転体21aが設けられる。回転体21aにはフレーム25aが接合される。フレーム25aは回転体21aの径方向に向けて延伸されており、端部にはカッタ29aが設けられる。カッタ29aには複数の刃39が設けられる。フレーム25aのカッタ29aとの接合部とは逆側には、攪拌翼41aが設けられる。攪拌翼41aは、チャンバ19(図1)内の土砂を攪拌し、土砂の固結や閉塞を防止する。
【0035】
ここで、回転体21aは、回転体回転軸33aを中心に往復方向に回転可能である(図中矢印A1、B1方向)。また、フレーム25aはフレーム回転軸35aを中心に往復回転動作が可能である(図中矢印C1、D1方向)。また、カッタ29aはカッタ回転軸37aを中心に一方向に回転する(例えば図中矢印E1方向)。すなわち、カッタ29aは常に同じ方向に回転し、地山を掘削する。このため、カッタ29aに設けられる刃39は、一方向(回転方向に対し同一周方向)に向けて設けられる。
【0036】
他方の側の掘削範囲(例えば図2の右側半分)にも、左側の掘削範囲と同様の掘削部が設けられる。右側の掘削部の構成は、左側の掘削部の構成と同様であるので説明を省略する。
【0037】
次に、シールド機1の掘削部の動作を説明する。図3はシールド機1の掘削部動作を示す図である。
【0038】
まず、図3(a)の位置からシールド機1に向かって(図面正面からみて)、カッタ29aは回転体回転軸33aを中心に反時計回りに移動し、カッタ29bは回転体回転軸33bを中心に時計回りに移動する例を説明する。図3(a)の位置では、カッタ29bが矩形断面の角部近傍を掘削する状態であり、カッタ29bは、中心(回転体回転軸33)から最も遠い位置を掘削する。従って、例えば、回転体回転軸33b、フレーム回転軸35b、カッタ回転軸37bが一直線上に並ぶように位置する。カッタ29bは、この位置からトンネル下面方向の掘削範囲に移動する。
【0039】
この状態から、カッタ29bの位置を動かすためには、回転体21bを時計回り方向(図中矢印B2方向)に回転させながら、フレーム25bを反時計回り(図中矢印C2方向)に回転させる。なお、以下、カッタ29bは常に一定方向(例えば図中矢印E2方向の反時計回り)に回転しながら掘削を行う。
【0040】
同様に、カッタ29aはくびれ部4a近傍を掘削し、トンネル上面の掘削範囲に移動する。この状態から、カッタ29aの位置を動かすためには、回転体21aを反時計回り方向(図中矢印A1方向)に回転させながら、フレーム25aを時計回り(図中矢印D1方向)に回転させる。なお、以下、カッタ29aは常に一定方向(例えば図中矢印E1方向の時計回り)に回転しながら掘削を行う。
【0041】
図3(b)は、このようにしてカッタ29a、29bの位置が移動した状態を示す。カッタ29aが矩形断面の角部近傍に来ると、回転体21aの回転方向を時計回りに(図中矢印B1方向)逆転させるとともに、フレーム25aの回転方向を反時計回り(図中矢印C1方向)に逆転させる。同様に、カッタ29bについても、回転体21bの回転方向を反時計回りに(図中矢印A2方向)逆転させるとともに、フレーム25bの回転方向を時計回り(図中矢印D2方向)に逆転させる。
【0042】
さらに、カッタ29aが矩形断面の角部近傍を通過すると、図3(c)に示すように、回転体21aの回転方向を反時計回りに(図中矢印A1方向)逆転させるとともに、フレーム25aの回転方向を時計回り(図中矢印D1方向)に逆転させる。同様に、カッタ29bについても、回転体21bの回転方向を時計回りに(図中矢印B2方向)逆転させるとともに、フレーム25bの回転方向を反時計回り(図中矢印C2方向)に逆転させる。
【0043】
以後、同様に、カッタ29a、29bを矩形断面外周に沿って移動させる。以上の動作を繰り返し、カッタ29a、29bをそれぞれの掘削範囲内で移動させながら、シールド機1の前方の地山を掘削する。
【0044】
なお、フレーム25a、25b、カッタ29a、29bが開口部17a、17b(図2)の前を通過する際においても、開口部17a、17bがフレーム25a、25bの幅よりも大きいため、フレーム25a、25bによって開口部17a、17bが完全に塞がれることがない。このため、カッタ29a、29bの位置によらず、掘削土砂の排出には問題がない。
【0045】
図4は、シールド機1の前面から見てカッタ29a、29bの移動方向とカッタ29a、29bの回転方向を示す図である。シールド機1は、例えばカッタ29aが回転体回転軸33aを中心に反時計回りに移動しながらシールド機1の左半分の掘削範囲を掘削する。すなわち、カッタ29aはシールド機1の掘進方向に対して略垂直な方向に移動しながら地山を掘削する。この際、カッタ29aは、カッタ回転軸37aを中心に時計回りに回転する。したがって、カッタ29aの回転方向と、カッタ29aの掘削範囲内での移動方向(回転体回転軸33aを中心とした回転方向)とは逆回転である。
【0046】
一方、カッタ29bは回転体回転軸33bを中心に時計回りに移動しながらシールド機1の右半分の掘削範囲を掘削する。すなわち、カッタ29bはシールド機1の掘進方向に対して略垂直な方向に移動しながら地山を掘削する。この際、カッタ29bは、カッタ回転軸37bを中心に反時計回りに回転する。したがって、カッタ29bの回転方向と、カッタ29bの掘削範囲内での移動方向(回転体回転軸33bを中心とした回転方向)とは逆回転である。また、カッタ29aの回転体回転軸33aを中心とした回転方向と、カッタ29bの回転体回転軸33bを中心とした回転方向も逆回転である。このため、掘削に伴うシールド機1に発生するローリング方向の力が打ち消し合い、ローリングを防止することができる。したがって、通常のローリング対策のようにカッタの回転方向を正逆回転させる必要がないため、カッタ29a、29bは常に一定方向のみに回転すれば良い。
【0047】
図5は、カッタ29a、29bの移動軌跡であるカッタ軌跡40を示す図である。図5に示すように、カッタ29a、29bは掘削断面42の全範囲を掘削可能である。すなわち、シールド機1は、一対のカッタ29a、29bのみによって、シールド機1の前方の地山を略矩形断面に掘削可能である。
【0048】
なお、本シールド機1によれば、前記した矩形断面に限らず種々の断面形状のトンネルも掘削可能である。
【0049】
次に、カッタ29a、29bについて説明する。なお、以下の説明においてはカッタ29a、29bは同じ構成であるため、特に記載がない限り、カッタ29として説明する。図6は、カッタ29を示す図で、図6(a)は正面図、図6(b)はスポーク43の側面図であり、図6(a)のH矢視図である。カッタ29は、カッタ回転軸37を中心として、スポーク43が放射状に設けられる。スポーク43は、略矩形断面の部材である。
【0050】
スポーク43の前面には、複数の刃39が設けられる。図6(a)に示すように、カッタ29は、例えば矢印F方向の一方向に回転する。したがって、カッタ29の各スポーク43に設けられる刃39は、全て同一周方向(図中矢印G方向)に向けて設けられる。カッタ29の回転方向を一方向とすることで、刃39を両側(両回転方向)に向けて設置する必要がなく、このため、カッタ29による掘削時の抵抗を減らすことができる。なお、前述の通り、カッタ29aとカッタ29bとは互いに逆方向に回転するため、刃39の向きは互いに逆向きとなる。たとえば、カッタ29aがF方向に回転する場合、カッタ29bはF方向とは反対向きに回転し、カッタ29bの刃39はG方向とは反対向きに設けられれば良い。
【0051】
図6(b)に示すように、スポーク43には、回転内周側の前方掘削部47と、回転外周側の側方掘削部45が設けられる。前方掘削部47は、カッタ29前方(シールド機1の進行方向)に向けて配置される。一方、側方掘削部45は、シールド機1の進行方向に対して、カッタ径方向にやや傾きをもって配置される。
【0052】
前方掘削部47は、主にカッタ29前方(シールド機1の進行方向の前面)に対して地山を掘削する部位である。側方掘削部45は、主にカッタ29の側方(シールド機1の進行方向に略垂直な方向)に対して地山を掘削する部位である。
【0053】
すなわち、前述の通りカッタ29は、回転体21およびフレーム25の回転動作によって、シールド機1の進行方向に略垂直な面内を移動する。側方掘削部45は、カッタ29の移動方向に対して地山を掘削する部位である。
【0054】
スポーク43の側面(カッタ29が回転する方向の側面)には、加泥材注入口49が設けられる。通常、シールド機に使用されるカッタは、シールド機の進行方向前面に対して地山を掘削するため、加泥材注入口はカッタ前方に向けて設置される。一方、本発明のカッタ29は、側方掘削部45により、カッタの29の移動方向(カッタ29の側方)の掘削がメインとなるため、カッタ29の掘削方向であるスポーク43の側面に加泥材注入口49を設けることが望ましい。
【0055】
図7は、カッタ29により地山53を掘削する状態を示す図で、刃39の配置および方向を示した図である。図中矢印Iは、カッタ29の前方であり、シールド機1の進行方向を示す。前方掘削部47の刃39は、刃間隔55aをあけて配置される。前方掘削部47の刃39の設置方向はシールド機1の進行方向と一致する。すなわち、前方掘削部47の刃39はシールド機1の進行方向前面の地山53を掘削する。
【0056】
側方掘削部45においては、スポーク43は前方掘削部47に対して2段階で所定の角度のテーパが形成される。側方掘削部45では、テーパに応じて刃39がカッタ29の径方向に傾けて設けられる。たとえば、前方掘削部47の外周位置には、20度程度の角度を設け、さらにその外周に45度程度の角度を有するテーパ部を設ける。さらに最外周部には、シールド機1の進行方向とは略垂直な面を形成する。したがって、この場合、それぞれの位置での刃39の設置方向は、シールド機1の進行方向に対して、刃角度51aが20度、刃角度51bが45度、刃角度51cが90度となる。
【0057】
また、側方掘削部45における刃39の刃間隔55bは、前方掘削部47における刃間隔55aよりも狭い。すなわち、側方掘削部45においては刃39の設置密度が大きい。これは、カッタ29は、カッタ前方向への掘削よりもカッタ側方への掘削がメインとなるためである。
【0058】
なお、カッタ29の形状は図7に示す例に限られない。側方掘削部45のテーパ形状は2段階以外でもよく、また、角度は問わない。ただし、カッタ側方を効率良く掘削するためには、側方掘削部は20〜90度程度の角度を有することが望ましく、さらに望ましくは、カッタ外周部に少なくとも45〜90度程度の角度が形成されていることが望ましい。
【0059】
図8は、シールド機1のカッタ29a、29bの掘削範囲を変更して掘削する状態を示す図である。回転体21a、21bとフレーム25a、25bの回転角度を制御することにより、カッタ29a、29bの一部をシールド機1の外周(すなわちスキンプレート3により形成される外周)よりも外側にはみ出させることができる。図8においては、カッタ29aの一部がシールド機1よりも、はみ出し掘削量Fだけはみ出した例を示す。
【0060】
同様に、カッタ29a、29bの一部をシールド機1の外周よりも内側に位置させることもできる。図8においては、カッタ29bの一部がシールド機1よりもマイナス側掘削量Gだけマイナス側に配置した例を示す。
【0061】
なお、はみ出し掘削量とは、はみ出し掘削時において、シールド機1の投影外形外周部からのカッタ29のはみ出し長さをいう。同様に、マイナス側掘削量とは、マイナス側掘削時において、シールド機1の投影外形外周部からのカッタ29による掘削範囲最外部までの長さをいう。
【0062】
次に、シールド機1の制御について説明する。図9は、カッタ29a、29bの掘削範囲を変更して、シールド機1のローリングを修正する方法を示す。
【0063】
シールド機1自体にローリングが生じ、シールド機1が水平状態から変位した場合、カッタ29a、29bの掘削範囲を制御して、掘削範囲を変更する。たとえば、図9(a)に示すように、シールド機1が正規掘削断面57からローリングした場合、カッタ29a、29bの掘削範囲(シールド機1の掘進方向とは垂直な方向におけるカッタ29a、29bの移動範囲)を変更し、正規掘削断面57となるように制御する。
【0064】
この場合、例えば、シールド機1の外周よりも正規掘削断面57が外側に来る部分である余掘り部59は、前述の図8のカッタ29aのように、カッタ29a、29bをシールド機1からはみ出すように移動させる。
【0065】
同様に、シールド機1の外周よりも正規掘削断面57が内側に来る部分であるマイナス掘り部61は、前述の図8のカッタ29bのように、カッタ29a、29bをシールド機1からマイナス側に来るように移動させる。
【0066】
このようにすることで、シールド機1の外周形状によらず、正規掘削断面57を掘削することができる。なお、シールド機1のローリング角度が小さい状態でこのような制御を行えば、シールド機1は掘削断面内に収まろうとするため、やがて正規掘削断面57内に収まる。すなわち、シールド機1のローリングが修正可能である。
【0067】
図10は、同様の制御方法によりシールド機1の進行方向を制御する方法を示す図である。たとえば、図10(a)に示すように、シールド機1の進行方向(図中矢印G)に対して、シールド機1の進行方向にずれが生じた場合には、シールド機1が正規の進行方向となるように、進みたい側の掘削範囲を余掘り部59として、進みたい側とは逆側をマイナス掘り部61とすればよい。
【0068】
このようにすることで、シールド機1は掘削断面内に収まろうとするため、シールド機1の進行方向が正規の方向に向くように制御することができる。
【0069】
なお、このような制御は、シールド機1内に設けられた各種センサ等によって姿勢および方向等を検知し、シールド機1内に設けられたコンピュータによって、自動で掘削範囲の設定し、カッタ29a、29bが掘削範囲を移動できるように回転体21a、21b、フレーム25a、25bの動作を制御してもよい。カッタ29a、29bの位置やフレーム25a、25b、回転体21a、21bの回転角度などは、回転計などにより把握される。
【0070】
また、シールド機1の前面に土砂の土質を検知可能な検出部を設けておき、土質に応じて掘削範囲を制御してもよい。たとえば、軟質の土質を掘削する場合には、カッタ29a、29bのはみ出し堀量やマイナス堀量を少なくし、硬質の土質を掘削する場合には、カッタ29a、29bのはみ出し堀量やマイナス堀量を多くしてもよい。シールド機1が掘進し、掘削位置の土質に応じて掘削範囲を変えることで、掘削面の崩落や過剰な掘削を防止でき、効率良く掘削を行うことができる。
【0071】
土質の検出としては、掘削土砂のチャンバ内の流動抵抗等を検知する検知器を設けたり、カッタ29a、29bのモータ電流等によって土質を検出してもよい。
【0072】
以上説明したように、本発明の実施形態にかかるシールド機1によれば、シールド機前面が2分され、2分されたそれぞれの掘削範囲を掘削可能な一対の掘削部が設けられ、それぞれの掘削部が、回転体21a、21bとこれに設けられるフレーム25a、25bとフレーム25a、25bに設けられるカッタ29a、29bにより構成されるため、一対のカッタ29a、29bが掘削面全域に対して移動可能であり、一対のカッタのみによってシールド機1前方の地山を略矩形断面形状に掘削することができる。
【0073】
特に、カッタ29a、29bには、シールド機1の前方を掘削する前方掘削部45と、シールド機前面と略垂直な面方向を掘削する側方掘削部47とが設けられるため、シールド機1の進行方向とは略垂直な方向へも掘削することができる。
【0074】
また、シールド機1によれば、くびれ部を有する略矩形断面形状トンネルを容易に掘削可能であるため、通常の矩形断面トンネルよりも、少ない掘削量で必要最低限のトンネル断面を得ることができ、また、上方からの土圧に対してアーチ効果により強度が高いトンネルを得ることができる。
【0075】
また、2分される掘削範囲それぞれの下方に掘削土砂を排出するためのスクリューコンベア15a、15bへつながる孔が設けられ、孔の前方にはフレーム25a、25b幅よりも広い開口部17a、17bがそれぞれ設けられるため、カッタ29a、29bの移動位置によって、フレームフレーム25a、25b及びカッタ29a、29bで孔を塞ぐことがない。したがって、カッタ位置によらず、確実に掘削土砂を排出することが可能である。
【0076】
また、フレーム25a、25bには攪拌翼41a、41bが設けられるため、カッタ29a、29bの移動に伴うフレーム25a、25bの回転動作によって、掘削された土砂がシールド機1のチャンバ19内で攪拌され、土砂の固結や閉塞が防止することができる。
【0077】
また、一対の回転体21a、21bのそれぞれの回転方向が互いに逆回転であるため、シールド機1前方から見て、回転体回転軸33a、33bを中心としたシールド機1の掘進方向に略垂直な方向へのカッタ29a、29bの移動方向が、互いに逆回転となる。このため、カッタ29a、29bの移動によるシールド機1のローリングが打ち消される。したがって、シールド機1のローリングを防止できる。さらに一対のカッタ29a、29bそれぞれの回転方向が互いに逆回転であれば、さらに効果的にシールド機1のローリングを防止することができる。
【0078】
また、カッタ29a、29bの掘削範囲をはみ出し掘削、マイナス側掘削と変化させることができるため容易にシールド機の姿勢を制御することができる。
【0079】
例えば、シールド機1がローリングした場合であっても、シールド機1の姿勢によらずに、カッタ29a、29bの掘削範囲を正規掘削断面57とすれば、容易にシールド機1の姿勢を制御することができる。また、同様に、進行方向を、はみ出し掘削としてその逆側をマイナス側掘削とすれば、シールド機1の進行方向を容易に制御することができる。また、土質に応じて掘削範囲を変化できれば、掘削面の崩落や過剰な余掘りを防止することができる。
【0080】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0081】
例えば、カッタ29a、29bの回転方向や移動方向は実施例に限られない。カッタ29a、29bを図4とは逆方向へ回転、移動させてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1………シールド機
3………スキンプレート
5………隔壁
7………油圧ジャッキ
9………テールプレート
11………セグメント
13………テールシール
15a、15b………スクリューコンベア
17a、17b………開口部
19………チャンバ
21a、21b………回転体
23a、23b………回転体モータ
25a、25b………フレーム
27a、27b………フレームモータ
29a、29b………カッタ
31a、31b………カッタモータ
33a、33b………回転体回転軸
35a、35b………フレーム回転軸
37a、37b………カッタ回転軸
39………刃
40………カッタ軌跡
41a、41b………攪拌翼
42………掘削断面
43………スポーク
45………側方掘削部
47………前方掘削部
49………加泥材注入口
51a、51b、51c………刃角度
53………地山
55a、55b………刃間隔
57………正規掘削断面
59………余掘り部
61………マイナス掘り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山を掘進するシールド機であって、
略矩形断面形状のシールド機本体と、
前記シールド機本体を推進するジャッキと、
前記シールド機本体前方が2分され、それぞれの掘削範囲に設けられる一対の掘削部と、
を有し、
一対の前記掘削部は、
前記掘削範囲の略中心をそれぞれ回転軸とする回転体と、
前記回転体の前面に、前記回転体の回転軸に対して略垂直な方向に設けられ、一方の端部が前記回転体の回転軸から偏心した位置に回転可能に配置されたフレームと、
前記フレームの他方の端部に設けられ、複数の刃を有する回転カッタと、
をそれぞれ具備し、
前記回転カッタのみで前記シールド機本体前面を掘削可能であることを特徴とするシールド機。
【請求項2】
2分された前記掘削範囲それぞれの下方には、前記フレームよりも幅が広く、掘削土砂を排出する孔に通じる開口部が設けられることを特徴とする請求項1記載のシールド機。
【請求項3】
前記回転カッタは、
前記回転カッタの回転軸と略垂直な面であるシールド機進行方向前面を掘削する前方掘削部と、
前記前方掘削部の周囲に設けられ、前記シールド機進行方向前面とは略垂直な面を掘削する側方掘削部と、
を有し、
前記前方掘削部により掘削される前記シールド機進行方向と、前記側方掘削部に設けられる刃の配置方向が所定の角度を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載のシールド機。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のシールド機を用い、略矩形断面トンネルの構築方法であって、
シールド機前方から見て、前記回転体の回転軸を中心とした前記回転カッタの回転移動方向が、前記回転カッタの回転方向と逆回転であることを特徴とする略矩形断面トンネルの構築方法。
【請求項5】
一対の前記回転体のそれぞれの回転方向が互いに逆回転であり、かつ一対の前記回転カッタのそれぞれの回転方向が互いに逆回転であることを特徴とする請求項4記載の略矩形断面トンネルの構築方法。
【請求項6】
掘削範囲の一部は、前記回転カッタが前記シールド機本体の外周から所定量はみ出す範囲まで掘削を行わせるとともに、
他の一部は前記回転カッタが前記シールド機本体の外周から所定量内側までのみの掘削を行わせることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の略矩形断面トンネルの構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−189988(P2010−189988A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37704(P2009−37704)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行所名〕 日本経済新聞社 〔刊行物名〕 日本経済新聞 平成20年8月22日付 〔発行年月日〕 平成20年8月22日
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】