説明

シールド機及びシールドトンネルの拡幅部構築方法

【課題】コピーカッタで拡幅用空洞部を掘削しながら、掘削土を含む泥水の排泥や掘削土の排土を可能とする。
【解決手段】本体前面にカッタ5を備えるとともに、このカッタ5の周面から突出可能なコピーカッタ6を備えるシールド機であって、コピーカッタ6を突出させて掘削される拡幅用空洞部Cに対し、本体周面1から突出して拡幅用空洞部Cを前後に遮断可能とする可動遮断壁21を備える。このシールド機の本体周面1から遮断壁21を突出させて拡幅用空洞部Cをシールド機の掘進方向に対して前後に遮断した状態で、シールド機により掘進しながらコピーカッタ6により拡幅用空洞部Cを掘削する。同時に、遮断壁21より前面から拡幅用空洞部Cに滑材・高圧水を注入するとともに、本体周面1からも拡幅用空洞部Cに滑材・高圧水を注入する。また、遮断壁21の直後において、本体周面1から拡幅用空洞部Cに充填材を注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路トンネルにおける合流部・分岐部などのトンネル断面に拡幅部を備えるトンネルを構築するために用いるシールド機と、そのシールド機を用いて行うシールドトンネルの拡幅部構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、本体周面から突出可能な拡幅用カッタを備えるシールド機を用いて、トンネル断面に拡幅部を構築する技術を提案した(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−54528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
シールド機において、前面に備えられるカッタの他に新たに拡幅用カッタを装備することは、場合によっては、コスト高を招いてしまう。
そこで、シールド機の前面カッタの周囲に備えられる曲線部余掘り用のコピーカッタを用いて拡幅用空洞部を掘削することが考えられる。ここで、コピーカッタは、本来、シールド機の曲線施工用のために地山を乱し、シールド機を曲線なりに寄りつき易くする目的で備えられているものであり、大きく突出して掘削できるが、掘削土をシールド機のチャンバーへ取り込む機能は有していない。
よって、例えば泥水式シールドの場合、コピーカッタで拡幅用空洞部を掘削すると、掘削土を含む泥水の排泥が困難であること、泥土圧式シールドの場合も、掘削土のチャンバへの取り込み、排土が困難であることが想定できる。また、地山崩壊の防止の観点から、コピーカッタで掘削した拡幅用空洞部に充填材を充填することが考えられるが、カッタと拡幅用空洞部は当該掘削により連通しており、充填材がカッタ側へ回り込むと、掘削用泥水の性状を変化させ、本来の掘削排土に影響を与えることになってしまう。
【0004】
本発明の課題は、コピーカッタで拡幅用空洞部を掘削しながら、掘削土を含む泥水の排泥や掘削土の排土を可能とすることと、シールド掘削用の泥水と拡幅用空洞部の充填材の混合を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、本体前面にカッタを備えるとともに、このカッタの周面から突出可能なコピーカッタを備えるシールド機であって、前記コピーカッタを突出させて掘削される拡幅用空洞部に対し、本体周面から突出して前記拡幅用空洞部をシールド機の掘進方向に対して前後に遮断可能とする可動遮断壁を備えることを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシールド機であって、前記可動遮断壁の内部に当該壁の前面の全面へ高圧水を噴射できる注入口を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のシールド機であって、前記可動遮断壁より前方の本体周面に高圧水注入口を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載のシールド機であって、前記可動遮断壁の直後の本体周面に充填材注入口を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、シールド機の前面のカッタによる掘進と並行してカッタ周面からコピーカッタを突出させて拡幅用空洞部を掘削するシールドトンネルの拡幅部構築方法であって、シールド機の周面から遮断壁を突出させて前記拡幅用空洞部をシールド機の掘進方向に対して前後に遮断した状態で、前記シールド機により掘進しながら前記コピーカッタにより前記拡幅用空洞部を掘削することを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のシールドトンネルの拡幅部構築方法であって、前記遮断壁より前面から前記拡幅用空洞部に高圧水を注入することを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載の発明は、請求項5または6に記載のシールドトンネルの拡幅部構築方法であって、前記遮断壁より前方において、シールド機の本体周面から前記拡幅用空洞部に高圧水を注入することを特徴とする。
【0012】
請求項8に記載の発明は、請求項5から7のいずれか一項に記載のシールドトンネルの拡幅部構築方法であって、前記遮断壁の直後において、シールド機の本体周面から前記拡幅用空洞部に充填材を注入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コピーカッタで掘削する拡幅用空洞部を、シールド機周面から突出する遮断壁によりシールド機の掘進方向に対して前後に遮断した状態で、掘進しながら掘削していくため、遮断壁から前方の掘削土を含む泥水や掘削土をシールド機のチャンバに送り込んで、排泥や排土が確実に行える。そして、コピーカッタで掘削されたが、チャンバに取り込まれなかった掘削土が遮断壁から後方にこぼれることなく、かつ当該壁に配置された注入口より噴射された高圧水によりいずれカッタに回り込むことが期待できるため、確実な空洞部の形成ができる。また、当該壁の存在により当該壁の後方に充填された充填材がカッタ側に回り込むことを防止でき、シールド掘進に影響を与えない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
図1及び図2は本発明を適用した一実施形態の構成を示すもので、シールド機は、図示のように、本体周面のスキンプレート1、隔壁2、前面のカッタ支持面板3、チャンバ4、カッタ5、拡幅用コピーカッタ6、カッタ駆動用電動モータ7、コピーカッタ駆動装置8、シールドジャッキ9、中折れジャッキ10、スクリューコンベヤ11、テールシール12、エレクタ装置13、後方作業台14、セグメント形状保持装置15、連結セグメント押込装置16、同時裏込め注入管17、可動遮断壁21等を備える。なお、チャンバ4には、図示しないアジテータが設けられるとともに、図示しない送泥管及び排泥管が接続されている。
【0015】
拡幅用コピーカッタ6は、図1では、カッタ支持面板3の後面に直径方向に対向して一対ずつ備えられており、すなわち、カッタ5の回転方向に合わせて両方向に向けてそれぞれ備えられている。この拡幅用コピーカッタ6は、油圧ポンプ及び電動機等により構成されるコピーカッタ駆動装置8によりカッタ支持面板3の周面から突出可能となっている。
そして、拡幅用コピーカッタ6は、図3に示すように、カッタ5の回転に同期して突出量を制御することにより、カッタ5の回転によるシールド機の掘進と同時に、所望の拡幅用空洞部Cを掘削することができる。図中、Rはカッタ5の回転方向を示している。
【0016】
可動遮断壁21は、図2では、隔壁2から後方に離間した位置に配置されてスキンプレート1の開口部から突出可能なもので、所望する掘削位置に予め備えられ、例えば図1に示すように、本体の一側方寄りの上下位置に備えられている。この可動遮断壁21は、並列一対のジャッキにより構成される遮断壁駆動装置22によりスキンプレート1の開口部から突出することで、拡幅用コピーカッタ6により掘削された拡幅用空洞部Cを前後に遮断可能な外形形状となっている。
そして、可動遮断壁21の内部に当該壁の前面の全面へ滑材とともに高圧水を噴射できる滑材・ジェット水注入管23が配設されていて、この滑材・ジェット水注入管23は可動遮断壁21の前面に斜め外側に向けて開口している。
【0017】
さらに、可動遮断壁21の前方において、スキンプレート1の内部に滑材とともに高圧水を噴射できる複数の滑材・ジェット水注入管24が配設されていて、これら滑材・ジェット水注入管24はスキンプレート1から斜め前方に向けて開口している。そのうち前側の滑材・ジェット水注入管24は拡幅用コピーカッタ6の直後に向けて開口している。
【0018】
また、可動遮断壁21の直後において、スキンプレート1の内部に充填材注入管25が配設されていて、この充填材注入管25はスキンプレート1に対し任意の角度を有し、図示例では直角に位置して開口している。
【0019】
次に、以上のシールド機によるトンネルの例えば合流部・分流部等の構築手順を説明する。
まず、通常は前面のカッタ5によりトンネルを掘進していくとともに、後側のエレクタ装置13により図示しないセグメントを組立ててセグメントリングをもってトンネルを覆工していく。
そして、任意の所望する施工開始時点に達すると、前面のカッタ5による掘進は継続するとともに、拡幅用コピーカッタ6を上下に同期して突出動作させることで、地山に上下の拡幅用空洞部Cを掘削する。すなわち、図3に示したように、カッタ5の回転に同期して拡幅用コピーカッタ6の突出量を制御することで、カッタ5の回転によるシールド機の掘進と同時に、カッタ5の回転過程で突出制御される拡幅用コピーカッタ6により上下の拡幅用空洞部Cを間欠的に掘削して連続形成していく。
【0020】
以上の拡幅用コピーカッタ6による拡幅用空洞部Cの掘削時は、スキンプレート1に開口する滑材・ジェット水注入管24から滑材・ジェット水を拡幅用空洞部Cに注入する。
その後、シールド機の掘進により拡幅用空洞部Cに可動遮断壁21が到達する時点で、上下の可動遮断壁21をスキンプレート1から同期して突出動作させることで、上下の拡幅用空洞部Cを各々の可動遮断壁21でそれぞれ前後に遮断する。同時に、可動遮断壁21の前面に開口する滑材・ジェット水注入管23から滑材・ジェット水を拡幅用空洞部Cに注入する。
この結果、拡幅用空洞部Cにおいて、可動遮断壁21で遮断された前方の掘削土を含む泥水はチャンバ4に送り込まれ易くなり、シールド機内のスクリューコンベア11を通って周知のように排泥される。
【0021】
また、可動遮断壁21の直後において、スキンプレート1に開口する充填材注入管25から充填材を拡幅用空洞部Cに注入する。これにより、可動遮断壁21で遮断された後方の拡幅用空洞部Cが充填材で満たされる。
【0022】
そして、拡幅用コピーカッタ21による上下の部分拡幅部掘削施工に対応する区間において、エレクタ装置13により上下に図示しない例えば鋼製セグメントをセグメントリングと同形体を覆工していく。鋼製セグメントは図示しない連結セグメントを上下方向にスライド動作可能に組み込んだものである。
【0023】
続いて、後方作業台14において、シールド機が進行するに伴いシールドテール(シール)11から放出された(地山に残置された)時点で、即時に上下の連結セグメント押込装置16の油圧ジャッキの伸張動作によって、上下の例えば鋼製セグメント内から連結セグメントを掘削部分拡幅部に押し込んでいく。
以上の部分拡幅部掘削を伴う掘進及び覆工は所定区間の設計長に到達するまで継続して行われる。
【0024】
そして、合流部・分流部の設計長に到達した時点で、上下の拡幅用コピーカッタ21をスキンプレート1内にそれぞれ格納して、通常の掘進を行うとともに、例えば鋼製セグメントを用いない通常のセグメントだけを組立ててセグメントリングをもってトンネルを覆工していく。
【0025】
以上の部分拡幅部掘削を伴う掘進及び覆工は、図4に示すように、同様構成で例えばサイズが大小異なるシールド機を用いて、本線トンネルの隣にランプトンネルを並べて施工する。
こうして、覆工の完了した当該拡幅区間において、覆工トンネル内部より、本線トンネルとランプトンネルの間において、上下の地山に対して薬液注入工を施す。
次に、上下の薬液注入工において、本線トンネル及びランプトンネルの連結セグメントの間に長尺鋼管フォアパイリングによるアーチ状の支保工を施工する。
そして、本線トンネル及びランプトンネルの間において、上下の支保工間の地山を掘削する。
【0026】
次に、本線トンネル及びランプトンネルの連結セグメントにわたって鋼殻を設置するとともに、その鋼殻内へのコンクリート打設工を施工する。
その後、本線トンネル及びランプトンネルのセグメントリングの互いに隣接するセグメントを撤去して、図示のように、本線トンネルとランプトンネルを横方向に連続させる。
こうしてシールドトンネルの合流部・分流部の施工を終える。
【0027】
なお、以上の実施形態においては、本線トンネルとランプトンネルの例えば合流部・分流部等の構築としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、非常駐車帯等の任意の所望する拡幅部の施工であっても良い。
また、実施形態では、泥水式シールドとしたが、土圧式シールドであっても良く、その他、シールド機の具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。例えば可動遮断壁を隔壁の直後位置に設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を適用した一実施形態の構成を示すもので、シールド機の前面カッタ及びコピーカッタを示した正面図である。
【図2】図1のシールド機の縦断側面図である。
【図3】コピーカッタによる拡幅用空洞部の掘削を示す作用説明図である。
【図4】二台のシールド機を用いて行うコピーカッタによる拡幅用空洞部の掘削を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1 本体周面
5 カッタ
6 拡幅用コピーカッタ
21 可動遮断壁
22 遮断壁駆動装置
23 滑材・高圧水注入管
24 滑材・高圧水注入管
25 充填材注入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体前面にカッタを備えるとともに、このカッタの周面から突出可能なコピーカッタを備えるシールド機であって、
前記コピーカッタを突出させて掘削される拡幅用空洞部に対し、本体周面から突出して前記拡幅用空洞部をシールド機の掘進方向に対して前後に遮断可能とする可動遮断壁を備えることを特徴とするシールド機。
【請求項2】
前記可動遮断壁の内部に当該壁の前面の全面へ高圧水を噴射できる注入口を備えることを特徴とする請求項1に記載のシールド機。
【請求項3】
前記可動遮断壁より前方の本体周面に高圧水注入口を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のシールド機。
【請求項4】
前記可動遮断壁の直後の本体周面に充填材注入口を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のシールド機。
【請求項5】
シールド機の前面のカッタによる掘進と並行してカッタ周面からコピーカッタを突出させて拡幅用空洞部を掘削するシールドトンネルの拡幅部構築方法であって、
シールド機の周面から遮断壁を突出させて前記拡幅用空洞部をシールド機の掘進方向に対して前後に遮断した状態で、前記シールド機により掘進しながら前記コピーカッタにより前記拡幅用空洞部を掘削することを特徴とするシールドトンネルの拡幅部構築方法。
【請求項6】
前記遮断壁より前面から前記拡幅用空洞部に高圧水を注入することを特徴とする請求項5に記載のシールドトンネルの拡幅部構築方法。
【請求項7】
前記遮断壁より前方において、シールド機の本体周面から前記拡幅用空洞部に高圧水を注入することを特徴とする請求項5または6に記載のシールドトンネルの拡幅部構築方法。
【請求項8】
前記遮断壁の直後において、シールド機の本体周面から前記拡幅用空洞部に充填材を注入することを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載のシールドトンネルの拡幅部構築方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−239269(P2007−239269A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61409(P2006−61409)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】