説明

シールド機用カッタおよびシールド機

【課題】 単一のカッタによって、前方の地山を任意の形状に掘削可能なシールド機およびこれに特に適したカッタを提供する。
【解決手段】 カッタ29は、カッタ回転軸37を中心として、スポーク43が放射状に設けられる。スポーク43は、略矩形断面の部材である。スポーク43の前面には、複数の刃39が設けられる。スポーク43には、回転内周側の前方掘削部47と、回転外周側の側方掘削部45が設けられる。前方掘削部47は、カッタ29前方(シールド機1の進行方向)に向けて配置される。一方、側方掘削部45は、シールド機1の進行方向に対して、カッタ径方向にやや傾きをもって配置される。前方掘削部47は、主にカッタ29前方(シールド機1の進行方向)に対して地山を掘削する部位である。側方掘削部45は、主にカッタ29の側方(シールド機1の進行方向に略垂直な方向)に対して地山を掘削する部位である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド機用のカッタおよびこれを用いたシールド機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の掘削機の多くは、掘削方向に対面する略円形のカッタの回転により掘削機前方の地山を掘削するものであり、この場合、トンネルは円形断面形状となる。これに対し、複数のカッタを用いて、矩形断面トンネルが掘削可能な掘削機が開発されている。
【0003】
このような矩形形状等断面形状を有するトンネルを掘削可能なシールド機としては、例えば、シールド機本体前面にメインカッタを設け、メインカッタと一体に回転する回転体の径方向に変位可能な遊星カッタを備え、遊星カッタの公転軌道を制御部により制御し、メインカッタで掘削不可能な部位を遊星カッタの動作によって掘削する自由断面シールド機がある(特許文献1)。
【0004】
また、シールド機の前面にセンターカッタが設けられ、センターカッタの回転体から外れた位置に回動部材およびこれに設けられた遊星カッタを有し、遊星カッタの軌道を規制するガイド部材が設けられる自由断面シールド機がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−140585号公報
【特許文献2】特開平2−311692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、特許文献2に記載されたシールド機は、前方の地山を掘削するメインのカッタをシールド機の前面に設ける必要がある。例えば矩形形状の断面を掘削する場合には、メインのカッタによって円形に掘削されたトンネルの4隅の掘削を補助的に設けられた遊星カッタにより行うものである。このため、メインカッタに加え遊星カッタが必要となり、複数の形状のカッタを必要とする。
【0007】
また、特許文献1、特許文献2いずれのシールド機に用いられるメインカッタおよび遊星カッタのカッタ形状等は従来のカッタと同様であり、あくまでも複数のカッタの組み合わせおよび、これらの連係動作を工夫したものにすぎない。したがって、概ね全てのカッタが常に掘削範囲全体に配置される必要がある。たとえば遊星カッタは、メインカッタの回転に応じて回転するが、矩形部角部の掘削を行うため、遊星カッタが次々と当該部位に移動してきて、当該部位の前方を掘削していく必要がある。このため、遊星カッタは複数必要となる。(例えば特許文献1、特許文献2ともに遊星カッタは3機搭載される)。したがって、多くのカッタを必要とする。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、単一のカッタによって、前方の地山を任意の形状に掘削可能なシールド機およびこれに特に適したカッタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するための第1の発明は、シールド機の掘削部に設けられ、地山を掘削するシールド機用カッタであって、前記カッタは、前記カッタの回転軸と略垂直な面であるシールド機進行方向前面を掘削する前方掘削部と、前記前方掘削部の周囲に設けられ、前記シールド機進行方向前面とは略垂直な面を掘削する側方掘削部と、前記前方掘削部および前記側方掘削部に設けられた複数の刃と、を有し、前記前方掘削部により掘削される前記シールド機進行方向と、前記側方掘削部に設けられる刃の配置方向が所定の角度を有することを特徴とするシールド機用カッタである。
【0010】
なお、シールド機用カッタにおいて、シールド機の進行方向とは、シールド機用カッタの回転軸方向であって、刃が設けられる側をいい、シールド機の進行方向前面とは、シールド機用カッタの回転軸方向を面方向とする面である。
【0011】
前記側方掘削部に設けられる刃の設置間隔は、前記前方掘削部に設けられる刃設置間隔よりも狭いことが望ましい。
【0012】
前記カッタに設けられる前記複数の刃は、全て同じ周方向に向けられており、前記カッタは1方向回転においてのみ掘削可能であってもよい。
【0013】
前記複数の刃は、前記カッタの回転軸を中心に放射状に設けられたスポークの前面に設けられ、前記スポークの側面に、加泥材注入口が設けられてもよい。
【0014】
第1の発明のシールド機用カッタによれば、シールド機の前方を掘削する前方掘削部と、シールド機前面と略垂直な面方向を掘削する側方掘削部とが設けられるため、シールド機用カッタは、カッタが取り付けられるシールド機の進行方向と、進行方向に略垂直な方向の両方向を掘削することができる。
【0015】
また、前方掘削部における刃の設置間隔よりも側方掘削部における刃の設置間隔が狭ければ、カッタの側方(シールド機前面と略垂直な面方向)の掘削能力がカッタの前方の掘削能力よりも高い。すなわち、本発明のシールド機用カッタは、カッタ前方の掘削能力に対してカッタ側方の掘削能力が高めることができ、シールド機に用いられた際に、シールド機の掘進方向への掘削よりも、シールド機の掘進方向とは垂直な方向への掘削能力に優れ、シールド機用カッタをシールド機前面に対して移動させながら地山を掘削する能力を高めることができる。
【0016】
また、カッタに設けられる刃の向きがすべて一方の回転方向に向けて設けられれば、カッタを両方向へ回転させて掘削することは困難ではあるが、掘削回転方向での掘削において、逆回転用の余計な刃が存在せず、掘削抵抗が小さい。
【0017】
また、複数の刃がスポーク前面に設けられ、スポークの側面(カッタの回転周方向)に加泥材注入口が設けられれば、従来のように、主な掘削方向であるカッタ前面へ加泥材の注入口が設けるのではなく、カッタ移動方向であるカッタの側方への加泥材の注入を適切に行うことができる。
【0018】
第2の発明は、地山を掘進するシールド機であって、シールド機本体と、前記シールド機本体を推進するジャッキと、前記シールド機本体前方に設けられる掘削部と、を有し、前記掘削部は、前記シールド機本体の軸方向の略中心を回転軸とする回転体と、前記回転体の前面に前記回転軸に対して略垂直な方向に設けられ、一方の端部が前記回転軸から偏心した位置に回転可能に配置されたフレームと、前記フレームの他方の端部に設けられ、複数の刃を有する回転可能なカッタと、を具備し、前記カッタが、第1の発明にかかるシールド機用カッタであることを特徴とするシールド機である。
【0019】
前記シールド機の進行方向とは略垂直な面内での前記カッタの移動速度は、前記シールド機の掘進速度よりも十分に速く、
前記カッタは、前記カッタの回転軸に対して略垂直な方向に移動しながら前記カッタの側方を掘削可能であることが望ましい。
【0020】
第2の発明によれば、回転体とこれに設けられるフレームとフレームに設けられるカッタにより構成され、カッタが掘削面全域に対して移動可能であるため、単一のカッタによってシールド機前方の地山を掘削することができる。
【0021】
また、回転体とフレームの動作を適宜連携させることで、シールド機本体に対して任意の位置にカッタを移動させることができる。すなわち、カッタをシールド機の掘進方向とは略垂直な方向へ移動させることができる。
【0022】
また、シールド機の進行方向とは略垂直な面内でのカッタの移動速度が、シールド機の掘進速度よりも十分に速ければ、カッタの掘削方向を、カッタの前面ではなく主にカッタの側方とすることが可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、単一のカッタによって、前方の地山を任意の形状に掘削可能なシールド機およびこれに特に適したカッタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】シールド機1を示す側方断面図。
【図2】シールド機1の正面図。
【図3】シールド機1における、回転体21、フレーム25、カッタ29の動作を示す図。
【図4】カッタ29を示す図で、(a)は正面図、(b)は(a)のH方向矢視図。
【図5】スポーク43の側面を示す図で、刃の配置角度を示す図。
【図6】シールド機1の掘進とカッタ29の移動による地山53の掘削状態を示す図。
【図7】その他の実施形態にかかるスポーク形状を示す図で、(a)はスポーク60を示す図、(b)はスポーク70を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明にかかるシールド機1を示す図である。シールド機1は、主に、スキンプレート3、隔壁5、スクリューコンベア15等から構成されるシールド機本体と、シールドを推進させるためのシールドジャッキである油圧ジャッキ7と、シールド前方の地山を掘削するカッタ29、フレーム25、回転体21等からなる掘削部などから構成される。
【0026】
シールド機1は、略矩形断面形状の筒状のスキンプレート3を有し、スキンプレート3の後方には、筒状のテールプレート9が接続される。スキンプレート3の内部には、油圧ジャッキ7が設けられる。テールプレート11内には、図示を省略したセグメント組み立て装置によって組み立てられたセグメント11が設置される。セグメント11とテールプレート9との間はテールシール13によってシールされる。
【0027】
油圧ジャッキ7は、軸方向に往復動作可能である。シールド機1は、油圧ジャッキ7によってセグメント11を押圧し、セグメント11からの反力にて前方に推進する。
【0028】
スキンプレート3の前方には隔壁5が設けられる。隔壁5は、油圧ジャッキ7等が設けられる側と、後述するカッタ29等が設けられる側(チャンバ19側)とを区画する。隔壁5の下方には、開口部17が設けられる。開口部17は、後方のスクリューコンベア15と連通する。すなわち、隔壁5の前方に向かって開口する開口部17は後方にスクリューコンベア15に連通する孔が設けられる。掘削部によって掘削されたチャンバ19内の掘削土砂は、所定の圧力を保持しつつ開口部17内に取り込まれ、スクリューコンベア15によって後方に排出される。
【0029】
隔壁5には、回転体21が設けられる。回転体21は、シールド機1の略中心(すなわち、シールド機1の推進方向の略中心)に位置する回転体回転軸33を中心に回転可能である。すなわち、回転体21は、回転体モータ23によって回転体回転軸33を中心に回転する。
【0030】
回転体21の前面には、フレーム25が設けられる。フレーム25は、回転体21の回転体回転軸33に対して略垂直な方向にアーム状に設けられる。回転体21にはフレーム25を回転させるためのフレームモータ27が設けられ、フレーム25は、フレーム回転軸35を中心に回転可能である。なお、フレーム回転軸35は回転体回転軸33に対し偏心している(すなわちずれた位置に位置する)。すなわち、フレーム25の一方の端部が、フレーム回転軸35を中心に回転可能なように回転体21に接合され、フレーム25は、回転体21に対して異なる回転軸で回転動作が可能である。
【0031】
フレーム25の、回転体21との接合部とは反対側の端部近傍に、複数の刃を有するカッタ29が設けられる。シールド機用カッタであるカッタ29は地山を掘削する部位である。フレーム25にはカッタモータ31が設けられ、カッタ29は、カッタ回転軸37を中心に回転可能である。なお、カッタ回転軸37はフレーム回転軸35および回転体回転軸33に対し偏心している(すなわちずれた位置に位置する)。
【0032】
図2は、シールド機1の正面図を示す。略矩形の断面形状を有するスキンプレート3はシールド機1の外周を形成する。前述の通り、シールド機1の略中央には回転体21が設けられる。回転体21にはフレーム25が接合される。フレーム25は回転体21の径方向に向けて延伸されており、端部にはカッタ29が設けられる。カッタ29には複数の刃39が設けられる。フレーム25のカッタ29との接合部とは逆側には、攪拌翼41が設けられる。攪拌翼41は、チャンバ19(図1)内の土砂を攪拌し、土砂の固結や閉塞を防止する。
【0033】
ここで、回転体21は、回転体回転軸33を中心に往復方向に回転可能である(図中矢印A、B方向)。また、フレーム25はフレーム回転軸35を中心に往復回転動作が可能である(図中矢印C、D方向)。また、カッタ29はカッタ回転軸37を中心に一方向に回転する(例えば図中矢印E方向)。すなわち、カッタ29は常に同じ方向に回転し、地山を掘削する。このため、カッタ29に設けられる刃39は、一方向(回転方向に対し同一周方向)に向けて設けられる。
【0034】
次に、シールド機1の掘削部の動作を説明する。図3はシールド機1の掘削部動作を示す図である。
【0035】
まず、図3(a)の位置からシールド機1に向かって(図面正面からみて)時計回りにカッタ29が移動する例を説明する。図3(a)の位置は、矩形断面の角部近傍を掘削する状態であり、カッタ29は、中心(回転体回転軸33)から最も遠い位置を掘削する。従って、例えば、回転体回転軸33、フレーム回転軸35、カッタ回転軸37が一直線上に並ぶように位置する。
【0036】
この状態から、カッタ29の位置を動かすためには、回転体21を時計回り方向(図中矢印B方向)に回転させながら、フレーム25を反時計回り(図中矢印C方向)に回転させる。なお、以下、カッタ29は常に一定方向(例えば図中矢印E方向の時計回り)に回転しながら掘削を行う。
【0037】
図3(b)は、このようにしてカッタ29の位置が移動した状態を示す。同様に、さらに回転体21を時計回り方向(図中矢印B方向)に回転させながら、フレーム25を反時計回り(図中矢印C方向)に回転させ、カッタ29の位置を図3(c)の位置まで移動させる。
【0038】
カッタ29がシールド機1の高さの約半分程度まで移動したら(図3(c))、回転体21の動作はそのままの方向で、フレーム25の回転方向を時計回りに逆転する(図中矢印C方向)。
【0039】
さらにカッタ29が下方の角部近傍まで移動すると(図3(d))、回転体21の回転方向を反時計回りに(図中矢印A方向)逆転させるとともに、フレーム25の回転方向を時計回り(図中矢印D方向)に逆転させる。この状態から、カッタ29が矩形断面の角部に来るように回転体21、フレーム25の位置を調整する(図3(e))。
【0040】
以後、同様に、カッタ29を矩形断面下方に沿って移動させる(図3(f))。以上の動作を繰り返し、カッタ29を掘削範囲内で移動させながら、シールド機1の前方の地山を掘削する。カッタ29は、シールド機1の前面をシールド機1の掘進方向とは略垂直な面内を移動可能であるため、カッタ29のみによって、シールド機1の前方の地山を掘削可能である。
【0041】
なお、図3(f)に示すように、フレーム25、カッタ29が開口部17の前を通過する際においても、開口部17がフレーム25の幅よりも大きいため、フレーム25によって開口部17が完全に塞がれることがない。このため、カッタ29の位置によらず、掘削土砂の排出には問題がない。
【0042】
次に、カッタ29について説明する。図4は、カッタ29を示す図で、図4(a)は正面図、図4(b)はスポーク43の側面図であり、図4(a)のH矢視図である。カッタ29は、カッタ回転軸37を中心として、スポーク43が放射状に設けられる。スポーク43は、略矩形断面の部材である。
【0043】
スポーク43の前面には、複数の刃39が設けられる。図4(a)に示すように、カッタ29は、矢印F方向の一方向に回転する。したがって、カッタ29の各スポーク43に設けられる刃39は、全て同一周方向(図中矢印G方向)に向けて設けられる。カッタ29の回転方向を一方向とすることで、刃39を両側(両回転方向)に向けて設置する必要がなく、このため、カッタ29による掘削時の抵抗を減らすことができる。
【0044】
図4(b)に示すように、スポーク43には、回転内周側の前方掘削部47と、回転外周側の側方掘削部45が設けられる。前方掘削部47は、カッタ29前方(シールド機1の進行方向)に向けて配置される。一方、側方掘削部45は、シールド機1の進行方向に対して、カッタ径方向にやや傾きをもって配置される。
【0045】
前方掘削部47は、主にカッタ29前方(シールド機1の進行方向の前面)に対して地山を掘削する部位である。側方掘削部45は、主にカッタ29の側方(シールド機1の進行方向に略垂直な方向)に対して地山を掘削する部位である。
【0046】
すなわち、前述の通りカッタ29は、回転体21およびフレーム25の回転動作によって、シールド機1の進行方向に略垂直な面内を移動する。側方掘削部45は、カッタ29の移動方向に対して地山を掘削する部位である。
【0047】
スポーク43の側面(カッタ29が回転する方向の側面)には、加泥材注入口49が設けられる。通常、シールド機に使用されるカッタは、シールド機の進行方向前面に対して地山を掘削するため、加泥材注入口はカッタ前方に向けて設置される。一方、本発明のカッタ29は、側方掘削部45により、カッタの29の移動方向(カッタ29の側方)の掘削がメインとなるため、カッタ29の掘削方向であるスポーク43の側面に加泥材注入口49を設けることが望ましい。
【0048】
図5は、カッタ29により地山53を掘削する状態を示す図で、刃39の配置および方向を示した図である。図中矢印Iは、カッタ29の前方であり、シールド機1の進行方向を示す。前方掘削部47の刃39は、刃間隔55aをあけて配置される。前方掘削部47の刃39の設置方向はシールド機1の進行方向と一致する。すなわち、前方掘削部47の刃39はシールド機1の進行方向前面の地山53を掘削する。
【0049】
側方掘削部45においては、スポーク43は前方掘削部47に対して2段階で所定の角度のテーパが形成される。側方掘削部45では、テーパに応じて刃39がカッタ29の径方向に傾けて設けられる。たとえば、前方掘削部47の外周位置には、20度程度の角度を設け、さらにその外周に45度程度の角度を有するテーパ部を設ける。さらに最外周部には、シールド機1の進行方向とは略垂直な面を形成する。したがって、この場合、それぞれの位置での刃39の設置方向は、シールド機1の進行方向に対して、刃角度51aが20度、刃角度51bが45度、刃角度51cが90度となる。
【0050】
また、側方掘削部45における刃39の刃間隔55bは、前方掘削部47における刃間隔55aよりも狭い。すなわち、側方掘削部45においては刃39の設置密度が大きい。これは、カッタ29は、カッタ前方向への掘削よりもカッタ側方への掘削がメインとなるためである。
【0051】
なお、カッタ29の形状は図5に示す例に限られない。側方掘削部45のテーパ形状は2段階以外でもよく、また、角度は問わない。ただし、カッタ側方を効率良く掘削するためには、側方掘削部は20〜90度程度の角度を有することが望ましく、さらに望ましくは、カッタ外周部に少なくとも45〜90度程度の角度が形成されていることが望ましい。
【0052】
次に、シールド機1の掘進とカッタ29の移動の関係について説明する。図6(a)の位置にカッタ29が位置する状態において、シールド機1の側面から見た図が図6(b)である。カッタ29は、シールド機1の掘削範囲の上方を矢印K方向に向けて移動する。これに応じてシールド機1は矢印P方向に掘進する。
【0053】
この状態から、図6(c)に示すように、カッタ29はシールド機1の前方から見て時計回りに移動し(矢印N、M方向)、シールド機1の掘削範囲の下方を矢印O方向に向けて移動する状態のシールド機1の側面から見た図が図6(d)である。
【0054】
図6(a)から図6(c)の状態に至るまでに、カッタ29は掘削範囲の略半分を掘削する。この際のシールド機1は、図6(d)に示すように距離Rだけ前進する。すなわち、カッタ29の移動速度(シールド機1の進行方向とは略垂直な方向の移動)は、シールド機1の進行速度に対して十分に大きい。したがって、カッタ29の前面に対してよりも、カッタ29の側方に対する方が地山53の掘削量が大きい。たとえば、シールド機1が20〜25mm程度前進する間に、カッタ29はシールド機1の前面を1周し、掘削範囲全体を掘削する。したがって、カッタ29は、シールド機1の進行方向に向けて地山を掘削するよりも、主に、側方掘削部45によって、シールド機1の進行方向を略垂直な方向への掘削を行うことができる。
【0055】
以上説明したように、本発明の実施形態にかかるシールド機1によれば、回転体21とフレーム25の動作を適宜連携させることで、シールド機1の本体に対して任意の位置にカッタ29を移動させることができる。すなわち、カッタ29をシールド機1の掘進方向とは略垂直な方向へ移動させることができる。
【0056】
また、カッタ29がシールド機1の前方を掘削する前方掘削部47と、主にシールド機1前方と略垂直な方向を掘削する側方掘削部45とが設けられるため、シールド機1は、カッタ29が取り付けられるシールド機1の進行方向と、進行方向に略垂直な方向の両方向を掘削することができる。
【0057】
また、前方掘削部47における刃39の刃間隔55aよりも側方掘削部45における刃39の刃間隔55bが狭いため、カッタ29の側方(シールド機1前方と略垂直な方向)の掘削能力がカッタ29の前方の掘削能力よりも高い。すなわち、本発明のカッタ29を用いることで、前方向の地山53の掘削能力に対して側方向の地山53の掘削能力が高いため、シールド機1に用いられた際に、シールド機1の掘進方向への掘削よりも、シールド機1の掘進方向とは垂直な方向への掘削能力に優れる。
【0058】
また、カッタ29に設けられる刃39の向きがすべて一方の回転方向に向けて設けられるため、カッタ29に対して逆回転用の余計な刃を必要せず、掘削抵抗が小さい。
【0059】
また、複数の刃39がスポーク43前面に設けられ、スポーク43の側面(カッタの回転周方向)に加泥材注入口49が設けられるため、カッタ29の移動方向であるカッタ29の側方への加泥材の注入を適切に行うことができる。
【0060】
また、シールド機1の進行方向とは略垂直な方向へのカッタ29の移動速度が、シールド機1の掘進速度よりも十分に速いため、カッタ29の掘削方向を、カッタ29の前面ではなく主にカッタ29の側方とすることが可能である。
【0061】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
例えば、シールド機1により掘削可能な断面は、前記した矩形断面に限られない。たとえば、完全円形の掘削断面であってもよく、または、矩形形状と円形状とを組み合わせたような掘削断面であっても掘削可能である。すなわち、シールド機1によれば、フレーム25と回転体21との動作によってカバーできる範囲内であれば、任意の掘削断面を掘削可能である。
【0063】
また、スポーク43の本数や配置位置等は問わない。たとえば、実施例においてはスポーク43を8本設けた例を示したが、より多くのスポークであってもよく、または少なくてもよい。
【0064】
また、スポーク43の形状は、図5に示す例には限られない。例えば、図7(a)に示すように、側方掘削部45を円弧状に形成したスポーク60を使用してもよい。この場合でも前方掘削部47ではカッタ前方に向けて刃39が配置され、側方掘削部45ではカッタ前方に対してカッタ径方向に所定の角度で傾けて刃39が設けられれば良い。
【0065】
また、同様に、図7(b)に示すように、側方掘削部45を単純なテーパのみで形成したスポーク70を使用してもよい。この場合でも前方掘削部47ではカッタ前方に向けて刃39が配置され、側方掘削部45ではカッタ前方に対してカッタ径方向に所定の角度で傾けて刃39が設けられれば良い。
【符号の説明】
【0066】
1………シールド機
3………スキンプレート
5………隔壁
7………油圧ジャッキ
9………テールプレート
11………セグメント
13………テールシール
15………スクリューコンベア
17………開口部
19………チャンバ
21………回転体
23………回転体モータ
25………フレーム
27………フレームモータ
29………カッタ
31………カッタモータ
33………回転体回転軸
35………フレーム回転軸
37………カッタ回転軸
39………刃
41………攪拌翼
43、60、70………スポーク
45………側方掘削部
47………前方掘削部
49………加泥材注入口
51a、51b、51c………刃角度
53………地山
55a、55b………刃間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド機の掘削部に設けられ、地山を掘削するシールド機用カッタであって、
前記カッタは、
前記カッタの回転軸と略垂直な面であるシールド機進行方向前面を掘削する前方掘削部と、
前記前方掘削部の周囲に設けられ、前記シールド機進行方向前面とは略垂直な面を掘削する側方掘削部と、
前記前方掘削部および前記側方掘削部に設けられた複数の刃と、
を有し、
前記前方掘削部により掘削される前記シールド機進行方向と、前記側方掘削部に設けられる刃の配置方向が所定の角度を有することを特徴とするシールド機用カッタ。
【請求項2】
前記側方掘削部に設けられる刃の設置間隔は、前記前方掘削部に設けられる刃設置間隔よりも狭いことを特徴とする請求項1記載のシールド機用カッタ。
【請求項3】
前記カッタに設けられる前記複数の刃は、全て同じ周方向に向けられており、前記カッタは1方向回転においてのみ掘削可能であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシールド機用カッタ。
【請求項4】
前記複数の刃は、前記カッタの回転軸を中心に放射状に設けられたスポークの前面に設けられ、
前記スポークの側面に、加泥材注入口が設けられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のシールド機用カッタ。
【請求項5】
地山を掘進するシールド機であって、
シールド機本体と、
前記シールド機本体を推進するジャッキと、
前記シールド機本体前方に設けられる掘削部と、
を有し、
前記掘削部は、
前記シールド機本体の軸方向の略中心を回転軸とする回転体と、
前記回転体の前面に前記回転軸に対して略垂直な方向に設けられ、一方の端部が前記回転軸から偏心した位置に回転可能に配置されたフレームと、
前記フレームの他方の端部に設けられ、複数の刃を有する回転可能なカッタと、
を具備し、
前記カッタが、請求項1から請求項4のいずれかに記載のシールド機用カッタであることを特徴とするシールド機。
【請求項6】
前記シールド機の進行方向とは略垂直な面内での前記カッタの移動速度は、前記シールド機の掘進速度よりも十分に速く、
前記カッタは、前記カッタの回転軸に対して略垂直な方向に移動しながら前記カッタの側方を掘削可能であることを特徴とする請求項5記載のシールド機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−185237(P2010−185237A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30793(P2009−30793)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行所名〕 株式会社日本工業新聞新社 〔刊行物名〕 フジサンケイビジネスアイ 〔発行年月日〕 平成20年8月22日
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】