説明

シールド筐体、及び、取付構造

【課題】シールド筐体において、導電プレートと他の導電部材との間の接触を安定させる。
【解決手段】導電プレート(3)と樹脂層(2)を有するシールド筐体(1)は、前記導電プレート(3)に形成される第一の貫通孔(3a)と、前記第一の貫通孔に対向するよう樹脂層に形成され、前記第一の貫通孔(3a)の内径より大きな内径を有する第二の貫通孔(2a)と、前記第二の貫通孔に挿入されて前記導電プレートに当接する円筒状部材(5)と、を備える。前記円筒状部材(5)が締結部材(6)から押圧されて、前記導電プレート(3)が他の導電部材(15)に押し付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド筐体、及び、その取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド筐体は、電子部品を収納すると共に、電子部品から放射される電磁波ノイズをシールド(遮蔽)する。特許文献1において、シールド筐体は、導電プレートと、導電プレートの厚み方向の両側に形成した樹脂層を備える。このシールド筐体は、上側部分と下側部分に分離されており、上側部分の導電プレートは、接地部において他の導電部材(下側部分の導電プレート)に接触することによって接地される。
【0003】
シールド筐体の筐体壁は、接地部において、導電プレートの厚み方向の片側で樹脂層が削除されて導電プレートが露出する。接地部の厚み方向の他方の側で、樹脂層と導電プレートとを貫通する貫通孔が設けられる。導電プレートは、貫通孔に挿通されたボルト(締結部材)によって、他の導電部材に締め付けられて接触する。ボルトは、接地部の樹脂層を介して導電プレートを締め付けるため、導電プレートはボルトの頭部に直接的に接することなく保護されて、ボルトによって破損しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−50797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シールド筐体の筐体壁の形状バラツキや他の導電部材の形状バラツキにより、接地部において導電プレートと他の導電部材との間に隙間が発生する場合がある。この場合、ボルトの締結力によって、樹脂層と導電プレートを変形させながら、導電プレートと他の導電部材とを接触させる必要がある。しかし、樹脂層の剛性が大きいため、導電プレートと他の導電部材との間の接触の安定性は低い。
【0006】
本発明は、シールド筐体において、導電プレートと他の導電部材との間の接触の安定性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様に係る導電プレートと樹脂層を有するシールド筐体は、 前記導電プレートに形成される第一の貫通孔と、前記樹脂層に形成される第二の貫通孔とを備える。前記第二の貫通孔は、前記第一の貫通孔に対向するように配置され、前記第一の貫通孔の内径より大きな内径を有する。さらに、シールド筐体は、前記第二の貫通孔に挿入されて前記導電プレートに当接する円筒状部材を備える。前記円筒状部材が締結部材から押圧されて、前記導電プレートが他の導電部材に押し付けられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シールド筐体において、円筒状部材を用いることによって、導電プレートと他の導電部材との間の接触の安定性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】各実施形態に係るシールド筐体の分解図である。
【図2】第一実施形態に係るシールド筐体の接地部を示す斜視図である。
【図3】第一実施形態に係るシールド筐体の接地部を示す断面図である。
【図4】第二実施形態に係るシールド筐体の接地部を示す断面図である。
【図5】(a)第三実施形態に係る円筒状のカラーを示す端面図である。(b)第三実施形態に係る円筒状のカラーを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では図面を参照して本発明を実施するための形態について、さらに詳しく説明する。
【0011】
<第一実施形態>
図1は、各実施形態に係るシールド筐体1を示す分解図である。シールド筐体1には、螺子止めなどによって、カバー11が取り付けられる。シールド筐体1とカバー11の間には、第一のガスケット13が介装されてよい。また、シールド筐体1は、螺子止めなどによって、台座部に相当する導電部材15に組み付けられる。シールド筐体1と導電部材15の間には、第二のガスケット17が介装されてよい。シールド筐体1は、電子部品19を包囲してこれを収容する。例えば、電子部品19は電磁波ノイズを発生しやすいインバータであり、シールド筐体1は、インバータ用筺体である。
【0012】
図2は、第一実施形態に係るシールド筐体1の接地部20を示す斜視図である。図3は、第一実施形態に係るシールド筐体1の接地部20を示す断面図である。
【0013】
シールド筐体1は、金属等から構成される導電プレート3と、樹脂(高分子化合物)から構成される樹脂層2(樹脂の層)とを備える。導電プレート3の厚み方向両側には、一部の表面を除いて、樹脂層2が樹脂モールドなどによって形成されている。樹脂層2と導電プレート3は、シールド筐体1の筐体壁を構成する。接地部20において、シールド筐体1の導電プレート3は、接地された他の導電部材15に接続されることにより接地される。接地部20において、導電プレート3の厚み方向片側の樹脂層2は、形成されていないか又は除去されているため、導電プレート3が片側で導電部材15に接触する。なお、導電部材15は、少なくとも導電プレート3に接する部分で導電性を有して接地されていればよく、他の部分で導電性を有しなくてもよい。また、導電部材15の凹部と樹脂層2の凹部の間に、第二のガスケット17が配置される。
【0014】
また、接地部20において、導電プレート3を貫通する貫通孔3a(第一の貫通孔)が設けられるとともに、導電プレート3の厚み方向の前述の片側の反対側で、樹脂層2を貫通する貫通孔2a(第二の貫通孔)が設けられる。樹脂層2を貫通する貫通孔2aの内径は、導電プレート3を貫通する貫通孔3aの内径よりも大きい。樹脂層2の貫通孔2aと導電プレート3の貫通孔3aは対向して設けられ、貫通孔2aと貫通孔3aは連通する。
【0015】
円筒状の部材であるカラー5は、樹脂層2の貫通孔2a内に配置されている。例えば、カラー5は、樹脂又は金属によって形成される。カラー5の外径は、樹脂層2の貫通孔2aの内径より小さく、カラー5の外周面5bと樹脂層2の貫通孔2aの内周面2bとの間に隙間がある。さらに、カラー5の外径は、導電プレート3の貫通孔3aの内径より大きい。好ましくは、カラー5の内径も、導電プレート3の貫通孔3aの内径より大きい。カラー5は、軸方向の一方の端面において、導電部材15とは反対側で導電プレート3に接する。カラー5の軸方向の厚み(高さ)は、樹脂層2の厚みよりも大きい。
【0016】
締結部材としてのボルト6は、頭部6aと、頭部6aから延在し且つ頭部6aより細い軸部(締結部)6bとを備える。ボルト6は、導電部材15に螺合して導電プレート3と導電部材15を締結する。頭部6aは、カラー5の内側の貫通孔5aより大きく、軸方向の一端において、導電プレート3とは反対側でカラー5の軸方向の端面に接する。軸部6bは、カラー5の内側の貫通孔5a(従って、樹脂層2の貫通孔2a)、及び、導電プレート3の貫通孔3aを貫通する。従って、軸部6bの直径は、カラー5の内径、及び、導電プレート3の貫通孔3aの内径よりも小さく設定されている。軸部6bは、締結部として雄ネジが形成されており、導電部材15の雌ネジなどによって、導電部材15に螺合する。
【0017】
カラー5が、樹脂層2の貫通孔2aに挿入されて導電プレート3に当接した状態で、ボルト6の軸部6bが、導電プレート3の貫通孔3aとカラー5の内側の貫通孔5aに挿通されている。そして、ボルト6の頭部6aは、カラー5を介して導電プレート3を他の導電部材15に押圧する。
【0018】
このように、第一実施形態によると、シールド筐体1は、樹脂層2と導電プレート3を有する。そして、第一の貫通孔3aは、導電プレート3に形成される。第二の貫通孔2aは、第一の貫通孔3aに対向するよう樹脂層2に形成され、第一の貫通孔3aの内径より大きな内径を有する。カラー5(即ち、円筒状部材)は、第二の貫通孔2aに挿入されて導電プレート3に当接する。カラー5がボルト6(即ち締結部材)から押圧されて、導電プレート3が他の導電部材15に押し付けられる。また、シールド筐体1を他の導電部材15に取付けるための取付構造は、上記の第一の貫通孔3a、第二の貫通孔2a、カラー5に加えて、カラー5を押圧するボルト6を備える。導電プレート3がボルト6によって他の導電部材15に締め付けられる。
【0019】
なお、本実施形態において、ボルト6は締結部材の一例として示したものであり、導電プレート3は他の締結部材(リベット(螺合しないもの)等)によって他の導電部材15に押し付けられてもよい。また、ボルト6は、導電部材15と結合する他の部材に螺合して、間接的に導電プレート3と導電部材15を締結してもよい。また、本実施形態において、カラー5の軸方向の厚み(高さ)は、樹脂層2の厚みよりも大きい。しかし、頭部6aが樹脂層2の貫通孔2aより小さい場合には、カラー5の軸方向の厚み(高さ)は、樹脂層2の厚みよりも小さくすることもできる。
【0020】
−作用効果−
以下に、本実施形態の作用効果を説明する。第一実施形態によると、締結部材の例であるボルト6は、円筒状のカラー5(円筒状部材)を介して、導電プレート3を他の導電部材15に締め付ける締結力を導電プレート3に対して付与する。このため、導電プレート3と他の導電部材15との間の接触の安定性に対して、樹脂層2の剛性が悪影響を及ぼすことがなく、接触の安定性が確保できる。なお、本実施形態において、導電プレート3がボルト6に直接的に接しないため、修理等のためにシールド筐体1が分解又は組立てされても、導電プレート3は、ボルト6(締結部材)の取り付け又は取り外しに起因する変形や破損を生じない。
【0021】
また、接地部30において、ボルト6が、樹脂層2を介在させずに、導電プレート3を押圧するため、ボルト6が樹脂層2を変形(ねじり変形など)するために要する締結力(締結トルク)が要らなくなる。例えば、ボルト6を回転させて取り付ける際にボルト6の回転に追従して円筒状のカラー5も回転するため、ボルト6の取り付け後、接地部20又はカラー5においてねじり変形(ひいてはねじり応力)がほとんど残らない。
【0022】
さらに、カラー5と導電プレート3との接触面積は小さいため、ボルト6の締結力を集中して導電プレート3に加えることができる。従って、小さな締結力(締結トルク)で、導電プレート3と他の導電部材15との接触の安定性を高めることができ、さらには、小さな締結力しか加わらないため導電プレート3を薄くすることができ、シールド筐体1の軽量化、コスト削減が可能になる。
【0023】
従来技術において、締結部材(ボルト)は、接地部の樹脂層を介して導電プレートを締め付けるため、樹脂層のクリープ変形に伴い締結力が減少し導電プレートと他の導電部材との接触の安定性を維持できない可能性がある。しかし、本実施形態では、カラー5をクリープ変形しない材料(例えば金属)などで作る場合に、締結力が維持され導電プレート3と他の導電部材15との接触の安定性が向上する。
【0024】
カラー5(円筒状部材)の内径が、導電プレート3の第一の貫通孔3aの内径よりも大きい。従って、カラー5は、軸方向から見て第一の貫通孔3aにはみ出すことなく、一方の端面の全域で安定的に導電プレートに接することができる。このため、導電プレート3と他の導電部材15との間の接触の安定性がさらに向上する。また、カラー5の軸方向の厚み(高さ)は、樹脂層2の厚みよりも大きい。従って、ボルト6の一部(頭部)が樹脂層2に接触することが防止され、導電プレート3と他の導電部材15との間の接触の安定性がさらに向上する。
【0025】
ボルト6は、頭部6aと、ネジが形成され頭部6aから延在する軸部6b(締結部)とを備える。ボルト6の頭部6aがカラー5を押圧し、軸部6bが第一の貫通孔3aとカラー5の内側を通る。従って、好適に、カラー5の一端がボルト6から押圧されて、導電プレート3が他の導電部材15に押し付けられる。
【0026】
<第二実施形態>
図4は、第二実施形態に係るシールド筐体1の接地部20を示す断面図である。第二実施形態において、樹脂層2の貫通孔2aの内周面2bと円筒状のカラー5(即ち円筒状部材)の外周面5bが接する。他の構成は、第一実施形態と同じであり、説明を省略する。
【0027】
カラー5の外径は、樹脂層2の貫通孔2aの内径と同じであり、カラー5の外周面5bと樹脂層2の貫通孔2aの内周面2bとの間に隙間が生じない。なお、カラー5は、樹脂層2の貫通孔2aに圧入されてもよい。この場合、カラー5が貫通孔2aに挿入される前の外径は、樹脂層2の貫通孔2aの内径よりも大きい。
【0028】
第二実施形態によると、樹脂層2の内周面2bと円筒状のカラー5の外周面が接する。シールド筐体1に外部からの振動等の負荷が加わる場合に、カラー5の外周面5bにおいて、シールド筐体1の筐体壁の変位による応力を受けることができ、導電プレート3に発生する応力を低減できる。又、振動等によって樹脂層2とカラー5が相対移動して、導電プレート3がカラー5との接触部などで破損することが防止できる。このため、導電プレートを強度を落とすように薄くでき、軽量化とコスト削減が可能となる。また、カラー5が樹脂層2の貫通孔2aに圧入される場合には、カラー5が貫通孔2aから脱落することが防止でき、シールド筐体1の組立が容易になる。
【0029】
<第三実施形態>
図5(a)(b)は、第三実施形態に係る円筒状のカラー5を示す端面図と側面図である。第三実施形態において、円筒状のカラー5(即ち円筒状部材)は、カラー5の軸方向に延びるスリット5c(切れ目)を備える割カラーである。他の構成は、第二実施形態と同じであり、説明を省略する。
【0030】
第三実施形態によると、円筒状のカラー5には、カラー5の軸方向に延びるスリット5cが形成されている。カラー5が樹脂層2の貫通孔2aに圧入される場合に、カラー5の圧入に要する力を低減でき、カラー5の圧入による取り付けが容易となる。
【0031】
さらに、第三実施形態によると、カラー5はスリット5cを備えるため、ボルト6(締結部材)によって押されると、スリット5cの幅が円周方向で広がり易くなる。従って、カラー5の設置時にカラー5の外周面5bと樹脂層2の貫通孔2aの内周面2bの間に隙間が存在しても、その後、ボルト6を取り付けると、カラー5が軸方向に対して垂直な方向(半径方向)に広がってカラー5の外周面5bと樹脂層2の内周面2bが強く接する。
【0032】
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれることが明白である。
【符号の説明】
【0033】
1 シールド筐体
2 樹脂層
2a 貫通孔(第二の貫通孔)
2b 内周面
3 導電プレート
3a 貫通孔(第一の貫通孔)
5 カラー
5a 貫通孔
5b 外周面
6 ボルト(締結部材)
6a 頭部
6b 軸部(締結部)
11 カバー
13 第一のガスケット
15 導電部材
17 第二のガスケット
19 電子部品
20 接地部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電プレートと樹脂層を有するシールド筐体であって、
前記導電プレートに形成される第一の貫通孔と、
前記第一の貫通孔に対向するよう樹脂層に形成され、前記第一の貫通孔の内径より大きな内径を有する第二の貫通孔と、
前記第二の貫通孔に挿入されて前記導電プレートに当接する円筒状部材と、を備え、
前記円筒状部材が締結部材から押圧されて、前記導電プレートが他の導電部材に押し付けられることを特徴とするシールド筐体。
【請求項2】
前記樹脂層の前記第二の貫通孔の内周面と前記円筒状部材の外周面が接することを特徴とする請求項1に記載のシールド筐体。
【請求項3】
前記円筒状部材は、前記樹脂層の前記第二の貫通孔に圧入されることを特徴とする請求項1又は2に記載のシールド筐体。
【請求項4】
前記円筒状部材は、前記円筒状部材の軸方向に延びるスリットを備えることを特徴とする請求項2又は3に記載のシールド筐体。
【請求項5】
前記円筒状部材の内径が、前記第一の貫通孔の内径よりも大きいことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のシールド筐体。
【請求項6】
前記円筒状部材の軸方向の厚みは、前記樹脂層の厚みよりも大きいことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のシールド筐体。
【請求項7】
前記締結部材は、頭部と、ネジが形成され前記頭部から延在する軸部とを備え、
前記頭部が前記円筒状部材を押圧し、前記軸部が前記第一の貫通孔と前記円筒状部材を貫通することを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のシールド筐体。
【請求項8】
導電プレートと樹脂層を有するシールド筐体を他の導電部材に取付けるための取付構造であって、
前記導電プレートに形成される第一の貫通孔と、
前記第一の貫通孔に対向するよう樹脂層に形成され、前記第一の貫通孔の内径より大きな内径を有する第二の貫通孔と、
前記第二の貫通孔に挿入されて前記導電プレートに当接する円筒状部材と、
前記円筒状部材を押圧する締結部材と、を備え、
前記導電プレートが前記締結部材によって前記他の導電部材に締め付けられることを特徴とする取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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