説明

シールド電線

【課題】横長の電線横断面形状であっても、材料コストと質量とを抑えながらシールド特性を低下させないシールド電線を提供する。
【解決手段】同一平面上に芯線中心25が位置して並ぶ複数の被覆芯線17を有する平型シールド電線11であって、並んだ全ての被覆芯線17を包囲する電磁シールド層27と、電線横断面における被覆芯線17の並び方向に沿う一対の対向する長辺13にのみ沿ってそれぞれ設けられた一対の追加電磁シールド層33と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の横断面が長円(楕円を含む)、長方形等の横長のフラットな形状となるシールド電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、多芯の電線を一括で電磁シールドするシールド電線は、映像信号伝送やモータ駆動信号伝送等の複数の信号伝送を行う際に多用されている。ここで、例えば、三相モータの駆動用に使用するケーブルは、高電圧や大電流の電力伝送となるため、周囲への電磁干渉を考慮して重厚な電磁シールド(シールド性能が高い電磁遮蔽構造)を施した3芯シールド電線となる。三相モータは、3つのコネクタ端子が一列に配置されることが多いため、ケーブルとして使用するシールド電線についても、コネクタの端子配置や断面形状に合わせ、3芯を横に並べた電線断面とすることがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−244838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的に電磁シールド層の横断面形状が円形でないシールド電線は、円形である電線よりもシールド特性が劣る。また、電線の中心位置と電線を構成する全ての芯線との距離が等しくない電線は、等しいシールド電線よりもシールド特性が劣る。これらは、芯線とシールド層を流れる電流密度の分布が均一でなくなり、高い電流密度の部位から電磁界が漏れ易くなることが原因となっている。
【0005】
図3(a)に示すように、3本の被覆芯線507を併設した横長のフラットな形状の電線横断面を有する平型シールド電線501は、電線横断面が円形のシールド電線よりもシールド特性が劣る。このため、同図に示すように、電磁シールド層503を増やす等、電磁シールド構造を変更し、シールド特性を落とさない工夫がなされる。また、図3(b)に示すシールド電線505のように、3本の被覆芯線507を三角配置し、電線横断面を円形状とする方法も採られる。
【0006】
しかしながら、横長の電線横断面をもつ平型シールド電線501は、電磁シールド層503を増やすことで、シールド特性の劣化は防止できるが、電磁シールド構造の質量が増し、材料コストも増大するという問題があった。
また、3芯を三角配置するシールド電線505は、電磁シールド層503を増やす場合に比べて材料コストは低く抑えられるが、平型シールド電線501の厚みTに比べ、電線径Dが大径となることから、車両等の被搭載構造によっては配索に制約が生じるという問題があった。
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、横長の電線横断面形状であっても、材料コストと質量とを抑えながらシールド特性を低下させないシールド電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 同一平面上に芯線中心が位置して並ぶ複数の被覆芯線を有するシールド電線であって、並んだ全ての前記被覆芯線を包囲する電磁シールド層と、電線横断面における前記被覆芯線の並び方向に沿う一対の対向する長辺にのみ沿ってそれぞれ設けられた一対の追加電磁シールド層と、を備えたことを特徴とするシールド電線。
【0009】
上記(1)の構成のシールド電線によれば、シールド特性を悪化させる原因となる高い電流密度の部位、すなわち、電線横断面における被覆芯線の並び方向に沿う長辺に対してのみ追加電磁シールド層を設けることで、コストや質量を抑えながらシールド特性の低下を防止できる。
【0010】
(2) 同一平面上に芯線中心が位置して並ぶ複数の被覆芯線を有するシールド電線であって、並んだ全ての前記被覆芯線を包囲する電磁シールド層が、電線横断面における前記被覆芯線の並び方向に沿う一対の対向する長辺に沿ってそれぞれ設けられた一対の高密度編組シールド部と、前記高密度編組シールド部の両側端同士を接続する一対の低密度編組シールド部と、を備えたことを特徴とするシールド電線。
【0011】
上記(2)の構成のシールド電線によれば、シールド特性を悪化させる原因となる高い電流密度の部位、すなわち、電線横断面における被覆芯線の並び方向に沿う長辺に対しては高密度編組シールド部を設け、それ以外は低密度編組シールド部を設けることで、コストや質量を抑えながらシールド特性の低下を防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るシールド電線によれば、横長の電線横断面形状であっても、材料コストと質量とを抑えながらシールド特性を低下させることがない。
【0013】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係るシールド電線の横断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るシールド電線の横断面図である。
【図3】(a)は従来の横長のフラットな形状の電線横断面を有する平型シールド電線の横断面図、(b)は従来の3芯が三角配置されるシールド電線の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る平型シールド電線11は、同一平面上に芯線中心25が位置して並ぶ複数本の被覆芯線17を有するシールド電線である。平型シールド電線11は、電線横断面における被覆芯線17の並び方向に沿う一対の対向する長辺13と短辺15で異なる電磁シールド構造を持ち、長辺13が短辺15に比べ、高いシールド効果を有するように構成されている。
【0016】
具体的に、本実施形態の平型シールド電線11は、被覆芯線17と、絶縁層19と、並んだ全ての被覆芯線17を包囲する電磁シールド層27と、電線横断面における被覆芯線17の並び方向に沿う一対の対向する長辺13にのみ沿ってそれぞれ設けられた一対の追加電磁シールド層33と、を備える。なお、本明細書中で電線横断面とは、電線の軸線に直交する方向の断面を言う。
【0017】
被覆芯線17は、線状の導体21が絶縁外被23によって覆われる。絶縁外被23は、例えばフッ素樹脂、ポリエチレン、発泡ポリエチレン等を用いることができる。導体21は、図示したような断面円形状の丸型の単線であっても断面矩形状の平型の単線であってもよく、複数の素線を撚り合わせた撚り線であってもよい。本実施形態において、被覆芯線17は3本である。この他、被覆芯線17は2本であっても、4本以上であってもよい。3本の被覆芯線17は、同一平面上に芯線中心25が位置して並ぶ。これにより、平型シールド電線11は、横長の平たい電線横断面形状を有する。
【0018】
絶縁層19は、例えばフッ素樹脂、ポリエチレン、発泡ポリエチレン等の絶縁樹脂からなり、3本の被覆芯線17を覆って断面長円形状となる。平型シールド電線11は、平たい電線横断面形状であれば、図示例の断面長円形状の他、断面楕円形状、断面矩形状等であってもよい。従って、平型シールド電線11は、被覆芯線17の並び方向に沿う方向が長辺13となり、その直交方向が短辺15となる。
【0019】
被覆芯線17は、絶縁層19を介して電磁シールド層27によって包囲される。電磁シールド層27には、金属箔や金属編組を用いることができる。本実施形態では、電磁シールド層27を金属箔とした例で説明する。金属箔としては、例えばアルミ箔や銅箔等を用いることができる。この金属箔は、並んだ全ての被覆芯線17を包囲し、断面長円形状となる。
【0020】
また、電磁シールド層27の外側には、電線の軸線に沿って延びる帯状の追加電磁シールド層33がそれぞれの長辺13部分に沿って設けられている。追加電磁シールド層33には、電磁シールド層27と同様に金属箔や金属編組を用いることができる。本実施形態では、追加電磁シールド層33も金属箔とした例で説明する。
【0021】
電磁シールド層27と追加電磁シールド層33との間には、絶縁層19が介在しても、介在しなくてもよい。絶縁層19が介在する場合には、電磁シールド層27と追加電磁シールド層33とは接しない2層構造となる。また、絶縁層19が介在しない場合には、電磁シールド層27と追加電磁シールド層33とは接する2重構造となる。
本実施形態の平型シールド電線11は、電磁シールド層27と追加電磁シールド層33とが長辺13部分にのみ沿って2層構造となっている。
【0022】
次に、上記構成を有する平型シールド電線11の作用を説明する。
平型シールド電線11は、空中と導体21との間を伝わるノイズの阻止手段であるシールド(遮蔽)を備える。このシールドは、電磁シールド層27と追加電磁シールド層33とによって構成される。空中を伝わるノイズには、静電誘導、電磁誘導及び電波(電磁波)がある。静電誘導を阻止するのが静電シールド、電磁誘導を阻止するのが磁気シールド、電磁波をシールドするのが電磁シールドとなる。平型シールド電線11は、電磁シールドの機能を有する。
【0023】
電磁波における電界は電気における電圧に、磁界は電気における電流に対応する。電圧と電流との間には、インピーダンスが存在し、伝送路中の電圧と電流との間には特性インピーダンスが存在する。同様に、電磁波においては、電界と磁界との間に波動インピーダンスが存在する。伝送路においては、特性インピーダンスが異なる境界で、一部が反射し、一部が透過する。電磁波においても同様に、波動インピーダンスが異なる境界で、一部が反射し、一部が透過する。
【0024】
金属箔からなる電磁シールド層27と追加電磁シールド層33による電磁波の損失は、各種の損失を合計したものとなる。全損失は、反射損失と、吸収損失と、再反射補正と、の総和である。
本実施形態の平型シールド電線11では、シールド特性を悪化させる原因となる高い電流密度の部位、すなわち、長辺13部分に対してシールド性能が高い電磁遮蔽構造を施している。
【0025】
つまり、平型シールド電線11では、長辺13部分に対してのみ追加電磁シールド層33を設けることで、追加電磁シールド層33を電磁シールド層27の全外周に設けた場合に比べて質量を減らし、材料コストも低減することができる。また、実測とシミュレーションにより、長辺13部分に対してのみ追加電磁シールド層33を設けた平型シールド電線11の場合でも、長辺13部分における電磁波の全損失が大きくなり、追加電磁シールド層33を電磁シールド層27の外側全周に設けた平型シールド電線の場合と同等のシールド特性が実現できることを確認できた。
従って、本実施形態の平型シールド電線11によれば、材料コストや質量を抑えつつ、シールド特性の悪化が防止される。
【0026】
次に、本発明の第2実施形態に係るシールド電線について説明する。
図2は、本発明の第2実施形態に係る平型シールド電線35の横断面図である。なお、図1に示した第1実施形態の平型シールド電線11と同一の部材には同一の符号を付し重複する説明は省略するものとする。
【0027】
図2に示すように、本第2実施形態に係る平型シールド電線35は、同一平面上に芯線中心25が位置して並ぶ複数本の被覆芯線17を有するシールド電線である。平型シールド電線35は、横長の平たい電線横断面形状を有し、電線横断面における被覆芯線17の並び方向に沿う一対の対向する長辺13と短辺15で異なる電磁シールド構造を持ち、長辺13が短辺15に比べ、高いシールド効果を有するように構成されている。
【0028】
具体的に、本実施形態の平型シールド電線35は、被覆芯線17と、絶縁層19と、並んだ全ての被覆芯線17を包囲する電磁シールド層31と、を備える。更に、電磁シールド層31は、電線横断面における被覆芯線17の並び方向に沿う一対の対向する長辺13に沿ってそれぞれ設けられた一対の高密度編組シールド部37と、高密度編組シールド部37の両側端同士を接続する一対の低密度編組シールド部39と、を備える。なお、高密度編組シールド部37と低密度編組シールド部39との境界部には、グラディエーションがあってもよい。
【0029】
即ち、3本の被覆芯線17を覆って断面長円形状となった絶縁層19の外周は、電磁シールド層31によって覆われている。電磁シールド層31には、金属編組を用いることができる。金属編組は、例えば素線径0.10〜数mmの錫めっき軟銅線等を用い、所定の編組角度で編み合わせてなる。
そして、長辺13部分に沿って配設される高密度編組シールド部37と短辺15部分に沿って配設される低密度編組シールド部39との密度の差は、例えば、素線径の差、ピッチの差、編組角度の差によって付与することができる。そこで、低密度編組シールド部39は高密度編組シールド部37に比べて単位面積当りの質量を軽くできる。
【0030】
次に、上記構成を有する平型シールド電線35の作用を説明する。
本実施形態の平型シールド電線35においても、シールド特性を悪化させる原因となる高い電流密度の部位、すなわち、長辺13部分に対してシールド性能が高い高密度編組シールド部37を配置している。
【0031】
つまり、平型シールド電線35では、長辺13部分に対して高密度編組シールド部37を設けると共に、短辺15部分に対して低密度編組シールド部39を設けることで、高密度編組シールド部37を絶縁層19の全外周に設けた場合に比べて質量を減らし、材料コストも低減することができる。また、実測とシミュレーションにより、長辺13部分に対して高密度編組シールド部37を設けると共に、短辺15部分に対して低密度編組シールド部39を設けた平型シールド電線35の場合でも、長辺13部分における電磁波の全損失が大きくなり、高密度編組シールド部37を絶縁層19の全外周に設けた平型シールド電線の場合と同等のシールド特性が実現できることを確認できた。
従って、本実施形態の平型シールド電線35によれば、材料コストや質量を抑えつつ、シールド特性の悪化が防止される。
【0032】
なお、本発明のシールド電線は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0033】
11、35…平型シールド電線(シールド電線)
13…長辺
15…短辺
17…被覆芯線
19…絶縁層
25…芯線中心
27…電磁シールド層
31…電磁シールド層
33…追加電磁シールド層
37…高密度編組シールド部
39…低密度編組シールド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一平面上に芯線中心が位置して並ぶ複数の被覆芯線を有するシールド電線であって、
並んだ全ての前記被覆芯線を包囲する電磁シールド層と、電線横断面における前記被覆芯線の並び方向に沿う一対の対向する長辺にのみ沿ってそれぞれ設けられた一対の追加電磁シールド層と、を備えたことを特徴とするシールド電線。
【請求項2】
同一平面上に芯線中心が位置して並ぶ複数の被覆芯線を有するシールド電線であって、
並んだ全ての前記被覆芯線を包囲する電磁シールド層が、電線横断面における前記被覆芯線の並び方向に沿う一対の対向する長辺に沿ってそれぞれ設けられた一対の高密度編組シールド部と、前記高密度編組シールド部の両側端同士を接続する一対の低密度編組シールド部と、を備えたことを特徴とするシールド電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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