説明

シールリング

【課題】吹き抜け現象の発生の抑制を図ることのできるシールリングを提供する。
【解決手段】密封対象流体による流体圧力によって、環状溝210における低圧側(L)の側面に対して押圧され、かつ内周面側からの力を受けることで拡径してハウジング300に設けられた軸孔310の内周面に押圧されることによって前記環状隙間を封止するシールリング100であって、高圧側(H)の側面と内周面との間には、高圧側(H)に向かうにつれて拡径するテーパ面120が形成されており、かつ、外周面からテーパ面120に連通する複数の溝130が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸とハウジングの軸孔との間の環状隙間を封止するシールリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用のATやCVTにおいては、油圧を保持させるために、相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するシールリングが設けられている。図6を参照して、従来例に係るシールリングについて説明する。図6は従来例に係るシールリングの使用時の状態を示す模式的断面図である。
【0003】
図示のシールリング500は、軸200の外周に設けられた環状溝210に装着され、軸200が挿通されるハウジング300の軸孔310の内周面と環状溝210の側面のそれぞれに摺動自在に接触することで、軸200とハウジング300の軸孔310との間の環状隙間を封止するように構成される。上記のような用途で用いられるシールリング500の場合、従来、自動車のエンジンがかかり油圧が高くなっている状態においては、シールリング500が軸孔310の内周面と環状溝210の側面に密着して十分に油圧を保持する機能を発揮し、エンジンの停止により油圧がかからない状態においてはシールリング500が軸孔310の内周面や環状溝210の側面に対して密着状態から解放されて微小に離れた状態となるように構成されている。つまり、油圧がかかっていない状態から油圧が高くなる過程で、シールリング500は、環状溝210における低圧側(L)の側面に対して押圧され、かつ内周面側からの力を受けることで拡径してハウジング300に設けられた軸孔310の内周面に押圧されることによって環状隙間を封止する。
【0004】
しかしながら、上記のように構成されたシールリング500においては、油圧が高くなる過程で、シールリング500の拡径が遅れてしまって、シールリング500の外周面側において、高圧側(H)から低圧側(L)に向かって、油圧が吹き抜けてしまう現象(図中矢印参照)が生じてしまうことがある。このような吹き抜け現象により、シール性が発揮されずに、油圧を保持する機能が損なわれてしまう問題がある。
【0005】
なお、環状溝210の溝幅を広くすることで、シールリング500と環状溝210の側面との間のクリアランスを大きくすることで上記の問題は解消可能であるが、周辺の構造上の制約などの理由から溝幅を広くできない場合があり、そのような場合には他の対策を取る必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−58028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、吹き抜け現象の発生の抑制を図ることのできるシールリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0009】
すなわち、本発明のシールリングは、軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的
に回転する前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する樹脂製のシールリングにおいて、
密封対象流体による流体圧力によって、前記環状溝における低圧側の側面に対して押圧され、かつ内周面側からの力を受けることで拡径して前記ハウジングに設けられた軸孔内周面に押圧されることによって前記環状隙間を封止するシールリングであって、
高圧側の側面と内周面との間には、高圧側に向かうにつれて拡径するテーパ面が形成されており、かつ、外周面から該テーパ面に連通する複数の溝が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、複数の溝によって、高圧側の側面から内周面側に向かう流路が十分に確保される。また、テーパ面を設けたことによって、流体圧力がかかっていない状態から高圧になる過程において、早い段階からシールリングを拡径させる力が作用することになる。従って、シールリングの外周面側において、高圧側から低圧側に向かって、密封対象流体が吹き抜けてしまう現象の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、吹き抜け現象の発生の抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明の実施例に係るシールリングの側面図(使用時における高圧側の側面図)である。
【図2】図2は本発明の実施例に係るシールリングの外周面側から見た図である。
【図3】図3は本発明の実施例に係るシールリングの側面図(使用時における低圧側の側面図)である。
【図4】図4は本発明の実施例に係るシールリングの一部破断斜視図である。
【図5】図5は本発明の実施例に係るシールリングの使用時の状態を示す模式的断面図である。
【図6】図6は従来例に係るシールリングの使用時の状態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0014】
(実施例)
図1〜図5を参照して、本発明の実施例に係るシールリングについて説明する。なお、本実施例に係るシールリングは、自動車用のATやCVTなどの変速機において、油圧を保持させるために、相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する用途に好適に用いることができる。
【0015】
<シールリングの構成>
特に、図1〜図4を参照して、本発明の実施例に係るシールリングの構成について説明する。
【0016】
本実施例に係るシールリング100は、樹脂材料(例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン))により構成される。また、シールリング100における周方向の一か所には、装着性を高める等のためにカット部(切断部)110が設けられている。なお、図
示の例においては、外周面側と両側面側においてステップ状に切断される構造を取り、環境温度の変化に伴う線膨張の影響を殆ど受けることなく、安定したシール性を発揮可能な特殊ステップカットの場合を示している。ただし、カット部110の構成は、これに限らず、ストレートカット、バイアスカット、ステップカットなど、適宜の技術を採用可能である。
【0017】
そして、本実施例に係るシールリング100においては、一方の側面(後述のように使用時における高圧側の側面)と内周面との間には、一方の側面側に向かうにつれて拡径するテーパ面120が形成されている。このテーパ面120は、カット部110付近を除く全領域に亘って形成されている。また、シールリング100には、外周面からテーパ面120に連通する複数の溝130が形成されている。
【0018】
<シールリングの使用時のメカニズム>
特に、図5を参照して、本実施例に係るシールリング100の使用時のメカニズムについて説明する。なお、図5中のシールリング100の断面図は、図1におけるAA断面図に相当する。
【0019】
本実施例に係るシールリング100は、軸200の外周に設けられた環状溝210に装着され、相対的に回転する軸200とハウジング300との間の環状隙間を封止する。より具体的には、シールリング100は、密封対象流体(ここでは、油)による流体圧力(油圧)によって、環状溝210における低圧側(L)の側面に対して押圧され、かつ内周面側からの力を受けることで拡径してハウジング300に設けられた軸孔310の内周面に押圧されることによって環状隙間を封止する。なお、軸200とハウジング300が相対的に回転している間、シールリング100と、環状溝210の側面、及び軸孔310の内周面のうちの少なくとも一方との間で摺動する。また、自動車のエンジンが停止した状態においては、油圧は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけると油圧は高くなる。図5中のシールリング100において、点線は無負荷の状態時を示し、実線は油圧が高くなった状態時を示している。
【0020】
本実施例に係るシールリング100においては、図5に示すように、テーパ面120及び複数の溝130が設けられている側の側面が高圧側(H)となるように、環状溝210内にシールリング100が装着される。従って、環状溝210における高圧側(H)の側面とシールリング100の高圧側(H)の側面との間の隙間が狭くても、複数の溝130によって流路が十分に確保される。また、無負荷状態から油圧が高くなる際に、油が高圧側(H)から低圧側(L)に流れていく過程において、テーパ面120に油圧が作用することによって、早い段階からシールリング100を拡径させる方向に力が作用する。
【0021】
<本実施例に係るシールリングの優れた点>
本実施例に係るシールリング100によれば、複数の溝130によって、高圧側(H)の側面から内周面側に向かう流路が十分に確保される。また、テーパ面120を設けたことによって、流体圧力がかかっていない状態から高圧になる過程において、早い段階からシールリング100を拡径させる力が作用する。従って、シールリング100の外周面側において、高圧側(H)から低圧側(L)に向かって、油が吹き抜けてしまう現象の発生を抑制できる。これにより、安定したシール性を発揮させることができる。
【符号の説明】
【0022】
100 シールリング
110 カット部
120 テーパ面
130 溝
200 軸
210 環状溝
300 ハウジング
310 軸孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する樹脂製のシールリングにおいて、
密封対象流体による流体圧力によって、前記環状溝における低圧側の側面に対して押圧され、かつ内周面側からの力を受けることで拡径して前記ハウジングに設けられた軸孔内周面に押圧されることによって前記環状隙間を封止するシールリングであって、
高圧側の側面と内周面との間には、高圧側に向かうにつれて拡径するテーパ面が形成されており、かつ、外周面から該テーパ面に連通する複数の溝が形成されていることを特徴とするシールリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−108605(P2013−108605A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256024(P2011−256024)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】