説明

シール先端部防護装置

【課題】推進時のトンネルの揺動に対応しつつ弾性シール部材の先端部を防護することができるシール先端部防護装置を提供する。
【解決手段】先行トンネル10bの隣に推進工法によって構築される後行トンネル10aに設けられるシール先端部防護装置Gであって、後行トンネル10aの外表面に取り付けられたシール部材30の先端部の前方に設けられるスクレーパ部材50と、このスクレーパ部材50を先行トンネル10bに押し付けるための押圧手段とを備えており、押圧手段は、後行トンネル10aの外表面とスクレーパ部材50との間で膨縮する袋体71と、この袋体71内の流体圧を保持する流体圧保持装置72とを備えて成り、袋体71が膨縮することでスクレーパ部材50が先行トンネル10bの外表面に追従して押し付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先行トンネルと後行トンネルの間に設けられたシール部材の先端部を防護するシール先端部防護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数本の小断面トンネルを構築した後に、各トンネルの不要な覆工を撤去して大きな空間を形成しつつ、各トンネルの残置された覆工を利用して本設の頂底版や側壁などを形成することにより大断面トンネルを築造する技術が知られている。なお、複数の小断面トンネルは、時間差をもって順次に構築され、後行のトンネルは、先行のトンネルの隣りに構築される。また、各トンネルは、例えば、推進工法によって構築される。
【0003】
ここで、推進工法とは、トンネルの覆工となる筒状の推進函体(トンネル函体)を坑口から順次地中に圧入してトンネルを構築する工法である。なお、推進函体の先端には、刃口や掘進機などが取り付けられている。推進工法の掘進機は、推進函体に反力をとって自ら掘進するもの(つまり、推進ジャッキを装備しているもの)でもよいし、推進函体を介して伝達された元押しジャッキの推力により掘進するものであってもよい。
【0004】
ところで、推進工法で小断面トンネルを構築する場合、特に、トンネルの後方から元押しジャッキで推進函体を押し出す場合には、後行トンネルが、先行トンネルに対して平行に推進しないことがある。したがって、先行トンネルを後行トンネルに沿って平行に推進させるために、隣り合う二つのトンネルのうち、一方のトンネルには、他方のトンネル側に開口するガイド溝がトンネル軸方向に沿って形成され、他方のトンネルには、一方のトンネルのガイド溝に遊嵌するガイド突条が形成された大断面トンネルが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような構成の大断面トンネルでは、ガイド突条とガイド溝との間に止水材を充填することで、隣り合うトンネル間の隙間をシールするようになっている。しかしながら、前記の大断面トンネルでは、ガイド溝を洗浄してその内部に詰まった裏込材を除去した後に止水材を充填するため、施工に多くの手間と時間を要してしまう問題があった。
【0006】
そこで本発明者らは、前記の問題を解決すべく施工が容易な止水構造を開発した(特許文献2参照)。この止水構造は、隣り合う二つのトンネルのうち、一方のトンネルの他方のトンネルに対向する外表面に推進方向に沿って設けられる直線状の弾性シール部材を備え、弾性シール部材は、一方のトンネルの外表面に固定されるベース部と、このベース部と一体的に形成され先端が大断面トンネルの外側に向いたリップ部とを備えてなり、リップ部は、大断面トンネルの外側の圧力によって他方のトンネルの外表面に向かって弾性的に付勢されるように構成されているものである。
【0007】
このような構成の止水構造によれば、トンネルの外表面に弾性シール部材を設けてトンネルを推進させるだけで止水施工を行うことができるので、施工の手間と時間を短縮でき、施工が容易になる。さらに、弾性シール部材は、大断面トンネルの外側の地山の圧力によって隣り合う他方のトンネルの外表面に向かって弾性的に付勢されるリップ部を有しているので、他方のトンネルとの密着性が高くなり、止水性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−90098号公報
【特許文献2】特開2010−133100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2のような止水構造では、トンネルの推進時に、弾性シール部材の推進方向先端部に地山の土圧がかかるので、その先端部を防護する構成が必要となる。特許文献2には、図10に示すように、弾性シール部材101の推進方向先端部に先導カバー102を設けた構成が記載されている。この先導カバー102は、弾性シール部材101の先端面を覆うように設けられる部材であって、硬質樹脂あるいは鋼製の部材にて形成されている。先導カバー102は、先端から後方に向かうに連れて厚くなるように傾斜して形成されており、トンネル100の推進時に前方の地山の土砂を弾性シール部材101が通過する位置から押し退けるようになっている。ところで、推進時に後行のトンネルが揺動すると、トンネル間の距離が変動するが、前記の先導カバー102は弾性を有していないので、この変動に対して追従するのが困難であった。
【0010】
このような観点から、本発明は、推進時のトンネルの揺動に対応しつつシール部材の先端部を防護することができるシール先端部防護装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するために創案された本発明は、先行トンネルの隣に推進工法によって構築される後行トンネルに設けられるシール先端部防護装置であって、前記後行トンネルの外表面に取り付けられたシール部材の先端部の前方に設けられるスクレーパ部材と、このスクレーパ部材を前記先行トンネルに押し付けるための押圧手段とを備えており、前記押圧手段は、前記後行トンネルの外表面と前記スクレーパ部材との間で膨縮する袋体と、この袋体内の流体圧を保持する流体圧保持装置とを備えて成り、前記袋体が膨縮することで前記スクレーパ部材が前記先行トンネルの外表面に追従して押し付けられることを特徴とするシール先端部防護装置である。
【0012】
このような構成によれば、後行トンネルが先行トンネルから離間したときは、スクレーパ部材が袋体に押されて先行トンネルの外表面に追従して当接するので、スクレーパ部材がシール部材前方の土砂を押し退けてシール部材の先端部を防護することができる。また、後行トンネルが先行トンネルに近接したときは、スクレーパ部材が後行トンネル側に傾く。このとき、袋体はスクレーパ部材に押されて収縮する。また、スクレーパ部材は先行トンネルの外表面に当接しているので、スクレーパ部材がシール部材前方の土砂を押し退けてシール部材の先端部を防護することができる。
【0013】
また、本発明は、前記スクレーパ部材が、板バネをゴム部材で覆って構成されていてもよい。
【0014】
このような構成によれば、スクレーパ部材の表面がゴム部材で形成されているので、先行トンネルの外表面への接触性が高くなり、スクレーパ部材と先行トンネルとの間に隙間が発生し難くシール部材前方の土砂を効率的に押し退けることができる。
【0015】
また、本発明は、前記スクレーパ部材が、ゴム部材からなる基端部と、鉄板からなる中間部と、ゴム部材からなる先端部とを備えて構成されていてもよい。
【0016】
さらに、本発明は、前記スクレーパ部材が、板バネをゴム部材で覆って形成された基端部と、鉄板からなる中間部と、ゴム部材からなる先端部とを備えて構成されていてもよい。
【0017】
このような構成によれば、先行トンネルの外表面に接触するスクレーパ部材の先端部がゴム部材で形成されているので、先行トンネルの外表面への接触性が高くなり、スクレーパ部材と先行トンネルとの間に隙間が発生し難くシール部材前方の土砂を効率的に押し退けることができる。また、土砂と接触する中間部が鉄板にて構成されているので、耐摩耗性を高めることができる。
【0018】
さらに、本発明は、前記スクレーパ部材の先端部に、前記先行トンネルの外表面側に突出する突条が形成されていてもよい。
【0019】
このような構成によれば、突条が先行トンネルの外表面へ押し付けられて密着性が高くなるので、土砂の押し退け効果をより一層高められる。
【0020】
また、本発明は、前記後行トンネルには、推進方向に沿って延在して前記シール部材を収容するシール収容溝が形成されており、前記スクレーパ部材は、前記シール収容溝の先端部に配置されており、前記袋体を収縮させたときに前記シール収容溝内に収容されていてもよい。
【0021】
このような構成によれば、スクレーパ部材がシール収容溝に収容されて後行トンネルの最外周面からはみ出さない状態にすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のシール先端部防護装置によれば、推進時の後行トンネルの揺動に対応しつつシール部材の先端部を防護することができるといった優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係るシール先端部防護装置を示した図であって、(a)は先行トンネル側から見た矢視図、(b)は側方断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るシール先端部防護装置のシール収容溝への設置状態を示した斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るシール先端部防護装置を示した側方断面図であって、(a)は隣り合うトンネル間の距離が大きい場合の図、(b)はトンネル間の距離が小さい場合の図である。
【図4】大断面トンネルを示した断面図である。
【図5】図4のX1部分を示した拡大断面図である。
【図6】他の実施形態に係るシール先端部防護装置を示した図であって、(a)は先行トンネル側から見た矢視図、(b)は側方断面図である。
【図7】他の実施形態に係るシール先端部防護装置のシール収容溝への設置状態を示した斜視図である。
【図8】他の実施形態に係るシール先端部防護装置を示した側方断面図であって、(a)は隣り合うトンネル間の距離が大きい場合の図、(b)はトンネル間の距離が小さい場合の図である。
【図9】さらに他の実施形態に係るシール先端部防護装置を示した図であって、(a)は先行トンネル側から見た矢視図、(b)は側方断面図である。
【図10】(a)および(b)は、従来の止水構造の先端部を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係るシール先端部防護装置Gについて、止水構造Wおよび継手J1と合わせて、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態において、前後方向は、トンネルを構成するトンネル函体の推進方向の前後を示す。また、上下方向は、図1乃至図3に示すように、後行トンネル10aを下側とし、先行トンネル10bを上側とする場合がある。
【0025】
図4に示すように、止水構造Wは、推進工法によって並設された複数本のトンネル10を利用して築造する大断面トンネル1の内部(内空部)と外部(地山部)との間を止水する構造である。大断面トンネル1は、その横断面の全てを実質的に含むように並設された複数本(本実施形態では六本)のトンネル10,10,…を利用して築造したものであり、頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを備えている。各トンネル10は、軸方向に連接されたトンネル函体によって構成されている。
【0026】
図5に示すように、隣り合う二つのトンネル10,10のうち、先行トンネル10bには、後行トンネル10a側に開口するガイド溝D1がトンネル軸方向(図5において紙面垂直方向)に沿って形成されており、後行トンネル10aには、先行トンネル10bのガイド溝D1に遊嵌する突条P1が形成されている。なお、以下では、ガイド溝D1と突条P1を合わせて、単に「継手J1」と称することがある。そして、この継手J1よりも大断面トンネル1の外側(地山側)に、止水構造Wが形成されている。つまり、継手J1と止水構造Wとが別個に設けられている。
【0027】
止水構造Wは、弾性シール部材(シール部材)30を備えてなる。この弾性シール部材30の前方には、弾性シール部材30の先端部を防護するシール先端部防護装置Gが設けられている(図2および図3参照)。なお、図1乃至図3においては、後行トンネル10aが下側になるように図示している。
【0028】
図5に示すように、弾性シール部材30は、隣り合う二つのトンネル10,10の間に推進方向に延在して設けられた部材である。弾性シール部材30は、一方のトンネル10(後行トンネル10a)の表面のうち、他方のトンネル10(先行トンネル10b)に対向する部分に設けられている。弾性シール部材30は、後行トンネル10aの外周面に形成されたシール収容溝15に収容されている。弾性シール部材30は、例えば、耐摩耗性を備えた硬質ゴムやウレタン等の材料にて構成されている。弾性シール部材30は、推進方向に連続して設けられている。弾性シール部材30は、ベース部31とリップ部32とを備えてなる。
【0029】
図3および図5に示すように、ベース部31は、後行トンネル10aに固定される部分であって、長尺の板状に形成されて、推進方向に延在している。ベース部31は、例えば、ボルトBや接着剤等の固定手段によって、後行トンネル10aの外表面(後記するシール収容溝15の底面)に固定されている。ベース部31には、推進方向に長い長孔にて構成されたボルト貫通孔35(図3参照)が形成されており、固定位置の調整が可能になっている。シール収容溝15の底面には、接着材を塗布してなる接着層(図示せず)が形成されている。つまり、ベース部31は、接着層を介してシール収容溝15の底面に密着しており、接着層により後行トンネル10aの外表面とベース部31とのシール性が確保されている。
【0030】
リップ部32は、ベース部31と一体的に形成されている。リップ部32は、ベース部31の表面から先行トンネル10bに向かって斜めに立ち上がっており、ベース部31とリップ部32とで、断面が略V字状(図5では逆向きに配置されている)を呈している。リップ部32は、ベース部31に対して弾性的に傾倒変形可能な部位である。リップ部32は、後行トンネル10aと先行トンネル10bとに挟まれていて、初期状態(図5中、二点鎖線にて示す)よりも傾倒した状態で、先行トンネル10bの外表面に接触する。このとき、リップ部32は、初期状態に復元しようとする力によって、先行トンネル10bに向かって弾性的に付勢する。
【0031】
さらに、弾性シール部材30は、リップ部32の先端が大断面トンネル1の外側に向くように配置されている。つまり、ベース部31とリップ部32とにより形成される断面略V字状の溝条が、大断面トンネル1の外側に向いて開くように配置されている。これによって、弾性シール部材30の断面略V字状の溝条部分に、大断面トンネル1の外側の圧力(水圧または土圧)が作用するようになっている。すなわち、リップ部32は、大断面トンネル1の外側の圧力によって、先行トンネル10bの外表面に押圧されて、先行トンネル10bに密着する。
【0032】
シール収容溝15は、後行トンネル10aの表面のうち、先行トンネル10bに対向する部分に形成され、推進方向に沿って延在している。シール収容溝15は、矩形断面を呈しており、トンネル10の表面のスキンプレート11に形成された開口部の内側に、溶接固定された側板16a,16aと底板16bとで区画されている。シール収容溝15は、弾性シール部材30を収容できるように、弾性シール部材30の幅寸法より僅かに大きい幅寸法を有している。図3に示すように、シール収容溝15は、ベース部31の厚さ寸法より大きく、弾性シール部材30全体の厚さ寸法より小さい深さ寸法を有しており、弾性シール部材30をシール収容溝15に収容したときにリップ部32の先端側(ベース部31につながる基端側の逆側)の一部が、シール収容溝15の開放端から突出するようになっている。シール収容溝15には、弾性シール部材30の他にも、シール先端部防護装置Gが収容される。シール先端部防護装置Gは、弾性シール部材30の推進方向前方で、シール収容溝15の前端部に設けられている(図2および図3参照)。
【0033】
なお、シール部材は、本実施形態では、弾性シール部材30であって、断面略V字状に形成されているが、弾性シール部材30の断面形状を限定する趣旨ではない。例えば、断面U字状、L字状、T字状等、他の形状であってもよい。また、シール部材の構成は、本実施形態に限定されるものではなく、例えば、袋体の内部に流体を充填して先行トンネルに押圧される構成のものであってもよい。
【0034】
図1および図2に示すように、シール先端部防護装置Gは、後行トンネル10aの外表面で弾性シール部材30の先端部の前方に設けられるスクレーパ部材50と、このスクレーパ部材50を先行トンネル10b側に押圧させる押圧手段70とを備えている。シール先端部防護装置Gは、後行トンネル10aの先頭のトンネル函体のシール収容溝15に設けられている。
【0035】
スクレーパ部材50は、後行トンネル10aに固定される前方固定部51と、この前方固定部51と一体に形成され先行トンネル10bの外表面側に傾動可能な後方傾動部52とを備えて成る。スクレーパ部材50は、平面視で矩形形状を呈しており(図1の(a)参照)、シール収容溝15より僅かに小さい幅寸法を有している。スクレーパ部材50は、その推進方向前方側が前方固定部51となり、推進方向後方側が後方傾動部52となる。前方固定部51は、略全面がシール収容溝15の底面に沿って平行に配置されており、後端部のみ斜め上方(底面から離れる方向)に傾斜している。前方固定部51は、後記する押圧手段70の枠部材73の上に配置されている。前方固定部51の上には取付金具60が設けられている。取付金具60は、板状部材からなり、複数のボルト貫通孔61(図1の(b)参照)を有している。前方固定部51は、取付金具60および枠部材73とともに、例えばボルトBなどの締結部材でシール収容溝15の底面に締め付けられて固定される。具体的には、ボルトBは、上側から取付金具60、スクレーパ部材50の前方固定部51、押圧手段70の枠部材73の順で挿通されて、シール収容溝15に螺合される。
【0036】
後方傾動部52は、前方の基端部が前方固定部51の後端と一体的に繋がっており、基端部を中心として後方部が傾動する。後方傾動部52は、最も下側に位置する(水平に倒れている)ときにシール収容溝15の底面から浮いた状態になっている。後方傾動部52の長さと傾動可能角度は、後方傾動部52が最も立ち上がったときに、後方傾動部52の後端(上端)と後行トンネル10aの外表面との垂直距離が、先行トンネル10bと後行トンネル10aとの最大離隔寸法(例えば45mm)より大きくなるように設定されている。
【0037】
スクレーパ部材50は、板バネ55をシールゴム(ゴム部材)56で覆って構成されている。板バネ55は、前方固定部51の略全面に広がるように配置されている。板バネ55の後端部には、後方に延在する補強鉄板57が固定されている。補強鉄板57は、後方傾斜部52の内部で、後行トンネル10aの推進時に土砂に当接する部分に設けられており、土圧を受ける役目を果たす。シールゴム56は、板バネ55および補強鉄板57の表裏両面を覆うように設けられており、さらに、補強鉄板57の後端から後方に所定長さ延出して形成されている。シールゴム56は、耐摩耗性を備えた硬質ゴムやウレタン等の材料にて構成されている。シールゴム56は、補強鉄板57より後方に延在する後端部が先行トンネル10b側(シール収容溝15の底面から離れる方向)に起き上がるように傾斜している。
【0038】
シールゴム56の表面(先行トンネル10bに対向する面)には、先行トンネル10bの外表面側に突出する突条58が形成されている。突条58は、シールゴム56と同じ材質で、シールゴム56と一体で構成されている。突条58は、シールゴム56の表面に沿って、推進方向に直交する方向に延在している。突条58は、断面三角形を呈しており、頂角部分が先行トンネル10bの表面に当接する。突条58は、先行トンネル10bと後行トンネル10aとの距離が小さいときに先行トンネル10bの表面に当接する(図3の(b)参照)ものであって、先行トンネル10bと後行トンネル10aとの距離が大きいときは、シールゴム56の後端部が先行トンネル10bの表面に当接する(図3の(a)参照)。
【0039】
押圧手段70は、後行トンネル10aの外表面(シール収容溝15の底面)とスクレーパ部材50の後方傾動部52との間で膨縮する袋体71と、この袋体71内の流体圧を保持する流体圧保持装置72(図1の(b)参照)とを備えてなる。袋体71には例えば水が充填されている。なお、流体は水に限定されるものではなく、他の液体または気体であってもよい。袋体71は、ゴム等の弾性部材にて構成されており、膨張および収縮が可能になっている。袋体71は、スクレーパ部材50の後方傾動部52とシール収容溝15の底面とで挟まれており、後方傾動部52の傾倒に応じて膨縮する。袋体71の周囲には、枠部材73が設けられている。枠部材73は、所定厚さの板材を矩形枠状に配置して構成されており、その内側に袋体71が設けられている。枠部材73には複数のボルト貫通孔75(図1の(b)参照)が所定の間隔をあけて形成されており、ボルトBを上方からボルト貫通孔75に挿通させて、シール収容溝15に螺合させる。
【0040】
枠部材73は、その一部(推進方向前端部)がスクレーパ部材50の下部に位置しており、スクレーパ部材50の前方固定部51が配置されている。枠部材73の内側の底面には、袋体71内に空気を流通させるための貫通孔74が形成されている。袋体71にも開口部(図示せず)が形成されており、底面の貫通孔74と連通して接続されている。
【0041】
流体圧保持装置72は、トンネル函体の内部に設けられており、貫通孔74を通じて袋体71に接続されている。流体圧保持装置72は、流体供給部と圧力センサ(図示せず)を備えており、圧力の検出値に応じて流体を注入・排出することで流体圧を略一定(所定の範囲内)に保持する。この流体圧(袋体71内の圧力)は、後行トンネル10aが揺動する際の圧力値(後行トンネル10aが先行トンネル10b側に近づく圧力)よりも小さく、且つ袋体71によって押し上げられたスクレーパ部材50が前方の土砂を押し退けることができる圧力値以上に設定されている。具体的には、袋体71の流体圧が上昇し始めると、流体を袋体71に注入し、袋体71の流体圧が低下し始めると、流体を袋体71から排出する。これによって、スクレーパ部材50の後方傾動部52が、後行トンネル10aの揺動に追従して傾動できるので、先行トンネル10bの外表面に当接した状態を保持することができる。
【0042】
次に、前記のような構成のシール先端部防護装置Gの形状を各種ケースごとに説明する。まず、図1の(b)を参照しながら、後行トンネル10aが発進立坑および到達立坑に設けられる枠状のエントランスを通過する際の状態を説明する。
【0043】
ところで、エントランス(図示せず)では、弾性シール部材30が通過する部分は、弾性シール部材の原型(ベース部からリップ部が立ち上がった状態)に沿った形状に切り欠かれて形成されている。そのため、従来の先導カバーでは、エントランスを通過できず、先導カバーを通過させた後にエントランスの通過部分を形成して止水施工する必要があり、多くの施工手間と時間を要していたという問題があった。このような問題に対して、本実施形態に係るシール先端部防護装置Gでは、以下のようにすることで前記問題を解決している。
【0044】
図1の(b)に示すように、シール先端部防護装置Gがエントランス(図示せず)を通過する際には、流体圧保持装置72は袋体71内に流体を供給しておらず、袋体71は収縮して枠部材73の内側に収容された状態となっている。これによって、後方傾動部52が板バネ55によって付勢されて後行トンネル10a側に倒れた状態となり、スクレーパ部材50全体がシール収容溝15内に収容されている。この状態で、シール先端部防護装置Gは、後行トンネル10aの外周壁面からはみ出さないので、エントランスの内周面に干渉することなく、エントランスを通過することができる。なお、シール先端部防護装置Gの後方の弾性シール部材30は、原型(ベース部31からリップ部32が立ち上がった状態)を保ちながら、エントランスに形成された切欠き部(図示せず)を通過する。
【0045】
次に、図3の(a)および(b)を参照しながら、後行トンネル10aが先行トンネル10bに対して揺動した状態でのシール先端部防護装置Gと弾性シール部材30の形状を説明する。
【0046】
図3の(a)に示すように、後行トンネル10aが先行トンネル10bから離間すると、袋体71が膨張しようとするため、その流体圧が一時的に低くなる。すると、流体圧保持装置72が、圧力センサで流体圧の低下を検知して、流体供給部で袋体71に流体を供給して、袋体71の内部圧を一定に保持する。そして、スクレーパ部材50の後方傾動部52が、膨張した袋体71に押し上げられて先行トンネル10b側へ起き上がる。これによって、後方傾動部52の後端部のシールゴム56が、先行トンネル10bの外表面に押し付けられて摺動するので、スクレーパ部材50の後方傾動部52が弾性シール部材30の前方を塞いだ状態で、前方の土砂を押し退けることができる。このとき、後方傾動部52に補強鉄板57が設けられているので、後方傾動部52が土圧に押されても変形することなく、土砂を押し退けられる。また、シールゴム56は、若干弾性変形した状態で、先行トンネル10bの外表面に接触するので、接触性が高くなる。このように、スクレーパ部材50が土砂を押し退けることによって、弾性シール部材30の先端部の通過位置から土砂が排除されて、弾性シール部材30の先端部が防護される。
【0047】
図3の(b)に示すように、後行トンネル10aが先行トンネル10bに近接すると、スクレーパ部材50の後方傾動部52が、先行トンネル10bの外表面に押されて(スクレーパ部材50が先行トンネル10bに近づいて)、後行トンネル10a側に戻される。このとき、袋体71がスクレーパ部材50に押されて収縮しようとするため、その流体圧が一時的に高くなる。すると、流体圧保持装置72が、圧力センサで流体圧の上昇を検知して、流体供給部で袋体71から流体を排出して、袋体71の内部圧を一定に保持する。ここで、後方傾動部52の後端部のシールゴム56が、先行トンネル10bの外表面に押し付けられて摺動するので、スクレーパ部材50の後方傾動部52が前方の土砂を押し退ける。さらに、突条58が先行トンネル10bの外表面に押圧されることで後方傾動部52と先行トンネル10bとの密着性を高めている。さらに、後方傾動部52に補強鉄板57が設けられているので、後方傾動部52が土圧に負けて変形することなく、土砂を押し退けられる。このように、スクレーパ部材50が土砂を押し退けることによって、弾性シール部材30の先端部の通過位置から土砂が排除されて、弾性シール部材30の先端部が防護される。
【0048】
なお、袋体71の内部の流体を排出させる機構は、前記構成に限定されるものではなく、例えば、袋体71内の流体圧が一定値以上になると開弁する安全弁を袋体または配管に設けるようにしてもよい。
【0049】
また、前記したように後行トンネル10aが先行トンネル10bに近接または離間したいずれの状態であっても、弾性シール部材30は、初期状態よりも傾倒した状態で、先行トンネル10bの外表面に接触しているので、リップ部32は、復元しようとする力によって、先行トンネル10bに向かって弾性的に付勢している。そして、弾性シール部材30の先端部からは、シール先端部防護装置Gによって土砂が排除されているので、弾性シール部材30の先端を覆うカバー等を設ける必要はない。
【0050】
以上説明したように、本実施形態に係るシール先端部防護装置Gによれば、スクレーパ部材50の後方傾動部52が後行トンネル10a側に倒れたり、先行トンネル10b側に立ち上がったりすることで、後行トンネル10aが先行トンネル10bに対して、近接または離間したとしても、後行トンネル10aの揺動に対応しつつ、常にスクレーパ部材50が弾性シール部材30前方の土砂を押し退けて弾性シール部材の先端部を防護することができる。
【0051】
また、スクレーパ部材50が、板バネ55をシールゴム56で覆って構成されているので、スクレーパ部材50の表面と、先行トンネル10bの外表面との接触性が高くなり、弾性シール部材30前方の土砂を効率的に押し退けることができる。さらに、シールゴム56の表面に、先行トンネル10bの外表面側に突出する突条58が形成されているので、突条58が先行トンネル10bの外表面へ押し付けられて密着性が高くなり、土砂の押し退け効果をより一層高められる。
【0052】
さらに、本実施形態に係るシール先端部防護装置Gは、スクレーパ部材50がシール収容溝15に収容されて後行トンネル10aの表面からはみ出さない状態にすることができるので、シール先端部防護装置Gがエントランスに干渉することなく、容易に通過することができる。
【0053】
次に、他の形態のスクレーパ部材80を説明する。図6および図7に示すように、スクレーパ部材80は、前方固定部51と後方傾動部52とを備えて成る。スクレーパ部材80は、別の分け方をすれば、ゴム部材からなる基端部81と、鉄板からなる中間部82と、ゴム部材からなる先端部83とを備えて構成されている。基端部81は、板バネが設けられておらず、傾動可能に構成されている。基端部81は、前方固定部51と、後方傾動部52の前方の一部によって構成されている。中間部82は、鉄板にて構成されており、鉄板は表面に露出している。中間部82の前端には、薄板部82aが形成されており、この薄板部82aが基端部81に入り込んで、図示しないボルト、ピンまたは接着剤によって接続することで、中間部82が基端部81に固定されている。中間部82の後端には、凸部82bが形成されており、この凸部82bが先端部83に入り込んで、図示しないボルト、ピンまたは接着剤によって接続することで、先端部83が中間部82にに固定されている。先端部83の表面には、先行トンネル10bの外表面側に突出する突条58が形成されている。この突条58は、前記実施形態と同様の構成である。なお、その他の構成についても、前記実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0054】
このようなスクレーパ部材80を採用した場合は、スクレーパ部材80の後方に、先端部83を後行トンネル10a側に押さえるスクレーパ固定金具85を設ける。スクレーパ固定金具85は、板バネにて構成されており、後端部が枠部材73上に載置され、ボルトBによって、枠部材73と一体で後行トンネル10aに固定されている。スクレーパ固定金具85の前端部には立上り部85aが形成され、立上り部85aの上端には前方に屈曲した係止部85bが形成されている。係止部85bは、袋体71が収容されている状態で、スクレーパ部材80の先端部83を上方から係止するように構成されている。
【0055】
図8に示すように、袋体71が膨張すると、スクレーパ固定金具85は、袋体71によって押し上げられ、立上り部85aと係止部85bが、スクレーパ部材80の先端部83から離間する。これによって、スクレーパ部材80の係止が解除され、スクレーパ部材80も、スクレーパ固定金具85と同時に袋体71によって押し上げられる。後行トンネル10aが先行トンネル10bに近接すると、スクレーパ部材80は、先行トンネル10bの表面に接触しながら、後行トンネル10a側に戻される。
【0056】
このような構成のスクレーパ部材80によれば、先行トンネル10bの外表面に接触するスクレーパ部材80の先端部83がゴム部材で形成されているので、先行トンネル10bの外表面への接触性が高くなり、スクレーパ部材80と先行トンネル10bとの間に隙間が発生し難くシール部材前方の土砂を効率的に押し退けることができる。さらに、突条58が先行トンネル10bの外表面へ押し付けられて密着性が高くなるので、土砂の押し退け効果をより一層高められる。また、土砂と接触する中間部82が鉄板にて構成されているので、耐摩耗性を高めることができる。なお、本形態のスクレーパ部材80は、スクレーパ部材80と先行トンネル10bの密着性よりも、スクレーパ部材80の耐久性が要求される場合に採用される。さらに、スクレーパ部材80によれば、スクレーパ固定金具85を設けたことによって、スクレーパ部材80に板バネがなくとも、スクレーパ部材80を後行トンネル10a側に固定することができる。
【0057】
次に、さらに他の形態のスクレーパ部材90を説明する。図9に示すように、スクレーパ部材90は、前方固定部51と後方傾動部52とを備えて成る。スクレーパ部材90は、別の分け方をすれば、板バネ55をゴム部材で覆って形成された基端部91と、鉄板からなる中間部92と、ゴム部材からなる先端部93とを備えて構成されている。基端部91は、板バネ55の両面にゴム部材が設けられて、傾動可能に構成されている。基端部91は、前方固定部51と、後方傾動部52の前方の一部によって構成されている。中間部92は、鉄板にて構成されており、鉄板は表面に露出している。中間部92の前端には、薄板部92aが形成されており、この薄板部92aが基端部91に入り込んで、図示しないボルト、ピンまたは接着剤によって接続することで、中間部92が基端部91に固定されている。中間部92の後端には、凸部92bが形成されており、この凸部92bが先端部93に入り込んで、図示しないボルト、ピンまたは接着剤によって接続することで、先端部93が中間部92にに固定されている。先端部93の表面には、先行トンネル10bの外表面側に突出する突条58が形成されている。この突条58は、前記実施形態と同様の構成である。なお、その他の構成についても、前記実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0058】
このような構成のスクレーパ部材90によれば、先行トンネル10bの外表面に接触するスクレーパ部材90の先端部93がゴム部材で形成されているので、先行トンネル10bの外表面への接触性が高くなり、スクレーパ部材90と先行トンネル10bとの間に隙間が発生し難くシール部材前方の土砂を効率的に押し退けることができる。さらに、突条58が先行トンネル10bの外表面へ押し付けられて密着性が高くなるので、土砂の押し退け効果をより一層高められる。また、土砂と接触する中間部92が鉄板にて構成されているので、耐摩耗性を高めることができる。
【0059】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、前記実施形態に係る突条58は、推進方向に直交する方向に延在しているが、直交する方向に傾斜して設けて、土砂を端部に押し流すためのガイドとしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
W 止水構造
G シール先端部防護装置
1 大断面トンネル
10 トンネル
10a 後行トンネル
10b 先行トンネル
15 シール収容溝
30 弾性シール部材
50 スクレーパ部材
51 前方固定部
52 後方傾動部
55 板バネ
56 シールゴム
58 突条
70 押圧手段
71 袋体
72 流体圧保持装置
80 スクレーパ部材
90 スクレーパ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行トンネルの隣に推進工法によって構築される後行トンネルに設けられるシール先端部防護装置であって、
前記後行トンネルの外表面に取り付けられたシール部材の先端部の前方に設けられるスクレーパ部材と、このスクレーパ部材を前記先行トンネルに押し付けるための押圧手段とを備えており、
前記押圧手段は、前記後行トンネルの外表面と前記スクレーパ部材との間で膨縮する袋体と、この袋体内の流体圧を保持する流体圧保持装置とを備えて成り、前記袋体が膨縮することで前記スクレーパ部材が前記先行トンネルの外表面に追従して押し付けられる
ことを特徴とするシール先端部防護装置。
【請求項2】
前記スクレーパ部材は、板バネをゴム部材で覆って構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のシール先端部防護装置。
【請求項3】
前記スクレーパ部材は、ゴム部材からなる基端部と、鉄板からなる中間部と、ゴム部材からなる先端部とを備えて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のシール先端部防護装置。
【請求項4】
前記スクレーパ部材は、板バネをゴム部材で覆って形成された基端部と、鉄板からなる中間部と、ゴム部材からなる先端部とを備えて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のシール先端部防護装置。
【請求項5】
前記スクレーパ部材の先端部に、前記先行トンネルの外表面側に突出する突条が形成されている
ことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載のシール先端部防護装置。
【請求項6】
前記後行トンネルには、推進方向に沿って延在して前記シール部材を収容するシール収容溝が形成されており、
前記スクレーパ部材は、前記シール収容溝の先端部に配置されており、前記袋体を収縮させたときに前記シール収容溝内に収容される
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のシール先端部防護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−167509(P2012−167509A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30616(P2011−30616)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000252207)六菱ゴム株式会社 (41)
【Fターム(参考)】