説明

シール状態検査方法および装置

【課題】 容器のシール部において、微小な噛み込み物を精度よく検出するシール状態検査方法および装置を提供すること。
【解決手段】 第1ハウジング2と第2ハウジング3との合せ面に弾性体からなるシール部材4を狭持した筐体1を回転し、合せ面の局部を加熱し、合せ面の温度を所定時間経過後に計測し、計測値の変動から合せ面のシール状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つのハウジングの合せ面にシール部材を狭持した筐体のシール状態検査方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体状のレトルト食品などの充填ラインにおいて、レトルト食品を容器に充填後、開口部をヒートシールするときに発生する内容物の噛み込み、内容物の表面付着、シール過不足などのシール不良を検出する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
具体的には、容器に液体状のレトルト食品を充填したあとに開口部をヒートシールし、ヒートシールした直後に赤外線カメラなどにてシール部の温度状態を撮像し、撮像した温度画像を画像処理装置へ送り、あらかじめ撮像してあった良品状態の温度画像と比較して良否判定を行うシステムであった。
【0004】
例えば、シール部に内容物の噛み込みがあった場合には、良品のヒートシール温度に比べて内容物の温度が低いため、その部分の温度状態は良品状態とは異なる温度状態となるので噛み込み物を検出することができた。
【0005】
しかしながら、微小な噛み込み物の場合には、ヒートシールがシールする部分全体を一気に溶着温度まで加熱し溶着するので、噛み込み物も一気に加熱されることになる。微小な噛み込み物は熱容量が小さいので、容器のシール部と同程度の溶着温度まで加熱され、微小噛み込み物と容器とは温度差があまり生じないため、溶着後すぐに行われる赤外線カメラでの温度画像では微小噛み込み物を検出し難いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−79917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、容器のシール部において、微小な噛み込み物を精度よく検出するシール状態検査方法および装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために講じた第1の技術的手段は、第1ハウジングと第2ハウジングとの合せ面に弾性体からなるシール部材を狭持した筐体のシール状態検査方法であって、前記筐体を回転し、前記合せ面の局部を加熱し、前記合せ面の温度を所定時間経過後に計測し、計測値の変動から前記合せ面のシール状態を判定することを特徴とするシール状態検査方法である。
【0009】
また、第2の技術的手段は、第1の技術的手段において、前記計測値のノイズを除去するフィルタ処理後の信号から前記合せ面のシール状態を判定することを特徴とするシール状態検査方法である。
【0010】
また、第3の技術手段は、第2の技術手段において、前記信号の上昇の変化部及び下降の変化部の少なくとも一方を所定の閾値と比較してシール状態を判定することを特徴とするシール状態検査方法である。
【0011】
また、第4の技術手段は、第1の技術手段ないし第3の技術手段のいずれか一の技術手段において、前記筐体は一定速度で回転することを特徴とするシール状態検査方法である。
【0012】
また、第5の技術手段は、第1ハウジングと第2ハウジングとの合せ面に弾性体からなるシール部材を狭持した筐体のシール状態検査装置であって、前記筐体を回転させる回転装置と、前記合せ面の局部を加熱する加熱装置と、前記合せ面の温度を計測する温度センサーと、前記温度センサーが感知した計測値から前記合せ面のシール状態を判定する判定手段と、を備えていることを特徴とするシール状態検査装置である。
【0013】
また、第6の技術手段は、第5の技術手段において、前記判定手段は、前記計測値のノイズを除去するフィルタと、ノイズ除去後の信号の変動から前記合せ面のシール状態を判定する判定器とを備えていることを特徴とするシール状態検査装置である。
【0014】
また、第7の技術手段は、第6の技術手段において、前記判定器は、前記信号を予め定められた閾値と比較する比較手段を有することを特徴とするシール状態検査装置である。
【0015】
また、第8の技術手段は、第5の技術手段ないし第7の技術手段のいずれか一の技術手段において、前記回転装置は前記筐体を一定速度で回転することを特徴とするシール状態検査装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第1ハウジングと第2ハウジングとの合せ面に弾性体からなるシール部材を狭持した筐体を回転し、合せ面の局部を加熱し、合せ面の温度を所定時間経過後に計測し、計測値の変動から合せ面のシール状態を判定することを特徴とするシール状態検査方法であるので、合せ面にシール部材の噛み込みがある場合には、加熱後の熱拡散が噛み込みの無い部分とは異なり、温度差ができるので、計測温度の差異から噛み込みの有無を容易に判定することができる。
【0017】
また、計測値のノイズを除去するフィルタ処理後の信号から合せ面のシール状態を判定するので、信号の変化が強調され、計測値の差異を容易に検知することができる。
【0018】
また、信号の上昇の変化部及び下降の変化部の少なくとも一方を所定の閾値と比較してシール状態を判定するので、噛み込みの有無を容易に判定することができる。
【0019】
また、筐体は一定速度で回転させられているので、噛み込みの発生個所を容易に見つけることができる。
【0020】
また、第1ハウジングと第2ハウジングとの合せ面に弾性体からなるシール部材を狭持した筐体を回転させる回転装置と、前記合せ面の局部を加熱する加熱装置と、合せ面の温度を計測する温度センサーと、温度センサーが感知した計測値から合せ面のシール状態を判定する判定手段と、を備えているので、合せ面にシール部材の噛み込みがある場合には、加熱後の熱拡散が噛み込みの無い部分とは異なるので、計測温度の差異から噛み込みの有無を容易に判定することができる。
【0021】
また、判定手段は、計測値のノイズを除去するフィルタと、ノイズ除去後の信号の変動から合せ面のシール状態を判定する判定器とを備えているので、信号の変化が強調され、計測値の差異を容易に検知しシール状態を判定することができる。
【0022】
また、判定器は、信号を予め定められた閾値と比較する比較手段を有するので、噛み込みの有無を容易に判定することができる。
【0023】
また、回転装置は筐体を一定速度で回転させているので、噛み込みの発生個所を容易に見つけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る被検査物である倍力装置を示す部分断面図である。
【図2】本発明に係るシール状態検査装置を示す模式図である。
【図3】図2の平面視摸式図である。
【図4】倍力装置を検査した際の温度センサーからの出力波形グラフである。
【図5】図4の波形にハイパスフィルタ処理を行った信号レベルのグラフである。
【図6】図5の波形にローパスフィルタ処理を行った信号レベルのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、その実施の形態を図面に基づき説明する。
【0026】
図1は、本発明の検査方法および装置を適用する被検査物の車両用ブレーキ倍力装置(以下、倍力装置と称す)1の部分断面図である。
【0027】
倍力装置1の筐体は、鋼板を円形の凹状に成型した第1ハウジング2と第2ハウジング3とで構成され、その合せ面にはゴム等の弾性体からなるシール部材4が狭持されている。
【0028】
シール部材4が第2ハウジング3の所定の位置に組みつけられた後、シール部材4と第2ハウジング3とは一体的に第1ハウジング2に圧入される。その際、シール部材4と第1ハウジング2との圧入摺動面では摩擦抵抗により、シール部材4の一部が圧入方向とは反対方向に引っ張られて所定の位置に納まらずにはみ出すことがある。この現象を「噛み込み」と呼ぶ。
【0029】
図1の右破断面図が正常に圧入された状態を示し、図1の左破断面図がシール部材4の噛み込み状態を示している。
【0030】
図2は、上記の倍力装置1のシール状態検査装置の模式図であり、図3はその上面視図である。
【0031】
被検査物である倍力装置1は、ベルト5を介してモータ6により駆動されるターンテーブル7上を一定速度で回転する。回転している倍力装置1のシール部1aの一箇所がニクロム線式のヒートガン8で加熱され、ヒートガン8の位置から略20度回転した位置にシール部1aの温度を計測する赤外線スポット式放射温度計(以下、温度センサーと称す)9が配設されている。なお、ヒートガン8と温度センサー9との位置関係は、噛み込み物と正常部の温度差が最大に生じるように適宜変更することができる。温度センサー9は、その電気信号をバンドパスフィルタ10を介して電気的に接続されている判定器11に送出する。バンドパスフィルタ10は周知のフィルタ回路で、温度センサー9からの電気信号のノイズを除去したり電気信号を強調したりする。判定器11は、バンドパスフィルタ10でノイズ除去処理あるいは強調処理が行われた信号を閾値と比較する比較回路を有している。
【0032】
上記のごとく構成された倍力装置1のシール状態検査装置の検出動作について説明する。
【0033】
被検査物である倍力装置1はモータ6により一定速度で回転させられおり、回転している倍力装置1のシール部1aがヒートガン8で局所加熱される。その後、温度センサー9が計測した計測値は、バンドパスフィルタ10でノイズ除去処理と同時に強調処理などのフィルタ処理が行われる。フィルタ処理が行われた温度データは所定の閾値と比較されて噛み込みの有無、すなわち倍力装置1の「良・不良」が判定される。
【0034】
図4は、意図的に噛み込みを発生させた倍力装置1を検査した際の、温度センサー9からの出力波形の一例である。A部が噛み込み部(二箇所)を示しているが、噛み込みの無い部分のノイズレベルと比較したSN比は1.6程度であり「良・不良」の判定が難しい。
【0035】
つまり、ヒートガン8で倍力装置1を局所加熱することにより倍力装置1の非加熱部分までもが伝熱により温度が上昇する。すると、図4のように噛み込みの無い温度も検査開始から検査終了までの測定結果が緩やかな右肩上がりとなる。
【0036】
このような場合、例えば、図4の検査開始付近に噛み込みが発生していたとすると、検査終了部の噛み込みが無い部分との温度差が小さくなるので噛み込みの有無を判定する閾値の設定が難しくなる。
【0037】
そこで、例えば、図4のような右肩上がりに上昇する信号をキャンセルし且つ信号を強調させるために遮断周波数5Hzでハイパスフィルタ処理を行う。
【0038】
ここで、信号を強調させるために遮断周波数5Hzでハイパスフィルタ処理を行った後の出力波形が図5である。さらに、図6はノイズを抑制するために遮断周波数30Hzでローパスフィルタ処理を行った後の出力波形で、SN比は5.2程度になりノイズレベルの3σを閾値として「良・不良」の判定を行うことができる。
【0039】
次に、上記「良・不良」の判定は、噛み込み部分の温度上昇の変化分(図6の3σ側の波形)及び温度下降の変化分(図6の−3σ側の波形)の少なくとも一方の特性に基づき判定すれば良い。更に、噛み込み部分の温度上昇の変化分及び温度下降の変化分の両方の特性で判定すれば判定精度をより向上できる。例えば、金属等のハウジング部材とゴム等のシール部材のように材質が異なる場合に、ハウジング部材にシール部材を噛み込むとハウジング部材とシール部材では夫々の温度が上昇及び下降する変化率が異なる。よって、この変化率の違いを検出して判定することで、噛み込み有無の検出精度をより向上させることができる。
【0040】
また、被検査物である倍力装置1はモータ6により一定速度で回転させられているので、噛み込み箇所の特定も容易にできる。
【0041】
尚、「良・不良」の判定は、図6に示すようなアナログ値で行ってもよいし、アナログ・デジタル変換を行ったデジタル値で行うことも可能である。また、閾値は3σに限定されるものではなく、被検査物により適宜設定すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、二つのハウジングの合せ面にシール部材を狭持した筐体のシール状態検査方法および装置に関する。
【符号の説明】
【0043】
1・・・倍力装置(筐体)
1a・・・シール部
2・・・第1ハウジング
3・・・第2ハウジング
4・・・シール部材
5・・・ベルト(回転装置)
6・・・モータ(回転装置)
7・・・ターンテーブル(回転装置)
8・・・ヒートガン(加熱装置)
9・・・温度センサー
10・・・バンドパスフィルタ(フィルタ、判定手段)
11・・・判定器(判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ハウジングと第2ハウジングとの合せ面に弾性体からなるシール部材を狭持した筐体のシール状態検査方法であって、
前記筐体を回転し、
前記合せ面の局部を加熱し、
前記合せ面の温度を所定時間経過後に計測し、
計測値の変動から前記合せ面のシール状態を判定することを特徴とするシール状態検査方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記計測値のノイズを除去するフィルタ処理後の信号から前記合せ面のシール状態を判定することを特徴とするシール状態検査方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記信号の上昇の変化部及び下降の変化部の少なくとも一方を所定の閾値と比較してシール状態を判定することを特徴とするシール状態検査方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の少なくともいずれか1項において、
前記筐体は一定速度で回転することを特徴とするシール状態検査方法。
【請求項5】
第1ハウジングと第2ハウジングとの合せ面に弾性体からなるシール部材を狭持した筐体のシール状態検査装置であって、
前記筐体を回転させる回転装置と、
前記合せ面の局部を加熱する加熱装置と、
前記合せ面の温度を計測する温度センサーと、
前記温度センサーが感知した計測値から前記合せ面のシール状態を判定する判定手段と、を備えていることを特徴とするシール状態検査装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記判定手段は、前記計測値のノイズを除去するフィルタと、ノイズ除去後の信号の変動から前記合せ面のシール状態を判定する判定器とを備えていることを特徴とするシール状態検査装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記判定器は、前記信号を予め定められた閾値と比較する比較手段を有することを特徴とするシール状態検査装置。
【請求項8】
請求項5乃至請求項7の少なくともいずれか1項において
前記回転装置は前記筐体を一定速度で回転することを特徴とするシール状態検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−164507(P2010−164507A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8610(P2009−8610)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】