説明

シール用ゴム栓

【課題】シール用ゴム栓を損傷から保護する。
【解決手段】軸芯と直交する方向の断面が円形である端子挿通孔3を有し、角筒状に形成された端子接続部6を前端部に有する端子金具4が、端子挿通孔3を拡張させつつ挿通されるものにおいて、端子挿通孔3の孔周りでかつ端子接続部6の四隅部と当接するコーナー当接部13に、他の当接部位に比べて厚肉となって端子金具4と対向する側へ迫出す厚肉部15を形成する。これによって、コーナー当接部13の拡開変形の立ち上がりが従来よりも緩やかになるから、コーナー当接部13を損傷から保護することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール用ゴム栓に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、防水コネクタの中にはコネクタハウジングの後部にシール用ゴム栓を装着したものが知られている。シール用ゴム栓には複数の端子挿通孔が貫通して形成され、それぞれに端子金具を挿通させると、端子挿通孔の内周面に形成されたリップが電線の被覆部分にシール状態で密着し、これによって電線との間のシール性が確保される。そのような従来技術を開示するものとして、特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-140876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、端子挿通孔は電線被覆の全周に均一に密着する必要から断面を円形にして形成されるが、雌端子金具のように前端部に角筒形状の端子接続部を有するものを挿通する場合には、端子挿通孔は円形形状から四角形状へと拡張変形しなければならない。
【0005】
この場合において、端子挿通孔周りの肉のうち端子接続部のコーナー部が通過する部位は、他の部位に比較して変形量が大きい。このため、コーナー部が通過する部位は他の部位に比較して拡径変形の変化が急である。そのため、端子挿入孔のうち端子接続部のコーナー部に対応した部位が損傷(最悪には「切れ」)してしまう、という懸念があった。
【0006】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、端子金具の挿入によっても損傷されてしまうことがないシール用ゴム栓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、軸芯と直交する方向の断面が円形である端子挿通孔を有し、角筒状に形成された端子接続部を前端部に有する端子金具が、前記端子挿通孔を拡張させつつ挿通されるシール用ゴム栓であって、前記端子挿通孔の内周面にはシール用のリップが全周に亘って内向きに張り出し形成されるとともに、前記端子挿通孔の入口側の端面であって、前記端子金具を前記端子挿通孔へ挿通するに際して前記端子接続部における前端面のコーナー部が当接する部位であって前記リップの裾野面に連続する部位には、前記端子接続部の前面のうち前記コーナー部以外が当接する部位よりも厚肉となって前記端子接続部と対向する方向へ迫り出す厚肉部が形成されているところに特徴を有する。
【0008】
また請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記厚肉部は前記端子金具の挿入方向に関して勾配の異なる複数の傾斜面を有し、一方の傾斜面である入口に近い側の傾斜面は前記端子金具の挿入方向に関して急勾配の第1傾斜面となり、これより奥側の傾斜面は前記第1傾斜面よりも緩勾配の第2傾斜面となっているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、端子金具を端子挿通孔へ挿入するに際し、端子接続部のコーナー部が他の部位に先立って厚肉部に当接する。このまま端子金具の挿通がなされると、コーナー部との当接部位は他の部位に先行して拡張変形が開始する。そして、端子金具の挿通が進むと、他の部位も変形を開始し、端子挿通孔が端子接続部の輪郭形状に倣った四角形状にまで変形するに至る。この間の端子金具の挿入ストロークにおいて、コーナー部に当接する部位は従来に比較して、端子挿通孔の拡張変形の変化状況が緩やかであるため、端子金具の損傷を有効に回避することができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、厚肉部は入口側に急勾配の第1傾斜面を形成し、奥側に緩勾配の第2傾斜面を形成したため、端子金具の挿入ストロークの早期において、端子接続部のコーナー部を厚肉部の第1傾斜面に当接させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】シール用ゴム栓の正面図
【図2】図1のA−A線断面図
【図3】図1のB−B線断面図
【図4】図3のC−C線断面図
【図5】雌端子金具の側面図
【図6】同じく正面図
【図7】コーナー当接部における端子金具の挿入ストロークと変形量との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態1>
図1は本実施形態のシール用ゴム栓1の全体を示している。ここに示されたものは、いわゆる一括ゴム栓と称される形式のものである。シール用ゴム栓1は全体がゴム材によって一体にかつマット状に成形され、全体として横長の長方形状に形成されている。シール用ゴム栓1の外周縁には全周に沿ってアウターリップ2が張出している。シール用ゴム栓1は図示しないコネクタのハウジングに形成されたゴム栓収容部内に組み付けられ、組み付け状態では上記したアウターリップ2がゴム栓収容部の内壁面に密着してこの間のシールを行うことができる。アウターリップ2は図2に示すようにシール用ゴム栓1の厚み方向へ一定間隔毎に三条が設けられている。
【0013】
シール用ゴム栓1には二つの端子挿通孔3が左右方向に並んで配されている。両端子挿通孔3はシール用ゴム栓1の厚み方向に沿って設けられ、その軸芯に沿った方向の両端が開口して形成されている。両端子挿通孔3は端子金具4(雌端子金具4)を通過させるような拡張変形が可能であり、端子金具4の通過後には同端子金具4に接続された電線5の被覆の全周に対しシール状態で密着することができる。
【0014】
ここで、雌端子金具4について説明すると、雌端子金具4は図5、図6に示すように、前部には雄端子金具(図示しない)との接続を行う端子接続部6が形成されている。また、その内部には雄端子金具との接続を行う撓み可能な舌片16が形成されている。この端子接続部6は端子挿通孔3の穴径より大きな角筒状に形成され、その後部には電線5との接続を行うための電線接続部7が連続している。
【0015】
シール用ゴム栓1は表裏同形状に形成され、図示しない前記ゴム栓収容部に対し表裏反転して装着可能である。両端子挿通孔3の内部には図2、図3に示すように、3条のインナーリップ8が軸方向へ一定間隔毎に設けられている。但し、図2に示すように、各インナーリップ8のうち中央に位置するものはアウターリップ2の中央のものと軸方向に関して同位置であるが、これを挟む両側のものは対応するアウターリップ2より内側へ寄った位置に配されている。
【0016】
各インナーリップ8は端子挿通孔3の全周に沿って形成され、自然状態でほぼ同一の突出高さに形成されている。各インナーリップ8の頂点部がなす周縁は自然状態で円形をなすように形成され、この円は電線5の被覆の外径よりも小さい径に設定されていて、電線被覆に対し各インナーリップ8が全周に沿って密着するようになっている。なお、本実施形態では、中央に位置するインナーリップ8とこれを軸心方向から挟む両側のインナーリップ8との間の谷部の深さは、図4に示すように、周方向に均一になっていない。図1に示すX,Y方向に沿う方向では深く、これらと略45度周方向へずれた方向に最も浅くなるように形成されている。
【0017】
図1に示すように、各端子挿通孔3の開口周りには正面視で円形をなす導入部9が形成されている。この導入部9は図1に想像線で示されるように、端子金具4の端子接続部6よりも大径に形成されている。導入部9は、図2、図3に示すように、軸方向に沿った所定深さの孔壁を有して形成されている。また、導入部9の奥側端縁には第1傾斜面10が連続して形成されている。第1傾斜面10は端子金具4の挿入方向(軸方向奥方)へ向けて徐々に径を小さくする勾配をもって形成されている。第1傾斜面10の奥側にはストレート面11を介して第2傾斜面12が連続している。この第2傾斜面12は端部に位置するインナーリップ8における手前側裾野面を構成している。
【0018】
図2は図1におけるA−A線断面図を示している。同図は、シール用ゴム栓1の後端面のうち端子接続部6の前端面における上下辺のほぼ中間部6Bが当接する部位(以下、左右辺のほぼ中間部が当接する部分を含めて中間当接部14という)を通過する断面図である。一方、図3は図1におけるB−B線断面図を示しており、A−A線断面図とは時計回りに略45度ずれた位置を示している。同図は、シール用ゴム栓1の後端面のうち端子接続部6の前端面における一方の対角位置にあるコーナー部6A(他方の対角位置にあるコーナー部が当接する部位を含めてコーナー当接部13と言う)が当接する部位を通過する断面図である。また、図3中には、図2に示されている第1傾斜面10と第2傾斜面12の各勾配との比較のために想像線にて重ねて示してある。この図から解るように、端子挿通孔3の開口面周りであって、端子金具4の挿入に際してコーナー当接部13は中間当接部14に比較して端子接続部6と対向する方向へ向けて迫出す厚肉部15となっている。
【0019】
図3から明らかなように、コーナー当接部13おける第1傾斜面10は中間当接部14の第1傾斜面10より切り立っている。第1傾斜面10の奥行き寸法は全周に亘って均一に設定され、端子金具4の挿入方向に関する傾斜角度は中間当接部14が最も緩く、逆にコーナー当接部13が最も切り立つよう、この間において傾斜角度が徐変するように形成されている。また、第1傾斜面10の奥端縁は図1に示すように、中間当接部14に対応する部位を頂点とした略正方形状に形成されている。第1傾斜面10の奥端縁は端子金具4の挿入方向である軸方向と平行に形成されたストレート面11に連続し、このストレート面11の奥行き寸法は全周に亘って均一に形成されている。
【0020】
第2傾斜面12はストレート面11の奥端に連続し、端部に位置するインナーリップ8における手前側裾野面に連続し同インナーリップ8の頂点へと延びている。第2傾斜面12の奥行き寸法は全周に亘って均一に設定されている。第2傾斜面12の勾配はコーナー当接部13において最も緩く設定され、中間当接部14において最も切り立つよう、この間において勾配が徐変するように設定されている。また、図3に示すように、コーナー当接部13においては第2傾斜面12の勾配は第1傾斜面10よりも緩くなっているが、中間当接部14においては図2に示すように、逆に、第2傾斜面12の勾配の方が第1傾斜面10よりも切り立つように設定されている。
【0021】
次に、図示しないコネクタハウジングの後部に装着された本実施形態のシール用ゴム栓1の各端子挿通孔3へ、端子金具4を挿入する場合について説明する。端子挿通孔3への挿通にあたり、端子接続部6の前端面が端子挿通孔3とほぼ整合するように端子金具4を位置させる。そして、端子接続部6の前端面を導入部9の内側に導入してシール用ゴム栓1の後端面に押し当てる。このとき、端子接続部6の前端面は全周に亘って第1傾斜面10に当接する。この状態で、端子金具4に押込み力を付与すると、次のようにして端子挿通孔3は拡開変形を開始する。
【0022】
ところで、端子挿通孔3周りのコーナー当接部13付近では中間当接部14に比較して厚肉であり、つまり第1傾斜面10は中間当接部14からコーナー当接部13にかけて徐々に切り立つような勾配に設定されかつ第2傾斜面12の勾配は緩く設定されている。したがって、端子挿通孔3周りのコーナー当接部13付近では他の当接部位に比べて早い時期から入口側端部にあるインナーリップ8に対して押圧力を作用させることができる。このため、端子挿通孔3のうちコーナー当接部13付近は他の当接部位よりも早い時期から拡開変形(端子挿通孔3の中心から各コーナー当接部13を通る放射方向外方へ向かう弾性変形)を開始する。その結果、挿入の比較的初期において端子挿通孔3は徐々に四角形状へと変形する。
【0023】
一方、この間、端子挿通孔3周りの中間当接部14付近ではコーナー当接部13に比較して薄肉であり、つまり第1傾斜面10の勾配が緩くかつ第2傾斜面12の勾配も急に設定されているため、端子金具4の挿入初期の押込み力の影響を受けにくく、その分、当該部位では端子挿通孔3の拡開変形の立ち上がりが緩い。
【0024】
かくして、端子金具4が挿入されて、端子接続部6の前端面が入口側端部にあるインナーリップ8の頂点部(自然状態で位置していたときの頂点部)に到達すると、端子挿通孔3の孔形状は端子接続部6の輪郭形状に倣った四角形状に至る。その後、さらに端子金具4の押込みが続いてシール用ゴム栓1を貫通すれば、端子挿通孔3内の各インナーリップ8は図示しない電線5の被覆に全周に沿って水密状態で密着する。
【0025】
以上のように、本実施形態では端子挿通孔3の入口側の端面であって、コーナー当接部13に、他の当接部位よりも厚肉となって端子接続部6と対向する方向へ迫り出す厚肉部15が形成されるようにしたため、図7に示すように、コーナー当接部13は挿入初期から拡張変形のグラフが立ち上がる。これに対し、同図中に想像線で示される従来の場合には、端子挿通孔3周りは全周に亘って均一な肉厚に設定されているため、コーナー当接部13の拡張変形のグラフは本実施形態に比較して遅れて立ち上がり、かつ一旦立ち上がった後は急激に拡張変化するため、従来ではコーナー当接部13においてシール用ゴム栓1の損傷が懸念された。しかし、本実施形態ではコーナー当接部13での拡張変形の立ち上がりが挿入初期から開始され、比較的緩やかな拡張変形を伴うようにしたため、シール用ゴム栓1を損傷から保護することができる。
【0026】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では第1傾斜面10の奥側の端縁は正面視で略正方形状としたが、円形であってもよい。
(2)上記実施形態では中央に位置するインナーリップ8を軸方向に挟んだ谷部の深さに関し、コーナー当接部13に対応する位置では浅く、中間当接部14に対応する位置では深く形成されるようにしていたが(図4参照)、全周に亘って均一深さに形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1…シール用ゴム栓
3…端子挿通孔
4…端子金具
6…端子接続部
6A…コーナー部
8…インナーリップ
10…第1傾斜面
12…第2傾斜面
13…コーナー当接部
15…厚肉部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯と直交する方向の断面が円形である端子挿通孔を有し、角筒状に形成された端子接続部を前端部に有する端子金具が、前記端子挿通孔を拡張させつつ挿通されるシール用ゴム栓であって、
前記端子挿通孔の内周面にはシール用のリップが全周に亘って内向きに張り出し形成されるとともに、
前記端子挿通孔の入口側の端面であって、前記端子金具を前記端子挿通孔へ挿通するに際して前記端子接続部における前端面のコーナー部が当接する部位であって前記リップの裾野面に連続する部位には、前記端子接続部の前面のうち前記コーナー部以外が当接する部位よりも厚肉となって前記端子接続部と対向する方向へ迫り出す厚肉部が形成されていることを特徴とするシール用ゴム栓。
【請求項2】
前記厚肉部は前記端子金具の挿入方向に関して勾配の異なる複数の傾斜面を有し、一方の傾斜面である入口に近い側の傾斜面は前記端子金具の挿入方向に関して急勾配の第1傾斜面となり、これより奥側の傾斜面は前記第1傾斜面よりも緩勾配の第2傾斜面となっていることを特徴とする請求項1記載のシール用ゴム栓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−105622(P2013−105622A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248487(P2011−248487)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】