説明

シール部材および管継手および取水用配管

【課題】管継手に外圧が作用しても、受口内周とシール部材外周との間を確実に止水することが可能な管継手用のシール部材を提供する。
【解決手段】シール部材17は受口15の内周と挿口16の外周との間に挟まれて径方向に圧縮される円環状のバルブ部18を有し、バルブ部18は、外周側に、全周にわたってリップ部24を備え、リップ部24は、受口15の内周と挿口16の外周との間に作用する径方向外向きの外圧P1を受ける第1受圧面24bを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受口に挿口が挿入された管継手に用いられるシール部材、および、シール部材を備えた管継手、および、複数の管を管継手で接合してなる取水用配管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば鋳鉄管等の管同士を接合する管継手の一種として、いわゆるスリップオンタイプの管継手が知られている。図9(a)に示すように、この管継手51は、互いに接合される一方の管52に形成された受口54に、他方の管52に形成された挿口55が挿入され、受口54の内周と挿口55の外周との間が円環状のシール部材56によって止水されている。
【0003】
シール部材56は、ゴム製であり、受口54の内周に形成された溝57に嵌め込まれて、受口54の内周と挿口55の外周との間に挟まれて圧縮されている。これにより、管52内の水(流体)はシール部材56によって止水されるため、管52内の水が受口54の内周と挿口55の外周との間から外部へ漏出することは防止される。
【0004】
尚、このようなスリップオンタイプの管継手51については例えば下記特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平4−133092
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来形式では、上記のような管継手51で複数の管52を接合することにより配管58が構成され、この配管58を地中に設置する場合がある。この場合、図9(b)に示すように、配管58の外部の地下水59の水圧によって管継手51に外圧(外水圧)が作用することがある。このように外圧が作用した場合、受口54の内周と挿口55の外周との間を確実に止水することができなくなり、受口54の端部開口部60から受口54の内周と挿口55の外周との間に浸入した地下水59が外圧によって受口54の内周とシール部材56の外周との間を通って管52内に漏洩するといった問題がある。例えば、地下水59が汚染されており、配管58内に清浄な水が貯えられている場合、汚染された地下水59が配管58内の清浄な水に混入してしまう虞がある。
【0007】
本発明は、管継手に外圧が作用しても、受口内周とシール部材外周との間を確実に止水することが可能な管継手用のシール部材および管継手および取水用配管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本第1発明は、互いに接合される一方の管に形成された受口に、他方の管に形成された挿口が挿入された管継手の受口内周と挿口外周との間を止水する管継手用のシール部材であって、
受口内周と挿口外周との間に挟まれて径方向に圧縮される弾性材からなる円環状のバルブ部を有し、
バルブ部は、外周側に、全周にわたってリップ部を備え、
リップ部は、管継手の外部から受口内周と挿口外周との間に作用する径方向外向きの外圧を受ける第1受圧面を有しているものである。
【0009】
これによると、管継手に外圧が作用すると、管継手の外部から受口内周と挿口外周との間に作用する径方向外向きの外圧がリップ部の第1受圧面で受けられ、リップ部が、管径方向における外向きに押されて、受口内周に押し付けられる。これにより、外圧に対して、受口内周とシール部材外周との間を確実に止水(セルフシール)することができる。
【0010】
本第2発明におけるシール部材は、バルブ部は、受口奥側端部に、管継手に作用する内圧を受ける第2受圧面を有し、
第2受圧面で受けられる内圧によって、バルブ部の外周に、管径方向における外向きの押圧力が発生するとともに、バルブ部の内周に、管径方向における内向きの押圧力が発生するものである。
【0011】
これによると、管継手に内圧が作用すると、この内圧がバルブ部の第2受圧面で受けられ、バルブ部に外向きおよび内向きの押圧力が発生する。このため、バルブ部の外周が受口内周に押し付けられるとともに、バルブ部の内周が挿口外周に押し付けられる。これにより、内圧に対して、受口内周と挿口外周との間を確実に止水(セルフシール)することができる。
【0012】
本第3発明におけるシール部材は、受口内周に形成された嵌込溝に嵌め込まれてシール部材を取付位置に保持するヒール部がバルブ部と一体に形成され、
ヒール部はバルブ部よりも受口開口側に位置し、
バルブ部の受口奥側端部の断面形状が円弧形状であるものである。
【0013】
これによると、シール部材のヒール部を嵌込溝に嵌め込むことにより、シール部材が受口内の所定の取付位置に保持され、この状態で挿口を受口に挿入する。この際、挿口がシール部材の内周側に挿入され、バルブ部が挿口によって拡径されるのに対して、リップ部はバルブ部の外周側に備えられているため、挿口の挿入力が大幅に増大することはない。
【0014】
本第4発明は、上記第1発明から第3発明のいずれか1項に記載のシール部材を備えたことを特徴とする管継手である。
これによると、管継手に外圧と内圧との少なくともいずれかが作用しても、管継手部分を確実に止水することができるため、外部の流体が管継手から管内に漏洩することおよび管内の流体が管継手から外部へ漏洩することを防止することができる。
【0015】
本第5発明における取水用配管は、上記第4発明に記載された管継手によって接合された複数の管が地中に掘られた縦穴内に配設されているものである。
これによると、外部の地下水が管継手から管内に漏洩することおよび管内の地下水が管継手から外部へ漏洩することを防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本発明によれば、外圧に対して、受口内周とシール部材外周との間を確実に止水することができる。また、内圧に対して、受口内周と挿口外周との間を確実に止水することができる。これにより、外部の流体が管継手から管内に漏洩することおよび管内の流体が管継手から外部へ漏洩することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態における取水用配管の断面図である。
【図2】同、取水用配管の管継手の断面図である。
【図3】同、管継手に設けられるシール部材の図であり、(a)は側面、(b)は(a)の断面を示す。
【図4】同、シール部材の拡大断面図である。
【図5】同、管継手の断面図であり、シール部材に内水圧が作用している状態を示す。
【図6】同、管継手の断面図であり、シール部材に外水圧が作用している状態を示す。
【図7】同、管継手の断面図であり、シール部材を受口内に装着し、挿口を受口に挿入し始めた状態を示す。
【図8】本発明の第2の実施の形態におけるシール部材の拡大断面図である。
【図9】従来の管継手の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明における実施の形態を、図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
先ず、第1の実施の形態を、図1〜図7を参照して説明する。
【0019】
図1に示すように、1は地中2に掘削された縦穴式の井戸であり、縦穴6の内部には取水用配管3が縦姿勢で配設されている。取水用配管3内には地下水汲み上げ用の汲上用配管4が挿入されており、汲上用配管4にはポンプ5が接続されている。取水用配管3は複数の管11を管継手12で接合することにより構成されている。尚、取水用配管3の下端部には、網等を備えた取水口7が形成されている。
【0020】
管継手12は以下のような構成を有している。
図2に示すように、各管11は、一端部に受口15を有し、他端部に挿口16を有している。互いに接合される一方の管11の受口15に、他方の管11の挿口16が挿入され、受口15の内周と挿口16の外周との間がシール部材17によって止水される。
【0021】
図3,図4に示すように、シール部材17は、ゴム等の弾性材からなる円環状の部材であり、バルブ部18と、ヒール部19と、これらバルブ部18とヒール部19とを接続する接続部20とを一体に有している。ヒール部19は、図4に示すように断面が矩形状であり、図5に示すように、バルブ部18よりも受口15の開口部23側に位置しており、受口15の内周に形成された嵌込溝27に嵌め込まれてシール部材17を所定の取付位置に保持している。尚、ヒール部19の内周面は管軸心に対して平行である。
【0022】
バルブ部18は、図5に示すように、受口15の内周に形成された収納溝28に収納され、受口15の内周の一部である収納溝28の底面と挿口16の外周との間に挟まれて径方向に圧縮されている。尚、図4に示すように、シール部材17を管継手12から取り外した状態において、バルブ部18の受口奥側端部の断面形状は半円形状(円弧形状の一例)に膨出して形成されている。
【0023】
図4〜図6に示すように、バルブ部18は、外周側に、全周にわたってリップ部24を備えている。リップ部24は、管径方向外向きで且つヒール部19側へ突出した先端24aと、径方向外向きで且つ斜め方向に作用する外水圧P1(径方向外向きの外圧の一例)を受ける第1受圧面24bとを全周にわたり有している。尚、ヒール部19とリップ部24との間には、管径方向内向きに窪んだ凹部25が全周にわたり形成されている。
【0024】
管軸方向における嵌込溝27と収納溝28との間には、管径方向における内向きに突出した突部29が全周にわたり形成されており、突部29が凹部25に挿入されている。尚、受口15の内周とシール部材17との間には、凹部25の底面と突部29と第1受圧面24bとに囲まれた空隙部26が形成されている。図5に示すように、シール部材17を管継手12内に装着した状態で、第1受圧面24bは受口15の開口部23側ほど管径方向の外向きに傾斜している。
【0025】
また、バルブ部18は、受口奥側端部に、管継手12に作用する内水圧P2(内圧)を受ける第2受圧面18aを有している。
また、接続部20は、内周に、ヒール部19の内周からバルブ部18の内周に続くテーパー面20aを有している。
【0026】
以下、上記構成における作用を説明する。
図1に示すように、ポンプ5を稼動して、井戸1の取水用配管3の内部の地下水32を汲上用配管4から汲み上げた場合、取水用配管3の内部の地下水32の水位が次第に低下し、取水用配管3の内部の地下水32と外部の地下水33とに水位差Hが発生し、管継手12に内水圧(内圧)よりも大きな外水圧(外圧)が作用することがある。
【0027】
このような外水圧が作用すると、図6に示すように、管外の地下水33が、受口15の開口部23の内周と挿口16の外周との隙間からシール部材17の外周と受口15の内周との間を通って、空隙部26に侵入する。これにより、空隙部26に発生(作用)する径方向外向きで且つ斜め方向の外水圧P1がリップ部24の第1受圧面24bで受けられ、リップ部24が、管径方向における外向きに押されて、受口15の収納溝28の底面(受口内周)に押し付けられる。これにより、外水圧P1に対して、受口15の内周とシール部材17の外周との間を確実に止水(セルフシール)することができる。
【0028】
また、上記とは逆に、取水用配管3の内部の地下水32と外部の地下水33との水位差によって管継手12に外水圧よりも大きな内水圧が作用した場合、図5に示すように、この内水圧P2がバルブ部18の第2受圧面18aで受けられ、内水圧P2によって、バルブ部18の外周に、管径方向における外向きの押圧力F1が発生するとともに、バルブ部18の内周に、管径方向における内向きの押圧力F2が発生する。このため、バルブ部18の外周が受口15の収納溝28の底面(受口内周)に押し付けられるとともに、バルブ部18の内周が挿口16の外周に押し付けられる。これにより、内水圧P2に対して、受口15の内周と挿口16の外周との間を確実に止水(セルフシール)することができる。
【0029】
このように、管継手12に外水圧P1と内水圧P2との少なくともいずれかが作用しても、管継手12の部分を確実に止水することができるので、図1に示すように、取水用配管3の外部の地下水33が管継手12から取水用配管3の内部に漏洩するのを防止することができるとともに、取水用配管3の内部の地下水32が管継手12から取水用配管3の外部へ漏洩するのを防止することができる。
【0030】
また、管11同士を接合する場合、図7に示すように、シール部材17のバルブ部18を収納溝28に収納し、ヒール部19を嵌込溝27に嵌め込むことにより、シール部材17が受口15内の管軸方向における所定の取付位置に保持される。この状態で挿口16を受口15に挿入する。この際、挿口16がシール部材17の内周側に挿入され、バルブ部18が挿口16によって拡径される。これに対して、リップ部24はバルブ部18の外周側に備えられているため、挿口16の挿入力が大幅に増大することはなく、接合作業を容易に行うことが可能である。
【0031】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態では、図8に示すように、シール部材17は、内周に、ヒール部19の内周端部から接続部20の内周を経てバルブ部18の内周へ続くテーパー面40を有している。
【0032】
これによると、上記第1の実施の形態と同様の作用および効果が得られる。
上記各実施の形態では、図1に示すように、シール部材17を、井戸1の取水用配管3の管継手12内に設けたが、井戸1の取水用配管3に限定されるものではなく、外圧が作用する場合がある配管の管継手12内に設けてもよい。
【0033】
上記各実施の形態では、図4に示すように、バルブ部18の受口奥側端部の断面形状を、円弧形状の一例として半円形状に膨出して形成しているが、半円形状とは、円を正確に半分にした形状のみならず、円をほぼ(実質的に)半分にした形状も含むものである。また、半円形状に限らず、円弧形状の他の例として、半楕円形状に膨出して形成したものも含まれる。尚、半楕円形状とは、楕円を正確に半分にした形状のみならず、楕円をほぼ(実質的に)半分にした形状も含むものである。
【符号の説明】
【0034】
3 取水用配管
11 管
12 管継手
15 受口
16 挿口
17 シール部材
18 バルブ部
18a 第2受圧面
19 ヒール部
23 受口の開口部
24 リップ部
24b 第1受圧面
27 嵌込溝
F1 外向きの押圧力
F2 内向きの押圧力
P1 外水圧(外圧)
P2 内水圧(内圧)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合される一方の管に形成された受口に、他方の管に形成された挿口が挿入された管継手の受口内周と挿口外周との間を止水する管継手用のシール部材であって、
受口内周と挿口外周との間に挟まれて径方向に圧縮される弾性材からなる円環状のバルブ部を有し、
バルブ部は、外周側に、全周にわたってリップ部を備え、
リップ部は、管継手の外部から受口内周と挿口外周との間に作用する径方向外向きの外圧を受ける第1受圧面を有していることを特徴とするシール部材。
【請求項2】
バルブ部は、受口奥側端部に、管継手に作用する内圧を受ける第2受圧面を有し、
第2受圧面で受けられる内圧によって、バルブ部の外周に、管径方向における外向きの押圧力が発生するとともに、バルブ部の内周に、管径方向における内向きの押圧力が発生することを特徴とする請求項1記載のシール部材。
【請求項3】
受口内周に形成された嵌込溝に嵌め込まれてシール部材を取付位置に保持するヒール部がバルブ部と一体に形成され、
ヒール部はバルブ部よりも受口開口側に位置し、
バルブ部の受口奥側端部の断面形状が円弧形状であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のシール部材。
【請求項4】
上記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のシール部材を備えたことを特徴とする管継手。
【請求項5】
上記請求項4に記載された管継手によって接合された複数の管が地中に掘られた縦穴内に配設されていることを特徴とする取水用配管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−62959(P2012−62959A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207394(P2010−207394)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】