説明

シール部材及び防水コネクタ

【課題】所定の防水性を確保することが可能なシール部材及び防水コネクタを提供する。
【解決手段】シール部材60は、端子金具30が通過したあと端子金具30に接続された電線90が挿入されるシール孔64を有する。シール部材60のシール孔64の内周面には、電線90の外周面に密着する網目状のリップ65が形成され、かつリップ65によって多数の枡69が区画されている。リップ65は、電線90の挿入方向Aに対して斜めに延びる互いに平行な複数の第1リップ66と、第1リップ66と交差しつつ電線90の挿入方向Aに対して斜めに延びる互いに平行な複数の第2リップ67とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール部材及び防水コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来のシール部材及び防水コネクタが開示されている。防水コネクタは、端子金具が挿入される複数のキャビティを有するコネクタハウジングを備える。シール部材は、コネクタハウジングの後端部に組み付けられ、各キャビティと連通する位置に、複数のシール孔を有している。
【0003】
また、各シール孔の内周面には、前後方向に間隔をあけて複数の内周リップが形成されている。各内周リップは、シール孔の内周面を周回する形態とされ、前後方向に並列に配置されている。端子金具がシール孔からキャビティ内に挿入されると、シール孔内に電線が挿入され、電線の外周面に各内周リップが弾性的に密着して、電線周りのシールがとられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−140876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の場合、端子金具がシール孔を通過する過程で、各内周リップの外面が端子金具との干渉に起因して損傷するおそれがある。そうすると、シール部材が所定の防水性を確保することができない懸念がある。
【0006】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、所定の防水性を確保することが可能なシール部材及び防水コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、シール部材であって、端子金具が通過したあと前記端子金具に接続された電線が挿入されるシール孔を有し、前記シール孔の内周面に、前記電線の外周面に密着する網目状のリップが形成され、かつ前記網目状のリップによって多数の枡が区画されているところに特徴を有する。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記リップは、前記電線の挿入方向に対して斜めに延びる互いに平行な複数の第1リップと、前記第1リップと交差しつつ前記電線の挿入方向に対して斜めに延びる互いに平行な複数の第2リップとからなるところに特徴を有する。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載のものにおいて、前記リップが、前記シール孔の内周面全体に亘って形成されているところに特徴を有する。
【0010】
請求項4の発明は、防水コネクタであって、請求項1ないし3のいずれか1項記載のシール部材が組み付けられ、前記シール孔と連通する位置に、キャビティを有するコネクタハウジングを備えるところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0011】
<請求項1及び請求項4の発明>
シール部材のシール孔に電線が挿入されると、電線の外周面に網目状のリップが密着するため、電線とリップとの接触面積が従来よりも増加する。したがって、仮に、端子金具の通過に起因してリップの一部が損傷しても、損傷していないリップの他部によってシール部材の所定の防水性が確保される。また、シール孔の内周面には網目状のリップによって多数の枡が区画されているため、仮に、シール孔内に水が浸入しても、水が枡で捕捉されることにより、端子金具側に水が付着するのが防止される。
【0012】
<請求項2の発明>
リップが互いに交差する複数の第1、第2リップからなり、各第1、各第2リップがいずれも電線の挿入方向に対して斜めに延びる形態とされるため、各第1、各第2リップによって電線に対する引っ掛かりが形成され、電線に対するシール部材の保持信頼性が確保される。
【0013】
<請求項3の発明>
リップがシール孔の内周面全体に亘って形成されているため、防水性がより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態1に係るシール部材の斜視図である。
【図2】シール部材の断面図である。
【図3】シール部材におけるシール孔の内周面の展開図である。
【図4】防水コネクタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図4によって説明する。
図4は、実施形態1に係る防水コネクタ10をあらわしている。防水コネクタ10は、コネクタハウジング20を備えている。コネクタハウジング20は、合成樹脂製であって全体としてブロック状をなし、内部に複数のキャビティ21を有している。各キャビティ21は、高さ方向に2段でかつ幅方向に複数列となって配置されている。各キャビティ21の内面には、撓み可能なランス22が突出して形成されている。そして、各キャビティ21内には、後方から端子金具30が挿入されるようになっている。
【0016】
端子金具30は、導電性の金属板を曲げ加工等して一体に成形され、箱状の本体部31と、本体部31の後方に連なるオープンバレル状のバレル部32とを有している。本体部31はコネクタ嵌合に伴って図示しない相手端子金具と電気的に接続され、バレル部32は電線90の端末部に圧着により接続されている。端子金具30がキャビティ21内に正規挿入されると、本体部31がランス22に弾性的に係止され、これによって端子金具30がキャビティ21内に抜け止めされるようになっている。
【0017】
また、コネクタハウジング20の後端面には収容凹部23が開口して形成されている。収容凹部23内には、後方からシール部材60が組み付けられ、さらにシール部材60の抜け止めをなすホルダ80が組み付けられる。ホルダ80は、ハウジング係止部81を有し、ハウジング係止部81がコネクタハウジング20に形成された係止受け部24を弾性的に係止することにより、コネクタハウジング20に保持されるようになっている。また、ホルダ80は、コネクタハウジング20の各キャビティ21と連通する位置に、電線90が遊嵌状態で挿入される複数の電線遊挿孔82を有している。
【0018】
シール部材60は、コネクタハウジング20とホルダ80との間に前後方向に挟持して配置される。具体的には、シール部材60は、シリコンゴム等のゴム製であって、図1及び図2に示すように、前後方向に所定厚みをもったマット状のシール本体61を有している。シール本体61の外周面には、複数条の外周リップ62が前後方向に並んで形成されている。各外周リップ62は、シール本体61の外周面を周回する形態とされ、谷部63を挟んで互いに分離して配置されている。シール部材60が収容凹部23内に組み付けられると、収容凹部23の内周面に各外周リップ62が弾性的に密着し、これによってコネクタハウジング20内が液密にシールされるようになっている。
【0019】
また、シール部材60には、図4に示すように、各キャビティ21及び各電線遊挿孔82と連通する位置に、複数のシール孔64が形成されている。各シール孔64は、図1及び図2に示すように、断面円形であって前後方向に貫通する形態とされている。
【0020】
さて、シール部材60における各シール孔64の内周面には、網目のローレット形状からなるリップ65が形成されている。リップ65は、図2に示すように、電線90の挿入方向Aに対して斜め上向きに直線状に延びるとともに互いに平行な複数の第1リップ66と、各第1リップ66と交差しつつ電線90の挿入方向Aに対して斜め下向きに直線状に延びるとともに互いに平行な複数の第2リップ67とからなる。各第1、各第2リップ66、67は、シール孔64の内周面全体に格子状に張り巡らされ、その端末はシール本体61の前後両端に臨んでいる。また、各第1、各第2リップ66、67は、それぞれ同じ突出寸法を有し、その突出端部には丸みが付けられている。
【0021】
図3に示すように、各第1、各第2リップ66、67は、その延出途中で互いに交わる複数の交差点68を介して、互いに連結されている。また、シール部材60における各シール孔64の内周面には、各交差点68で交わる各第1、各第2リップ66、67によって多数の枡69が区画されている。各枡69は、互いに同形同大であって、それぞれ四角形状、詳細には平行四辺形状、より詳細にはひし形状をなし、前後方向及び周方向に整列に並んで配置されている。
【0022】
以上が実施形態1の構造であり、次に、実施形態1の作用を説明する。
コネクタハウジング20の収容凹部23内には後方からシール部材60が挿入され、さらにホルダ80が挿入されて取り付けられる。続いて、コネクタハウジング20のキャビティ21内には、電線90の端末部に接続された端子金具30が挿入される。端子金具30は、電線遊挿孔82からシール孔64を経てキャビティ21内に挿入される。キャビティ21内に端子金具30が正規挿入されると、ランス22の係止作用によって端子金具30の抜け止めがなされ、かつシール孔64のリップ65が電線90の外周面に弾性的に密着して電線90周りのシールがとられる(図4を参照)。
【0023】
ところで、端子金具30がシール孔64を通過する過程では、本体部31がリップ65と干渉するため、リップ65が損傷するおそれがある。しかるに実施形態1の場合、シール孔64の内周面全体に亘ってリップ65が張り巡らされているため、たとえリップ65の一部が損傷しても、損傷していないリップ65の他部によって電線90に対する適正な防水性を確保することが可能となる。また、万一、シール孔64内に水が浸入しても、浸入した水が枡69内に捕捉されることにより、キャビティ21内のバレル部32(端子金具30と電線90との接続部分)に水が付着するのが防止される。
【0024】
以上説明したように、実施形態1によれば、シール部材60のシール孔64に電線90が挿入されると、電線90の外周面に網目状のリップ65が密着するため、電線90とリップ65との接触面積が従来のリップよりも増加し、所定の防水性を確保することが可能となる。
【0025】
また、リップ65が互いに交差する複数の第1、第2リップ66、67からなり、各第1、各第2リップ66、67がいずれも電線90の挿入方向Aに対して斜めに延びる形態とされるため、各第1、各第2リップ66、67によって電線90に対する引っ掛かりが形成され、電線90に対するシール部材60の保持信頼性が確保される。さらに、リップ65がシール孔64の内周面全体に亘って形成されているため、防水性がより高められる。
【0026】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)リップは、曲線状に形成されるものであってもよい。
(2)第1、第2リップのいずれか一方は、電線の挿入方向に延びる形態であってもよい。
(3)リップを成形する金型は一般には放電加工によって成形されるが、リップはドリル等の機械的手段や薬品の利用によって成形されるものであってもよい。
(4)リップの網目模様は、部分的に切断されていてもよい。
(5)枡は、三角等の上記以外の多角形であってもよく、また円等の丸形状であってもよい。
(6)端子金具は、雄タブを突成させた雄端子金具であってもよい。
【符号の説明】
【0027】
10…防水コネクタ
20…コネクタハウジング
21…キャビティ
30…端子金具
60…シール部材
64…シール孔
65…リップ
66…第1リップ
67…第2リップ
69…枡
90…電線
A…電線の挿入方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子金具が通過したあと前記端子金具に接続された電線が挿入されるシール孔を有し、前記シール孔の内周面に、前記電線の外周面に密着する網目状のリップが形成され、かつ前記網目状のリップによって多数の枡が区画されていることを特徴とするシール部材。
【請求項2】
前記リップは、前記電線の挿入方向に対して斜めに延びる互いに平行な複数の第1リップと、前記第1リップと交差しつつ前記電線の挿入方向に対して斜めに延びる互いに平行な複数の第2リップとからなることを特徴とする請求項1記載のシール部材。
【請求項3】
前記リップが、前記シール孔の内周面全体に亘って形成されている請求項1又は2記載のシール部材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載のシール部材が組み付けられ、前記シール孔と連通する位置に、キャビティを有するコネクタハウジングを備えることを特徴とする防水コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−101803(P2013−101803A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244250(P2011−244250)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】