説明

ジアシルグリセロール高含有油脂の製造方法

【課題】油脂を原料とし、これを加水分解して得られる脂肪酸をグリセリンとエステル化してジアシルグリセロール高含有油脂を製造する方法であって、最終製品において着色を生じない方法の提供。
【解決手段】原料油脂を加水分解して得られる脂肪酸をグリセリンとエステル化してジアシルグリセロール高含有油脂を製造する方法であって、原料油脂又は反応中間品において、6超であるアニシジン価を20%以上低下させる工程を有するジアシルグリセロール高含有油脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアシルグリセロール高含有油脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアシルグリセロールを高濃度に含む油脂は、体内への蓄積性が少ない等の生理作用を有することが知られており(特許文献1参照)、食用油として広く使用されている。ジアシルグリセロールの製造方法は、脂肪酸とグリセリンを原料とし、化学法又は酵素法によりエステル化反応することによる方法(特許文献2参照)、油脂とグリセリンを原料とし、化学法又は酵素法によりグリセロリシスを行う方法等が公知である(特許文献3、4参照)。
【0003】
前記製造法のうち、油脂とグリセリンを原料とするグリセロリシスによる方法においては、反応が1段階で完了するが、脂肪酸とグリセリンを原料としたエステル化反応による方法においては、まず原料とする脂肪酸は油脂を加水分解するという工程が必要となる。この場合、油脂の加水分解反応は通常高温高圧条件下で行われるため、条件により着色を生ずる場合がある。また、反応生成物中のジアシルグリセロール純度を高めるためには原料脂肪酸の濃度を向上させておくのが好ましい。そのため、油脂の加水分解後に蒸留処理を行う必要が生じる場合がある(特許文献5参照)。
【0004】
一方、油脂の加水分解後に蒸留処理を行うと、収率が低下したり、植物油に存在する植物ステロールや抗酸化成分等の有用成分が失われてしまうことがある。そのため、油脂を加水分解した後にこれを蒸留せず、分解物にグリセリンを添加してエステル化反応を行うという方法もある(特許文献6参照)。
なお、ジアシルグリセロールの製造工程においては、通常最終段階で活性白土等の吸着剤を用いることによる脱色処理が行われている(特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−176181号公報
【特許文献2】特開平1−71495号公報
【特許文献3】国際公開第03/29392号パンフレット
【特許文献4】特開昭63−133992号公報
【特許文献5】特表2007−503524号公報
【特許文献6】特開平11−123097号公報
【特許文献7】特開平4−261497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来技術における、原料油脂を高温高圧条件下で加水分解した際に生じる脂肪酸の着色に関しては、蒸留処理を行うことにより解決する。しかし、本発明者は、こうして得られた脂肪酸を用いてジアシルグリセロール高含有油脂を製造しても、最終製品において着色する場合があることを見出した。
【0007】
従って、本発明の課題は、油脂を原料とし、これを加水分解して得られる脂肪酸をグリセリンとエステル化してジアシルグリセロール高含有油脂を製造する方法であって、最終製品において着色を生じない方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、着色の原因となる要素について検討を行った結果、最終製品における着色は、単に原料油脂又はジアシルグリセロール製造中間品において着色の直接の原因物質を除去するのみでは不十分であり、原料油脂又はジアシルグリセロール製造中間品のアニシジン価が直接的に影響していることを突き止め、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、原料油脂を加水分解して得られる脂肪酸をグリセリンとエステル化反応してジアシルグリセロール高含有油脂を製造する方法であって、原料油脂又はジアシルグリセロール製造中間品において、6超であるアニシジン価を20%以上低下させる工程を有する、ジアシルグリセロール高含有油脂の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法を用いることにより、原料油脂又はジアシルグリセロール高含有油脂の製造工程中でアニシジン価が上昇するような原料を用いた場合でも、最終製品であるジアシルグリセロール高含有油脂の安定性を向上させ、着色を抑制し、外観に優れた製品とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において使用する脂肪酸は、油脂を加水分解することにより得られるものである。原料油脂としては、植物性油脂、動物性油脂のいずれを用いてもよい。具体的な原料としては、菜種油、ひまわり油、とうもろこし油、大豆油、あまに油、米油、紅花油、綿実油、牛脂、魚油等が挙げられる。また、これらの油脂を分別、混合したもの、水素添加や、エステル交換反応などにより脂肪酸組成を調整したものも原料として利用して良いが、水素添加していないものであることが、原料油脂中の構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量を低減させる点から好ましい。
【0012】
本発明の態様において、原料油脂は、それぞれの原料となる植物、又は動物から搾油後、油分以外の固形分をろ過や遠心分離等により除去するのが好ましい。次いで、水、場合によっては更に酸を添加混合した後、遠心分離等によってガム分を分離することにより脱ガムすることが好ましい。また、原料油脂は、アルカリを添加混合した後、水洗し脱水することにより脱酸を行うことが好ましい。更に、原料油脂は、活性白土等の吸着剤と接触させた後、吸着剤をろ過等により分離することにより脱色を行うことが好ましい。これらの処理は、以上の順序で行うことが好ましいが、順序を変更しても良い。また、この他に、原料油脂は、ろう分の除去のために、低温で固形分を分離するウインタリングを行っても良い。更に、原料油脂は、必要に応じて、減圧下で水蒸気と接触させることにより、脱臭を行っても良い。この際、熱履歴を極力低くすることが油脂の構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量を低減する点から好ましい。脱臭工程の条件については、温度は300℃以下、特に270℃以下にコントロールすることが好ましく、また、時間は10時間以下、特に5時間以下とすることが好ましい。
【0013】
本発明において、油脂の加水分解は高温高圧分解法、酵素分解法のいずれでも良い。油脂の高温高圧分解法による加水分解は、回分式、連続式、又は半連続式で行うことができ、原料油脂と水の装置内への供給は、並流式、向流式どちらでもよい。加水分解反応装置に供給される原料油脂及び水は、必要により予め脱気又は脱酸素した原料油脂及び水を用いることが油脂の酸化抑制の点から好ましい。
【0014】
高温高圧分解法による加水分解においては、油脂100重量部に対し、水を10〜250重量部となるように加え、温度200〜270℃、圧力2〜8MPaの条件下で0.1〜6時間かけて加水分解するのが好ましい。脂肪酸類の工業的生産性、脱色、トランス不飽和脂肪酸の生成を抑制する点から、温度は210〜265℃、更に215〜260℃とすることが好ましい。油脂100重量部に対する水の量は、同様の点から、更に15〜150重量部、特に20〜120重量部とすることが好ましい。また、圧力は同様の点から、更に2〜7MPa、特に2.5〜6MPaとすることが好ましい。更に、反応時間は同様の点から、更に0.2〜5時間、特に0.3〜4時間とすることが好ましい。
【0015】
好ましい反応装置としては、例えば7〜40m3の容量の加水分解反応槽を備えた向流式のColgate−Emery法油脂分解塔(例えばIHI社)が挙げられる。また、実験室規模の少量分解には市販のオートクレーブ装置(例えば日東高圧(株))を加水分解反応槽として用いてもよい。
【0016】
油脂の高温、高圧の条件下での加水分解反応は脂肪酸濃度によって管理し、所定の脂肪酸濃度に到達した時点で終了すればよい。なお、本発明における「脂肪酸濃度」は、「油脂製品の知識」(株式会社 幸書房発行)に従って、脂肪酸類の酸価及び脂肪酸組成を測定し、次式(1)で求めた値をいう。なお、酸価は、日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」2003年版中の「酸価(2.3.1−1996)」により測定する。
脂肪酸濃度(重量%)=x×y/56.1/10 (1)
(x=酸価[mgKOH/g]、y=脂肪酸組成から求めた平均分子量)
【0017】
油脂の高温高圧分解法による加水分解は、エステル化反応後のジアシルグリセロール純度、工業的生産性、良好な外観、トランス不飽和脂肪酸の生成を抑制する点から脂肪酸濃度が70重量%以上、更に70〜99重量%、特に75〜98重量%となるまで行うことが好ましい。加水分解の結果、色相C(ロビボンド法による)は35以下、更に1〜30、特に5〜25であることが好ましく、構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量は0〜1.5重量%、更に0.1〜1.2重量%、特に0.2〜0.7重量%であることが好ましい。更に、モノグリセリドは1〜20重量%、更に1〜15重量%、特に3〜10重量%であることが好ましい。
加水分解で得た脂肪酸は、このまま使用しても良く、蒸留による精製、ウインタリング等により脂肪酸組成の調整等を行った後に使用しても良い。
【0018】
酵素分解法による加水分解においては、使用する油脂分解用酵素は、リパーゼが好ましい。リパーゼは、動物由来、植物由来のものはもとより、微生物由来の市販リパーゼ、更にリパーゼを固定化した固定化酵素を使用しても良い。例えば、油脂分解用酵素は、リゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、クロモバクテリウム(Chromobacterium)属、ムコール(Mucor)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ジオトリケム(Geotrichum)属、ペニシリウム(Penicillium)属、キャンディダ(Candida)属等の微生物起源のリパーゼ及び膵臓リパーゼ等の動物リパーゼが挙げられる。高分解率を得るためには位置特異性のない(ランダム型)のリパーゼが良く、微生物起源ではシュードモナス(Pseudomonas)属、及びキャンディダ(Candida)属等が良い。
【0019】
本発明の態様において、油脂の酵素分解法による加水分解は、酵素を担体に固定化した固定化酵素を用いることが酵素活性を有効利用できる点から好ましい。固定化酵素は、固定化担体にリパーゼが担持されたものを用いることが好ましい。固定化担体としては、セライト、ケイソウ土、カオリナイト、シリカゲル、モレキュラーシーブス、多孔質ガラス、活性炭、炭酸カルシウム、セラミックス等の無機担体、セラミックスパウダー、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、キトサン、イオン交換樹脂、疎水吸着樹脂、キレート樹脂、合成吸着樹脂等の有機高分子等が挙げられるが、保水力の点からイオン交換樹脂が好ましい。また、イオン交換樹脂の中でも、大きな表面積を有することにより多量のリパーゼを吸着できるという点から、多孔質であることが好ましい。
【0020】
本発明の態様において、油脂の酵素分解法による加水分解は、回分式、連続式、又は半連続式で行って良く、油脂と水の装置内への供給は、並流式、向流式どちらでもよい。加水分解反応装置に供給される油脂は、予め脱気又は脱酸素を行うことが脂肪酸類の酸化抑制の点から好ましい。
【0021】
固定化酵素の加水分解活性は20U/g以上、更に100〜10000U/g、特に500〜5000U/gの範囲であることが好ましい。ここで酵素の1Uは、40℃において、油脂:水=100:25(質量比)の混合液を攪拌混合しながら30分間加水分解をさせたとき、1分間に1μmolの遊離脂肪酸を生成する酵素の分解能を示す。
【0022】
酵素分解法の反応に用いる固定化酵素量は、酵素の活性を考慮して適宜決定して良いが、分解する原料油脂100重量部に対して0.01〜30重量部、更に0.1〜20重量部、特に1〜10重量部が好ましい。また水の量は、分解する原料油脂100重量部に対して10〜200重量部、更に20〜100重量部、特に30〜80重量部が好ましい。水は、蒸留水、イオン交換水、脱気水、水道水、井戸水等いずれのものでも構わない。グリセリン等その他の水溶性成分が混合されていても良い。必要に応じて、酵素の安定性が維持できるようにpH3〜9の緩衝液を用いてもよい。
【0023】
反応温度は、酵素の活性をより有効に引き出し、分解により生じた遊離脂肪酸が結晶とならない温度である0〜70℃、更に20〜50℃とすることが好ましい。また反応は、空気との接触が出来るだけ回避されるように、窒素ガス、炭酸ガス、ヘリウムガス等の不活性ガス存在下で行うことが好ましい。
【0024】
油脂の酵素分解法の加水分解反応は、高温高圧分解法による加水分解と同様に、生成する脂肪酸濃度によって管理し、所定の脂肪酸濃度に到達した時点で終了すればよい。すなわち、油脂の酵素分解法による加水分解は、エステル化反応後のジアシルグリセロール純度、工業的生産性、良好な外観、トランス不飽和脂肪酸の生成を抑制する点から脂肪酸濃度が70重量%以上、更に70〜99重量%、特に75〜98重量%となるまで行うことが好ましい。更に、加水分解は、モノアシルグリセロール濃度が1〜20重量%、更に1〜15重量%、特に2〜10重量%となるまで行うことが好ましい。
加水分解で得た脂肪酸は、このまま使用しても良く、蒸留による精製、ウインタリング等により脂肪酸組成の調整等を行った後に使用しても良い。
【0025】
加水分解で得た脂肪酸を蒸留する場合、脂肪酸濃度、工業的生産性、良好な外観、トランス不飽和脂肪酸の生成を抑制する点から、操作温度100〜300℃、更に120〜250℃、特に150〜250℃、圧力は0.133〜2660Pa、更に1.33〜1330Paとすることが好ましい。脂肪酸濃度は85重量%以上、更に90〜100重量%、特に95〜99.9重量%となるまで行うことが好ましい。更に、モノグリセリドは0〜15重量%、更に0〜10重量%、特に0.1〜5重量%であることが好ましい。
【0026】
加水分解で得た脂肪酸を蒸留後、ウインタリングする場合、自然分別法で行うことが好ましい。自然分別法とは、処理対象の原料脂肪酸類を、分相する量の水を含まずかつ溶剤を使用せずに冷却し、析出した固体成分を固−液分離を行う方法をいう。自然分別法においては、必要に応じ撹拌しながら冷却して良い。また固−液分離手段としては濾過、遠心分離、沈降分離等が用いられる。本発明における自然分別法は、原料脂肪酸類に対し、結晶の析出前に結晶調整剤を添加して行うことが好ましい。結晶調整剤は、特に限定されないが、多価アルコール脂肪酸エステルが好ましく、例えば、食品添加物であるショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられ、なかでもポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。結晶調整剤は2種以上を併用してもよく、またその添加量は、原料脂肪酸類に対して0.001〜5重量%、特に0.05〜1重量%程度が好ましい。
【0027】
結晶調整剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを用いる場合は、原料脂肪酸類に完全に溶解できるように、ポリグリセリン脂肪酸エステルの透明融点より高い温度で混合溶解することが好ましい。この混合溶解の後の冷却時間、冷却温度及び保持時間は、原料の量、冷却能力などによって異なり、原料脂肪酸類の組成により適宜選択すればよい。例えば、大豆脂肪酸の場合、−3℃までの冷却時間は1〜30時間、好ましくは3〜20時間程度、保持時間は0〜24時間、好ましくは1〜10時間程度である。冷却は、回分式処理でも連続式でもよい。冷却操作は、析出する結晶の平均粒径が100μm以上、特に150μm以上となるような条件で行うことが好ましい。
【0028】
本発明において、脂肪酸とグリセリンとをエステル化する方法は、化学法又は酵素法のいずれでも良いが、酵素法によりエステル化反応を行うことがトランス不飽和脂肪酸の生成抑制の点、製品の脂肪酸組成を調整できる点、ジアシルグリセロールの純度を高くする点からから好ましい。
【0029】
エステル化反応に用いる酵素は、リパーゼを用いることが好ましいが、特にジアシルグリセロール等の機能性油脂の製造を目的とする場合、選択的にジアシルグリセロールを合成しやすいリゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ジオトリケム(Geotrichum)属、ペニシリウム(Penicillium)属、キャンディダ(Candida)属等が挙げられる。
また、エステル化反応に用いる酵素は、固定化されたものを用いることが、コストの点から好ましい。
【0030】
エステル化反応を酵素法で行う場合、反応温度は、反応速度を向上する点、酵素の失活を抑制する点から0〜100℃、更に20〜80℃、特に30〜80℃とすることが好ましい。
エステル化反応を化学法で行う場合、反応温度は、反応速度を向上する点、トランス不飽和脂肪酸の生成を抑制する点から100〜300℃、更に150〜250℃が好ましい。また、触媒として水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ、又は有機酸等の酸やその塩を使用することが、反応速度を向上する点、反応油の色相を良くする点から好ましい。
また、酵素法でエステル化反応を行う場合、反応時に減圧による脱水を行うことが、反応油のジアシルグリセロール含有量を高くする点から好ましい。化学法でエステル化反応を行う場合、反応時に同伴気体を流通させることによる脱水を行うことが、反応油のジアシルグリセロール含有量を高くする点から好ましい。
【0031】
エステル化反応を行う際の原料の仕込み比は、グリセリン基のモル数に対する脂肪酸基のモル数の比を0.2〜10、更に0.3〜0.8、特に0.5〜6、殊更0.5〜4とすることが、反応油の組成が最適になる点(反応油中の脂肪酸及びグリセリンの残存量、並びにモノアシルグリセロール又はトリアシルグリセロールの生成量が抑制され、蒸留負荷が低減すると共にジアシルグリセロール高含有となり、生産効率が高くなる点)から好ましい。以下、このグリセリン基のモル数に対する脂肪酸基のモル数の比を「FA/GLY」と表す。FA/GLYは下式で表される。
FA/GLY=(脂肪酸のモル数+脂肪酸の低級アルコールエステルのモル数+モノアシルグリセロールのモル数+ジアシルグリセロールのモル数×2+トリアシルグリセロールのモル数×3)/(グリセリンのモル数+モノアシルグリセロールのモル数+ジアシルグリセロールのモル数+トリアシルグリセロールのモル数)
FA/GLYは、反応形態によって適宜選択する。例えば、酵素を用いるエステル化反応の場合は、反応油の組成が最適になる点から1〜3、更に1.5〜2.5が好ましい。化学法でのエステル化反応の場合は、反応油の組成が最適になる点から0.3〜3、更に0.4〜2.2が好ましい。
【0032】
エステル化反応を行った後の反応油中には、ジアシルグリセロールと共に、未反応物として脂肪酸及びグリセリン、副生成物としてトリアシルグリセロール及びモノアシルグリセロールが存在する。本発明の態様においては、エステル化反応後の反応油から、蒸留操作により脂肪酸、グリセリン、モノアシルグリセロールを除去することが好ましい。また、これら未反応物や副生成物を回収、再利用しても良い。
【0033】
本発明の態様において、エステル化反応を行った後の反応油中のモノアシルグリセロール含有量は、製品中のジアシルグリセロール含量を高くする点、蒸留負荷を低減する点、反応効率を高くする点から2〜60重量%であることが好ましく、更に3〜50重量%、特に5〜50重量%、殊更10〜50重量%であることが好ましい。また、エステル化反応油中のジアシルグリセロール含有量は、製品中のジアシルグリセロール含量を高くする点、蒸留負荷を低減する点、反応効率を高くする点から10〜90重量%であることが好ましく、更に20〜80重量%、特に30〜70重量%、殊更30〜60重量%であることが好ましい。
【0034】
本発明の態様において、エステル化反応後の反応油から、蒸留操作により脂肪酸、グリセリン、モノアシルグリセロールを除去する際には、蒸留後の油脂中のモノアシルグリセロール含有量を0.1〜15重量%の範囲となるように行うことが、ジアシルグリセロール含有量を高くする点から好ましく、より好ましくは0.1〜10重量%、更に0.1〜8重量%、特に0.2〜8重量%、殊更0.3〜8重量%とすることが好ましい。回収される留分の量は、反応油の組成によって異なるが、反応油中のジアシルグリセロールとトリアシルグリセロール以外の成分に対して、0.5〜1.5重量倍、更に0.6〜1.4重量倍、特に0.6〜1.2重量倍とすることが、蒸留後の油脂中のモノアシルグリセロール含有量を0.1〜15重量%の範囲とする点、ジアシルグリセロールの収量を増加させる点、過剰量の留分がリサイクルされることを避ける点から好ましい。また、蒸留後の脱酸油中のモノアシルグリセロール含有量が、反応油中のモノアシルグリセロール含有量に対して0.01〜0.8重量倍となるようにすることが、製品中のジアシルグリセロール含有量を高くする点から好ましく、更に0.02〜0.6重量倍、特に0.03〜0.5重量倍とすることが好ましい。
【0035】
蒸留の条件は、圧力は0.01〜300Paであることが好ましく、更に0.1〜200Pa、特に0.2〜100Paであることが、設備コストや運転コストを小さくする点、蒸留能力を上げる点、蒸留温度を最適に選定できる点、熱履歴によるトランス不飽和脂肪酸の増加や熱劣化を抑制する点から好ましい。温度は140〜280℃、更に150〜260℃、特に160〜250℃であることが、トランス不飽和脂肪酸の増加を抑制する点から好ましい。滞留時間は0.1〜30分、更に0.2〜20分、特に0.2〜10分であることが、トランス不飽和脂肪酸の増加を抑制する点から好ましい。ここで、滞留時間とは、油脂が蒸留温度に達している間の平均滞留時間をいう。
【0036】
蒸留後の油脂中のモノアシルグリセロール含有量を0.1〜15重量%の範囲とする蒸留条件は、各成分の蒸気圧曲線をもとに設定するのが好ましい。ここで蒸気圧曲線とは、物質の各温度での蒸気圧を示す曲線である。蒸留工程終了時点(連続蒸留の場合は蒸留工程出口)での蒸留残渣(蒸留後の油脂)の温度と圧力が、モノアシルグリセロールの蒸気圧曲線とジアシルグリセロールの蒸気圧曲線の間になるよう設定することが好ましい。ある操作圧力で蒸留する場合は、蒸留工程終了時点(連続蒸留の場合は蒸留工程出口)での蒸留残渣(蒸留後の油脂)の温度が、その圧力におけるモノアシルグリセロールの蒸発温度よりも高く、その圧力におけるジアシルグリセロールの蒸発温度よりも低くなるように、加熱量をコントロールすることが好ましい。また、各成分の蒸気圧曲線及び気液平衡関係推算式を用いて使用する蒸留装置の形式に応じた蒸留計算を行い、蒸留条件を設定しても良い。
【0037】
本発明の態様において、エステル化反応油を蒸留する場合に使用する蒸留装置は、バッチ単蒸留装置、バッチ精留装置、連続精留装置、フラッシュ蒸発装置、薄膜式蒸発装置等が挙げられる。上記の蒸留条件を達成する点からは、薄膜式蒸発装置が好ましい。薄膜式蒸発装置とは、蒸留原料を薄膜状にして加熱し、留分を蒸発させる形式の蒸発装置である。薄膜式蒸発装置としては、薄膜を形成する方法によって、遠心式薄膜蒸留装置、流下膜式蒸留装置、ワイプトフィルム蒸発装置(Wiped film distillation)等が挙げられる。この中でも、局部的な過熱を防ぎ油脂の熱劣化等をさける点からは、ワイプトフィルム蒸発装置を用いることが好ましい。ワイプトフィルム蒸発装置とは、筒状の蒸発面の内側に蒸留原料を薄膜状に流し、ワイパーで薄膜攪拌を行い、外部から加熱し、留分を蒸発させる装置である。ワイプトフィルム蒸発装置は、内部凝縮器にて留分の凝縮を行う形式のものが、排気抵抗を下げ真空装置のコストを下げられる点、蒸発能力が大きい点から好ましい。ワイプトフィルム蒸発装置としては、UIC GmbH社製「短行程蒸留(Short path distillation)装置」、神鋼パンテック社製「ワイプレン」、日立製作所製「コントロ」などが挙げられる。
【0038】
本発明の態様において、蒸留回収された留分の組成は、反応油の組成によって異なるが、モノアシルグリセロールが5〜80重量%、脂肪酸が0.5〜60重量%、グリセリンが0.5〜30重量%程度であることが好ましい。回収された留分の当該組成により、次の反応に必要な原料の量を決定するのが好ましい。その後の反応条件は、前回のものと同じであることが好ましい。
【0039】
本発明の態様において、エステル化反応を行った後の反応油又はその後蒸留を行ったものは、次いで公知の方法による精製を行い、残存している脂肪酸、モノアシルグリセロール、臭い成分等を除去、又は分解し、精製することが好ましい。また、蒸留後又は前記精製後のジアシルグリセロール高含有油脂からジアシルグリセロールを蒸留し、蒸留残渣としてトリアシルグリセロールや高沸点成分を除去することにより、ジアシルグリセロール濃度を更に高めたジアシルグリセロール高含有油脂としても良い。このとき蒸留残渣として回収したトリアシルグリセロール等は、そのまま、又は、精製処理を行った後、反応原料の一部として再使用することが、原料の有効利用の点から好ましい。
【0040】
製造されたジアシルグリセロール高含有油脂は、ジアシルグリセロールを40重量%以上含有することが好ましく、より好ましくは50重量%以上、更に60重量%以上、特に65〜100重量%、殊更80〜98重量%含有することが、食用油として利用した場合に体内への蓄積性が少ない等の生理機能を有する点から好ましい。
【0041】
本発明においては、原料油脂又はジアシルグリセロール製造中間品において、6超であるアニシジン価を20%以上低下させる工程を有する(ジアシルグリセロール製造中間品は、以下単に「中間品」と記載する)。このうち、中間品において、6超であるアニシジン価を20%以上低下させる工程を設けるのが、ジアシルグリセロール高含有油脂の着色抑制の点、保存安定性が向上する点から好ましい。中間品とは、原料油脂を加水分解した後の脂肪酸、得られた脂肪酸を蒸留等して精製した脂肪酸、脂肪酸をグリセリンとエステル化反応した後の反応油、反応油を蒸留した脱酸油、脱酸油を水洗した水洗油等である。また、エステル化反応した後の反応油を蒸留して脱酸油とする際に除去される未反応物や副生成物を回収、再利用する場合には、これらも中間品に含まれる。中でも、原料油脂を加水分解した後の脂肪酸、又は得られた脂肪酸を蒸留等して精製した脂肪酸において、6超であるアニシジン価を20%以上低下させることが好ましい。その理由は、アニシジン価を低下させる対象が原料油脂やこれを加水分解後にグリセリンとエステル化した後の反応油等よりも、エステル化反応前の脂肪酸である方が、小容量であること及び低粘度であることから、処理が容易となるためである。特に、アニシジン価を低下させる手段が吸着剤を用いた吸着処理の場合に、吸着剤の使用量を低減させ、歩留まりを向上させる点から、アニシジン価を低下させる対象が脂肪酸であることが好ましい。また、脂肪酸とグリセリンのエステル化反応を酵素法で行う場合、脂肪酸のアニシジン価を低下させることが、酵素の劣化を抑制する点から好ましい。
【0042】
また、ジアシルグリセロール高含有油脂の着色抑制の点、保存安定性が向上する点から、原料油脂又は中間品において、アニシジン価が6超10以下である場合にはその低下率を20%以上、更に30%以上、特に40%以上とすることが好ましく、アニシジン価が10超15以下である場合にはその低下率を40%以上、更に50%以上、特に60%以上とすることが好ましく、アニシジン価が15超の場合はその低下率を60%以上、更に70%以上、特に80%以上とすることが好ましい。
【0043】
ここでアニシジン価とは、脂質の酸化二次生成物であるカルボニル化合物量を示す指標であり、試料にアニシジンを反応させた場合の350nmの吸光係数を100倍した値である。アニシジン価は、日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」2003年版中の「アニシジン価(2.5.3.−1996)」により測定することができる。本発明においては、アニシジン価を20%以上低下させる工程に先立ち、原料油脂又は中間品のアニシジン価を測定する工程を有することが好ましい。また、アニシジン価を測定する工程により、アニシジン価が6超である原料油脂又は中間品を選定することが好ましい。更に、アニシジン価の値の範囲によって、アニシジン価を低下させる程度を前記の基準により判断することが好ましい。
【0044】
また、本発明において、アニシジン価を20%以上低下させる前の原料油脂又は中間品のアニシジン価は6超であるが、更に8以上、特に10以上であることが、簡便に保存可能な点から好ましい。更に、アニシジン価を低下させた後のアニシジン価は6以下であることが好ましく、更に5以下、特に4以下、殊更0.1〜3であることが、最終製品であるジアシルグリセロール高含有油脂の着色抑制の点、安定性向上の点から好ましい。また、最終製品であるジアシルグリセロール高含有油脂のアニシジン価は6以下であることが好ましく、更に5以下、特に4以下、殊更0.1〜3であることが、着色抑制の点、安定性向上の点から好ましい。
【0045】
ジアシルグリセロール高含有油脂を製造する際に、通常の原料を用いて通常の製造工程を経た場合には、原料油脂又は中間品におけるアニシジン価は6以下であるが、原料が特殊な保存状態に置かれたり、輸送により劣化した場合、そのような原料を用いると製造工程中に6超に上昇することが判明した。例えば、長期保存されて過酸化物価が上昇した原料油脂を用いて加水分解を行うと、得られた脂肪酸のアニシジン価が上昇する場合がある。また、原料油脂に問題はなくても、これを加水分解した後の脂肪酸やエステル化反応油等の中間品のアニシジン価が、その保存状態によって上昇する場合がある。
【0046】
本発明の態様において、アニシジン価を低下させる手段は、活性白土、活性炭、シリカゲル等の吸着剤を用いた吸着処理、水洗、蒸留、水蒸気脱臭等することが挙げられ、このうち、酸化二次生成物であるカルボニル化合物を効率的に低下させる点から、吸着剤を用いた吸着処理が好ましい。吸着処理の方法は、原料油脂又は中間品と吸着剤とを撹拌槽に入れ、攪拌・混合した後に濾過して吸着剤を除去する方法や、カラムに吸着剤を充填し、これに原料油脂又は中間品を流通させる方法等が挙げられる。この際、アニシジン価を低下させる対象が原料油脂を加水分解した後の脂肪酸、又は得られた脂肪酸を蒸留等して精製した脂肪酸である方が、原料油脂や、脂肪酸をグリセリンとエステル化反応した後の反応油、反応油を蒸留した脱酸油、脱酸油を水洗した水洗油等よりも、吸着剤の使用重量を20〜80%程度に削減できる点から好ましい。
【0047】
本発明の態様において、吸着剤を用いた吸着処理を行う場合には、予め原料油脂又は中間品の水分量を、減圧条件下におくこと等の操作を実施することにより低減させておくことが、効率よくアニシジン価を低下させる点から好ましい。原料油脂又は中間品の水分量は1%以下とすることが好ましい。また、吸着処理の工程中は、原料油脂又は中間品を空気と接触させないようにすることが、安定性向上の点から好ましい。
【0048】
吸着剤として活性白土を用いる場合には、その使用量は原料油脂又は中間品100重量部に対して0.01〜30重量部、更に0.1〜20重量部、特に0.2〜15重量部、殊更0.3〜10重量部を添加することが好ましい。また、吸着剤として活性白土を用いる場合には、溶剤を使用しないことが、コストの点から好ましい。操作温度は原料油脂又は中間品が結晶化しない10〜150℃、更に30〜105℃、特に40〜100℃、殊更45〜90℃とすることが好ましい。操作時間は1〜180分、更に2〜150分、特に3〜120分とすることが好ましい。操作圧力は、減圧下、例えば1.33〜13300Pa、更に133〜2660Paで処理を行うのが好ましい。活性白土は、効率よくアニシジン価を低下させる点から、BET法により測定した比表面積が100m2/g以上のものを用いることが好ましく、200〜350m2/gのものを用いることがより好ましい。
【0049】
吸着剤として活性炭を用いる場合には、活性白土を用いる場合と同じ条件で吸着処理を行うことが好ましい。活性炭は、効率よくアニシジン価を低下させる点から、JIS K1474で測定した脱色性能が80%以上のものを用いることが好ましく、80〜99%のものを用いることがより好ましい。
【0050】
シリカゲルを用いる場合には、ヘキサン、石油エーテル等の非極性溶媒とともにシリカゲルをカラムに充填し、油脂、及びエチルエーテル、酢酸エチル等の極性を有する溶媒とヘキサン、石油エーテル等の非極性溶媒を混合した溶離液を通液することが好ましい。通液する際の操作温度は10〜70℃、更に20〜50℃、滞留時間は0.3〜150分、更に0.6〜120分、特に1.0〜90分とすることが好ましい。
【0051】
吸着剤を用いた吸着処理を減圧下で行った場合には、処理後に、窒素ガス、炭酸ガス等の酸素濃度の低いガスを用いて、装置内を常圧に戻すことが好ましい。
【0052】
ジアシルグリセロール高含有油脂の保存安定性を向上させる点から、ジアシルグリセロール高含有油脂100重量部に対して、トコフェロールを0.01〜2.0重量部、更に0.05〜1.0重量部、特に0.1〜0.5重量部、及び/又はアルコルビン酸パルミテートを0.001〜0.5重量部、更に0.005〜0.1重量部、特に0.01〜0.05重量部を添加することが好ましい。
【実施例】
【0053】
〔分析方法〕
(I)脂肪酸組成の測定
脂肪酸組成は、日本油化学会編「基準油脂分析試験法」2003年版中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.2−1996)」に従って、試料の脂肪酸メチルエステルを調製し、得られたサンプルを、American Oil Chemists.Society Official Method Ce 1f−96(GLC法)により測定した。
【0054】
(II)酸価
酸価は、日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」2003年版中の「酸価(2.3.1−1996)」に従って、試料1g中に含まれている遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表した値をいう。
【0055】
(III)ジアシルグリセロール含有量
ガラス製サンプル瓶に、試料約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.5mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して、ジアシルグリセロール含有量の分析を行った。
【0056】
(IV)色相
色相は、日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」2003年版中の「色(ロビボンド法)(2.2.1.1−1996)」に従って、試料を5.25インチセルに入れて測定し、次の式(2)で値を求めた。
色相C=10R+Y (2)
(式中、R=Red値、Y=Yellow値)
【0057】
(V)アニシジン価
アニシジン価は、日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」2003年版中の「アニシジン価(2.5.3.−1996)」に従って測定される、脂質の酸化二次生成物であるカルボニル化合物量の指標であり、試料にp−メトキシアニリン(p−アニシジン)を作用させた場合の350nmの吸光係数E1%1cmを100倍したものとして定義される値をいう。また、アニシジン価低下率を、次の式(3)に従って求めた。
アニシジン価低下率=(A0−A1)/A0×100 (3)
(式中、初期のアニシジン価=A0、低下処理後のアニシジン価=A1
【0058】
(VI)過酸化物価
過酸化物価は、日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」2003年版中の「過酸化物価(2.5.2.1−2003)」に従って、試料にヨウ化カリウムを加えた場合に遊離されるヨウ素を試料1kgに対するミリ当量数で表した値をいう。
【0059】
(VII)酸化安定性の測定
本発明における酸化安定性とは、油脂120℃におけるランシマット法による誘導時間(hr)である。これは日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」2003年版中の「CDM試験(2.5.1.2−1996)」に従って、求めることができる。すなわち、自動油脂安定性試験装置 ランシマット679型(メトローム・シバタ(株))を用いて、油脂サンプルを容器中で温度120℃に加熱しながら清浄空気を送り込み、酸化により生成した揮発性物質を水中に補集し、その水の導電率が急激に変化する折曲点までの時間(hr)を測定した値である。この時間が大きいほうが、酸化安定性が大きいと判断してもよい。
【0060】
(VIII)ヒドロキシル価
ヒドロキシル価は、日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」2003年版中の「ヒドロキシル価(2.3.6.2−1996)」に従って、1gの試料に含まれる遊離のヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表した値をいう。
【0061】
(IX)融点
融点は、日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」2003年版中の「融点(透明融点)(3.2.2.1−1996)」に従って、試料を毛細菅中で加熱した場合、完全に透明な液体となる温度により求めた。
【0062】
(X)固定化酵素中の水分含有量の測定
固定化酵素中の水分含有量は、AQUACOUNTER AQ−7(平沼産業(株))を用いて測定した。
【0063】
〔オーブン加熱試験〕
アルコルビン酸パルミテート(DSMニュートリション製)0.025重量%とミックストコフェロール(DECANOX MTS−60S,ADM製)0.2重量%を添加した試験油50gを500mL容のビーカー(内径85mm)に入れ、遮光された80℃の強制対流式電気式オーブンに静置した。静置後、試験油の着色までの日数及び5日後の過酸化物価を測定した。ビーカーの上面から観察し、Lab値がL:80、a:−5、b:80の色見本を超えた時点を試験油の着色までの日数と判断した。色の観察時の試験油の厚みは12mmであった。
【0064】
〔固定化酵素の調製〕
<固定化リパーゼAY>
担体としてDuolite A−568(Rohm & Haas社製)1000gを0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液10L中で、1時間攪拌した。その後、担体を10Lの蒸留水で1時間洗浄し、500mMのリン酸緩衝液(pH7)10Lで、2時間pHの平衡化を行った。その後50mMのリン酸緩衝液(pH7)10Lで2時間ずつ2回、pHの平衡化を行った。この後、濾過により担体を回収した後、エタノール5Lでエタノール置換を30分間行った。濾過した後、大豆脂肪酸1000gを溶解したエタノール溶液5Lを加え、30分間、攪拌した。この後濾過により担体を回収した後、50mMのリン酸緩衝液(pH7)5Lで担体を4回洗浄することによりエタノールを除去し、濾過により担体を回収した。その後、油脂に作用する市販のリパーゼ(リパーゼAY「アマノ」30G、天野エンザイム(株))の10重量%溶液20Lと4時間接触させ、固定化酵素を得た。更に、濾過により固定化リパーゼを回収して、50mMのリン酸緩衝液(pH7)5Lで洗浄を行い、固定化していないリパーゼや蛋白を除去した。以上の操作はいずれも温度20℃で行った。その後、固定化酵素に脱臭大豆油4000gを加え、温度40℃、10時間攪拌した後、濾過により脱臭大豆油と分離した。その後、ヘキサン5Lを加えて30分間攪拌後ヘキサン層を濾別するという操作を3回行った。その後、温度40℃で、エバポレーターを使って1時間脱溶剤し、更に、温度40℃、圧力1300Paの条件で15時間減圧乾燥して脱溶剤を行い、固定化リパーゼAYを得た。固定化リパーゼAYの水分含有量は2.5重量%であった。
【0065】
〔原料油脂〕
原料油脂として表1及び表2に示す油脂を用いた。原料油脂中の脂肪酸含有量、脂肪酸組成、グリセリド組成、色相、アニシジン価、過酸化物価の測定は前記の方法により行い、測定値を表1及び表2に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
〔脂肪酸の調製〕
<大豆脂肪酸>
表1及び表2に示す未脱臭大豆油を、前記の固定化酵素を用いた酵素法により加水分解した。アンカー翼(200mm×200mm)を取り付けた30Lジャケット付攪拌槽に、未脱臭大豆油8000gを投入した。ジャケット水の温度を40℃とし60r/minで攪拌しながら、固定化酵素を乾燥基準で400g投入した。次に、40℃に加温した蒸留水4800gを投入して加水分解反応を行った。なおこの間、30Lジャケット付攪拌槽内は窒素雰囲気とした。
反応開始から24時間後に、反応液から固定化酵素を濾別し、反応液を回転数5000r/minにて10分間、遠心分離することにより甘水層を除去し、更に温度70℃、真空度400Paにて30分間、減圧脱水し大豆脂肪酸を得た。脂肪酸含有量、脂肪酸組成、グリセリド組成、色相、アニシジン価、過酸化物価の測定値を表4及び表5に示す。
【0069】
<大豆液体脂肪酸>
表4及び表5に示す大豆脂肪酸について、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いたドライ分別を行った。125mmの三ヶ月攪拌翼を取り付けた10Lガラス製4ツ口フラスコに、表4及び表5に示す大豆脂肪酸6000g、表3に示すポリグリセリン脂肪酸エステルを12g加え、ポリグリセリン脂肪酸エステルの透明融点より高い温度である60℃で均一に溶解した。次いで、60r/minで攪拌しながら、2℃/hの速度で冷却し、−3℃に達してから2時間保持し、スラリーを得た。次いで、得られたスラリーをナイロン製濾布NY1260D(中尾フィルター工業(株))を用い0.03MPaで加圧濾過して、大豆液体脂肪酸を得た。脂肪酸含有量、脂肪酸組成、グリセリド組成、色相、アニシジン価、過酸化物価の測定値を表4及び表5に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
<菜種脂肪酸>
表1及び表2に示す未脱臭菜種油を、前記大豆脂肪酸の場合と同じ方法により加水分解し、菜種脂肪酸を得た。脂肪酸含有量、脂肪酸組成、グリセリド組成、色相、アニシジン価、過酸化物価の測定値を表4及び表5に示す。
【0072】
<大豆/菜種混合脂肪酸>
表4及び表5に示す大豆液体脂肪酸3500g及び菜種脂肪酸1500gを混合し、大豆/菜種混合脂肪酸を得た。脂肪酸含有量、脂肪酸組成、グリセリド組成、色相、アニシジン価、過酸化物価の測定値を表4及び表5に示す。
【0073】
<脂肪酸(サンプルA)>
表4及び表5に示す大豆/菜種混合脂肪酸を、ワイプトフィルム蒸発装置(神鋼パンテック社 2−03型、内径5cm、伝熱面積0.03m2)を用い、加熱ヒーター温度200℃、圧力1〜2Pa、流量200mL/minの操作条件で蒸留してサンプルAを得た。脂肪酸含有量、脂肪酸組成、グリセリド組成、色相、アニシジン価、過酸化物価の測定値を表4及び表5に示す。
【0074】
<脂肪酸(サンプルB)>
20Lの樹脂製容器に表1及び表2に示す未脱臭大豆油及び未脱臭菜種油をそれぞれ10kg投入し、30℃で輸送及び保存した。2ヶ月後の過酸化物価は、未脱臭大豆油は7.7[meq/kg]、未脱臭菜種油は8.5[meq/kg]であった。更に、前述のサンプルAの製造法と同様に、それぞれの油脂を酵素法により加水分解し、大豆脂肪酸のみドライ分別をした。次に、大豆液体脂肪酸70%、菜種脂肪酸30%の比率で配合後、蒸留してサンプルBを得た。脂肪酸含有量、脂肪酸組成、グリセリド組成、色相、アニシジン価、過酸化物価の測定値を表4及び表5に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
〔脂肪酸の精製〕
<活性白土処理1>
200mLガラス製4ツ口フラスコに、表6に示す脂肪酸(サンプルB)100gを投入した。温度70℃にて、500r/minで攪拌しながら、真空度400Paで減圧脱水を30分行った。次に、フラスコ内を窒素ガスで常圧に戻し、活性白土(NV:水澤化学工業(株)製)を1g(1%)投入し、真空度400Paの減圧状態で吸着処理を行った。30分後、フラスコ内を窒素ガスで常圧に戻し、活性白土を濾別し脂肪酸(サンプルC)を得た。同様に、脂肪酸(サンプルB)100gに対する活性白土の投入量を2g(2%)、5g(5%)として吸着処理を行い、脂肪酸(サンプルD、E)を得た。更に、2Lガラス製4ツ口フラスコに、表6に示す脂肪酸(サンプルB)を1000gに対し、活性白土を100g(10%)投入して吸着処理を行い、脂肪酸(サンプルF)を得た。アニシジン価の測定値、アニシジン価低下率を表6に示す。
【0078】
<活性白土処理2>
200mLガラス製4ツ口フラスコに、表6に示す脂肪酸(サンプルB)100gを投入した。温度25℃にて、500r/minで攪拌しながら活性白土を1g(1%)投入し、窒素ガスを流通させながら吸着処理を行った。30分後、活性白土を濾別し脂肪酸(サンプルG)を得た。同様に、脂肪酸(サンプルB)100gに対する活性白土の投入量を2g(2%)、5g(5%)、10g(10%)として吸着処理を行い、脂肪酸(サンプルH、I、J)を得た。アニシジン価の測定値、アニシジン価低下率を表6に示す。
【0079】
<活性炭処理>
200mLガラス製4ツ口フラスコに、表6に示す脂肪酸(サンプルB)100gを投入した。温度70℃にて、500r/minで攪拌しながら、真空度400Paで減圧脱水を30分行った。次に、フラスコ内を窒素ガスで常圧に戻し、活性炭(MA印:太平化学産業(株)製)を10g(10%)投入し、真空度400Paの減圧状態で吸着処理を行った。30分後、フラスコ内を窒素ガスで常圧に戻し、活性炭を濾別し脂肪酸(サンプルK)を得た。アニシジン価、アニシジン価低下率の測定値を表6に示す。
【0080】
<シリカゲルカラム吸着剤処理>
ガラス製シリカゲルカラム(Φ30mm×H500mm)に、シリカゲル(ワコーゲルC−200:和光純薬工業製)100gをヘキサンに分散させながら充填した。次いで、表6に示す脂肪酸(サンプルB)10gをヘキサン20mLに溶解したヘキサン溶液を流した後、酢酸エチル:ヘキサン=15:85(容量比)の混合溶媒を500mL流して溶出される液を集めた。得られた溶出液を脱溶剤して脂肪酸(サンプルL)を得た。同様に、混合溶媒の比率を酢酸エチル:ヘキサン=50:50として、シリカゲルカラム吸着剤処理を行い、脂肪酸(サンプルM)を得た。アニシジン価の測定値、アニシジン価低下率を表6に示す。
【0081】
【表6】

【0082】
〔ジアシルグリセロール高含有油脂の製造1〕
表6に示す脂肪酸(サンプルA、B、F)を用い、エステル化処理、脱酸処理、酸処理、水洗処理、脱臭処理を行い、ジアシルグリセロール高含有油脂を製造した。
【0083】
<エステル化反応>
2Lガラス製4ツ口フラスコに、固定化酵素(ノボザイムズジャパン社製Lipozyme RM IM)50g(脂肪酸とグリセリンの量の合計に対して5重量%の量)を投入した。次に、前記脂肪酸861gを、温度50℃に調整した後に投入した。温度50℃にて、500r/minで攪拌しながら、脂肪酸とグリセリンのモル比が2:1となるように、グリセリン139gを投入し、反応を開始した。反応開始1分後に減圧を開始し、真空度400Paにてエステル化反応を3時間行った。反応後、固定化酵素を濾別し、エステル化反応油を得た。
【0084】
<脱酸処理>
前記エステル化反応油を、ワイプトフィルム蒸発装置(神鋼パンテック社 2−03型、内径5cm、伝熱面積0.03m2)を用い、加熱ヒーター温度230℃、圧力3.3Pa、流量150mL/minの操作条件で蒸留し、脱酸油を得た。
【0085】
<酸処理>
前記脱酸油に10%クエン酸水溶液を2%添加し、温度70℃で30分間、400r/minで混合後、温度70℃、真空度400Pa、400r/minで混合しながら、30分間減圧脱水し、酸処理油を得た。
【0086】
<水洗処理>
前記酸処理油に対して温度70℃に加温した蒸留水を10%添加し、温度70℃で30分間、600r/minで強混合後、遠心分離して油相を分取した。この水洗操作を3回行い、温度70℃、真空度400Paで30分間減圧脱水し、水洗油を得た。
【0087】
<脱臭処理>
前記水洗油600gを1Lガラス製クライゼンフラスコに投入した後、水蒸気発生装置を内径2.5mmのキャピラリーガラス管で1Lガラス製クライゼンフラスコに接続し、温度245℃、圧力260Paで脱臭した。35分後、70℃まで冷却後、脱臭装置内に窒素を吹き込み、常圧まで戻し、脱臭油(サンプルi、ii、iii)を得た。脂肪酸含有量、脂肪酸組成、グリセリド組成、色相、アニシジン価、過酸化物価の測定値、オーブン加熱試験による着色までの日数及び5日後の過酸化物価を表7及び表8に示す。また、サンプルAをエステル化反応の原料として用いた脱臭油(サンプルi)のランシマット値は、脱臭油にミックストコフェロール(DECANOX MTS−60S,ADM製)を200ppm添加した場合は8.2時間、トコフェロール添加しない場合は0.9時間となった。
【0088】
<脱酸油(サンプルN)>
前述の「エステル化反応」に示した方法において、反応容器及び使用原料を2倍とし、表4及び表5に示すサンプルBをエステル化反応し、前述の「脱酸処理」をして脱酸油(サンプルN)を得た。脂肪酸含有量、脂肪酸組成、グリセリド組成、色相、アニシジン価、過酸化物価の測定値を表9及び表10に示す。
【0089】
<脱酸油(サンプルN)の活性白土処理>
2Lガラス製4ツ口フラスコに、表6に示すサンプルNを1000g投入した。温度70℃にて、500r/minで攪拌しながら、真空度400Paで減圧脱水を30分行った。次に、フラスコ内を窒素ガスで常圧に戻し、活性白土(NV:水澤化学工業(株)製)を10g(1%)投入し、真空度400Paの減圧状態で吸着処理を行った。30分後、フラスコ内を窒素ガスで常圧に戻し、活性白土を濾別しサンプルOを得た。アニシジン価の測定値を表6、表9及び表10に示す。同様に、200mLガラス製4ツ口フラスコを用いて、サンプルNの100gに対する活性白土の投入量を2g(2%)、5g(5%)、10g(10%)として吸着処理を行い、サンプルP、Q、Rを得た。アニシジン価、アニシジン価低下率の測定値を表6に示す。
【0090】
〔ジアシルグリセロール高含有油脂の製造2〕
サンプルNを活性白土処理した脱酸油(サンプルO)を前述の方法で酸処理、水洗処理、脱臭処理を行って、脱臭油(サンプルiv)を得た。脂肪酸含有量、脂肪酸組成、グリセリド組成、色相、アニシジン価、過酸化物価の測定値、オーブン加熱試験による着色までの日数及び5日後の過酸化物価を表7及び表8に示す。
【0091】
【表7】

【0092】
【表8】

【0093】
【表9】

【0094】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料油脂を加水分解して得られる脂肪酸をグリセリンとエステル化反応してジアシルグリセロール高含有油脂を製造する方法であって、原料油脂又はジアシルグリセロール製造中間品において、6超であるアニシジン価を20%以上低下させる工程を有するジアシルグリセロール高含有油脂の製造方法。
【請求項2】
ジアシルグリセロール製造中間品において、6超であるアニシジン価を20%以上低下させる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ジアシルグリセロール製造中間品が原料油脂を加水分解して得られる脂肪酸である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
6超であるアニシジン価を20%以上低下させる工程が吸着処理を含む請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
前記吸着処理が活性白土を用いる請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記吸着処理を減圧下で行う請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
アニシジン価を20%以上低下させる工程に先立って、原料油脂又はジアシルグリセロール製造中間品のアニシジン価を測定する工程を有する請求項1記載の製造方法。
【請求項8】
前記アニシジン価を測定する工程により、アニシジン価が6超である原料油脂又はジアシルグリセロール製造中間品を選定する請求項7記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−90383(P2010−90383A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234761(P2009−234761)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】