説明

ジアシルグリセロール高含有油脂の製造方法

【課題】脂肪酸をグリセリンとエステル化してジアシルグリセロール高含有油脂を製造する方法であって、高純度のジアシルグリセロール高含有油脂を工業的に有利な条件で効率よく製造する方法を提供。
【解決手段】平均粒径300μm未満の固定化担体に1,3−位選択リパーゼを固定化した固定化リパーゼを用いて、グリセリンと脂肪酸又はその低級アルキルエステルとを反応させるジアシルグリセロール高含有油脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアシルグリセロール高含有油脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアシルグリセロールを高濃度に含む油脂は、食後の血中トリグリセリド(中性脂肪)の増加を抑制し、体内への蓄積性が少ない等の生理作用を有することが知られている(例えば特許文献1参照)。
ジアシルグリセロールの製造は、グリセリンと油脂とのグリセロリシス反応による方法や、グリセリンと脂肪酸とのエステル化反応による方法が一般的である(例えば特許文献2〜4参照)。これらの製法は、アルカリ触媒等を用いた化学法と、リパーゼ等の酵素を用いた酵素法に大別されるが、酵素を用いて温和な条件で反応を行うのが風味等の点で好ましいと云われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−176181号公報
【特許文献2】特公平6−65310号公報
【特許文献3】特公平6−65311号公報
【特許文献4】特開平4−330289号公報
【特許文献5】特表2004−528843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、酵素を用いて反応を行う際には、酵素を効率的に使用するため、無機又は有機の固定化担体に酵素を固定化した固定化酵素が用いられる。通常、これらの固定化担体は、ハンドリング性から、ある程度大きい粒子の状態で用いられている(例えば特許文献5参照)。
しかし、どのような細孔分布や粒径を有する固定化担体が好ましいものであるかは適用する反応系によって異なるため、ジアシルグリセロール製造においていかなる固定化担体が適しているのかは未だに明らかにはなっていない。このため、既存の固定化酵素が製造効率と品質との兼ね合いやコストの点で必ずしも満足するものとはいえない。
【0005】
エステル化反応の反応速度を向上させるために、固定化担体に対するリパーゼの使用割合を多くし、リパーゼ活性を高めることが考えられるが、ジアシルグリセロールの純度が低下することが判明した。また、工業的生産性の点から、リパーゼの使用量を増やすのは望ましくない。
従って、本発明の課題は、脂肪酸をグリセリンとエステル化してジアシルグリセロール高含有油脂を製造する方法であって、ジアシルグリセロール高含有油脂を工業的に有利な条件で効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ジアシルグリセロールの製造方法について種々検討したところ、特定の粒子径の固定化担体にリパーゼを吸着させれば、少ない吸着率でもエステル化活性が高く、反応速度が向上すること、さらに意外にもジアシルグリセロールの選択性が高まり、ジアシルグリセロール高含有油脂が効率良く得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、平均粒径300μm未満の固定化担体に1,3−位選択リパーゼを固定化した固定化リパーゼを用いて、グリセリンと脂肪酸又はその低級アルキルエステルとを反応させるジアシルグリセロール高含有油脂の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法によれば、ジアシルグリセロールの純度を低下させることなく、反応速度を高めることができるので、ジアシルグリセロール含量の高い油脂を効率良く得ることができる。また、リパーゼの使用量を低減できるので、工業的に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の製造方法において用いられる固定化担体としては、例えば、セライト、ケイソウ土、カオリナイト、シリカゲル、モレキュラーシーブス、多孔質ガラス、活性炭、炭酸カルシウム、セラミックス等の無機担体、セラミックスパウダー、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、キトサン、イオン交換樹脂、疎水吸着樹脂、キレート樹脂、合成吸着樹脂等の有機高分子等が挙げられる。なかでも、生産効率の点、脂肪酸との親和性及び保水力の点から、イオン交換樹脂が好ましい。
固定化担体の形状としては、特に限定されないが、粒子状、粉末状、顆粒状、繊維状、スポンジ状等が挙げられる。
【0010】
イオン交換樹脂としては、多孔質の陰イオン交換樹脂が好ましい。このような多孔質担体は、大きな表面積を有するため、酵素のより大きな吸着量を得ることができる。陰イオン交換樹脂の材質としては、フェノールホルムアルデヒド系、ポリスチレン系、アクリルアミド系、ジビニルベンゼン系等が挙げられ、特に本発明の効果を良好に発揮する点からフェノールホルムアルデヒド系樹脂(例えば、Rohm and Hass社製Duolite A−568)が好ましい。
【0011】
固定化担体の平均粒径は、300μm未満であるが、反応速度を向上する点、ジアシルグリセロール純度向上の点から120μm〜300μm未満が好ましく、更に140μm〜280μm、特に150μm〜260μmが好ましい。
【0012】
平均粒径300μm未満の固定化担体は、特に限定されないが、これより大きい粒径の固定化担体を、切断、破砕等して得ることができる。この際、微粉状の担体も同時に生じるため、篩分けにより分離を行うのが好ましい。固定化担体の粒子径範囲は、75μm〜500μm、更に106μm〜300μm、特に150μm〜250μmの範囲であることが上記と同様の点から好ましい。
なお、本発明において、平均粒径とは、レーザー回折散乱法により体積基準に従って求められる平均値をいい、粒子径範囲とはJIS規格の篩の目開きの値の幅をもっていう。
【0013】
固定化担体の比表面積は、固定化担体1gあたりの表面積であり、0.018m2/g以上であるが、ジアシルグリセロール純度向上の点から、0.018m2/g〜0.054m2/gが好ましく、更に0.019m2/g〜0.049m2/g、特に0.020m2/g〜0.045m2/gが好ましい。この比表面積は、固定化担体の平均粒径を求め、担体の形状が球状、真比重を1.12g/cm3(Rohm and Hass社製Duolite A−568)と仮定して算出することができる。
【0014】
本発明で用いられる固定化リパーゼは、上記固定化担体に1,3−位選択リパーゼを固定化したものである。固定化担体に対するリパーゼの質量比率は、生産効率の点、ジアシルグリセロール純度向上の点から、0.25〜2.5、更に0.5〜1.5、特に0.5〜1が好ましい。なお、固定化担体に対するリパーゼの質量比率は、仕込時の固定化担体の乾燥質量に対するリパーゼの乾燥質量値である。
【0015】
固定化リパーゼのエステル化活性は、生産効率の点から、3000〜12000U、更に4500〜11000U、特に6000〜9000Uが好ましい。ここで、固定化リパーゼのエステル化活性(U)は、後記実施例に記載の方法により脂肪酸濃度を測定し、1分間あたりに減少した脂肪酸のμモル数として定義する。
【0016】
1,3−位選択リパーゼは、グリセリドの1,3位に特異的に作用するリパーゼであり、動物由来、植物由来のものはもとより、微生物由来の市販リパーゼを使用することもできる。微生物由来リパーゼとしては、選択的にジアシルグリセロールを合成しやすいリゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ジオトリケム(Geotrichum)属、ペニシリウム(Penicillium)属、キャンディダ(Candida)属等の起源のものが挙げられる。
【0017】
リパーゼを固定化担体に固定化する場合、リパーゼを固定化担体に直接吸着してもよいが、高活性を発現するような吸着状態にするため、リパーゼ吸着前にあらかじめ担体を脂溶性脂肪酸又はその誘導体で処理して使用してもよい。使用する脂溶性脂肪酸としては、炭素数8〜18の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐鎖の、水酸基が置換していてもよい脂肪酸が挙げられる。具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、ミスチリン酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、リシノール酸、イソステアリン酸等が挙げられる。またその誘導体としては、これらの脂肪酸と一価又は多価アルコールとのエステル、リン脂質、及びこれらのエステルにエチレンオキサイドを付加した誘導体が挙げられる。具体的には、上記脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル、モノグリセライド、ジグリセライド、それらのエチレンオキサイド付加体、ポリグリセリンエステル、ソルビタンエステル、ショ糖エステル等が挙げられる。これらの脂溶性脂肪酸又はその誘導体は、2種以上を併用してもよい。
【0018】
これらの脂溶性脂肪酸又はその誘導体と担体の接触法としては、水又は有機溶剤中の担体にこれらを直接加えてもよいが、分散性を良くするため、有機溶剤に脂溶性脂肪酸又はその誘導体を一旦分散、溶解させた後、水に分散させた担体に加えてもよい。この有機溶剤としては、クロロホルム、ヘキサン、アセトン、エタノール等が挙げられる。脂溶性脂肪酸又はその誘導体の使用量は、固定化担体100質量部(以下、単に部とする)に対して1〜1000部、更に10〜500部が好ましい。接触温度は0〜80℃、更に20〜60℃が好ましく、接触時間は5分〜5時間程度が好ましい。この処理を終えた担体は、ろ過して回収するが、乾燥してもよい。乾燥温度は0〜80℃が好ましく、減圧乾燥を行ってもよい。
【0019】
リパーゼの固定化を行う温度は、リパーゼの特性によって決定することができるが、リパーゼの失活が起きない温度、すなわち0〜80℃、更に20〜60℃が好ましい。また、固定化時に使用するリパーゼ溶液のpHは、リパーゼの変性が起きない範囲であればよく、温度同様リパーゼの特性によって決定することができるが、pH3〜9が好ましい。このpHを維持するためには緩衝液を使用するが、緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液等が挙げられる。上記リパーゼ溶液中のリパーゼ濃度は、固定化効率の点からリパーゼの飽和溶解度以下で、かつ十分な濃度であることが好ましい。またリパーゼ溶液は、必要に応じて不溶部を遠心分離で除去した上澄や、限外濾過等によって精製したものを使用することもできる。
【0020】
本発明においては、リパーゼを固定化担体に固定化した後、乾燥せずに、脂溶性脂肪酸、脂肪酸トリグリセライド若しくは脂肪酸部分グリセライド等に接触させながら脱水するのが好ましい。脂溶性脂肪酸としては、菜種油、大豆油、ひまわり油等の植物性の液状油脂若しくはイワシ油、マグロ油、カツオ油等の魚油から生成された脂肪酸が好ましい。なお、使用する脂肪酸、脂肪酸トリグリセライド又は脂肪酸部分グリセライドは、本発明方法により調製された固定化リパーゼを用いた実際のエステル化反応において、油相基質とするものを選択することが好ましい。
【0021】
本発明方法において、エステル化反応に用いる脂肪酸又はその低級アルキルエステル(以下、脂肪酸等ともいう)は、直鎖又は分岐鎖の炭素数4〜22、好ましくは炭素数8〜18の飽和又は不飽和脂肪酸が好ましく、例えば、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ゾーマリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ガドレン酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等を用いることができる。また、上記脂肪酸とエステルを形成する低級アルコールとしては、炭素数1〜6のもの、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール又はt−ブタノール等が挙げられる。これらの脂肪酸又はその低級アルキルエステルは、2種以上を併用することもできる。また、上記脂肪酸の混合物、例えば大豆脂肪酸などの天然由来の脂肪酸を用いることもできる。
【0022】
エステル化反応を行う際の原料の仕込み比は、グリセリン基のモル数に対する脂肪酸基のモル数の比R(R=脂肪酸等(mol)/グリセリン(mol))を0.5〜5.0、更に1.0〜4.0、特に1.2〜3.0、殊更1.5〜2.5とすることが、反応油の組成が最適になる点(反応油中の脂肪酸等及びグリセリンの残存量、並びにモノアシルグリセロール又はトリアシルグリセロールの生成量が抑制され、蒸留負荷が低減すると共にジアシルグリセロール高含有となり、生産効率が高くなる点)から好ましい。
【0023】
固定化リパーゼを用いて、グリセリンと脂肪酸等とを反応させる方法は、特に限定されず、固定化リパーゼと原料(グリセリンと脂肪酸等)を接触させればよく、接触手段としては、浸漬、攪拌、固定化リパーゼを充填したカラムにポンプ等で通液する方法等が挙げられる。攪拌する場合、生産効率の点、固定化リパーゼの破砕抑制の点から、10〜1000r/minが好ましく、特に50〜700r/min、殊更100〜600r/minが好ましい。
【0024】
エステル化反応に用いる固定化リパーゼ量(乾燥質量)は、リパーゼの活性を考慮して適宜決定することができるが、脂肪酸等とグリセリンを合計した原料100部に対して、0.1〜50部、更に0.5〜30部、特に1.0〜15部が好ましい。
【0025】
また、エステル化反応の反応温度は、特に限定されないが、20〜80℃、特に30〜70℃が反応性の点で好ましい。また、反応時間は、工業的な生産性の点から、10時間以内が好ましく、更に0.1〜5時間、特に0.2〜2.5時間、殊更0.3〜1時間が好ましい。
【0026】
また、エステル化反応時に減圧による脱水を行うことが、反応油のジアシルグリセロール含量を高くする点から好ましい。圧力は、10〜10000Paが好ましく、特に100〜1000Paが好ましい。
【0027】
本発明において、反応生成物のジアシルグリセロールの純度は80%以上であることが好ましく、より好ましくは85〜99.5%、更に90〜99%、特に95〜98%であることが、生理効果、工業的生産性の点から好ましい。ここで、ジアシルグリセロール純度は、[ジアシルグリセロール/(ジアシルグリセロール+トリアシルグリセロール)×100]である。
【0028】
本発明において、反応生成物中のジアシルグリセロール+トリアシルグリセロール含有量[質量%]は60%以上であることが好ましく、より好ましくは60〜99%、更に65〜98%、特に70〜97%であることが、生理効果、工業的生産性の点から好ましい。
【0029】
エステル化反応により得られたジアシルグリセロール高含有油脂は、後処理を行うことにより製品とすることができる。後処理は、脱酸(未反応の脂肪酸及び副生したモノアシルグリセロールを除去)、酸処理、水洗、脱臭の各工程を行うことが好ましい。脱酸工程は、エステル化反応により得られたジアシルグリセロール高含有油脂を減圧蒸留することにより、反応生成物から未反応の脂肪酸及び副生したモノアシルグリセロールを除去する工程をいう。酸処理工程は、前記脱酸油にクエン酸等のキレート剤を添加、混合し、必要に応じて更に減圧脱水する工程をいう。また、得られた酸処理油は、色相、風味を更に良好とする点から、吸着剤との接触による脱色工程を行っても良い。水洗工程は、前記酸処理油に水を添加して強攪拌し、油水分離を行う操作を行う工程をいう。水洗は複数回(例えば3回)繰り返し、水洗油を得るのが好ましい。脱臭工程は、前記水洗油を減圧水蒸気蒸留する工程をいう。脱臭は、バッチ式、連続式、半連続式等が挙げられ、薄膜脱臭装置またはトレイ式脱臭装置の単独で行う方法の他、これら薄膜脱臭装置を用いた脱臭処理とトレイ式脱臭装置を用いた脱臭処理とを組み合わせて行ってもよい。
【実施例】
【0030】
〔分析方法〕
(i)酸価の測定
日本油化学協会編「基準油脂分析試験法」2003年版中の「酸価(2.3.1−1996)」に従って、試料1g中に含まれている遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数を求めた値いう。
【0031】
(ii)脂肪酸組成の測定
脂肪酸組成は、日本油化学会編「基準油脂分析試験法」2003年版中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.2−1996)」に従って、試料の脂肪酸メチルエステルを調製し、得られたサンプルを、American Oil Chemists.Society Official Method Ce 1f−96(GLC法)により測定した。
【0032】
(iii)脂肪酸濃度の測定
前記方法により測定した酸価及び脂肪酸組成を用い、油脂製品の知識(株式会社 幸書房)に従って、次式(1)により求めた。
脂肪酸濃度(質量%)=x×y/56.1/10 (1)
(x=酸価[mgKOH/g]、y=脂肪酸組成から求めた平均分子量)
【0033】
(iv)固定化リパーゼのエステル化活性の測定
三日月羽根をセットした200mlの4ツ口フラスコに、原料脂肪酸とグリセリンの合計に対して固定化リパーゼを乾燥質量基準で4g加えた。下記表1に示した原料脂肪酸を加え、50℃、400r/minで攪拌しながらグリセリンを添加した。原料脂肪酸とグリセリンの合計を80g、脂肪酸/グリセリンのモル比を2.0とした。次いで、真空ポンプで減圧(400Pa)して反応を行った。30分後の反応液をサンプリングし、脂肪酸濃度の値から固定化リパーゼのエステル化活性を算出した。固定化リパーゼのエステル化活性〔U〕は、1分間あたりに減少した脂肪酸のμモル数として定義した。
【0034】
(v)グリセリド組成の測定
遠心分離が可能な試験管に反応終了油のサンプルを約3g採取し、3000r/minで10分間遠心分離を行い、沈降したグリセリンを除去した。次いで、ガラス製サンプル瓶に、上層を約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.5mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して、グリセリド組成の分析を行った。
【0035】
(vi)固定化リパーゼの乾燥質量比率の測定
油分及び水分の付着した固定化酵素a質量部に対し10質量倍のヘキサン及びアセトンで交互に各3回ずつ洗浄後、70℃で15時間放置することにより脱溶剤し、固定化酵素のみの質量を秤量し(b質量部)、下記式(2)より固定化担体100質量部(乾燥質量)に対する質量比として求めた。
固定化リパーゼの乾燥質量比率=b/a×100(%) (2)
(a:油分及び水分の付着した固定化リパーゼ質量、b:固定化リパーゼ質量)
【0036】
(vii)表面積あたりのリパーゼ吸着量
表面積あたりのリパーゼ吸着量は、固定化担体の比表面積〔m2/g〕と、固定化担体に対するリパーゼの質量比率(式では「リパーゼ/固定化担体質量比率」と記載)から、下記式(3)に従って求める。
表面積あたりのリパーゼ吸着量〔g/m2〕=(リパーゼ/固定化担体質量比率)/固定化担体比表面積〔m2/g〕 (3)
【0037】
(viii)平均粒径の測定
LS 13 320(BECKMAN COULTER製)を用い、レーザー回折散乱法にて測定した。
【0038】
〔原料脂肪酸〕
反応原料として用いた脂肪酸は、高圧熱水型分解装置によって油脂を加水分解反応することにより得た。大豆油100質量部に対して水50質量部とし、高圧熱水(5MPa、240℃、平均滞留時間4h)により処理した。次に、冷却後、遠心分離し、脂肪酸層を温度70℃、真空度400Paで30分間減圧脱水し、大豆脂肪酸を得た。グリセリド組成を表1に示す。ここで、FFAは遊離脂肪酸、GLYはグリセリン、MAGはモノアシルグリセロール、DAGはジアシルグリセロール、TAGはトリアシルグリセロールである(以下同じ)。
【0039】
【表1】

【0040】
〔固定化担体の調製〕
Duolite A−568(Rohm&Hass社製、平均粒径549μm、以下同じ)500gをすり潰し、JIS-Z8801に規定の250μm及び150μmの篩で乾式分級、さらに水洗しながら湿式分級した。次に、70℃で乾燥させて平均粒径235μmの固定化担体を得た。
【0041】
〔固定化リパーゼ1の調製〕
平均粒径235μmの固定化担体 10gを、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液100mL中で1時間攪拌した。濾過した後、100mLの蒸留水で1時間攪拌洗浄し濾過、500mMの酢酸緩衝液(pH5)100mLで、2時間pHの平衡化を行った。濾過後、50mMの酢酸緩衝液(pH5)100mLで2時間ずつ2回、pHの平衡化を行った。この後、濾過を行い、担体を回収した後、エタノール50mLでエタノール置換を30分間行った。この後、濾過を行い、大豆脂肪酸を10g含むエタノール50mLを加え30分間、大豆脂肪酸を担体に吸着させた。この後、濾過して担体を回収した後、50mMの酢酸緩衝液(pH5)100mLで4回洗浄し、エタノールを除去し、濾過して担体を回収した。その後、リパーゼ(リリパーゼA−10FG、ナガセケムテックス製)5gを50mMの酢酸緩衝液(pH5)100mLに溶解したリパーゼ溶液と2時間接触させ、固定化を行った。さらに、濾過し固定化リパーゼを回収して、50mMの酢酸緩衝液(pH5)100mLで洗浄を行い、固定化していないリパーゼや蛋白を除去した。以上の操作はいずれも温度20℃で行った。その後、大豆脂肪酸100gを加え、温度40℃で攪拌しながら、圧力400Paに達するまで減圧して脱水し、固定化リパーゼ1を得た。
【0042】
〔固定化リパーゼ2及び3の調製〕
リパーゼの使用量をそれぞれ10g及び15gとした以外は固定化リパーゼ1と同様の方法により処理し、固定化リパーゼ2及び3を得た。
【0043】
〔固定化リパーゼ4〜6の調製〕
固定化担体をDuolite A−568(平均粒径549μm)とし、リパーゼの使用量をそれぞれ5g、10g、及び15gとした以外は固定化リパーゼ1と同様の方法により処理し、固定化リパーゼ4〜6を得た。
各固定化リパーゼの物性値を表2に示した。
【0044】
〔エステル化反応〕
表1に示した大豆脂肪酸及びグリセリンの合計を80g、脂肪酸/グリセリンのモル比2.0、固定化リパーゼを乾燥質量基準4gの仕込み量とした。三日月羽根をセットした200mlの4ツ口フラスコに、固定化リパーゼと大豆脂肪酸を入れ、50℃、400r/minで攪拌しながらグリセリンを添加し、真空ポンプで減圧(400Pa)して反応を行った。30分後ごとに常圧に戻してサンプリングし、グリセリド組成を求めた。グリセリド組成から、DAG収率75%に達する反応時間とDAG収率75%時点のDAG純度を求めた。結果を表2に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
比較例1〜3の比較により、固定化担体に対してリパーゼを多く固定化したものは、反応速度は向上するが、TAGが副生成してDAG選択性が低下した。
これに対し、実施例1〜3及び比較例1〜3の比較により、平均粒径235μmの固定化担体を用いてリパーゼを固定化したものは、エステル化活性が高く、また、DAG収率75%までの反応時間が短く、固定化担体あたりのリパーゼ使用量が少なくても反応速度が向上することがわかった。さらに、TAGの副生成が抑制され、DAG選択性が高まったことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径300μm未満の固定化担体に1,3−位選択リパーゼを固定化した固定化リパーゼを用いて、グリセリンと脂肪酸又はその低級アルキルエステルとを反応させるジアシルグリセロール高含有油脂の製造方法。
【請求項2】
固定化担体の平均粒径が120〜300μm未満である請求項1記載のジアシルグリセロール高含有油脂の製造方法。
【請求項3】
固定化担体がイオン交換樹脂である請求項1又は2記載のジアシルグリセロール高含有油脂の製造方法。
【請求項4】
固定化リパーゼの固定化担体に対する1,3−位選択リパーゼの質量比率が0.25〜2.5である、請求項1〜3のいずれか1項記載のジアシルグリセロール高含有油脂の製造方法。

【公開番号】特開2012−34622(P2012−34622A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177610(P2010−177610)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】