説明

ジアミノジフェニルスルホンから誘導されたフロックを含有する紙

本発明は、4,4’ジアミノジフェニルスルホン、3,3’ジアミノジフェニルスルホン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるモノマーから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含有するフロックで製造された紙に関する。かかる紙は、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)フロックのみで製造された紙より高い破断点伸びおよび破断仕事(強靱性)特性を有し、高温で少ない収縮を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4,4’ジアミノジフェニルスルホン、3,3’ジアミノジフェニルスルホン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるモノマーから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含有するフロックで製造された紙に関する。かかる紙は、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)フロックのみで製造された紙より高い破断点伸びおよび破断仕事(強靱性)特性を有し、高温で少ない収縮を示す。
【背景技術】
【0002】
改善された強度および/または熱安定性を紙に提供するために高性能材料から製造された紙が開発されてきた。例えば、アラミド紙は、芳香族ポリアミドからなる合成紙である。その耐熱性および耐燃性、電気絶縁性、強靱性および可撓性のために、この紙は、電気絶縁材料および航空機ハニカム用の基礎材料として使用されてきた。これらの材料のうち、DuPont(U.S.A.)のNomex(登録商標)は、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)フロックとフィブリドとを水中で混合し、次に混合スラリーを製紙プロセスにかけて形成紙(formed paper)を製造し、引き続き形成紙の熱カレンダー加工によって製造される。この紙は、高温においてさえも高いままである強度および強靱性を有すると共に、優れた電気絶縁性を有することが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、改善された特性の高性能紙、特に、改善された伸びおよび強靱性を有し、かつ、高温でより寸法安定性のある紙が継続して必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一実施形態では、本発明は、4,4’ジアミノジフェニルスルホン、3,3’ジアミノジフェニルスルホン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるモノマーから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含有するフロックであって、2〜25mmの長さを有するフロックと;非粒状の、繊維状またはフィルム様ポリマーフィブリドであって、メタフェニレンジアミンから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含有し、0.1〜1mmの平均最大寸法、5:1〜10:1の最大寸法対最小寸法の比、および2ミクロン以下の厚さを有するフィブリドとを含む、電気絶縁に有用な紙に関する。(本明細書で用いるところでは、「フィルム様」は「フィルム」を意味する)。
【0005】
別の実施形態では、本発明は、
a)フロックおよびフィブリドの総重量を基準として、4,4’ジアミノジフェニルスルホン、3,3’ジアミノジフェニルスルホン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるモノマーから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含有する97〜5重量部のフロックと;3〜95重量部のポリマーフィブリドであって、メタフェニレンジアミンから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含有するフィブリドとの水性分散系を形成する工程と;
b)この分散系をブレンドしてスラリーを形成する工程と、
c)この水性液体をこのスラリーから排水して湿潤紙組成物をもたらす工程と、
d)この湿潤紙組成物を乾燥させて形成紙を製造する工程と
を含む電気絶縁に有用な紙の製造方法に関する。
【0006】
必要ならば、本方法は、熱および圧力下に形成紙を高密度化してカレンダー加工紙を製造する追加の工程を含む。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、高温で改善された強靱性および寸法安定性を有する紙に関する。本発明の鍵は、4,4’ジアミノジフェニルスルホン、3,3’ジアミノジフェニルスルホン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるモノマーから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含有するフロックの使用である。
【0008】
「フロック」とは、2〜25ミリメートル、好ましくは3〜7ミリメートルの長さおよび3〜20マイクロメートル、好ましくは5〜14マイクロメートルの直径を有する繊維を意味する。フロック長さが3ミリメートル未満である場合、紙の強度は大幅に低下し、フロック長さが25ミリメートル超である場合、典型的なウェット−レイド法によって一様な紙ウェブを形成することが困難である。フロック径が5マイクロメートル未満である場合、十分な一様性および再現性で商業的に生産することが困難であり得るし、フロック径が20マイクロメートル超である場合、軽い〜中程度の坪量の一様な紙を形成することが困難である。フロックは一般に、連続紡糸フィラメントを特有の長さ片へカットすることによって製造される。
【0009】
フロックは、4,4’ジアミノジフェニルスルホン、3,3’ジアミノジフェニルスルホン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるアミンモノマーから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含む。かかるポリマーおよびコポリマーは一般に構造:
NH2−Ar1−SO2−Ar2−NH2
(式中、Ar1およびAr2は、炭素原子の任意の非置換または置換6員環芳香族基であり、Ar1およびAr2は同じであっても異なっていてもよい)を有する。幾つかの好ましい実施形態では、Ar1およびAr2は同じものである。さらにより好ましくは、炭素原子の6員環芳香族基は、SO2基に対してメタ−またはパラ−配向結合を有する。このモノマーまたはこの一般構造を有する多数のモノマーが相溶性溶媒中で酸モノマーと反応させられてポリマーを生成する。有用な酸モノマーは一般に、
Cl−CO−Ar3−CO−Cl
(式中、Ar3は、任意の非置換もしくは置換芳香環構造であり、Ar1および/またはAr2と同じであっても異なっていてもよい)
の構造を有する。幾つかの好ましい実施形態では、Ar3は炭素原子の6員環芳香族基である。さらにより好ましくは、炭素原子の6員環芳香族基はメタ−またはパラ−配向結合を有する。幾つかの好ましい実施形態では、Ar1およびAr2は同じものであり、Ar3はAr1およびAr2の両方とも異なる。例えば、Ar1およびAr2は両方とも、メタ配向結合を有するベンゼン環であることができるが、Ar3は、パラ配向結合を有するベンゼン環であることができる。有用なモノマーの例としては、塩化テレフタロイル、塩化イソフタロイルなどが挙げられる。幾つかの好ましい実施形態では、この酸は、塩化テレフタロイルまたはそれと塩化イソフタロイルとの混合物であり、アミンモノマーは4,4’ジアミノジフェニルスルホンである。幾つかの他の好ましい実施形態では、アミンモノマーは、3:1の重量比の4,4’ジアミノジフェニルスルホンと3,3’ジアミノジフェニルスルホンとの混合物であり、それは両スルホンモノマーを有するコポリマーから製造されたフロックを生成する。
【0010】
さらに別の好ましい実施形態では、フロックは、スルホンアミンモノマーとパラフェニレンジアミンおよび/またはメタフェニレンジアミンに由来するアミンモノマーとから誘導された両繰り返し単位を有するコポリマーを含有する。幾つかの好ましい実施形態では、スルホンアミド繰り返し単位は、他のアミド繰り返し単位に対して3:1の重量比で存在する。幾つかの実施形態では、アミンモノマーの少なくとも80モルパーセントはスルホンアミンモノマーまたはスルホンアミンモノマーの混合物である。便宜上、本明細書では、省略形「PSA」は、以前に記載されたようなスルホンモノマーから誘導されたポリマーまたはコポリマーで製造された全クラスの繊維の全てを表すために用いられる。
【0011】
一実施形態では、スルホンモノマーから誘導されたポリマーおよびコポリマーは好ましくは、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、またはそれらの混合物などのジアルキルアミド溶媒中での1種以上のジアミンモノマーと1種以上の塩化物モノマーとの重縮合によって製造することができる。この種の重合の幾つかの実施形態では、塩化リチウムまたは塩化カルシウムなどの無機塩もまた存在する。必要ならば、ポリマーは、水などの非溶媒での沈殿によって単離し、中和し、洗浄し、乾燥させることができる。ポリマーはまた、直接にポリマー粉末を生成する界面重合によっても製造することができ、ポリマー粉末は次に繊維製造のための溶媒に溶解させることができる。
【0012】
スルホンアミンモノマーを含有するPSA繊維またはコポリマーの具体的な製造方法は、Wangらの中国特許出願公開第1389604A号明細書に開示されている。この参考文献は、ジメチルアセトアミド中で等モル量の塩化テレフタロイルと共重合させられた50〜95重量パーセントの4,4’ジアミノジフェニルスルホンと5〜50重量パーセントの3,3’ジアミノジフェニルスルホンとの混合物から形成されたコポリマー溶液を紡糸することによって製造されたポリスルホンアミド繊維として知られる繊維を開示している。Chenらの中国特許出願公開第1631941A号明細書はまた、ジメチルアセトアミド中で等モル量の塩化テレフタロイルと共重合させられた10:90〜90:10の質量比の4,4’ジアミノジフェニルスルホンと3,3’ジアミノジフェニルスルホンとの混合物から形成されたPSAコポリマー紡糸液の調製方法を開示している。コポリマーのさらに別の製造方法は、Sokolovらに付与された米国特許第4,169,932号明細書に開示されている。この参考文献は、重合の速度を上げるために第三級アミンを使用するポリ(パラフェニレン)テレフタルアミド(PPD−T)の製造を開示している。この特許はまた、PPD−Tコポリマーがパラフェニレンジアミン(PPD)の5〜50モルパーセントを、4,4’ジアミノジフェニルスルホンなどの別の芳香族ジアミンで置き換えることによって製造できることを開示している。
【0013】
PSAフロックは、メタフェニレンジアミンから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含有するポリマーフィブリドと組み合わせられる。一実施形態では、好ましいポリマーまたはコポリマーはメタ−アラミドポリマーである。好ましい一実施形態ではポリマーはポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)(MPD−I)である。
【0014】
用語「フィブリド」は本明細書で用いるところでは、ほぼ100〜1000マイクロメートル程度の長さおよび幅ならびにわずか約0.1〜1マイクロメートル程度の厚さを有することが知られる小さい、フィルム状の、本質的に二次元の粒子の非常に細分されたポリマー生成物を意味する。フィブリドは、溶液の溶剤と不混和性である液体の凝固浴にポリマー溶液を流し込むことによって製造される。ポリマー溶液の流れは、ポリマーが凝固するときに激しい剪断力および乱流にかけられる。
【0015】
好ましくは、フィブリドは320℃より上の融点または分解点を有する。フィブリドは繊維ではないが、それらがウェブによって連結された繊維様領域を有する点でそれらは繊維状である。一実施形態では、フィブリドは5:1〜10:1のアスペクト比を有する。別の実施形態では、フィブリドは、乾燥されたことがない状態で湿式使用され、紙の他の原料または成分の周りに物理的に絡ませられたバインダーとして堆積させることができる。フィブリドは、ポリマー溶液が単一段階で沈澱させられ、剪断される米国特許第3,018,091号明細書に開示されているタイプのフィブリル化装置の使用をはじめとする任意の方法によって製造することができる。フィブリドはまた、米国特許第2,988,782号明細書および同第2,999,788号明細書に開示されている方法によって製造することができる。
【0016】
アラミドとは、アミド(−CONH−)結合の少なくとも85%が2つの芳香環に直接結合しているポリアミドを意味する。メタ−アラミドは、ポリマー鎖中にメタ立体配置またはメタ配向結合を含有するようなポリアミドである。添加物をアラミドで使用することができ、事実、10重量パーセントほどまでの量の他のポリマー材料をアラミドとブレンドできること、またはアラミドのジアミンを10パーセントほどの量の他のジアミンで置き換えられたか、もしくはアラミドの二酸塩化物を10パーセントほどの量の他の二酸塩化物で置き換えられたコポリマーを使用できることが分かった。メタ−アラミドポリマーは本質的に難燃性であり;米国特許第3,063,966号明細書、同第3,227,793号明細書、同第3,287,324号明細書、同第3,414,645号明細書、および同第5,667,743号明細書は、アラミドポリマーおよび繊維材料の有用な製造方法を例示している。
【0017】
PSAフロックおよびMPD−Iポリマーフィブリドは組み合わせられて、改善された伸びおよび強靱性ならびに高温での低減した収縮を有する寸法安定性のある紙を形成する。本明細書で用いるところでは、紙という用語はその通常の意味で用いられ、それは従来の製紙法ならびに装置およびプロセスを用いて製造することができる。繊維状材料、すなわちフィブリドおよびフロックは、一緒にスラリー化されてミックスを形成することができ、例えば、ミックスは、Fourdrinier機でまたは形成スクリーンを含有するハンドシート金型で手動によって紙に変換される。繊維を紙にする方法についてはGrossの米国特許第3,756,908号明細書およびHeslerらの米国特許第5,026,456号明細書を参照してもよい。必要ならば、いったん紙が形成されれば、それは、ロールから高温および高圧の2つの加熱カレンダーロール間でカレンダー加工され、紙の結合強度を上げる。カレンダー加工はまた、印刷のための平滑な表面を紙に提供する。
【0018】
一実施形態では、この紙は、95:5〜3:97の紙組成物におけるフィブリド対フロックの重量比を有する。好ましい一実施形態では、この紙は、60:40〜10:90の紙組成物におけるフィブリド対フロックの重量比を有する。
【0019】
一実施形態では、この形成紙は、1立方センチメートル当たり約0.1〜0.5グラムの密度を有する。幾つかの実施形態では、この形成紙の厚さは、約0.002〜0.015インチの範囲である。カレンダー加工紙の厚さは、最終用途または所望の特性に依存し、幾つかの実施形態では、典型的には厚さが0.001〜0.005ミル(25〜130マイクロメートル)である。幾つかの実施形態では、この紙の坪量は、1平方ヤード当たり0.5〜6オンス(1平方メートル当たり15〜200グラム)である。
【0020】
PSAフロックを含有する紙は、MPD−Iフロックで製造された類似の紙と比較されるとき、著しく改善された破断点伸びおよび破断仕事(強靱性)特性を有する。幾つかの実施形態では、PSAフロックを有する紙は、MPD−Iフロックで製造された類似の紙に対して破断点伸び値および破断仕事値の両方で少なくとも50%改善される。幾つかの好ましい実施形態では、この紙は、これらの特性の少なくとも1つで少なくとも70%改善される。加えて、幾つかの実施形態では、これらの値のある程度の改善を示すためにMPD−Iフロックのわずかな部分がPSAフロックで置き換えられる必要があるにすぎない。これらの実施形態では、破断点伸びおよび破断仕事特性の改善は20重量パーセントほどに少ないMPD−IフロックをPSAで置き換えることによって見ることができると考えられる。
【0021】
加えて、PSAフロックを含有する紙は、MPD−Iフロックのみを含有する紙よりも摂氏300度で低減した熱収縮を有し、それは高温でのこれらの紙の改善された寸法安定性につながる。幾つかの実施形態では、測定される収縮の改善は、300℃で少なくとも1/3の収縮の低減である。
【0022】
必要ならば、フロックの少なくとも20重量パーセントがPSAフロックである限り、他のフロックをPSAフロックと組み合わせることができる。好適な他のフロックには、パラ−アラミド、メタ−アラミド、カーボン、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテル−ケトン−ケトン、ポリエーテル−エーテル−ケトン、ポリオキサジアゾール、ポリベンザゾール、およびそれらの混合物の群から選択されるものが含まれる。一般にこれらのフロックはまた、1.0〜15mmの長さを有する。好ましい一実施形態では、これらの追加フロックは、熱的に安定なポリマーから製造される。本明細書の趣旨では、「熱的に安定な」は、ポリマーが摂氏150度超のガラス転移温度を有することを意味する。
【0023】
好ましい一実施形態では、好ましい追加フロックはMPD−Iフロックである。かかる一メタ−アラミドフロックは、E.I.du Pont de Nemours and Company(Wilmington,DE)から入手可能なNomex(登録商標)アラミド繊維であるが、メタ−アラミド繊維は、帝人株式会社(日本国東京)から入手可能な、商標Conex(登録商標);ユニチカ株式会社(日本国大阪)から入手可能な、Apyeil(登録商標);Yantai Spandex Co.Ltd(Shandong Province,China)から入手可能な、New Star(登録商標)Meta−aramid;およびGuangdong Charming Chemical Co.Ltd.(Xinhui in Guangdong,China)から入手可能なChinfunex(登録商標)Aramid 1313で様々な型で入手可能である。メタ−アラミド繊維は本質的に難燃性であり、多数の方法を用いる乾式または湿式紡糸によって紡糸することができるが;米国特許第3,063,966号明細書、同第3,227,793号明細書、同第3,287,324号明細書、同第3,414,645号明細書、および同第5,667,743号明細書は、使用することができるアラミド繊維の有用な製造方法を例示している。
【0024】
別の好ましい実施形態では、好ましい追加フロックは、パラ−アラミドフロック、特にポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)フロックである。パラ−アラミドは、ポリマー鎖中にパラ立体配置またはパラ配向結合を含有する芳香族ポリアミドである。有用なパラ−アラミド繊維の製造方法は、例えば、米国特許第3,869,430号明細書、同第3,869,429号明細書、および同第3,767,756号明細書に概して開示されている。かかる芳香族ポリアミド有機繊維の様々な形態は、それぞれ、E.I.du Pont de Nemours and Company(Wilmington,Delaware);および帝人株式会社(日本国)によってKevlar(登録商標)およびTwaron(登録商標)の商標で販売されている。また、コポリ(p−フェニレン/3,4’−ジフェニルエーテルテレフタルアミド)をベースとする繊維も本明細書で用いるところではパラ−アラミド繊維と定義される。これらの繊維の市販されている一形態は、また帝人株式会社から入手可能なTechnora(登録商標)繊維として知られる。
【0025】
別の実施形態では、MPD−Iフィブリドの一部を、PSAポリマーまたはコポリマーから製造されたフィブリドで置き換えることができる。かかるフィブリドは、MPD−Iフィブリドと同様の方法で製造することができる。一実施形態では、良好な結果でMPD−Iフィブリドの少なくとも80重量パーセントをPSAフィブリドで置き換えることができると考えられる。しかしながら、好ましい実施形態では、MPD−Iフィブリドの20〜50重量パーセントがPSAフィブリドで置き換えられる。PSAフィブリドの添加は、PSAフィブリドによって提供される追加のポリスルホン基のために、改善された染色性および印刷適性を有する紙を提供すると考えられる。
【0026】
粉末または繊維形態での紙の導電率および他の特性の調節のための充填剤、顔料、酸化防止剤などの追加の成分は、本発明の紙組成物に添加することができる。必要ならば、高温での酸化分解に対する耐性を提供するために防止剤を紙に添加することができる。好ましい防止剤は、ビスマスの酸化物、水酸化物および硝酸塩である。特に有効な防止剤は、ビスマスの水酸化物および硝酸塩である。紙中へのかかる充填剤の望ましい一組み込み方法は、充填剤をフィブリド形成中にフィブリドへ先ず組み込むことによる。紙へ追加の成分を組み込む他の方法には、かかる成分を紙形成中にスラリーに添加すること、形成紙の表面に成分を吹き付けることおよび他の通常の技法が含まれる。
【0027】
一実施形態では、本発明は、
a)フロックおよびフィブリドの総重量を基準として、4,4’ジアミノジフェニルスルホン、3,3’ジアミノジフェニルスルホン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるアミンモノマーから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含有する97〜5重量部のフロックと;3〜95重量部のポリマーフィブリドであって、メタフェニレンジアミンから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含有するフィブリドとの水性分散系を形成する工程と;
b)この分散系をブレンドしてスラリーを形成する工程と、
c)この水性液体をこのスラリーから排水して湿潤紙組成物をもたらす工程と、
d)この湿潤紙組成物を乾燥させて形成紙を製造する工程と
を含む電気絶縁に有用な紙の製造方法に関する。
【0028】
紙は、実験室スクリーンから、Fourdrinier機または傾斜ワイヤー機などの、商業規模の製紙機までの任意の規模の装置で形成することができる。一般的な方法は、水性液体中で、フィブリドおよびフロックと、任意選択的に充填剤などの追加の成分との分散系を製造する工程と、液体を分散系から排水して湿潤組成物をもたらす工程と、湿潤紙組成物を乾燥させる工程とを含む。
【0029】
分散系は、フロックを水性液体中に分散させ、次にフィブリドを加える工程によるか、フィブリドを液体中に分散させ、次に繊維を加える工程によるかのどちらかで製造することができる。分散系はまた、フロック含有分散系を繊維含有分散系と組み合わせることによって製造することができる。分散系中のフロックの濃度は、分散系の総重量を基準として0.01〜1.0重量パーセントの範囲であることができる。分散系中のフィブリドの濃度は、固形分の総重量を基準として20重量パーセント以下であることができる。
【0030】
分散系の水性液体は一般に水であるが、pH調整物質、成形助剤、界面活性剤、消泡剤などの様々な他の物質を含んでもよい。水性液体は通常、分散系をスクリーンまたは他の穿孔支持体上へ導き、分散された固形分を保持し、次に湿潤紙組成物をもたらすために液体を通過させることによって分散系から排水される。湿潤組成物は、いったん支持体上に形成されれば、真空または他の圧力によって通常はさらに脱水され、残存液体を蒸発させることによってさらに乾燥される。
【0031】
より高い密度および強度が望まれる場合に行うことができる、次の工程は、金属−金属、金属−複合材料、または複合材料−複合材料ロールのニップで紙の1つ以上の層をカレンダー加工する工程である。あるいはまた、紙の1つ以上の層を、特定の組成物および最終用途にとって最適である、圧力、温度および時間にて圧盤プレスで圧縮することができる。また、強化または幾つかの他の特性改質が高密度化なしにまたは高密度化に加えて望まれる場合、カレンダー加工または圧縮の前、後またはその代わりに独立した工程としての熱処理を行うことができる。
【0032】
この紙は、プリント配線盤などの、熱寸法安定性および強靱性が望まれる用途に;またはモーター、変圧器および他の電力設備での使用のための電気絶縁材料などの、誘電特性が有用である用途に有用である。これらの用途では、この紙は、要望に応じて、単独でまたは含浸樹脂ありかなしかのどちらかでラミネート構造体に使用することができる。別の実施形態では、この紙は、ワイヤーおよび導体用の電気絶縁性ラッピングとして使用される。ワイヤーまたは導体は、ワイヤーまたは導体の螺旋状重複ラッピングのように、完全にラップされ得るか、または平方形導体の場合のように導体の一部のみかまたは1つ以上の面をラップされ得る。ラッピングの量は用途によって決定され、必要ならば紙の多層をラッピングに使用することができる。別の実施形態では、この紙はまた、コア構造体またはハニカムなどの構造材料における構成要素として使用することができる。例えば、この紙の1つ以上の層が、ハニカム構造体のセルを形成するための主要材料として使用されてもよい。あるいはまた、紙の1つ以上の層がハニカムセルまたは他のコア材料をカバーするかまたはそれと向かい合うためのシートに使用されてもよい。好ましくは、これらの紙および/または構造体は、フェノール、エポキシ、ポリイミドまたは他の樹脂などの樹脂を含浸する。しかしながら、幾つかの場合にはこの紙はいかなる樹脂含浸もなしに有用である可能性がある。
【実施例】
【0033】
試験方法
厚さおよび坪量(グラメージ)は、対応してASTM D374およびASTM D646に従って本発明の紙について測定した。厚さ測定では、検体への約172kPaの圧力の方法Eを用いた。
【0034】
紙の密度(見掛け密度)は、ASTM D202に従って測定した。
【0035】
伸びおよび破断仕事(強靱性)は、ASTM D828に従って試験検体2.54cm幅および18cmのゲージ長を使用してInstron型試験機で紙について測定する。
【0036】
300℃での収縮は、検体2.54cm幅および20cm長さを使用して紙について測定した。検体をオーブン中120℃で1時間乾燥させ、次にデシケーター中で室温に冷却し、それらの長さを測定した。その後、検体を300℃の温度のオーブンに入れ、当該温度に20分間保持した。検体を次にデシケーター中で室温に冷却し、それらの長さをもう一度測定した。
【0037】
パーセント単位の300℃での収縮は次の通り計算した:
(L0−L)/L0×100%
ここで、L0は、乾燥検体の初期長さであり;Lは300℃への暴露後の乾燥検体の長さである。結果は最も近い0.1%に丸めた。
【0038】
実施例1
0.5%濃度(水中の0.5重量パーセント固体材料)での乾燥されていないポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)(MOD−I)フィブリドの水性分散系を、米国特許第3,756,908号明細書に記載されているように製造した。さらに5分間攪拌した後に、水を加えて0.2%の最終濃度をもたらした。10分間続けて攪拌した後に、4,4’ジアミノジフェニルスルホンおよび3,3’ジアミノジフェニルスルホンのコポリマーから製造された繊維である、Tanlon(登録商標)PSA繊維から製造されたフロックを加えた。このフロックは、線密度0.17テックス(1.5デニール)および0.64cmのカット長を有した。この固体材料を、53重量パーセントのMPD−Iフィブリドおよび47重量パーセントのPSAフロックからなる分散系をもたらす量で分散系に混合した。
【0039】
生じた分散系を供給室にポンピングし、そこからFourdrinier機に供給して39.0g/m2の坪量の紙を製造した。この紙の他の特性は下の表1に記載する。
【0040】
実施例2
さらにMPD−Iフロックを分散系に追加したことを除いて、実施例1の方法を繰り返した。MPD−Iフロックは、DuPontによって販売されるNomex(登録商標)アラミド繊維から製造し、線密度0.22テックス(2.0デニール)および0.64cmのカット長を有した。この固体材料を、53重量パーセントのMPD−Iフィブリド、24重量パーセントのPSAフロック、および23重量パーセントのMPD−Iフロックからなる分散系をもたらす量で分散系に混合した。
【0041】
生じた紙は39.0g/m2の坪量を有した;この紙の他の特性は下の表1に記載する。
【0042】
比較例A
スラリーを実施例1と同様に調製したが、PSAフロックを実施例2のMPD−Iフロックで置き換えた。この固体材料を、53重量パーセントのMPD−Iフィブリドおよび47重量パーセントのMPD−Iフロックからなる分散系をもたらす量で分散系に混合した。
【0043】
生じた紙は40.0g/m2の坪量を有した;この紙の他の特性は下の表1に記載する。
【0044】
実施例3
300mlの水中の1.41グラム(乾燥重量基準)のPSAフロック(実施例1に記載されたような)の混合物をWaring Blenderに入れ、1分間攪拌した。この混合物を次に、約1600gの水入りの実験室ミキサー(Britishパルプ評価装置)で水性の、乾燥されていないMPD−Iフィブリドスラリー(0.58%濃度および330mlのShopper−Rieglerのろ水度)の274グラムのスラリーと組み合わせ、1分間攪拌した。この固体材料を、53重量パーセントのMPD−Iフィブリドおよび47重量パーセントのPSAフロックからなる分散系をもたらす量で分散系に混合した。
【0045】
この分散系を、8リットルの水で、約21×21cmハンドシート金型に注ぎ込み、ウェットレイドシートを形成した。このシートを2片の吸取紙の間に置き、麺棒でハンドクーチし、190℃のハンドシート乾燥機中で乾燥させた。乾燥後に、このシートを、約5.7MPaの圧力および約288℃の温度で2分間圧盤プレスにて圧縮した。最終紙は66.8g/m2の坪量を有した;この紙の他の特性は下の表2に記載する。
【0046】
比較例B
実施例2に記載されたような、MPD−IフロックがPSAフロックに置き換わったことを除いて、実施例3を繰り返した。最終紙は67.8g/m2の坪量を有した;この紙の他の特性は下の表2に記載する。
【0047】
実施例4
2.1グラム(乾燥重量基準)のPSAフロックを使用したことを除いて実施例3を繰り返し、この固体材料を、30重量パーセントのMPD−Iフィブリドおよび70重量パーセントのPSAフロックからなる分散系をもたらす量で分散系に混合した。最終紙は67.8g/m2の坪量を有した;この紙の他の特性は下の表2に記載する。
【0048】
比較例C
実施例2に記載されたような、MPD−IフロックがPSAフロックに置き換わったことを除いて、実施例4を繰り返した。最終紙は69.8g/m2の坪量を有した;この紙の他の特性は下の表2に記載する。
【0049】
実施例5
300mlの水中の2.55グラム(乾燥重量基準)のPSAフロック(実施例1に記載されたような)の混合物をWaring Blenderに入れ、1分間攪拌した。この混合物を次に、約1600gの水入りの実験室ミキサー(Britishパルプ評価装置)で水性の、乾燥されたことがないMPD−Iフィブリドスラリー(0.58%濃度および330mlのShopper−Rieglerのろ水度)の77.6グラムのスラリーと組み合わせ、1分間攪拌した。この固体材料を、15重量パーセントのMPD−Iフィブリドおよび85重量パーセントのPSAフロックからなる分散系をもたらす量で分散系に混合した。
【0050】
この分散系を、8リットルの水で、約21×21cmハンドシート金型に注ぎ込み、ウェットレイドシートを形成した。このシートを2片の吸取紙の間に置き、麺棒でハンドクーチし、190℃のハンドシート乾燥機中で乾燥させた。乾燥後に、このシートを、約5.7MPaの圧力および約288℃の温度で2分間圧盤プレスにて圧縮した。最終紙は67.8g/m2の坪量を有した;この紙の他の特性は下の表2に記載する。
【0051】
比較例D
実施例2に記載されたような、MPD−IフロックがPSAフロックに置き換わったことを除いて、実施例5を繰り返した。最終紙は70.2g/m2の坪量を有した;この紙の他の特性は下の表2に記載する。
【0052】
表1および2に示されるように、PSAフロックを有する紙は、改善された破断点伸びおよび破断仕事(強靱性)を示した。MPD−Iフロックのみを有する比較紙と比べて改善は顕著であった。実施例はまた、わずかな比率のPSAフロックが破断点伸びおよび破断仕事特性の大幅な増加に作用するのに必要とされるにすぎないことを例示する。加えて、表2から、PSAフロックを含有する紙はMPD−Iフロックのみを含有する紙よりも摂氏300度で収縮が減少することが明らかである。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)4,4’ジアミノジフェニルスルホン、3,3’ジアミノジフェニルスルホン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるアミンモノマーから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含有するフロックであって、2〜25mmの長さを有するフロックと;
b)非粒状の、繊維状またはフィルム様ポリマーフィブリドであって、メタフェニレンジアミンから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含有し、0.1〜1mmの平均最大寸法、5:1〜10:1の最大寸法対最小寸法の比、および2μm以下の厚さを有するフィブリドと
を含む、電気絶縁に有用な紙。
【請求項2】
前記紙中のフィブリド対フロックの重量比が95:5〜3:97である請求項1に記載の紙。
【請求項3】
前記紙中のフィブリド対フロックの重量比が60:40〜10:90である請求項2に記載の紙。
【請求項4】
フィブリドがポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)から製造される請求項1に記載の紙。
【請求項5】
前記ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)フィブリドが前記紙中のフィブリドの総量の50〜80重量パーセントである請求項4に記載の紙。
【請求項6】
4,4’ジアミノジフェニルスルホン、3,3’ジアミノジフェニルスルホン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるアミンモノマーから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含むフィブリドをさらに含む請求項1に記載の紙。
【請求項7】
前記紙中のフィブリドの総量が4,4’ジアミノジフェニルスルホン、3,3’ジアミノジフェニルスルホン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるアミンモノマーから誘導されたポリマーまたはコポリマーから製造された80〜20重量パーセントのフィブリドを含む請求項6に記載の紙。
【請求項8】
c)パラ−アラミド、メタ−アラミド、カーボン、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテル−ケトン−ケトン、ポリエーテル−エーテル−ケトン、ポリオキサジアゾール、ポリベンザゾール、およびそれらの混合物の群から選択されるフロックであって、2〜25mmの長さを有するフロック
をさらに含む請求項1に記載の紙。
【請求項9】
請求項1に記載の紙でラップされたワイヤーまたは導体。
【請求項10】
請求項1に記載の紙を含むラミネート構造体または電気デバイス。
【請求項11】
請求項1に記載の紙を含むハニカム構造体。
【請求項12】
a)フロックおよびフィブリドの総重量を基準として、4,4’ジアミノジフェニルスルホン、3,3’ジアミノジフェニルスルホン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるアミンモノマーから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含有する97〜5重量部のフロックと;3〜95重量部のポリマーフィブリドであって、メタフェニレンジアミンから誘導されたポリマーまたはコポリマーを含有するフィブリドとの水性分散系を形成する工程と;
b)前記分散系をブレンドしてスラリーを形成する工程と、
c)水性液体を前記スラリーから排水して湿潤紙組成物をもたらす工程と、
d)前記湿潤紙組成物を乾燥させて形成紙を製造する工程と
を含む電気絶縁に有用な紙の製造方法。
【請求項13】
水がスクリーンまたはワイヤーベルトによって前記スラリーから排水される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記形成紙を熱および圧力でカレンダー加工する工程をさらに含む請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記紙中のフィブリド対フロックの重量比が60:40〜10:90である請求項12に記載の方法。

【公表番号】特表2011−508106(P2011−508106A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539921(P2010−539921)
【出願日】平成20年12月20日(2008.12.20)
【国際出願番号】PCT/US2008/087871
【国際公開番号】WO2009/086226
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】