説明

ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体の製造方法

【課題】モノマーおよび重合用開始剤が残存しにくく、その結果、種々の用途において優れた性能を安定的に発揮することができるジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を製造する方法を提供すること。
【解決手段】ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸とを含む単量体混合物を、ラジカル重合開始剤としての過硫酸塩の存在下で、水または極性溶媒中で重合反応させ、重合反応終了後にラジカル重合開始剤を分解させることにより、ジアリルジアルキルアンモニウム塩構成単位とマレイン酸構成単位とを含む共重合体を製造することを特徴とする、ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体の製造方法に関し、詳しくは、残存モノマーや残存過酸化物イオンをほとんど含まないジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体の製造方法に関する。
また本発明は、上記方法で得られたジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を用いるインクジェット記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体は、モノマーとしてジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸を用い、これらを水溶液中で共重合することにより得られ(特許文献1参照)、凝集剤、脱臭剤、製紙用助剤等の種々の用途に興味が持たれてきている(特許文献2参照)。
【0003】
しかし、本発明者らの検討によると、この共重合体の低分子量体を製造するための条件で重合させると重合収率が低くなり、モノマーが残留してしまうことがあった。また、ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸と二酸化イオウとの三元共重合体を製造しようとすると、比較的低温で重合することが必要なため、この場合も重合収率が低くなり、モノマーが残留してしまうことがあった。その結果、それらを種々の用途に使用しようとすると、残存モノマーによりその性能に影響することがあった。
【0004】
ところで、重合反応後の不純物であるカチオンモノマー等の除去には、蒸留留去法(特許文献1参照)、また、イオン交換膜電気透析法(特許文献2参照)を用いることが知られているが、本発明者らの検討によると、カチオンモノマーがジアリルジアルキルアンモニウム塩の場合、不揮発性の4級塩であるため、通常のモノマーに比べて除去されにくいという問題があった。そこで、重合開始剤を多量に用いて残存モノマーを少なくすることを検討したが、今度は、微量の残存重合開始剤が種々の用途の性能に悪影響を及ぼすことがあり、新たな問題となることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】東ドイツ特許公開番号,274432号(1989年)
【特許文献2】特開平4−193308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題に鑑み、本発明の目的は、モノマーおよび重合用開始剤が残存しにくく、その結果、種々の用途において優れた性能を安定的に発揮することができる、ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を製造する方法を提供することにある。
【0007】
また本発明の他の目的は、上記方法で得られたジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を用いて光強度の極めて強い条件下でも耐光性に優れたインクジェット記録媒体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため検討を加えた結果、ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸とを含む混合物をラジカル重合開始剤としての過硫酸塩の存在下で、水または極性溶媒中で重合反応させ、重合反応終了後にラジカル重合開始剤を分解させることにより、残存モノマーおよび残存重合開始剤をほとんど含まないジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体が得られることおよび得られたジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を用いることにより、印字の耐光性に極めて優れたインクジェット記録媒体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、
(1)下記一般式(I)
【化1】


(ただし、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Xはカウンターイオンを示す)で表されるジアリルジアルキルアンモニウム塩と下記式(II)
【化2】


で表されるマレイン酸とを含む単量体混合物を、ラジカル重合開始剤としての過硫酸塩の存在下で、水または極性溶媒中で重合反応させ、重合反応終了後にラジカル重合開始剤を分解させることにより、一般式(III)または(IV)
【化3】


(ただし、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Xはカウンターイオンを示す)で表されるジアリルジアルキルアンモニウム塩構成単位と下記式(V)
【化4】


で表されるマレイン酸構成単位とを含む共重合体を製造することを特徴とする、ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体の製造方法、
(2)原料の単量体混合物がジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)とマレイン酸(II)とからなり、かつ、目的物の共重合体がジアリルジアルキルアンモニウム塩構成単位(III)または(IV)とマレイン酸構成単位(V)とからなる二元共重合体である、上記(1)に記載の方法、
(3)原料の単量体混合物がジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)とマレイン酸(II)と二酸化イオウとからなり、目的物の共重合体がジアリルジアルキルアンモニウム塩構成単位(III)又は(IV)とマレイン酸構成単位(V)と下記式(VI)
【化5】


で表される二酸化イオウ構成単位とからなる三元共重合体である、上記(1)に記載の方法、
(4)重合終了後のラジカル重合開始剤の分解を65〜80℃で加熱処理して行う、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法、
(5)重合終了後の反応液を水または極性溶媒で希釈してからラジカル重合開始剤を分解する、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法、
(6)原料の単量体のジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)とマレイン酸(II)とのモル比を1:(0.1〜1)とし、用いる過硫酸塩の量を全単量体の合計モルに対し3モル%以上とし、原料の全単量体の反応液中の濃度を20〜70質量%とし、かつ重合反応温度を30〜62℃として重合反応を行い、重合反応後に重合体の反応液中の濃度が5質量%以上20質量%未満になるように水または極性溶媒で希釈してラジカル重合開始剤を分解させる、上記(2)に記載の方法、
(7)原料の単量体のジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)とマレイン酸(II)とのモル比を1:(0.1〜1)とし、原料の二酸化イオウの量を全単量体の合計モルに対し0.1〜30モル%とし、過硫酸塩の量を全単量体の合計モルに対し3モル%以上とし、原料の全単量体の反応液中の濃度を45〜70質量%とし、かつ、重合反応温度を0〜35℃として重合反応を行い、重合反応後に重合体の反応液中の濃度が5〜40質量%になるように水または極性溶媒で希釈してラジカル重合開始剤を分解させる、上記(3)に記載の方法、
(8)重合反応終了後の重合体中の残存モノマーが重合体中のモノマー構成単位に対し2モル%以下であり、ラジカル重合開始剤の分解反応後の残存過酸化物イオンが精製した重合体の固体換算で20ppm以下である、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法、
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法によりジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を製造し、得られた共重合体を基材に直接又は間接的に存在させることによりインクジェット記録媒体を得ることを特徴とするインクジェット記録媒体の製造方法、および
(10)上記(9)に記載の方法により得られたインクジェット記録媒体
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、モノマーや重合開始剤をほとんど含まず、その結果、種々の用途において優れた性能を発揮しやすいジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を製造することができる。特に、本発明によれば、得られた共重合体中の残存モノマーを減少させるために多量の重合開始剤を用いて重合反応させても、モノマーだけでなく、重合用開始剤がほとんど残存していないジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との二元共重合体、ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸と二酸化イオウとの三元共重合体等のジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を製造することができる。
【0011】
また、得られたジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を用いることにより、光強度の強い加速条件下においても印字の耐光性に優れたインクジェット記録媒体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
先ず、ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を製造するための本発明の方法を説明すると、この方法は、下記一般式(I)
【化6】


(ただし、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Xはカウンターイオンを示す)で表されるジアリルジアルキルアンモニウム塩と下記式(II)
【0013】
【化7】


で表されるマレイン酸とを含む単量体を、ラジカル重合開始剤としての過硫酸塩の存在下で、水または極性溶媒中で重合反応させ、重合反応終了後にラジカル重合開始剤を分解させることにより、一般式(III)または(IV)
【0014】
【化8】


(ただし、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Xはカウンターイオンを示す)で表されるジアリルジアルキルアンモニウム塩構成単位と下記式(V)
【0015】
【化9】


で表されるマレイン酸構成単位とを含む共重合体を製造することを特徴とするものである。
【0016】
原料の単量体として用いるジアリルジアルキルアンモニウム塩は、下記一般式(I)
【化10】


で表される。
【0017】
一般式(I)において、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示すが、メチル基、エチル基、プロピル基を例示できる。また、Xはカウンターイオンを示し、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンを例示できる。塩素イオンが入手のしやすさ、モノマーの安定性から好ましい。
【0018】
本発明に用いるジアリルジアルキルアンモニウム塩は、具体的には、ジアリルジアルキルアンモニウムクロリド、ジアリルジアルキルアンモニウムブロミド、ジアリルジアルキルアンモニウムヨードを例示できる。
【0019】
本発明に用いる原料のマレイン酸は、下記式(II)
【化11】


で表される。本発明において、原料のジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)とマレイン酸(II)とのモル比は、1:(0.1〜1.0)が好ましく、1:(0.15〜1.0)がより好ましく、1:(0.2〜1.0)がさらに好ましい。マレイン酸(II)の量が少ないと、両性共重合体の性質が出にくく、マレイン酸(II)の量が多すぎても、共重合体に含まれるジアリルジアルキルアンモニウム塩単位が少なくなるので、ジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)1モルに対してマレイン酸(II)の量は0.1〜1.0モルに限定される。本発明においては、得られる共重合体の性質を変化させるため、一般式(I)の単量体および式(II)の単量体以外に第三の単量体、例えば、二酸化イオウを含めて重合させることができる。第三の単量体を含む場合、第三の単量体の量は、原料の全単量体を基準にして、0.1〜30モル%が好ましく、0.1〜15モル%がより好ましく、0.1〜7モル%がさらに好ましい。
【0020】
本発明においては、ラジカル重合開始剤(本明細書では、重合開始剤または開始剤と記載することもある)として、過硫酸塩を用いる。過硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等を挙げることができる。
【0021】
本発明の方法は、共重合体中の残存モノマーを、共重合体中のモノマー構成単位に対し5モル%以下、好ましくは2モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下にするために、重合反応に用いる開始剤の量を多くしたときに好適に用いられる。開始剤は、少なすぎると重合変換率が低くなりやすく、多すぎると開始剤を分解するのに時間がかかるので、適宜変えることが好ましい。開始剤の量(添加される全量)は、例えば、全単量体の合計モルに対し3モル%以上が好ましく、4〜60モル%がより好ましく、5〜50モル%がさらに好ましく、6〜40モル%が特に好ましく7〜30モル%が最も好ましい。本発明において開始剤の添加方法は、重合反応液中の残存モノマーを徹底的に少なくするため、分割添加が好ましく、好ましくは3回以上、より好ましくは5回以上に分割して添加することが好ましい。本発明においては、重合反応液中の残存モノマーが目標値以下にならないときには、さらに開始剤を加え残存モノマーを徹底的に少なくすることが好ましい。
【0022】
本発明においては、重合反応に用いる溶媒として、水または極性溶媒を用いる。極性溶媒としては、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)等を用いることができる。重合反応の溶媒としては水が重合反応性、安全性の面から特に好ましい。
【0023】
本発明においては、重合反応終了後、開始剤を分解する前に、共重合体溶液を、必要に応じ、水または極性溶媒等の溶媒で希釈することが好ましい。希釈するための溶媒量は、製造する共重合体により適宜調節することが必要である。一般的には開始剤の分解反応は、共重合体濃度を5〜40質量%にして行うことが好ましい。この際、共重合体濃度が薄すぎると、後処理として減圧濃縮の操作が必要になったりして手間がかかりやすい。また、共重合体濃度が濃すぎると、開始剤分解反応とともに過剰な重合反応が反応したり、分子量が変化したり、ゲル化が発生したりすることがある。
【0024】
本発明においては、重合反応終了後の開始剤の分解を、65〜80℃で加熱処理することにより行うのが好ましい。65℃未満のときは開始剤の分解に時間がかかりやすくなり、80℃を超えると分子量が変化する場合もあり、さらに、ゲル化が発生して水溶性の共重合体を得にくい場合がある。なお、本発明においては、開始剤分解のための加熱処理は常圧下で行うことができる。
【0025】
本発明においては、開始剤を分解した後の開始剤活性量は、固体換算で、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下、特に好ましくは20ppm以下である。
【0026】
以下に、本発明の共重合体の製造方法の具体例として、ジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)とマレイン酸(II)との二元共重合体の製造方法と、ジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)とマレイン酸(II)と二酸化イオウとの三元共重合体の製造方法とを順次説明する。
【0027】
まず、ジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)とマレイン酸(II)との二元共重合体の製造方法においては、前述の通り、例えば、用いる単量体のジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)とマレイン酸(II)とのモル比は1:(0.1〜1)が好ましく、また、用いる過硫酸塩の量は全単量体の合計モルに対し3モル%以上であるのが好ましい。
重合反応するための全単量体の反応液中の濃度は、20〜70質量%が好ましく、23〜65質量%がより好ましく、25〜60質量%がさらに好ましい。
重合反応時の温度は、30〜62℃が好ましく、35〜61℃がより好ましく、40〜60℃がさらに好ましい。
重合反応後の開始剤分解反応に付すための全重合体の反応液中の濃度は好ましくは5質量%以上20質量%未満、より好ましくは10〜18質量%、さらに好ましくは13〜17質量%である。この際、必要に応じて水または極性溶媒で希釈して開始剤分解反応を行うことが好ましい。
【0028】
次に、ジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)とマレイン酸と二酸化イオウとの三元共重合体の製造方法について説明する。この場合、前述の通り、例えば、用いる単量体のジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)とマレイン酸とのモル比は1:(0.1〜1)が好ましく、また、用いる二酸化イオウの量は全単量体の合計モルに対し0.1〜30モル%が好ましく、さらに用いる過硫酸塩の量は全単量体の合計モルに対し3モル%以上を用いることが好ましい。
【0029】
重合反応するための全単量体の反応液中の濃度は、45〜70質量%が好適であり、47〜68質量%がより好ましく、48〜65質量%がさらに好ましい。
重合反応時の温度は、0〜35℃が好ましく、5〜30℃がより好ましく、10〜25℃がさらに好ましい。
重合反応後の開始剤分解反応に付すための重合体の反応液中の濃度は好ましくは5〜40質量%、より好ましくは15〜35質量%、さらに好ましくは20〜30質量%である。この際、必要に応じて水または極性溶媒で希釈して開始剤分解反応を行うことが好ましい。
【0030】
次にインクジェット記録媒体を製造するための本発明の方法について説明すると、この方法は、上記した方法によりジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を製造し、得られた共重合体を基材に直接又は間接的に存在させることによりインクジェット記録媒体を得ることを特徴とするものである。
【0031】
ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を製造する方法は、既に詳述してあるので、ここではその記載を省略し、ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を基紙に直接又は間接的に存在させる方法を述べると、この方法としては、下記の(1)〜(5)の態様が挙げられる。
(1)ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を濃度0.03〜5W/V%の水溶液とし、必要ならば、通常使用されるバインダー、例えば酸化デンプン、ポリビニルアルコール等と混合し、サイズプレス、ロールコーター等のコーターにより基材である紙に直接塗工する。
(2)基材である紙に、インク吸収能力の高い顔料(例えば合成シリカ、合成アルミナ、炭酸カルシウム等)を含むバインダーを塗工し、形成されたバインダーコート層の表面にエアナフコーター、スプレー等でジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を塗工する。
(3)顔料、バインダーにジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を添加して得た塗液を基材である紙に直接塗工する。
(4)基材であるプラスチック、布帛、皮製品等の表面に、ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体の水溶液を塗布するか又は上記基材を上記水溶液中に浸漬することによって、それらの表面に共重合体を付着させて塗層を形成する。
(5)染料を含む水性インクの液滴を付着させる直前に、インクジェット記録媒体の少なくとも記録形成領域にジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を付着させるようにする。
【0032】
本発明のインクジェット記録媒体の製造方法において、内部にもジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を含む紙を製造するときは、原料のパルプと共に、合成パルプや合成繊維を用いてもよく、更に、本発明共重合体と共に、白色性顔料、例えば、酸化チタン、炭化カルシウム、ゼオライトを内添して、紙の白色度を向上させることができる。
【0033】
ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体は他の塗工用薬剤と併用して使用できる。たとえばカチオン変性デンプン、酸化デンプン、ポリビニルアルコール、表面塗工用ポリアクリルアミドなど、あるいは表面サイズ剤との混合液にして塗工することもできる。また塗工用顔料としては、合成非晶質シリカ、クレー、タルク、ケイソウ土、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、サチンホワイト、ケイ酸アルミニウムなどを挙げることができる。その他表面サイズ剤、防滑剤、防腐剤、消泡剤、粘度調節剤、染料などの添加剤を併用しても差し支えない。
【0034】
ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体の塗工量としては、通常0.05〜10g/m2、好ましくは0.2〜5g/m2である。
【0035】
インクジェット記録媒体にジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を存在させることにより得られたインクジェット記録媒体に、染料を含む水性インクの液滴を付着させることによりインクジェット記録を行うことができる。水性インクとしては、直接染料、酸性染料、反応性染料などの染料を含む通常インクジェット記録に使用されている任意の水性インクを使用することができる。インクジェット記録は通常使用されている装置等により水性インクの微小液滴を発生させ、飛翔させて該記録媒体に付着させて記録を行うことができる。本発明のインクジェット記録方法は、ファクシミリ、プリンター、コンピューター端末等に幅広く適用できる。
【実施例】
【0036】
実施例1 本発明の方法によるジアリルジメチルアンモニウムクロリドとマレイン酸との1:1二元共重合体の製造例
攪拌機、冷却管、温度計を備えた300mL四つ口セパラブルフラスコ中で、65質量% ジアリルジメチルアンモニウムクロリド水溶液61.7g(0.3モル)、マレイン酸 34.8g(0.3モル)、水153.2gを溶解させ、内温を50℃まで昇温させた。温度が安定した後、得られる溶解液に28.5質量% 過硫酸アンモニウム水溶液52.57g(0.07モル)を7回に分けて添加し、50℃にて70時間、重合を実施した。重合終了後の溶液をGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)にて測定したところ、重量平均分子量は11,800、重合収率は100.0%であった。残存モノマーをGPCで求めたところ、固体換算で0モル%(1モル%未満)であった。
重合終了後、得られる共重合体溶液に水 223.4gを添加して希釈した後、70℃で16時間加熱処理し、開始剤分解処理を行った。なお、分解処理後の過硫酸アンモニウムは、残存過酸化物イオンとして半定量イオン試験紙(Quantofix(R) Peroxid、MACHEREY−NAGEL社)により簡易測定し、固体換算で15ppmであることを確認した。
【0037】
比較例1 開始剤の分解処理を行わないジアリルジメチルアンモニウムクロリドとマレイン酸との1:1共重合体の製造例
重合終了後の開始剤の分解処理を実施しない以外は全て実施例1と同様にして、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと二酸化イオウとの2:1共重合体を製造した。残存過酸化物イオンとして前記半定量イオン試験法により簡易測定し、固体換算で150ppmであることを確認した。
【0038】
実施例2 本発明の方法によるジアリルジメチルアンモニウムクロリドとマレイン酸と二酸化イオウとの20:9:1三元共重合体の製造例
攪拌機、冷却管、温度計を備えた300mL四つ口セパラブルフラスコ中で、65質量% ジアリルジメチルアンモニウムクロリド水溶液298.5g(1.2モル)、マレイン酸 63.3g(0.54モル)、二酸化イオウ3.8g(0.06モル)、水68.6gを溶解させた水溶液に過硫酸アンモニウム41.1g(0.18モル)を9回に分けて添加し、18℃にて72時間、重合を実施した。重合終了後の溶液をGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)にて測定したところ、重量平均分子量は33,000、重合収率は100.0%であった。残存モノマーをGPCで求めたところ、固体換算で0モル%(1モル%未満)であった。
重合終了後、水 566.8gを添加して希釈した後、70℃で16時間加熱処理し、開始剤分解処理を行った。なお、分解処理後の過硫酸アンモニウムは、残存過酸化物イオンとして半定量イオン試験紙により簡易測定し、固体換算で10ppmであることを確認した。
【0039】
比較例2 開始剤の分解処理を行わないジアリルジメチルアンモニウムクロリドとマレイン酸と二酸化イオウとの20:9:1三元共重合体の製造例
重合終了後の開始剤の分解処理を実施しない以外は全て実施例2と同様にして、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドとマレイン酸と二酸化イオウとの20:9:1三元共重合体を製造した。残存過酸化物イオンとして半定量イオン試験紙により簡易測定し、固体換算で150ppmであることを確認した。
【0040】
実施例3 インクジェット記録用紙の作製と耐光性試験
無機顔料として合成非晶質シリカ(商品名:ファインシールX−37B、(株)トクヤマ製)10.8重量部、バインダーとしてポリビニルアルコール(商品名:PVA−235、(株)クラレ製)2.9重量部、定着剤として実施例1、2または比較例1、2で得られた共重合体1.2重量部(固体換算)、硬膜剤としてホウ酸0.1重量部を均一に混合して、固形分濃度15質量%のインク受容層塗液を調製した。調製した塗液をマシュマロ紙(商品名:OKマシュマロCoC、(株)王子製紙製)上に塗工および乾燥してインクジェット記録用紙を作製した。
【0041】
ついで、インクジェットプリンター(商品名:PM−A900、EPSON(株)製)を用い、それらの試験用紙に辺の長さが1cmの正方形の図形をマゼンタ、イエローでそれぞれベタ印字を行い、光強度の強い加速条件下としてキセノンフェードメーター(商品名:キセノンフェードメーター X25F、スガ試験機(株)製)を用いて耐光性試験を行った。耐光性を下記の判断基準で評価した。
◎:褪色がまったく見られない
○:褪色が見られない
△:褪色がやや見られる
×:褪色が見られる

【0042】
【表1】

【0043】
表1の結果から、本発明の方法により共重合体を製造し、得られた共重合体を本発明の方法により基材である紙に塗工して得られたインクジェット記録媒体は、光強度の強い加速条件下で印字の耐光性(マゼンタ、イエロー)を改善することが明らかとなった。なお、光強度の弱い条件下としてカーボンアークフェードメーターを用いて対光性試験を行った場合、実施例1,2及び比較例1,2の重合体のいずれも用いても褪色は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、モノマーや重合開始剤活性が残存しにくく、その結果、種々の用途において優れた性能を発揮しやすいジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を製造することができる。特に、本発明によれば、得られた共重合体中の残存モノマーを減少させるために多量の重合開始剤を用いて重合反応させても、モノマーだけでなく、重合用開始剤が残存しにくいジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との二元共重合体、ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸と二酸化イオウとの三元共重合体等のジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を製造することができる。
得られた共重合体は、モノマーおよび重合開始剤が残存しにくいので、凝集剤、脱臭剤、製紙用助剤などの用途に用いられ、特に印字の耐光性に優れたインクジェット記録媒体の製造に好ましく用いられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】


(ただし、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Xはカウンターイオンを示す)で表されるジアリルジアルキルアンモニウム塩と下記式(II)
【化2】


で表されるマレイン酸とを含む単量体混合物を、ラジカル重合開始剤としての過硫酸塩の存在下で、水または極性溶媒中で重合反応させ、重合反応終了後にラジカル重合開始剤を分解させることにより、一般式(III)または(IV)
【化3】


(ただし、R、Rは独立に炭素数1〜3のアルキル基を示し、Xはカウンターイオンを示す)で表されるジアリルジアルキルアンモニウム塩構成単位と下記式(V)
【化4】


で表されるマレイン酸構成単位とを含む共重合体を製造することを特徴とする、ジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体の製造方法。
【請求項2】
原料の単量体混合物がジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)とマレイン酸(II)とからなり、かつ、目的物の共重合体がジアリルジアルキルアンモニウム塩構成単位(III)または(IV)とマレイン酸構成単位(V)とからなる二元共重合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
原料の単量体混合物がジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)とマレイン酸(II)と二酸化イオウとからなり、目的物の共重合体がジアリルジアルキルアンモニウム塩構成単位(III)又は(IV)とマレイン酸構成単位(V)と下記式(VI)
【化5】


で表される二酸化イオウ構成単位とからなる三元共重合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
重合終了後のラジカル重合開始剤の分解を65〜80℃で加熱処理して行う、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
重合終了後の反応液を水または極性溶媒で希釈してからラジカル重合開始剤を分解する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
原料の単量体のジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)とマレイン酸(II)とのモル比を1:(0.1〜1)とし、用いる過硫酸塩の量を全単量体の合計モルに対し3モル%以上とし、原料の全単量体の反応液中の濃度を20〜70質量%とし、重合反応温度を30〜62℃として重合反応を行い、重合反応後に重合体の反応液中の濃度が5質量%以上20質量%未満になるように水または極性溶媒で希釈して開始剤を分解させる、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
原料の単量体のジアリルジアルキルアンモニウム塩(I)とマレイン酸(II)とのモル比を1:(0.1〜1)とし、原料の二酸化イオウの量を全単量体の合計モルに対し0.1〜30モル%とし、過硫酸塩の量を全単量体の合計モルに対し3モル%以上とし、原料の全単量体の反応液中の濃度を45〜70質量%とし、かつ、重合反応温度を0〜35℃として重合反応を行い、重合反応後に重合体の反応液中の濃度が5〜40質量%になるように水または極性溶媒で希釈して開始剤を分解させる、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
重合反応終了後の重合体中の残存モノマーが重合体中のモノマー構成単位に対し2モル%以下であり、開始剤の分解反応後の残存過酸化物イオンが精製した重合体の固体換算で20ppm以下である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法によりジアリルジアルキルアンモニウム塩とマレイン酸との共重合体を製造し、得られた共重合体を基材に直接又は間接的に存在させることによりインクジェット記録媒体を得ることを特徴とするインクジェット記録媒体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法により得られたインクジェット記録媒体。


【公開番号】特開2010−248460(P2010−248460A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163820(P2009−163820)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】