説明

ジアリルフタレート樹脂組成物

【課題】 本発明はジアリルフタレート樹脂組成物において、従来の有機過酸化物を硬化剤として用いた場合と比較して、爆発の危険性が少なく、より安全に長期間保存することが可能になったジアリルフタレート樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】ジアリルフタレート樹脂及び有機チタン化合物を含有した樹脂組成物が上記課題を解決できる事を見出した。本発明のジアリルフタレート樹脂組成物は、各種用途に適した溶媒を使用することができるため、取り扱いに優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化剤を含有するジアリルフタレート樹脂組成物、ジアリルフタレート樹脂の硬化方法および硬化により得られた硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアリルフタレート系樹脂を経済的に硬化するには硬化剤としてパーオキサイドの使用が不可欠である。ジアリルフタレート系樹脂の硬化剤としては、主要な用途である化粧板向けにはベンゾイルパーオキサイドが、成形材料向けにはターシャリーブチルパーオキシベンゾエートやジクミルパーオキサイドが一般的に使用されている。これらのパーオキサイドはジアリルフタレート系樹脂以外にも、不飽和ポリエステル樹脂や有機過酸化物架橋するゴムの架橋剤として大量に使用されコストも安価である。
【0003】
しかし、一般に、ジアリルフタレート系樹脂を硬化する硬化剤として、有機過酸化物を用いた場合には、安全性(爆発の危険性)及び安息香酸メチルなど一部の溶媒を使用しなければならない等の問題があった。そこで、近年、硬化方法、特に硬化剤に着目した硬化方法の改良が種々試みられている。
【0004】
ところで、熱硬化性材料としては自己融着性ワニスが注目されている。出力の高い大型モーターではコイル振動を抑制するために巻き線後にワニス処理を行うのが一般的ではあるが、通常、長時間の熱処理を必要とするものが多く、溶剤揮発による環境悪化を引き起こすという問題があり、コイル巻線時に加熱処理することにより容易に線間を固着できる自己融着性ワニスは上記の課題を解決すべく、開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−43563号公報
【特許文献2】特開2009−197050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はジアリルフタレート樹脂組成物において、従来の有機過酸化物を硬化剤として用いた場合と比較して、爆発の危険性が少なく、より安全に長期間保存することが可能になったジアリルフタレート樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、ジアリルフタレート樹脂及び有機チタン化合物を含有した樹脂組成物が上記課題を解決できる事を見出した。本発明のジアリルフタレート樹脂組成物は、各種用途に適した溶媒を使用することができるため、取り扱いに優れている点でも好ましい。
【0008】
即ち、本発明は
a)ジアリルフタレート樹脂
b)有機チタン化合物
を含有することを特徴とするジアリルフタレート樹脂組成物である。
有機チタン化合物はチタンアルコキシド化合物、チタンキシレート化合物、チタンアシレート化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のジアリルフタレート樹脂組成物は、各種用途に適した溶媒を使用することができるため、例えば、熱硬化性自己融着ワニス組成物として用いて、絶縁導体上に本発明の樹脂組成物を塗布・焼付けすることにより、容易に自己融着絶縁電線を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ジアリルフタレート樹脂組成物
以下、本発明のジアリルフタレート樹脂組成物について詳細に説明する。本発明のジアリルフタレート樹脂組成物は硬化前の樹脂組成物であり、少なくとも(a)ジアリルフタレート樹脂、(b)有機チタン化合物を含有する。
【0011】
ジアリルフタレート樹脂
本発明で用いられるジアリルフタレート系樹脂とは、ジアリルオルソフタレートプレポリマー、ジアリルイソフタレートプレポリマー、ジアリルテレフタレートプレポリマー等のジアリルフタレート樹脂に代表され、これらの単独、あるいは二種以上の混合物であってよい。また、当該樹脂はジアリルオルソフタレートモノマー、ジアリルイソフタレートモノマー、ジアリルテレフタレートモノマー等の二種以上のいわゆるジアリルモノマーの共重合体からなるプレポリマーであってもよい。この場合、ベンゼン環上の水素原子が塩素、臭素等のハロゲン原子で置換されていてもよく、また分子内に存在する不飽和結合が全部または一部において水添されたプレポリマーもここに含まれるものとする。
【0012】
本発明のジアリルフタレート樹脂の分子量は特に限定されないが、溶媒への溶解性、硬化性が向上する点で、重量平均分子量が10000〜200000であることが好ましく、重量平均分子量が20000〜60000であることがより好ましい。尚、重量平均分子量はGPCにより測定され、標準ポリスチレン換算で表されるものである。
【0013】
有機チタン化合物
本発明の有機チタン化合物はチタンアルコキシド化合物、チタンキシレート化合物、チタンアシレート化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、チタンアルコキシド化合物であることが特に好ましい。また、本発明の有機チタン化合物は下記一般式(1)で例示され、これらの2量体以上の多量体であってもよい。また、これらを単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【化1】

(R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、Rはキレート剤であり、a、bは0〜4の整数を表す。)
【0014】
チタンアルコキシド化合物としては、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラキス(2−エチル−1−ヘキサノラート、チタンブトキシドダイマーが挙げられ、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラキス(2−エチル−1−ヘキサノラートが好ましい。
【0015】
チタンキシレート化合物としては、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテートが挙げられる。
【0016】
チタンアシレート化合物としてはトリ−n−ブトキシチタンモノステアレート、ジ−i−プロポキシチタンジステアレート、チタニウムステアレート、ジ−i−プロポキシチタンジイソステアレート、(2−n−ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタンが挙げられる。
【0017】
炭素数が少ない有機チタン化合物を用いた場合には、ジアリルフタレート系樹脂が高分子量化しやすい傾向があり、チタンキシレート化合物、炭素数の比較的多いチタンアルコキシド化合物、炭素数の比較的多いチタンアシレート化合物を使用する場合には、後述するヒドロキシル基を有する溶媒とエステル交換反応が起こりやすくなる特徴があり、用途に合わせて使用することができる。
【0018】
本発明のジアリルフタレート樹脂組成物においては、一般式(1)で表される有機チタン化合物は、ジアリルフタレート樹脂100重量部に対して、0.1〜50重量部含有することが好ましく、0.5〜40重量部含有することがより好ましく、2〜30重量部含有することが特に好ましい。
【0019】
溶媒
本発明のジアリルフタレート樹脂組成物においては、各種用途に適した溶媒を使用することができる。溶媒を具体的に例示すると、クレゾール、フェノール、キシレン、トルエン、ソルベントナフサ等の芳香族系溶媒、メチルエチルケトン、ヘキサノン、アセトン等のケトン系溶媒、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドが挙げられる。溶媒は2種以上を混合して使用することもできる。尚、クレゾール、フェノール、カテコール、キシレノール、ナフトール等のヒドロキシル基を有する高沸点(例えば、常圧で沸点が150℃を有する)溶媒は有機チタンとの反応によりエステル交換することにより樹脂組成物を硬化してなる硬化物に取り込まれる。
【0020】
本発明のジアリルフタレート樹脂組成物においては、溶媒はジアリルフタレート樹脂100重量部に対して、100〜1000重量部含有することが好ましく、200〜850重量部含有することがより好ましく、300〜600重量部含有することが特に好ましい。
【0021】
その他配合剤
本発明のジアリルフタレート樹脂組成物においては、必要に応じて、種々の目的のために、有機又は無機のフィラー、繊維、顔料、離型剤、難燃性付与剤、シランカップリング剤等の添加剤を加えることができる。
【0022】
硬化方法
ジアリルフタレート樹脂組成物の硬化方法は、ジアリルフタレート系樹脂に有機チタン化合物を用いて硬化させる限り、特に加熱硬化、紫外線硬化等の硬化手段に制限はないが、好ましくは加熱による硬化が特に望ましく用いることができる。加熱温度は200〜600℃であることが好ましく、210〜400℃であることがより好ましく、220〜280であることが特に好ましい。また、ジアリルフタレート樹脂組成物によっては予め加熱にすることにより、一部の溶媒を揮発させる前処理を行った後、硬化させてもよい。
【0023】
硬化物
本発明のジアリルフタレート樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物は各種用途(例えば自己融着ワニス、キャリッジコイル、ジアリルフタレート成形材料等)に用いることができる。
【0024】
自己融着ワニス用途について
本発明の(a)ジアリルフタレート樹脂、(b)有機チタン化合物を含有するジアリルフタレート樹脂組成物を自己融着ワニス組成物として用いることができる。自己融着ワニスは、絶縁皮膜の上に融着(自己融着ワニス)層を形成し、融着(自己融着ワニス)層を加熱溶融、線間を固着させることでワニスを含浸させる工程を代替することができるものである。
【0025】
本発明のジアリルフタレート樹脂組成物は、(a)ジアリルフタレート樹脂とともに、特に(b)有機チタン化合物及び溶媒を選択することで、より好適に自己融着ワニス組成物として用いることができる。より詳細には、本発明のジアリルフタレート樹脂組成物において、溶媒としてヒドロキシル基を有する溶媒を選択すると、ヒドロキシル基を有する溶媒は有機チタンとの反応によりエステル交換することにより樹脂組成物を硬化してなる硬化物に取り込まれることになるが、この場合に、(b)有機チタン化合物として、チタンキシレート化合物、又は炭素数の比較的多いチタンアルコキシド化合物、炭素数の比較的多いチタンアシレート化合物を使用する場合には、ヒドロキシル基を有する溶媒が樹脂組成物を硬化してなる硬化物に取り込まれ、得られた硬化物が粘着性を有することになり、自己融着ワニス用途としてより好ましいものとなる。
【0026】
自己融着ワニス組成物として用いた場合には、(b)有機チタン化合物は、炭素数5〜10のアルコキシ基を少なくとも一つ有するチタンアルコキシド化合物、チタンキシレート化合物、炭素数5〜10のアルコキシ基を少なくとも一つ有するチタンアシレート化合物であることが好ましく、炭素数5〜10のアルコキシ基を少なくとも一つ有するチタンアルコキシド化合物であることがより好ましく、炭素数6〜9のアルコキシ基を少なくとも一つ有するチタンアルコキシド化合物であることが特に好ましい。具体的に例示するとチタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンテトラキス(2−エチル−1−ヘキサノラートが挙げられる。また、これらを単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
有機チタン化合物は、ジアリルフタレート樹脂100重量部に対して、0.1〜50重量部含有することが好ましく、0.5〜40重量部含有することがより好ましく、2〜30重量部含有することが特に好ましい。
【0027】
自己融着ワニス組成物として用いた場合には、ヒドロキシル基を有する溶媒は、常圧で沸点150℃以上を有する溶媒であることが好ましく、クレゾール、フェノール、カテコール、キシレノール、ナフトールであることがより好ましく、クレゾール、フェノールであることが特に好ましい。溶媒は2種以上を混合して使用することもでき、キシレン、トルエン、ソルベントナフサ等の芳香族系溶媒、メチルエチルケトン、ヘキサノン、アセトン等のケトン系溶媒、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドがヒドロキシル基を有しない溶媒と混合して使用してもよい。
ヒドロキシル基を有する溶媒はジアリルフタレート樹脂100重量部に対して、100〜1000重量部含有することが好ましく、200〜850重量部含有することがより好ましく、250〜600重量部含有することが特に好ましい。
【0028】
自己融着ワニス組成物として用いた場合においても、必要に応じて、添加物等の配合剤を含有してもよい。
【0029】
本発明のジアリルフタレート樹脂組成物を熱硬化性自己融着ワニス組成物として用いて、絶縁導体上に本発明の樹脂組成物を塗布・焼付けすることにより、容易に自己融着絶縁電線を製造することができる。
【0030】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損ねない範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。
【0031】
以下に実施例および比較例で用いた配合剤を示す。
1.ダイソー株式会社製「ダイソーダップA」
※ジアリルフタレート樹脂1とする(重量平均分子量55000)
2.ダイソー株式会社製「ダイソーイソダップ」
※ジアリルフタレート樹脂2とする(重量平均分子量40000)
3.和光純薬株式会社製「p−クレゾール」
4.片山化学工業株式会社製「キシレン」
5.和光純薬株式会社製「クロロホルム」
6.和光純薬株式会社製「チタン(IV)テトラブトキシド,モノマー」
7.和光純薬株式会社製「チタンテトライソプロポキシド」
8.和光純薬株式会社製「チタン(IV)=テトラキス(2−エチル−1−ヘキサノラート)」
9.和光純薬株式会社製「2,2’―アゾビス(イソブチロニトリル)」
10.日油株式会社製「パークミルD」
【0032】
ジアリルフタレート樹脂組成物の調製
表1、表2に示される配合量で、ジアリルフタレート樹脂をp−クレゾール/キシレン(70/30wt%)溶液に溶解させ、更に各種硬化剤を添加してジアリルフタレート樹脂組成物を得た。
【0033】
硬化物の作製
得られたジアリルフタレート樹脂組成物2gを金属製の器に取り出し、乾燥機で100℃1時間、150℃で1時間の予備乾燥を行い、溶媒(キシレン)を揮発させた。予備乾燥後、220℃で10分間加熱し、ジアリルフタレート樹脂組成物を硬化させての硬化物を得た。尚、実施例5には、若干の粘着性を確認することができた。
【0034】
硬化確認試験
得られた硬化物を1時間クロロホルム中、還流下で煮沸を行い、煮沸後の硬化物はクロロホルムを常温まで冷ました後にろ過により取り出した。結果を煮沸前後の重量変化率を硬化率として表1,2に示す。尚、ジアリルフタレート樹脂と硬化剤が十分に反応せずに得られた硬化物はクロロホルム中での煮沸により溶解しやすい。従って、本願においては、煮沸前後の重量変化、即ち、(硬化物の煮沸後の重量/硬化物の煮沸前の重量)×100で計算される重量変化率(%)を硬化率(%)として算出した。また、表1、2中の「硬化の有無」はろ過後、目視にて硬化物の状態を確認し、以下、評価をした。
○:硬化物の大部分が溶解せずに、硬化物の十分な硬化を確認できた。
△:硬化物の大部分が溶け出し、硬化物はほとんど残らなかった。
×:硬化物が全く残らなかった。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
表1および表2に示したように、一般的な重合に用いられている硬化剤(比較例1〜4)で硬化しなかったジアリルフタレート樹脂組成物が、本発明における有機チタン(実施例1〜5)では十分な硬化が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のジアリルフタレート樹脂組成物は、高性能化が要求される各種コイル、例えば駆動用モーターコイルおよびキャリッジコイル等への使用に用いられうる。また、保存安定性および取り扱い性が優れていることから、あらゆる産業上で利用される期待が非常に大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ジアリルフタレート樹脂
b)有機チタン化合物
を含有することを特徴とするジアリルフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
b)有機チタン化合物はチタンアルコキシド化合物、チタンキシレート化合物、チタンアシレート化合物からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載のジアリルフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
ジアリルフタレート樹脂100重量部に対して有機チタン化合物が、0.1〜20重量部含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のジアリルフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
ジアリルフタレート樹脂は重量平均分子量が20000〜60000であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のジアリルフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載のジアリルフタレート樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物。
【請求項6】
請求項1〜4いずれかに記載のジアリルフタレート樹脂組成物であることを特徴とする自己融着性ワニス組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の自己融着性ワニス組成物で被覆したことを特徴とする自己融着性被覆電線。
【請求項8】
請求項7記載の自己融着性被覆電線を用いることを特徴とする駆動用モーターコイル、又はキャリッジコイル。

【公開番号】特開2012−116869(P2012−116869A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264747(P2010−264747)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】