説明

ジアリルフタレート樹脂組成物

【課題】銅等の金属に対して高い接着性能を有し、電子部品等に好適に用いることができるジアリルフタレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ジアリルフタレート樹脂と、下記式(1)で表される含硫黄化合物とを含有するジアリルフタレート樹脂組成物。
[化1]


式(1)中、Xは硫黄原子又はスルホン基、Yはチオール基、又は、不飽和結合及びスルフィド結合の両方を有する置換基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅等の金属に対して高い接着性能を有し、電子部品等に好適に用いることができるジアリルフタレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品材料の封止材の技術課題は、生産性や難燃性であり、パワーデバイス用途では熱放散性や成形性の向上等であった。しかし、近年、電子部品材料の高性能化に伴い、封止材料の要求特性も高まっており、特に、低熱膨張率化、低弾性率化や高接着化などが望まれている。また、現在は、樹脂と導電性材料である銅との接着性を確保するために粗い表面の導体を使用し、結果、アンカー効果によって剥離強度を向上させている。
しかし、電子材料の高性能化・高周波化に伴い、この凹凸が信号を伝達する上で問題となるため、導体として表面が平滑なロープロファイル銅箔等が用いられるようになってきており、界面での化学的もしくは電気的な相互作用を利用した封止用や配線板用樹脂の平滑な銅箔表面に対する接着力の向上が求められている。
他方、ジアリルフタレート樹脂は、耐熱性、高温・高湿下における電気絶縁性や寸法安定性に優れていることから、高い信頼性が必要とされる電気・電子部品の成形材料や電子部品の封止材料、さらには、積層板用樹脂等に用いられている。
しかしながら、ジアリルフタレート樹脂は、銅等の金属に対する接着性が低いという欠点があるため、現状は使用する用途が限られている。一方で、近年は、電子部品の小型化に伴って、耐熱性等の要求特性も厳しくなっていることから、ジアリルフタレート樹脂が有する優れた耐熱性が再評価されている。
【0003】
ジアリルフタレート樹脂の性能を向上させる方法としては、例えば、特許文献1には、パーオキシカーボネートを硬化剤として用いることで、機械的物性を向上させたジアリルフタレート樹脂組成物が開示されており、特許文献2には、屈折率やアッベ数等の光学特性に優れたジアリルフタレート樹脂組成物が開示されている。
【0004】
一方で、ジアリルフタレート樹脂の欠点である金属に対する接着性能を改善する技術は、封止材料として広く用いられているエポキシ樹脂等の接着性向上に関する技術と比べて数も少ない。例えば、特許文献3には、無水マレイン酸とクレゾールノボラック型エポキシ樹脂とを添加したジアリルフタレート樹脂組成物が、特許文献4にはダイマー酸ポリアミドを添加したものが開示されており、非特許文献1及び2には、硫黄原子を含むアリルエステル化合物を導入したジアリルフタレート樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−43563号公報
【特許文献2】特開2000−53768号公報
【特許文献3】特開平7−126351号公報
【特許文献4】特開2008−291086号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本接着学会誌 Vol.45 No.3(2009)
【非特許文献2】日本接着学会第46回年次大会 講演要旨集 11〜12頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、銅等の金属に対して高い接着性能を有し、電子部品等に好適に用いることができるジアリルフタレート樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ジアリルフタレート樹脂と、下記式(1)で表される含硫黄化合物とを含有するジアリルフタレート樹脂組成物である。
【化1】

式(1)中、Xは硫黄原子又はスルホン基、Yはチオール基、又は、不飽和結合及びスルフィド結合の両方を有する置換基を示す。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
ジアリルフタレート樹脂の接着性能を改善する技術としては、特許文献3、4及び非特許文献1、2が開示されているが、特許文献3のジアリルフタレート樹脂組成物は、銅箔に対するピール強度の向上率が約1.5倍程度と接着力の向上が不充分であり依然として従来の課題を解決できていなかった。また、特許文献3の方法では、金属への接着性に優れたエポキシ樹脂の性質を利用したものであり、ジアリルフタレート樹脂自身の性能が向上するわけではないことから、本質的にジアリルフタレート樹脂の接着性が向上したとはいえず、また、ジアリルフタレート樹脂の特長である低吸水性及びそれに伴った電気特性を活かすことができない。さらに、アリル基との共重合性に富む硬化剤をエポキシ樹脂に対して相当量を配合しなければ、硬化不良や機械的強度の劣るものとなってしまい、安価で汎用的に用いられているビスフェノール型エポキシ樹脂や一般的なアミン系硬化剤や酸無水物は適用できないという欠点もあった。
特許文献4に記載のポリアミドによるジアリルフタレート樹脂へのアミド基の導入は、銅への剥離強度を向上させているが、その効果は未だ十分ではなく、さらに、添加量が増えると、過剰な柔軟性の付与によって、せん断強度や耐熱性が著しく低下するという問題もあった。
非特許文献1、2記載のジアリルフタレート樹脂組成物については、硫黄原子の導入によって銅に対する接着性能は大きく向上するものの、改質剤の添加量が比較的多く、さらに、熱硬化時のジスルフィド結合の開裂によって耐熱性の低下や不安定物質の生成等が懸念されるだけでなく、機械的特性である曲げ強度が大幅に減少してしまう欠点があり、ジアリルフタレート樹脂が有する本来の性能が大きく損なわれるという問題もあった。
【0010】
そこで、本発明者らは、ジアリルフタレート樹脂に所定の構造を有する含硫黄化合物を添加することで、耐熱性や吸水性、機械的特性等の性能を損なうことなく、銅等の金属に対する高い接着性能を実現できる電子部品等に好適に使用可能なジアリルフタレート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明のジアリルフタレート樹脂組成物は、上記式(1)で表される含硫黄化合物を含有する。上記式(1)で表される含硫黄化合物を含有することにより、本発明のジアリルフタレート樹脂組成物は、接着性に優れるものとなり、特に銅等の金属に対して高い接着性能を実現することができる。
【0012】
上記式(1)で表される含硫黄化合物としては、例えば、下記式(2)〜(11)で表される構造を有する含硫黄化合物等が挙げられる。
【0013】
【化2】

【0014】
この中でも、ジアリルフタレート樹脂との相溶性に優れた構造のものが好ましく、具体的には、特に、Yがチオアリル基である含硫黄化合物が好ましい。
上記式(1)で表される含硫黄化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
上記式(1)で表される含硫黄化合物の配合量は特に限定されないが、ジアリルフタレート樹脂(ジアリルフタレート樹脂モノマー及びジアリルフタレート樹脂プレポリマーを含む)100重量部に対して、好ましい下限は0.01重量部、好ましい上限は20重量部である。上記式(1)で表される含硫黄化合物の配合量が0.01重量部未満であると、得られるジアリルフタレート樹脂組成物が金属に対する接着性に劣るものとなることがある。上記式(1)で表される含硫黄化合物が20重量部を超えると、得られるジアリルフタレート樹脂組成物が、機械的特性や耐熱性に劣るものとなることがある。上記式(1)で表される含硫黄化合物の配合量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は15重量部である。さらに好ましい下限は0.5重量部、さらに好ましい上限は10重量部である。
【0016】
本発明のジアリルフタレート樹脂組成物は、ジアリルフタレート樹脂を含有する。
上記ジアリルフタレート樹脂としては、オルソ、イソ、テレのジアリルフタレートモノマーから選択される少なくとも一種を重合してなる単独ポリマーのほか、これらの共重合ポリマーが挙げられる。
また、上記ジアリルフタレートモノマーとジアリルフタレートプレポリマーとの混合物及び共重合ポリマー;ジアリルフタレート樹脂モノマーとアリル基やビニル基等の不飽和基を有する反応性モノマーとの混合物及び共重合ポリマー;ジアリルフタレート樹脂プレポリマーとアリル基やビニル基等の不飽和基を有する反応性モノマーとの混合物及び共重合ポリマー;上記ジアリルフタレートモノマーとジアリルフタレート樹脂プレポリマーとアリル基やビニル基等の不飽和基を有する反応性モノマーとの混合物及び共重合ポリマー等が挙げられる。
【0017】
上記不飽和基を有する反応性モノマーとしては、例えば、スチレン、クロロスチレン等のスチレン系モノマー;メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタアクリレート)、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート、プロピレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等のアクリレート系モノマー;ビニルアセテート、ビニルベンゾエート等のビニルエステル系モノマー;アクリルアセテート、アリルベンゾエート、アリル(メタ)アクリレート、ジアリルオキザレート、ジアリルアジペート、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)、ジエチレングリコールビス(アリルフタレート)、ポリエチレングリコールビス(アリルカーボネート)、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルサイトレート、ジアリルフタレート等のアリルエステル系モノマーが挙げられる。
【0018】
本発明のジアリルフタレート樹脂組成物は、ジアリルフタレート樹脂の硬化剤を含有することが好ましい。
上記ジアリルフタレート樹脂の硬化剤としては、例えば、過酸化ジ−tert−ブチル、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)−ヘキサン、1,3−ビス−(tert−ブチルペルオキシ−イソプロピル)−ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)−ヘキシン−3、過酸化ジクミル等の過酸化ジアルキル類や過酸化ジアリール類;メチルエチルケトンペルオキシドやシクロヘキサノンペルオキシド等のケトンペルオキシド;1,1−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のペルオキシケタール;クメンヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド;過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル、過酸化2,4−ジクロロベンゾイル等の過酸化ジアロイルや過酸化ジアシル;ジイソプロピルペルオキシカーボネート等のペルオキシカーボネート;tert−ブチルペルオキシアセテート、tert−ブチルペルオキシオクテート、tert−ブチルペルオキシベンゾエート、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート等のペルオキシエステル、さらには、有機過酸化物以外のアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。
【0019】
上述した硬化剤のなかでは、過酸化ジクミル、tert−ブチルペルオキシベンゾエート、過酸化ベンゾイル等の過酸化物が好ましい。また、上記硬化剤の配合量は、ジアリルフタレート樹脂100重量部に対して、0.1〜6重量部であることが好ましい。
【0020】
本発明のジアリルフタレート樹脂組成物は、必要に応じて充填材、重合促進剤、重合禁止剤、内部離型剤、カップリング剤、顔料、難燃剤等の添加剤を含有してもよい。
【0021】
本発明のジアリルフタレート樹脂組成物を製造する方法は特に限定されず、例えば、上記ジアリルフタレート樹脂、上記式(1)で表される含硫黄化合物、および、上記硬化剤などを、3本ロールなどの装置を用いて混合する従来公知の方法が挙げられる。
【0022】
本発明のジアリルフタレート樹脂組成物は、電子部品封止材料、光半導体封止材料、電気絶縁材料、成形材料、接着剤、塗料、コーティング剤、印刷インキ、レジストインキなどの用途に用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、銅等の金属に対して高い接着性能を有し、電子部品等に好適に用いることができるジアリルフタレート樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0025】
(実施例1)
ジアリルフタレートモノマー(ダイソー社製)とジアリルフタレートプレポリマー(ダイソー社製)との混合物(ジアリルフタレートモノマー:ジアリルフタレートプレポリマー=7:3)100重量部に対して、上記式(2)で表される含硫黄化合物1重量部を溶解させ、硬化剤として過酸化ジクミル(日本化薬社製)3重量部添加することにより、ジアリルフタレート樹脂組成物を得た。
【0026】
(実施例2)
上記式(2)で表される含硫黄化合物の配合量を3重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてジアリルフタレート樹脂組成物を得た。
【0027】
(実施例3)
上記式(2)で表される含硫黄化合物の配合量を5重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてジアリルフタレート樹脂組成物を得た。
【0028】
(実施例4)
上記式(2)で表される含硫黄化合物の配合量を10重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてジアリルフタレート樹脂組成物を得た。
【0029】
(実施例5)
上記式(2)で表される含硫黄化合物に代えて、上記式(8)で表される含硫黄化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてジアリルフタレート樹脂組成物を得た。
【0030】
(実施例6)
上記式(2)で表される含硫黄化合物に代えて、上記式(9)で表される含硫黄化合物を用い、その配合量を0.5重量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてジアリルフタレート樹脂組成物を得た。
【0031】
(実施例7)
上記式(2)で表される含硫黄化合物に代えて、上記式(9)で表される含硫黄化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてジアリルフタレート樹脂組成物を得た。
【0032】
(実施例8)
上記式(2)で表される含硫黄化合物に代えて、上記式(9)で表される含硫黄化合物を用い、その配合量を3重量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてジアリルフタレート樹脂組成物を得た。
【0033】
(実施例9)
上記式(2)で表される含硫黄化合物に代えて、上記式(11)で表される含硫黄化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてジアリルフタレート樹脂組成物を得た。
【0034】
(比較例1)
上記式(2)で表される含硫黄化合物を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてジアリルフタレート樹脂組成物を得た。
【0035】
<評価>
実施例及び比較例で得られたジアリルフタレート樹脂組成物について以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0036】
(1)金属に対する接着性(引張せん断接着強度試験)
JIS K 6850の方法に準拠して、無酸素銅板(100×25×1.6mm)を脱脂後、研磨紙(240番)で研磨し、その後、10%硝酸でエッチングし、乾燥させて、試験片とした。
得られた試験片に、実施例及び比較例で得られたジアリルフタレート樹脂組成物を、接着部が12.5×25mmの長方形になるように塗布し、もう一枚の試験片を張り合わせ、100℃で1時間、120℃で1時間、140℃で1時間、160℃で1時間、180℃で1時間加熱し、硬化させ、引張せん断試験片とした。
得られた引張せん断試験片について、万能試験機(ミネベア社製、「NMB−50kNB」)を用いて、つかみ具距離100mm、試験速度5mm/minの条件で引張せん断接着強度を測定し、表1に示した。
また、比較例1で得られたジアリルフタレート樹脂組成物の引張せん断接着強度(5.4MPa)に対する向上率(%)についても表1に示した。
【0037】
(2)T形剥離接着強度試験
JIS K 6854に従い、無酸素銅板(150×25×0.5mm)を脱脂後、研磨紙(240番)で研磨し、その後、10%硝酸でエッチングし、乾燥させて、試験片とした。得られた試験片に、実施例及び比較例で得られたジアリルフタレート樹脂組成物を塗布し、もう一枚の試験片を張り合わせ、100℃で1時間、120℃で1時間、140℃で1時間、160℃で1時間、180℃で1時間加熱し、硬化させ、T形剥離試験片とした。
得られたT形剥離試験片について、万能試験機(ミネベア社製、「NMB−50kNB」)を用いて、つかみ具距離100mm、試験速度100mm/minの条件でT形剥離接着強度を測定し、表1に示した。
また、比較例1で得られたジアリルフタレート樹脂組成物のT形剥離接着強度(85N/m)に対する向上率(%)についても表1に示した。
【0038】
(3)5%重量減少温度
実施例及び比較例で得られたジアリルフタレート樹脂組成物を100℃で1時間、120℃で1時間、140℃で1時間、160℃で1時間、180℃で1時間加熱し、硬化させ、硬化物を細かく粉砕し測定試料とした。
得られた試験片について、TG/DTA6200(SII社製)を用いて、昇温条件35〜530℃、10℃/minで、5%重量減少温度を測定した。
【0039】
(4)ガラス転移温度
実施例及び比較例で得られたジアリルフタレート樹脂組成物をシリコンゴム製の型に流し込み、120℃で9時間、150℃で2時間、170℃で2時間加熱し、硬化させ、動的粘弾性測定用試験片とした。得られた動的粘弾性測定用試験片について、粘弾性スペクトロメーター(SII社製DMS−110)を用いて、周波数1Hz、昇温速度2℃/minで、3点曲げ法で測定した。
【0040】
(5)煮沸吸水率
実施例及び比較例で得られたジアリルフタレート樹脂組成物をシリコンゴム製の円板型に流し込み、120℃で9時間、150℃で2時間、170℃で2時間加熱し、硬化させ、煮沸吸水率測定試験片とした。煮沸吸水率測定試験片について、50℃で24時間乾燥させた後、一度秤量し、その後、沸騰水中で1時間煮沸し、冷水で室温まで冷却し、ガーゼで表面の水分を拭き取り再度秤量した。煮沸前の重量と煮沸後の重量から、下式を用いて、煮沸吸水率を算出した。
煮沸吸水率A(%)={(W−W)/W}×100
ただし、W:煮沸前重量、W:煮沸後重量とする。
【0041】
(6)曲げ強度及び曲げ弾性率
実施例及び比較例で得られたジアリルフタレート樹脂組成物をシリコンゴム製の型に流し込み、120℃で9時間、150℃で2時間、170℃で2時間加熱し、硬化させ、曲げ強度試験片とした。曲げ強度試験片について、万能試験機(ミネベア社製、「NMB−50kNB」)を用いて、支点間距離80mm、試験速度2mm/minで測定した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1より、ジアリルフタレート樹脂100重量部に対して、上記式(2)で表される含硫黄化合物を10重量部添加したジアリルフタレート樹脂組成物(実施例4)では、上記式(2)で表される含硫黄化合物を添加しないジアリルフタレート樹脂組成物(比較例1)と比較して、引張せん断接着強度は約1.6倍向上した。また、上記式(9)で表される含硫黄化合物を僅か0.5重量部添加したジアリルフタレート樹脂組成物(実施例6)でも引張せん断接着強度は約1.4倍向上した。
また、T形剥離接着強度試験については、上記式(2)で表される含硫黄化合物を10重量部添加したジアリルフタレート樹脂組成物(実施例4)では、上記式(2)で表される含硫黄化合物を添加しないジアリルフタレート樹脂組成物(比較例1)と比較して、約2.2倍向上し、さらに、上記式(9)で表される含硫黄化合物を3重量部添加したジアリルフタレート樹脂組成物(実施例8)では約4.6倍向上した。
5%重量減少温度やガラス転移温度などの耐熱性については、含硫黄化合物の添加によって、大幅な低下は見られなかった。
煮沸吸水率や曲げ強度については、含硫黄化合物の添加によっての悪影響は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、銅等の金属に対して高い接着性能を有し、さらには、ジアリルフタレート樹脂の大きな特長である高温での低吸水率や機械的特性を維持することができ、電子部品等に好適に用いることができるジアリルフタレート樹脂組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアリルフタレート樹脂と、下記式(1)で表される含硫黄化合物とを含有するジアリルフタレート樹脂組成物。
【化1】

式(1)中、Xは硫黄原子又はスルホン基、Yはチオール基、又は、不飽和結合及びスルフィド結合の両方を有する置換基を表す。
【請求項2】
式(1)で表される含硫黄化合物は、式(1)中のYがチオール基、チオビニル基、チオアリル基、チオアクリル基又はチオメタクリル基であることを特徴とする請求項1記載のジアリルフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
式(1)で表される含硫黄化合物は、式(1)中のYがチオアリル基であることを特徴とする請求項1記載のジアリルフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
式(1)で表される含硫黄化合物の含有量が、ジアリルフタレート樹脂100重量部に対して、0.01〜25重量部である請求項1、2又は3記載のジアリルフタレート樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−201801(P2012−201801A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67875(P2011−67875)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【Fターム(参考)】