説明

ジアリール化合物の製造方法

【課題】 機能性化学品として有用な1,1−ジアリールエタン化合物等の1,1−ジアリール化合物を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】 芳香族化合物と、リンゴ酸、乳酸等の2−ヒドロキシカルボン酸を、固体酸触媒の存在下で反応させ、1,1−ジアリール化合物を製造する。触媒としては、ゼオライト等の固体酸触媒を使用できる。ゼオライトとしては、ベータ型等のものを使用でき、シリカ/アルミナ比が2〜1000のものを使用することが好ましい。マイクロ波照射を行うことにより、反応速度・収率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,1−ジアリールエタン化合物等の1,1−ジアリール化合物の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,1−ジアリール化合物は、医・農薬、光・電子材料等の製造に関わる機能性化学品として利用価値が高い。たとえば、1,1−ジアリールエタン化合物の中で、1−フェニル−1−キシリルエタンや1−フェニル−1−エチルフェニルエタン等は、PCB代替用の電気絶縁油、染料溶剤、農薬・防錆溶剤等として利用されている。また、他の芳香族機能性化学品を製造するための合成中間体として利用することもできる。
そのような1,1−ジアリールエタン化合物の主要な製法としては、たとえば、(A)1−アリールエタノールをルイス酸触媒(トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸または塩化ニオブ)存在下で芳香族化合物と反応させる方法(たとえば非特許文献1、2)、(B)1,1−ジアリールエテンを、リチウムアルミニウムヒドリド、4−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム触媒存在下でコバルトカルボニル錯体、または、パラジウム触媒存在下で水素ガスと反応させる方法(たとえば非特許文献3〜5)、(C)2−メトキシプロピオン酸をメタンスルホン酸/五酸化二リン混合酸存在下で芳香族化合物と反応させる方法(たとえば非特許文献6)等が知られていた。
【0003】
しかしながら、従来法(A)〜(C)では、それぞれに問題点があった。
たとえば、従来法(A)では、(1)原料である1−アリールエタノールの入手が、アリール基がフェニル基の場合を除けば一般に容易でない、(2)均一系の反応のため、触媒の分離・回収が容易でないという問題があり、また、従来法(B)でも、(1)禁水性で取り扱い困難なリチウム試薬や高価な金属化合物等を使用する必要がある、(2)金属化合物を原料に対して当量以上使用する場合には大量の金属含有廃棄物が生じる等の問題があった。
さらに、従来法(C)でも、(1)メタンスルホン酸/五酸化二リンの混合酸は液体で、生成物との分離・回収が困難である、(2)混合酸を溶媒量使用するため、酸性廃棄物が大量に生じる等の問題があり、環境負荷が小さく、工業的により有利な製法が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tetrahedron,63,7942(2007)
【非特許文献2】Tetrahedron Lett.,48,8306(2007)
【非特許文献3】J.Org.Chem.,41,3682(1976)
【非特許文献4】J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,365(1983)
【非特許文献5】Org.Lett.,5,4979(2003)(Supporting Information)
【非特許文献6】J.Org.Chem.,61,3551(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、上記問題点を回避して、1,1−ジアリールエタン化合物等の1,1−ジアリール化合物をより効率的に製造することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、(1)芳香族化合物が、リンゴ酸又は乳酸等の2−ヒドロキシカルボン酸と特定の固体酸触媒存在下でスムーズに反応し、1,1−ジアリール化合物が収率よく得られる、(2)それらの反応がマイクロ波照射で加速され、より効率よく1,1−ジアリール化合物を製造できる、という二つの新規な事実を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、この出願は以下の発明を提供するものである。
〈1〉下記一般式(I)
RH (I)
(式中、Rは1価の炭化水素環系又は複素環系の芳香族有機基を示し、環上の水素原子の一部が反応に関与しない基で置換されていてもよい。)
で表される芳香族化合物と、下記一般式(II)
HOC−CR−OH (II)
(式中、R及びRは、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、カルボキシメチル基の中から選ばれる互いに同一又は相異なる1価の基を示す。)
で表される2−ヒドロキシカルボン酸を、固体酸触媒の存在下で反応させることを特徴とする下記一般式(III)
2CR (III)
(式中、Rは前記と同じ意味の基である。また、Rは、前記のRがカルボキシメチル基の場合にはメチル基であり、それ以外の基である場合にはRと同一の基である。一方、Rは、前記のRがカルボキシメチル基の場合にはメチル基であり、それ以外の基である場合にはRと同一の基である。)
で表される1,1−ジアリール化合物の製造方法。
〈2〉前記の固体酸触媒として、ゼオライト、モンモリロナイト又はスルホ基含有ポリマーを用いることを特徴とする〈1〉に記載の製造方法。
〈3〉前記のゼオライトとして、Y型、ベータ型、モルデナイト型、ZSM−5型又はフェリエライト型のゼオライトを使用することを特徴とする〈2〉に記載の製造方法。
〈4〉前記のゼオライトとして、シリカ/アルミナ比が2〜1000のものを使用することを特徴とする〈2〉又は〈3〉に記載の製造方法。
〈5〉反応をマイクロ波照射下で行うことを特徴とする〈1〉、〈2〉、〈3〉又は〈4〉に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法を用いることにより、大量の廃棄物を排出することなく、安価な芳香族化合物と2−ヒドロキシカルボン酸を原料として、1,1−ジアリール化合物を従来の方法に比べより効率的に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法は、芳香族化合物と2−ヒドロキシカルボン酸を、固体酸触媒の存在下で反応させることを特徴とする。
本発明において、原料として使用する芳香族化合物は、下記一般式(I)
RH (I)
で表される炭化水素環化合物又は複素環化合物である。
【0009】
一般式(I)において、Rは1価の炭化水素環系又は複素環系の芳香族有機基を示す。
1が炭化水素環系の芳香族有機基の場合には、環内炭素数が好ましくは6〜22、より好ましくは6〜14であり、それら炭素環系の芳香族有機基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、ペリレニル基、ペンタセニル基等が挙げられ、それらの基を有する炭化水素環系芳香族化合物の具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン、ペンタセン等が挙げられる。
また、Rが複素環系の芳香族有機基の場合には、ヘテロ原子は硫黄、酸素原子等であり、環内炭素数が好ましくは4〜12、より好ましくは4〜8である。それら複素環系の芳香族有機基の具体例としては、チエニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、フリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基等が挙げられ、それらの基を有する複素環系芳香族化合物の具体例としては、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、フラン、ベンゾフラン、ジベンゾフラン等が挙げられる。
【0010】
一般式(I)においてRはその環上の水素原子の一部が反応に関与しない基で置換されていてもよく、それらの基の具体例としては、メチル基、イソプロピル基、ヘキシル基、デシル基等のような炭素数が1〜10のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基のような炭素数が1〜10のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子のようなハロゲン原子の他に、環上の2つの炭素原子を結合させる2価の基であるオキシエチレン基やオキシエチレンオキシ基等を挙げることができる。
したがって、それらの基を有する芳香族化合物の具体例としては、トルエン、アニソール、エトキシベンゼン、ブトキシベンゼン、メチルアニソール、フルオロアニソール、クロロアニソール、ブロモアニソール、2,3−ジヒドロベンゾフラン、1,4−ベンゾジオキサン等が挙げられる。
【0011】
一方、上記一般式(I)の芳香族化合物と反応させる2−ヒドロキシカルボン酸は、下記一般式(II)
HOC−CR−OH (II)
一般式(II)において、R及びRは、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、カルボキシメチル基の中から選ばれる互いに同一又は相異なる1価の基を示す。その1価の基がアルキル基の場合には、炭素数が好ましくは1〜16、より好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜6であり、それらアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、テトラデシル基等が挙げられる。また、1価の基がアリール基の場合には、炭素数が好ましくは6〜20、より好ましくは6〜16、さらに好ましくは6〜14であり、それらアリール基の具体例としてはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、ペリレニル基等が挙げられる。さらに、1価の基がアラルキル基の場合には、炭素数が好ましくは7〜22、より好ましくは7〜17、さらに好ましくは7〜15であり、それらアラルキル基の具体例としてはベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、アントリルメチル基、フェナントリルメチル基、ピレニルメチル基、ペリレニルメチル基等が挙げられる。
したがって、それら1価の基等を有する一般式(II)の2−ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、グリコール酸、乳酸、2−メチル乳酸、3−フェニル乳酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−4−メチルペンタン酸(ロイシン酸)、2−ヒドロキシヘキサン酸、2−ヒドロキシオクタン酸、2−ヒドロキシデカン酸、2−ヒドロキシパルミチン酸、マンデル酸、リンゴ酸、クエン酸等を挙げることができる。
【0012】
2−ヒドロキシカルボン酸に対する芳香族化合物のモル比は任意に選ぶことができるが、2−ヒドロキシカルボン酸に対する1,1−ジアリール化合物の収率を考慮すれば、通常0.4以上300以下であり、より好ましくは0.5以上200以下であり、さらに好ましくは0.5以上150以下である。
【0013】
本発明によれば、上記一般式(I)の芳香族化合物と上記一般式(II)の2−ヒドロキシカルボン酸との反応により、下記一般式(III)
2CR (III)
で表される1,1−ジアリール化合物を製造できる。
式中、Rは前記と同じ意味の基である。また、Rは、前記のRがカルボキシメチル基の場合にはメチル基であり、それ以外の基である場合にはRと同一の基である。一方、Rは、前記のRがカルボキシメチル基の場合にはメチル基であり、それ以外の基である場合にはRと同一の基である。
一般式(III)中のR、及び、R又はRがそれぞれR又はRと同一の基である場合のR、Rの具体例としては、上記一般式(I)及び一般式(II)で、R及びR、Rとして例示したもの等を挙げることができる。
【0014】
本発明の製造法では、上記一般式(I)の芳香族化合物の芳香環が反応性の異なる複数の反応点を有する場合、2−ヒドロキシカルボン酸は、最も電子密度が高く立体障害が少ない環内炭素原子と優先的に反応する。
たとえば、アルコキシ置換基を有するベンゼン環では、2−ヒドロキシカルボン酸はアルコキシ基に対してパラ位の炭素と優先的に反応して、パラ置換体を主生成物として与える。さらに、2,3−ジヒドロベンゾフランのような芳香族化合物では、アルコキシ基に対してパラ位の炭素原子とアルキル基に対してパラ位の炭素原子が存在するが、電子供与性がより高いと考えられるアルコキシ基に対してパラ位の炭素原子が優先的に反応する。
以上のように、本発明の反応は、求電子置換反応で一般的に見られる位置選択性を示すが、触媒の構造も位置選択性に大きく影響する。たとえばゼオライト触媒のような規則的細孔を有する触媒は、細孔の形状や孔径等に基づく形状選択性を示すために、芳香環の位置選択的反応に対して有利に使用できる。
ゼオライト触媒を使用する場合の位置選択性では、細孔の孔径の影響が大きく、たとえば、ベータ型の触媒は、大口径の細孔を有するY型と比較して、パラ置換体をより高い選択率で与える傾向がある。
【0015】
本発明では、フリーデル・クラフツ型の求電子置換反応等で使われる従来公知の各種の固体酸触媒を用いることができる。
それらの具体例としては、金属塩、金属酸化物等の固体無機物、酸性官能基を有する固体有機物等が挙げられる。
その中の固体無機物をより具体的に示せば、プロトン性水素原子あるいは金属カチオン(アルミニウム、チタン、ガリウム、鉄、セリウム、スカンジウム等)を有する、ゼオライト、モンモリロナイト、シリカ、ヘテロポリ酸やカーボン系素材を担体とする無機系固体酸が挙げられる。金属カチオンを有する固体無機物は、たとえば、市販のナトリウム型の固体無機物を、金属カチオンの水溶液で処理するなど、通常の方法により調製することができる。
また、固体有機物をより具体的に示せば、スルホ基を有するナフィオン(Nafion、登録商標、デュポン社より入手可能)、ダウエックス(Dowex、登録商標、ダウ・ケミカル社より入手可能)、アンバーライト(Amberlite、登録商標、ローム&ハス社より入手可能)等の酸性ポリマーや他の有機系固体酸が挙げられる。さらに、シリカ等にナフィオン等の有機系酸性化合物を担持した触媒(たとえば、Nafion SAC−13等)を用いることもでき、無機系固体酸と有機系固体酸を複数組み合わせて使用することもできる。
【0016】
触媒としてゼオライトを使用する場合、その種類としては、Y型、ベータ型、モルデナイト型、ZSM−5型、フェリエライト型又はSAPO型等の基本骨格を有する各種のゼオライトが使用可能である。その中で好ましいのは、Y型、ベータ型、モルデナイト型、ZSM−5型で、より好ましいのは、Y型、ベータ型で、さらに好ましいのは、ベータ型である。
これらゼオライトにおいては、プロトン性水素原子を有するブレンステッド酸型のものや金属カチオンを有するルイス酸型のものなど、各種のゼオライトを使用できる。この中で、プロトン性水素原子を有するプロトン型のものは、H−Y型、H−SDUSY型、H−SUSY型、H−ベータ型、H−モルデナイト型、H−ZSM−5型、H−フェリエライト型等で表される。また、アンモニウム型のものである、NH−Y型、NH−VUSY型、NH−ベータ型、NH−モルデナイト型、NH−ZSM−5型、NH−フェリエライト型等のゼオライトを焼成して、プロトン型に変換したものを使用することもできる。なお、上記プロトン型及びアンモニウム型のゼオライトで、H−SDUSY型、H−SUSY型、NH−VUSY型で表したものは、いずれもY型の基本骨格を有するものである。
さらに、ゼオライトのシリカ/アルミナ比については、反応条件に応じて各種の比を選択できるが、好ましくは2〜1000であり、より好ましくは5〜900、さらに好ましくは10〜800である。
【0017】
それらゼオライトとしては、市販品を含む各種のものを使用できる。市販品の具体例を示すと、Y型ゼオライトとしては、ゼオリスト社より市販されている、CBV760、CBV780、CBV720、CBV712及びCBV600等、東ソー社より市販されているHSZ−360HOA及びHSZ−320HOA等が挙げられる。また、ベータ型ゼオライトとしては、ゼオリスト社より市販されている、CP811C、CP814N、CP7119、CP814E、CP7105、CP814C、CP811TL、CP814T、CP814Q、CP811Q、CP811E−75、CP811E及びCP811C−300等、東ソー社より市販されている、HSZ−980HOA、HSZ−940HOA及びHSZ−930HOA等、UOP社より市販されているUOP−Beta等が挙げられ、モルデナイト型ゼオライトとしては、ゼオリスト社より市販されているCBV21A及びCBV90A等、東ソー社より市販されている、HSZ−660HOA、HSZ−620HOA及びHSZ−690HOA等が挙げられる。さらに、ZSM−5型ゼオライトとしては、ゼオリスト社より市販されている、CBV28014、CBV8014、CBV5524G及びCBV8020等、東ソー社より市販されている、HSZ−870NHA、HSZ−860HOA及びHSZ−850HOA等が挙げられ、フェリエライト型ゼオライトとしては、ゼオリスト社より市販されているCP914及びCP914C等が挙げられる。
【0018】
原料に対する触媒量は任意に決めることができるが、重量比では、通常は0.0001〜100程度で、好ましくは0.001〜70程度、さらに好ましくは0.001〜50程度である。
【0019】
本発明の反応は、反応温度や反応圧力に応じて、液相又は気相状態で行うことができる。また、反応装置の形態としては、バッチ型、フロー型等、従来知られている各種形態で行うことができる。反応温度は、20℃以上、好ましくは20〜400℃、より好ましくは、20〜350℃である。さらに、反応圧力は、通常0.1〜100気圧で、好ましくは0.1〜80気圧、より好ましくは0.1〜60気圧である。反応時間は、反応温度、触媒量、反応装置の形態等に依存するが、1〜400分、好ましくは1〜320分、より好ましくは1〜240分程度である。
【0020】
また、反応を液相系で行う場合、溶媒の有無にかかわらず実施できるが、溶媒を用いる場合には、デカリン(デカヒドロナフタレン)、デカン等の炭化水素、クロロベンゼン、1,2−又は1,3−ジクロロベンゼン、1,2,3−又は1,2,4−トリクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ジブチルエーテル等のエーテル等、原料と反応するものを除いた各種の溶媒が使用可能で、2種以上混合して用いることもできる。また、反応を気相で行う場合には、窒素等の不活性ガスを混合して反応を行うこともできる。
【0021】
本発明の反応は、マイクロ波照射下で行うこともできる。本反応系では、共生成物である水や固体酸触媒の誘電損失係数が大きく、それらがマイクロ波を効率よく吸収するため、マイクロ波照射下では触媒表面からの水の脱着や固体酸触媒の活性化が促進され、反応をより効率的に進行させることが可能である。
反応をマイクロ波照射下で行う場合には、反応系をより効率よく加熱するために、マイクロ波を吸収して発熱する加熱材(サセプター)を反応系に添加することができる。加熱材の種類としては、活性炭、黒鉛、炭化ケイ素、炭化チタン等、従来公知の各種のものを使用できる。また、先に記載した触媒と加熱材の粉末を混合して、セピオライト、ホルマイト等の適当なバインダーを利用して焼成加工した成形触媒を用いることもできる。
【0022】
マイクロ波照射反応では、接触式又は非接触式の温度センサーを備えた各種の市販装置等を使用できる。また、マイクロ波照射の出力、キャビティの種類(マルチモード、シングルモード)、照射の形態(連続的、断続的)等は、反応のスケールや種類等に応じて任意に決めることができる。
マイクロ波の周波数としては、通常、0.3〜30GHzである。具体的な周波数帯としては、ISM周波数帯(産業、科学、医療の分野で使用できる電波法での周波数帯) として知られる、2.45GHz帯、5.8GHz帯等を利用できる。
【0023】
本発明の反応では、触媒として固体酸を使用しているため、反応後の触媒の分離・回収は、濾過、遠心分離等の方法により容易に行うことができる。また、生成した芳香族アシル化合物の精製も、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィー等の有機化学上通常用いられる手段により容易に達せられる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
アニソール(Ia) 9.2mmol、リンゴ酸(IIa) 0.40mmol、H−ベータ型ゼオライト CP811E−75(ゼオリスト社製) 50mg、1,2−ジクロロベンゼン 1mLの混合物を反応管に入れ、放射温度計を備えたマイクロ波照射装置(Biotage社製、Initiator、シングルモード型、2.45GHz、マイクロ波最大出力 400W)を用いて、攪拌しながら200℃で20分反応させた。生成物についてガスクロマトグラフ分析およびガスクロマトグラフ質量分析を行った結果、1,1−ビス(メトキシフェニル)エタン(IIIa、2個のメトキシ基の位置が異なる異性体が存在し、両方とも4−メトキシフェニル基である場合(4,4−体)と、片方が4−メトキシフェニル基で他方が2−メトキシフェニル基である場合(4,2−体)と、両方とも2−メトキシフェニル基である場合(2,2−体)との比は、(4,4−体):(4,2−体):(2,2−体)=91:9:<0.5)が、54.4%の収率で生成したことがわかった(表1参照)。
【0025】
(実施例2〜50)
反応条件(原料、触媒等)を変えて、実施例1と同様に反応及び分析を行い、生成物の収率を測定した結果を表1に示す。
【0026】
【表1−1】

【0027】
【表1−2】

【0028】
【表1−3】

【0029】
(実施例51)
アニソール(Ia) 9.2mmol、リンゴ酸(IIa) 0.30mmol、H−ベータ型ゼオライト CP811C(ゼオリスト社製) 50mg、1,2−ジクロロベンゼン 1mLの混合物を反応管に入れ、放射温度計を備えたマイクロ波照射装置(Biotage社製、Initiator、シングルモード型、2.45GHz、マイクロ波最大出力 400W)を用いて、攪拌しながら200℃で10分反応させた。遠心分離器で固体を上澄み液と分離し、トルエン(2mL)とアセトン(2mL)で固体を洗浄した。同様の条件で反応と後処理を11回繰り返して行い、得られた上澄み液と洗浄液をすべて合わせて、減圧下で濃縮し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/トルエン=1/2)で生成物を分離した結果、1,1−ビス(メトキシフェニル)エタン(IIIa、1,1−ビス(4−メトキシフェニル)エタンと1−(2−メトキシフェニル)−1−(4−メトキシフェニル)エタンの2個の異性体)が1.40mmol(収率38%、前者の異性体の収率が36%で後者の異性体の収率が2%)得られた。
得られたIIIaの2個の異性体のスペクトルデータ等は下記の通りであった。
IIIa(1,1−ビス(4−メトキシフェニル)エタン):
1H-NMR (CDCl3): δ 1.58 (d, J = 7.0 Hz, 3H, CCH3), 3.76 (s, 6H, OCH3), 4.05 (q, J = 7.0 Hz, 1H, CH), 6.79-6.83 (m, 4H, ベンゼン環H), 7.09-7.13 (m, 4H, ベンゼン環H).
13C-NMR (CDCl3): δ 22.2, 43.1, 55.2, 113.7, 128.4, 138.9, 157.8.
GC-MS (EI, 70eV): m/z (相対強度) 242 (M+, 23), 227 (100).
IIIa(1−(2−メトキシフェニル)−1−(4−メトキシフェニル)エタン):
1H-NMR (CDCl3): δ 1.55 (d, J = 7.5 Hz, 3H, CCH3), 3.77 (s, 3H, OCH3), 3.78 (s, 3H, OCH3), 4.52 (q, J = 7.5 Hz, 1H, CH), 6.78-6.92 (m, 4H, ベンゼン環H), 7.11-7.18 (m, 4H, ベンゼン環H).
13C-NMR (CDCl3): δ 21.0, 36.5, 55.2, 55.4, 110.6, 113.5, 120.5, 126.9, 127.5, 128.6, 135.3, 138.5, 156.8, 157.6.
GC-MS (EI, 70eV): m/z (相対強度) 242 (M+, 32), 227 (48), 121 (100), 91 (10).
【0030】
実施例20又は21においてマイクロ波照射装置の代わりにオイルバス加熱装置(理工科学産業社製、MH−5D)を用いて反応及び分析を行った実施例30又は31では、IIIaの収率はそれぞれ20.2%又は34.9%であり、それらの値はマイクロ波照射装置の反応で得られた29.2%又は48.2%よりも低かった。
このことは、マイクロ波照射を用いた反応の方が、同じ反応温度・時間でのオイルバスによる通常加熱の反応に比べ、IIIaをより高い収率で与える傾向があることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の方法によれば、医・農薬、光・電子材料等に関わる機能性化学品として有用な1,1−ジアリールエタン化合物等の1,1−ジアリール化合物を、安価な原料を用いて、より効率的かつ安全に製造できるため、本発明の利用価値は高く、その工業的意義は多大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
RH (I)
(式中、Rは1価の炭化水素環系又は複素環系の芳香族有機基を示し、環上の水素原子の一部が反応に関与しない基で置換されていてもよい。)
で表される芳香族化合物と、下記一般式(II)
HOC−CR−OH (II)
(式中、R及びRは、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、カルボキシメチル基の中から選ばれる互いに同一又は相異なる1価の基を示す。)
で表される2−ヒドロキシカルボン酸を、固体酸触媒の存在下で反応させることを特徴とする下記一般式(III)
2CR (III)
(式中、Rは前記と同じ意味の基である。また、Rは、前記のRがカルボキシメチル基の場合にはメチル基であり、それ以外の基である場合にはRと同一の基である。一方、Rは、前記のRがカルボキシメチル基の場合にはメチル基であり、それ以外の基である場合にはRと同一の基である。)
で表される1,1−ジアリール化合物の製造方法。
【請求項2】
前記の固体酸触媒として、ゼオライト、モンモリロナイト又はスルホ基含有ポリマーを用いることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記のゼオライトとして、Y型、ベータ型、モルデナイト型、ZSM−5型又はフェリエライト型のゼオライトを使用することを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記のゼオライトとして、シリカ/アルミナ比が2〜1000のものを使用することを特徴とする請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
反応をマイクロ波照射下で行うことを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−224580(P2012−224580A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93672(P2011−93672)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「革新的マイクロ反応場利用部材技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】