説明

ジイソプロペニルベンゼンの製造方法

【課題】ジ(2−ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン(DCA)を出発原料としてジイソプロペニルベンゼン(DST)を製造する方法であって、高純度のDSTを、容積効率が高い反応容器を用いて、すなわち、容積がより小さい反応容器を用いて、少ない触媒量で得ることができるという優れた効果を有するDSTの製造方法を提供する。
【解決手段】DCAを、下記ア)、イ)およびウ)の条件下で、p−トルエンスルホン酸または硫酸を酸触媒として用いる脱水反応に供して、DSTを製造する方法に係るものである。
ア)DCA濃度が20重量%を超え80重量%未満であるDCAのメチルイソブチルケトン(MIBK)溶液で、DCAを脱水反応に供すること。
イ)脱水反応を行う反応溶液に含まれる酸触媒の濃度が100〜2000重量ppmであること。
ウ)脱水反応は、生成水及びMIBKを留去させながら行うこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジイソプロペニルベンゼン(DST)の製造方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、ジ(2−ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン(DCA)を出発原料としてジイソプロペニルベンゼン(DST)を製造する方法であって、高純度のジイソプロペニルベンゼン(DST)を、容積効率が高い反応容器を用いて、すなわち、容積がより小さい反応容器を用いて、少ない触媒量で得ることができるという優れた効果を有するジイソプロペニルベンゼン(DST)の製造方法に関するものである。
なお、ジイソプロペニルベンゼン(DST)は、耐加水分解性、耐候性及び低毒性に優れたウレタン原料等として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
ジイソプロペニルベンゼン(DST)の製造方法としては、例えば、特許文献1に、酸触媒の存在下、ジ(2−ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン(DCA)のメチルイソブチルケトン(MIBK)溶液で、DCAを脱水反応に供してDSTを製造する方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−314270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のDSTの製造方法は、脱水反応を行う反応溶液に含まれるDCAの濃度が低く、溶媒であるMIBKの量が多い製造方法であるため、容積がより大きい反応器を用いる必要があり、また、DCAの濃度が低いので脱水反応が遅く、脱水反応を早めるために、酸触媒の濃度を高くする必要があり、その場合、MIBKのダイマーが増え、DSTの純度が低下するということがあった。
【0005】
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、DCAを出発原料としてDSTを製造する方法であって、高純度のDSTを、容積効率が高い反応容器を用いて、すなわち、容積がより小さい反応容器を用いて、少ない触媒量で得ることができるという優れた効果を有するDSTの製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、
ジ(2−ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン(DCA)を、下記ア)、イ)およびウ)の条件下で、p−トルエンスルホン酸または硫酸を酸触媒として用いる脱水反応に供して、ジイソプロペニルベンゼン(DST)を製造する方法に係るものである。
ア)DCA濃度が20重量%を超え80重量%未満であるDCAのメチルイソブチルケトン(MIBK)溶液で、DCAを脱水反応に供すること。
イ)脱水反応を行う反応溶液に含まれる酸触媒の濃度が100〜2000重量ppmであること。
ウ)脱水反応は、生成水及びMIBKを留去させながら行うこと。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、DCAを出発原料として、容積効率が高い反応容器を用いて、すなわち、容積がより小さい反応容器を用いて、少ない触媒量で、高純度のDSTを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、符号に対応する化合物名を示す。
DST:ジイソプロペニルベンゼン
DCA:ジ(2−ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン
CHPO:2−ヒドロキシイソプロピル−2−ヒドロペルオキシイソプロピルベンゼン
CAST:イソプロぺピル−2−ヒドロキシイソプロピルベンゼン
MCA:イソプロピル−2−ヒドロキシイソプロピルベンゼン
IPS:イソプロピルイソプロペニルベンゼン
PTS:パラトルエンスルホン酸
MIBK:メチルイソブチルケトン
【0009】
本発明の出発原料はDCAであり、本発明を工業的に実施するにあたっては、CHPOを水素還元して得られたDCAを用いることができる。
また、CHPOはジイソプロピルベンゼンを酸化反応に供して、ジ(2−ヒドロペルオキシイソプロピル)ベンゼン(DHPO)と同時に生成するものであり、CHPOとDHPOの分離溶媒としては、通常、MIBKを用いるため、CHPOがMIBK溶液として得られるので、DCAもMIBK溶液として用いることが好ましい。
【0010】
DCAのMIBK溶液(DCA/MIBK溶液)に含まれるDCAの濃度は、20重量%を超え80重量%未満である(条件ア)。
該濃度が低すぎるとDCAの脱水反応の速度が遅くなり、またDSTとの蒸留による分離が困難な副生物(MIBKダイマー等)が増加するため、高純度のDSTの取得が困難になる場合がある。また、該濃度が高すぎるとDCAの析出が起き、DCAの輸送に支障をきたす場合がある。DCA/MIBK溶液に含まれるDCAの濃度が20重量%以下である場合には、一部のMIBKを留去させる蒸留濃縮操作を実施して20重量%を超えるDCA/MIBK溶液を取得し、これを脱水反応に供することが好ましい。
【0011】
本発明の脱水反応に用いる酸触媒としては、硫酸及び塩酸等の無機酸類、蟻酸、酢酸及びp−トルエンスルホン酸等の有機酸類、またはアルミナ及び強酸性イオン交換樹脂等の固体酸類等があげられる。脱水反応速度や収率を高めるという観点からp−トルエンスルホン酸または硫酸が好ましい。
脱水反応を行う反応溶液に含まれる酸触媒の濃度は、100〜2000重量ppmである(条件イ)。反応溶液に含まれる酸触媒の濃度が低くすぎると、脱水反応の速度が遅くなるため、容積が大きな反応器が必要となり、そして、酸触媒の濃度が高すぎると、上述したMIBKダイマーやDSTダイマー等の副生物が増加し、高純度のDSTの取得が困難になると共にDSTの収率が低下するということがある。
【0012】
脱水反応の反応圧力は通常0.002MPa〜0.1MPa程度であり、反応温度は通常30〜200℃程度である。反応形式としては、回分法でも連続法でもよく、好ましくは連続法である。連続法で行う場合には反応器は1基でも複数基でもよい。
【0013】
また、脱水反応は、十分な反応速度を得るために、反応で生成する水分(生成水)と溶媒MIBKとの全量又は一部を除去しながら行う(条件ウ)、いわゆる反応蒸留方式で行う。
上記の反応蒸留方法の具体的な実施方法としては、簡単な精留塔と、冷却器と、還流および抜出しが可能な蒸留ヘッドとを備えた脱水反応器を用い、主としてMIBKと生成水から成る留出液を冷却器で凝縮させ還流ドラム内で油水分離し、水層と大部分のMIBKを系外に除きMIBK層の一部を反応器にリサイクルする方法が挙げられる。
【0014】
脱水反応後の反応液に含まれる成分は主にDSTであり、通常の後処理や分離操作により高純度のDSTを取得することができる。高純度のDSTを取得する方法の具体例としては、反応液に含まれる酸触媒をアルカリ中和および水洗によって除去した後に、蒸留精製する方法が挙げられる。
【実施例】
【0015】
次に本発明を実施例により説明する。
実施例に使用するDCA含有原料の説明
実施例に使用する原料はm−ジイソプロピルベンゼンを空気酸化し、8%NaOH水溶液及びMIBKにてレゾルシンとなるDHPOを抽出・精製分離したMIBK溶液とCHPOを主とする副生HPO類の抽残物質(以下CHPO/MIBKと称す)のMIBK溶液に分けた。このCHPO/MIBKを水添反応に付した反応液を濃縮したものを使用した。その組成はDCA:52.1%、MCA:8.0%、MIBK:30.0%、水:0.1%、その他:9.8%であった。
【0016】
実施例 1(バッチ式反応)
攪拌機、全還流・全留出可能なコンデンサーを備えた蒸留ヘッド、温度計、PTS水溶液仕込用シリコンゴム栓を備えた1Lの四つ口フラスコに前述原料600grを仕込み、圧力を35kPaにした後、内温を120℃にした。次に30%PTS水溶液:0.7gr(350ppm対原料)を注射器を使用して加えた。内温120℃、圧力を35kPaに保持しつつMIBK−水共沸物を全留出させた。30分経過後内温を120℃に保持したまま、生成水及び残存するMIBKを全留出させながら圧力を30分かけて徐々に5.33kPaとした。この状態を更に30分保持することにより反応を完結させた。
得られた脱水反応液量は357.0grでその組成はDST:69.2%、CAST:1.6%、DSTダイマー:0.7%、IPST:12.1%、MIBK:1.0%、水:0.1%であり、反応成績はDCA転化率:100%、DST選択率:97.0%であった。尚、MCA転化率:100%、IPST選択率:99.0%であった。
又、得られた脱水反応液を1%NaOH水溶液50grで中和・分液し、50grの水で洗浄・分液して得た反応液中のMIBKダイマーは90ppmでDSTに対し130ppmであった。更にこの反応液を理論段30段の精留塔を使用して得られた純度99%以上のDSTに含まれるMIBKダイマーはDSTに対して120重量ppmであった。
【0017】
実施例 2(連続式反応)
攪拌機、理論段約10段の精留塔、自動還流装置付コンデンサー、400ml位にオーバーフロー管を備えた500mlガラス製第一反応槽とオーバーフロー管が230ml位置に付いた第一反応槽と同様の機能を備えた第二反応槽をUシール管を介して直列に接続した。実施例 1と同様の原料163gr/hrと5%PTS水溶液1.14gr/hrを第一反応槽に連続フィードした。第一反応槽条件は圧力17.3kPa、温度120℃、還流比0.5とし、第二反応槽条件は圧力17.3kPa、温度140℃、還流比5とした。滞留時間は第一反応槽約3時間、第二反応槽約2時間とした。
この条件で15時間の連続反応を行なった。平衡状態になった10〜15時間までの5時間につい反応液を分取した結果反応液量は483gr(96.6g/hr)でその組成はDST:68.5%、CAST:1.4%、DSTダイマー:1.5%、IPST:12.1%、MIBK:0.8%、水:0.1%であり、反応成績はDCA転化率:100%、DST選択率:95.7%であった。尚、MCA転化率:100%、IPST選択率:99%であった。
又、実施例 1と同様中和・分液、洗浄・分液後の反応液中のMIBKダイマーは80ppmで、DSTに対し117ppmであった。さらに、理論段30段の精留塔を使用して得られた純度99%以上のDSTに含まれるMIBKダイマーはDSTに対して110ppmであった。
【0018】
比較例 1(バッチ式反応)
PTS水溶液仕込み用シリコンゴム栓を装着しない実施例 1と同様の1L四つ口フラスコに、DCA:6.1%、MCA:0.9%、MIBK:89%、水:2.7%を含む実施例 1に使用した原料の濃縮前の水添反応液600grとPTS・H2O 3.31grを仕込み常圧下、93〜115℃の還流温度で4時間反応させた。この間還流部で分液する水相のみを全量抜出した。
得られた脱水反応液量は583.0grでその組成はDST:4.95%、CAST:0.12%、DSTダイマー:0.05%IPST:0.82%、MCA:0.014%、であり、反応成績はDCA転化率:100%、DST選択率:96.8%、であった。尚、MCA転化率:98.5%、IPST選択率:99.0%であった。
又、得られた脱水反応液を5%NaOH水100grで中和・分液し、100grの水で洗浄・分液して得た反応液中のMIBKダイマーは970ppmでDSTに対し1.96%であった。更に、この反応液10バッチ分を理論段30段の精留塔を使用して純度99%以上のDSTを得ようとしたが沸点の近接したMIBKダイマーが1.5%以下にならず98.0%のDSTしか得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジ(2−ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン(DCA)を、下記ア)、イ)およびウ)の条件下で、酸触媒を用いる脱水反応に供して、ジイソプロペニルベンゼン(DST)を製造する方法。
ア)DCA濃度が20重量%を超え80重量%未満であるDCAのメチルイソブチルケトン(MIBK)溶液で、DCAを脱水反応に供すること。
イ)脱水反応を行う反応溶液に含まれる酸触媒の濃度が100〜2000重量ppmであること。
ウ)脱水反応は、生成水及びMIBKを留去させながら行うこと。

【公開番号】特開2010−143853(P2010−143853A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322039(P2008−322039)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】