説明

ジイモニウム塩化合物、該化合物を含有する近赤外線吸収剤および近赤外線カットフィルター

【課題】 近赤外線カットフィルターに使用される有機溶媒や樹脂に対する溶解性が高く、透明性の高いフィルムを形成できるジイモニウム塩化合物及び該ジイモニウム塩化合物を含有する近赤外線吸収剤および近赤外線カットフィルターを提供する。
【解決手段】 一般式(1)又は(2)で表されるジイモニウム塩化合物及び該ジイモニウム塩化合物を含有する近赤外線吸収剤および近赤外線カットフィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外領域に吸収を有する新規なジイモニウム塩化合物、該化合物を含有する近赤外線吸収剤及び近赤外線カットフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、フラットパネルディスプレイ(FPD)の販売量が急上昇しているが、中でもプラズマディスプレイパネル(PDP)は、画面が明るく、映像の素早い動きにも対応できる特徴を有している。
PDPは希ガスのプラズマ発光を利用しているので、蛍光発光に必要な紫外光だけでなく、不必要な電磁波や近赤外線も発生する。電磁波は人体に対する健康面への影響が懸念され、また、近赤外線は家電製品のリモコン受光部に作用して誤動作を引き起こす問題が指摘されている。そのため、電磁波を金属メッシュでカットしたり、近赤外線を近赤外線カットフィルターによってカットするなどの対応が施されている。
【0003】
近赤外線カットフィルターは、PDP用途以外にも光学レンズ、建築用窓ガラス、自動車用窓ガラス等の用途に用いられ、近赤外領域における強い吸収と共に、可視領域の高い透過率が要求される。
【0004】
これまで近赤外線カットフィルター用途に開示された近赤外吸収色素としては、例えば、特開平10−180922号公報で開示されているN,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムのヘキサフルオロアンチモン酸塩があるが、これはアンチモンの有毒性が問題である。
また、特開平5−247437号公報にジイモニウムのヘキサフルオロリン酸塩が、WO2004/048480に、ジイモニウムのパーフルオロアルキルスルホンイミド酸塩が開示されている。しかしながらこれらの化合物はいずれも有機溶媒や樹脂に対する溶解性が低く、均一な樹脂液を作製することが困難で、従って透明性の高いフィルター作製が困難であるという問題がある。
【特許文献1】特開平10−180922号
【特許文献2】特開平5−247437号
【特許文献3】WO2004/048480
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記従来技術に鑑み、近赤外線カットフィルター等に使用される有機
溶媒や樹脂に対する溶解性が高く、可視光に対する吸収が小さく透明性の高いフィルムを形成できる新規なジイモニウム塩化合物及びこれを含有する近赤外線吸収剤、近赤外線カットフィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アニオン部に特定の化合物を有するジイモニウム塩化合物により、目的を達しうることを見い出し本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、第一に、一般式(1)又は(2)で表されるジイモニウム塩化合物である。
【化1】

[式(1)、(2)中、R、Rはそれぞれ独立にアルキル基を示し、X、Y、Zはそれぞれ独立に、パーフルオロアルキル基、アリール基、又は一般式(A):
【化2】

(式(A)において、環Aは、それが結合している窒素原子及びカルボニル基と共に形成される複素環を表す)
で表される環構造の置換基を示す。但し、X、Yが同時にパーフルオロアルキル基となることはない。]
また、本願の第2の発明は上記ジイモニウム塩化合物を含有する近赤外線吸収剤である。更に、本願の第3の発明は上記ジイモニウム塩化合物を含有する近赤外線カットフィルターである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のジイモニウム塩化合物は、900〜1200nmに強い吸収を示し、可視部に殆ど吸収を示さない優れた特性を有する上に、近赤外線吸収剤、近赤外線カットフィルターに使用される樹脂に対する相溶性も極めて高いので、ヘイズ(くもり)の問題がなく、透明性の高い近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【発明の詳細な記述】
【0008】
まず、本発明のジイモニウム塩化合物について以下に説明する。
本発明のジイモニウム塩化合物は、下記一般式(1)又は(2)で表される。
【0009】
【化3】

[式(1)、(2)中、R、Rはそれぞれ独立にアルキル基を示し、X、Y、Zはそれぞれ独立に、パーフルオロアルキル基、アリール基、又は一般式(A):
【化4】

(式(A)において、環Aは、それが結合している窒素原子及びカルボニル基と共に形成される複素環を表す)
で表される環構造の置換基を示す。但し、X、Yが同時にパーフルオロアルキル基となることはない。]
【0010】
、Rとしては、それぞれ独立してアルキル基であるが、中でもメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基等の、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。とりわけ、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基が特に好ましい。
【0011】
X、Y、Zがパーフルオロアルキル基であるものとしては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基等の炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基が好ましい。X、Yが同時にパーフルオロアルキル基となることはない。
【0012】
X、Y、Zがアリール基であるものとしては、置換基として、炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を有していてもよいフェニル基が好ましい。例としては、フェニル基、4−メチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、4−クロロフェニル基、4−ブロモフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−ニトロフェニル基、3−ニトロフェニル基、2,4−ジニトロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、2−ニトロ−4−トリフルオロメチルフェニル基等が挙げられる。中でも、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−ニトロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基が特に好ましい。
【0013】
X、Y、Zが一般式(A):
【化5】

で表される環構造の置換基であるものとしては、式(A)中の窒素原子及びカルボニル基と共に、環構成成分として更に窒素原子、カルボニル基、酸素原子又は炭素数1〜4のアルキレン基を有する、4〜6員環の複素環であるのが好ましい。
これらの例としては、
【化6】

が挙げられる。とりわけ、
【化7】

が特に好適に用いられる。
【0014】
一般式(1)又は(2)のジイモニウム塩化合物の対アニオン部の代表例を次の表1に示す。
【表1−1】

【表1−2】

【0015】
本発明の一般式(1)または(2)のジイモニウム塩化合物の好ましい具体例としては、以下の化合物を例示することができる。
【化8】

【化9】

【化10】

【0016】
次に、本発明のジイモニウム塩化合物の製造方法について説明する。
[スルホンイミド酸の合成]
一般式:XSONHSO
(X、Yは、一般式(1)におけるものと同じものを示す)
で表されるスルホンイミド酸を合成する。当該化合物は、次の方法で合成できる。スルホンアミド誘導体XSONHとスルホン酸クロライド誘導体YSOClとを、溶媒中ほぼ等モルで、0〜60℃、好ましくは20〜40℃で、10〜48時間、好ましくは5〜24時間反応させる。ついで、水に排出し、不純物を水層に移行させ目的のXSONHSOYを得る。溶媒としてはハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)等を用いることができ、ハロゲン化炭化水素溶媒の場合には溶液として、またDMF、DMAC、DMI等の溶媒を用いる場合には、沈殿物として目的物が得られる。
一般式:XSONHCOZ
(X、Zは、一般式(2)におけるものと同じものを示す)
で表されるスルホンイミド酸は、次の方法で合成できる。スルホンアミド誘導体XSONHとカルボン酸クロライド誘導体ZCOClとを、DMF、DMAC、DMIのような極性溶媒中、0〜100℃、好ましくは20〜50℃で、1〜24時間、好ましくは1〜4時間反応させる。反応混合物を水に排出し、目的物を油状物あるいは沈殿物として得ることができる。
【0017】
[スルホンイミド酸銀塩の合成]
つぎに前記スルホンイミド酸の銀塩を製造する。前記スルホンイミド酸をその5〜100倍重量の水に溶かし、20〜100℃、好ましくは50〜70℃で、1〜10時間、好ましくは2〜4時間反応させる。室温まで冷却し、不溶物を濾過により除去し、濾液から水分を蒸発させることで、下記一般式(3)又は(5)のスルホンイミド酸銀塩を得ることができる。
【化11】

【0018】
[ジイモニウム塩化合物の合成]
前記一般式(3)又は(5)で表されるスルホンイミド酸銀塩と、下記の一般式(4)で表されるN,N,N’,N’−テトラキス(ジアルキルアミノフェニル)フェニレンジアミンとを、DMF、DMAC、DMI等の極性溶媒中、20〜120℃、好ましくは70〜100℃で1〜20時間、好ましくは1〜4時間反応させる。ついで、析出した銀を濾別後、水を加え、生じた沈殿を濾過、乾燥することにより、一般式(1)又は(2)で表されるジイモニウム塩化合物を得ることができる。
【0019】
【化12】

[式(3)、(4)、(5)中、X、Y、Z、R、Rは、式(1)、(2)におけるX、Y、Z、R、Rと同じ意味を表す。]
尚、一般式(4)のN,N,N’,N’−テトラキス(ジアルキルアミノフェニル)フェニレンジアミンは、公知の化合物である。
【0020】
[近赤外線吸収剤]
本発明の近赤外線吸収剤は、前記本発明のジイモニウム塩化合物自体であってもよく、また該化合物にバインダー樹脂などを加えた組成物であってもよい。
バインダー樹脂としては、特に制限はないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のアクリル酸系モノマーの単独重合体又は共重合体、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロースアセテートのようなセルロース系ポリマー、ポリスチレン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコールのようなビニル系ポリマー及びビニル化合物の共重合体、ポリエステル、ポリアミドのような縮合系ポリマー、ブタジエン−スチレン共重合体のようなゴム系熱可塑性ポリマー、エポキシ化合物等の光重合成化合物を重合・架橋させたポリマー等を挙げることができる。
【0021】
(近赤外線カットフィルターの製造)
本発明のジイモニウム塩化合物を用いて、近赤外線カットフィルターを作製する方法としては、キャスト法や溶融押し出し方がある。
【0022】
A.キャスト法
有機溶剤に樹脂または樹脂モノマーと、本発明のジイモニウム塩化合物とを溶解させ、透明フィルム、パネルまたはガラス基板上に塗布、乾燥することにより得られる。
有機溶剤としては、ハロゲン系、アルコール系、ケトン系、エステル系、脂肪族炭化水素系、エーテ系溶媒あるいはそれらの混合物が用いられる。
使用する樹脂又は樹脂モノマーとしては、脂肪酸エステル樹脂、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン樹脂、芳香族エステル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、脂肪族ポリオレフィン樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニル系変性樹脂等の樹脂あるいはそれらのモノマーかもしくはその共重合樹脂が用いられる。
ジイモニウム塩化合物の使用量は、その吸光係数、作製するフィルターの基板またはフィルムの厚み、目的の吸収強度、目的の透過特性、透過率等によって異なるが、樹脂又は樹脂モノマーの重量に対して、通常、1ppm〜20重量%である。
【0023】
B.溶融押し出し法
本発明のジイモニウム塩化合物をベース樹脂の粉体あるいはペレットに添加し、150〜350℃で加熱、溶融させた後、成型して板を作製、あるいは押し出し機でフィルム化する。
溶融押し出し法で使用される樹脂は、板またはフィルム作製した際に、できるだけ透明性の高いものが好ましく、具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリカーボネイト、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6等のポリアミド、ポリイミド、トリアセチルセルロース等のセルロース樹脂、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリ塩化ビニル等のビニル化合物、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリロニトリル、ビニル化合物の付加重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン等のビニリデン化合物、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体等のビニル化合物又はフッ素化合物の共重合体、ポリエチレンオキシド等のポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等を挙げることができる。
【0024】
加工方法は、用いるジイモニウム塩化合物、ベース樹脂によって、加工温度、フィルム化条件等が多少異なるが、ジイモニウム塩化合物をベース樹脂の粉体あるいはペレットに添加し、150〜350℃で加熱、溶解、混練した後、成型して板を作製する方法、押し出し機でフィルム化をする方法、押し出し機で原版を作製し、30〜120℃で2〜5倍に1軸ないし2軸に延伸して、10〜200μm厚のフィルムにする方法、等が挙げられる。
尚、混練する際に可塑剤等の通常の樹脂成型に用いる添加剤を加えてもよい。ジイモニウム塩化合物の添加量は、吸収係数、作製する樹脂成型体の厚み、目的の吸収強度、目的の透過特性・透過率等によって異なるが、通常、ベース樹脂成型体の重量に対して1ppm〜20重量%であり、1ppm〜10重量%が好ましく、1ppm〜5重量%が特に好ましい。
【0025】
本発明の近赤外線カットフィルターをPDP用フィルターとして用いる場合には、電磁波シールド機能を付与することが好ましい。電磁波シールドには、銀薄膜を用いた積層体や銅を主として用いる金属メッシュを用いることができる。銀薄膜を用いた積層体としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化チタン等の誘電体と銀を交互に5層になるように作製したものが好ましい。積層数は5層から9層が好ましいが、この総数に限定されるものではなく、密着性や耐久性を上げるために、誘電体と銀との間に光学特性を妨げない程度の超薄膜を挿入してもよい。金属のメッシュとしては、繊維に金属を蒸着した繊維メッシュ、フォトリソグラフィーの技術を用い、パターンを形成してエッチングによりメッシュを得るエッチングメッシュ等を使用することができる。
【実施例】
【0026】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0027】
[製造例1] N−トリフルオロメチルスルホニル−N−(2−オキサゾリドン)スルホニルイミン酸銀塩の合成
クロロスルホニルイソシアネート19.81gを塩化メチレン50mlに溶解し、5℃以下に冷却した。これに、塩化メチレン50mlに溶解させた2−ブロモエタノール19.24gを40分間要して滴下した。滴下後、10℃以下で60分間反応させた。この反応混合物を、トリフルオロメタンスルホンアミド20.87g、トリエチルアミン29.74gおよび塩化メチレン50mlの混合物中に、0℃以下で65分間要して滴下した。冷却浴をはずし、室温(28℃)下で25時間反応させた。内容物を水200ml中に排出し、分液により塩化メチレン層を分取、水洗後、濃縮し、橙色オイル27.47gを得た。質量分析(M/e=298)により、N−トリフルオロメチルスルホニル−N−(2−オキサゾリドン)スルホニルイミン酸であることを確認した。
得られた橙色オイル7.1gを水60mlに溶解させ、これに酸化銀4.5gを添加、60℃で4時間反応させた。室温まで冷却し、不溶物を濾過により除去し、濾液をエバポレーターで水分除去することにより、白色粉末9.35gを得た。赤外吸収スペクトル、蛍光X線分析により目的物のN−トリフルオロメチルスルホニル−N−(2−オキサゾリドン)スルホニルイミン酸銀塩であることを確認した。
【0028】
[製造例2] ビス(p−トルエンスルホニル)イミン酸銀塩の合成
ジメチルホルムアミド150ml中に、パラトルエンスルホンアミドのナトリウム塩11.6gを溶解し、これにパラトルエンスルホニルクロライド11.4gをジメチルホルムアミド30mlに溶かした溶液を室温で滴下した。100℃で3時間反応させ、室温まで放冷した。この反応混合物を3.5%塩酸600ml中に排出した。生じた白色沈殿を濾取、乾燥し、白色粉末10.8gを得た。融点は133〜135℃であった。質量分析(M/e=226)および赤外吸収スペクトルより、このものはビス(p−トルエンスルホニル)イミン酸と同定した。
このものの銀塩を製造例1と同様の方法を用いて得た。
【0029】
[製造例3] N−トリフルオロメチルカルボニル−N−(p−トルエンスルホニル)イミン酸銀塩の合成
パラトルエンスルホンアミド5.00gをジメチルイミダゾリジノン25mlに溶解し、これにトリフルオロ酢酸無水物9.20gを室温で、30分間要して滴下した。室温で1時間反応後、n−ヘプタン25ml中に排出した。生じた白色沈殿を濾取、n−ヘプタン25mlで洗浄後、乾燥し、白色粉末6.97gを得た。赤外吸収スペクトル、質量分析(M/e=267)によりN−トリフルオロメチルカルボニル−N−(p−トルエンスルホニル)イミン酸であることを確認した。
このものの銀塩を製造例1と同様の方法を用いて得た。
【0030】
[実施例1] 前記具体例化合物1の合成
DMF10mlに、N−トリフルオロメチルスルホニル−N−(2−オキサゾリドン)スルホニルイミン酸銀塩(製造例1)2.10gとN,N,N’,N’−テトラキス{4−ジ(n−ブチルアミノフェニル)}−p−フェニレンジアミン0.40gとを加え、60℃で3時間反応させた後、生成した銀を濾別した。濾液を水20ml中に排出し、デカンテーションにより水層を除去した。残った粘稠物にヘプタンを加え結晶化させることにより、暗褐色粉末0.51gを得た。融点は、118〜122℃であった。
元素分析値、IRスペクトル等より、目的化合物であることを確認した。
元素分析値(C701001012として)
C(%) H(%) N(%)
理論値 55.47 6.65 9.24
実測値 55.52 6.63 9.19
得られた化合物のメタノール溶液中における吸収極大波長は、1065nm、グラム吸光係数は55300ml/g・cmであった。この化合物のメタノール溶液中の吸収スペクトルチャートを図1に、赤外吸収スペクトル図を図7に示す。
【0031】
[実施例2] 前記具体例化合物2の合成
DMF50mlに、ビス(p−トルエンスルホニル)イミン酸銀塩(製造例2)588mgとN,N,N’,N’−テトラキス{4−ジ(n−ブチルアミノフェニル)}−p−フェニレンジアミン317mgとを加え、室温で35分間反応させた後、生成した銀を濾別した。濾液を水100ml中に排出し、デカンテーションにより水層を除去した。残渣にメタノール10mlを加え、攪拌すると析出物が生じた。この析出物を濾過、乾燥し、緑色粉末64mgを得た。融点は、160〜170℃(分解を伴う)であった。
元素分析値、IRスペクトル等より、目的化合物であることを確認した。
元素分析値(C90120として)
C(%) H(%) N(%)
理論値 57.89 6.48 6.00
実測値 57・95 6.43 5.92
得られた化合物のメタノール溶液中における吸収極大波長は、1065nm、グラム吸光係数は54900ml/g・cmであった。この化合物のメタノール溶液中における吸収スペクトルチャートを図2に、赤外吸収スペクトル図を図8に示す。
【0032】
[実施例3] 前記具体例化合物3の合成
DMF50mlに、N−トリフルオロメチルカルボニル−N−(p−トルエンスルホニル)イミン酸銀塩(製造例3)334mgとN,N,N’,N’−テトラキス{4−ジ(n−ブチルアミノフェニル)}−p−フェニレンジアミン230mgとを加え、室温で4時間反応させた後、生成した銀を濾別した。濾液を水100ml中に排出した。析出物を濾取、乾燥し、灰色粉末59mgを得た。融点は、61〜84℃(分解を伴う)であった。
元素分析値、IRスペクトル等より、目的化合物であることを確認した。
元素分析値(C80106として)
C(%) H(%) N(%)
理論値 66.09 7.35 7.71
実測値 66.23 7.39 7.58
得られた化合物のメタノール溶液中における吸収極大波長は、1065nm、グラム吸光係数は70500ml/g・cmであった。この化合物のメタノール溶液中における吸収スペクトルチャートを図3に示す。
【0033】
[実施例4] 近赤外線吸収剤の製造
バインダーとしてデルペット80N(旭化成工業(株)製:アクリル系樹脂)10gと、本発明の、実施例1で得た(具体例化合物1)0.2gとをトルエン/メチルエチルケトン/メタノール(1/1/0.1)混合溶媒90gに溶解し、この溶液をワイヤーバーにて乾燥後の膜厚が約5μmとなるように、厚さ5μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに塗布して、近赤外線吸収剤の試料を得た。
この試料表面に、単一モード半導体レーザー(波長:830nm)のレーザー光をレンズで集光し、上記試料の表面でビーム径10μmとなるように配置した。表面に到達するレーザーのパワーを50〜200mWの範囲で変化させることができるように半導体レーザーを調整し、20μsのパルス幅で、単一のパルスを試料に照射した。照射後、試料を光学顕微鏡で観察したところ、表面に到達するレーザーパワーが50mW時に、直径約10μmの貫通した孔の形成が認められ、この試料が近赤外線吸収能を有することを確認した。
【0034】
[実施例5] 近赤外線カットフィルターの作製
実施例1で得た化合物(具体例化合物1)をトルエンに濃度が1000ppmになるように、溶解させた。この溶液とアクリル系粘着剤とを20:80重量%の割合で混合し、バッチ式ダイコーターでポリエチレンテレフタレートフィルム〔帝人社製、厚さ75μm〕上に塗工し、乾燥させて、近赤外線カットフィルターを作製した。塗工層の乾燥膜厚は、25μmであった。
該フィルターについて、日立製自記分光光度計U−3500にて透過率を測定した。このフィルターの透過スペクトルを図4に示す。
【0035】
[実施例6]
実施例5において、具体例化合物1の代わりに具体例化合物2を用いた以外は、実施例5と同様の操作を行ない、近赤外線カットフィルターを作製した。
該フィルターについて、日立製自記分光光度計U−3500にて透過率を測定した。このフィルターの透過スペクトルを図5に示す。
【0036】
[実施例7]
実施例5において、具体例化合物1の代わりに具体例化合物3を用いた以外は、実施例5と同様の操作を行ない、近赤外線カットフィルターを作製した。
該フィルターについて、日立製自記分光光度計U−3500にて透過率を測定した。このフィルターの透過スペクトルを図6に示す。
【0037】
[比較例1]
実施例1で得た具体例化合物1の代わりにビス{ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド酸}−N,N,N’,N’−テトラキス{4−ジ(n−ブチルアミノフェニル)}−p−フェニレンジイモニウム(WO2004/048480の実施例1と同様の操作法により合成)をトルエン中に濃度が1000ppmになるように、分散・溶解させようとしたが、完溶しなかった。また、このトルエン懸濁液にアクリル系粘着剤を加えたが、やはりこのイモニウム塩化合物は完溶せず、透明な近赤外線カットフィルターを作製できなかったため、操作を中止した。
【0038】
[比較例2]
実施例1で得た具体例化合物1の代わりにヘキサフルオロアンチモン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{4−ジ(n−ブチルアミノフェニル)}−p−フェニレンジイモニウムをトルエン中に濃度が1000ppmになるように、分散・溶解させようとしたが、完溶しなかった。また、このトルエン懸濁液にアクリル系粘着剤を加えたが、やはりこのイモニウム塩化合物は完溶せず、透明な近赤外線カットフィルターを作製できなかったため、操作を中止した。
【0039】
[産業上の利用可能性]
本発明のジイモニウム塩化合物は、可視部の吸収が少なく、有機溶剤および樹脂への溶解性が高い。また、重金属を含有しないので、環境に対する問題がない。
本発明のジイモニウム塩化合物を含有する本発明の近赤外線カットフィルターは、種々の用途に用いることができる。例えば、PDP用近赤外線カットフィルター、建材ガラス、自動車窓ガラス用近赤外線カットフィルターとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】:実施例1で合成した化合物1の吸収スペクトル図である。
【図2】:実施例2で合成した化合物2の吸収スペクトル図である。
【図3】:実施例3で合成した化合物3の吸収スペクトル図である。
【図4】:実施例5で作製したフィルターの透過スペクトル図である。
【図5】:実施例6で作製したフィルターの透過スペクトル図である。
【図6】:実施例7で作製したフィルターの透過スペクトル図である。
【図7】:実施例1で合成した化合物1の赤外吸収スペクトル図である。
【図8】:実施例2で合成した化合物2の赤外吸収スペクトル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)または(2)で表されるジイモニウム塩化合物。
【化1】

[式(1)、(2)中、R、Rはそれぞれ独立にアルキル基を示し、X、Y、Zはそれぞれ独立に、パーフルオロアルキル基、アリール基、又は一般式(A):
【化2】

(式(A)において、環Aは、それが結合している窒素原子及びカルボニル基と共に形成される複素環を表す)
で表される環構造の置換基を示す。但し、X、Yが同時にパーフルオロアルキル基となることはない。]
【請求項2】
、Rがそれぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基である請求項1のジイモニウム塩化合物。
【請求項3】
X、Y、Zがそれぞれ独立に、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基;置換基として炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を有していてもよいフェニル基;又は一般式(A):
【化3】

[式(A)中、窒素原子及びカルボニル基と共に、環構成成分として更に窒素原子、カルボニル基、酸素原子又は炭素数1〜4のアルキレン基を有する、4〜6員環の複素環を表す]
で示される環構造の置換基である請求項1又は2のジイモニウム塩化合物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかのジイモニウム塩化合物を含有する近赤外線吸収剤。
【請求項5】
請求項1〜3いずれかのジイモニウム塩化合物を含有する近赤外線カットフィルター。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−143674(P2006−143674A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337712(P2004−337712)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000179904)山本化成株式会社 (70)
【Fターム(参考)】