説明

ジイモニウム色素含有組成物の保存方法又は移送方法

【課題】近赤外線吸収能の低下を抑制しうる移送方法及び保存方法の提供。
【解決手段】本発明は、ジイモニウム色素含有組成物を保存用中空体又は移送用中空体に入れて保存又は移送をする方法である。この方法は、上記保存用中空体2又は上記移送用中空体2を用意する工程と、上記保存用中空体2又は上記移送用中空体2に上記ジイモニウム色素含有組成物を入れる工程とを含む。好ましくは、保存又は移送における温度は、20℃以下とされる。上記ジイモニウム色素含有組成物は、ジイモニウム色素を溶剤(D)に分散させた分散体(A)を含む。好ましくは、上記溶剤(D)に対する上記ジイモニウム色素の溶解度(Y)が5質量%未満である。好ましくは、上記ジイモニウム色素を上記溶剤(D)に対して0.01質量%の割合で混合した混合液に関し、所定の方法で測定された上澄み液の吸光度(X)が0.5以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジイモニウム色素含有組成物の保存方法又は移送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジイモニウム色素は、様々な用途で用いられている。例えば、ジイモニウム色素は、近赤外線を吸収する色素として用いられている。このジイモニウム色素を用いて、近赤外線吸収材料が製造される。近赤外線の吸収能が高く、可視領域の透明性が高い近赤外線吸収材料は、多くの用途に用いられる。例えば、この近赤外線吸収材料は、薄型ディスプレーやCCDカメラ等に用いられる。
【0003】
液晶ディスプレーやPDP(Plasma Display Panel)等の薄型ディスプレーは、波長が800nm〜1100nmの近赤外線を発生させる。この近赤外線は、家電用リモコンの誤作動を誘発しうる。また、CCDカメラ等に使用される光半導体素子も近赤外線領域の感度が高いため、近赤外線の除去が必要である。
【0004】
近赤外線を吸収する近赤外線吸収色素としては、従来、シアニン系色素、ポリメチン系色素、スクアリリウム系色素、ポルフィリン系色素、金属ジチオール錯体系色素、フタロシアニン系色素、ジイモニウム系色素または無機酸化物粒子が使用されている。中でもジイモニウム系色素は近赤外線の吸収能が高く、可視光領域での透明性が高いことから多用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
また、PDPは、パネル内部に封入された希ガス、特にネオンを主体としたガス中で放電を発生させ、その際に発生する真空紫外線により、パネル内部のセルに設けられたR、G、Bの蛍光体を発光させる。よって、この発光過程でPDPの作動に不必要な電磁波も同時に放出される。この電磁波も遮蔽されることが必要である。また、反射光を抑えるために反射防止フィルム、ぎらつき防止フィルム(アンチグレアフィルム)も必要である。このため、プラズマディスプレー用光学フィルターは、近赤外線吸収フィルム、電磁波遮蔽フィルム及び反射防止フィルムを、支持体であるガラスや衝撃吸収材の上に積層して作製されることが一般的である。このようなプラズマディスプレー用光学フィルターは、PDPの前面側に載置される。このようなプラズマディスプレー用光学フィルターは、接着剤や粘着剤を用いて、支持体であるガラスや衝撃吸収材の上に直接貼合わされて使用される場合もある。
【0006】
近年、光学フィルターの薄層化や、光学フィルターの製造工程の簡略化を目的として、粘着剤に近赤外線吸収色素を含有させて近赤外線吸収フィルムと粘着剤層とを一体化させる試みがなされている(特許文献3及び特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−96040号公報
【特許文献2】特開2000−80071号公報
【特許文献3】特許第3621322号
【特許文献4】国際公開WO2008/026786公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ジイモニウム色素含有組成物に含まれるジイモニウム色素は、保存中又は輸送中に、変質しうる。ジイモニウム色素の状態は、保存中又は輸送中に変質しうる。この変質の典型例は、析出である。ジイモニウム色素が析出した場合、当然、近赤外線吸収能は低下する。本発明者が検討した結果、ジイモニウム色素の状態(分散状態等)によって、ジイモニウム色素の変質(析出等)が特に起こりやすい場合があることが判明した。更に本発明者は、これらの変質等が、特定の移送方法又は保存方法によって抑制されうることを見いだした。
【0009】
本発明の目的は、近赤外線吸収能の低下を抑制しうる移送方法及び保存方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の観点は、ジイモニウム色素含有組成物を保存用中空体又は移送用中空体に入れて保存又は移送をする方法であって、上記保存用中空体又は上記移送用中空体を用意する工程と、上記保存用中空体又は上記移送用中空体に上記ジイモニウム色素含有組成物を入れる工程と、20℃以下の温度で、上記ジイモニウム色素含有組成物を保存又は移送する工程とを含む。上記ジイモニウム色素含有組成物は、ジイモニウム色素を溶剤(D)に分散させた分散体(A)を含む。
【0011】
好ましくは、上記保存用中空体又は上記移送用中空体の内面の材質が、非金属又はステンレス鋼である。
【0012】
好ましくは、上記非金属が、樹脂又はガラスである。
【0013】
好ましくは、上記溶剤(D)に対する上記ジイモニウム色素の溶解度(Y)が5質量%未満である。
【0014】
好ましくは、上記ジイモニウム色素を上記溶剤(D)に対して0.01質量%の割合で混合した混合液を調整し、この混合液を30分間超音波にかけた後、1時間以上静置して測定されたこの上澄み液の吸光度(X)が0.5以下である。
【0015】
好ましくは、上記ジイモニウム色素含有組成物が、樹脂(B)を更に含む。
【0016】
好ましくは、上記樹脂(B)のガラス転移温度が0℃以下である。
【0017】
好ましくは、上記ジイモニウム色素が、後述の式(1)で示されるジイモニウムカチオンを有する。ただし、式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上10以下のアルキル基または置換基を有する炭素数1以上10以下のアルキル基を表わす。
【0018】
本発明の第二の観点は、ジイモニウム色素含有組成物を保存用中空体又は移送用中空体に入れて保存又は移送をする方法であって、上記保存用中空体又は上記移送用中空体を用意する工程と、上記保存用中空体又は上記移送用中空体に上記ジイモニウム色素含有組成物を入れる工程と、20℃以下の温度で、上記ジイモニウム色素含有組成物を保存又は移送する工程とを含む。上記ジイモニウム色素含有組成物は、ジイモニウム色素と、そのジイモニウム色素に対する溶解度(Y)が5質量%未満である溶剤(D)とが混合された液体(C)を含む。
【0019】
上記保存用中空体又は上記移送用中空体の内面の材質が、非金属又はステンレス鋼である。
【0020】
本発明の第三の観点は、ジイモニウム色素含有組成物を保存用中空体又は移送用中空体に入れて保存又は移送をする方法であって、上記保存用中空体又は上記移送用中空体を用意する工程と、上記保存用中空体又は上記移送用中空体に上記ジイモニウム色素含有組成物を入れる工程と、20℃以下の温度で、上記ジイモニウム色素含有組成物を保存又は移送する工程とを含む。上記ジイモニウム色素を上記溶剤(D)に対して0.01質量%の割合で混合した混合液を調整し、この混合液を30分間超音波にかけた後、1時間以上静置して測定されたこの上澄み液の吸光度(X)は、0.5以下である
【0021】
好ましくは、上記保存用中空体又は上記移送用中空体の内面の材質が、非金属又はステンレス鋼である。
【0022】
本発明の第四の観点は、ジイモニウム色素含有組成物を保存用中空体又は移送用中空体に入れて保存又は移送をする方法であって、上記保存用中空体又は上記移送用中空体を用意する工程と、上記保存用中空体又は上記移送用中空体に上記ジイモニウム色素含有組成物を入れる工程と、20℃以下の温度で、上記ジイモニウム色素含有組成物を保存又は移送する工程とを含む。上記ジイモニウム色素含有組成物において、ジイモニウム色素が分散している。
【0023】
好ましくは、上記保存用中空体又は上記移送用中空体の内面の材質が、非金属又はステンレス鋼である。
【0024】
本発明の第五の観点は、ジイモニウム色素含有組成物を保存用中空体又は移送用中空体に入れて保存又は移送をする方法であって、上記保存用中空体又は上記移送用中空体を用意する工程と、上記保存用中空体又は上記移送用中空体に上記ジイモニウム色素含有組成物を入れる工程と、20℃以下の温度で、上記ジイモニウム色素含有組成物を保存又は移送する工程とを含む。上記ジイモニウム色素含有組成物には、上記ジイモニウム色素を溶剤(D)に分散させた分散体(A)が混合されている。
【0025】
好ましくは、上記保存用中空体又は上記移送用中空体の内面の材質が、非金属又はステンレス鋼である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、移送中又は保存中におけるジイモニウム色素の性能劣化が抑制されうる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る移送用中空体を示す斜視図である。図1は、本発明の一実施形態に係る輸送用中空体をも示す。図1は、輸送用梱包体をも示す。
【図2】図2は、本発明の他の実施形態に係る移送用中空体を示す斜視図である。図2は、本発明の他の実施形態に係る輸送用中空体をも示す。図2は、輸送用梱包体をも示す。
【図3】図3は、図2の一部拡大断面図である。
【図4】図4は、本発明の他の実施形態に係る移送用中空体を示す斜視図である。図4は、本発明の他の実施形態に係る輸送用中空体をも示す。図4は、輸送用梱包体をも示す。
【図5】図5は、図4の一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0029】
1.ジイモニウム色素
本発明では、ジイモニウム色素含有組成物に含まれるジイモニウム色素の変質(析出等)が抑制される。本発明により、ジイモニウム色素の近赤外線吸収能の劣化が抑制される。
【0030】
本発明に用いられるジイモニウム色素は、例えば、溶剤(D)を含む液体中に分散させた分散体(A)とされて用いられる。この分散体(A)は、ジイモニウム色素含有組成物の一例である。例えば、分散体(A)は、ジイモニウム色素を溶媒(D)中に分散させた分散液である。分散体(A)は、溶媒(D)の他に、樹脂や分散剤等の他成分を含んでいてもよい。分散体(A)において、ジイモニウム色素は、溶媒(D)中に分散していてもよいし、樹脂等の溶媒(D)以外の成分中に分散していてもよい。分散安定性の観点から、分散体(A)において、ジイモニウム色素は、溶剤(D)中に分散しているのが好ましい。分散体(A)において、ジイモニウム色素は、溶剤(D)を含む組成物に溶解することなく、分散している。即ち、分散体(A)は、ジイモニウム色素を分散させた分散体である。分散が可能となるように、ジイモニウム色素及び溶剤(D)が選択されるのが好ましい。好ましくは、このジイモニウム色素は、ジイモニウム色素含有組成物中において分散している。ジイモニウム色素の具体的な構造としては、下記式(1)で示されるジイモニウムカチオンを有するジイモニウム色素が例示される。
【0031】
【化1】

【0032】
ただし、式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基または置換基を有するアルキル基を表わす。
【0033】
上記ジイモニウム色素は、ジイモニウムカチオン1個に対して、2個のアニオンが結合する形態である。ジイモニウムカチオンと、上記好ましいジイモニウムアニオンとの塩が、ジイモニウム色素として好ましく用いられる。
【0034】
好ましいジイモニウム色素は、後述される方法で測定される上澄み液のλmaxでの吸光度(X)が0.5以下である。この吸光度(X)の測定方法は、後述される。このようなジイモニウム色素は、溶剤(D)中において分散しやすい。この分散により、ジイモニウム色素の耐久性が向上しうる。ジイモニウム塩の耐久性の観点から、吸光度(X)は、0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましく、0.25以下がより好ましい。ジイモニウム塩の耐久性の観点から、より好ましくは、溶剤(D)がトルエン又は酢酸エチルのいずれかにおいて、吸光度(X)が0.5以下となるのが好ましく、0.3以下がより好ましく、0.25以下がより好ましく、0.15以下が更に好ましい。ジイモニウム塩の耐久性の観点から、更に好ましくは、溶剤(D)がトルエン及び酢酸エチルのいずれであっても、吸光度(X)が0.5以下となるのが好ましく、0.3以下がより好ましく、0.25以下がより好ましい。
【0035】
吸光度(X)が0.5以下である場合、ジイモニウム色素の耐久性が向上しやすい反面、ジイモニウム色素の析出が起こりやすい。吸光度(X)が0.5以下である場合、ジイモニウム色素の析出が起こりやすい傾向がある。この析出により、ジイモニウム色素含有組成物の近赤外線吸収能は低下する。本発明の保存方法又は移送方法では、保存中又は移送中におけるジイモニウム色素の析出が抑制されうる。
【0036】
好ましいジイモニウム色素は、下記式(1S)で表されるように、上記式(1)で示されるジイモニウムカチオンと、ジイモニウムアニオンZとからなる。
【0037】
【化2】

【0038】
ただし、式(1S)中において、RからRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基または置換基を有するアルキル基を示す。式(1S)中において、Zはジイモニウムアニオンを示す。
【0039】
からRがアルキル基又は置換基を有するアルキル基である場合、そのアルキル基の炭素数は、RからRのそれぞれについて、1以上22以下が好ましく、2以上12以下がより好ましい。
【0040】
〜Rを構成するハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0041】
より好ましいR〜Rは、炭素数が3から5の直鎖又は分岐状のアルキル基である。更に好ましくは、R〜Rは、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−アミル基又はイソアミル基であり、n−ブチル基、イソブチル基又はイソアミル基が更に好ましく、イソブチル基が特に好ましい。
【0042】
また、R〜Rのアルキル基に結合しうる置換基としては、シアノ基;ヒドロキシル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、メトキシプロポキシ基、メトキシブトキシ基、エトキシブトキシ基等の炭素数2〜8のアルコキシアルコキシ基;メトキシメトキシメトキシ基、メトキシメトキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基、エトキシエトキシエトキシ基等の炭素数3〜15のアルコキシアルコキシアルコキシ基;アリルオキシ基;フェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、ナフチルオキシ基等の炭素数6〜12のアリールオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基;メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基等の炭素数2〜7のアルキルカルボニルオキシ基;メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロポキシカルボニルオキシ基、n−ブトキシカルボニルオキシ基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニルオキシ基等がある。
【0043】
ジイモニウムアニオンは特に限定されない。好ましいジイモニウムアニオンは、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミドイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン、トリス(トリフルオロメタンスルホン酸)メチドイオンなどである。より好ましいジイモニウムアニオンとして、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン[SbF]及びトリス(トリフルオロメタンスルホン酸)メチドイオン[(CFSO]が挙げられる。
【0044】
ジイモニウム色素の具体的な製品として、日本カーリット社製の商品名「CIR−1085」、日本カーリット社製の商品名「CIR−1085F」、日本化薬社製の商品名「KAYASORB IRG−022」、日本化薬社製の商品名「KAYASORB IRG−023」等が挙げられる。以下、「KAYASORB IRG−022」及び「KAYASORB IRG−023」は、それぞれ単に、「IRG−022」及び「IRG−023」とも称される。
【0045】
ジイモニウム色素は、溶剤(D)中に分散しやすい形態とされるのが好ましい。好ましくは、ジイモニウム色素は、粉砕等により微細化されているのが好ましい。この微細化の方式としては、湿式及び乾式のいずれもが採用されうる。湿式の微細化手法としては、ビーズミルやボールミルの他、液流による微細化、あるいはレーザーや超音波を用いた微細化が採用されうる。乾式の微細化手法としては、ボールミル、アトライターの他、ロールミルや気流による微細化が採用されうる。より好ましくは、ジルコニアビーズ、ガラスビーズ等の粒子を用いてジイモニウム色素を粉砕する方法が採用されうる。例えば、ジルコニア粒子を用いた粉砕方法として、ジイモニウム色素と、このジイモニウム色素の溶解度(Y)が5質量%未満である溶剤(D)と、ジルコニアビーズとを混合した液体を作製し、この液体を容器内で振とうした後、ジルコニアビーズを分離する方法が例示される。
【0046】
2.溶剤(D)
好ましくは、ジイモニウム色素は、溶剤(D)に分散させて用いられる。ジイモニウム色素を分散させやすくする観点から、上記溶剤(D)としては、用いられるジイモニウム色素に対する貧溶媒が好ましい。具体的には、用いられるジイモニウム色素の溶解度(Y)が5質量%未満である溶剤が好ましい。この溶解度(Y)の測定方法は、後述される。
【0047】
具体的な溶剤(D)としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル等が好ましく、トルエンが特に好ましい。
【0048】
3.分散体(A)
分散体(A)は、上記溶剤(D)を含む組成物中に上記ジイモニウム色素が分散している液体である。分散体(A)は、ジイモニウム色素と分散媒とを混合してなる。分散媒として、溶剤(D)の他、樹脂が例示される。分散媒は、溶剤(D)と他の化合物との混合物であってもよい。好ましくは、この分散媒は、溶剤(D)を含む。分散体(A)において、ジイモニウム色素は、実質的に溶剤(D)に溶解していない。
【0049】
なお、本願において分散とは、0.001μm以上10μm以下(10−9m〜10−5m)程度の粒子が、分散媒(組成物)中に浮遊あるいは懸濁している状態を意味する。
【0050】
ジイモニウム色素の分散方法として、ビーズミルを用いる方法が採用されうる。分散体(A)の具体的な製造方法の一例は、ジルコニア粒子を用いた上記方法である。具体的なビーズミル(分散装置)として、三井鉱山社製の商品名「MSC−Mill」等が挙げられる。
【0051】
本願における上記液体(C)は、上記分散体(A)を含む概念である。例えば、液体(C)は、粒子状のジイモニウム色素と、そのジイモニウム色素の溶解度(Y)が5質量%未満である溶剤(D)とを混合して得られる。液体(C)には、溶剤(D)及びジイモニウム色素以外の成分(第三の成分)が含まれていてもよい。このように、溶剤(D)の溶解度(Y)が小さくされることにより、ジイモニウム色素が分散しやすくなる。この観点から、溶解度(Y)は、2.0質量%未満がより好ましく、1.0質量%未満が更に好ましく、0.1質量%未満が更に好ましく、0.01質量%未満が特に好ましい。この溶解度(Y)の測定方法は、後述の通りである。なお、後述するように、この溶剤(D)とは別に、希釈溶剤(E)が用いられてもよい。
【0052】
上記分散体(A)、上記液体(C)又は樹脂(B)には、その性能を損なわない範囲で、種々の添加剤を加えることができる。例えば、ジイモニウム色素分散体の分散性を向上させる目的で、分散剤が添加されうる。この分散剤として、アニオン性、カチオン性又はノニオン性の界面活性剤や高分子系分散剤などが挙げられる。
【0053】
ジイモニウム色素が分散している(分散状態にある)場合、ジイモニウム色素含有組成物中におけるジイモニウム色素の耐久性が向上しやすい反面、ジイモニウム色素の析出が起こりやすい傾向がある。この析出により、ジイモニウム色素含有組成物の近赤外線吸収能は低下する。本発明の保存方法又は移送方法では、保存中又は移送中におけるジイモニウム色素の析出が抑制されうる。
【0054】
保存中又は移送中における上記分散体(A)の温度T1は限定されない。近赤外線吸収能の劣化抑制及びジイモニウム色素の変質抑制の観点から、この温度T1は、20℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましく、0℃以下が更に好ましい。保存コストの観点から、上記温度T1は、−30℃以上が好ましく、−20℃以上がより好ましい。
【0055】
4.樹脂(B)
ジイモニウム色素含有組成物には、樹脂(B)が含まれていてもよい。樹脂(B)の種類は限定されない。より好ましい樹脂(B)は、ガラス転移温度が0℃以下とされる。ガラス転移温度が0℃以下の樹脂(B)は、粘着性を有している。この粘着性は、ジイモニウム色素含有組成物と被着体との直接的な接着を可能とする。接着剤を介在させることなく、ジイモニウム色素含有組成物と被着体とが接着されうる。以下において、ガラス転移温度が0℃以下の樹脂を粘着剤樹脂ともいう。
【0056】
樹脂(B)中において、ジイモニウム色素は変質しやすいことがある。特に、粘着剤樹脂中において、ジイモニウム色素は変質しやすいことがある。本発明は、この変質を効果的に抑制しうる。
【0057】
4−1.ガラス転移温度
被着体への粘着性を付与する観点から、樹脂(B)のガラス転移温度は、0℃以下が好ましく、−10℃以下がより好ましく、−20℃以下がより好ましく、さらに好ましくは−30℃以下である。0℃よりも高い場合、粘着性が不足することがある。ガラス転移温度は示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter)や動的粘弾性測定により損失正接(tanδ)の極大値温度を求めることでも得られるが、本願にいうガラス転移温度は、下記のFoxの式により求められる計算ガラス転移温度を意味する。樹脂(B)の重合に使用される単量体は、下記式で表されるFoxの式を用いて計算された計算ガラス転移温度Tgが所定の値を満足していれば特に限定されない。
1/(Tg+273)=Σ[Wi/(Tgi+273)] : Foxの式
Tg(℃) : 計算ガラス転移温度
Wi : 各単量体の重量分率
Tgi(℃) : 各単量体成分の単独重合体のガラス転移温度
【0058】
4−2.酸価
樹脂(B)には、被着体との密着性向上、被着体との粘着力向上及びジイモニウム色素の分散性向上を目的として、アクリル酸等のカルボキシル基含有単量体が共重合されるのが好ましい。ただし、カルボキシル基等の官能基はジイモニウム色素を劣化させるため、樹脂(B)の酸価は100以下が好ましく、好ましくは0以上80以下、より好ましくは3以上70以下である。「酸価」とは、粘着剤樹脂1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg量を言う。
【0059】
4−3.計算溶解性パラメータ
樹脂(B)の計算溶解性パラメータが高い場合にはジイモニウム色素の耐久性が劣る場合があるため、溶解性パラメータは9.80以下であることが好ましい。計算溶解性パラメータは、「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE」(1974年、Vol.14、No.2)の147ページから154ページ記載の方法によって計算される値である。以下にその方法を概説する。
【0060】
単独重合体の溶解性パラメータ(δ)は、該重合体を形成している構成単位の蒸発エネルギー(△ei)及びモル体積(△vi)に基づいて、下式の計算法により算出される。
δ=(Σ△ei/Σ△vi)1/2
△ei: i成分の原子または原子団の蒸発エネルギー
△vi: i成分の原子または原子団のモル体積
【0061】
共重合体の溶解性パラメータは、その共重合体を構成する各構成単量体の蒸発エネルギーにモル分率を乗じて合算したもの(Σ△Ei)を、各構成単量体のモル体積にモル分率を乗じて合算したもの(Σ△Vi)で割り、1/2乗をとることで算出される。
【0062】
4−4.共重合体組成
粘着剤樹脂(B)は、共重合体でもよい。粘着剤樹脂(B)は、水酸基を含有する(メタ)アクリル酸エステルと他の化合物との共重合体であるのが好ましい。更には、ジイモニウム色素の耐久性の観点から、粘着剤樹脂(B)は、脂環式、多環性脂環式、芳香環式または多環性芳香環式のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが5〜40質量%共重合された共重合体であるのが好ましい。ジイモニウム色素の耐久性が向上する理由は不明であるが、これら脂環式、多環性脂環式、芳香環式、多環性芳香環式のアルキル基部分とジイモニウム色素がスタッキング構造を採ることにより、耐熱性や耐湿熱性を向上させるものと考えられる。
【0063】
好ましくは、前記樹脂(B)が、下記単量体(p1)〜(p3)を共重合してなる樹脂である。
(p1)炭素数が1以上12以下であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル
(p2)官能基含有モノマー
(p3)その他共重合可能な単量体
【0064】
単量体の好ましい比率は、(p1)の(メタ)アクリル酸エステルが60質量%以上99.9質量%以下であり、(p2)の官能基含有モノマーが0.1質量%以上20質量%以下であり、(p3)の他の共重合可能な単量体が0質量%以上30質量%以下である。より好ましくは、(p2)の官能基含有モノマーの比率は、0.1質量%以上10質量%以下である。
【0065】
ジイモニウム色素の耐久性の観点から、より好ましくは、上記単量体(p1)におけるアルキル基は、直鎖型、分岐型及び脂環式のアルキル基である。
【0066】
上記(p1)の(メタ)アクリル酸エステルの例として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0067】
上記(p2)の官能基含有モノマーとして、水酸基もしくはカルボキシル基含有モノマーが好ましく、水酸基もしくはカルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーがより好ましい。ジイモニウム色素の耐久性の観点から、カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーが好ましい。カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーのカルボキシル基は架橋点となる。よって、カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーの配合量により、粘着性の調整が可能である。
【0068】
カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーとして、アクリル酸及びメタクリル酸が好適に用いられる。
【0069】
水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの例として、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの水酸基は、架橋点となりうる。よって、水酸基含有(メタ)アクリルモノマーは、粘着物性の調整に寄与する。上記(p2)が水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの場合、この水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの比率は、モノマー全量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0070】
上記(p3)の、他の共重合可能な単量体として、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシー3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。他に、上記(p3)の例として、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;α−メチルスチレン、ビニルトルエン、スチレンなどに代表されるスチレン系単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルなどに代表されるビニルエーテル系単量体;フマル酸;フマル酸のモノアルキルエステル;フマル酸のジアルキルエステル;マレイン酸;マレイン酸のモノアルキルエステル;マレイン酸のジアルキルエステル;イタコン酸;イタコン酸のモノアルキルエステル;イタコン酸のジアルキルエステル;(メタ)アクリロニトリル;塩化ビニル;塩化ビニリデン;酢酸ビニル;ビニルケトン;ビニルピリジン;ビニルカルバゾールなどを挙げることができる。また、カルボキシル基、オキサゾリニル基、ピロリドニル基、フルオロアルキル基等の官能基を有する単量体も、本発明の目的を損なわない範囲で共重合してもよい。
【0071】
より好ましい粘着剤樹脂(B)は、下記(m1)〜(m4)を共重合してなる樹脂である。
(m1)脂環式、多環性脂環式、芳香環式または多環性芳香環式のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル。
(m2)アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル。ただし、このアルキル基は、直鎖型または分岐型であり、このアルキル基の炭素数は1以上10以下である。
(m3)官能基含有モノマー
(m4)その他共重合可能な単量体。
【0072】
共重合体の樹脂(B)において、単量体の好ましい比率は、(m1)の(メタ)アクリル酸エステルが5質量%以上40質量%以下であり、(m2)の(メタ)アクリル酸エステルが60質量%以上95質量%以下であり、(m3)の官能基含有モノマーが0.1質量%以上20質量%以下であり、(m4)のその他の単量体が0質量%以上20質量%以下である。
【0073】
上記(m1)の(メタ)アクリル酸エステルの例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシー3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0074】
上記(m2)の(メタ)アクリル酸エステルの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0075】
上記(m3)の官能基含有モノマーとして、水酸基もしくはカルボキシル基含有モノマーが好ましく、水酸基もしくはカルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーがより好ましい。ジイモニウム色素の耐久性の観点から、カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーが好ましい。カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーのカルボキシル基は架橋点となる。よって、カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーの配合量により、粘着性の調整が可能である。
【0076】
カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーとして、アクリル酸及びメタクリル酸が好適に用いられる。
【0077】
水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの例として、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの水酸基は、架橋点となりうる。よって、水酸基含有(メタ)アクリルモノマーは、粘着物性の調整に寄与する。上記(m3)が水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの場合、この水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの比率は、モノマー全量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0078】
上記(m4)の単量体の例としては、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;α−メチルスチレン、ビニルトルエン、スチレンなどに代表されるスチレン系単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルなどに代表されるビニルエーテル系単量体;フマル酸;フマル酸のモノアルキルエステル;フマル酸のジアルキルエステル;マレイン酸;マレイン酸のモノアルキルエステル;マレイン酸のジアルキルエステル;イタコン酸;イタコン酸のモノアルキルエステル;イタコン酸のジアルキルエステル;(メタ)アクリロニトリル;塩化ビニル;塩化ビニリデン;酢酸ビニル;ビニルケトン;ビニルピリジン;ビニルカルバゾールなどを挙げることができる。
【0079】
樹脂(B)の重合に使用される開始剤として、過酸化物系、アゾ系等、市販のものが使用できる。過酸化物系の開始剤としては、パーブチルO、パーヘキシルO(いずれも日本油脂製)などのパーオキシエステル系;パーロイルL、パーロイルO(いずれも日本油脂製)などのパーオキシジカーボネート系;ナイパーBW、ナイパーBMT(いずれも日本油脂製)などのジアシルパーオキサイド系;パーヘキサ3M、パーヘキサMC(いずれも日本油脂製)などのパーオキシケタール系;パーブチルP、パークミルD(いずれも日本油脂製)などのジアルキルパーオキサイド系;パークミルP、パーメンタH(いずれも日本油脂製)などのハイドロパーオキサイド系等が挙げられる。アゾ系の開始剤としてはABN−E、ABN−R、ABN−V(いずれも日本ヒドラジン工業製)等が挙げられる。
【0080】
樹脂(B)の重合の際には必要に応じて連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤は特に制約されず、ノルマルドデシルメルカプタン、ジチオグリコール、チオグリコール酸オクチル、メルカプトエタノール等のチオール化合物等が使用できる。
【0081】
また、樹脂(B)の重合は無溶剤で行ってもよいし、有機溶剤中で行ってもよい。有機溶剤中で重合する際には、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;その他の公知の有機溶剤が使用できる。使用する有機溶剤の種類は得られる樹脂の溶解性、重合温度を考慮して決められるが、乾燥時の残存溶剤の残りにくさの点からトルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等の沸点が120℃以下の有機溶剤が好ましい。また、分散体の安定性の観点から、ジイモニウム色素の溶解性が5質量%未満の有機溶剤が好ましい。
【0082】
また、樹脂(B)は単一の組成からなるものでもよいし、異なる組成のポリマーを複合化したポリマーアロイやポリマーブレンドであってもよい。
【0083】
分岐型の樹脂を得るためにはマクロモノマー、多官能モノマー、多官能開始剤、多官能連鎖移動剤が使用できる。マクロモノマーとしては、AA−6、AA−2、AS−6、AB−6、AK−5(いずれも東亜合成製)等が使用できる。多官能モノマーとしては、ライトエスエルEG、ライトエスエル1,4BG、ライトエステルNP、ライトエステルTMP(いずれも共栄社化学製)等が挙げられる。多官能開始剤としては、パーテトラA、BTTB−50(いずれも日本油脂製)、トリゴノックス17−40MB、パーカドックス12−XL25(いずれも火薬アクゾ製)等が挙げられる。多官能連鎖移動剤としてはペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)等が使用できる。
【0084】
5.ジイモニウム色素含有組成物
上記ジイモニウム色素含有組成物の配合は、上記ジイモニウム色素を含んでいる限り、限定されない。好ましくは、このジイモニウム色素含有組成物は、上記溶剤(D)を含む。
【0085】
このジイモニウム色素含有組成物の第一の典型例は、上記樹脂(B)を含まない上記分散体(A)(又は上記液体(C))である。
【0086】
このジイモニウム色素含有組成物の第二の典型例は、上記樹脂(B)を含む樹脂含有組成物である。この第二の典型例の好ましい態様は、粘着性を有するジイモニウム色素含有粘着剤組成物である。
【0087】
好ましくは、ジイモニウム色素含有組成物において、ジイモニウム色素は分散している。
【0088】
ジイモニウム色素が分散されている場合、近赤外線吸収能の持続性に優れる。また、このジイモニウム色素含有組成物は、可視領域の透明性に優れる。更に、より好ましいジイモニウム色素含有組成物は、粘着性を有する樹脂を含有するので、被着体に対して容易に接着されうる。
【0089】
ジイモニウム色素が分散している(分散状態にある)場合、ジイモニウム色素含有組成物中におけるジイモニウム色素の耐久性が向上しやすい反面、ジイモニウム色素の析出が起こりやすい傾向がある。この析出により、ジイモニウム色素含有組成物の近赤外線吸収能は低下する。本発明の保存方法又は移送方法では、保存中又は移送中におけるジイモニウム色素の析出が抑制されうる。
【0090】
上記ジイモニウム色素含有組成物には、他の近赤外線吸収色素が添加されてもよい。併用されうる他の近赤外線吸収色素としては、公知のシアニン系色素、ポリメチン系色素、スクアリリウム系色素、ポルフィリン系色素、金属ジチオール錯体系色素、フタロシアニン系色素、ジイモニウム系色素、無機酸化物粒子等が挙げられる。
【0091】
好ましい他の色素(ジイモニウム色素以外の色素)は、上記ジイモニウム色素に対してクエンチャー効果を奏しうる色素である。クエンチャー効果とは、励起状態にある活性分子を脱励起させる効果である。ジイモニウム色素分子、ジイモニウムアニオン又はジイモニウムカチオンを脱励起して安定化させる効果を有する他の色素が好ましい。クエンチャー効果の観点から、この他の色素として、フタロシアニン系色素が好ましく、中心金属がバナジウムであるフタロシアニン色素が特に好ましい。
【0092】
上記ジイモニウム色素含有組成物を薄型ディスプレイ用光学フィルターとして使用する場合、上記のジイモニウム色素とともに最大吸収波長が800〜950nmのフタロシアニン系色素、最大吸収波長が800〜950nmのシアニン系色素または最大吸収波長が800〜950nmの金属ジチオール錯体系色素が併用されるのが好ましい。この併用により、800〜1100nmの近赤外線が効果的に吸収されうる。耐久性の良好なジイモニウム色素含有組成物を得る観点から、フタロシアニン色素が併用されるのが特に好ましい。
【0093】
具体的なフタロシアニン系化合物として、商品名イーエクスカラーIR−10A、イーエクスカラーIR−12、イーエクスカラーIR−14、イーエクスカラーIR−906、イーエクスカラーIR−910、TX−EX−820及びTX−EX−915(いずれも日本触媒製)が挙げられる。
【0094】
また、上記ジイモニウム色素含有組成物は近赤外線吸収色素としてのシアニン系色素を更に含んでいても良い。シアニン系色素は近赤外線吸収能に優れるものであれば特に制限されないが、インドリウム系カチオンまたはベンゾチアゾリウム系カチオンと、対アニオンからなる塩が好ましく使用できる。
【0095】
より具体的には、アメリカンダイソース社製のADS812MI、FEWケミカル社製のS0712、FEWケミカル社製のS0726、アメリカンダイソース社製のADS780MT、FEWケミカル社製のS0006、FEWケミカル社製のS0081、FEWケミカル社製のS0773、FEWケミカル社製の商品名S0772、FEWケミカル社製の商品名S0734等の市販品を用いることができる。シアニン系色素を使用することにより可視領域の透明性が高いジイモニウム色素含有組成物が得られる。
【0096】
上記ジイモニウム色素含有組成物において、ジイモニウム色素の配合量、または上記ジイモニウム色素とその他の近赤外線吸収色素とを合計した配合量は、色素の種類と用途によって適宜選択することが出来る。上記ジイモニウム色素含有組成物を10〜30μmの薄膜として使用する場合、配合量は、樹脂の固形分に対して、好ましくは0.01〜10質量%であり、より好ましくは0.1〜5質量%である。例えば、ジイモニウム色素とフタロシアニン系色素とを併用する場合、これらの色素を合計した配合量は、樹脂の固形分に対して、好ましくは0.01〜10質量%であり、より好ましくは0.1〜5質量%である。配合量が0.01質量%未満であると、十分な近赤外線吸収能が達成できなくなる可能性がある。逆に10質量%を超えると、添加に見合う効果が得られず経済的でない上、逆に可視領域での透明性が損なわれる可能性がある。
【0097】
上記保存方法又は移送方法が適用された上記ジイモニウム色素含有組成物は、可視領域の透明性及び近赤外線吸収能の持続性を有しうる。また、樹脂(B)が粘着剤である場合、良好な粘着性を有しうる。上記ジイモニウム色素含有組成物には、必要に応じて可視光を吸収する色素が添加されてもよい。可視光を吸収する色素としては、シアニン系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、ポルフィリン系、テトラアザポルフィリン系、金属ジチオール錯体系、スクアリリウム系、アズレニウム系、ジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、オキサジン系、アジン系、チオピリリウム系、ビオローゲン系、アゾ系、アゾ金属錯体系、ビスアゾ系、アントラキノン系、ペリレン系、インダンスロン系、ニトロソ系、インジコ系、アゾメチン系、キサンテン系、オキサノール系、インドアニリン系、キノリン系、ジケトピロロピロール系等、従来公知の色素を広く使用することができる。
【0098】
上記保存方法又は移送方法が適用された上記ジイモニウム色素含有組成物がPDP用の光学フィルターとして使用される場合、不要なネオン発光を吸収するために最大吸収波長が550〜650nmの可視吸収色素を併用するのが好ましい。ネオン発光を吸収する色素の種類は特に限定されないが、シアニン色素、テトラアザポルフィリン色素が使用できる。具体的にはアデカアークルズTY−102(旭電化工業社製)、アデカアークルズTY−14(旭電化工業社製)、アデカアークルズTY−15(旭電化工業社製)、TAP−2(山田化学工業製)、TAP−18(山田化学工業製)、TAP−45(山田化学工業製)、商品名NK−5451(林原生物化学研究所製)、NK−5532(林原生物化学研究所製)、NK−5450(林原生物化学研究所製)等が挙げられる。ネオン発光を吸収するための色素の添加量は、色素の種類によって異なるが、最大吸収波長での透過率が20〜80%程度になるように添加するのが好ましい。
【0099】
また、ジイモニウム色素含有組成物からなる薄膜の色調を調整するために、調色用の可視光吸収色素を添加してもよい。調色用の色素の種類は特に限定されないが、1:2クロム錯体、1:2コバルト錯体、銅フタロシアニン、アントラキノン、ジケトピロロピロール等が使用できる。具体的には、オラゾールブルーGN(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールブルーBL(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールレッド2B(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールレッドG(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールブラックCN(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールイエロー2GLN(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールイエロー2RLN(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、マイクロリスDPPレッドB−K(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、等が挙げられる。
【0100】
更に、上記保存方法又は移送方法が適用された上記保存方法又は移送方法が適用されたジイモニウム色素含有組成物は、必要に応じて、その性能を失わない範囲で希釈溶剤(E)や添加剤、硬化剤を1種または2種以上含んでいてもよい。希釈溶剤(E)により、ジイモニウム色素含有組成物のコーティングが容易とされうる。
【0101】
上記ジイモニウム色素含有組成物に含まれうる希釈溶剤(E)は限定されず、例えばシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族系;トルエン、キシレンなどの芳香族系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系;アセトニトリル等のニトリル系;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系;テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル等のエーテル系;ブチルセロソルブ、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系;ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系等が使用できる。これらの溶剤は、単独で使用されてもよいし、混合して使用されてもよい。ただし、好ましくは、使用されるジイモニウム色素についての溶解度(Y)が5質量%未満の溶剤が好ましい。ジイモニウム色素の溶解度(Y)が5質量%を超える溶剤を用いた場合、ジイモニウム分散体が溶解してしまう場合がある。
【0102】
なお、本願において、このジイモニウム色素の溶解度(Y)は、次の方法により測定される。先ず、ジイモニウム色素の含有割合が0.01質量%、0.1質量%、1.0質量%、2.0質量%及び5.0質量%である5種類のサンプルを調整して、それぞれ超音波攪拌する。次に、各サンプルのそれぞれについて、残渣があるか否かを確認する。残渣は、ろ過後のろ紙上に残渣があるか否かを目視で観察することにより確認する。残渣の有無によって、溶解度(Y)が決定される。5.0質量%のサンプル(及び他のサンプル)に残渣が確認されなかった場合、「溶解度(Y)が5質量%以上」と判断される。5.0質量%のサンプルに残渣が確認された場合、「溶解度(Y)が5質量%未満」と判断される。0.01質量%のサンプル(及び他のサンプル)に残渣が確認された場合、「溶解度(Y)が0.01質量%未満である」と判断される。0.01質量%のサンプルに残渣が確認されず、且つ、0.1質量%のサンプルに残渣が確認された場合、「溶解度(Y)が0.01質量%以上0.1質量%未満である」と判断される。
【0103】
なお、ジイモニウム色素の耐久性の観点からは、希釈溶剤(E)として、酢酸エチル等の沸点が100℃以下の溶剤が好適である。また、コーティング時の塗膜外観を向上させる観点からは、希釈溶剤(E)として、トルエン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル等の沸点が100〜150℃の溶剤が好適である。塗膜の耐クラック性を向上させる観点からは、希釈溶剤(E)として、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の沸点が150〜200℃の溶剤が好適である。
【0104】
また、ジイモニウム色素含有組成物が含有しうる添加剤としては、フィルムやコーティング膜等を形成する樹脂組成物に使用される従来公知の添加剤が用いられうる。この添加剤として、分散剤、レベリング剤、消泡剤、粘性調整剤、つや消し剤、粘着付与剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収材、光安定化剤、消光剤、硬化剤、アンチブロッキング剤等が挙げられる。なお、硬化剤としてはイソシアネート化合物、チオール化合物、エポキシ化合物、アミン系化合物、イミン系化合物、オキサゾリン化合物、シランカップリング剤、UV硬化剤等を使用することができる。
【0105】
上記ジイモニウム色素含有組成物は、光学用、農業用、建築用または車両用の近赤外線吸収材料、感光紙などの画像記録材料、光ディスク用などの情報記録用材料、色素増感型太陽電池などの太陽電池、半導体レーザー光などを光源とする感光材料、眼精疲労防止材に使用されうる。上記保存方法又は移送方法が適用された上記ジイモニウム色素含有組成物は、特にフィルムやシート状での使用が好ましい。
【0106】
6.保存方法又は移送方法
本発明は、上記ジイモニウム色素含有組成物の保存方法に関する。又は、本発明は、上記ジイモニウム色素含有組成物の移送方法に関する。これらの方法は、ジイモニウム色素の変質を抑制しうる。これらの方法は、ジイモニウム色素の析出を抑制しうる。これらの方法は、ジイモニウム色素の近赤外線吸収能の劣化を抑制しうる。
【0107】
6−1.保存用中空体
保存用中空体は、上記ジイモニウム色素含有組成物を保存するために用いられる。通常、この保存用中空体は、中空部と、開口部と、この開口部を密封しうる密封部材とを有する。この中空部に、上記ジイモニウム色素含有組成物が入れられる。典型的な保存用中空体は、密封可能な容器である。
【0108】
上記保存用中空体の材質は、限定されない。好ましくは、上記保存用中空体は、その内面が非金属又はステンレス鋼であるのがよい。上記保存用中空体の例として、缶、プラスチックドラム、ポリタンク等の樹脂製容器及びガラス容器が挙げられる。缶として、ペール缶、ドラム缶等が挙げられる。他の缶として、日本で「一斗缶」と称されている、内容量が約18リットルの缶や、更に小さい容積を有する缶が例示される。この保存用中空体の内容積は、限定されない。また、本発明において、保存時間は限定されない。
【0109】
上記保存用中空体の他の例として、複合容器が挙げられる。この複合容器は、外部容器と、この外部容器に収容されている内部容器とを有する。ジイモニウム色素含有組成物は、内部容器に入れられる。複合容器の一例として、外部容器が鋼製であり、内部容器がプラスチック製である容器が例示される。
【0110】
上記保存用中空体の他の例として、工場等で設置される釜やタンクが例示される。この釜として、反応釜及びブレンダー釜が例示される。短時間の貯留であっても、本発明における「保存」に該当する。
【0111】
図1は、上記保存用中空体の一例である樹脂製容器2を示す斜視図である。容器2は、その内部に中空部を有する。容器2は、本体4と、密封部材6とを有する。本体4は、図示されない開口部を有する。密封部材6は、この開口部を密封しうる。密封部材6は、着脱可能である。密封部材6は、いわゆる蓋である。ねじ機構により、この蓋6の着脱が可能とされている。蓋6により、開口部が密封されうる。
【0112】
この容器2の材質である樹脂は、限定されない。この樹脂として、ポリオレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂及びポリエステル系樹脂から選ばれる1種又は2種以上が例示される。ポリオレフィン系樹脂として、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂等が例示される。耐久性の観点から、ポリエチレン樹脂の中では、超高分子量ポリエチレン樹脂及び高密度ポリエチレン樹脂が好ましい。樹脂は、共重合体であってもよいし、2種類以上の樹脂がブレンドされていてもよい。ジイモニウム色素の変質を抑制する観点から、特に好ましい樹脂は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂及びポリエステル系樹脂である。
【0113】
好ましい上記保存用中空体の材質は、樹脂以外であってもよい。上記保存用中空体の材質は、限定されない。例えば、上記保存用中空体の材質は、樹脂以外の非金属であるのが好ましい。
【0114】
樹脂以外の上記非金属として、FRP(繊維強化プラスチック)、ガラス、ゴム等が例示される。上記FRPとして、炭素繊維強化プラスチック及びガラス繊維強化プラスチックが例示される。上記ガラスとして、ソーダガラス及び珪酸塩ガラスが例示される。この珪酸塩ガラスとして、ホウ珪酸ガラス、ソーダ石灰ガラス及び鉛ガラスが例示される。ジイモニウム色素の変質を抑制する観点から、ガラスの中では、ホウ珪酸ガラスが好ましい。
【0115】
上記保存用中空体の材質は、金属であってもよい。この金属の種類は限定されない。保存用中空体の内面の材質は、金属であってもよい。ただし、保存用中空体の内面の材質は、前述の通り、非金属又はステンレス鋼とされるのが好ましい。換言すれば、ジイモニウム色素含有組成物と接触する面が、非金属又はステンレス鋼とされるのが好ましい。
【0116】
上記保存用中空体の材質がステンレス鋼である場合、内面のコーティングがなくても、好ましい結果が得られうる。即ち、上記保存用中空体の内面はステンレス鋼であってもよい。
【0117】
上記保存用中空体の材質がステンレス鋼以外の金属である場合、その内面は、非金属又はステンレス鋼で覆われるのが好ましい。ジイモニウム色素は、ステンレス鋼以外の金属と反応しやすいと考えられる。特に、分散状態にあるジイモニウム色素は、ステンレス鋼以外の金属と反応しやすいと考えられる。本発明では、ジイモニウム色素含有組成物と金属(ステンレス鋼以外)との接触が防止される。
【0118】
図2は、本体がステンレス鋼以外の金属からなる保存用中空体10を示す斜視図である。この容器10は、その内部に中空部を有する。この容器10は、日本において「一斗缶」とも称されている。容器10は、図示されない開口部と、この開口部を密封しうる密封部材12とを有する。密封部材12は、着脱可能である。密封部材12は、いわゆる蓋である。この蓋12の着脱が可能とされている。蓋12により、開口部が密封されうる。密封部材12による密封性を高める観点から、必要に応じて、パッキン、ガスケット等の封止部材が用いられる。
【0119】
図3は、容器10の一部の断面図を拡大した図である。この容器10は、外面14と、内面16とを有する。外面14は、容器10の本体18によって構成されている。この本体18の材質は、ステンレス鋼以外の金属である。典型的には、この本体18として、ブリキ又はティンフリースチールが用いられる。ブリキは、スズでメッキされた鉄板である。ティンフリースチールは、冷間圧延鋼板に電界クロム酸処理を施し、表層に金属クロム及びクロム水和酸化物層を析出させた材料である。この本体18の内側に、内層20が設けられている。この内層20は、非金属である。本実施形態において、この内層20は、樹脂である。この内層20を構成する樹脂の一例は、容器2の材質として前述した樹脂である。ジイモニウム色素の変質を抑制する観点から、特に好ましい内層20の材質は、ポリオレフィン系樹脂であり、例えばポリエチレン樹脂が好ましい。この内層20の形成方法は限定されず、フィルムの熱融着及び塗装が例示される。容器10に入れられたジイモニウム色素含有組成物は、内面16と接触する。容器10に入れられたジイモニウム色素含有組成物は、本体18とは接触しない。内面16を構成する内層20により、ジイモニウム色素の変質が抑制されている。なお、さび止めの観点から、本体の材質がティンフリースチールである場合、本体18の外側にさび止め層が設けられるのが好ましい。このさび止め層として、ツヤニス層が例示される。
【0120】
図4は、他の実施形態に係る保存用中空体22を示す斜視図である。この容器22は、その内部に中空部を有する。この容器22は、図示されない開口部と、この開口部を密封しうる密封部材24とを有する。密封部材24は、着脱可能である。密封部材24は、いわゆる蓋である。この蓋24の着脱が可能とされている。蓋24により、開口部が密封されうる。密封部材24による密封性を高める観点から、必要に応じて、パッキン、ガスケット等の密封性向上のための部材が用いられる。
【0121】
図5は、容器22の一部の断面図を拡大した図である。この容器22は、外面26と、内面27とを有する。外面26は、容器22の本体28によって構成されている。この本体28の材質は、ステンレス鋼以外の金属である。本実施形態では、この本体28として、ティンフリースチールが用いられている。この本体28の内側に、内層29が設けられている。この内層29は、非金属である。本実施形態において、この内層29は、樹脂である。本実施形態において、内層29は、複数である。具体的には、内層29は、3層である。このように、内層29の層数は、複数であってもよい。
【0122】
本実施形態では、内層29は、最内層29a、中間層29b及び最外層29cにより構成されている。最内層29aは、樹脂層である。中間層29bは、樹脂層である。最外層29cは、樹脂層である。複数の樹脂層により、ジイモニウム色素含有組成物が本体に接触するアクシデントは、起こりにくい。
【0123】
本実施形態では、最内層29aに変性ポリオレフィンが用いられ、中間層29bにポリエチレンが用いられ、最外層29cに金属接着性ポリオレフィンが用いられている。容器22に入れられたジイモニウム色素含有組成物は、内面27と接触する。容器22に入れられたジイモニウム色素含有組成物は、本体28とは接触しない。内面27を構成する内層29により、ジイモニウム色素の変質が抑制されている。なお、図示は省略されているが、さび止めの観点から、本体28の外側にさび止め層が設けられるのが好ましい。このさび止め層として、ツヤニス層が例示される。
【0124】
前述の通り、上記保存用中空体の材質は、金属であってもよい。金属の中でも、ステンレス鋼が好ましい。即ち、より好ましくは、上記保存用中空体の内面がステンレス鋼とされる。このステンレス鋼の種類は限定されない。ステンレス鋼の種類として、マルテンサイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス及び析出硬化型ステンレスが例示される。
【0125】
マルテンサイト系ステンレスとして、SUS403、SUS410、SUS420及びSUS420J2が例示される。フェライト系ステンレスとして、SUS430が例示される。オーステナイト系ステンレスとして、SUS301、SUS304、SUS304L、SUS305、SUS310S及びSUS316Lが例示される。これらは、JIS(日本工業規格)に準拠した表記法である。
【0126】
ジイモニウム色素の変質を抑制する観点及びジイモニウム色素含有組成物に対する耐食性の観点から、オーステナイト系ステンレスが好ましく、中でもSUS304及びSUS316Lがより好ましく、SUS304が特に好ましい。
【0127】
保存中におけるジイモニウム色素含有組成物の温度T2は限定されない。近赤外線吸収能の劣化抑制及びジイモニウム色素の変質抑制の観点から、この温度T2は、20℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましく、0℃以下が更に好ましい。保存コストの観点から、上記温度T2は、−30℃以上が好ましく、−20℃以上がより好ましい。
【0128】
6−2.移送用中空体
移送用中空体は、上記ジイモニウム色素含有組成物を移送するために用いられる。本願において、「移送」とは、以下の(概念1)及び(概念2)を含む。
(概念1)ジイモニウム色素含有組成物が入れられた中空体を輸送すること。
(概念2)ジイモニウム色素含有組成物が中空体の内部を流れて移動すること。
【0129】
上記(概念1)の移送用中空体として、輸送用中空体が挙げられる。この輸送用中空体は、ジイモニウム色素含有組成物を入れて輸送する際に用いられる。典型的な輸送用中空体は、上記保存用中空体と同じである。
【0130】
即ち、輸送用中空体は、通常、中空部と、開口部と、この開口部を密封しうる密封部材とを有する。この中空部に、上記ジイモニウム色素含有組成物が入れられる。典型的な保存用中空体は、密封可能な容器である。
【0131】
上記輸送用中空体の材質は限定されない。好ましくは、上記輸送用中空体は、その内面が非金属又はステンレス鋼とされる。上記輸送用中空体の例として、缶、プラスチックドラム、ポリタンク等の樹脂製容器及びガラス容器が挙げられる。缶として、ペール缶、ドラム缶等が挙げられる。他の缶として、日本で「一斗缶」と称されている、内容量が約18リットルの缶や、更に小さい容積を有する缶が例示される。この輸送用中空体の内容積は、限定されない。また、本発明において、輸送手段は限定されない。輸送手段として、トラック等の自動車、鉄道、飛行機及び船舶が例示される。
【0132】
典型的な輸送用中空体として、上記図1、図2、図3、図4及び図5で示された容器が例示される。
【0133】
上記輸送用中空体の他の例として、複合容器が挙げられる。この複合容器は、外部容器と、この外部容器に収容されている内部容器とを有する。ジイモニウム色素含有組成物は、内部容器に入れられる。複合容器の一例として、外部容器が鋼製であり、内部容器がプラスチック製である容器が例示される。
【0134】
他の輸送用中空体として、タンクローリーのタンク、貨物列車等に用いられる液体用コンテナ、貨物列車用タンク車のタンク、等が例示される。
【0135】
上記(概念2)の移送用中空体として、ジイモニウム色素含有組成物を用いて生産を行う工場等に設置されている設備が挙げられる。この設備として、配管、タンク等が例示される。配管の典型例として、金属製の本体と、樹脂製の内層とを有する管が例示される。この内層は、本体の内面を覆っている。この配管をジイモニウム色素含有組成物が流れる場合、樹脂製の内面にジイモニウム色素含有組成物が接触する。この内面により、ジイモニウム色素と金属との接触が防止される。この内面により、ジイモニウム色素の変質が抑制される。
【0136】
移送中(輸送中を含む)におけるジイモニウム色素含有組成物の温度T3は限定されない。近赤外線吸収能の劣化抑制及びジイモニウム色素の変質抑制の観点から、この温度T3は、20℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましく、0℃以下が更に好ましい。移送コストの観点から、上記温度T3は、−30℃以上が好ましく、−20℃以上がより好ましい。
【0137】
7.輸送用梱包体及びその製造方法
移送に係る発明では、輸送用梱包体が、上記好ましい温度を維持しつつ輸送されるのがよい。この輸送用梱包体は、ジイモニウム色素含有組成物が入れられた上記輸送用中空体を密封することにより製造される。具体的には、この輸送用梱包体の製造方法は、
(1)開口部を有する上記輸送用中空体を用意する工程、
(2)ジイモニウム色素含有組成物を開口部から上記輸送用中空体内に入れる工程、
及び、
(3)上記開口部を密封する工程、
を含む。
この輸送用中空体については、前述した通りである。この梱包体により、ジイモニウム色素の劣化を抑制しつつ、ジイモニウム色素含有組成物を輸送することが容易とされうる。
【0138】
輸送用梱包体の例として、図1、図2又は図4に示す容器にジイモニウム色素含有組成物が入れられたものが挙げられる。
【0139】
輸送用梱包体は、公知の輸送手段により輸送される。この輸送手段は限定されず、トラック等の自動車、鉄道、飛行機及び船舶が例示される。
【0140】
8.近赤外線吸収材
本発明に係るジイモニウム色素含有組成物は、近赤外線吸収材に用いられてもよい。上記保存方法又は上記移送方法により、ジイモニウム色素の劣化が抑制されるため、この近赤外線吸収材は、近赤外線吸収能に優れる。この近赤外線吸収材は、前記ジイモニウム色素含有組成物をフィルム状に成形したものであってもよいし、透明基材上に前記ジイモニウム色素含有組成物を含む塗膜を積層したものであってもよい。
【0141】
透明基材としては、一般に光学材に使用し得るものであって、実質的に透明であれば特に制限はない。具体的な例としてはガラス;シクロポリオレフィン、非晶質ポリオレフィン等のオレフィン系ポリマー;ポリメチルメタクリレート等のメタクリル系ポリマー;酢酸ビニルやハロゲン化ビニル等のビニル系ポリマー;PET等のポリエステル;ポリカーボネート、ブチラール樹脂等のポリビニルアセタール;ポリアリールエーテル系樹脂;ラクトン環含有樹脂フィルム等が挙げられる。更に、該透明基材には、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、薬品処理等の従来公知の方法による表面処理や、アンカーコート剤やプライマー等のコーティングが施されてもよい。
【0142】
上記近赤外線吸収材の厚みは、一般に0.1μmから10mm程度とされるが、目的に応じて適宜決定される。また近赤外線吸収材に含まれる近赤外線吸収色素の含有量も目的に応じて、適宜決定される。
【0143】
基材にジイモニウム色素含有組成物を塗布する際には公知の塗工機が使用できる。例えばコンマコーター等のナイフコーター、スロットダイコーター、リップコーター等のファウンテンコーター、マイクログラビアコーター等のキスコーター、グラビアコーター、リバースロールコーター等のロールコーター、フローコーター、スプレーコーター、バーコーターが挙げられる。塗布前にコロナ放電処理、プラズマ処理等の公知の方法で基材の表面処理を行ってもよい。乾燥・硬化方法としては、熱風、遠赤外線、UV硬化等公知の方法が使用できる。乾燥・硬化後は公知の保護フィルムとともに巻き取ってもよい。
【0144】
上記保存方法又は上記移送方法が適用されたジイモニウム色素含有組成物は、可視領域の透明性及び近赤外線の吸収能が高い優れた光学フィルターの構成材料となりうる。上記ジイモニウム色素含有組成物は、保存又は移送がなされた後であっても、従来の近赤外線吸収材料と比べて耐久性、特に耐熱性及び耐光性が高いため、長期間の保管や使用でも外観と近赤外線吸収能が維持される。さらに、上記ジイモニウム色素含有組成物は、シートやフィルム状にするのが容易なため、薄型ディスプレー用や光半導体素子用に有効である。そのほかに、上記ジイモニウム色素含有組成物は、赤外線をカットする必要があるフィルターやフィルム、例えば農業用フィルム、断熱フィルム、サングラス、光記録材料等にも使用することができる。
【実施例】
【0145】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0146】
[上澄み液の吸光度(X)の測定]
この吸光度(X)の測定では、ジイモニウム塩を溶剤(D)に対して0.01質量%の割合で混合した混合液を調整し、この混合液を30分間超音波にかけた後、1時間以上静置した。その後、この混合液の上澄み液を光路長1mmのセルに入れて、測定がなされた。光路長1mmのセルは、石英製である。測定は、紫外可視分光光度計により行われた。この紫外可視分光光度計として、島津製作所製のUV−3700が用いられた。測定範囲は、350nm以上1500nm以下とされた。λmaxとは、測定された波長範囲において吸光度が最大となる波長を意味する。吸光度は、透過率をT(%)とするとき、下記式により求めた。
吸光度=−log(T/100)
【0147】
上記吸光度(X)の測定において、混合方法及び上澄み液の採取方法は、以下の通りである。先ず、ジイモニウム塩を溶剤(D)に対して0.01質量%の割合で混合した混合液50ミリリットルが作製される。この混合に用いられる混合容器は、ねじ口瓶である。このねじ口瓶の外径は40mmであり、高さは75mmである。この混合容器において、上記50ミリリットルの混合液の液面(液の最上面)の高さは、50mmである。この混合液を超音波にかけ、更に1時間以上静置した後、液面(液の最上面)から5mmまでの部分の上澄み液が採取され、測定に用いられた。なお、好ましくは、1時間以上静置された後の上記混合液において、混合容器の底面には、溶解していないジイモニウム塩が沈んでいる。この測定において、溶剤(D)の温度は、25℃とされる。超音波の付与には、ブランソン(BRANSON)社製の卓上型超音波洗浄機(商品名「ブランソニック3510J−DTH」)が用いられた。この卓上型超音波洗浄機のタンクに水を張り、この水が張られたタンク内に上記混合容器を配置し、40000Hz以上(42kHz)の周波数でタンクを振動させて、上記混合容器中の混合液に超音波を付与した。
【0148】
[溶解度(Y)の測定方法]
前述の方法により測定された。
【0149】
[近赤外線吸収能の保持性の評価]
後述される試験体を用いて評価がなされた。UV−3700(島津製作所製)を使用して透過スペクトルを測定し、350〜1500nmの波長範囲におけるλmaxを決定した。試験前のλmaxと試験後のλmaxとの差を計算し、この差の絶対値を求めた。この絶対値に基づき、以下の評価基準により、近赤外線吸収能の保持性を、「○」「△」及び「×」の3段階で評価した。この評価結果が、下記の表に示されている。
○:試験前後のλmaxの差の絶対値が10nm以下(近赤外線吸収能の保持性に優れている。)。
△:試験前後のλmaxの差の絶対値が10nmを超えて30nm以下(近赤外線吸収能の保持性にやや優れている。)。
×:試験前後のλmaxの差の絶対値が30nmを超えている(近赤外線吸収能の保持性に劣る。)。
【0150】
[液安定性の評価]
保存試験の前後における分散液又は粘着剤の状態を目視により確認し、以下の評価基準により、液安定性を、「○」「△」及び「×」の3段階で評価した。この評価結果が、下記の表に示されている。
○:試験前後で比較すると、液の色が同等であり、色素の析出物が見られない。
△:試験前後で比較すると、液の色がわずかに異なり、容器の底に析出物がわずかに見られる。
×:試験前後で比較すると、液の色が大きく異なり、容器の底に析出物が多く見られる。
なお、所定の試験期間が経過するまでの間に、液と接触している容器内面に錆が発生したものについては、試験が中止された。この場合、下記の表に「試験中止」と表記されている。
【0151】
合成例1:
[ジイモニウム化合物a1の合成及び近赤外線吸収分散液1の作製]
DMF30部中に、N,N,N’,N’−テトラキス(アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン3.8部、iso−ブチルブロミド21部及び炭酸カリウム15部を加え、80℃で1時間、更に90℃で7時間、更に130℃で1時間反応させた。冷却後、濾過し、この反応液(濾液)にイソプロパノール30部を加え、5℃以下で1時間撹拌した。生成した結晶をメタノールで洗浄した後、乾燥し、薄茶色の結晶状化合物2.5部を得た。DMF10部中に上記結晶状化合物1部を加え、60℃に加熱してこの結晶状化合物を溶解させた液体A1を得た。DMF10部に六フッ化アンチモン酸銀0.78部を溶解させて得られた液体B1を、上記液体A1に加え、30分反応させた。冷却後、析出した銀を濾別した。この反応液(濾液)に水10部をゆっくりと滴下し、滴下後15分撹拌した。生成した黒色結晶を濾過し、50部の水で洗浄し、得られたケーキ(残渣)を乾燥して、0.5部のヘキサフルオロアンチモン酸−N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ(iso−ブチル)アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン(以下、化合物a1ともいう)を得た。この化合物a1は、上記式(2)における、R〜Rが全てiso−ブチル基であり且つ上記式(2)におけるZが[SbF]であるジイモニウム塩である。この化合物a1の上記吸光度(X)を測定したところ、溶媒がトルエンの場合が0.070(λmaxは1088nm)であり、溶媒が酢酸エチルの場合が0.113(λmaxは1069nm)であった。この化合物a1の上記溶解度(Y)を測定したところ、溶媒がトルエンである場合0.01質量%未満であり、溶媒が酢酸エチルである場合0.01質量%未満であった。
【0152】
前記合成法により得られた5部の上記化合物a1、95部の酢酸エチル及び250部のジルコニアビーズを900mlのマヨネーズ瓶に入れ、ペイントシェーカーで4時間振とうした後、ジルコニアビーズを濾別して、化合物a1を含む近赤外線吸収分散液1を得た。なお、ジルコニアビーズはニッカトー社製であり、その粒子径は300μmであった。
【0153】
合成例2:
[ジイモニウム化合物b1の合成及び近赤外線吸収分散液2の作製]
ジメチルホルムアミド(DMF)36部中に、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ(iso−ブチル)アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン6部を加え、60℃に加熱溶解した。その後、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタン58.4%水溶液10.1部を加えた。次に、DMF35部に溶解した硝酸銀2.32部を加え、30分間加熱撹拌した。不溶解分を濾別した後、反応液に水を加え、析出した結晶を濾過、メタノール洗浄、水洗及び乾燥して、8.4部のトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド酸−N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ(iso−ブチル)アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン(以下、化合物b1ともいう)を得た。この化合物b1は、上記式(1S)における、R〜Rが全てiso−ブチル基であり且つ上記式(1S)におけるZが[(CFSO]であるジイモニウム塩である。この化合物b1の上記吸光度(X)は、溶媒がトルエンの場合が0.138(λmaxは1096nm)であり、溶媒が酢酸エチルの場合が0.239(λmaxは1081nm)であった。この化合物b1の上記溶解度(Y)を測定したところ、溶媒がトルエンの場合が0.01質量%未満であり、溶媒が酢酸エチルの場合が0.01質量%未満であった。
【0154】
前記合成法により得られた5部の上記化合物b1、95部の酢酸エチル及び250部のジルコニアビーズを900mlのマヨネーズ瓶に入れ、ペイントシェーカーで4時間振とうした後、ジルコニアビーズを濾別して、化合物b1を含む近赤外線吸収分散液2を得た。なお、ジルコニアビーズはニッカトー社製であり、その粒子径は300μmであった。
【0155】
合成例3:
[粘着剤樹脂の合成]
モノマーとして、2−エチルヘキシルアクリレート(360.6g)、ブチルアクリレート(60g)、シクロヘキシルメタクリレート(156g)、アクリル酸(18g)及び2−ヒドロキシエチルアクリレート(5.4g)を秤量し、十分に混合して、重合性モノマー混合物(1a)を得た。
【0156】
160gの酢酸エチルと、300gの重合性モノマー混合物(1a)とを、温度計、攪拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器及び滴下ロートを備えたフラスコに入れた。また、上記滴下ロートに、300gの重合性モノマー混合物(1a)、16gの酢酸エチル及び0.15gのナイパーBMT−K40(重合開始剤、日本油脂社製)を入れ、良く混合して、滴下用混合物(1a)とした。
【0157】
窒素ガスを20ml/分で流通させながら、フラスコの内温を95℃まで上昇させ、重合開始剤であるナイパーBMT−K40(0.15g)をフラスコに投入し、重合反応を開始させた。重合開始剤の投入から30分後に、滴下ロートからの滴下用混合物(1a)の滴下を開始した。滴下用混合物(1a)は、90分かけて、均等に滴下された。滴下用混合物(1a)の滴下終了後、粘度の上昇に応じて酢酸エチルで希釈を適宜行いながら、還流温度を維持しながら6時間熟成を行った。
【0158】
反応終了後、不揮発分が約45%になるように酢酸エチルで反応液を希釈し、計算ガラス転移温度(Tg)が−38.5℃、計算溶解性パラメータが9.08である樹脂(1a)を得た。この樹脂(1a)は、粘着剤樹脂であった。樹脂(1a)の重量平均分子量(Mw)は43万であり、樹脂(1a)の酸価は23.4であった。
【0159】
以下に、実施例及び比較例の評価結果を示す。実施例1から10及び比較例1、2は、ジイモニウム色素含有組成物が樹脂を含まない分散体とされた場合の評価を示す。一方、実施例11から20及び比較例3、4は、ジイモニウム色素含有組成物が樹脂を含む粘着剤組成物とされた場合の評価を示す。
【0160】
[実施例1]
上記合成例1で得られた近赤外線吸収分散液1を用いた。0.5kgの近赤外線吸収分散液1をスチール缶(商品名「雑缶1KG、ヨーセツ(190H)キャンエクセル」)に入れ、蓋をして密封状態とし、室内温度が0℃とされた冷蔵室に保管した。保管期間は、7日、14日及び28日の3種類とした。7日経過後、14日経過後及び28日経過後の近赤外線吸収分散液1のそれぞれについて、液安定性の評価を行った。これらの評価結果が下記の表1に示される。
【0161】
また、7日経過後、14日経過後及び28日経過後の近赤外線吸収分散液1のそれぞれについて、試験体が作成された。この試験体の作成方法は次の通りである。保管期間経過後の上記近赤外線吸収分散液1と、上記合成例3で得られた樹脂(1a)とを、固形分重量比で1:100(1質量部の分散液1に対して、100質量部の樹脂(1a))の割合で混合し、固形分が25質量%となるように酢酸エチルで希釈して、分散液試験用液体を得た。アプリケーターを用いて、この分散液試験用液体を、易接着処理PETフィルム(東洋紡績社製、コスモシャインA4300)上に塗工した。塗工時の厚みは、乾燥後の塗布層の厚みが25μmとなるように設定した。次いで、100℃の熱風循環オーブン中にて2分間乾燥させた。この乾燥後の塗布層をガラス板に貼り付けて、試験体を得た。よって、試験体は3種類作成されたことになる。これら3種類の試験体とは、7日経過後の分散液1に係る試験体、14日経過後の分散液1に係る試験体及び28日経過後の分散液1に係る試験体である。これらの試験体について、近赤外線吸収能の保持性の評価がなされた。この評価結果が下記の表1に示される。
【0162】
[実施例2]
保存温度が0℃から−10℃に変更された他は実施例1と同様にして、評価がなされた。この結果が下記の表1に示される。
【0163】
[実施例3]
容器が上記スチール缶からコーティング缶(商品名「T40ツヤニス尼30号クラウン缶」)に変更され、保存温度が10℃とされた他は実施例1と同様にして、評価がなされた。この結果が下記の表1に示される。
【0164】
[実施例4]
保存温度が10℃から0℃に変更された他は実施例3と同様にして、評価がなされた。この結果が下記の表1に示される。
【0165】
[実施例5]
上記分散液1に代えて、上記合成例2で得られた上記分散液2が用いられた他は実施例4と同様にして、評価がなされた。この結果が下記の表1に示される。
【0166】
[比較例1]
保存温度が25℃とされた他は実施例1と同様にして、評価がなされた。この結果が下記の表1に示される。
【0167】
[比較例2]
保存温度が50℃とされた他は実施例3と同様にして、評価がなされた。この結果が下記の表1に示される。
【0168】
[比較例3]
上記分散液1に代えて、上記合成例2で得られた上記分散液2が用いられた他は比較例2と同様にして、評価がなされた。この結果が下記の表1に示される。
【0169】
[実施例6]
上記合成例1で得られた近赤外線吸収分散液1と、上記合成例3で得られた樹脂(1a)とを用いた。近赤外線吸収分散液1と樹脂(1a)とを、固形分重量比で1:100(1質量部の分散液1に対して、100質量部の樹脂(1a))の割合で混合し、固形分が40質量%となるように酢酸エチルで希釈して、近赤外線吸収粘着剤1を得た。0.5kgの近赤外線吸収粘着剤1をスチール缶(商品名「雑缶1KG、ヨーセツ(190H)キャンエクセル」)に入れ、蓋をして密封状態とし、室内温度が0℃とされた冷蔵室に保管した。保管期間は、7日、14日及び28日の3種類とした。7日経過後、14日経過後及び28日経過後の近赤外線吸収粘着剤1のそれぞれについて、液安定性の評価を行った。これらの評価結果が下記の表2に示される。
【0170】
また、7日経過後、14日経過後及び28日経過後の近赤外線吸収粘着剤1のそれぞれについて、試験体が作成された。この試験体の作成方法は次の通りである。保管期間経過後の上記近赤外線吸収粘着剤1を、固形分が25質量%となるように酢酸エチルで希釈して、粘着剤試験用液体を得た。アプリケーターを用いて、この粘着剤試験用液体を、易接着処理PETフィルム(東洋紡績社製、コスモシャインA4300)上に塗工した。塗工時の厚みは、乾燥後の塗布層の厚みが25μmとなるように設定した。次いで、100℃の熱風循環オーブン中にて2分間乾燥させた。この乾燥後の塗布層をガラス板に貼り付けて、試験体を得た。よって、試験体は3種類作成されたことになる。これら3種類の試験体とは、7日経過後の粘着剤1に係る試験体、14日経過後の粘着剤1に係る試験体及び28日経過後の粘着剤1に係る試験体である。これらの試験体について、近赤外線吸収能の保持性の評価がなされた。この評価結果が下記の表2に示される。
【0171】
[実施例7]
保存温度が0℃から−10℃に変更された他は実施例6と同様にして、評価がなされた。この結果が下記の表2に示される。
【0172】
[実施例8]
容器が上記スチール缶からコーティング缶(商品名「T40ツヤニス尼30号クラウン缶」)に変更され、保存温度が10℃とされた他は実施例6と同様にして、評価がなされた。この結果が下記の表2に示される。
【0173】
[実施例9]
保存温度が10℃から0℃に変更された他は実施例8と同様にして、評価がなされた。この結果が下記の表2に示される。
【0174】
[実施例10]
上記合成例2で得られた近赤外線吸収分散液2と、上記合成例3で得られた樹脂(1a)とを用いた。近赤外線吸収分散液2と樹脂(1a)とを、固形分重量比で1:100(1質量部の分散液2固形分に対して、100質量部の樹脂(1a)固形分)の割合で混合し、固形分が40質量%となるように酢酸エチルで希釈して、近赤外線吸収粘着剤2を得た。上記近赤外線吸収粘着剤1に代えてこの近赤外線吸収粘着剤2が用いられた他は、実施例9と同様にして、評価がなされた。この評価結果が下記の表2に示される。
【0175】
[比較例4]
保存温度が25℃とされた他は実施例6と同様にして、評価がなされた。この結果が下記の表2に示される。
【0176】
[比較例5]
保存温度が50℃とされた他は実施例8と同様にして、評価がなされた。この結果が下記の表2に示される。
【0177】
[比較例6]
上記近赤外線吸収粘着剤1に代えて、上記実施例10で得られた上記近赤外線吸収粘着剤2が用いられた他は比較例5と同様にして、評価がなされた。この結果が下記の表2に示される。
【0178】
下記の表3には、本発明で使用されうる保存用中空体(容器)が例示されている。これらのうち、ラミネート缶A(商品名「ハイブリッド1.3L缶」)は、図4及び図5に示された実施形態と同じ構造を有する。ただし、本体の外側には、さび止め層としてのツヤニス層が設けられている。また、ラミネート缶B(商品名「エフティ缶」)は、図3に示される2層構造の外側にさび止め層(ツヤニス層)が設けられた3層構造であり、本体の材質はティンフリースチールであり、内層は厚さ50μmのポリプロピレンフィルムである。プラスチック容器(商品名「5BL」)は、その内面も含め、材質がポリエチレン(高密度ポリエチレン)である。また、コーティング缶(商品名「T40ツヤニス尼30号クラウン缶」)は、3層構造であり、本体の外側にさび止め層(ツヤニス層)を有し、本体の材質はティンフリースチールであり、内層の材質はエポキシ樹脂である。この内層のエポキシ樹脂は、本体に焼き付け塗装されている。また、ホウ珪酸ガラス容器(商品名「プレミアムボトル」)は、その内面及び本体の材質がホウ珪酸ガラスである。また、スチール缶(商品名「雑缶1KG、ヨーセツ(190H)キャンエクセル」)は、その内面及び本体の材質がティンフリースチールであり、本体の外側にさび止め層(ツヤニス層)を有する。また、SUS304製容器(商品名「ステンボトル」)は、その内面及び本体の材質がSUS304である。
【0179】
【表1】

【0180】
【表2】

【0181】
【表3】

【0182】
表1及び表2に示されるように、実施例は、比較例に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0183】
以上説明された方法は、ジイモニウム色素含有組成物の保存及び移送(輸送を含む)に適用されうる。
【符号の説明】
【0184】
2・・・容器(保存用中空体、移送用中空体、輸送用中空体)
4・・・本体
6・・・密封部材(蓋)
10・・・容器(保存用中空体、移送用中空体、輸送用中空体)
12・・・密封部材(蓋)
14・・・外面
16・・・内面
18・・・本体
20・・・内層
22・・・容器(保存用中空体、移送用中空体、輸送用中空体)
24・・・密封部材(蓋)
26・・・外面
27・・・内面
28・・・本体
29・・・内層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジイモニウム色素含有組成物を保存用中空体又は移送用中空体に入れて保存又は移送をする方法であって、
上記保存用中空体又は上記移送用中空体を用意する工程と、
上記保存用中空体又は上記移送用中空体に上記ジイモニウム色素含有組成物を入れる工程と、
20℃以下の温度で、上記ジイモニウム色素含有組成物を保存又は移送する工程とを含み、
上記ジイモニウム色素含有組成物が、ジイモニウム色素を溶剤(D)に分散させた分散体(A)を含むジイモニウム色素含有組成物の保存又は移送の方法。
【請求項2】
上記保存用中空体又は上記移送用中空体の内面の材質が、非金属又はステンレス鋼である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記非金属が、樹脂又はガラスである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記溶剤(D)に対する上記ジイモニウム色素の溶解度(Y)が5質量%未満である請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
上記ジイモニウム色素を上記溶剤(D)に対して0.01質量%の割合で混合した混合液を調整し、この混合液を30分間超音波にかけた後、1時間以上静置して測定されたこの上澄み液の吸光度(X)が0.5以下である請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
上記ジイモニウム色素含有組成物が、樹脂(B)を更に含む請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
上記樹脂(B)のガラス転移温度が0℃以下である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記ジイモニウム色素が、下記式(1)で示されるジイモニウムカチオンを有する請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【化3】


ただし、式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上10以下のアルキル基または置換基を有する炭素数1以上10以下のアルキル基を表わす。
【請求項9】
ジイモニウム色素含有組成物を保存用中空体又は移送用中空体に入れて保存又は移送をする方法であって、
上記保存用中空体又は上記移送用中空体を用意する工程と、
上記保存用中空体又は上記移送用中空体に上記ジイモニウム色素含有組成物を入れる工程と、
20℃以下の温度で、上記ジイモニウム色素含有組成物を保存又は移送する工程とを含み、
上記ジイモニウム色素含有組成物が、ジイモニウム色素と、そのジイモニウム色素に対する溶解度(Y)が5質量%未満である溶剤(D)とが混合された液体(C)を含むジイモニウム色素含有組成物の保存又は移送の方法。
【請求項10】
上記保存用中空体又は上記移送用中空体の内面の材質が、非金属又はステンレス鋼である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ジイモニウム色素含有組成物を保存用中空体又は移送用中空体に入れて保存又は移送をする方法であって、
上記保存用中空体又は上記移送用中空体を用意する工程と、
上記保存用中空体又は上記移送用中空体に上記ジイモニウム色素含有組成物を入れる工程と、
20℃以下の温度で、上記ジイモニウム色素含有組成物を保存又は移送する工程とを含み、
上記ジイモニウム色素を上記溶剤(D)に対して0.01質量%の割合で混合した混合液を調整し、この混合液を30分間超音波にかけた後、1時間以上静置して測定されたこの上澄み液の吸光度(X)が0.5以下である保存又は移送の方法。
【請求項12】
上記保存用中空体又は上記移送用中空体の内面の材質が、非金属又はステンレス鋼である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ジイモニウム色素含有組成物を保存用中空体又は移送用中空体に入れて保存又は移送をする方法であって、
上記保存用中空体又は上記移送用中空体を用意する工程と、
上記保存用中空体又は上記移送用中空体に上記ジイモニウム色素含有組成物を入れる工程と、
20℃以下の温度で、上記ジイモニウム色素含有組成物を保存又は移送する工程とを含み、
上記ジイモニウム色素含有組成物において、ジイモニウム色素が分散しているジイモニウム色素含有組成物の保存又は移送の方法。
【請求項14】
上記保存用中空体又は上記移送用中空体の内面の材質が、非金属又はステンレス鋼である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ジイモニウム色素含有組成物を保存用中空体又は移送用中空体に入れて保存又は移送をする方法であって、
上記保存用中空体又は上記移送用中空体を用意する工程と、
上記保存用中空体又は上記移送用中空体に上記ジイモニウム色素含有組成物を入れる工程と、
20℃以下の温度で、上記ジイモニウム色素含有組成物を保存又は移送する工程とを含み、
上記ジイモニウム色素含有組成物には、上記ジイモニウム色素を溶剤(D)に分散させた分散体(A)が混合されているジイモニウム色素含有組成物の保存又は移送の方法。
【請求項16】
上記保存用中空体又は上記移送用中空体の内面の材質が、非金属又はステンレス鋼である請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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