説明

ジイン組成物

【課題】
【解決手段】本明細書に記載の新規のジイン化合物及びジイン塩群は、効果的且つ強力なOle1タンパク質阻害剤であり、病原真菌の処置に有用である。化合物、殺真菌薬、及び方法が、ヒト及び動物と、農園芸環境とにおける様々な病原真菌の処置用の新規の強力且つ広域スペクトル抗真菌剤として提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ole1タンパク質阻害剤としてのジイン及びジイン塩と、ヒト、動物、及び植物における真菌感染症を治療するための方法とを含む。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、米国特許法第119条(e)項に基づき、出典を明記することによりその開示内容全体を本願明細書の一部とした、2009年7月10日提出の米国仮特許出願第61/224,627号、2009年7月10日提出の第61/224,632号、2010年4月30日提出の第61/330,169号、及び2010年5月19日提出の第61/346,381号に基づく優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
真菌感染症の発生率は、抗生物質の使用、免疫抑制又は免疫不全人口の増加(主に癌治療、HIV、アレルギ治療、移植、及び一般外科による)、及び老齢人口の増加の結果として徐々に上昇している。真菌感染症は、重篤且つ生命を脅かす疾患、例えば、全身性カンジダ症を含む。カンジダ種は、総合内科において感染の80%、HIV人口において40%、及び癌治療及び外科的な非移植症例の両方において90%を占める。カンジダは、院内血液感染の最大の原因の1つであり、全感染の8%程度を占めており、5種(C. albicans、C. glabrata、C. parapsilosis、C. tropicalis、及びC. krusei)がカンジダによる侵襲的感染の90%超に関与している。全身性真菌感染症による死亡率は、新たな抗真菌剤の開発にもかかわらず高い状態が続いており、1980年以降、Aspergillus fumigatusによる死亡率は357%増えており、引き続き増加している。
【0004】
真菌細胞及びヒト細胞の基本構造は類似していることから、感染した生物には存在しない抗真菌薬の標的を発見することが困難となっている。そのため、現在利用可能な薬物には副作用があり、その一部は生命を脅かす恐れがある。
【0005】
現在、治療は、主に次の4種類の薬物に基づいている:真菌細胞膜内のステロール、主にエルゴステロールと結合するポリエン(例えば、アンホテリシンB); エルゴステロール合成及び真菌細胞膜の恒常性に必要なシトクロムP450 14α-デメチラーゼを阻害するイミダゾール及びトリアゾール(例えば、フルコナゾール又はイトラコナゾール); エルゴステロール合成に必要な別の酵素であるスクアレンエポキシダーゼ酵素を阻害するアリルアミン(例えば、テルビナフィン); 及び細胞壁におけるグルカンの合成を阻害するエキノキャンディン(例えば、カスポファンギン)。こうした薬物は、有効率が低く、深刻な副作用を伴う。アンホテリシンBは、腎毒性であり、テルビナフィンは、肝臓の損傷を伴い、アゾールに対しては全般的な不耐性が存在する。膣カンジダ症を有する女性の最大20%は、フルコナゾールに耐えられない。更に、多くの病原菌株は、現在利用可能な抗真菌薬に対して非感受性又は耐性を有しており、耐性発現が懸念される。そのため、真菌感染症による死亡率は高い状態が続いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,541,506号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
他の蔓延する真菌感染症は、爪の真菌感染症である爪真菌症であり、一般の米国人口の2乃至13%、高齢及び糖尿病人口の25%までが感染していると推定される。一般的な危険因子には、高齢、男性、糖尿病、爪の外傷、及び慢性的な足白癬(足の真菌感染症)が含まれる。爪真菌症は、美容的、心理的、及び社会的に大きな影響を有する。一部の患者集団では、深刻な医学的結果を生じる(例えば、糖尿病における足切断)。現在、こうした感染症は、著しい毒性を有する経口薬により主に治療される。理想的には、即効性の局所的手法が望ましいが、既存の局所薬は、爪の下に存在する真菌に到達することが困難であるため有効性が非常に低い。
【0008】
農園芸において、作物及び他の植物(例えば、装飾及び観賞植物)の様々な病原真菌により生じる収率損失は、特に、さび病、腐敗病(根及び果実)、斑点病、ウドンコ病、及び立ち枯れ病といった真菌病害の主要グループ全体で非常に大きい。
【0009】
米国特許第6,541,506号では、2つの三重結合と1つの二重結合を有する化合物であるエンジイン酸が説明されており、真菌細胞の成長を阻害するための、その使用可能性が示唆されている。
【0010】
しかしながら現在まで、既存の抗真菌薬の欠点の無い、全身的又は局所的に使用する効果的な抗真菌剤は発見されていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、新規の化合物群が広範な病原真菌においてOle1タンパク質の機能を阻害することが分かり、そのため真菌の成長を阻害することが可能であるという発見に基づいている。したがって、本発明者らは、対象者を治療するための製剤、及び農園芸環境での使用向けの抗真菌化合物を考察する。
【0012】
したがって、本発明は、Ole1タンパク質阻害剤を含む新規の殺真菌薬を提供する。
【0013】
本発明は、更に、新規のジイン化合物、その塩、誘導体、及び類似体を提供する。
【0014】
本発明の好適な実施形態は、構造IIの新規のOle1タンパク質阻害剤であり、
【化1】

ここでR1は、ヒドロキシル基、或いは加水分解反応においてヒドロキシル基に置き換え可能な部分であり; 各R2は、それぞれ独立して、H、或いは1乃至4個の炭素原子を含む1価の炭化水素部分であり; R4は、好ましくは、C1-5アルキル、C1-5アルケニル、C1-5アルコキシ、C1-5アルコール、ヒドロキシル、アミン、硝酸塩、及びハロゲンからなる群から選択された1つ以上の置換基により、1つ以上の位置において随意に置換された複素環であり; かつ、xは、4乃至10の整数である。好適な実施形態において、R4は、ピロール環、フラン環、又はチオフェン環である。
【0015】
II及び下記IXの両方において、以下の説明に記載したように、特定の置換基が考えられる。
【0016】
好適な殺真菌薬は、構造IIIの化合物と、
【化2】

そのカリウム塩(IV)又はナトリウム塩(V)とである。
【0017】
他の好適な化合物は、構造VI乃至VIIIの化合物である。
【0018】
本発明では、更に、構造IXの化合物が考えられ、
【化3】

ここでR1は、ヒドロキシル基、或いは加水分解反応においてヒドロキシル基に置き換え可能な部分であり; 各R2は、それぞれ独立して、H、或いは1乃至4個の炭素原子を含む1価の炭化水素部分であり; R4は、好ましくは、C1-5アルキル、C1-5アルケニル、C1-5アルコキシ、C1-5アルコール、ヒドロキシル、アミン、ニトロ基、及びハロゲンからなる群から選択された1つ以上の置換基により、1つ以上の位置において随意に置換された複素環であり; かつ、xは、4乃至10の整数である。好適な実施形態において、R4は、ピロール環、フラン環、又はチオフェン環である。
【0019】
好適な化合物は、X乃至XIIの何れかの構造を有するものを含む。
【0020】
本発明では、更に、Ole1タンパク質阻害剤を含む殺真菌薬が考えられる。
【0021】
Ole1タンパク質阻害剤が構造II乃至XIIの化合物からなる群から選択される、好適な殺真菌薬が提供される。
【0022】
更に具体的には、Ole1阻害剤は、IIの構造を有する化合物、
【化4】

或いは、IXの構造を有する化合物である。
【化5】

【0023】
好適なOle1阻害剤の1つは、化合物III、
【化6】

或いはそのカリウム塩、IV、
【化7】

或いはそのナトリウム塩、化合物Vである。
【化8】

【0024】
他の好適な殺真菌薬は、VI、VII、及びVIIIの何れかの構造を有するOle1阻害剤を含む。
【0025】
別の好適なOle1阻害剤は、X乃至XIIの何れかの構造を有する化合物である。
【0026】
本発明者らは、更に、II乃至XIIの何れかの構造を有する化合物である、Ole1タンパク質阻害剤を含む殺真菌薬を提供する方法を考察する。
【0027】
本発明では、更に、Ole1タンパク質阻害剤を製剤に添加するステップを備える、病原真菌に対する製剤を提供する方法、或いは、病原真菌に対する製剤の殺真菌活性を高める方法が考えられ、ここでOle1阻害剤は、II乃至XIIの何れかの構造を有する化合物である。
【0028】
本発明の殺真菌薬及び本発明の方法の好適な実施形態において、対象者は、動物であり、好ましくは、哺乳類、更に好ましくは、ヒトである。
【0029】
化合物は、更に、治療的に使用される他の1又は複数の抗真菌物質群との併用療法において使用し得る。
【0030】
本発明では、以下からなる群から選択された任意の1又は複数の病原真菌に対する本発明の化合物及び殺真菌薬の使用が考えられる: Candida 菌種 (例えば C. albicans、C. krusei、C. glabrata、C. tropicalis、C. parapsilosis、C. guilliermondii、C. haemulonii、C. lusitaniae、C. lipolytica、C. norvegensis、C. viswanathii、C. kefyr 又はC. dubliniensis), Aspergillus 菌種 (例えばA. fumigatus、A. flavus、A. niger 又はA. terreus,) Histoplasma capsulatum、Coccidioides immitis、Coccidioides posadasii, Cryptococcus 菌種 (例えば C. neoformans (例えば 変種 neoformans 又は変種 gattii)、C. bidus、C. laurentii、又はC. fusarium), Zygomycetes (例えば Rhizopus oryzae、R. micropsorus、R. pusillus、Cunninghamelle bertholletiae、Saksenaea vasiformis、Mucor circinelloides、M. ramosissimus、Absidia corymbifera、Apophysomyces elegans、Cokeromyces recurvatus 又はSyncephalastrum racemosum), Malassezia 菌種 (例えば M. furfur 又はM. globosa), Hyalohyphomycetes (例えば Fusarium solani 又はScedosporium 菌種、例えばS. prolificans 又はS. apiospermum), Dermatophytes (例えば Trichophyton 菌種 (例えば T. mentagrophytes、T. rubrum 又はT. tonsurans)、Epidermophyton floccosum、Microsporum spp (例えば M. cookei、M. canis、M. vanbreuseghemii、M. gallinae 又はM. gypseum) 又はTrichosporon terrestre), Blastomyces dermatitidis、Sporothrix schenkii, Chromomycotic fungi (例えば Fonsecaea pedrosoi、F. compacta、Cladophylophora carrionii 又はPhialophora verrucosa) 及び Madurella 菌種 (例えば M. mycetomatis 又はM. griseum), Pneumocystis jirovecii、Pneumocystis carinii、Ascomycota Botrytis cinerea; Magnaporthe grisea; Anamorph: Pyricularia oryzae Colletotrichum gleoesporioides-Chilli 菌株; Colletotrichum gleoesporioides-mango 菌株; Fusarium verticillioides; Fusarium oxysporum; Alternaria solani; Uncinula necator Syn Erysiphe necator; Macrophomina phaseolina; Syn. Sclerotium bataticola 及びRizoctonia bataticola; Botryodiplodia theobromae; Basidiomycota Sclerotium rolfsii; Rhizoctonia solani; Puccinia arachidis; Oomycota Pythium aphanidermatum; 及びPlasmopara viticola Syn. Personopora viticola.
【0031】
本発明者らは、更に、本発明の1又は複数の殺真菌薬を製剤に添加するステップを備える、農園芸環境において使用する殺真菌製剤を提供する方法、或いは、農園芸環境において使用する製剤の殺真菌活性を高める方法を考察する。
【0032】
好適な実施形態において、製剤は、植物、草、又は畑において病原真菌に対抗するために使用される。
【0033】
本発明者らは、更に、Ole1阻害剤により改善又は予防可能な疾患に苦しんでいる又は影響されやすい哺乳類を治療する薬剤の調製のための、化合物II乃至VIIIの何れかを含む殺真菌薬の使用を考察する。
【0034】
本発明者らは、更に、本発明の構造II乃至VIIIの化合物又は殺真菌薬を1つ以上備えた、対象者において病原真菌を治療するためのキットを考察する。
【0035】
本発明者らは、更に、Ole1タンパク質阻害剤による農園芸病害の処置により改善又は予防可能な農園芸病害の処置を準備するための、化合物II乃至XIIの何れかを含む殺真菌薬の使用を考察する。
【0036】
本発明者らは、更に、本発明の構造II乃至XIIの化合物又は殺真菌薬を1つ以上備えた、農園芸用殺真菌薬のキットを考察する。
【0037】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の好適な実施形態の説明及び特許請求の範囲から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】均質化組織1グラム当たりのコロニ形成単位(CFU)により決定した肝臓の真菌負荷を示す図である。
【図2】均質化組織1グラム当たりのコロニ形成単位(CFU)により決定した腎臓の真菌負荷を示す図である。
【図3】均質化組織1グラム当たりのコロニ形成単位(CFU)により決定した腎臓の真菌負荷を示す図である。
【図4】感染部位から除去した培養陽性の毛から決定した局所真菌負荷を示す図である。
【図5】膣洗浄液からコロニ形成単位(CFU)により決定した膣の真菌負荷を示す図である。
【図6】OLE1転写活性化の制御を示す図である。
【図7a】オレイン酸は、化合物Vの拮抗物質となるが、ステアリン酸はならないことを示す図である。
【図7b−c】オレイン酸が化合物IVに対する拮抗作用を有するが、ステアリン酸は有しないことを示す図である。
【図8a】S. cerevisiaeにおける化合物IVに応答したOLE1遺伝子の時間依存発現を示す図である。
【図8b】C. albicansにおける化合物IVに応答したOLE1遺伝子の時間及び濃度依存発現を示す図である。
【図9】カリウム塩XIIの抗真菌作用による菌糸成長面の変化及び菌糸の異常な肥厚と比較した、正常な菌糸成長を示す図である(下方の2枚の写真)(上方の2枚の写真は対照)。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、Ole1タンパク質阻害剤を含む新たな殺真菌薬群を提供する。
【0040】
したがって、本発明の新規の殺真菌薬は、新規のジイン及びその塩、誘導体、及び類似体を含み、幅広い病原真菌に対する強力な抗真菌薬として機能する。本発明のOle1タンパク質阻害剤は、幅広い病原真菌に対する、ヒト及び動物の処置用の強力な広域スペクトルの抗真菌剤を提供する。加えて、当該化合物は、農園芸に関する病原真菌に対する効果的な殺真菌薬を提供する。
【0041】
その作用形態のため処置薬が望ましくない副作用を有する現在利用可能な処置計画にとって、本発明の化合物は非常に魅力的な代替物となる
【0042】
本発明者らは、本発明の化合物がOle1タンパク質の阻害によりオレイン酸生合成を阻害すること、この過程が菌界全体で保存されていると思われることを明らかにした。更に、本化合物を、既存の抗真菌薬の作用形態に対して試験し、既存の薬物の標的を介して作用していないことを明らかにした。したがって、本発明の化合物は、広域スペクトルの抗真菌処置にとって非常に有望な、新たな作用機構を提供する。本発明の化合物は、これまで殺真菌薬の開発において利用されてこなかった作用機構であるOle1タンパク質の阻害を活用している。Ole1タンパク質は、真菌生物の生存に不可欠である。
【0043】
したがって、本明細書では、共に一般式Iの化合物から誘導された2つの新たな抗真菌化合物群を提供し
【化9】

ここでR1は、ヒドロキシル基、或いは加水分解反応においてヒドロキシル基に置き換え可能な部分であり; 各R2は、それぞれ独立して、H、或いは1乃至4個の炭素原子を含む1価の炭化水素部分であり; R3は、C2H2又はC2H4であり; R4は、ピロール環、フラン環、又はチオフェン環であり; かつ、xは、4乃至10の整数である。
【0044】
したがって、本発明では、構造IIのシス異性体(Z)に基づく新たな抗真菌化合物が提供され、
【化10】

ここでR1は、ヒドロキシル基、或いは加水分解反応においてヒドロキシル基に置き換え可能な部分であり; 各R2は、それぞれ独立して、H、或いは1乃至4個の炭素原子を含む1価の炭化水素部分であり; R4は、好ましくは、C1-5アルキル、C1-5アルケニル、C1-5アルコキシ、C1-5アルコール、ヒドロキシル、アミン、ニトロ基、及びハロゲンからなる群から選択された1つ以上の置換基により、1つ以上の位置において随意に置換された複素環であり; かつ、xは、4乃至10の整数である。
【0045】
一実施形態において、R4は、ピロール環、フラン環、又はチオフェン環である。他の実施形態において、R4は、イミダゾール、オキサゾール、及びシクロペンタジエンである。
【0046】
他の好適な実施形態において、R4は、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルコキシ、低級アルコール、ヒドロキシル、アミン、NO2、及びハロゲンからなる群から選択された1つ以上、好ましくは、1つ又は2つにより、1つ以上の位置において置換された複素環である。低級アルキルは、好ましくはC1-5、より好ましくはC1-3、更に好ましくはC1アルキルである。低級アルケニルは、好ましくはC1-5、より好ましくはC1-3、更に好ましくはC1-2アルケニルである。低級アルコキシは、好ましくはC1-5、より好ましくはC1-3、更に好ましくはC1アルコキシである。低級アルコールは、好ましくはC1-5、より好ましくはC1-3、更に好ましくはC1アルコールであり、OH基を1つ以上、好ましくはOH基を1つのみ含む。ハロゲンは、任意のハロゲンでよいが、好ましくはFである。しかしながら、R4は、置換されていない複素環であること、或いは、R4は、小さな置換基、好ましくは、メチル、メトキシ、ヒドロキシル、CH2-OH、アミン、及びハロゲンからなる群から選択された、好ましくはメチルである小さな置換基により置換された複素環であることが好適である。
【0047】
他の実施形態において、R4は、好ましくは3乃至7員複素環、より好ましくは5乃至6員複素環、更に好ましくは5員複素環である。複素環は、芳香環であっても非芳香環であってもよい。一実施形態において、複素環は、3乃至7員芳香複素環、より好ましくは5乃至6員芳香複素環、更に好ましくは5員芳香複素環である。
【0048】
複素環は、好ましくは、S、N、及びOからなる群から選択された、1個以上のヘテロ原子、好ましくは1乃至3個の範囲のヘテロ原子、より好ましくは1乃至2個の範囲のヘテロ原子、更に好ましくは1個のヘテロ原子を含む。
【0049】
例えば、本発明の好適な化合物は、(Z)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸、IIIの構造のもの、及びそのカリウム及びナトリウム塩である。実質的に純粋なシス異性体、(Z)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸、
【化11】

及びそのカリウム塩、
【化12】

は、本発明の好適な実施形態である。シス又はZ異性体化合物の生成は、シス/トランス構造を決定し且つ98:2のシス:トランス比でシス異性体を主に生成する位置選択的Wittig反応の段階となる(下記実施例5参照)。同様に、好適な塩化合物は、(Z)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸のナトリウム塩、Vである。
【化13】

【0050】
これらの好適なシス(又はZ)異性体化合物は、水溶性の高い塩であり、公知の如何なる抗真菌剤群とも化学的に異なる。
【0051】
更に、IIIの化学的類似体、例えば、(Z)-14-(4,5-ジメチルフラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸(VI)、
【化14】

8-(2-(4-(フラン-2-イル)ブタ-1,3-ジイニル)フェニル)オクタン酸(VII)が提供される。
【化15】

【0052】
一般式Iのトランス類似体は、非置換の、又は化合物IIにおいて上述したように置換された、(E)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸(VIII)である。
【化16】

【0053】
この新規の化合物群は、エンジイン化合物の一般構造R1-C(O)-(C(R2)2)x-C2 H2-C4-R3 に関し、その開示内容全体を本願明細書の一部とした米国特許第6,541,506号に開示される。この特許では、構造R1-C(O)-(C(R2)2)x-C2 H2-C4-R3は、異性体の混合物として開示されており、開示された合成体は、主にトランス異性体として説明されている。この特許では、実質的に純粋なシス化合物を単離することについて開示も示唆もされていない。特許では、抗真菌特性が開示化合物に伴うと述べているが、溶解性が低いことから、製剤には適さない。この特許では、C2H2基がアルキル部分である化合物を全く開示していない。
【0054】
本発明では、更に、上記構造Iの化合物に類似するが、R3基がアルキル部分であり、R3の位置に二重結合ではなく単結合を有する別の新たな化合物群が提供される。この群も、同じく強力な抗真菌活性をもたらすことが明らかとなっている。
【0055】
したがって、本発明の好適な実施形態は、類似体IXを含み、
【化17】

ここでR1は、ヒドロキシル基、或いは加水分解反応においてヒドロキシル基に置き換え可能な部分であり; 各R2は、それぞれ独立して、H、或いは1乃至4個の炭素原子を含む1価の炭化水素部分であり; R4は、好ましくは、C1-5アルキル、C1-5アルケニル、C1-5アルコキシ、C1-5アルコール、ヒドロキシル、アミン、ニトロ基、及びハロゲンからなる群から選択された1つ以上の置換基により、1つ以上の位置において随意に置換された複素環であり; かつ、xは、4乃至10の整数である。
【0056】
好適な実施形態において、R4は、ピロール環、フラン環、又はチオフェン環である。他の実施形態において、R4は、イミダゾール、オキサゾール、及びシクロペンタジエンである。
【0057】
他の好適な実施形態において、R4は、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルコキシ、低級アルコール、ヒドロキシル、アミン、-NO2、及びハロゲンからなる群から選択された1つ以上、好ましくは、1つ又は2つにより、1つ以上の位置において置換された複素環である。低級アルキルは、好ましくはC1-5、より好ましくはC1-3、更に好ましくはC1アルキルである。低級アルケニルは、好ましくはC1-5、より好ましくはC1-3、更に好ましくはC1-2アルケニルである。低級アルコキシは、好ましくはC1-5、より好ましくはC1-3、更に好ましくはC1アルコキシである。低級アルコールは、好ましくはC1-5、より好ましくはC1-3、更に好ましくはC1アルコールであり、OH基を1つ以上、好ましくはOH基を1つのみ含む。ハロゲンは、任意のハロゲンでよいが、好ましくはFである。しかしながら、R4は、置換されていない複素環であること、或いは、R4は、小さな置換基、好ましくは、メチル、メトキシ、ヒドロキシル、CH2-OH、アミン、及びハロゲンからなる群から選択された、好ましくはメチルである小さな置換基により置換された複素環であることが好適である。
【0058】
他の実施形態において、R4は、好ましくは3乃至7員複素環、より好ましくは5乃至6員複素環、更に好ましくは5員複素環である。複素環は、芳香環であっても非芳香環であってもよい。一実施形態において、複素環は、3乃至7員芳香複素環、より好ましくは5乃至6員芳香複素環、更に好ましくは5員芳香複素環である。
【0059】
複素環は、好ましくは、S、N、及びOからなる群から選択された、1個以上のヘテロ原子、好ましくは1乃至3個の範囲のヘテロ原子、より好ましくは1乃至2個の範囲のヘテロ原子、更に好ましくは1個のヘテロ原子を含む。
【0060】
したがって、本発明では、未知の開示されていない酸である上記化合物IIIの単結合類似体、化合物14-(フラン-2-イル)テトラデカ-11,13-ジイン酸、Xが考えられる。
【化18】

【0061】
14-(フラン-2-イル)テトラデカ-11,13-ジイン酸及びその塩、例えば、ナトリウム塩、XI、
【化19】

及びカリウム塩XIIは、両方とも効果的且つ強力なOle1タンパク質阻害剤であり、農園芸に関する病原真菌の駆逐及び低減において有効性及び効果を示し、農園芸環境で使用するための効果的且つ強力な殺真菌薬をもたらす。
【0062】
好適な実施形態において、可溶性が高く、製剤に適した本発明の化合物及び塩は、ヒト及び動物の様々な病原真菌の殺真菌薬として、製剤に対して効果の高い成分をもたらす。
【0063】
したがって、本明細書では、塩、酸、及び類似体等、化合物IIに由来する又は基づく本発明の化合物を、広範な受容者及び送達方式に適した製剤及び他の形態にして用いる効果的且つ強力な抗真菌剤として使用する方法が説明される。Ole1タンパク質阻害剤の機構による、その強力な抗真菌能力は、現在の抗真菌薬処置及び殺真菌薬の優れた代替物を提供する。
【0064】
本発明による好適なジイン化合物は、(Z)-12-(フラン-2-イル)ドデカ-7-エン-9,11-ジイン酸カリウムである。
【0065】
本発明による他の好適なジイン化合物は、(Z)-13-(フラン-2-イル)トリデカ-8-en-10,12-ジイン酸カリウムである。
【0066】
本発明による他の好適なジイン化合物は、(E)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸カリウムである。
【0067】
本発明による他の好適なジイン化合物は、ジイン化合物(Z)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸カリウムである。
【0068】
本発明による他の好適なジイン化合物は、ジイン化合物14-(フラン-2-イル)テトラデカ-11,13-ジイン酸カリウムである。
【0069】
本発明の他の実施形態において、ジイン化合物は、(Z)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸カリウム塩; (Z)-14-(5-メチルフラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸カリウム塩; 8-(2-(4-(フラン-2-イル)ブタ-1,3-ジイニル)フェニル)オクタン酸カリウム塩; (Z)-14-(4,5-ジメチルフラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸カリウム塩、及び14-(フラン-2-イル)テトラデカ-11,13-ジイン酸カリウム塩からなる群から選択し得る。
【0070】
Ole1タンパク質の阻害の機構
【0071】
Ole1タンパク質阻害剤は、Ole1タンパク質が真菌生物に不可欠なタンパク質であることから、必然的に殺真菌性を有する。脂質の生合成において、Ole1タンパク質は、ステアリン酸をオレイン酸に転換する。オレイン酸は、脂質の必須成分であるため、真菌生物に不可欠であり、オレイン酸がなければ、真菌生物は核膜の崩壊により生存できない。
【0072】
本発明者らは、ノックアウト酵母菌株を試験し、その結果として、Saccharomyces cerevisiaeにおいてOle1タンパク質が本発明の化合物の標的となり得ることが示唆された。下記実施例1を参照されたい。「競合」実験では、Saccharomyces cerevisiae及びCandida albicansの両方において、オレイン酸が本発明の化合物の拮抗物質となるが、ステアリン酸はならないことが明らかとなり、本発明の化合物がステアリン酸からオレイン酸への生合成の阻害物質である可能性が高いことが示唆された。下記実施例2を参照されたい。本発明の化合物がSaccharomyces cerevisiae及びCandida albicansの両方においてステアリン酸からオレイン酸への生合成の阻害物質であるという結論は、本発明の阻害物質が、Ole1タンパク質自体を阻害したか、或いはOLE1遺伝子の転写活性化因子Mga2及びSpt23タンパク質を阻害したかの何れかであることを意味した。その後、本発明者らは、本発明の化合物をSaccharomyces cerevisiae及びCandida albicansの両方の培地へ添加することで、OLE1遺伝子の発現が増加することを確定し、これにより、本発明の化合物がMga2及びSpt23タンパク質ではなくOle1タンパク質を標的とすることが示唆された(そうでなければ、OLE1遺伝子の転写下方制御が見られたはずであるため)。下記実施例3を参照されたい。
【0073】
Ole1タンパク質阻害剤は、広域スペクトルの殺真菌薬となる。本発明のジイン化合物は、多数の種においてOle1タンパク質を阻害することが分かっている。Ole1タンパク質は、菌界全体で保存されており、Candida albicansのOLE1遺伝子の相同配列は、以下の生物において同定されていた: Candida glabrata、Candida tropicalis、Candida parapsilosis、Candida guillermondii、Candida lusitaniae、Aspergillus fumigatus、Aspergillus terreus、Aspergillus nidulans、Coccidioides immitis、Histoplasma capsulatum、及びCryptococcus neoformans。Wilson, R. A. et al., 2004及びKraus, P. R. et al., 2004は、OLE1遺伝子が、アスペルギルス属及びクリプトコッカス属等の病原菌種に必須であることを明らかにしており、一連のヒト病原真菌の臨床分離株に対する化合物III及び化合物IVのin vitro感受性データは以下の通りである。
【0074】
in vitroでの抗真菌有効性
【0075】
化合物IVの有効性を、33のヒト病原真菌の563の臨床分離株について調査した。有効性は、ブロス微量及び大量希釈法により決定した。n≧10である種については、MIC90(MIC、最小阻止濃度)をng/mlの単位で記載している。n<10である種については、MIC範囲をng/mlの単位で記載している。24時間及び48時間の示数を示している(表1)。
【0076】
【表1−1】

【0077】
【表1−2】

【0078】
化合物III、IV、VI、VII、VIII、及びXIIのin vitro有効性を、8種類のカンジダ参照菌株において調査した。有効性は、ブロス微量希釈法により決定し、MICをng/mlの単位で記載している(表2参照)。
【0079】
【表2】

【0080】
in vivoでの抗真菌有効性
【0081】
小型哺乳類における全身性C. albicans感染症での化合物V及び化合物IVの有効性は、以下のように実証される。
【0082】
C. albicansに全身感染したラットに、化合物Vを1回の静脈内注入として12mg/kgで投与した時、肝臓の真菌負荷は、24時間後に93%減少した(均質化組織1グラム当たりのコロニ形成単位(CFU)により決定した肝臓の真菌負荷を示す図1を参照)。
【0083】
C. albicansに全身感染したラットに、化合物Vを1回の経口量として17mg/kg投与した時、腎臓の真菌負荷は、6時間後に57%減少した(均質化組織1グラム当たりのコロニ形成単位(CFU)により決定した腎臓の真菌負荷を示す図2を参照)。
【0084】
マウスをC. albicansに全身感染させた。化合物IVを1回当たり5mg/kg又は10mg/kgで1日2回、3日間経口投与した。腎臓の真菌負荷は、未処置の対照と比較して、それぞれ88%及び94%減少した。(均質化組織1グラム当たりのコロニ形成単位(CFU)により決定した腎臓の真菌負荷を示す図3を参照).
【0085】
小型哺乳類の皮膚感染における化合物IIIの有効性を、擦過皮膚においてTrichophyton mentagrophytesに感染させたモルモットにおいて明らかにした。化合物IIIは、0.1%又は1%で1日1回、7日間局所投与した。真菌負荷は、未処置の対照と比較して、それぞれ82%及び98%減少した。(感染部位から除去した培養陽性の毛から決定した局所真菌負荷を示す図4を参照)。
【0086】
小型哺乳類の膣感染における化合物IIIの有効性を明らかにした。マウスをCandida albicansにより膣感染させた。化合物IIIは、毎日0.01%で5日間局所投与した。真菌負荷は、未処置の対照と比較して、86%減少した。(膣洗浄液からコロニ形成単位(CFU)により決定した膣の真菌負荷を示す図5を参照)。
【0087】
農園芸に関する真菌感染症
【0088】
本発明のOle1タンパク質阻害剤は、幅広い農園芸目的において強力な広域スペクトルの抗真菌剤をもたらす。好適な実施形態は、化合物I、その塩及び類似体に基づく及び/又は由来する、本明細書に開示した本発明の化合物の何れかを含む。本発明のOle1タンパク質阻害剤は、真菌感染症の危険性の低減を含め、農園芸環境における真菌感染症の治療に適切且つ有効であり、特に、本発明によるOle1タンパク質阻害剤に植物を接触させることにより、植物又は草における感染症を治療する方法に使用し得る。植物は、樹木、作物、草、及び顕花植物を含む。
【0089】
したがって、本発明者らは、本明細書に記載した本発明の化合物、その誘導体、塩、及び類似体の何れかを含む殺虫剤組成物及び植物繁殖用材料を考察する。
【0090】
好適な実施形態では、化合物Xを含む殺虫剤組成物が提供される。他の好適な実施形態において、提供される殺虫剤組成物は、14-(フラン-2-イル)テトラデカ-11,13-ジイン酸である化合物X、又はその誘導体、特に化合物XI等のその塩、又はその類似体を含み、農園芸に関する病原真菌を駆逐又は低減する上で、有効且つ強力なOle1タンパク質阻害剤を提供し、農園芸環境での使用において有効且つ強力な化合物を提供する。
【0091】
他の実施形態では、同じ本発明の化合物を組み込んで、植物繁殖用材料と、一定の感受性真菌が引き起こす疾患から植物を保護するシステムと、植物、植物の部分、種子、又はその成長部位における真菌感染症を抑制又は予防する方法が提供される。
【0092】
更に、本発明の化合物X、その誘導体、塩、及び類似体を含んだ、一定の感受性真菌が引き起こす疾患から植物を保護するシステムが考察される。
【0093】
更に、本発明では、植物、植物の部分、種子、又はその成長部位における真菌感染症を予防又は抑制する方法が考察される。
【0094】
農園芸菌種における有効性
【0095】
構造IX、X、XI、及びXIIに基づく化合物と類似体及び誘導体とを、様々な農園芸環境の病原真菌に関して試験した(下記実施例4参照)。分生子/胞子は、蔓延する疾患の主要な源であり、胞子形成に影響を与えた場合、農地に蔓延する疾患が抑止される。したがって、胞子形成の阻害は、病害防除を実施する間接的な方法となる。更に、胞子形成に影響を与えた場合、病原体を殺真菌薬に適応させる遺伝子変化が次世代に受け継がれないため、耐病性の出現が最小化される。植物病原菌Colletotrichum gloeosporioidesの無性型子実体は、分生子堆(acervulus)と呼ばれる。分生子堆は、裸眼でサーモン色に見え、同心円状に発生する。化合物Xのカリウム塩を、病原体増殖の経路にある無菌紙ディスクに含ませると、菌糸の成長が阻止される。病原体は幾分成長を継続するが、ディスクに試験化合物を含ませた領域の周囲で成長した菌糸では、胞子形成が観察されない。試験化合物を拡散させた領域での菌糸成長は弱く、分生子柄への分化が発生せず、胞子形成は観察されなかった。
【0096】
M. griseaにおける胞子発芽では、形成異常及び阻害が生じる。M. griseaの対照における胞子発芽は、小さな嘴状の発芽により開始され、これが延びて長い発芽管となり、最終的に付着器となる。付着器は、感染糸(infection peg)による植物細胞壁の貫通中に形成される高い膨圧に耐えるように密にメラニン化する。発芽管は、3細胞の胞子の1個又は2個の末端細胞から開始され、プロセスは8時間で完了する。様々な濃度の試験化合物(化合物Xのカリウム塩)を含む滅菌水において胞子をインキュベートした際には、胞子の50%超が発芽しなかった。発芽胞子では小さな嘴状の発芽が開始されたが、大概の胞子では、付着器が形成されたものの、圧力に耐える上で十分にはメラニン化せず、付着器の形成位置近くで発芽管の破損が観察され、一部の付着器は膨圧により破裂した。一部の胞子では、発芽管が末端細胞ではなく中間の細胞から形成された。
【0097】
Ole1タンパク質阻害剤化合物の可溶性
【0098】
臨床環境における望ましい抗真菌活性のために、本発明の殺真菌薬は水に溶解可能であることが望ましい。疾患の部位に到達して機能するように抗真菌化合物を含む医薬組成物を調製する際、水溶性は、特に内臓の感染症又は播種性感染症に関連する真菌による感染の場合だけでなく、水溶性が決定的要素となる農園芸における真菌感染症の処置又はその危険性の低減に関連しても重要である。したがって、本発明の化合物は、少なくとも50mg/ml、好ましくは少なくとも60mg/ml、より好ましくは少なくとも70mg/ml、更に好ましくは少なくとも80mg/ml、更に好ましくは少なくとも90mg/mlの水溶性を有することが好ましい。
【0099】
結晶化合物
【0100】
結晶化合物の1例は、少なくとも2θ角度2.42°及び4.78°に位置したピークを含む高分解能XPRDパターンを有する(Z)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸カリウムである。好適な実施形態において、(Z)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸カリウム結晶は、少なくとも2θ角度7.14°、9.52°、及び11.89°、又は2θ角度2.42°及び4.78°、7.14°、9.52°、及び11.89°、又は2θ角度2.42°、4.78°、7.14°、9.52°、9.52°、16.45°、17.27°、18.41°、19.11°、19.68°、21.27°、21.95°、23.06°、23.86°、24.90°、26.98°、27.82°、28.68°、28.86°、及び38.77°に位置したピークを含む高分解能XPRDパターンを有する。好ましくは、高分解能XPRDパターンは、強度5%超のピークを他に含まない。
【0101】
吸湿
【0102】
本発明による殺真菌薬は、周囲から湿気をあまり吸収しないことが好適であり、化合物の重量変化は、湿度10%RHと比較して、湿度60%RHにおいて5%未満、好ましくは4%未満、より好ましくは3%未満、更に好ましくは2%未満、例えば1%未満となることが好適であり、或いは、化合物の重量変化は、湿度10%RHと比較して、湿度70%RHにおいて5%未満、好ましくは4%未満となることが好適であり、或いは、結晶化合物が80%を超える湿度に晒された後、より低い湿度に戻った場合、湿度が失われた時に、結晶形態が維持又は回復することが好適である。
【0103】
融解温度及び安定性
【0104】
更に、本発明の殺真菌薬は、医薬組成物の製造中の取り扱い及び周囲温度での保存を可能にする十分に高い融解温度を有することが好適である。したがって、当該化合物の融点は、少なくとも100℃、好ましくは少なくとも110℃、より好ましくは少なくとも120℃、更に好ましくは少なくとも130℃、更に好ましくは少なくとも140℃であり、保存時に安定していることが好適である。
【0105】
製剤
【0106】
本明細書に開示した本発明の化合物は、薬剤的に許容可能な任意の以下の塩を含むと理解されたい: 無機酸又はハロゲン化水素酸等の有機酸を有する塩(例えば、塩酸又は臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、クエン酸、ギ酸、酢酸、マレイン酸、酒石酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等)、或いは化合物が酸性の性質を有する場合には、有機塩基(例えば、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、tert-ブチルアミン等)を有する塩、或いはアルカリ又はアルカリ土類塩基等の無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム)を有する塩。
【0107】
ヒト及び/又は動物において全身性及び局所性の両方で発生する様々な病原真菌を阻害する能力のため、説明した化合物は、こうした種類の病原体による感染に関連する疾患の処置に使用することができる。これらの化合物は、有益な抗真菌治療物質となる。
【0108】
化合物は、経口投与、直腸投与、非経口投与、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、髄腔内、又は経皮投与、或いは舌下投与が可能であり、或いは点眼薬又はエアロゾルとしての投与が可能である。応用例には、カプセル、タブレット、経口投与懸濁液又は溶液、静脈注入溶液、坐薬、注射、目薬、軟膏、又はエアロゾル/ネブライザーがある。
【0109】
好適な応用は、経口又は静脈注射による全身用製剤、及び軟膏、ペレット、液体、又は液体懸濁液による局所製剤である。使用する用量は、特定の活性成分、患者の年齢及び要件、応用の種類に応じて変化する。本発明の化合物を含む製剤は、不活性の賦形剤、或いは更に薬力学的活性を有する賦形剤を含有することができる。例えば、タブレット又は顆粒は、多数の結合剤、充填賦形剤、担体物質、又は希釈剤を含有することができる。
【0110】
こうした医薬組成物は、本発明の化合物と、その薬剤的に許容可能な塩とを、ラクトース、トウモロコシ又はその派生物、タルク、ステアリン酸、又はこうした材料の塩といった、医薬業界において一般的な無機及び/又は有機賦形剤と共に含有し得る。
【0111】
ゼラチンカプセル用には、植物油、ワックス、脂質、液体又は半液体ポリオール等を使用し得る。溶液及びシロップの調製には、例えば、水、ポリオール、サッカロース、グルコース等を使用し得る。注入物質は、例えば、水、ポリオール、アルコール、グリセリン、植物油、レシチン、リポソーム等を用いて調製される。坐薬は、天然又は水酸化油、ワックス、脂肪酸(脂肪)、液体又は半液体ポリオール等を用いて調製し得る。
【0112】
組成物は、更に、保存剤、安定改善物質、粘度改善又は調節物質、溶解度改善物質、甘味料、色素、味覚改善化合物、浸透圧を変化させる塩、緩衝剤、抗酸化剤等を含有することができる。
【0113】
耐性真菌感染症
【0114】
真菌感染症は、多数の理由から処置に対して耐性となる場合があり、特定の抗真菌剤による処置に対して、或いは獲得耐性のため、耐性となる場合がある。したがって、本発明の他の態様は、以下を介して作用する1つ以上の他の処置に対して耐性を有する真菌による感染症を処置するための、本発明の化合物の使用である。
a)エルゴステロール生合成の阻害、
b)エルゴステロールとの結合、
c)1,3-β-グルカンシンターゼの阻害、
d)エポキシダーゼの阻害、
e)ロイシルtRNAシンテターゼの阻害、及び/又は
f)伸長因子2の阻害。
【0115】
特に、こうした耐性抗真菌処置物質は、安息香酸、シクロピロックス、トルナフテート、ウンデシレン酸、フルシトシン、グリセオフルビン、ハロプロジン、及び重炭酸ナトリウムとしてよく、或いはポリエン、アゾール、アリルアミン、又はエキノキャンディンにしてよい。ポリエン抗真菌剤は、複数の共役2重結合を有し、一般には、ヒドロキシル化の度合いが高い領域を含み、ナタマイシン、リモシジン、フィリピン、ナイスタチン、アムホテリシンB、又はカンジシジン(Candicin)により例示される。アゾール抗真菌剤は、例えば、イミダゾール又はトリアゾール又はチアゾール抗真菌剤としてよい。イミダゾール抗真菌剤は、例えば、ミコナゾール、ケトコナゾール、クロトリマゾール(clotromazole)、エコナゾール、ビホナゾール、ブトコナゾール、フェンチコナゾール、イソコナゾール、オキシコナゾール、セルタコナゾール、スルコナゾール、又はチオコナゾールを含み得る。トリアゾール抗真菌剤は、例えば、フルコナゾール、イトラコナゾール、イサブコナゾール、ラブコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、テルコナゾール、及びアバファンジン(abafungin)を含み得る。アリルアミン抗真菌剤は、テルビナフィン、アモロルフィン、ナフチフィン、又はブテナフィンを含む。エキノキャンディンの比限定的な例には、アニデュラフンジン、カスポファンギン、又はミカファンギンが含まれる。
【実施例】
【0116】
実施例1
【0117】
(Z)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸のナトリウム塩、Vの作用機構を、S. cerevisiaeにおいて化学遺伝学的スクリーニングにより調査した。スクリーニングでは、定められた1遺伝子が欠失した4917の個別菌株からなるS. cerevisiaeノックアウトコレクションを使用した。4917菌株全てを、化合物Vに対する感受性の増減について試験した。分析した4917菌株のうち、44菌株では、化合物Vに対する感受性が増加した。感受性が減少した菌株は特定されなかった。S. cerevisiae Gene Ontology Slimの語彙を使用して、特定された遺伝子を、更に高いレベルの生物学的プロセスにマッピングした。合計39の利用可能な生物学的プロセスのうち、特定された44遺伝子は29プロセスにマッピングされ、そのうち「脂質代謝プロセス」(p<0.004)及び「オルガネラ組織化及び生合成」(p<0.04)は、著しく大きな比率を占めた。
【0118】
特定された遺伝子の一つは、OLE1 Δ9脂肪酸デサチュラーゼ遺伝子の転写活性因子をコードするMGA2である。MGA2は、S. cerevisiaeにおいて重複遺伝子であり、SPT23が相同体となる。Ole1タンパク質は、ステアリン酸をオレイン酸に転換するものであり、S. cerevisiaeの必須遺伝子である。特定された一連の44遺伝子のうち、別の6遺伝子は、MGA2と共に、OLE1転写活性を制御する可能性のある経路を組み立てることが可能であった。この経路には、Mga2タンパク質のタンパク質分解活性に必要なERAD(endoplasmatic reticulum associated protein degradation、小胞体関連タンパク質分解)複合体の成分と、小胞体の膜にMga2を装入するために必要であると推定されるGET複合体成分をコードする遺伝子とが含まれた。図6は、OLE1転写活性の制御を示している。GET複合体の成分は、Mga2/Spt23タンパク質のER膜への挿入を仲介すると推定される。ERAD複合体は、Mga2/Spt23をタンパク質分解により活性化し、Mga2/Spt23は核を往復して、OLE1の転写を活性化する。こうしたデータは、化合物VがOLE1遺伝子発現の制御経路又はOle1タンパク質自体を妨害することを示している。
【0119】
実施例2
【0120】
Ole1タンパク質は、ステアリン酸をオレイン酸に転換するΔ9脂肪酸デサチュラーゼである。OLE1遺伝子の欠失は、真菌細胞にとって致命的なオレイン酸栄養要求性を誘発する。S. cerevisiaeにおいて、オレイン酸は、化合物Vの活性に対する拮抗作用を有しており(ステアリン酸は有していない)、これにより化合物Vがステアリン酸からオレイン酸への転換を阻害することが実証される。図7aを参照されたい。図7aは、化合物Vの量を段階的に増加させて補完した栄養寒天においてSaccharomyces cerevisiaeを培養した時、オレイン酸の添加により、化合物Vに対するS. cerevisiaeの感受性は減少するが、ステアリン酸では減少しないことから、オレイン酸は化合物Vの拮抗物質となるが、ステアリン酸はならないことを示している。同様にC. albicansにおいて、オレイン酸は、化合物IVに対して拮抗作用を有した(ステアリン酸は有していなかった)。図7b及び7cは、Candida albicansを栄養ブロスにおいて培養し、化合物IVと、b)オレイン酸ナトリウム塩又はc)ステアリン酸ナトリウム塩との組み合わせにより補完した時、オレイン酸ナトリウム塩は、化合物IVに対する拮抗作用を有したが、ステアリン酸ナトリウム塩は有していなかったことを示しており、これにより、オレイン酸ナトリウム塩は化合物IVの拮抗物質となるが、ステアリン酸ナトリウム塩はならないことが実証された。
【0121】
実施例3
【0122】
したがって、化合物Vは、Δ9脂肪酸デサチュラーゼOle1タンパク質の直接的な阻害、或いはMga2タンパク質に依存するOLE1遺伝子発現の転写活性の阻害の何れかを介した機構により、オレイン酸の生合成を阻害し、これにより、細胞に対するオレイン酸栄養要求性を誘発すると思われた。これら2つの仮説を識別するために、OLE1転写レベルを決定した。化合物IVがOle1タンパク質を直接的に阻害すると仮定すると、化合物IVにより処理した細胞に対して、OLE1転写レベルの代償的な上方制御が予想される。化合物IVが、Mga2タンパク質、或いは、GET複合体又はCDC48プロテアソーム等、OLE1転写活性に必要な他の任意の成分を阻害する場合、化合物IVにより処理した細胞に対して、OLE1の下方制御が予想される。化合物IVに依存しないOLE1遺伝子の転写が観察された場合は、別の作用機構の存在を示し、オレイン酸の化合物IVとの拮抗作用が間接的であることを示唆する。
【0123】
S. cerevisiaeを1及び10μg/mlの化合物IVが存在する状態で培養した時、倍増時間は、未処置の対照での2時間と比較して、それぞれ2.4時間及び4.2時間に増加した。1μg/mlの化合物IVに対して10μg/mlのオレイン酸ナトリウム塩を添加すると、倍増時間は、未処置の対照又は10μg/mlのオレイン酸ナトリウム塩のみの場合に観察された2時間に向かって逆転した。
【0124】
得られた倍増時間を表3に示す。
【0125】
【表3】

【0126】
OLE1遺伝子の発現を、上の表3に示した条件a乃至eについて、リアルタイムPCRにより、10分、60分、120分、及び240分で決定した。OLE1転写レベルは、チューブリン遺伝子(TUB1)の発現に対して較正し、化合物の添加のない10分でのOLE1発現に対して標準化した。化合物IVに応答したOLE1の時間依存発現を示す図8aを参照されたい。条件a乃至eは、上の表3に記載されており、数字は、時間間隔を分単位で示している。OLE1の発現は、条件aの10分での発現の倍数として記載している。化合物IVを含まない培地でのOLE1の発現レベルは、調査したタイムスケールでは有意に変化しなかった。1μg/mlの化合物IVの添加により、OLE1の発現レベルは、約3乃至5倍増加し(120分で4.9倍、p<0.023)、10μg/ml では、約7乃至19倍増化した(120分で18.7倍、p<0.018)。10μg/mlのオレイン酸により、1μg/mの化合物IVのみで生じたOLE1発現の増加が代償された。したがって、化合物IVに依存するOLE1発現の上方制御は、化合物IVがOle1タンパク質の阻害剤として機能していることを裏付けている。感受性アッセイにおいて見られたオレイン酸の拮抗作用は、オレイン酸を介した標的Ole1タンパク質の下方制御により、この実験に機構的に反映されている。
【0127】
同様に、化合物IVに応答したC. albicansにおけるOLE1の発現を調査した。250ng/mlの化合物IVが存在する状態で、OLE1転写レベルは、120分のインキュベーション時間後、薬物を含まない対照と比較して4倍に増加した。図8bは、C. albicansにおける化合物IVに応答したOLE1の時間及び濃度依存発現を示している。a:化合物を含まない対照、b:化合物IV250ng/ml、c:化合物IV5000ng/mlであり、時間間隔の単位は分である。発現値は、TUB1に対して正規化し、エタノールにおける10分でのOLE1発現の倍数として記載している。
【0128】
実施例4
【0129】
本発明の化合物IX及びXを、以下の15の農園芸に関する病原体に対してスクリーニングした。Ascomycota Botrytis cinerea、Magnaporthe grisea anamorph: Pyricularia oryzae、Colletotrichum gleoesporioides- Chilli 菌株、Colletotrichum gleoesporioides- mango 菌株、Fusarium verticillioides、Fusarium oxysporum、Alternaria solani、Uncinula necator Syn Erysiphe necator、Macrophomina phaseolinaSyn. Sclerotium bataticola 及びRizoctonia bataticola、Botryodiplodia theobromae、Basidiomycota Sclerotium rolfsii、Rhizoctonia solani、Puccinia arachidis、Oomycota Pythium aphanidermatum、Plasmopara viticola Syn. Personopora viticola。選択は、i)作物及び他の植物(例えば、装飾及び観賞植物)において生じる収率損失及び疾患の重大性、ii)菌類に感染する宿主、iii)既存の殺真菌薬による防除措置の提供の困難性、主要な病原真菌群を全て表現すること、及び真菌病害の主要なグループ、即ち、さび病、腐敗病(根及び果実)、斑点病、ウドンコ病、及び立ち枯れ病を全て表現することに基づいて行った。
【0130】
農園芸に関する試験
【0131】
In vitro菌糸成長阻害アッセイ-毒を加えたプレート
【0132】
真菌をポテトデキストロース寒天培地において40乃至45℃で成長させ、試験化合物を様々な濃度で添加し、化合物XはpH5.8、そのカリウム塩、化合物XIIはpH7.0として、試験化合物の代わりに水を対照とした。放射状の菌糸の成長は、一定の間隔で測定し、成長の遅い真菌については4、8、12、及び16日目、成長の早い真菌については3、6、及び8日目に測定した。菌糸がプレートの端部に到達した時に、測定を終了した。菌糸成長の形態変化及び胞子形成パターンも観察した。用量反応研究では、様々な範囲の濃度及び様々な範囲の阻害により、50%阻害前後まで低下させた(下の表4を参照)。
【0133】
植物の病原真菌での胞子発芽の研究-懸滴法
【0134】
1ml当たり5乃至10×103の胞子(大きな胞子)、小さな胞子については5乃至10×105とした胞子/分生子懸濁液を、様々な濃度の化合物Xのカリウム塩に対して試験した。胞子発芽は、湿室下の滅菌蒸留水中で、キャビティスライドにおいて行った。一晩のインキュベーション後、胞子を観察した。適切な場合には、溶媒ジメチルスルホキシドを試験体及び対照の両方に添加した。胞子懸濁液は、良好な胞子形成野外分離株から調製し、通常はポテトデキストロース寒天、或いは、Magnaporthe grisea(イネいもち病菌)用にはオートミール寒天の適切な培地において成長させた。特定の胞子形成構造については、菌糸部分が無い状態で調製した。胞子数は、血球計算器を使用して調節した。胞子の最終胞子濃度は、1ml当たり5乃至10×103個とした。完全/良好な発芽、並びに、発芽管又は胞子の崩壊、縮小等、任意の形成異常について写真記録を行った。阻害率は、対照の発芽との比較により計算した(阻害率=[(DMSOによる対照における胞子発芽の%-化合物により処理した胞子発芽の%)/([(DMSOによる対照における胞子発芽の%)].
【0135】
リーフディスクアッセイ
【0136】
リーフディスクアッセイを、ブドウのウドンコ病について、キャビティウェルプレート法により実施した。直径14mmのリーフディスクを、ブドウの健康な葉(先端から2番目部及び3番目)からコルク穿孔器により切り取り、以下に示した処理の詳細の通りに、様々な濃度の各試験化合物100μlに2分間浸した。対照のリーフディスクは、滅菌水のみに2分間浸した。化合物により処理したリーフディスクは、背軸面を上にして、水寒天培地を含むTC-24ウェルプレートに配置した。ディスクには、20μlの接種材料(1乃至5×106胞子/ml)をディスクの中心に接種した。接種後、キャビティウェルプレートを20℃で10日間インキュベートした。インキュベーション後、リーフディスク上のウドンコ病の病変を0乃至9のスケールで評価し、0は症状が目に見えない場合、9は葉の面積の50%超にウドンコ病菌の増殖/病変が存在する場合を表すものとした。パーセント病害指標(Percent disease index, PDI)は次のように計算した。
【0137】
【数1】

【0138】
観察後、分生子を既知の量のエタノール-ホルムアルデヒド-酢酸の固定液(90:5:5、v/v/v)中でリーフディスクから洗浄し、血球計算器により計数した。
【0139】
【表4−1】

【0140】
【表4−2】

【0141】
【表4−3】

【0142】
14-(フラン-2-イル)テトラデカ-11,13-ジイン酸のカリウム塩、XIIを使用してBotrytis cinereaの菌糸先端部の変化を調査し、成長及び繁茂に対するOle1阻害剤の影響を測定した。以下に説明したように、化合物は、Botrytis cinereaに対して毒性を有した。頂芽優性は、菌類の菌糸の成長にとって重要な基準であり、菌糸の先端部において、成長点近くに分岐は見られない。頂芽優性が維持される一方で、菌糸の分岐は、成長点から距離を置いた先端付近の点において開始される。異常なストレス状態では、頂芽優性が失われ、広範囲に及ぶ分岐が開始され、結果として真菌の菌糸の成長が停止される。試験化合物を真菌が存在する培地に組み込んだ場合には、菌糸先端部の分裂及び分岐が見られ、頂芽優性及び極性が失われる。図9は、14-(フラン-2-イル)テトラデカ-11,13-ジイン酸のカリウム塩(XII)、2μg/mlによりプレート内の菌糸の接種を行った場合の菌糸成長面の変化及び菌糸の異常な肥厚を示している(下方の2枚の写真)。接種したディスクからの菌糸は、重力に逆らって成長し、対照に見られる正常な菌糸(上方の2枚の写真)よりも厚い。菌糸の異常な肥厚は、Ole1阻害剤の存在により形成されたストレスを示している。
【0143】
実施例5
【0144】
(Z)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸(III)の合成
【0145】
(Z)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸を、HPLC及びNMRにより決定される、少なくとも95:5の必要なシス:トランス異性体比で調製した。カップリングフラグメントの純度を高めるために、付加的な生成ステップを実施した。提供した経路には、2つのフラグメント2及び7からの中間体8の収束型合成が含まれる。最終産物は、(Z)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸9(化合物III)をもたらすメチルエステルの加水分解により合成される。
【0146】
フラグメントの合成
【化20】

【0147】
カップリングステップ
【化21】

【0148】
フラグメント2の調製
【化22】

【0149】
フラグメント2の合成は、市販のフリルフランから開始し、これに四臭化炭素とのin situ Wittig反応を施し、カラムクロマトグラフィー後、収率66%で化合物1を得た。
【0150】
フラグメント7の模式図
【化23】

【0151】
中間体5の合成は、Wittigオレフィン化に基づいており、必要な塩は、ジヨードメタン及びトリフェニルホスフィンから収率41%で調製した。9-オキソノナン酸メチルエステルのWittig反応を、10gのスケールで最初に実行して、所望の産物を収率88%で得た。過剰なホスホニウム塩の分解により生じたと推定される、トリフェニルホスフィンとして暫定的に特定された近接して移動する不純物を、カラムクロマトグラフィーにより分離した。最終産物の1H NMRでは、第2の不純物の存在も明らかとなった(1H NMRにおける6.6ppmの三重線に基づく)。アルケンのシス:トランス比を1H NMRにより決定し、98:2であることが分かった。
【0152】
(Z)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸(III)の模式図
【化24】

【0153】
(Z)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸へ向けた最終ステップには、2つの主要構成要素2及び7のカップリングと、最終化合物を発生させるエステル8の加水分解とが含まれた。化合物8は、標準条件下((CuCl、HONH2・HCl、EtNH2、MeOH)でのフラン2のエーテル溶液とアセチレン7とのCadiot-Chodkiewiczカップリングにより調製した。0.5gの化合物7による試験スケールで反応を行い、収率37%で0.27gが回収された。カップリング反応の最終的なスケールアップは、2つの個別なバッチにおいて行っており、結果を以下に要約する。
【0154】
化合物8の合成:
【0155】
【表5】

【0156】
カップリング反応のスケールアップは、恐らくはフラグメント7の高い純度のため、良好に進展した。カラムクロマトグラフィーにより、不特定の幾つかの不純物から産物を分離した。エステル8の加水分解は、THF:水:MeOHの6:1:1混合物中で、水酸化リチウム一水和物により、室温で5時間実行した。反応混合物を2NのHClによりpH2まで酸性化し、部分的に沈殿した固体を酢酸エチルにより抽出した。反応は、最初に0.4gの規模で実行し、ドライフラッシュカラムクロマトグラフィーと、その後の低温のヘプタンからの沈殿との後、高純度の最終産物が得られた。カップリング反応からの2つのバッチを別個に加水分解し、精製後、13.7gの(Z)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸が得られた。
【0157】
【表6】

【0158】
粗生成物のHPLC分析では、カップリングステップにより生じた不純物の存在が明らかとなり、不純物レベルは、精製後に低減したものの、依然として高い状態にあった。そのため、2つのバッチを組み合わせ、室温で1時間、最小限の量のヘプタン中でスラリー状にした。0℃まで冷却後、濾過と低温ヘプタンによる洗浄とを行い、HPCL純度が96面積%の(Z)-14-(フラン-2-イル)テトラデカ-9-エン-11,13-ジイン酸、10.5gを得た。
【0159】
実験
【0160】
2-(2,2-ジブロモビニル)フラン(1):
【0161】
無水DCM(1000mL)中の四臭化炭素(241.6g、0.73mol)の溶液を窒素下で-20℃まで冷却し、無水DCM(1000mL)中のトリフェニルホスフィン(191.1g、0.73mol)を滴加した。20分間の撹拌後、反応物を-60℃に冷却し、無水DCM(375mL)中のフルフラール(30mL、0.36mol)及びトリエチルアミン(50.5mL、0.36mol)の混合物を滴加した。混合物を室温にし、ジエチルエーテル(500mL)を撹拌しながら添加した。反応物を濾過し、濾液を真空中で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘプタン)により、表題化合物(58.1g、63%)が茶色の油として生じた。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 6.46 (s, 1H), 6.94 (s, 1H), 7.40 (s, 1H), 7.43 (s, 2H).
【0162】
2-ブロモエチニルフラン(2):
【0163】
ヘキサメチルジシラザンナトリウム(NaHMDS、111mL、0.22mol、THF中2M)を無水ジエチルエーテル(1120mL)中の化合物1(56g、0.22mol)の溶液に-78℃で滴加し、結果的に生じた溶液を15分間撹拌した。塩化アンモニウム水溶液(500mL、飽和)を-78℃で添加し、反応物を室温まで温めた。更に塩化アンモニウム水溶液(200mL、飽和)を、ジエチルエーテル(200mL)と共に添加した。層の分離が生じ、水相をジエチルエーテル(2×200mL)により抽出した。一つにまとめた有機層を塩水(500mL)により洗浄した後、乾燥(MgSO4)及び濾過を行った。溶媒を常圧蒸留により除去し、濃縮溶液中に表題化合物(20.8g、55%)を得た。
【0164】
ヨードメチレントリフェニルホスホニウムヨウ化物
【0165】
ジヨードメタン(150mL、1.86mmol)及びトリフェニルホスフィン(425g、1.62mmol)をトルエン(500mL)に溶解し、結果的に生じた溶液を18時間50℃に加熱した。溶液を室温まで冷ました後、濾過した。沈殿物をトルエン(2×500mL)により洗浄した後、真空下で乾燥させることで、表題化合物(404g、収率41%)が白色の固体として生じた。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 5.05 (m, 2H), 7.79-7.87 (m, 15H).
【0166】
10-ヨードデク-9(Z)-エン酸メチルエステル(5):
【0167】
NaHMDS(285mL、0.57mol、THF中2M)を、無水THF(1.5 L)中のCH2IP+PPh3I-(299g、0.56mol)の懸濁液に室温で滴加した。5分間の撹拌後、溶液を-78℃に冷却し、HMPA(139mL、0.77mol)を滴加し、9-オキソノナン酸メチルエステル4(75.0g、0.40mol)を無水THF(375mL)に溶解し、-78℃で滴加した。結果的に生じた溶液を室温まで温め、16時間撹拌した。酢酸エチル(1000mL)及び水(500mL)の添加により、層の分離が生じた。水相を酢酸エチル(2×500mL)により抽出した。一つにまとめた有機層を水(2×500mL)及び塩水(500mL)により洗浄した後、乾燥させ(MgSO4)、濾過し真空中で濃縮した。結果的に生じた茶色の油を、シリカ(約1体積)上に乾燥充填し、カラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘプタン中の10%ジエチルエーテル)により精製し、表題化合物(64.8g、52%)を黄色の油として得た。混合画分を組み合わせて濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘプタン中の10%DCM)により精製し、化合物5(18.4g、複合収率67%)を得た。
1H NMR (400 MHz, Benzene-d6) δ 0.97-1.15 (m, 10H), 1.46-1.49 (m, 2H), 1.93-2.10 (m, 2H), 3.39 (s, 3H), 5.74 (q, 1H, J = 7.0, 13.9 Hz), 5.92 (dt, 1H, J = 7.3, 1.1 Hz).
【0168】
12-トリメチルシラニルドデク-9(Z)-エン-11-イン酸メチルエステル(6):
【0169】
10-ヨードデク-9-エン酸メチルエステル5(64.8g、0.21mmol)及びトリメチルシリルアセチレン(35.4mL、0.25mol)を無水DMF(285 mL)に溶解し、0℃まで冷却した。トリエチルアミン(34.75mL、0.25mol)、ヨウ化銅(I)(10.3g、0.05mol)、及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(14.5g、0.01mol)を添加した。結果的に生じた溶液を、0℃で18時間撹拌した後、室温まで温めた。水(200mL)を添加し、混合物をジエチルエーテル(2×500mL)により抽出した。一つにまとめた有機層を塩水(500mL)により洗浄した後、乾燥させ(MgSO4)、濾過し、真空中で濃縮した。暗褐色の残留物を、ヘプタン(500mL)に溶解した後、濾過し、真空中で濃縮した。残留物をシリカパッド(SiO2、ヘプタン中の5%酢酸エチル)に通過させ、表題化合物(45.0g、77%)を黄色の油として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 0.20 (s, 9H), 1.50-1.20 (m, 8H), 1.70-1.60 (m, 2H), 2.40-2.20 (m, 4H), 3.65 (s, 3H), 5.9-5.7 (m, 1H), 5.5-5.4 (m, 1H).
【0170】
9(Z)-ドデセン-11-イン酸メチルエステル(7):
【0171】
フッ化テトラブチルアンモニウム、TBAF(177mL、0.18mol、THF中1M)を、無水THF(950mL)中の12-トリメチルシラニルドデク-9-エン-11-イン酸メチルエステル(6)(45.0g、0.16mol)の溶液に0℃で滴加した。結果的に生じた溶液を30分撹拌した後、室温まで温めた。THFを真空中で除去し、結果的に生じた暗色の油をシリカパッド(SiO2、ヘプタン中の10%酢酸エチル)に通過させ、表題化合物(20.0g、60%)を黄色の油として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 1.31-1.40 (m, 10H), 1.58-1.61 (m, 2H), 2.29-2.32 (m, 2H), 3.06 (s, 1H), 3.66 (s, 3H), 3.44 (m, 1H), 5.99 (m, 1H).
【0172】
(9Z)-14-(2-フリル)テトラデカ-11,13-ジイン酸メチル(8):
【0173】
塩化銅(I)(0.52g、5.27mmol)、塩酸ヒドロキシルアミン(1.67g、24.00mmol)、及びエチルアミン(144mL、1.78mol、H2O中70%)をメタノール(120mL)に溶解し、0℃まで冷却した。メタノール(85mL)中のドデク-9-エン-11-イン酸メチルエステル7(10g、0.048mmol)を、上記溶液に滴加した。2-ブロモエチニルフラン2(66g、0.06mol、16%THF/ジエチルエーテル溶液)を、上記溶液に滴加した。結果的に生じた溶液を0℃で2時間撹拌した後、水(150mL)及びジエチルエーテル(150mL)を添加し、層の分離を発生させた。水相をジエチルエーテル(3×100mL)により抽出し、一つにまとめた有機層を塩水(250mL)により洗浄した後、乾燥させ(MgSO4)、濾過し真空中で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘプタン中の2乃至5%酢酸エチル)により、表題化合物(8.28g、収率58%)を黄色の油として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 1.50-1.20 (m, 8H), 1.70-1.60 (m, 2H), 2.42-2.30 (m, 4H), 3.60 (s, 3H), 5.59 (d, 1H, J = 10.5 Hz), 6.19-6.14 (m, 1H), 6.48-6.38 (m, 1H), 6.70 (d, 2H, J = 3.0 Hz), 7.45-7.40 (m, 1H).
【0174】
(9Z)-14-(2-フリル)テトラデカ-11,13-ジイン酸(9)(III)
【0175】
水酸化リチウム一水和物(3.49g、0.083mol)を、THF:水:メタノール(160mL、6:1:1)中のメチルエステル8(8.28g、0.028mmol)の溶液に0℃で添加した。溶液を室温まで温め、18時間撹拌した後、水(100mL)を添加した。溶液のpHを、2N水性塩酸(約45mL)によりpH2に調節した。酢酸エチル(100mL)を添加して、層の分離を発生させた。水相を酢酸エチル(2×50mL)により抽出し、一つにまとめた有機層を塩水(100mL)により洗浄した後、乾燥させ(MgSO4)、濾過し真空中で濃縮した。残留物をシリカパッド(SiO2、ヘプタン中の10%酢酸エチル)に通過させた後、ヘプタン(約15体積)に溶解させ、冷凍庫内に一晩置いた。黄色の沈殿物を濾過し、低温のヘプタンにより洗浄した後、乾燥させて、表題化合物(7.5g、91%)を淡黄色の固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 1.5-1.2 (m, 8H), 1.7-1.6 (m, 2H), 2.4-2.3 (m, 4H), 5.59 (d, 1H, J = 10.5 Hz), 6.19-6.14 (m, 1H), 6.48-6.38 (m, 1H), 6.7 (d, 2H, J = 3.0 Hz), 7.45-7.4 (m, 1H).
m.p. 49.8-52.3℃;
【0176】
(9Z)-14-(2-フリル)テトラデカ-11,13-ジイン酸(9)(III)のカリウム塩(IV)及びナトリウム塩(V)の合成
【0177】
化合物III(25mg)を250μlの溶媒(ジオキサン、アセトン、又はエタノール)に溶解させ、50℃に温めた。カリウム又はナトリウムエトキシドの溶液(エタノール中1M、1.1当量)を添加し、その後、反応物を室温まで冷ました。塩(それぞれIV及びV)を析出させ、濾過により取り出し、乾燥させた。
【0178】
実施例6
【0179】
8-(2-(4-(フラン-2-イル)ブタ-1,3-ジイニル)フェニル)オクタン酸(VII)の合成
【化25】

【0180】
実施例7
【0181】
14-(2-フリル)テトラデカ-11,13-ジイン酸(X)の合成
【0182】
約10gの14-(2-フリル)テトラデカ-11,13-ジイン酸の実験室スケールの合成では、比較的安価且つ容易に入手可能な開始材料から、良好な全体収率が高純度で得られた。経路には、2つの構成要素の合成と、その後の標的分子の収束型合成とが含まれた。
【0183】
フラグメントの合成
【化26】

【0184】
カップリングステップ
【化27】

【0185】
デカン酸フラグメント(5)の模式図:
【化28】

【0186】
2-エチニルフラン構成要素(8)の模式図:
【化29】

【0187】
14-(2-フリル)テトラデカ-11,13-ジイン酸の模式図
【化30】

【0188】
実験
【0189】
10-ヨードデカン酸(2):
【0190】
窒素下の1Lのアセトン中の10-ブロモデカン酸(50g、0.2mol)の機械撹拌溶液に、ヨウ化ナトリウム(238.7g、1.59mol)を添加し、結果的に生じた不均一な反応混合物を室温で18時間撹拌した。濃度が濃い反応混合物をCelite521のパッドにより濾過し、真空中で5分の1の体積まで濃縮し、1Lの塩水により希釈した。これを4×250mLのヘキサンにより抽出した。一つにまとめた有機抽出物を2×250mLの新たに調製した10%チオ硫酸ナトリウム水溶液により洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、真空中で濃縮し、真空乾燥させて、ヨード酸2(57.5g、98%)を白色の固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): 1.23-1.41 (m, 10H), 1.60-1.67 (m, 2H), 1.80-1.85 (m, 2H), 2.34 (t, J= 7.3Hz, 2H), 3.17 (t, J=7.32Hz, 2H), 11.45 (br s, OH).
【0191】
11-ドデシン酸(3)(De Jarlais, et al., Synth. Comm. 1980, 10, 653参照):
【0192】
330mLのHMPA中の窒素下のリチウムアセチリドエチレンジアミン錯体(90%w/w、58.7g、573mmol)の懸濁液を、室温で45分間機械撹拌し、その後、-5℃に冷却した。冷却したアセチリド懸濁液に対して、内部温度を0乃至5℃に維持するような速度で撹拌しながら、130mLのHMPA中のヨード酸2(57.00g、191mmol)の溶液を均圧添加漏斗により添加した。反応混合物を更に30分間-3℃で撹拌し、2Lの氷へ分け入れて慎重に急冷した。黄色の氷混合物を5M硫酸水溶液によりpH2.5まで酸性化し、2つの部分に小分けし、各部分の黄褐色の固体を3×250mLのジエチルエーテルにより抽出した。一つにまとめたエーテル層を4×50mLの水により洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、真空中で濃縮し、真空乾燥させて、オメガアセチル酸3(37.6g、100%)をオレンジ色の固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): 1.24-1.42 (m, 10H), 1.48-1.66 (m, 4H), 1.92 (t, J= 2.56Hz, 1H), 2.16 (dt, J1=2.56Hz, J2=7.69Hz, 2H), 2.39 (t, J=7.69Hz, 2H).
【0193】
11-ドデシン酸メチル(4):
【0194】
1.1Lのメタノール中のアセチレン酸3(37g、188mmol)の撹拌溶液に、2.2mLの濃硫酸を添加し、結果的に生じた反応混合物を還流させながら16時間加熱した。室温まで冷却した後、反応混合物を真空中で3分の1の体積まで濃縮し、1Lの2:1のヘキサン/ジエチルエーテルにより希釈し、2×50mLの飽和重炭酸ナトリウム水溶液により洗浄した。一つにまとめた水性洗浄物を、2×150mLのジエチルエーテルにより更に抽出し、50mLの塩水により処理し、以前の有機抽出物と組み合わせ、硫酸ナトリウムにより乾燥させた。真空中での濃縮の結果、500mLのヘキサン及び50mLの塩水により分離された2相残留物が得られた。水層を、2×50mLのヘキサンにより更に抽出し、一つにまとめた有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、真空中で濃縮し、真空乾燥させてメチルエステル4(38.2g、96%)を金褐色の油として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): 1.25-1.36 (m, 10H), 1.41-1.65 (m, 4H), 1.92 (t, J=2.56Hz, 1H), 2.16 (dt, J1=2.56Hz, J2=7.32Hz, 2H), 2.31 (t, J=7.32Hz, 2H), 3.64 (s, 3H).
【0195】
12-ブロモ-11-ドデシン酸メチル(5):
【0196】
窒素下にある700mLのアセトン中のエステル4(37g、176mmol)の機械撹拌溶液に対して、N-ブロモサクシニミド(34.4g、194mmol)を添加し、その後、硝酸銀(2.7g、18mmol)を添加した。反応混合物を、光がない状態で21時間室温において撹拌した。濃度が濃い淡黄色の反応混合物を、焼結ガラス漏斗により濾過し、真空中で3分の1の体積まで濃縮し、500mLの水により希釈した。これを4×250mLのヘキサンにより抽出し、一つにまとめた有機層を100mLの塩水により洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、真空中で濃縮し、真空乾燥させて、ブロモアセチレン5(47.81g、94%)を黄色の油として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): 1.25-1.40 (m, 10H), 1.46-1.59 (m, 4H), 2.17 (t, J=6.96Hz, 2H), 2.27 (t, J=7.32Hz, 2H), 3.64 (s, 3H).
【0197】
2-ヨードフラン(6):
【0198】
窒素下にある500mLの乾燥エーテル中のフラン(60.0mL、825mmol)の機械撹拌した低温(-78℃)溶液に対して、シクロヘキサン中のn-ブチルリチウムの溶液(2.0M、412mL、825mmol)を均圧添加漏斗により60分かけて添加した。-78℃で5時間、室温で2時間、メタル化を進行させた。濃度が濃い黄色の反応混合物を、再度-78℃に冷却し、ヨウ素(209g、825mmol)を2つに分けて、十分に撹拌しながら添加した(僅かな発熱が認められた)。反応混合物を、一晩室温まで温めた。室温まで温めた後、混合物を2×250mLの新たに調製した10%チオ硫酸ナトリウム水溶液と、それぞれ250mLの飽和重炭酸ナトリウム水溶液及び塩水とにより処理し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた。有機層を35torrの真空中で濃縮して、ヨウ化物6(382g、シクロヘキサンによる汚染あり、30%w/w6、収率72%)を赤色の油として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): 6.35 (s, 1H), 6.53 (s, 1H), 7.53 (s, 1H).
【0199】
2-(トリメチルシリルエチニル)フラン(7):
【0200】
窒素下にある600mLのトリエチルアミン中の6の撹拌溶液(30%w/w、79g、407mmol)に対して、トリメチルシリルアセチレン(44g、448mmol)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(10g、14mmol)、及びヨウ化銅(I)(5.1g、27mmol)を添加した。反応混合物を、光がない状態で16時間室温において撹拌した。濃度が濃い反応混合物を100mLのジエチルエーテルにより希釈し、Celite521のパッドを通過させた。パッドを2×100mLのジエチルエーテルにより洗浄し、一つにまとめた濾液を50torrの真空中で濃縮した。残留物をシリカゲルでのフラッシュクロマトグラフィ(ヘキサン)により精製して、TMS保護エチニルフラン7(56.9g、85%)を黄色の油として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): 0.22-0.28 (br(s), 9H), 6.37 (t, 1H), 6.61 (d, 1H), 7.36 (d, 1H).
【0201】
2-エチニルフラン(8):
【0202】
窒素下にある540mLのメタノール中の7(54g、329mmol)の機械撹拌及び氷水浴冷却溶液に対して、炭酸カリウム(104.5g、756mmol)を添加した。結果的に生じた不均一の反応混合物を、容器が室温になる状態で18時間撹拌した。反応混合物を1500mLの水により希釈し、4×500mLのジエチルエーテルにより抽出した。一つにまとめた有機層を3×150mLの水、200mLの塩水により洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、エーテルを大気圧での分留により除去して、8(88.3g、ジエチルエーテル及びシラノールによる汚染あり、23%w/w8、収率68%)を赤色の油として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): 3.35 (s, 1H), 6.32 (s, 1H), 6.60 (s, 1H), 7.35 (s, 1H).
【0203】
14-(2-フリル)テトラデカ-11,13-ジイン酸メチル(9)(Ferri, Tetrahedron Lett., 1996, 37, 2763参照):
【0204】
窒素下にある400mLのピロリジン中のブロモアセチレン5(35g、121mmol)及びエチニルフラン8(23%w/w、16.7g、182mmol)の機械撹拌溶液を氷水浴により冷却した。ヨウ化銅(I)(3.69g、19mmol)を一度に追加し、5分後に冷却槽を取り除き、均一な混合物を更に1時間撹拌した。暗赤色の反応物に850mLの水を撹拌しながら添加することにより急冷した。橙黄色の懸濁液を4×300mlのジエチルエーテルにより抽出した。一つにまとめた有機層を3×100mLの水及び100mLの塩水により洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、真空中で濃縮させて暗赤色の油とした。残留物をヘキサン中の100mLの10%酢酸エチルに再懸濁させ、フリット漏斗においてシリカゲルのパッドに通過させた。パッドを更に4×50mLの溶媒により洗浄し、真空中で濃縮して、21.0gの未精製物9を暗赤色の油として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): 1.26-1.43 (m, 10H), 1.53-1.66 (m, 4H), 2.31 (t, 2H), 2.37 (t, 2H), 3.65 (s, 3H), 6.39 (s, 1H), 6.65 (s, 1H), 7.38 (s, 1H).
【0205】
14-(フラン-2-イル)テトラデカ-11,13-ジイン酸(X)
【0206】
200mLのTHF:水:メタノール(150:25:25)中の未精製エステル9(10g)の溶液に対して、4.2gの水酸化リチウム(3当量)を撹拌しながら添加した。雰囲気を窒素に置換し、混合物を5時間撹拌した後、氷水浴により冷却した。金褐色の混合物を、2Nの水性塩酸によりpH2まで徐々に酸性化した。部分的に析出した酸を、4×250mLの酢酸エチルにより2つに分けて抽出した。一つにまとめた有機層を2×75mLの水及び75mLの塩水により洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、真空中で濃縮した。暗褐色の固体を、シリカゲルでの吸引濾過カラムクロマトグラフィー(ヘプタン中の0乃至30%酢酸エチル)により部分的に精製し、黄色の固体を得た。この固体をヘプタンに再懸濁させ、氷浴により冷却した。混合物を濾過して、細かい黄褐色の粉末を生成した(6.88g、72%)。
m.p. 62.6-63.5℃
1H NMR (400 MHz, CDCl3): 1.25-1.45 (m, 10H), 1.53-1.60 (m, 2H), 1.60-1.68 (m, 2H), 2.34-2.40 (m, 4H), 6.37 (d, 1H), 6.65 (d, 1H), 7.36 (s, 1H)
13C NMR (100MHz, CDCl3): 19.72, 24.72, 28.15, 28.87, 29.21, 29.24, 29.39, 29.46, 34.26, 64.30, 64.74, 79.19, 87.80, 111.07, 117.44, 136.77, 144.22, 180.45.
【0207】
14-(フラン-2-イル)テトラデカ-11,13-ジイン酸カリウム(XII)
【0208】
1mmolの14-(フラン-2-イル)テトラデカ-11,13-ジイン酸の水溶液に対して、1mMの水酸化カリウム水溶液を室温で撹拌しながら添加した。2乃至3時間後、反応混合物を減圧下で濃縮した。粗生成物をアセトンに溶解させ、10分間40℃に加熱し、その後、固体生成物を濾過により取り出し、アセトンで数回洗浄した。結果的に生じた固体生成物から減圧下で水分を抜き、14-(フラン-2-イル)テトラデカ-11,13-ジイン酸カリウムを生成した。14-(フラン-2-イル)テトラデカ-11,13-ジイン酸ナトリウム塩(XI)は、同様の方法で14-(フラン-2-イル)テトラデカ-11,13-ジイン酸から得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IIの構造を有する実質的に純粋なシス異性体化合物。
【化1】

ここでR1は、ヒドロキシル基、或いは加水分解反応においてヒドロキシル基に置き換え可能な部分であり、各R2は、それぞれ独立して、H、或いは1乃至4個の炭素原子を含む1価の炭化水素部分であり、R4は、好ましくは、C1-5アルキル、C1-5アルケニル、C1-5アルコキシ、C1-5アルコール、ヒドロキシル、アミン、ニトロ基、及びハロゲンからなる群から選択された1つ以上の置換基により、1つ以上の位置において随意に置換された複素環であり、かつ、xは、4乃至10の整数である
【請求項2】
III乃至VIIの何れか一つの構造を有する、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
VIIIの構造を有する化合物。
【請求項4】
IXの構造を有する化合物。
【化2】

【請求項5】
X、XI、及びXIIの何れか一つの構造を有する、請求項4記載の化合物。
【請求項6】
Ole1タンパク質阻害剤を含む殺真菌薬。
【請求項7】
前記Ole1タンパク質阻害剤が、化合物II乃至XIIからなる群から選択される、請求項6記載の殺真菌薬。
【請求項8】
前記阻害剤が、化合物IIである、請求項6記載の殺真菌薬。
【化3】

【請求項9】
前記阻害剤が、化合物III、
【化4】

又は、そのカリウム又はナトリウム塩である、請求項6記載の殺真菌薬。
【請求項10】
前記阻害剤が、化合物VI、VII、又はVIIIである、請求項6記載の殺真菌薬。
【請求項11】
前記Ole1タンパク質阻害剤が、構造IXの化合物である、請求項6記載の殺真菌薬。
【化5】

ここでR1は、ヒドロキシル基、或いは加水分解反応においてヒドロキシル基に置き換え可能な部分であり、各R2は、それぞれ独立して、H、或いは1乃至4個の炭素原子を含む1価の炭化水素部分であり、R4は、好ましくは、C1-5アルキル、C1-5アルケニル、C1-5アルコキシ、C1-5アルコール、ヒドロキシル、アミン、硝酸塩、及びハロゲンからなる群から選択された1つ以上の置換基により、1つ以上の位置において随意に置換された複素環であり、かつ、xは、4乃至10の整数である
【請求項12】
前記阻害剤が、X、XI、及びXIIの何れかである、請求項11記載の殺真菌薬。
【請求項13】
以下からなる群から選択される1又は複数の病原真菌に対して使用する、請求項6記載の殺真菌薬。
Candida 菌種 (例えば C. albicans、C. krusei、C. glabrata、C. tropicalis、C. parapsilosis、C. guilliermondii、C. haemulonii、C. lusitaniae、C. lipolytica、C. norvegensis、C. viswanathii、C. kefyr 又はC. dubliniensis), Aspergillus 菌種 (例えばA. fumigatus、A. flavus、A. niger 又はA. terreus,) Histoplasma capsulatum、Coccidioides immitis、Coccidioides posadasii, Cryptococcus 菌種 (例えば C. neoformans (例えば 変種 neoformans 又は変種 gattii)、C. bidus、C. laurentii、又はC. fusarium), Zygomycetes (例えば Rhizopus oryzae、R. micropsorus、R. pusillus、Cunninghamelle bertholletiae、Saksenaea vasiformis、Mucor circinelloides、M. ramosissimus、Absidia corymbifera、Apophysomyces elegans、Cokeromyces recurvatus 又はSyncephalastrum racemosum), Malassezia 菌種 (例えば M. furfur 又はM. globosa), Hyalohyphomycetes (例えば Fusarium solani 又はScedosporium 菌種、例えばS. prolificans 又はS. apiospermum), Dermatophytes (例えば Trichophyton 菌種 (例えば T. mentagrophytes、T. rubrum 又はT. tonsurans)、Epidermophyton floccosum、Microsporum spp (例えば M. cookei、M. canis、M. vanbreuseghemii、M. gallinae 又はM. gypseum) 又はTrichosporon terrestre), Blastomyces dermatitidis、Sporothrix schenkii, Chromomycotic fungi (例えば Fonsecaea pedrosoi、F. compacta、Cladophylophora carrionii 又はPhialophora verrucosa) 及び Madurella 菌種 (例えば M. mycetomatis 又はM. griseum), Pneumocystis jirovecii, Pneumocystis carinii, Botrytis cinerea; Magnaporthe grisea; Anamorph: Pyricularia oryzae Colletotrichum gleoesporioides- Chilli 菌株; Colletotrichum gleoesporioides- mango 菌株; Fusarium verticillioides; Fusarium oxysporum; Alternaria solani; Uncinula necator Syn Erysiphe necator; Macrophomina phaseolina; Syn. Sclerotium bataticola 及びRizoctonia bataticola; Botryodiplodia theobromae; Basidiomycota Sclerotium rolfsii; Rhizoctonia solani; Puccinia arachidis; Oomycota Pythium aphanidermatum; 及びPlasmopara viticola Syn. Personopora viticola.
【請求項14】
請求項6記載の殺真菌薬を製剤に添加するステップを備える、病原真菌に対する殺菌製剤を提供する方法、或いは、病原真菌に対する製剤の殺真菌活性を高める方法。
【請求項15】
前記製剤は、必要な対象者に提供され、前記対象者は、動物であり、好ましくは、哺乳類、更に好ましくは、ヒトであり、前記病原真菌は、請求項13記載の1又は複数の病原真菌である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記製剤は、植物、草、又は畑において病原真菌に対抗するために使用され、前記病原真菌は、請求項13記載の1又は複数の病原真菌である、請求項14記載の方法。
【請求項17】
Ole1阻害剤により改善又は予防可能な疾患に苦しんでいる又は影響されやすい哺乳類を治療する薬剤の調製のための、請求項6記載の殺真菌薬の使用。
【請求項18】
Ole1阻害剤による農園芸病害の処置により改善又は予防可能な農園芸病害の処置を準備するための、請求項6記載の殺真菌薬の使用。
【請求項19】
請求項6記載の殺真菌薬を備えた、対象者の病原真菌を処置するためのキット。
【請求項20】
請求項6記載の殺真菌薬を備えた、農園芸用殺真菌薬を処置するためのキット。
【請求項21】
前記病原真菌が、請求項13記載の1又は複数の病原真菌である、請求項19又は20記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b−c】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−532886(P2012−532886A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519760(P2012−519760)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/041515
【国際公開番号】WO2011/006061
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(512007236)エボルバ アクチェンゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】EVOLVA AG
【Fターム(参考)】