説明

ジェミナルジフルオロ化合物の製造方法

【課題】原料基質の入手が容易で、操作が簡便で、且つ収率が高い、ジェミナルジフルオロ化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、含フッ素硫酸エノールエステル類を、フッ素化剤(フッ化水素、あるいは、「有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体」等)と反応させる工程を含む、ジェミナルジフルオロ化合物の製造方法である。本発明は、従来技術の問題点を一挙に解決する、ジェミナルジフルオロ化合物の極めて有用な製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェミナルジフルオロ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジェミナルジフルオロ化合物は、医農薬中間体として重要であり、種々の製造方法が知られている。代表的な製造方法で、且つ本発明に関連する技術として、特許文献1および2に記載の製造方法が挙げられる。特許文献1にはビニルクロリド化合物を、特許文献2にはビニルフルオリド化合物を、それぞれフッ化水素と反応させる方法が開示されている。
【0003】
非特許文献1には、トリフラートを脱離基とするジェミナルジフルオロ化合物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2002/060853号
【特許文献2】国際公開第2002/066409号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tetrahedron Letters(英国),1992年,第33巻,p.7787
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の製造方法は、副生する塩化水素の圧抜き操作が煩雑であり、収率も低い。特許文献2に記載の製造方法は、ケトン化合物のジェミナルジフルオロ化反応で副生するビニルフルオリド化合物を、目的とするジェミナルジフルオロ化合物に再変換する方法であり、原料基質となるビニルフルオリド化合物の入手は必ずしも容易ではない。
【0007】
この様な状況下において、原料基質の入手が容易で、操作が簡便で、且つ収率が高い、ジェミナルジフルオロ化合物の製造方法が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、含フッ素硫酸エノールエステル類を、フッ素化剤と反応させることにより、ジェミナルジフルオロ化合物が製造できることを見出した。含フッ素硫酸エノールエステル類は、フルオロ硫酸エノールエステル類またはトリフルオロメタンスルホン酸エノールエステル類である。フッ素化剤は、フッ化水素、あるいは、「有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体」が好ましく、所望の反応が速やかに進行する。酸触媒、特に1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、トリフルオロ酢酸、フルオロ硫酸またはトリフルオロメタンスルホン酸の存在下に反応させることにより、所望の反応が格段に速やかに進行する。
【0009】
すなわち、本発明は[発明1]〜[発明6]を含み、ジェミナルジフルオロ化合物の製造方法を提供する。
【0010】
[発明1]
一般式[1]:
【化1】

【0011】
[式中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルキルカルボニル基、置換アルキルカルボニル基、芳香環カルボニル基、置換芳香環カルボニル基、アルコキシカルボニル基、置換アルコキシカルボニル基、シアノ基またはニトロ基を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルコキシ基または置換アルコキシ基を表し、RとR、RとRまたはRとRは、任意の炭素原子同士で、かつ任意の数および任意の組み合わせで、共有結合により環式構造を形成していてもよく、Xはフッ素原子またはトリフルオロメチル基を表し、波線は二重結合の立体化学がE体、Z体またはこれらの混合体であることを表す。]
で示される含フッ素硫酸エノールエステル類を、フッ素化剤と反応させる工程を含む、一般式[2]:
【化2】

【0012】
[式中、R、RおよびRは一般式[1]と同じである。]
で示されるジェミナルジフルオロ化合物の製造方法。
【0013】
[発明2]
一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類のXが、フッ素原子である、発明1に記載の方法。
【0014】
[発明3]
一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類のXが、トリフルオロメチル基である、発明1に記載の方法。
【0015】
[発明4]
フッ素化剤が、フッ化水素、あるいは、「有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体」である、発明1乃至3に記載の方法。
【0016】
[発明5]
酸触媒の存在下に前記反応を行う、発明1乃至4に記載の方法。
【0017】
[発明6]
酸触媒が、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、トリフルオロ酢酸、フルオロ硫酸またはトリフルオロメタンスルホン酸である、発明5に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の原料基質である含フッ素硫酸エノールエステル類については、種々の製造方法が知られており、入手が容易である。また、本発明では、含フッ素硫酸エノールエステル類にフッ化水素が付加し、続いて含フッ素硫酸部位がフッ素置換され、含フッ素硫酸(あるいは、「有機塩基と含フッ素硫酸とからなる塩または錯体」を量論的に副生する(スキーム1を参照)。副生する含フッ素硫酸は、塩化水素の場合とは異なり、反応の進行に伴う内圧の上昇は認められず、圧抜きの様な煩雑な操作を必要としない。さらに、広範な原料基質に対しても、比較的高い収率を期待することができる。
【化3】

【0019】
特許文献1に記載の中間体(6)として広範な基質適用範囲が挙げられているが、実施例で具体的に開示されているのはビニルクロリド化合物の一例のみである。よって、本発明で開示する含フッ素硫酸エノールエステル類の反応性については知る由も無かった。さらに、本発明の製造方法を採用することにより、同一の目的化合物を特許文献1に比べて格段に高い収率で得ることができる(本発明の実施例4 vs.特許文献1の例2)。
【0020】
非特許文献1に記載の製造方法は、本発明に類似する製造方法であるが、含フッ素硫酸エノールエステル類を経由する反応ではなく、実際に好適なフッ素化剤も異なる。
【0021】
この様に、本発明は、ジェミナルジフルオロ化合物の製造方法として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のジェミナルジフルオロ化合物の製造方法について詳細に説明する。
【0023】
本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0024】
一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類のRおよびRは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルキルカルボニル基、置換アルキルカルボニル基、芳香環カルボニル基、置換芳香環カルボニル基、アルコキシカルボニル基、置換アルコキシカルボニル基、シアノ基またはニトロ基を表す。該ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を表す。該アルキル基は、炭素数1〜18の、直鎖状もしくは分枝状の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)のものである。該芳香環基は、炭素数1〜18の、フェニル基、ナフチル基およびアントリル基等の芳香族炭化水素基、またはピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基およびベンゾチエニル基等の窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子等のヘテロ原子を含む芳香族複素環基である。該アルキルカルボニル基(RCO)のアルキル部位(R)は、前記のアルキル基と同じである。該芳香環カルボニル基(ArCO)の芳香環部位(Ar)は、前記の芳香環基と同じである。該アルコキシカルボニル基(ROCO)のアルキル部位(R)は、前記のアルキル基と同じである。該置換アルキル基、置換芳香環基、置換アルキルカルボニル基、置換芳香環カルボニル基および置換アルコキシカルボニル基は、それぞれ前記のアルキル基、芳香環基、アルキルカルボニル基、芳香環カルボニル基およびアルコキシカルボニル基の、任意の炭素原子または窒素原子上に、任意の数および任意の組み合わせで、置換基を有する。係る置換基は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素のハロゲン原子、メチル基、エチル基およびプロピル基等の低級アルキル基、フルオロメチル基、クロロメチル基およびブロモメチル基等の低級ハロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基およびプロポキシ基等の低級アルコキシ基、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基およびブロモメトキシ基等の低級ハロアルコキシ基、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基およびブチリルオキシ基等の低級アシルオキシ基、シアノ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基およびプロポキシカルボニル基等の低級アルコキシカルボニル基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基およびベンゾチエニル基等の芳香環基、カルボキシル基の保護体、アミノ基の保護体、ならびにヒドロキシル基の保護体等である。さらに、該置換アルキル基は、前記のアルキル基の任意の炭素−炭素単結合が、任意の数および任意の組み合わせで、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合に置換することもできる(当然、これらの不飽和結合に置換したアルキル基は、前記の置換基を同様に有することもできる)。なお、本明細書において、"低級"とは、炭素数1〜6の、直鎖状もしくは分枝状の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)であるものを意味する。また、前記の“係る置換基は”の芳香環基には、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、ホルミルオキシ基、低級アシルオキシ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、カルボキシル基の保護体、アミノ基の保護体およびヒドロキシル基の保護体等が置換することもできる。さらに、ピロリル基、インドリル基、カルボキシル基、アミノ基およびヒドロキシル基の保護基は、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.等に記載された保護基である。
【0025】
一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類のRは、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルコキシ基または置換アルコキシ基を表す。該アルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基は、一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類のRおよびRのアルキル基、置換アルキル基、芳香環基および置換芳香環基と同じである。該アルコキシ基(RO)のアルキル部位(R)は、一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類のRおよびRのアルキル基と同じである。該置換アルコキシ基(R’O)の置換アルキル部位(R’)は、一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類のRおよびRの置換アルキル基と同じである。
【0026】
一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類の「RとR」、「RとR」または「RとR」は、任意の炭素原子同士で(窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子等のヘテロ原子を介することもできる)、かつ任意の数および任意の組み合わせで、共有結合により環式構造(例えば、単環式、縮合多環式、架橋、スピロ環、環集合等)を形成していてもよい[但し、共有結合に関与することができない置換基(RおよびRでは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基およびニトロ基、Rでは、水素原子)は除かれる]。
【0027】
一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類のXは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基を表す。
【0028】
一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類の波線は、二重結合の立体化学がE体、Z体またはこれらの混合体であることを表す。
【0029】
一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類は、Synthesis(ドイツ),1982年,p.85およびSynthesis(ドイツ),1980年,p.283等を参考にして同様に製造することができる。その中でもフルオロ硫酸エノールエステル類は、トリフルオロメタンスルホン酸エノールエステル類の安価な代替と考えられており、好ましい態様である。本願出願人は、本願に先立ち、フルオロ硫酸エノールエステル類の極めて有用な製造方法を出願しており[特願2011−131749/フルオロ硫酸エノールエステル類の製造方法(以下、先願)]、本発明との組み合わせは特に好ましい態様である。先願の開示内容を要約して以下に記載する。先願に記載の製造方法は、α位に水素原子を有するカルボニル化合物を塩基の存在下にスルフリルフルオリド(SO)と反応させることにより、フルオロ硫酸エノールエステル類(本発明の一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類のXがフッ素原子に対応)を製造することができる。該フルオロ硫酸エノールエステル類の中でもRおよびRがそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基が好ましく、塩基の中でも有機塩基が好ましく、有機塩基の中でも1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エンまたは1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが好ましい(本願の参考例1を参照)。
【0030】
一般式[2]で示されるジェミナルジフルオロ化合物のR、RおよびRは、一般式[1]と同じである。
【0031】
本発明では、フッ素化剤としてフッ化水素、あるいは、「有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体」等が好ましく用いられる。但し、これらに限定されず、有機合成において一般的に用いられるフッ素化剤も採用することができる。
【0032】
「有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体」における有機塩基は、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、2,4,6−コリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等である。但し、これらに限定されず、有機合成において一般的に用いられる有機塩基も採用することができる。その中でもトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが好ましく、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが特に好ましい。これらの有機塩基は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0033】
「有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体」の、有機塩基とフッ化水素のmol比は、100:1から1:100の範囲で用いれば良く、50:1から1:50が好ましく、25:1から1:25が特に好ましい。アルドリッチ(Aldrich、2009−2010カタログ)から市販されている「トリエチルアミン1molとフッ化水素3molとからなる錯体」または「ピリジン〜30%(〜10mol%)とフッ化水素〜70%(〜90mol%)とからなる錯体」を用いるのが便利である。
【0034】
フッ化水素、あるいは「有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体」の使用量は、一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類1molに対して、フッ化物イオン(F)として1.4mol以上を用いれば良く、1.6〜1000molが好ましく、1.8〜500molが特に好ましい。
【0035】
酸触媒は、塩化水素、臭化水素、硫酸、硝酸、過塩素酸、フルオロ硫酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、三フッ化ホウ素、三弗化アンチモン、五弗化アンチモン、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン、三弗化二塩化アンチモン、五弗化ヨウ素および七弗化ヨウ素等の無機酸、ならびに2,2,2−トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸およびトリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸である。但し、これらに限定されず、有機合成において一般的に用いられる酸触媒も採用することができる。その中でも硫酸、フルオロ硫酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、三フッ化ホウ素、2,2,2−トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸およびトリフルオロメタンスルホン酸が好ましく、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、トリフルオロ酢酸、フルオロ硫酸およびトリフルオロメタンスルホン酸が特に好ましい。これらの酸触媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0036】
酸触媒を用いる場合の該使用量は、一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類1molに対して0.0001mol以上を用いれば良く、0.001〜200molが好ましく、0.01〜100molが特に好ましい。
【0037】
反応溶媒は、n−ヘキサンおよびn−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンおよびα,α,α−トリフルオロトルエン等のハロゲン系、テトラヒドロフランおよびtert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、酢酸エチルおよび酢酸n−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミドおよび1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系、アセトニトリルおよびプロピオニトリル等のニトリル系、ならびにジメチルスルホキシド等である。その中でもn−ヘプタン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、α,α,α−トリフルオロトルエン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリルおよびジメチルスルホキシドが好ましく、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンおよびα,α,α−トリフルオロトルエンが特に好ましい。これらの反応溶媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0038】
反応溶媒の使用量は、一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類1molに対して0.0001L(リットル)以上を用いれば良く、0.0005〜30Lが好ましく、0.001〜15Lが特に好ましい。本反応は、反応溶媒を用いずにニートの状態で行うこともできる。
【0039】
反応温度は、−50〜+150℃の範囲で行えば良く、−40〜+125℃が好ましく、−30〜+100℃が特に好ましい。
【0040】
反応時間は、48時間以内の範囲で行えば良く、原料基質、反応剤および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質の減少が殆ど認められなくなった時点を終点とすることが好ましい。
【0041】
後処理は、有機合成における一般的な操作を採用することにより、一般式[2]で示されるジェミナルジフルオロ化合物を得ることができる。粗生成物は、必要に応じて活性炭処理、分別蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により高い純度に精製することができる。
【0042】
[実施例]
以下、実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。Etはエチル基を表す。
【実施例1】
【0043】
フッ素樹脂ライニングの反応容器を−20℃の冷媒浴に浸し、フッ化水素1.50g(75.0mmol、190eq)、下記式:
【化4】

【0044】
で示される含フッ素硫酸エノールエステル類71.0mg(0.394mmol、1.00eq)とクロロホルム0.500mL(1.27L/mol)を加え、−20〜−10℃で1時間、0℃で終夜攪拌した。反応終了液をクロロホルム5mLで希釈し、水5mLと10mLで2回洗浄し、10%炭酸カリウム水溶液10mLで洗浄し、10%食塩水10mLで洗浄し、回収有機層を19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、下記式:
【化5】

【0045】
で示されるジェミナルジフルオロ化合物が0.0965mmol含まれていた。内部標準法による収率は24%であった。19F−NMRを下に示す。
【0046】
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl)、δ ppm;66.56(m、2F)。
【実施例2】
【0047】
フッ素樹脂ライニングの反応容器を−10℃の冷媒浴に浸し、フッ化水素3.48g(174mmol、20.0eq)、下記式:
【化6】

【0048】
で示される含フッ素硫酸エノールエステル類2.00g(8.69mmol、1.00eq)、クロロホルム0.200mL(0.0230L/mol)とトリフルオロ酢酸197mg(1.73mmol、0.199eq)を加え、−5℃で4時間15分攪拌した。反応終了液をクロロホルム20mLで希釈し、水20mLと10mLで2回洗浄し、10%炭酸カリウム水溶液10mLで洗浄し、10%食塩水で洗浄し、回収有機層を19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、下記式:
【化7】

【0049】
で示されるジェミナルジフルオロ化合物が4.58mmol含まれていた。内部標準法による収率は53%であった。
【実施例3】
【0050】
フッ素樹脂ライニングの反応容器を−5℃の冷媒浴に浸し、フッ化水素3.45g(172mmol、20.0eq)、下記式:
【化8】

【0051】
で示される含フッ素硫酸エノールエステル類2.00g(8.61mmol、1.00eq)、クロロホルム0.200mL(0.0232L/mol)とトリフルオロ酢酸196mg(1.72mmol、0.200eq)を加え、−5℃で3時間15分攪拌した。反応終了液をクロロホルム10mLで希釈し、水10mLと5mLで2回洗浄し、10%炭酸カリウム水溶液10mLで洗浄し、10%食塩水5mLで洗浄し、回収有機層を19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;ヘキサフルオロベンゼン)で定量したところ、下記式:
【化9】

【0052】
で示されるジェミナルジフルオロ化合物が6.59mmol含まれていた。内部標準法による収率は77%であった。19F−NMRを下に示す。
【0053】
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl)、δ ppm;71.45(m、2F)。
【実施例4】
【0054】
フッ素樹脂ライニングの反応容器を−10℃の冷媒浴に浸し、フッ化水素860mg(43.0mmol、116eq)、下記式:
【化10】

【0055】
で示される含フッ素硫酸エノールエステル類112mg(0.370mmol、1.00eq)、クロロホルム0.100mL(0.270L/mol)とトリフルオロ酢酸49.0mg(0.430mmol、1.16eq)を加え、室温で終夜攪拌した。反応終了液をクロロホルム10mLで希釈し、水10mLで2回洗浄し、10%炭酸カリウム水溶液10mLで洗浄し、5%食塩水5mLで洗浄し、回収有機層を19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;ヘキサフルオロベンゼン)で定量したところ、下記式:
【化11】

【0056】
で示されるジェミナルジフルオロ化合物が0.155mmol含まれていた。内部標準法による収率は42%であった。
【実施例5】
【0057】
フッ素樹脂ライニングの反応容器を0℃の冷媒浴に浸し、フッ化水素730mg(36.5mmol、20.1eq)、下記式:
【化12】

【0058】
で示される含フッ素硫酸エノールエステル類500mg(1.82mmol、1.00eq)、クロロホルム0.0500mL(0.0275L/mol)とトリフルオロ酢酸20.8mg(0.182mmol、0.100eq)を加え、0℃で3時間30分攪拌した。反応終了液をクロロホルム10mLで希釈し、水10mLで2回洗浄し、炭酸カリウム水溶液10mLで洗浄し、回収有機層を19F−NMRによる内部標準法(内部標準物質;ヘキサフルオロベンゼン)で定量したところ、下記式:
【化13】

【0059】
で示されるジェミナルジフルオロ化合物が0.400mmol含まれていた。内部標準法による収率は22%であった。
【0060】
[参考例1]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器50mLに、下記式:
【化14】

【0061】
で示されるα位に水素原子を有するカルボニル化合物1.00g(10.2mmol、1.00eq)、トルエン10.0mL(1L/mol)と1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン3.08g(20.2mmol、1.98eq)を加え、−40℃の冷媒浴に浸し、スルフリルフルオリド2.63g(25.8mmol、2.53eq)をボンベより吹き込み、室温で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィーより変換率は61%であった。反応終了液をトルエン50mLで希釈し、1N塩酸30mLで洗浄し、5%炭酸水素ナトリウム水溶液30mLで洗浄し、10%食塩水30mLで洗浄した。回収有機層のガスクロマトグラフィー純度は63.6%であった(原料基質のシクロヘキサノンが36.3%)。回収有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、19F−NMR(内部標準物質;α,α,α−トリフルオロトルエン)で定量したところ、下記式:
【化15】

【0062】
で示されるフルオロ硫酸エノールエステル類が1.03g含まれていた。収率は56%であった。クーゲルロール精製品(ガスクロマトグラフィー純度98.1%)のHと19F−NMRを下に示す。
【0063】

H−NMR(基準物質;MeSi、重溶媒;CDCl)、δ ppm;1.61(m、2H)、1.80(m、2H)、2.19(m、2H)、2.34(m、2H)、5.83(m、1H)。
【0064】
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl)、δ ppm;200.65(s、1F)。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明で対象とするジェミナルジフルオロ化合物は、医農薬中間体として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]:
【化1】

[式中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルキルカルボニル基、置換アルキルカルボニル基、芳香環カルボニル基、置換芳香環カルボニル基、アルコキシカルボニル基、置換アルコキシカルボニル基、シアノ基またはニトロ基を表し、Rは水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルコキシ基または置換アルコキシ基を表し、RとR、RとRまたはRとRは、任意の炭素原子同士で、かつ任意の数および任意の組み合わせで、共有結合により環式構造を形成していてもよく、Xはフッ素原子またはトリフルオロメチル基を表し、波線は二重結合の立体化学がE体、Z体またはこれらの混合体であることを表す。]
で示される含フッ素硫酸エノールエステル類を、フッ素化剤と反応させる工程を含む、一般式[2]:
【化2】

[式中、R、RおよびRは一般式[1]と同じである。]
で示されるジェミナルジフルオロ化合物の製造方法。
【請求項2】
一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類のXが、フッ素原子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一般式[1]で示される含フッ素硫酸エノールエステル類のXが、トリフルオロメチル基である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
フッ素化剤が、フッ化水素、あるいは、有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体である、請求項1乃至3に記載の方法。
【請求項5】
酸触媒の存在下に前記反応を行う、請求項1乃至4に記載の方法。
【請求項6】
酸触媒が、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、トリフルオロ酢酸、フルオロ硫酸またはトリフルオロメタンスルホン酸である、請求項5に記載の方法。

【公開番号】特開2013−28569(P2013−28569A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166797(P2011−166797)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】