ジェミニ型界面活性剤及びエマルションの解乳化方法
【課題】優れた界面活性能を有するとともに、エマルションの解乳化を行うに当たり、エマルションに対して添加成分を加えることなく解乳化を簡便に実施することが可能なジェミニ型界面活性剤及びエマルションの解乳化方法を提供する。
【解決手段】
本発明に係るジェミニ型界面活性剤は、アゾベンゼン基の両端に2分子の第3級アミンを連結し、第3級アミンの置換基の1つとして特定の炭素数の炭化水素鎖を導入した構造であり、優れた界面活性能を有し、安定したエマルションを形成することができるとともに、当該界面活性剤を添加したエマルションに紫外光を照射することにより相分離が簡便に実施される。そのため、成分系に影響を及ぼすこともなく、解乳化剤等の添加成分の除去等も不要な、簡便なエマルションの解乳化手段を提供することができる。
【解決手段】
本発明に係るジェミニ型界面活性剤は、アゾベンゼン基の両端に2分子の第3級アミンを連結し、第3級アミンの置換基の1つとして特定の炭素数の炭化水素鎖を導入した構造であり、優れた界面活性能を有し、安定したエマルションを形成することができるとともに、当該界面活性剤を添加したエマルションに紫外光を照射することにより相分離が簡便に実施される。そのため、成分系に影響を及ぼすこともなく、解乳化剤等の添加成分の除去等も不要な、簡便なエマルションの解乳化手段を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェミニ型界面活性剤及びエマルションの解乳化方法に関する。さらに詳しくは、エマルションに対して添加成分を加えることなくエマルションの解乳化を簡便に実施することが可能なジェミニ型界面活性剤及びエマルションの解乳化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジェミニ(Gemini)型界面活性剤は、少量の添加で良好な機能を発現することや、炭素数が多いのにもかかわらずクラフト点が低い等の利点を有し、通常の界面活性剤に比べて界面活性能が格段に優れるため、次世代型界面活性剤として大きな注目を集めている。かかるジェミニ型界面活性剤の基本構造は、親水性頭部基と疎水性基とからなる少なくとも2個の界面活性剤単位がスペーサーと呼ばれる間隔保持部により親水性基付近で相互に結合されているものである(例えば、特許文献1を参照。)。また、かかるスペーサーをアゾベンゼン骨格とするジェミニ型界面活性剤として、4,4’−ビス(トリメチルアンモニウムヘキシルオキシ)アゾベンゼンブロミド(4,4’−bis(trimethylammoniumhexyloxy)azobenzene bromide)等が知られている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0003】
ジェミニ型界面活性剤のような界面活性剤は、一般に、水と油のように互いに混ざり合わない物質を均一で安定したエマルションとすることに用いられる。一方、廃油中から水分を除去したり、原油中に含まれる水分を除去するために、形成されているエマルションを積極的に解乳化させる技術も検討されている。これまで用いられていた解乳化する方法としては、遠心力や剪断力を与えたり、温度を変化させる等といった物理的方法のほか、アルコール類の添加による乳化剤の界面活性を低下させたり、塩添加による液−液界面の静電反発力の中和による不安定化、解乳化剤(乳解離剤)の添加等が用いられていた(例えば、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−246327号公報
【特許文献2】特開2008−45127号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「Using Light to Control Dynamic Surface Tensions of Aqueous Solutions of Water Soluble Surfactants」Langmuir 1999, 15,p4404−4410
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、解乳化する方法においてエマルションに対して解乳化剤等の添加成分を用いる場合にあっては、添加成分が成分系に少なからず影響を及ぼすことになったり、解乳化剤等の添加成分を除去する必要があるため、エマルションに対して添加成分を加えることなく解乳化を実施する手段が望まれていた。
【0007】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、優れた界面活性能を有するとともに、エマルションの解乳化を行うに当たり、エマルションに対して添加成分を加えることなく解乳化を簡便に実施することが可能なジェミニ型界面活性剤及びエマルションの解乳化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の第1発明に係るジェミニ型界面活性剤は、下記式(I)で表されることを特徴とする。
【0009】
【化1】
(式(I)中、R1、R1’、R2、R2’はそれぞれ水素原子、メチル基またはエチル基、R3、R3’はそれぞれ炭素数が4〜20の、ヘテロ原子を有してもよい直鎖状のアルキル基、Xはハロゲン原子またはヒドロキシ基、をそれぞれ示す。また、R1とR1’、R2とR2’、R3とR3’はそれぞれが同一である対称型の構造であってもよく、それぞれが同一でない非対称型の構造であってもよい。)
【0010】
本発明の第2発明に係るジェミニ型界面活性剤は、下記式(I’)で表されることを特徴とする。
【0011】
【化2】
(式(I’)中、R1、R1’、R2、R2’はそれぞれ水素原子、メチル基またはエチル基、R4、R4’はそれぞれ水素原子、または炭素数が1〜20の、ヘテロ原子を有してもよい直鎖状のアルキル基、n、n’はそれぞれ0〜19の整数であって、R4の炭素数とnの合計及びR4’の炭素数とn’の合計は4〜20の整数となり、A、A’はそれぞれエーテル結合(−O−)、アミド結合(−NHCO−または−CONH―)、エステル結合(−COO−または−OCO−)またはベンゼン環(−C6H4−)の群から選ばれた結合基、Xはハロゲン原子またはヒドロキシ基、をそれぞれ示す。また、R1とR1’、R2とR2’、R4とR4’、AとA’、nとn’はそれぞれが同一である対称型の構造であってもよく、それぞれが同一でない非対称型の構造であってもよい。)
【0012】
本発明に係るジェミニ型界面活性剤は、前記した本発明において、前記Xが塩素原子であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るエマルションの解乳化方法は、前記した本発明に係るジェミニ型界面活性剤が添加されたエマルションに紫外光を照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るジェミニ型界面活性剤は、優れた界面活性能を有し、安定したエマルションを形成することができるとともに、当該界面活性剤を添加したエマルションに紫外光を照射することにより相分離が簡便に実施されるので、成分系に影響を及ぼすこともなく、解乳化剤等の添加成分の除去等を必要としない解乳化に対応可能である。
【0015】
また、本発明に係るエマルションの解乳化方法は、前記した本発明のジェミニ型界面活性剤が添加されたエマルションに対して紫外光を照射することにより相分離が実施されるので、成分系に影響を及ぼすこともなく、解乳化剤等の添加成分の除去等も不要な、簡便なエマルションの解乳化手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンの合成スキームの一例を示した図である。
【図2】実施例1の操作(5)における1H−NMRの測定結果を示した図である。
【図3】実施例1の操作(5)におけるFAB−Massの測定結果を示した図である。
【図4】実施例1の操作(6)における1H−NMRの測定結果を示した図である。
【図5】実施例1の操作(6)におけるFAB−Massの測定結果を示した図である。
【図6】UV−vis吸収スペクトルの測定結果を示した図である。
【図7】アゾベンゼン基プロトンの1H−NMRの測定結果を示した図である。
【図8】表面張力−濃度曲線を示した図である。
【図9】界面張力−濃度曲線を示した図である。
【図10】界面張力−経過時間曲線を示した図である。
【図11】界面活性剤水溶液濃度−界面活性剤/n−オクタンの混合質量比相図である。
【図12】エマルションの蛍光顕微鏡観察写真を示した図である。
【図13】目視視野における3成分の相状態の観察写真を示した図である。
【図14】微分干渉顕微鏡を用いた微視的視野における3成分の相状態の観察写真を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一態様を説明する。本発明に係るジェミニ型界面活性剤は、下記式(I)または式(I’)で表される化合物である。
【0018】
【化3】
【0019】
【化4】
【0020】
前記した式(I)において、R1、R1’、R2、R2’はそれぞれ水素原子、メチル基またはエチル基、R3、R3’はそれぞれ炭素数が4〜20の、ヘテロ原子を有してもよい直鎖状のアルキル基、Xはハロゲン原子またはヒドロキシ基(ヒドロキシル基とも呼ばれる。以下同じ。)、をそれぞれ示している。また、R1とR1’、R2とR2’、R3とR3’はそれぞれが同一である対称型の構造であってもよく、それぞれが同一でない非対称型の構造であってもよい。
【0021】
式(I)において、R3及びR3’は、スペーサーのアゾベンゼン基と結合される第3級アミンの置換基の1つである直鎖状のアルキル基であるが、アルキル基を直鎖状として、炭素数を4〜20として置換基とすることにより、静置安定性に優れたエマルションを形成しうる界面活性剤となる。かかるR3及びR3’の炭素数は4〜16とすることが好ましく、6〜12とすることが特に好ましい。
【0022】
また、前記した式(I’)において、R1、R1’、R2、R2’はそれぞれ水素原子、メチル基またはエチル基、R4、R4’はそれぞれ水素原子、または炭素数が1〜20の、ヘテロ原子を有してもよい直鎖状のアルキル基、n、n’はそれぞれ0〜19の整数であって、R4の炭素数とnの合計及びR4’の炭素数とn’の合計は4〜20の整数となり、A、A’はそれぞれエーテル結合(−O−)、アミド結合(−NHCO−または−CONH―)、エステル結合(−COO−または−OCO−)またはベンゼン環(−C6H4−)の群から選ばれた結合基、Xはハロゲン原子またはヒドロキシ基、をそれぞれ示している。また、R1とR1’、R2とR2’、R4とR4’、AとA’、nとn’はそれぞれが同一である対称型の構造であってもよく、それぞれが同一でない非対称型の構造であってもよい。なお、nやn’が0の場合には、AやA’は両端のNに直接結合される。
【0023】
式(I’)において、R4の炭素数とnの合計及びR4’の炭素数とn’の合計は4〜20の整数となり、式(I)におけるR3及びR3’の炭素数と共通し、式(I’)は、式(I)におけるR3及びR3’とNとの間に結合基Aを入れた構造となる(結合基AとNとの間に炭化水素鎖がある場合も含む。)。式(I’)におけるR4及びR4’の炭素数は4〜16とすることが好ましく、6〜12とすることが特に好ましい。また、(CH2)n及び(CH2)n’におけるn及びn’は0〜12とすることが好ましく、0〜6とすることが特に好ましい。また、A、A’はそれぞれエーテル結合、アミド結合、エステル結合またはベンゼン環とすることができる。
【0024】
式(I)または式(I’)で表されるジェミニ型界面活性剤を構成するXのハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。この中で、水と油の界面に効果的に吸着し、静置安定性の高いエマルションを形成させる観点から、塩素原子を使用することが好ましい。
【0025】
本発明に係る式(I)あるいは式(I’)で表されるジェミニ型界面活性剤を得るには、例えば、下記式(H)で示される4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)に対して、式(I)等に対応する炭化水素鎖の直鎖のアルキル基を有する下記式(II)で表されるヨウ化アルキル、あるいは式(II’)で表されるヨウ化アルキル化合物を反応させることにより、下記式(III)または式(III’)の第四級アンモニウムアイオダイド(ヨウ化物)を得ることができる。合成スキームの一例をスキーム1(式(I)に対応)及びスキーム1’(式(I’)に対応)に示す。なお、式(II)についてR3としているところは、R3’についても同様である。同様に、式(II’)についてR4及び(CH2)nとしているところは、R4’及び(CH2)n’についても同様である。
【0026】
【化5】
(式(H)中、R1、R1’、R2、R2’はそれぞれ水素原子、メチル基またはエチル基を示し、また、R1とR1’、R2とR2’はそれぞれが同一である対称型の構造であってもよく、それぞれが同一でない非対称型の構造であってもよい。)
【0027】
【化6】
(式(II)中、R3は式(I)のR3と同じ。)
【0028】
【化7】
(式(III)中、R1、R1’、R2、R2’、R3、R3’は式(I)と同じ。)
【0029】
(スキーム1)
【化8】
【0030】
【化9】
(式(II’)中、R4、A及びnは式(I’)のR4及びnと同じ。)
【0031】
【化10】
(式(III’)中、R1、R1’、R2、R2’、R4、R4’n、n’A、A’は式(I’)と同じ。)
【0032】
(スキーム2)
【化11】
【0033】
また、Xとしてヨウ素原子以外のハロゲン原子及びヒドロキシ基を用いる場合にあっては、前記のようにして得られた式(III)や式(III’)で表されるヨウ化物におけるヨウ素を従来公知のイオン交換法によりイオン交換し、所望のハロゲン原子またはヒドロキシ基を導入するようにすればよい。
【0034】
なお、対応する炭化水素鎖を有するヨウ化アルキル等としては、例えば、1−ヨードヘプタン等の炭素数が4〜20のヨウ化アルキル等が挙げられる。
【0035】
前記した式(H)で示される4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)は、例えば、下記に示した(1)〜(4)の操作により簡便に合成することができる。
【0036】
(1)p−アミノフェノールをジアゾ化してジアゾ化合物とする操作:
式(s)で表されるp−アミノフェノールの塩酸水水溶液に亜硝酸ナトリウム水溶液を滴下してジアゾ化して、下記式(a)のジアゾ化合物を得る。
【0037】
【化12】
【0038】
【化13】
【0039】
(2)カップリング反応を行い、4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼンを合成する操作:
(1)で得られた式(a)のジアゾ化合物を硫酸銅(II)五水和物とアンモニア水と塩化ヒドロキシルアンモニウムからなるジアゾニウム塩水溶液に滴下して、カップリング反応を行い、下記式(b)の4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼンを得る。
【0040】
【化14】
【0041】
(3)1,2−ジブロモエタンにより4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼンを合成する操作:
(2)で得られた式(b)の4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼンと炭酸カリウム、1,2−ジブロモエタンをアセトン溶媒中で加熱還流し、下記式(c)の4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼンを得る。
【0042】
【化15】
【0043】
(4)対応するジアルキルアミンにより4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンを合成する操作:
(3)で得られた式(c)の4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼンと、式(I)や式(I’)で表されるジェミニ型界面活性剤に対応するアルキル基(R1、R2、R1’、R2’を有するジアルキルアミンをアセトン溶媒中で反応させ、式(H)の4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)を得ることができる。以上の(1)〜(4)の操作のスキームの一例を図1に示す。
【0044】
かかる4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)は、特開2009−149601号公報や、J.Oleo Sci. 59,(3) p151−156(2010)の開示内容にしたがって得ることができる。
【0045】
本発明のジェミニ型界面活性剤は、スペーサーであるアゾベンゼン基の両端に、2分子の第3級アミンを連結した構造とし、第3級アミンの置換基の1つとして特定の炭素数の炭化水素鎖(あるいはエステル結合等の結合基を含んだ炭化水素鎖)を導入したカチオン性界面活性剤である。かかる構造のジェミニ型界面活性剤は、通常の蛍光灯下にあっては、スペーサーであるアゾベンゼン基がトランス体を維持し、水/油分系に添加して水/油分/界面活性剤の3成分系とした場合には安定したエマルションを形成することができる。本発明に係るジェミニ型界面活性剤は、比較的低濃度の添加で優れた界面活性能を有し、例えば、洗剤、柔軟剤、乳化剤、分散剤、帯電防止剤、表面処理剤、抗菌剤、殺生物剤、染料、インクジェット記録用紙、スキンケアローション組成物、ヘアコンディショニング組成物、化粧品組成物、相関移動触媒反応等といったカチオン性界面活性剤の諸用途に適用することができる。
【0046】
加えて、本発明のジェミニ型界面活性剤は、前記したように、通常の蛍光灯下にあっては、スペーサーであるアゾベンゼン基が安定なトランス体を維持する一方、紫外光を照射することによりアゾベンゼン基がトランス体からシス体に光異性化し、分子占有面積が小さくなり、エマルション液滴の水/油分間の界面張力が急激に変化することによりエマルションの安定状態を劇的に低下させ、解乳化を促進することになる。このように本発明に係るジェミニ型界面活性剤を添加したエマルションに紫外光を照射することにより、解乳化剤等の添加成分を用いることなく相分離が簡便に実施されるので、成分系に影響を及ぼすこともなく、解乳化剤等の除去を必要としない解乳化に対応可能な化合物となる。
【0047】
かかる効果を奏する本発明のジェミニ型界面活性剤は、水−油分が混じり合った水/油分混合系の相分離技術に適用することができ、例えば、種々の成分が混じり懸濁・乳化した工業用オイルや廃油を含有した作業用排水、近年環境への負荷が深刻となっている船舶のバラスト水中に含まれる有機成分等に対する油水分離による浄化技術へと応用可能である。そして、昨今の技術発展には欠かすことのできないレアメタル、重金属の原料からの単離過程やリサイクル過程における液−液抽出後の相分離処理技術等へと応用できると期待される。
【0048】
本発明に係るジェミニ型界面活性剤を用いたエマルションの解乳化方法は、当該ジェミニ型界面活性剤を水−油分が混じり合った水/油分混合系に添加したエマルションに紫外光を照射することにより、成分系に影響を及ぼさず、また、解乳化剤等の添加成分の除去等もなく、相分離が簡便に実施される。なお、紫外光の照射条件としては、ジェミニ型界面活性剤の種類や量、及びエマルションを構成する成分の種類等に応じて適宜決定すればよいが、紫外光の波長として、例えば350〜370nmの範囲内から選択して適用すればよい。照射光の照射時間は、例えば120秒以上とすればよく、2〜120分とすることが好ましい。また、ジェミニ型界面活性剤の添加量(水溶液として適用する場合には濃度)は、使用するジェミニ型界面活性剤の種類、油分の種類や量等に応じて適宜決定することができる。
【0049】
対象となるエマルションの油分としては、特に制限はなく、例えば、1−ヘプタン、クロロホルム、トルエン等を使用することができる。
【0050】
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的及び効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。本発明は前記した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本発明に含まれるものである。
【0051】
例えば、前記の内容において、式(I)及び式(I’)のジェミニ型界面活性剤の合成方法として、式(H)で示される4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンを経由した方法を例に挙げて説明したが、式(I)及び式(I’)のジェミニ型界面活性剤の合成方法はかかる方法には限定されない。また、式(H)で示される4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンの合成方法も、前記した(1)〜(4)の操作を例に挙げて説明したが、かかる方法には限定されない。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
ジェミニ型界面活性剤の製造:
下記(1)〜(6)の操作を用いて、下記式(I−1)に示すジェミニ型界面活性剤を製造した。
【0054】
【化16】
【0055】
(1)ジアゾ化物の合成:
500mlのビーカーに、式(s)に表されるp−アミノフェノール2.0g(18.34mmol)を入れ、水20.0mlを加えてp−アミノフェノール水溶液とした。かかるp−アミノフェノールに、塩酸7.32ml、水29.28mlを30分かけて滴下し、塩酸塩水溶液とした。続いて、亜硝酸ナトリウム1.26g(18.34mmol)を水108.0mlに溶解させた亜硝酸ナトリウム水溶液を、塩酸塩水溶液に2時間かけてゆっくりと滴下しジアゾ化を行い、ジアゾ化物である式(a)に表される4−ヒドロキシベンゼンジアゾニウムクロライドを得た。なお、以上の操作は、0〜3℃で行った。
【0056】
(2)4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼン(OH−azo)の合成:
ビーカーに、硫酸銅(II)五水和物8.15g(32.65mmol)とアンモニア水5.47ml(29.0mmol)と塩化ヒドロキシルアンモニウム1.28g(18.34mmol)を入れ、水18.30mlに溶解させてジアゾニウム塩水溶液を調製した。このジアゾニウム塩水溶液に(1)で得られたジアゾ化物を滴下し、さらにジエチルエーテル18.0mlを加え、カップリング反応を行った。反応終了後、ろ過し、希塩酸液で洗浄し粗生成物とした。これを、アセトン−水系で再結晶することにより式(b)に表される4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼンを得た。
【0057】
得られた生成物は、1H−NMR、FT−IR、Massの各スペクトルにより、式(b)に表される4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼン(OH−azo)であると同定した。収量、収率、性状は下記の通りである。
【0058】
収量 3.73g(17.42mmol)
収率 95%
性状 黄色固体
【0059】
(3)4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼン(Br−azo)の合成:
還流冷却器を装備した200mlナス型フラスコに、(2)で得られた4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼン(OH−azo)0.20g(0.93mmol)、炭酸カリウム0.90g(6.54mmol)、1,2−ジブロモエタン1.76g(9.34mmol)及び溶媒としてアセトンを入れて、70℃で50時間加熱還流した。反応終了後、室温まで冷却し、減圧留去し、粗生成物を得た。これを、アセトン−水系で再結晶することにより、式(c)に表される4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼン(Br−azo)を得た。
【0060】
得られた生成物は、1H−NMR、FT−IR、Massの各スペクトルにより、式(c)に表される4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼン(Br−azo)であると同定した。収量、収率、性状は下記の通りである。
【0061】
収量 0.35g(0.81mmol)
収率 87%
性状 黄色固体
【0062】
(4)4,4’−ジ(2−ジメチルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)の合成:
窒素置換をした100mlナス型フラスコに、(3)で得られた4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼン(Br−azo)0.28g(0.66mmol)、ジメチルアミン2.25ml(24.21mmol)、及び溶媒としてアセトンを用い、室温で5日間攪拌した。反応終了後、減圧留去し、粗生成物を得た。これを、クロロホルム−水系によって分液操作し、クロロホルム層を減圧留去した。これをアセトン−水系で再結晶することにより、式(H)に表される4,4’−ジ(2−ジメチルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)を得た。
【0063】
得られた生成物は、1H−NMR、FT−IR、Massの各スペクトルにより、式(H)に表される4,4’−ジ(2−ジメチルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)であると同定した。収量、収率、性状は下記の通りである。
【0064】
収量 0.03g(0.07mmol)
収率 11%
性状 黄金色固体
【0065】
(5)4,4’−ジ[2−{ジメチル(ヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第四級アンモニウムアイオダイドの合成:
還流冷却器を装備した50mlナス型フラスコに窒素置換を施し、(4)で得られた4,4’−ジ(2−ジメチルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)1.06g(3.0mmol)、ヨウ化アルキルとして1−ヨードヘプタン1.70g(9.0mmol)及び溶媒としてアセトニトリルを用い、80℃で60時間加熱撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去し、粗生成物を得た。これを酢酸エチルで洗浄することにより下記式(III−1)に表される4,4’−ジ[2−{ジメチル(ヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第四級アンモニウムアイオダイドジ(2−ジメチルアミノエトキシ)アゾベンゼンを得た。
【0066】
【化17】
【0067】
この生成物について、1H−NMR,FAB−Massの各スペクトルにより化学構造の同定を行った。1H−NMR及びFAB−Mass測定の結果をそれぞれ図2及び図3に示す。得られた生成物は、図2に示した1H−NMR、図3に示したFAB−Massの各結果より、式(III−1)に表される目的の4,4’−ジ[2−{ジメチル(ヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第四級アンモニウムアイオダイド(C7−azo−C7 I−)であると同定した。収量、収率、性状、分子量は下記の通りである。
【0068】
収量 2.062g(2.55mmol)
収率 85%
性状 黄色固体
分子量 HRMS(FAB+):Calculated for[M−I]+ 681.3599,Observed 681.3605
【0069】
(6)4,4’−ジ[2−{ジメチル(ヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第四級アンモニウムクロライドの合成:
イオン交換樹脂(アンバーライトIRA900J CL)をガラス製カラム管に充填し、(5)で得られた4,4’−ジ[2−{ジメチル(ヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第四級アンモニウムアイオダイド2.06g(2.55mmol)をメタノール溶媒にて展開し、IからClのイオン交換を行った。イオン交換後、溶媒を減圧留去することにより、前記した式(I−1)に表される4,4’−ジ[2−{ジメチル(ヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第四級アンモニウムクロライド(C7−azo−C7 Cl−)を得た。
【0070】
生成物について、1H−NMR,FAB−Massの各スペクトルにより化学構造の同定を行った。1H−NMR、FAB−Mass測定の結果をそれぞれ図4及び図5に示す。得られた生成物は、図4に示した1H−NMR,図5に示したFAB−Massの各結果より、式(I−1)に表される目的の4,4’−ジ[2−{ジメチル(ヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第四級アンモニウムクロライドであると同定した。収量、収率、性状、分子量は下記の通りである。
【0071】
収量 1.563g(2.5mmol)
収率 98%
性状 黄色固体
分子量 HRMS(FAB+):Calculated for[M−Cl]+ 589.4243, Observed 589.4246
【0072】
[試験例1]
光異性化能の確認(光照射実験):
(1)UV−vis吸収スペクトル測定:
実施例1で得られたジェミニ型界面活性剤の0.05mM水溶液について、紫外−可視光領域における吸収スペクトル測定を行った。具体的には、(ア)当該水溶液の通常の蛍光灯下における光定常状態(可視光ないしは紫外光を照射した条件下で、トランス体とシス体の割合が一定となり、その割合が変化しない安定した状態のこと。以下同じ。)、(イ)紫外光を30秒照射した後、(ウ)再び可視光を180秒照射した後、における吸収スペクトルを測定した。なお、下記(2)を含む光照射実験では、可視光照射には波長450nm(LAX−Cute:朝日分光(株)製)の光を、紫外光照射には波長360nm(前記の装置と同じ)または波長354nm(ハンディーUVランプ:AS ONE社製)の光を用いた。結果を図6に示す。
【0073】
図6に示すように、(ア)通常の蛍光灯下における光定常状態では、354nmをピークとするトランス体のアゾベンゼンのπ−π*遷移に帰属される吸収が確認された。一方で、(イ)紫外光を30秒間照射した後には、354nmのピークは消失し、新たに438nmにシス体のアゾベンゼンのn−π*遷移に帰属される吸収が確認された。さらに(ウ)再び可視光を180秒照射することにより、可逆的に異性化し、354nmをピークとするトランス体のアゾベンゼンのπ−π*遷移に帰属される吸収が再び確認された。
【0074】
(2)光異性化率の確認:
実施例1で得られたジェミニ型界面活性剤の0.5mM水溶液について、通常の蛍光灯下における光定常状態及び紫外光を照射した状態におけるそれぞれの異性体割合を、1H−NMR測定を用いて確認した。なお、異性体割合の算出には、最も光異性化の影響が表れるアゾベンゼン基のプロトンの積分強度の比を用いた。アゾベンゼン基プロトンの1H−NMRの測定結果を図7に示す(なお、図7において、簡略化のため実施例1のジェミニ型界面活性剤の分子構造の一部を省略して記載している。)。
【0075】
図7に示すように、蛍光灯下における光定常状態ではトランス体:シス体の割合は8:2であったが、紫外光を30分間照射した後には、トランス体:シス体が0:10となった。その後、可視光を60分間照射することでトランス体へと可逆的に異性化することが確認された。同様に、暗室下の熱戻りによっても再びトランス体へと異性化した。
【0076】
以上の結果より、実施例1のジェミニ型界面活性剤は、蛍光灯下における光定常状態では安定なトランス体であるが、紫外光の照射により、トランス体に光異性化することが確認できた。
【0077】
[試験例2]
界面基礎物性の確認:
(1)クラフト点の確認
実施例1で得られたジェミニ型界面活性剤を目視観察したところ、クラフト点は明らかに室温以下であり、通常の室温で使用可能であると考えられる。
【0078】
(2)表面張力測定及び臨界ミセル濃度(cmc)の算出:
実施例1で得られたジェミニ型界面活性剤の水溶液について種々の濃度の水溶液を調製し、そのトランス体、シス体それぞれの表面張力を測定した。なお、測定は30℃恒温下で、ウィルヘルミープレート(Wilhelmy Plate)法にて行った。なお、それぞれの異性体の測定に関し、トランス体は可視光照射条件下で、シス体はその光定常状態まで紫外光を照射し、測定中にも紫外光の照射を継続してシス体が維持できるようにして測定を行った。表面張力−濃度曲線を図8に示した。
【0079】
図8に示す表面張力−濃度曲線より最低表面張力を確認したところ、トランス体は39.5mN/m、シス体は39.1mN/mであり大きな差異は見られなかった。また、屈曲点より臨界ミセル濃度(cmc)を算出したところ、トランス体は1.5mM、シス体は4.3mMであった。
【0080】
(3)平衡界面張力の測定:
実施例1で得られたジェミニ型界面活性剤の水溶液について種々の濃度の水溶液を調製し、そのトランス体、シス体それぞれのn−オクタンに対する平衡界面張力を測定した。測定は30℃恒温下で、ウィルヘルミープレート(Wilhelmy Plate)法にて行った。なお、(2)で行った表面張力測定と同様に、それぞれの異性体の測定に関し、トランス体は可視光照射条件下で、シス体はその光定常状態まで紫外光を照射し、測定中にも紫外光の照射を継続してシス体が維持できるようにして測定を行った。界面張力−濃度曲線を図9に示した。
【0081】
図9に示す界面張力−濃度曲線より最低界面張力を確認したところ、トランス体は10.3mN/m、シス体は9.51mN/mであり大きな差異は見られなかった。また、屈曲点より臨界ミセル濃度(cmc)を算出(実施例1のジェミニ型界面活性剤が油分であるn−オクタンに溶解しないと仮定)したところ、トランス体は1.6mM、シス体は3.2mMであり、その際のジェミニ型界面活性剤の界面における分子占有面積は、トランス体では3.2nm2、シス体では1.6nm2であった。
【0082】
[試験例3]
(1)動的界面張力に及ぼす紫外光照射の影響の確認:
実施例1で得られたジェミニ型界面活性剤の10mM水溶液を調製し、可視光照射条件下としてトランス体の状態を維持した。そして、これを油分であるn−オクタンと混合して水/油分(n−オクタン)/界面活性剤の3成分系として、油分であるn−オクタンと水の界面に、ジェミニ型界面活性剤分子が十分に界面への吸着平衡に達するまで静置した後、すぐにその界面に紫外光を照射し、動的界面張力の測定を行った。界面張力−経過時間曲線を図10に示した。
【0083】
図10に示すように、測定初期においては界面張力の値が安定していることから、十分に吸着平衡に達していることが考えられる。一方で、紫外光照射(図10中の矢印)直後より界面張力の値は急激に上昇し、その上昇値は約0.7mN/mであった。上昇後、界面張力は徐々に減少し、最終的に横ばいとなり一定となった。これはトランス−シスの光異性化により一時的に界面張力が上昇し、その後シス体のジェミニ型界面活性剤分子が吸着平衡に達したものと推測される。紫外光照射後に見られたこの界面張力の急激な上昇が、エマルションの不安定化に繋がると考えられる。
【0084】
[試験例4]
(1)ジェミニ型界面活性剤水溶液のn−オクタンに対する乳化能の検討:
実施例1で得られたジェミニ型界面活性剤の種々の濃度の水溶液を調製し、油分であるn−オクタンと種々な質量比において混合して、水/油分(n−オクタン)/界面活性剤の3成分系とした場合におけるエマルションの静置安定性を確認することにより、ジェミニ型界面活性剤の乳化能を評価した。なお、エマルションは超高速ホモジナイザー(AHG−160D/AS ONE社製)を用い、15000rpmで3分間撹拌することによって調製した。また、室温静置条件下における安定性の確認は、目視観察によって調製後1週間以内での相分離の有無を判断基準として行い、相分離のないものを「安定エマルション」とした。結果を図11に示した。
【0085】
図11は、界面活性剤水溶液濃度−界面活性剤/n−オクタンの混合質量比相図である。図11において「安定エマルション」と示した領域(ジェミニ型界面活性剤の濃度が概ね6mM以上、界面活性剤水溶液/n−オクタン(油分)が質量比で概ね25/75を中心とした領域)において前記した判断基準を満たす安定なエマルションを形成した。また、図11に示すように、ジェミニ型界面活性剤の濃度が大きくなるにつれ、安定エマルションを形成する領域が図中の左側へ広がることが確認できた。これは、少量の界面活性剤水溶液でより多くのn−オクタンを含んで安定なエマルションを形成できることを示すものである。この結果より、実施例1のジェミニ型界面活性剤が、水/油分系に添加して界面活性剤/水/油分の3成分系とした場合には安定したエマルションを形成することができることが確認できた。
【0086】
(2)エマルション型の確認:
水と油のような相溶性の無い2成分を乳化する際、得られるエマルションは、油滴に水が分散した状態であるO/W(Oil in Water)型と、水が油滴に分散した状態であるW/O(Water in Oil)型の2つの型に大別される。
【0087】
実施例1のジェミニ型界面活性剤水溶液を用いて調製したエマルションの型を判別するために、蛍光プローブを添加したエマルションの蛍光顕微鏡観察を行った。プローブには油溶性蛍光物質としてピレンを、水溶性蛍光物質としてカルセインを採用した。観察写真を図12(aはピレン、bはカルセイン)に示した。
【0088】
図12aの観察写真に示すように、分散滴よりピレン由来の青色の蛍光が観察され、また、図12bの観察写真に示すように、連続層よりカルセイン由来の緑色の蛍光が観察された。以上の結果から、実施例1のジェミニ型界面活性剤水溶液を用いて調製したエマルションは、連続層が水であり、分散滴がn−オクタンであるO/W(Oil in Water)型エマルションであることが確認できた。
【0089】
(3)ジェミニ型界面活性剤水溶液を用いたO/Wエマルションの積極的解乳化の確認:
実施例1のジェミニ型界面活性剤の10mM水溶液を調製し、可視光照射条件下としてトランス体の状態を維持した。この水溶液を用いて調製した安定なO/W(Oil in Water)エマルションに対し、紫外光を照射することによって、エマルションの積極的な解乳化(相分離)が起こるかを、(A)サンプル瓶への紫外光照射による解乳化の確認、(B)微分干渉顕微鏡を用いた微視的視野における3成分の相状態の確認、の2種の試験を行い、確認した。(A)における目視視野における3成分の相状態の観察写真を図13に、(B)における微分干渉顕微鏡を用いた微視的視野における3成分の相状態の観察写真を図14にそれぞれ示した。なお、それぞれの紫外光照射装置及び条件は下記のとおりである。
【0090】
(A)サンプル瓶への紫外光照射による解乳化の確認(結果:図13):
光源 :ハンディーUVランプSLUV−8(AS ONE社製)(LW放電管8W、365nm)
照射時間:4時間
【0091】
(B)微分干渉顕微鏡を用いた微視的視野における3成分の相状態の確認(結果:図14):
光源 :LAX−Cute(朝日分光(株)製)(キセノン光源100W、360±10nm)
照射時間:60秒
【0092】
図13はサンプル瓶に入れたジェミニ型界面活性剤水溶液とn−オクタンの混合溶液であり、水/n−オクタン/ジェミニ型界面活性剤の3成分系を入れた状態を示した観察写真である(aは攪拌前、bは攪拌後(O/Wエマルション)、cは紫外光照射後)。図13に示すように、3成分系は、界面活性剤添加により白濁したO/Wエマルションとなるが(図13b)、紫外光照射により相分離し(図13c)、解乳化が実施されることが確認できた。
【0093】
また、図14は、微分干渉顕微鏡による観察写真である(aはO/Wエマルション、bは紫外光照射後)。図14に示すように、紫外光照射によってn−オクタン滴の合一が促進され、やがて相分離することが確認できた。
【0094】
以上の結果より、実施例1のジェミニ型界面活性剤を添加した水/n−オクタン/ジェミニ型界面活性剤の3成分系のエマルションは、紫外光の照射により、その安定性を劇的に低下させ、エマルションの積極的な解乳化すなわち相分離が可能であることが確認できた。これは、エマルション液滴の水/n−オクタン(油分)間の界面張力がジェミニ型界面活性剤のトランス−シス光異性化によって急激に変化(図10参照)したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、通常の界面活性剤の用途のほか、簡便なエマルションの解乳化手段を提供するという点で、産業上の利用可能性は高い。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェミニ型界面活性剤及びエマルションの解乳化方法に関する。さらに詳しくは、エマルションに対して添加成分を加えることなくエマルションの解乳化を簡便に実施することが可能なジェミニ型界面活性剤及びエマルションの解乳化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジェミニ(Gemini)型界面活性剤は、少量の添加で良好な機能を発現することや、炭素数が多いのにもかかわらずクラフト点が低い等の利点を有し、通常の界面活性剤に比べて界面活性能が格段に優れるため、次世代型界面活性剤として大きな注目を集めている。かかるジェミニ型界面活性剤の基本構造は、親水性頭部基と疎水性基とからなる少なくとも2個の界面活性剤単位がスペーサーと呼ばれる間隔保持部により親水性基付近で相互に結合されているものである(例えば、特許文献1を参照。)。また、かかるスペーサーをアゾベンゼン骨格とするジェミニ型界面活性剤として、4,4’−ビス(トリメチルアンモニウムヘキシルオキシ)アゾベンゼンブロミド(4,4’−bis(trimethylammoniumhexyloxy)azobenzene bromide)等が知られている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0003】
ジェミニ型界面活性剤のような界面活性剤は、一般に、水と油のように互いに混ざり合わない物質を均一で安定したエマルションとすることに用いられる。一方、廃油中から水分を除去したり、原油中に含まれる水分を除去するために、形成されているエマルションを積極的に解乳化させる技術も検討されている。これまで用いられていた解乳化する方法としては、遠心力や剪断力を与えたり、温度を変化させる等といった物理的方法のほか、アルコール類の添加による乳化剤の界面活性を低下させたり、塩添加による液−液界面の静電反発力の中和による不安定化、解乳化剤(乳解離剤)の添加等が用いられていた(例えば、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−246327号公報
【特許文献2】特開2008−45127号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「Using Light to Control Dynamic Surface Tensions of Aqueous Solutions of Water Soluble Surfactants」Langmuir 1999, 15,p4404−4410
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、解乳化する方法においてエマルションに対して解乳化剤等の添加成分を用いる場合にあっては、添加成分が成分系に少なからず影響を及ぼすことになったり、解乳化剤等の添加成分を除去する必要があるため、エマルションに対して添加成分を加えることなく解乳化を実施する手段が望まれていた。
【0007】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、優れた界面活性能を有するとともに、エマルションの解乳化を行うに当たり、エマルションに対して添加成分を加えることなく解乳化を簡便に実施することが可能なジェミニ型界面活性剤及びエマルションの解乳化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の第1発明に係るジェミニ型界面活性剤は、下記式(I)で表されることを特徴とする。
【0009】
【化1】
(式(I)中、R1、R1’、R2、R2’はそれぞれ水素原子、メチル基またはエチル基、R3、R3’はそれぞれ炭素数が4〜20の、ヘテロ原子を有してもよい直鎖状のアルキル基、Xはハロゲン原子またはヒドロキシ基、をそれぞれ示す。また、R1とR1’、R2とR2’、R3とR3’はそれぞれが同一である対称型の構造であってもよく、それぞれが同一でない非対称型の構造であってもよい。)
【0010】
本発明の第2発明に係るジェミニ型界面活性剤は、下記式(I’)で表されることを特徴とする。
【0011】
【化2】
(式(I’)中、R1、R1’、R2、R2’はそれぞれ水素原子、メチル基またはエチル基、R4、R4’はそれぞれ水素原子、または炭素数が1〜20の、ヘテロ原子を有してもよい直鎖状のアルキル基、n、n’はそれぞれ0〜19の整数であって、R4の炭素数とnの合計及びR4’の炭素数とn’の合計は4〜20の整数となり、A、A’はそれぞれエーテル結合(−O−)、アミド結合(−NHCO−または−CONH―)、エステル結合(−COO−または−OCO−)またはベンゼン環(−C6H4−)の群から選ばれた結合基、Xはハロゲン原子またはヒドロキシ基、をそれぞれ示す。また、R1とR1’、R2とR2’、R4とR4’、AとA’、nとn’はそれぞれが同一である対称型の構造であってもよく、それぞれが同一でない非対称型の構造であってもよい。)
【0012】
本発明に係るジェミニ型界面活性剤は、前記した本発明において、前記Xが塩素原子であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るエマルションの解乳化方法は、前記した本発明に係るジェミニ型界面活性剤が添加されたエマルションに紫外光を照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るジェミニ型界面活性剤は、優れた界面活性能を有し、安定したエマルションを形成することができるとともに、当該界面活性剤を添加したエマルションに紫外光を照射することにより相分離が簡便に実施されるので、成分系に影響を及ぼすこともなく、解乳化剤等の添加成分の除去等を必要としない解乳化に対応可能である。
【0015】
また、本発明に係るエマルションの解乳化方法は、前記した本発明のジェミニ型界面活性剤が添加されたエマルションに対して紫外光を照射することにより相分離が実施されるので、成分系に影響を及ぼすこともなく、解乳化剤等の添加成分の除去等も不要な、簡便なエマルションの解乳化手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンの合成スキームの一例を示した図である。
【図2】実施例1の操作(5)における1H−NMRの測定結果を示した図である。
【図3】実施例1の操作(5)におけるFAB−Massの測定結果を示した図である。
【図4】実施例1の操作(6)における1H−NMRの測定結果を示した図である。
【図5】実施例1の操作(6)におけるFAB−Massの測定結果を示した図である。
【図6】UV−vis吸収スペクトルの測定結果を示した図である。
【図7】アゾベンゼン基プロトンの1H−NMRの測定結果を示した図である。
【図8】表面張力−濃度曲線を示した図である。
【図9】界面張力−濃度曲線を示した図である。
【図10】界面張力−経過時間曲線を示した図である。
【図11】界面活性剤水溶液濃度−界面活性剤/n−オクタンの混合質量比相図である。
【図12】エマルションの蛍光顕微鏡観察写真を示した図である。
【図13】目視視野における3成分の相状態の観察写真を示した図である。
【図14】微分干渉顕微鏡を用いた微視的視野における3成分の相状態の観察写真を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一態様を説明する。本発明に係るジェミニ型界面活性剤は、下記式(I)または式(I’)で表される化合物である。
【0018】
【化3】
【0019】
【化4】
【0020】
前記した式(I)において、R1、R1’、R2、R2’はそれぞれ水素原子、メチル基またはエチル基、R3、R3’はそれぞれ炭素数が4〜20の、ヘテロ原子を有してもよい直鎖状のアルキル基、Xはハロゲン原子またはヒドロキシ基(ヒドロキシル基とも呼ばれる。以下同じ。)、をそれぞれ示している。また、R1とR1’、R2とR2’、R3とR3’はそれぞれが同一である対称型の構造であってもよく、それぞれが同一でない非対称型の構造であってもよい。
【0021】
式(I)において、R3及びR3’は、スペーサーのアゾベンゼン基と結合される第3級アミンの置換基の1つである直鎖状のアルキル基であるが、アルキル基を直鎖状として、炭素数を4〜20として置換基とすることにより、静置安定性に優れたエマルションを形成しうる界面活性剤となる。かかるR3及びR3’の炭素数は4〜16とすることが好ましく、6〜12とすることが特に好ましい。
【0022】
また、前記した式(I’)において、R1、R1’、R2、R2’はそれぞれ水素原子、メチル基またはエチル基、R4、R4’はそれぞれ水素原子、または炭素数が1〜20の、ヘテロ原子を有してもよい直鎖状のアルキル基、n、n’はそれぞれ0〜19の整数であって、R4の炭素数とnの合計及びR4’の炭素数とn’の合計は4〜20の整数となり、A、A’はそれぞれエーテル結合(−O−)、アミド結合(−NHCO−または−CONH―)、エステル結合(−COO−または−OCO−)またはベンゼン環(−C6H4−)の群から選ばれた結合基、Xはハロゲン原子またはヒドロキシ基、をそれぞれ示している。また、R1とR1’、R2とR2’、R4とR4’、AとA’、nとn’はそれぞれが同一である対称型の構造であってもよく、それぞれが同一でない非対称型の構造であってもよい。なお、nやn’が0の場合には、AやA’は両端のNに直接結合される。
【0023】
式(I’)において、R4の炭素数とnの合計及びR4’の炭素数とn’の合計は4〜20の整数となり、式(I)におけるR3及びR3’の炭素数と共通し、式(I’)は、式(I)におけるR3及びR3’とNとの間に結合基Aを入れた構造となる(結合基AとNとの間に炭化水素鎖がある場合も含む。)。式(I’)におけるR4及びR4’の炭素数は4〜16とすることが好ましく、6〜12とすることが特に好ましい。また、(CH2)n及び(CH2)n’におけるn及びn’は0〜12とすることが好ましく、0〜6とすることが特に好ましい。また、A、A’はそれぞれエーテル結合、アミド結合、エステル結合またはベンゼン環とすることができる。
【0024】
式(I)または式(I’)で表されるジェミニ型界面活性剤を構成するXのハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。この中で、水と油の界面に効果的に吸着し、静置安定性の高いエマルションを形成させる観点から、塩素原子を使用することが好ましい。
【0025】
本発明に係る式(I)あるいは式(I’)で表されるジェミニ型界面活性剤を得るには、例えば、下記式(H)で示される4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)に対して、式(I)等に対応する炭化水素鎖の直鎖のアルキル基を有する下記式(II)で表されるヨウ化アルキル、あるいは式(II’)で表されるヨウ化アルキル化合物を反応させることにより、下記式(III)または式(III’)の第四級アンモニウムアイオダイド(ヨウ化物)を得ることができる。合成スキームの一例をスキーム1(式(I)に対応)及びスキーム1’(式(I’)に対応)に示す。なお、式(II)についてR3としているところは、R3’についても同様である。同様に、式(II’)についてR4及び(CH2)nとしているところは、R4’及び(CH2)n’についても同様である。
【0026】
【化5】
(式(H)中、R1、R1’、R2、R2’はそれぞれ水素原子、メチル基またはエチル基を示し、また、R1とR1’、R2とR2’はそれぞれが同一である対称型の構造であってもよく、それぞれが同一でない非対称型の構造であってもよい。)
【0027】
【化6】
(式(II)中、R3は式(I)のR3と同じ。)
【0028】
【化7】
(式(III)中、R1、R1’、R2、R2’、R3、R3’は式(I)と同じ。)
【0029】
(スキーム1)
【化8】
【0030】
【化9】
(式(II’)中、R4、A及びnは式(I’)のR4及びnと同じ。)
【0031】
【化10】
(式(III’)中、R1、R1’、R2、R2’、R4、R4’n、n’A、A’は式(I’)と同じ。)
【0032】
(スキーム2)
【化11】
【0033】
また、Xとしてヨウ素原子以外のハロゲン原子及びヒドロキシ基を用いる場合にあっては、前記のようにして得られた式(III)や式(III’)で表されるヨウ化物におけるヨウ素を従来公知のイオン交換法によりイオン交換し、所望のハロゲン原子またはヒドロキシ基を導入するようにすればよい。
【0034】
なお、対応する炭化水素鎖を有するヨウ化アルキル等としては、例えば、1−ヨードヘプタン等の炭素数が4〜20のヨウ化アルキル等が挙げられる。
【0035】
前記した式(H)で示される4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)は、例えば、下記に示した(1)〜(4)の操作により簡便に合成することができる。
【0036】
(1)p−アミノフェノールをジアゾ化してジアゾ化合物とする操作:
式(s)で表されるp−アミノフェノールの塩酸水水溶液に亜硝酸ナトリウム水溶液を滴下してジアゾ化して、下記式(a)のジアゾ化合物を得る。
【0037】
【化12】
【0038】
【化13】
【0039】
(2)カップリング反応を行い、4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼンを合成する操作:
(1)で得られた式(a)のジアゾ化合物を硫酸銅(II)五水和物とアンモニア水と塩化ヒドロキシルアンモニウムからなるジアゾニウム塩水溶液に滴下して、カップリング反応を行い、下記式(b)の4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼンを得る。
【0040】
【化14】
【0041】
(3)1,2−ジブロモエタンにより4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼンを合成する操作:
(2)で得られた式(b)の4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼンと炭酸カリウム、1,2−ジブロモエタンをアセトン溶媒中で加熱還流し、下記式(c)の4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼンを得る。
【0042】
【化15】
【0043】
(4)対応するジアルキルアミンにより4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンを合成する操作:
(3)で得られた式(c)の4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼンと、式(I)や式(I’)で表されるジェミニ型界面活性剤に対応するアルキル基(R1、R2、R1’、R2’を有するジアルキルアミンをアセトン溶媒中で反応させ、式(H)の4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)を得ることができる。以上の(1)〜(4)の操作のスキームの一例を図1に示す。
【0044】
かかる4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)は、特開2009−149601号公報や、J.Oleo Sci. 59,(3) p151−156(2010)の開示内容にしたがって得ることができる。
【0045】
本発明のジェミニ型界面活性剤は、スペーサーであるアゾベンゼン基の両端に、2分子の第3級アミンを連結した構造とし、第3級アミンの置換基の1つとして特定の炭素数の炭化水素鎖(あるいはエステル結合等の結合基を含んだ炭化水素鎖)を導入したカチオン性界面活性剤である。かかる構造のジェミニ型界面活性剤は、通常の蛍光灯下にあっては、スペーサーであるアゾベンゼン基がトランス体を維持し、水/油分系に添加して水/油分/界面活性剤の3成分系とした場合には安定したエマルションを形成することができる。本発明に係るジェミニ型界面活性剤は、比較的低濃度の添加で優れた界面活性能を有し、例えば、洗剤、柔軟剤、乳化剤、分散剤、帯電防止剤、表面処理剤、抗菌剤、殺生物剤、染料、インクジェット記録用紙、スキンケアローション組成物、ヘアコンディショニング組成物、化粧品組成物、相関移動触媒反応等といったカチオン性界面活性剤の諸用途に適用することができる。
【0046】
加えて、本発明のジェミニ型界面活性剤は、前記したように、通常の蛍光灯下にあっては、スペーサーであるアゾベンゼン基が安定なトランス体を維持する一方、紫外光を照射することによりアゾベンゼン基がトランス体からシス体に光異性化し、分子占有面積が小さくなり、エマルション液滴の水/油分間の界面張力が急激に変化することによりエマルションの安定状態を劇的に低下させ、解乳化を促進することになる。このように本発明に係るジェミニ型界面活性剤を添加したエマルションに紫外光を照射することにより、解乳化剤等の添加成分を用いることなく相分離が簡便に実施されるので、成分系に影響を及ぼすこともなく、解乳化剤等の除去を必要としない解乳化に対応可能な化合物となる。
【0047】
かかる効果を奏する本発明のジェミニ型界面活性剤は、水−油分が混じり合った水/油分混合系の相分離技術に適用することができ、例えば、種々の成分が混じり懸濁・乳化した工業用オイルや廃油を含有した作業用排水、近年環境への負荷が深刻となっている船舶のバラスト水中に含まれる有機成分等に対する油水分離による浄化技術へと応用可能である。そして、昨今の技術発展には欠かすことのできないレアメタル、重金属の原料からの単離過程やリサイクル過程における液−液抽出後の相分離処理技術等へと応用できると期待される。
【0048】
本発明に係るジェミニ型界面活性剤を用いたエマルションの解乳化方法は、当該ジェミニ型界面活性剤を水−油分が混じり合った水/油分混合系に添加したエマルションに紫外光を照射することにより、成分系に影響を及ぼさず、また、解乳化剤等の添加成分の除去等もなく、相分離が簡便に実施される。なお、紫外光の照射条件としては、ジェミニ型界面活性剤の種類や量、及びエマルションを構成する成分の種類等に応じて適宜決定すればよいが、紫外光の波長として、例えば350〜370nmの範囲内から選択して適用すればよい。照射光の照射時間は、例えば120秒以上とすればよく、2〜120分とすることが好ましい。また、ジェミニ型界面活性剤の添加量(水溶液として適用する場合には濃度)は、使用するジェミニ型界面活性剤の種類、油分の種類や量等に応じて適宜決定することができる。
【0049】
対象となるエマルションの油分としては、特に制限はなく、例えば、1−ヘプタン、クロロホルム、トルエン等を使用することができる。
【0050】
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的及び効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。本発明は前記した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本発明に含まれるものである。
【0051】
例えば、前記の内容において、式(I)及び式(I’)のジェミニ型界面活性剤の合成方法として、式(H)で示される4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンを経由した方法を例に挙げて説明したが、式(I)及び式(I’)のジェミニ型界面活性剤の合成方法はかかる方法には限定されない。また、式(H)で示される4,4’−ジ(2−ジアルキルアミノエトキシ)アゾベンゼンの合成方法も、前記した(1)〜(4)の操作を例に挙げて説明したが、かかる方法には限定されない。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
ジェミニ型界面活性剤の製造:
下記(1)〜(6)の操作を用いて、下記式(I−1)に示すジェミニ型界面活性剤を製造した。
【0054】
【化16】
【0055】
(1)ジアゾ化物の合成:
500mlのビーカーに、式(s)に表されるp−アミノフェノール2.0g(18.34mmol)を入れ、水20.0mlを加えてp−アミノフェノール水溶液とした。かかるp−アミノフェノールに、塩酸7.32ml、水29.28mlを30分かけて滴下し、塩酸塩水溶液とした。続いて、亜硝酸ナトリウム1.26g(18.34mmol)を水108.0mlに溶解させた亜硝酸ナトリウム水溶液を、塩酸塩水溶液に2時間かけてゆっくりと滴下しジアゾ化を行い、ジアゾ化物である式(a)に表される4−ヒドロキシベンゼンジアゾニウムクロライドを得た。なお、以上の操作は、0〜3℃で行った。
【0056】
(2)4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼン(OH−azo)の合成:
ビーカーに、硫酸銅(II)五水和物8.15g(32.65mmol)とアンモニア水5.47ml(29.0mmol)と塩化ヒドロキシルアンモニウム1.28g(18.34mmol)を入れ、水18.30mlに溶解させてジアゾニウム塩水溶液を調製した。このジアゾニウム塩水溶液に(1)で得られたジアゾ化物を滴下し、さらにジエチルエーテル18.0mlを加え、カップリング反応を行った。反応終了後、ろ過し、希塩酸液で洗浄し粗生成物とした。これを、アセトン−水系で再結晶することにより式(b)に表される4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼンを得た。
【0057】
得られた生成物は、1H−NMR、FT−IR、Massの各スペクトルにより、式(b)に表される4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼン(OH−azo)であると同定した。収量、収率、性状は下記の通りである。
【0058】
収量 3.73g(17.42mmol)
収率 95%
性状 黄色固体
【0059】
(3)4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼン(Br−azo)の合成:
還流冷却器を装備した200mlナス型フラスコに、(2)で得られた4,4’−ジヒドロオキシアゾベンゼン(OH−azo)0.20g(0.93mmol)、炭酸カリウム0.90g(6.54mmol)、1,2−ジブロモエタン1.76g(9.34mmol)及び溶媒としてアセトンを入れて、70℃で50時間加熱還流した。反応終了後、室温まで冷却し、減圧留去し、粗生成物を得た。これを、アセトン−水系で再結晶することにより、式(c)に表される4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼン(Br−azo)を得た。
【0060】
得られた生成物は、1H−NMR、FT−IR、Massの各スペクトルにより、式(c)に表される4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼン(Br−azo)であると同定した。収量、収率、性状は下記の通りである。
【0061】
収量 0.35g(0.81mmol)
収率 87%
性状 黄色固体
【0062】
(4)4,4’−ジ(2−ジメチルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)の合成:
窒素置換をした100mlナス型フラスコに、(3)で得られた4,4’−ジ(2−ブロモエトキシ)アゾベンゼン(Br−azo)0.28g(0.66mmol)、ジメチルアミン2.25ml(24.21mmol)、及び溶媒としてアセトンを用い、室温で5日間攪拌した。反応終了後、減圧留去し、粗生成物を得た。これを、クロロホルム−水系によって分液操作し、クロロホルム層を減圧留去した。これをアセトン−水系で再結晶することにより、式(H)に表される4,4’−ジ(2−ジメチルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)を得た。
【0063】
得られた生成物は、1H−NMR、FT−IR、Massの各スペクトルにより、式(H)に表される4,4’−ジ(2−ジメチルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)であると同定した。収量、収率、性状は下記の通りである。
【0064】
収量 0.03g(0.07mmol)
収率 11%
性状 黄金色固体
【0065】
(5)4,4’−ジ[2−{ジメチル(ヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第四級アンモニウムアイオダイドの合成:
還流冷却器を装備した50mlナス型フラスコに窒素置換を施し、(4)で得られた4,4’−ジ(2−ジメチルアミノエトキシ)アゾベンゼン(DN−azo)1.06g(3.0mmol)、ヨウ化アルキルとして1−ヨードヘプタン1.70g(9.0mmol)及び溶媒としてアセトニトリルを用い、80℃で60時間加熱撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去し、粗生成物を得た。これを酢酸エチルで洗浄することにより下記式(III−1)に表される4,4’−ジ[2−{ジメチル(ヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第四級アンモニウムアイオダイドジ(2−ジメチルアミノエトキシ)アゾベンゼンを得た。
【0066】
【化17】
【0067】
この生成物について、1H−NMR,FAB−Massの各スペクトルにより化学構造の同定を行った。1H−NMR及びFAB−Mass測定の結果をそれぞれ図2及び図3に示す。得られた生成物は、図2に示した1H−NMR、図3に示したFAB−Massの各結果より、式(III−1)に表される目的の4,4’−ジ[2−{ジメチル(ヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第四級アンモニウムアイオダイド(C7−azo−C7 I−)であると同定した。収量、収率、性状、分子量は下記の通りである。
【0068】
収量 2.062g(2.55mmol)
収率 85%
性状 黄色固体
分子量 HRMS(FAB+):Calculated for[M−I]+ 681.3599,Observed 681.3605
【0069】
(6)4,4’−ジ[2−{ジメチル(ヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第四級アンモニウムクロライドの合成:
イオン交換樹脂(アンバーライトIRA900J CL)をガラス製カラム管に充填し、(5)で得られた4,4’−ジ[2−{ジメチル(ヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第四級アンモニウムアイオダイド2.06g(2.55mmol)をメタノール溶媒にて展開し、IからClのイオン交換を行った。イオン交換後、溶媒を減圧留去することにより、前記した式(I−1)に表される4,4’−ジ[2−{ジメチル(ヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第四級アンモニウムクロライド(C7−azo−C7 Cl−)を得た。
【0070】
生成物について、1H−NMR,FAB−Massの各スペクトルにより化学構造の同定を行った。1H−NMR、FAB−Mass測定の結果をそれぞれ図4及び図5に示す。得られた生成物は、図4に示した1H−NMR,図5に示したFAB−Massの各結果より、式(I−1)に表される目的の4,4’−ジ[2−{ジメチル(ヘプチル)アミノ}エトキシ]アゾベンゼンの第四級アンモニウムクロライドであると同定した。収量、収率、性状、分子量は下記の通りである。
【0071】
収量 1.563g(2.5mmol)
収率 98%
性状 黄色固体
分子量 HRMS(FAB+):Calculated for[M−Cl]+ 589.4243, Observed 589.4246
【0072】
[試験例1]
光異性化能の確認(光照射実験):
(1)UV−vis吸収スペクトル測定:
実施例1で得られたジェミニ型界面活性剤の0.05mM水溶液について、紫外−可視光領域における吸収スペクトル測定を行った。具体的には、(ア)当該水溶液の通常の蛍光灯下における光定常状態(可視光ないしは紫外光を照射した条件下で、トランス体とシス体の割合が一定となり、その割合が変化しない安定した状態のこと。以下同じ。)、(イ)紫外光を30秒照射した後、(ウ)再び可視光を180秒照射した後、における吸収スペクトルを測定した。なお、下記(2)を含む光照射実験では、可視光照射には波長450nm(LAX−Cute:朝日分光(株)製)の光を、紫外光照射には波長360nm(前記の装置と同じ)または波長354nm(ハンディーUVランプ:AS ONE社製)の光を用いた。結果を図6に示す。
【0073】
図6に示すように、(ア)通常の蛍光灯下における光定常状態では、354nmをピークとするトランス体のアゾベンゼンのπ−π*遷移に帰属される吸収が確認された。一方で、(イ)紫外光を30秒間照射した後には、354nmのピークは消失し、新たに438nmにシス体のアゾベンゼンのn−π*遷移に帰属される吸収が確認された。さらに(ウ)再び可視光を180秒照射することにより、可逆的に異性化し、354nmをピークとするトランス体のアゾベンゼンのπ−π*遷移に帰属される吸収が再び確認された。
【0074】
(2)光異性化率の確認:
実施例1で得られたジェミニ型界面活性剤の0.5mM水溶液について、通常の蛍光灯下における光定常状態及び紫外光を照射した状態におけるそれぞれの異性体割合を、1H−NMR測定を用いて確認した。なお、異性体割合の算出には、最も光異性化の影響が表れるアゾベンゼン基のプロトンの積分強度の比を用いた。アゾベンゼン基プロトンの1H−NMRの測定結果を図7に示す(なお、図7において、簡略化のため実施例1のジェミニ型界面活性剤の分子構造の一部を省略して記載している。)。
【0075】
図7に示すように、蛍光灯下における光定常状態ではトランス体:シス体の割合は8:2であったが、紫外光を30分間照射した後には、トランス体:シス体が0:10となった。その後、可視光を60分間照射することでトランス体へと可逆的に異性化することが確認された。同様に、暗室下の熱戻りによっても再びトランス体へと異性化した。
【0076】
以上の結果より、実施例1のジェミニ型界面活性剤は、蛍光灯下における光定常状態では安定なトランス体であるが、紫外光の照射により、トランス体に光異性化することが確認できた。
【0077】
[試験例2]
界面基礎物性の確認:
(1)クラフト点の確認
実施例1で得られたジェミニ型界面活性剤を目視観察したところ、クラフト点は明らかに室温以下であり、通常の室温で使用可能であると考えられる。
【0078】
(2)表面張力測定及び臨界ミセル濃度(cmc)の算出:
実施例1で得られたジェミニ型界面活性剤の水溶液について種々の濃度の水溶液を調製し、そのトランス体、シス体それぞれの表面張力を測定した。なお、測定は30℃恒温下で、ウィルヘルミープレート(Wilhelmy Plate)法にて行った。なお、それぞれの異性体の測定に関し、トランス体は可視光照射条件下で、シス体はその光定常状態まで紫外光を照射し、測定中にも紫外光の照射を継続してシス体が維持できるようにして測定を行った。表面張力−濃度曲線を図8に示した。
【0079】
図8に示す表面張力−濃度曲線より最低表面張力を確認したところ、トランス体は39.5mN/m、シス体は39.1mN/mであり大きな差異は見られなかった。また、屈曲点より臨界ミセル濃度(cmc)を算出したところ、トランス体は1.5mM、シス体は4.3mMであった。
【0080】
(3)平衡界面張力の測定:
実施例1で得られたジェミニ型界面活性剤の水溶液について種々の濃度の水溶液を調製し、そのトランス体、シス体それぞれのn−オクタンに対する平衡界面張力を測定した。測定は30℃恒温下で、ウィルヘルミープレート(Wilhelmy Plate)法にて行った。なお、(2)で行った表面張力測定と同様に、それぞれの異性体の測定に関し、トランス体は可視光照射条件下で、シス体はその光定常状態まで紫外光を照射し、測定中にも紫外光の照射を継続してシス体が維持できるようにして測定を行った。界面張力−濃度曲線を図9に示した。
【0081】
図9に示す界面張力−濃度曲線より最低界面張力を確認したところ、トランス体は10.3mN/m、シス体は9.51mN/mであり大きな差異は見られなかった。また、屈曲点より臨界ミセル濃度(cmc)を算出(実施例1のジェミニ型界面活性剤が油分であるn−オクタンに溶解しないと仮定)したところ、トランス体は1.6mM、シス体は3.2mMであり、その際のジェミニ型界面活性剤の界面における分子占有面積は、トランス体では3.2nm2、シス体では1.6nm2であった。
【0082】
[試験例3]
(1)動的界面張力に及ぼす紫外光照射の影響の確認:
実施例1で得られたジェミニ型界面活性剤の10mM水溶液を調製し、可視光照射条件下としてトランス体の状態を維持した。そして、これを油分であるn−オクタンと混合して水/油分(n−オクタン)/界面活性剤の3成分系として、油分であるn−オクタンと水の界面に、ジェミニ型界面活性剤分子が十分に界面への吸着平衡に達するまで静置した後、すぐにその界面に紫外光を照射し、動的界面張力の測定を行った。界面張力−経過時間曲線を図10に示した。
【0083】
図10に示すように、測定初期においては界面張力の値が安定していることから、十分に吸着平衡に達していることが考えられる。一方で、紫外光照射(図10中の矢印)直後より界面張力の値は急激に上昇し、その上昇値は約0.7mN/mであった。上昇後、界面張力は徐々に減少し、最終的に横ばいとなり一定となった。これはトランス−シスの光異性化により一時的に界面張力が上昇し、その後シス体のジェミニ型界面活性剤分子が吸着平衡に達したものと推測される。紫外光照射後に見られたこの界面張力の急激な上昇が、エマルションの不安定化に繋がると考えられる。
【0084】
[試験例4]
(1)ジェミニ型界面活性剤水溶液のn−オクタンに対する乳化能の検討:
実施例1で得られたジェミニ型界面活性剤の種々の濃度の水溶液を調製し、油分であるn−オクタンと種々な質量比において混合して、水/油分(n−オクタン)/界面活性剤の3成分系とした場合におけるエマルションの静置安定性を確認することにより、ジェミニ型界面活性剤の乳化能を評価した。なお、エマルションは超高速ホモジナイザー(AHG−160D/AS ONE社製)を用い、15000rpmで3分間撹拌することによって調製した。また、室温静置条件下における安定性の確認は、目視観察によって調製後1週間以内での相分離の有無を判断基準として行い、相分離のないものを「安定エマルション」とした。結果を図11に示した。
【0085】
図11は、界面活性剤水溶液濃度−界面活性剤/n−オクタンの混合質量比相図である。図11において「安定エマルション」と示した領域(ジェミニ型界面活性剤の濃度が概ね6mM以上、界面活性剤水溶液/n−オクタン(油分)が質量比で概ね25/75を中心とした領域)において前記した判断基準を満たす安定なエマルションを形成した。また、図11に示すように、ジェミニ型界面活性剤の濃度が大きくなるにつれ、安定エマルションを形成する領域が図中の左側へ広がることが確認できた。これは、少量の界面活性剤水溶液でより多くのn−オクタンを含んで安定なエマルションを形成できることを示すものである。この結果より、実施例1のジェミニ型界面活性剤が、水/油分系に添加して界面活性剤/水/油分の3成分系とした場合には安定したエマルションを形成することができることが確認できた。
【0086】
(2)エマルション型の確認:
水と油のような相溶性の無い2成分を乳化する際、得られるエマルションは、油滴に水が分散した状態であるO/W(Oil in Water)型と、水が油滴に分散した状態であるW/O(Water in Oil)型の2つの型に大別される。
【0087】
実施例1のジェミニ型界面活性剤水溶液を用いて調製したエマルションの型を判別するために、蛍光プローブを添加したエマルションの蛍光顕微鏡観察を行った。プローブには油溶性蛍光物質としてピレンを、水溶性蛍光物質としてカルセインを採用した。観察写真を図12(aはピレン、bはカルセイン)に示した。
【0088】
図12aの観察写真に示すように、分散滴よりピレン由来の青色の蛍光が観察され、また、図12bの観察写真に示すように、連続層よりカルセイン由来の緑色の蛍光が観察された。以上の結果から、実施例1のジェミニ型界面活性剤水溶液を用いて調製したエマルションは、連続層が水であり、分散滴がn−オクタンであるO/W(Oil in Water)型エマルションであることが確認できた。
【0089】
(3)ジェミニ型界面活性剤水溶液を用いたO/Wエマルションの積極的解乳化の確認:
実施例1のジェミニ型界面活性剤の10mM水溶液を調製し、可視光照射条件下としてトランス体の状態を維持した。この水溶液を用いて調製した安定なO/W(Oil in Water)エマルションに対し、紫外光を照射することによって、エマルションの積極的な解乳化(相分離)が起こるかを、(A)サンプル瓶への紫外光照射による解乳化の確認、(B)微分干渉顕微鏡を用いた微視的視野における3成分の相状態の確認、の2種の試験を行い、確認した。(A)における目視視野における3成分の相状態の観察写真を図13に、(B)における微分干渉顕微鏡を用いた微視的視野における3成分の相状態の観察写真を図14にそれぞれ示した。なお、それぞれの紫外光照射装置及び条件は下記のとおりである。
【0090】
(A)サンプル瓶への紫外光照射による解乳化の確認(結果:図13):
光源 :ハンディーUVランプSLUV−8(AS ONE社製)(LW放電管8W、365nm)
照射時間:4時間
【0091】
(B)微分干渉顕微鏡を用いた微視的視野における3成分の相状態の確認(結果:図14):
光源 :LAX−Cute(朝日分光(株)製)(キセノン光源100W、360±10nm)
照射時間:60秒
【0092】
図13はサンプル瓶に入れたジェミニ型界面活性剤水溶液とn−オクタンの混合溶液であり、水/n−オクタン/ジェミニ型界面活性剤の3成分系を入れた状態を示した観察写真である(aは攪拌前、bは攪拌後(O/Wエマルション)、cは紫外光照射後)。図13に示すように、3成分系は、界面活性剤添加により白濁したO/Wエマルションとなるが(図13b)、紫外光照射により相分離し(図13c)、解乳化が実施されることが確認できた。
【0093】
また、図14は、微分干渉顕微鏡による観察写真である(aはO/Wエマルション、bは紫外光照射後)。図14に示すように、紫外光照射によってn−オクタン滴の合一が促進され、やがて相分離することが確認できた。
【0094】
以上の結果より、実施例1のジェミニ型界面活性剤を添加した水/n−オクタン/ジェミニ型界面活性剤の3成分系のエマルションは、紫外光の照射により、その安定性を劇的に低下させ、エマルションの積極的な解乳化すなわち相分離が可能であることが確認できた。これは、エマルション液滴の水/n−オクタン(油分)間の界面張力がジェミニ型界面活性剤のトランス−シス光異性化によって急激に変化(図10参照)したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、通常の界面活性剤の用途のほか、簡便なエマルションの解乳化手段を提供するという点で、産業上の利用可能性は高い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されることを特徴とするジェミニ型界面活性剤。
【化1】
(式(I)中、R1、R1’、R2、R2’はそれぞれ水素原子、メチル基またはエチル基、R3、R3’はそれぞれ炭素数が4〜20の、ヘテロ原子を有してもよい直鎖状のアルキル基、Xはハロゲン原子またはヒドロキシ基、をそれぞれ示す。また、R1とR1’、R2とR2’、R3とR3’はそれぞれが同一である対称型の構造であってもよく、それぞれが同一でない非対称型の構造であってもよい。)
【請求項2】
下記式(I’)で表されることを特徴とするジェミニ型界面活性剤。
【化2】
(式(I’)中、R1、R1’、R2、R2’はそれぞれ水素原子、メチル基またはエチル基、R4、R4’はそれぞれ水素原子、または炭素数が1〜20の、ヘテロ原子を有してもよい直鎖状のアルキル基、n、n’はそれぞれ0〜19の整数であって、R4の炭素数とnの合計及びR4’の炭素数とn’の合計は4〜20の整数となり、A、A’はそれぞれエーテル結合(−O−)、アミド結合(−NHCO−または−CONH―)、エステル結合(−COO−または−OCO−)またはベンゼン環(−C6H4−)の群から選ばれた結合基、Xはハロゲン原子またはヒドロキシ基、をそれぞれ示す。また、R1とR1’、R2とR2’、R4とR4’、AとA’、nとn’はそれぞれが同一である対称型の構造であってもよく、それぞれが同一でない非対称型の構造であってもよい。)
【請求項3】
前記Xが塩素原子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のジェミニ型界面活性剤。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のジェミニ型界面活性剤が添加されたエマルションに紫外光を照射することを特徴するエマルションの解乳化方法。
【請求項1】
下記式(I)で表されることを特徴とするジェミニ型界面活性剤。
【化1】
(式(I)中、R1、R1’、R2、R2’はそれぞれ水素原子、メチル基またはエチル基、R3、R3’はそれぞれ炭素数が4〜20の、ヘテロ原子を有してもよい直鎖状のアルキル基、Xはハロゲン原子またはヒドロキシ基、をそれぞれ示す。また、R1とR1’、R2とR2’、R3とR3’はそれぞれが同一である対称型の構造であってもよく、それぞれが同一でない非対称型の構造であってもよい。)
【請求項2】
下記式(I’)で表されることを特徴とするジェミニ型界面活性剤。
【化2】
(式(I’)中、R1、R1’、R2、R2’はそれぞれ水素原子、メチル基またはエチル基、R4、R4’はそれぞれ水素原子、または炭素数が1〜20の、ヘテロ原子を有してもよい直鎖状のアルキル基、n、n’はそれぞれ0〜19の整数であって、R4の炭素数とnの合計及びR4’の炭素数とn’の合計は4〜20の整数となり、A、A’はそれぞれエーテル結合(−O−)、アミド結合(−NHCO−または−CONH―)、エステル結合(−COO−または−OCO−)またはベンゼン環(−C6H4−)の群から選ばれた結合基、Xはハロゲン原子またはヒドロキシ基、をそれぞれ示す。また、R1とR1’、R2とR2’、R4とR4’、AとA’、nとn’はそれぞれが同一である対称型の構造であってもよく、それぞれが同一でない非対称型の構造であってもよい。)
【請求項3】
前記Xが塩素原子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のジェミニ型界面活性剤。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のジェミニ型界面活性剤が添加されたエマルションに紫外光を照射することを特徴するエマルションの解乳化方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−82651(P2013−82651A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223077(P2011−223077)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
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