説明

ジエステルを形成するための水素化およびエステル化

アルキルジエステルを形成するために水素化およびエステル化を使用する方法が開示される。該方法は無水マレイン酸生産工程の残留物を含んでなる未精製あるいは非精製組成物を、水素化およびエステル化の工程にかけて、高い転化効率でジエステルを形成する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願との相互参照】
【0001】
本出願は2009年8月7日出願の米国仮出願第61/232,096号からの優先権の恩典を主張する。本出願は米国仮出願第61/232,096号のその全体を参照することにより本明細書に引用したこととされる。
【技術分野】
【0002】
本明細書の開示は、ジエステルを形成するために水素化とエステル化を使用する化学転化法に関する。より具体的にはこれらの開示は、無水マレイン酸製造工程からの副産物流を含んでなる組成物を水素化およびエステル化の工程にかけ、そしてその前に組成物を精製せずに高転化率でジエステルを形成する工程に関する。
【背景技術】
【0003】
琥珀酸ジアルキルの群は既知であり、低揮発性有機溶媒中に、そして合成における多用途の出発材料として広く使用される。この群の1員が琥珀酸ジメチル(本明細書では以後DMSと呼ぶ)である。DMSを提供する既知の方法は、琥珀酸の直接的エステル化を含む。しかし、琥珀酸の高価格がこの方法を営業的に魅力的でないものにさせる。
【0004】
琥珀酸の、価格的により有効な原料は、アジピン酸製造工程の副産物の二酸(DBA)から誘導される。しかし、琥珀酸は約20重量%のみのDBAをなしており、残りはグルタル酸とアジピン酸である。その結果、この混合酸の、DBA組成物からのDMSの調製は既知ではあるが、DMSよりも多量のグルタル酸ジエステルとアジピン酸ジエステルを提供する。グルタル酸ジエステルとアジピン酸ジエステルの需要はしばしば、より所望されるDMSの需要より少ない。DMSの、増加しつつある需要と、アジピン酸の生産に関連したDBAの生産の、低下しつつある需要を考慮すると、DMSへの、低価格の経路を見いだすことが極めて望ましい。
【0005】
特許文献1は無水マレイン酸生産工程における副産物からブタンジオールまたは琥珀酸ジエステルを製造する方法を開示している(特許文献1参照)。その工程は、触媒の存在下における、実質的に固体の残留物、無水マレイン酸残留物および/または結晶化廃水を含んでなるこれらの副産物の、C−C一価アルコールとのエステル化;次に蒸留して、蒸留物として琥珀酸ジエステル、マレイン酸ジエステルおよびフマル酸ジエステルの混合物を回収し;次に140〜210℃、40〜80大気圧で銅基剤の触媒の存在下で水素により還元し;そして最後に蒸留して、ブタンジオールまたは琥珀酸ジエステルを得る工程、を含む。本方法の欠点は、ジエステルの混合物が塔頂の精製蒸留物としての比較的高沸点の化合物から回収されるために気化、凝縮されなければならないため、精製の1つの形態である水素による還元の前の蒸留が、著しい資本投資の経費と高いエネルギー経費を必要とする点である。従って、水素による還元の工程の前の、蒸留工程の必要を回避することが望ましいと考えられる。
【0006】
従って、無水マレイン酸のエステル化はしばしば、高レベルのフマル酸ジアルキル、例えば、103℃の融点をもつフマル酸ジメチルを生成する。従って、純粋なマレイン酸ジエステルよりも生産施設内で処理することが技術的に更に難しい。
【0007】
特許文献2(Cleveland等;Eastmanに指定)は、最初にマレイン酸モノメチルエステルを水素化することによる、実質的に純粋な無水マレイン酸からの琥珀酸のジアルキルエステルの生産法を開示している(特許文献2参照)。その工程は更に、触媒を使用せずに1平方インチにつき15〜5000ポンド(psig)の高圧エステル化
を含む。フマル酸ジメチルの望ましくない形成(マレイン酸エステルの異性化による)は回避され、報告されたエステル化は、経済的そして営業的に有効な方法としては十分に高くはないかも知れない、86%と91%を生成する。更に、高圧下のエステル化はしばしば、特別の装置を必要とし、経費がかかる。
【0008】
当該技術分野には、経済的に望ましい形態で容易に商業化される琥珀酸ジアルキルを製造する、簡単な方法の、まだ対処されていない需要が依然として残されている。本明細書の開示は、無水マレイン酸、無水琥珀酸、マレイン酸、琥珀酸、フマル酸およびその他の成分、例えば、一般には使用されないで焼却あるいは廃棄される無水マレイン酸製造工程からの副産物または残留物、の混合物を、一連の有用な琥珀酸ジエステルに転化する方法を提供する。既知の方法からの主な相異は、前以て全く精製せずに、フマル酸のようなフマル酸エステル前駆体を含む、無水マレイン酸生産工程の残留物からの複合混合物の水素化を含む。無水マレイン酸生産工程の残留物からのこの複合混合物はまた、エステル化されて、ジアルキルマレイン酸エステルおよびジアルキルフマル酸エステルを形成し、次に前以て精製せずに水素化にかけられて、琥珀酸ジアルキルを形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】中国特許第101343211号明細書
【特許文献2】米国特許第3,830,830号明細書
【発明の概要】
【0010】
無水マレイン酸製造工程から得られる副産物または残留物から琥珀酸ジアルキルを調製する方法が開示される。幾つかの態様において、副産物または残留物は無水マレイン酸生産工程の残留物の混合物を含んでなる。幾つかの態様において、副産物または残留物は、無水マレイン酸、無水琥珀酸およびそれらの対応する酸を含んでなる。幾つかの態様において、無水マレイン酸生産工程の残留物の混合物は、実質的に約:30〜90重量%の無水マレイン酸、5〜68重量%のフマル酸、0.4〜2重量%のマレイン酸、0.1〜0.5重量%の無水琥珀酸、0.05〜0.5重量%の琥珀酸、0.1〜1重量%の無水フタル酸、0.1〜0.5重量%のフマル酸モノアルデヒド、0.1〜0.5重量%の5−ヒドロキシ−2−フラノン、0.5〜1.5重量%のリンゴ酸、0.1〜0.3重量%のo−キシレン、0.02〜0.1重量%の酢酸、痕跡量のメタノール、約250ppmの塩化物、100ppm未満の臭化物、およびその他の未確認有機化合物を含んでなる。
【0011】
幾つかの態様において、本明細書の開示は、
a.約30〜90重量%の無水マレイン酸と約5〜68重量%のフマル酸を含んでなる混合物を提供し、
b.(a)の混合物を、十分量のアルキルアルコール溶媒と接触させて溶液を形成し、そして溶液を保持時間中、約20℃〜約250℃の温度で保持し、
c.(b)の溶液を、水素化触媒の存在下、約50〜1000psig(約450〜7000kPa)の水素圧下、約50〜200℃の温度、の水素化条件下で、(b)と(c)間に中間蒸留をせずに水素化して、水素化生成物を形成し、
d.水素化生成物を、約100℃〜140℃のエステル化温度で、アルコールで処理して、ジアルキルエステルを含む粗生成物を形成し、ここで、(a)の無水マレイン酸、フマル酸およびそれらの誘導体の少なくとも85パーセントが粗生成物中でジアルキルエステルに転化されている、そして
e.(d)の粗生成物から琥珀酸ジアルキルを単離する工程
を含んでなる、琥珀酸ジアルキルを製造する方法を提供する。
【0012】
幾つかの態様において、(a)の混合物は更に、約0.4〜2重量%のマレイン酸を含
んでなる。幾つかの態様において、(a)の混合物は更に約0.1〜0.5重量%の無水琥珀酸を含んでなる。幾つかの態様において、(a)の混合物は更に約0.05〜0.5重量%の琥珀酸を含んでなる。幾つかの態様において、(a)の混合物は更に約0.1〜1重量%の無水フタル酸を含んでなる。幾つかの態様において、(a)の混合物は更に約0.1〜0.5重量%のフマル酸モノアルデヒドを含んでなる。幾つかの態様において、(a)の混合物は更に約0.1〜0.5重量%の5−ヒドロキシ−2−フラノンを含んでなる。幾つかの態様において、(a)の混合物は更に約0.5〜1.5重量%のリンゴ酸を含んでなる。幾つかの態様において、(a)の混合物は更に約0.1〜0.3%のo−キシレンを含んでなる。幾つかの態様において、(a)の混合物は更に約0.02〜0.1重量%の酢酸を含んでなる。
【0013】
幾つかの態様において、約30〜90重量%の無水マレイン酸と約5〜68重量%のフマル酸を含んでなる混合物は無水マレイン酸生産工程の残留物である。
【0014】
幾つかの方法の態様において、水素化触媒はパラジウムを含んでなる。
【0015】
幾つかの方法の態様において、接触工程(b)またはエステル化(d)はエステル化触媒の存在下で実施される。幾つかの態様において、エステル化触媒は酸触媒である。
【0016】
幾つかの方法の態様において、ジアルキルエステルを含む粗生成物から琥珀酸ジアルキルを単離する工程は蒸留により実施される。幾つかの態様において、蒸留は、
a.第1の蒸留塔内で、ジアルキルエステルを含む粗生成物を蒸留して、高沸点の酸とエステルから、ジアルキルエステルを高濃度に含む低沸点の塔頂流を分離し、
b.第2の蒸留塔内で、第1の蒸留塔からのジアルキルエステルを高濃度に含む低沸点の塔頂流を蒸留して、フマル酸ジアルキルを高濃度に含む低沸点の塔頂流、琥珀酸ジアルキルを高濃度に含む側部流、および比較的高沸点の物質を含む底部流、を生成し、そして
c.生成物として琥珀酸ジアルキルを高濃度に含む側部流を引き出す工程
を含んでなる。
【0017】
幾つかの態様において、第2の蒸留からの、フマル酸ジアルキルを高濃度に含む低沸点の塔頂流の少なくとも一部は、水素化工程に再循環される。
【0018】
幾つかの態様において、蒸留は、
a.第1の蒸留塔内で、ジアルキルエステルを含む粗生成物を蒸留して、フマル酸ジアルキルを高濃度に含む低沸点の塔頂流を生成し、
b.フマル酸ジアルキルを高濃度に含む低沸点の塔頂流を冷却して、凝縮液と固体を形成し、
c.凝縮液から固体を分離して、固体を実質的に含まない凝縮液を形成し、
d.固体を実質的に含まない凝縮液の少なくとも一部を蒸留塔に戻す工程
を含んでなる。
【0019】
幾つかの態様において、凝縮液から固体を分離して固体を実質的に含まない凝縮液を形成する工程は、濾過により実施される。幾つかの態様において、凝縮液から固体を分離して、固体を実質的に含まない凝縮液を形成する工程は、結晶化により実施される。
【0020】
幾つかの態様において、約30〜90重量%の無水マレイン酸と約5〜68重量%のフマル酸を含んでなる混合物(a)の無水マレイン酸、フマル酸およびそれらの誘導体の少なくとも95パーセントは、粗生成物中でジアルキルエステルに転化された。
【0021】
幾つかの態様において、本明細書の開示は、前述の方法の態様により調製された琥珀酸
ジアルキルの組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本明細書に開示される連続的水素化反応の態様を実施するための固定触媒床反応器の簡単なスキーム図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
以下の詳細な説明は具体化の目的のための多数の特定の説明を含むが、当業者は、以下の詳細に対する多数の変動および変更が本明細書に開示された態様の範囲内にあることを認めると考えられる。
【0024】
従って、以下の態様はあらゆる請求される発明に対する一般性を何も喪失せずに、そしてそれらに対して何の限定も課さずに示される。本開示が更に詳細に説明される前に、本開示が、説明される特定の態様に限定されず、それ自体変動する可能性があることを理解することができる。更に、本明細書で使用される用語は具体的な態様を説明する目的のためのみのものであり、そして本開示の範囲は添付の請求項によってのみ限定されると考えられるので、限定的であることは意図されないことを理解しなければならない。
【0025】
本明細書の開示は、時々本明細書で無水マレイン酸生産工程の残留物と呼ばれる、営業的無水マレイン酸生産工程からの1種または複数の副産物または残留物の複合混合物からの、琥珀酸ジアルキルエステルの、経済的に有効な調製法に関する。1種または複数の副産物または残留物の例は、無水マレイン酸生産工程の底部流残留物(例えば、工業用無水マレイン酸精製工程における最後の無水マレイン酸蒸留塔からの高粘度の末端底部流)である。これらの開示は、前以て無水マレイン酸生産工程の残留物を精製せずに、約99.5%を超える転化率における複合残留物流の水素化およびエステル化を含んでなる工程を提供する。
【0026】
本明細書の開示により提供される特質は、先行する精製のない、無水マレイン酸生産工程の残留物からの複合混合物の水素化である。無水マレイン酸生産工程の残留物流中の主な成分は無水マレイン酸であるが、例えばフマル酸を含む少なくとも10〜18種のその他の化合物が、それを含む混合物中に共存する可能性がある。幾つかの態様において、無水マレイン酸生産工程の残留物流は約30〜89重量%の無水マレイン酸を含む。精製を伴わない、メタノール中のこの混合物の水素化反応は、高い転化率、約99.7%を伴い、驚くほど急速である(fast)ことができる。水素化後のエステル化は約99.5%の完成を達成することができる。あるいはまた、無水マレイン酸生産工程の残留物はエステル化されて、高い転化率、例えば99.5%でジアルキルエステルを得て、次に水素化触媒の存在下で水素化されて、99.8%まで、またはそれ以上の完成度を伴って琥珀酸ジアルキルを形成することができる。
【0027】
無水マレイン酸生産工程の残留物混合物をアルキルアルコール溶媒と接触させる工程は、溶液を形成するのに十分なあらゆる量のアルキルアルコールを使用することができる。幾つかの工程の態様において、アルキルアルコール溶媒の量は、約5重量%〜約50重量%の無水マレイン酸生産工程の残留物混合物の濃度、例えば約5重量%〜約30重量%の無水マレイン酸生産工程の残留物混合物の濃度、を有する溶液を製造するために要する量である。無水マレイン酸生産工程の残留物混合物中に高濃度のフマル酸が存在する時に特に所望される、無水マレイン酸生産の残留物混合物が溶液中に留まることを確保するのに十分量のアルキルアルコール溶媒が添加される。
【0028】
保持時間中、無水マレイン酸生産工程の残留物混合物のアルキルアルコール溶液を約2
0℃〜約250℃の温度に保持する工程は、溶液が高温で維持される時に、特定のアルキルアルコール(例えば、メタノール)のような低沸点の化合物は、これらの化合物が蒸発される場合は、凝縮と還流を要するかも知れない。用語「保持時間」は本明細書の他の部分で説明される。幾つかの態様において、無水マレイン酸生産工程の残留物混合物を、溶液を形成するのに十分量のアルキルアルコール溶媒と接触させ、そして溶液を保持時間中保持する工程は、約20℃〜約150℃の温度で実施される。幾つかの態様において、温度と保持時間は、ジアルキルエステルへのエステル化の量を限定しながら、無水マレイン酸生産工程の残留物を実質的に可溶化させる(例えば、均質溶液を形成する)ように調整される。幾つかの態様において、温度と保持時間は、無水マレイン酸生産工程の残留物を実質的に可溶化し、そしてカルボン酸と無水物の10%未満(例えば、5%未満、3%未満、2%未満)をジアルキルエステルにエステル化させるように調整される。
【0029】
場合により、無水マレイン酸生産工程の残留物混合物のアルコール溶液は、当該技術分野で既知の方法により、バッチ法または連続法で、エステル化触媒を使用してまたは使用せずに、約100℃の〜約250℃のエステル化温度で、水素化の前に、少なくとも一部エステル化することができる。
【0030】
水素化触媒の存在下で溶液を水素化し、そして水素化生成物を形成する工程は、当該技術分野で既知の方法により、約50psig(約450kPa)〜約1000psig(約7000kPa)の水素圧下で約50℃〜約200℃の水素化温度で実施することができる。幾つかの態様においては、固定床水素化が実施される。固定床水素化が実施される時は、固定床水素化反応器上の圧力低下は、反応器の入り口圧力の数値、床上の流量分布の要求条件等に応じて変わる可能性がある。高い圧力低下は、限定される反応器の能力を示すことができる。全般的に圧力低下の許容され得る値は例えば、入り口絶対圧力の約5%〜約30%、例えば入り口圧力の約5%〜約20%、例えば入り口圧力の約5%〜約10%とばらつくことができる。水素化生成物の一部または最終的琥珀酸ジアルキル生成物の一部は水素化反応器を通って再循環されて、反応の発熱を管理するための熱担体および/または希釈剤として役立つことができる。あらゆる固体が供給物ポンプを損傷し、供給物配管を詰まらせ、または反応器の床を損傷する可能性を減少させるために、固定床水素化反応器への供給物(すなわち、保持時間中、約20℃〜250℃の温度で保持されてきた無水マレイン酸生産工程の残留物混合物のアルキルアルコール溶液)を濾過することが望ましいかも知れない。
【0031】
エステル化反応の副産物として形成される水を除去するために、場合により、水素化生成物からアルコール溶媒を除去することができる。幾つかの工程の態様において、アルキルアルコール溶媒はエステル化触媒の存在下で水素化生成物から除去される。
【0032】
水素化生成物をアルコールで処理してジアルキルエステルを含む粗生成物を形成する工程は、当該技術分野で既知の方法により、バッチ法または連続法で、エステル化触媒を使用してまたは使用せずに、約100℃〜約140℃、例えば約100℃〜約110℃のエステル化温度で実施することができる。幾つかの態様において、エステル化はエステル化触媒の存在下で完了される。エステル化反応はあらゆる適当な反応装置、例えば連続撹拌槽反応器、バッチ反応器、チューブ形流動反応器または反応性蒸留装置内で実施することができる。凝縮エステル化反応は平衡反応であり、エステル化の程度は反応水を除去することにより増加させることができることは既知である。幾つかの態様において、反応水はエステル化反応中に連続的に除去される。幾つかの態様において、水は、反応工程と水除去工程の交互の段階的方法におけるような間欠的方法で除去される。比較的高いエステル化温度においては望ましくない副産物が形成されるかも知れず、例えばリンゴ酸からフマル酸エステルが形成されるかも知れない。エステル化温度は、琥珀酸ジアルキル生成物に近い沸騰物である可能性があるフマル酸ジアルキルの形成を低減するように選択すること
ができる。例えばカルボン酸の、対応するエステルへの約85%〜99.99の転化を達成する、または例えば、粗生成物中で無水マレイン酸、フマル酸およびそれらの誘導体の少なくとも85%をジアルキルエステルに転化する、または例えば、反応混合物を反応させて、実質的に(例えば、半分を超えて)平衡にするために、所望されるエステル化の度合いに応じて、アルコール添加、滞留時間および水除去が調整される。反応条件に応じて、適当な滞留時間は約1時間未満〜24時間、例えば約1〜12時間、例えば約1〜6時間未満であることができる。幾つかの態様において、水の除去を容易にし、エステル化反応を終結の方向に駆動するためのストリッピング剤として、アルコール(例えば、アルキルアルコール溶媒)を使用して、水は蒸気として除去される。
【0033】
琥珀酸ジアルキル(例えば、琥珀酸ジメチル、b.p.196℃)を、ジアルキルエステルを含む粗生成物から単離する工程は、単純な蒸留によっては困難であるかも知れない。エステル化終結後に存在する可能性がある2種の不純物は、フマル酸ジアルキル(例えば、フマル酸ジメチル、b.p.193℃)およびマレイン酸ジアルキル(例えば、マレイン酸ジメチル、b.p.202℃)である。とりわけ、フマル酸ジアルキルは全般的にマレイン酸ジアルキルより高濃度で存在することができる。高温におけるは酸の存在下での蒸留中に更なるフマル酸ジアルキルが形成されるかも知れない。1つの可能な分離法は多数の理論的工程を伴う蒸留であると考えられるが、このような装置は必ずしも常に利用可能であるとは限らず、高い投資を要する。その他の分離法は、塔頂生成物としての所望の琥珀酸ジアルキルを、比較的高沸点のエステル化触媒(例えば、酸触媒)とリンゴ酸エステルから、早急に分離するための第1の蒸留、次に琥珀酸ジアルキルを精製する(すなわち、第1の蒸留からの塔頂流を精製する)ための第2の蒸留、よりなる2工程の蒸留である。この2工程蒸留は、かなりの量の高温の酸触媒反応が更なるフマル酸エステルを形成することができる前に、あらゆる酸から琥珀酸ジアルキルを単離する利点を有する。幾つかの態様において、第2の蒸留は、フマル酸ジアルキルを高濃度に含む低沸点塔頂流、琥珀酸ジアルキルを高濃度に含む側部流および比較的高沸点の物質を含む底部流、を生成するように実施される。琥珀酸ジアルキルを高濃度に含む側部流は、精製された最終生成物である。幾つかの態様において、第2の蒸留からのフマル酸ジアルキルを高濃度に含む低沸点の塔頂流の少なくとも一部は水素化工程に再循環されて、フマル酸ジアルキルを琥珀酸ジアルキルに転化させる。第1の蒸留と第2の蒸留は、琥珀酸ジアルキルの許容され得る分離と精製を提供するあらゆる圧力(例えば、減圧)下で実施することができる。前記のように蒸留温度を低下させ、それにより更なるフマル酸ジアルキルの形成を減少するように、減圧下で操作することは望ましいかも知れない。幾つかの態様において、第1の蒸留と第2の蒸留は約50mmHg以下の絶対圧、例えば約10〜50mmHg絶対圧下で操作される。
【0034】
単純な蒸留が有効でない場合は、結晶化との蒸留の組み合わせを使用して、高融点をもつ不純物を除去することができる。例えば、琥珀酸ジメチルを単離する工程において、フマル酸ジメチルを高濃度に含む低沸点の塔頂画分は当然、軽度の冷却時にフマル酸ジメチルの結晶(大体のm.p.103℃)を形成すると考えられる。これらの結晶は分離することができ(例えば、結晶化により、濾過により)、液相または液相の一部は更なる精製のために蒸留塔に戻されて生成物を単離することができる。
【0035】
本明細書の開示に従って有効なことには、どんな純粋な出発材料、例えば純粋な無水マレイン酸、純粋なマレイン酸モノメチルエステルおよび純粋なマレイン酸ジメチルも必要でない。同様に、琥珀酸ジアルキルを形成するために、次にエステル化を伴わずに、生成されるモノエステルの水素化が続く、無水マレイン酸生産工程の副産物の残留物からの混合物の最初のエステル化を実施することも必要としない。そして最後に、水素化の前の無水マレイン酸生産工程の副産物残留物からの混合物の精製が必要でない。
【0036】
更に、本明細書の開示に従うと、無水マレイン酸製造工程からの望ましくなく、全般的に利用されない副産物が、有用な琥珀酸ジエステルに転化される。無水マレイン酸生産工程の残留物からの混合物は、驚くほど高転化率で水素化およびエステル化により80重量%を超える琥珀酸ジアルキル生成物に転化される。
【0037】
琥珀酸ジアルキルエステルは、低いVOC(揮発性有機化合物)等級をもつ溶媒として優れた有用性をもち、顔料および医薬品の合成出発材料として役立つことが知られている。揮発性有機化合物(VOC)は、消費者および産業製品および工程におけるそれらの使用の結果として大気中に侵入する有機化学薬品に適用される法規制の文書にしばしば使用される用語である。VOCは光化学反応を受けて、スモッグおよび地表レベルのオゾンの形成をもたらす、既知の空気汚染物である。幾つかのVOCは他の物質より、オゾンに対しずっと重要な効果を有するという認識が高まりつつある。その結果、公布される規制(例えば、カリホルニアのエアゾールコーティング規制)は、光化学反応性における相異を考慮にいれて、反応性の低いVOCの使用を奨励しながら、より反応性の高いVOCの使用を有効に規制している。
【0038】
米国のEPA(環境保護庁)はそれらの低い光化学反応性に基づいて、幾つかのVOCをVOCの規制から免除させている。今日、より高い光化学反応性をもつものに比較して、より低い光化学反応性をもつ有機溶媒に対して市場における増加しつつある競合的利点が存在する。広く許容されるようになった光化学反応性の1つの指標は、「最大増加反応性」(MIR)であり、それは、反応性VOCが基底線ミックスに添加される時に形成されるオゾンの最大重量を表す(MIRは反応性VOC1グラム当たりのオゾンのグラムとして表される)。広範なVOCに対するMIR値が測定または計算されており、そして公開されている:例えば米国、カリホルニア、Aerosol coating Products Regulation(エアゾールコーティング製品規則);Subchapter 8.6 Maximum Incremental Reactivity(最大増加反応性),Art.1.94700,MIR Values for Compounds(化合物のMIR値)を参照されたい。琥珀酸ジメチル(DMS)は、DMS1グラムにつき0.23グラムのみのオゾンの、低い、より望ましいMIR値をもつことが知られている。
【0039】
幾つかの態様において、本明細書の開示は、実質的に無水マレイン酸生産工程の残留物を含んでなる混合物から琥珀酸ジアルキルを製造し、そして琥珀酸ジアルキルの少なくとも一部を単離する連続的方法を提供する。無水マレイン酸生産工程の残留物の溶液の連続的水素化を実施する目的のために、生産工程の残留物の固体のサンプルをアルキルアルコール(例えば、メタノール)に溶解し、生成された溶液は図1に示された容器20に提供される。容器20は水素化触媒(例えば、炭素上パラジウム)を充填された断熱圧力管である。メタノール中18重量%の溶液が、ポンプ装置80を使用して、この溶液を含む容器100から、容器20を通って、質量流量制御装置60および付随する圧力測定装置および過剰圧力解放弁(図示されていない)により、80℃で、80psig(653kPa)の水素圧下で、3倍モル量の水素(図1の容器40からの)と一緒に、1時間に210グラムの流量で押し出される。容器20は加熱マントル120(または当該技術分野で知られた同等な手段)により加熱され、温度は、1個または複数の熱電対(または当該技術分野で知られる同等な手段)を含む温度測定装置140により測定される。反応器内の圧力は制御装置180により制御される。生成物流の冷却はコイル200(または当該技術分野で知られた同等な手段)により提供される。液体−気体分離装置220は気体230(例えば、未反応水素)を除去し、生成物は容器240に送られる。
【0040】
用語「水素化触媒」はカルボン酸、カルボン酸エステルおよび脂肪族アルコールの存在下で、炭素−炭素二重結合を水素化するのに有効なあらゆる触媒を表す。幾つかの態様に
おいて、水素化触媒は遷移金属の触媒である。幾つかの態様において、水素化触媒は、グループVIIIの金属(例えば、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、ニッケル、コバルト、鉄、等)を含んでなる。水素化触媒は、様々な形態、例えば、非担持粉末化金属、活性化骨格触媒(例えば、Raney(登録商標)触媒、スポンジ、Urushibara触媒)、担持触媒(例えば、炭素上のグループVIIIの金属)であることができる。幾つかの態様において、水素化触媒は担持触媒である。幾つかの態様において、水素化触媒は炭素キャリア上のパラジウムである。幾つかの態様において、水素化触媒はモノリス炭素キャリア上のパラジウムである。幾つかの態様において、水素化触媒はシリカキャリア上のパラジウムである。水素化触媒は様々な水素化適用物(例えば、スラーリ、固定床、流動層、等)中で使用することができる。
【0041】
用語「エステル化触媒」はカルボン酸をカルボン酸エステルにエステル化するのに有効なあらゆる触媒を表す。幾つかの態様において、エステル化触媒は酸触媒である。幾つかの態様において、その触媒は強ルイス酸またはブレンステド酸(例えば、硫酸、スルホン酸)である。幾つかの態様において、その触媒はメタンスルホン酸、キシレンスルホン酸、パラ−トルエンスルホン酸またはベンゼンスルホン酸である。幾つかの態様において、その触媒は遷移金属の触媒(例えば、チタン−または錫−基剤の)である。
【0042】
本明細書で使用される用語「保持時間」は、少なくとも1000時間の走行時間中、下流の固定床水素化反応器中に許容され得る圧力低下を維持するために、高温でアルキルアルコール溶媒中の無水マレイン酸生産工程の残留物の溶液を保持するために要した時間量を測定することにより、決定することができる。あるいはまた、「保持時間」は、無水マレイン酸の少なくとも20パーセント、例えば30パーセント、50パーセント以上を、対応するモノアルキルエステルに開環するために要する時間量を測定することにより決定することができる。圧力低下の許容され得る値は本明細書の別の場所に記載されている。保持時間の例は、1秒〜12時間、例えば1分〜12時間、例えば5分〜2時間を含む。
【0043】
本明細書で使用される用語「b.p.」は大気中の沸点を表す。
【0044】
本明細書で使用される用語「m.p.」は融点を表す。
【0045】
本明細書で使用される用語「OD」は外径を表し、用語「ID」は内径を表す。
【0046】
別記されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、本開示が属する当該技術分野の当業者により一般的に理解されるものと同様な意味をもつ。本明細書に記載されたものと同様なまたは等しいあらゆる方法および材料はまた、本開示の実施または試験に使用することができるが、好適な方法と材料を次に説明する。
【0047】
本明細書に引用されるすべての刊行物および特許は、あたかも個々の刊行物または特許がそれぞれ参照により引用されているように特別にそして個別に記述されているように、参照により本明細書に引用されたこととされ、そして刊行物が引用されているものと関連した方法および/または材料を開示し、説明するために、参照により本明細書に引用されたこととされる。あらゆる刊行物の引用は、出願日以前のその開示のためであり、本開示が以前の開示のお蔭でそのような刊行物の日付を早める権利をもたないことを承認するものと解釈するべきではない。更に、提供された刊行日は、独立して確認される必要があるかも知れない実際の刊行日と異なる可能性がある。
【0048】
本開示を読む時に当業者に明白であると考えられるように、本明細書に記載され、図示された個々の態様はそれぞれ、本開示の範囲または精神から逸脱せずに、あらゆるその他の幾つかの態様の特徴から容易に分離し、またはそれらと合わせることができる別々の成
分および特徴を有する。あらゆる引用された方法は引用された事象の順序で、または論理的に可能なあらゆるその他の順序で実施することができる。
【0049】
本開示の態様は、別記されない限り、当該技術の範囲内にある化学、等の技術を使用する。これらの技術は文献中に詳細に説明されている。
【0050】
別記されない限り、部は重量部であり、%濃度は重量%であり、温度は℃であり、圧力は大気圧である。平方インチのゲージ当たりのポンド(psig)で報告される圧力は、1気圧の圧力(1平方インチ当たり14.7ポンド)を含む。1気圧は1平方インチ当たり14.7ポンド絶対圧または1平方インチのゲージ当たり0ポンドに等しい。標準温度および圧力は25℃および1気圧と規定される。
【0051】
別記されない限り、本開示は特定の材料、試薬、反応材料、製造法、等に限定されないので、それ自体変化することができることは理解することができる。更に、本明細書で使用される用語は特定の態様を説明する目的のみのためであり、限定する意図はもたれないことは理解することができる。更に、本開示において、これが論理的に可能な場合には異なる順序で工程を実施することができる。
【0052】
明細書と添付の請求項双方に対して本明細書で使用される単数形「a」、「an」および「the」は文脈が明白に逆を記述しない限り、複数の指示物を含む。従って、例えば、「キャリア」に対する言及は複数のキャリアを含む。本明細書とそれに続く請求項において、反対の意図が明白でない限り、次の意味をもつことが定義されるべき幾つかの用語が参照されると考えられる。
【0053】
試験方法
ガスクロマトグラフィー(GC)とプロトンNMR(核磁気共鳴)を使用して、当業者に知られた方法で反応生成物の特徴を調べ、分析する。すべてのガスクロマトグラフィー(GC)分析は、AGILENT DB−5、DB−1701またはHP−FFAPカラムを備えたAGILENT TECHNOLOGIES 6890、ヘリウム(He)同伴ガスおよびフレームイオン化検出装置を使用して実施することができる。すべてのNMR分析はVARIAN,Inc.の500−MR(500MHz 磁石)または600−MR(600MHz 磁石)の分光計とソフトウェアを使用して実施することができる。
【実施例】
【0054】
以下の実施例は、当業者に、本明細書に開示され、請求された方法をいかに実施し、組成物と化合物をいかに使用するかの完全な開示および説明を提供するために示される。数値(例えば、量、温度、等)に関しては精度を確保する努力をされたが、幾らかの誤差と偏差の原因になるにちがいない。
【0055】
以下の実施例は本発明を具体的に示すために提供される。実施例は本発明の範囲を限定することは意図されず、そのように解釈してはならない。比率、濃度、量およびその他の数値データは、本明細書では範囲形式で表すことができることに注目しなければならない。このような範囲形式は便宜と簡略性のために使用され、従って、あたかも各数値および下位範囲が明白に引用されているかのように、範囲の限界として明白に引用された数値を含むのみならずまた、その範囲内に含まれるすべての個別の数値または下位範囲を含むように、柔軟な方法で解釈するべきであることが理解される。具体的に示すために、「約0.1%〜約5%」の濃度範囲は、記載された範囲内に、約0.1重量%〜約5重量%の明白に引用された濃度のみならずまた、個々の濃度(例えば、1%、2%、3%および4%)および下位範囲(例えば、0.5%、1.1%、2.2%、3.3%および4.4%)を含むと解釈されるべきである。用語「約」は、修飾される1個または複数の数値の±1
%、±2%、±3%、±4%、±5%、±8%または±10%を含むことができる。更に、用語「約(x)〜(y)」は「約(x)〜約(y)」を含む。
【実施例1】
【0056】
混合物を以下の方法で、メタノール中で水素化にかける。最初に、約:30〜90重量%の無水マレイン酸、5〜68重量%のフマル酸、0.4〜2重量%のマレイン酸、0.1〜0.5重量%の無水琥珀酸、0.05〜0.5重量%の琥珀酸、0.1〜1重量%の無水フタル酸、0.1〜0.5重量%のフマル酸モノアルデヒド、0.1〜0.5重量%の5−ヒドロキシ−2−フラノン、0.5〜1.5重量%のリンゴ酸、0.1〜0.3重量%のo−キシレン、0.02〜0.1重量%の酢酸、0.1〜1重量%のオクタデカン酸、痕跡量のメタノール、250重量ppmの塩化物、100重量ppm未満の臭化物、および幾らかの未知の有機化合物、の無水マレイン酸生産工程の残留物を実質的に含んでなる混合物を採り、32グラムのメタノール中に8グラムのこの固体混合物を溶解し、それを5重量%の炭素上パラジウム触媒0.01グラムを含むステンレス鋼のチューブ反応器中に入れる。この反応器を水素で数回パージし、シールし、震盪−撹拌装置に入れる。反応器を、1分当たり200の撹拌周期で撹拌しながら、70psig(584kPa)の水素圧下で反応器の外壁上に電気抵抗性加熱テープを使用して80℃まで加熱する。2.5時間後、加熱装置を停止し、徐々に圧力を解放する。触媒を濾去後、反応溶液を既知の方法でGC(ガスクロマトグラフィー)により分析する。既知のNMR法もまた使用されて、メタノール溶媒をストリッピング後に生成物の特徴を調べる。NMRは、水素転化率が99.7%であることを示す。GCは、主要生成物が29:71(重量:重量)の比率の琥珀酸ジメチル(DMS)と琥珀酸モノメチル(MMS)であることを示す。
【実施例2】
【0057】
実施例1を再現するが、その手順に以下の変更を伴う:実施例1からの同一の固体混合物8グラムを32グラムのメタノールに溶解し、5重量%の炭素上パラジウム触媒の0.01グラムを含む同一のステンレス鋼のチューブ反応器中に入れる。反応器を水素で数回パージし、シールし、震盪装置に入れる。反応器を、1分当たり200の撹拌周期で撹拌しながら、70psig(584kPa)の水素圧下で加熱テープを使用して今回は70℃まで加熱する。6.7時間後、加熱装置を停止し、徐々に圧力を解放する。触媒を濾去後、反応溶液をGCにより分析する。NMR法もまた使用されて、メタノールをストリッピング後に生成物の特徴を調べる。NMRは水素転化率が98.8%であることを示す。GCは、主要生成物が29:71(重量:重量)の比率の琥珀酸ジメチルと琥珀酸モノメチルであることを示す。
【実施例3】
【0058】
実施例1からの同一の固体混合物8グラムを32グラムのイソプロパノールに溶解し、5重量%の炭素上パラジウム触媒を0.01グラム含む同一のステンレス鋼のチューブ反応器中に入れる。反応器を水素で数回パージし、シールし、震盪装置に入れる。反応器を、1分当たり200の撹拌周期で撹拌しながら、80psig(653kPa)の水素圧下で加熱テープを使用して今回は80℃まで加熱する。18時間後、加熱装置を停止し、徐々に圧力を解放する。触媒を濾去後、反応溶液をGCにより分析する。NMR法もまた使用されて、メタノールをストリッピング後に生成物の特徴を調べる。水素転化率は97%であり、97重量%の琥珀酸モノイソプロピルエステルが生成物混合物中に存在する。
【実施例4】
【0059】
例えば、実施例1からの同一の固体混合物の秤量サンプルをとり、特定の質量のメタノール中に溶解し、溶液を図1に示される容器20中に入れて、以前の実施例におけるように調製された溶液の連続的水素化を実施する目的のために、次の方法で水素化を実施する。容器20は、1重量%の炭素上パラジウムの触媒10グラムを充填された1.73cm
の内径と50.8cmの長さをもつ316ステンレス鋼の、垂直な、断熱圧力管である。メタノール中18重量%の溶液を濾過し(図示されていない)、質量流量制御装置60および付随する圧力測定装置および頭上圧力解放弁(図示されていない)により、80℃で、80psig(653kPa)の水素圧下で、3倍モル量の水素(図1の容器40からの)と一緒に、1時間に150ミリリッターの流量で、この溶液を含む容器100から容器20を通って、ポンプ装置80を使用して押し出される。容器20は加熱マントル120(または当該技術分野で知られた同等な手段)により加熱され、温度は1個または複数の熱電対(または当該技術分野で知られる同等な手段)を含む温度測定装置140により測定される。反応器内の圧力は制御装置180により制御される。生成物流の冷却はコイル200(または当該技術分野で知られた同等な手段)により提供される。液体−気体分離装置220は気体230(例えば、未反応水素)を除去し、生成物は容器240に送られる。生成物のGC分析は、溶液の調製に使用される固体の質量の99.5%の転化率を示す。
【実施例5】
【0060】
実施例1におけるように得られた水素化生成物のエステル化を以下の方法で実施する。144.9グラム重の、実施例1に記載の数回の実験から得た、水素化生成物の複合サンプルを、0.486グラムのパラ−トルエンスルホン酸と合わせ、250ミリリッターの3首丸底フラスコに添加する。フラスコには蒸留用装置、メタノールを供給する装置および温度を感知する熱電対が付いている。フラスコを約70℃に加熱して、メタノール溶媒を留去する。留去後、フラスコを110℃に加熱し、エステル化を継続するためにメタノールを更に提供する。110℃で1時間後、99.5%の酸がジメチルエステルに転化される。GCとNMRを使用して生成物中に存在する粗琥珀酸ジメチルの特徴を調べる。
【実施例6】
【0061】
500グラムの、実施例1からの同様な固体混合物、300グラムの無水メタノールおよび5.6グラムのキシレンスルホン酸触媒(90重量%の純度)を、蒸留のための装置、メタノール供給のための装置および混合物の温度とメタノール蒸留物の頭上温度を感知するための熱電対の付いた2リットルの4首フラスコに充填する。混合物を110℃まで加熱し、次に、頭上の湿ったメタノールを除去しながら、更なるメタノールを3.5グラム/分の速度で、ポンプで押し込む。5時間後に、エステル化反応は8.1ミリグラムのKOH/1グラムのサンプル、の酸価を伴って完了する。
【実施例7】
【0062】
実施例6で生成されたエステル混合物を8重量%で琥珀酸ジメチル中に溶解し、2ミクロンの濾紙を通して濾過し、3.5グラム/分の速度で、150psig(1136kPa)の水素圧下で、80℃で、14グラムのパラジウム触媒を含む固定床反応器中にポンプで押し込む。生成物のGC分析は、不飽和C二酸誘導体の飽和C二酸誘導体への97〜98%の転化率を示す。
【実施例8】
【0063】
172グラムの、実施例3からの水素化生成物および0.39グラムのキシレンスルホン酸触媒(90重量%純度)を、蒸留のための装置、イソプロパノール供給のための手段および混合物温度とイソプロパノール蒸留物の頭上温度を感知するための熱電対の付いた500mLの4首フラスコ中に充填する。頭上で湿ったメタノールを留去しながら、混合物を110℃まで加熱する。次に、更なるイソプロパノールを3.5グラム/分の速度で、ポンプで押し込み、湿ったイソプロパノールを頭上で連続的に留去する。10時間後に、エステル化反応は、9.86ミリグラムのKOH/1グラムのサンプル、の酸価を伴って完了する。生成物は真空蒸留により精製されて、98重量%の琥珀酸ジイソプロピルを得る。
【実施例9】
【0064】
実施例1の10重量%の無水マレイン酸生産工程の残留物を、混合物を還流温度まで加熱することによりイソプロパノール中に溶解し、15分間還流温度に維持する。溶液を室温に冷却し、2ミクロンの濾紙を通して濾過する。濾液を3.5グラム/分の速度で、700psig(4930kPa)の水素圧下で、130℃で、316ステンレス鋼でできた、そして14グラムの、1重量%のシリカ押し出し物上パラジウム(約0.5グラム/mLの見かけ密度)を充填された0.75インチのOD×0.68インチのID(1.90cmのOD×1.73cmのID)の固定床反応器中にポンプで押し込む。出口温度は146℃である。水素化転化率は>99%である。
【0065】
本明細書には様々な様相と態様が開示されたが、当業者にはその他の様相と態様が明白であると考えられる。本明細書に開示された様々な様相と態様は具体的に示す目的のものであり、限定的であることは意図されず、真の範囲と精神は以下の請求項により示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.約30〜90重量%の無水マレイン酸と約5〜68重量%のフマル酸を含んでなる混合物を提供し、
b.(a)の混合物を、溶液を形成するのに十分量のアルキルアルコール溶媒と接触させ、そしてその溶液を保持時間の間、約20℃〜約250℃の温度で保持し、
c.(b)の溶液を、水素化触媒の存在下、約50〜1000psig(約450〜7000kPa)の水素圧下、約50〜200℃の温度の水素化条件下で、(b)と(c)の間に中間蒸留をせずに水素化し、
d.水素化生成物を、約100℃〜140℃のエステル化温度で、アルコールで処理して、ジアルキルエステルを含む粗生成物を形成し、ここで(a)の無水マレイン酸、フマル酸およびそれらの誘導体の少なくとも85パーセントは粗生成物中でジアルキルエステルに転化されている、そして
e.琥珀酸ジアルキルを、(d)の粗生成物から単離する工程
を含んでなる、琥珀酸ジアルキルを製造する方法。
【請求項2】
(a)の混合物が更に約0.4〜2重量%のマレイン酸を含んでなる、請求項1の方法。
【請求項3】
(a)の混合物が更に約0.1〜0.5重量%の無水琥珀酸を含んでなる、請求項2の方法。
【請求項4】
(a)の混合物が更に約0.05〜0.5重量%の琥珀酸を含んでなる、請求項3の方法。
【請求項5】
(a)の混合物が更に約0.1〜1重量%の無水フタル酸を含んでなる、請求項4の方法。
【請求項6】
(a)の混合物が更に約0.1〜0.5重量%のフマル酸モノアルデヒドを含んでなる、請求項5の方法。
【請求項7】
(a)の混合物が更に約0.1〜0.5重量%の5−ヒドロキシ−2−フラノンを含んでなる、請求項6の方法。
【請求項8】
(a)の混合物が更に約0.5〜1.5重量%のリンゴ酸を含んでなる、請求項7の方法。
【請求項9】
(a)の混合物が更に約0.1〜0.3重量%のo−キシレンを含んでなる、請求項8の方法。
【請求項10】
(a)の混合物が更に約0.02〜0.1重量%の酢酸を含んでなる、請求項9の方法。
【請求項11】
約30〜90重量%の無水マレイン酸と約5〜68重量%のフマル酸を含んでなる混合物が無水マレイン酸生産工程の残留物である、請求項1の方法。
【請求項12】
水素化触媒がパラジウムを含んでなる、請求項1の方法。
【請求項13】
接触(b)またはエステル化(d)の少なくとも一方がエステル化触媒の存在下で実施される、請求項1の方法。
【請求項14】
エステル化触媒が酸触媒である、請求項13の方法。
【請求項15】
ジアルキルエステルを含む粗生成物から琥珀酸ジアルキルを単離する工程が蒸留により実施される、請求項1の方法。
【請求項16】
蒸留が、
a.第1の蒸留塔内で、ジアルキルエステルを含む粗生成物を蒸留して、高沸点の酸とエステルから、ジアルキルエステルを高濃度に含む低沸点の塔頂流を分離し、
b.第2の蒸留塔内で、第1の蒸留塔からのジアルキルエステルを高濃度に含む低沸点の塔頂流を蒸留して、フマル酸ジアルキルを高濃度に含む低沸点の塔頂流、琥珀酸ジアルキルを高濃度に含む側部流および比較的高沸点の物質を含む底部流、を生成し、そして
c:生成物として、琥珀酸ジアルキルを高濃度に含む側部流を引き出す工程
を含んでなる、請求項15の方法。
【請求項17】
フマル酸ジアルキルを高濃度に含む低沸点の塔頂流の少なくとも一部が、水素化工程に再循環される、請求項16の方法。
【請求項18】
蒸留が、
a.蒸留塔内で、ジアルキルエステルを含む粗生成物を蒸留して、フマル酸ジアルキルを高濃度に含む低沸点の塔頂流を生成し、
b.フマル酸ジアルキルを高濃度に含む低沸点の塔頂流を冷却して、凝縮液と固体を形成し、
c.凝縮液から固体を分離して、固体を実質的に含まない凝縮液を形成し、
d.固体を実質的に含まない凝縮液の少なくとも一部を蒸留塔に戻す工程
を含んでなる、請求項15の方法。
【請求項19】
凝縮液から固体を分離して、固体を実質的に含まない凝縮液を形成する工程が、濾過により実施される、請求項18の方法。
【請求項20】
凝縮液から固体を分離して、固体を実質的に含まない凝縮液を形成する工程が、結晶化により実施される、請求項18の方法。
【請求項21】
(a)の無水マレイン酸、フマル酸およびそれらの誘導体、の少なくとも95重量パーセントが粗生成物中でジアルキルエステルに転化されている、請求項1の方法。
【請求項22】
請求項1の方法により調製される琥珀酸ジアルキルの組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2013−501725(P2013−501725A)
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523953(P2012−523953)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/044584
【国際公開番号】WO2011/017543
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(309028329)インビスタ テクノロジーズ エス エイ アール エル (80)
【Fターム(参考)】