説明

ジエチル亜鉛組成物、ジエチル亜鉛の熱安定化方法、ジエチル亜鉛の熱安定性を向上させる化合物

【課題】重合触媒や有機合成試薬およびMOCVD法等による酸化亜鉛薄膜製造原料や等に使用されるジエチル亜鉛の熱安定性を向上させ,長期間取り扱っても金属亜鉛粒子が析出しない熱安定性に優れたジエチル亜鉛組成物を提供する。
【解決の手段】ジエチル亜鉛に添加物としてイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物が添加されたジエチル亜鉛組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性に優れたジエチル亜鉛組成物、ジエチル亜鉛の熱安定化方法、ジエチル亜鉛の熱安定性を向上させる化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジエチル亜鉛は、従来、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等の重合触媒用途や、医薬、機能性材料等の中間体等の製造において有機合成の反応試薬として用いられており、極めて有用な工業材料として知られている。
【0003】
また近年、原料にジエチル亜鉛と酸化剤として水蒸気を使用してMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法と呼ばれる手法等により酸化亜鉛薄膜を形成する方法が検討されている。このMOCVD法により得られた酸化亜鉛薄膜は、CIGS太陽電池のバッファ層、透明導電膜、色素増感太陽電池の電極膜、薄膜Si太陽電池の中間層、透明導電膜等の太陽電池における各種機能膜、光触媒膜、紫外線カット膜、赤外線反射膜、帯電防止膜等の各種機能膜、化合物半導体発光素子、薄膜トランジスタ等の電子デバイス等に使用され、幅広い用途を持つ。
【0004】
ジエチル亜鉛は、熱を加えると徐々に分解して金属亜鉛粒子が析出することが知られている(例えば非特許文献1参照)。そのため、ジエチル亜鉛の取り扱い等においては、熱分解で生成した金属亜鉛粒子の析出による製品純度の低下、貯蔵容器の汚染、製造設備配管の閉塞等の問題があった。
【0005】
上記の熱分解で生成した金属亜鉛粒子の析出に関する問題を解決する方法として、例えば、アントラセン、アセナフテン、アセナフチレン等の化合物を添加してジエチル亜鉛を安定化した組成物とするような方法が知られている(例えば特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4385003号明細書
【特許文献2】米国特許第4402880号明細書
【特許文献3】米国特許第4407758号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yasuo Kuniya et Al.,Applied Organometallic Chemistry、5巻,337〜347頁,1991年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3に開示されるように、アントラセン、アセナフテン、アセナフチレンを添加してもジエチル亜鉛を十分に安定化することができず、より熱安定性に優れたジエチル亜鉛が求められる。
【0009】
また、アントラセン、アセナフテン、アセナフチレンは、室温で固体の化合物であり、ジエチル亜鉛組成物の調製において、粉体投入等の操作が必要になるという課題もある。
【0010】
即ち本発明は、重合触媒や有機合成試薬およびMOCVD法等による酸化亜鉛薄膜製造原料や等に使用されるジエチル亜鉛の熱安定性を向上させ、長期間取り扱っても金属亜鉛粒子が析出しない熱安定性に優れたジエチル亜鉛組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究開発を行った結果、イソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物をジエチル亜鉛(CAS No.557-20-0)に共存させた組成物とすることで熱安定性が著しく向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明に係るジエチル亜鉛組成物は、ジエチル亜鉛に添加物としてイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物が添加されたジエチル亜鉛組成物である。
【0013】
また本発明に係るジエチル亜鉛組成物は、下記一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)で表されるイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物からなる群より選ばれる1つまたは2以上の化合物を含む。
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
式(1)、式(2)、式(3)中、Rはそれぞれ独立して、水素、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐したアルケニル基(アルケニル基にはイソプロペニル基も含む)、炭素数6〜14のアリル基である。
【0018】
前述の一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)で表されるイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物の側鎖に結合している置換基であるRは、それぞれ独立に、本発明で特徴とされるイソプロペニル基だけでなく、水素やメチル基、イソプロピル基等の炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐したアルキル基やビニル基やプロペニル基等の炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐したアルケニル基(前述のようにアルケニル基には本発明で特徴とされるイソプロペニル基を含む)およびフェニル基、トルイル基等の炭素数6〜14のアリル基等、イソプロペニル基とは異なる置換基を有していてもよい。側鎖に存在するイソプロペニル基の数は、1つでも2つ以上の複数であってもよく、例えば、芳香族化合物としてベンゼンの場合、2つのイソプロペニル基を有する1,3−ジイソプロペニルベンゼン、1、4―ジイソプロペニルベンゼンは熱安定性の効果が高い。
【0019】
前述のイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物として、例えば、α―メチルスチレン、4−イソプロペニルトルエン、1−イソプロペニルナフタレン、2−イソプロペニルナフタレン等のイソプロペニル基の1置換体、1,3−ジイソプロペニルベンゼン、1、4―ジイソプロペニルベンゼン、1,3,5-トリイソプロペニルベンゼン、2,4−ジイソプロペニルナフタレン等のイソプロペニル基の2置換体以上の化合物を挙げることが出来る。
【0020】
これらの芳香族化合物のなかでも、構造が単純であり、工業的に容易に入手可能なもので高い効果が得られる添加物として、α―メチルスチレン、4−イソプロペニルトルエン、1,3−ジイソプロペニルベンゼン、1、4―ジイソプロペニルベンゼン、2−イソプロペニルナフタレンを好ましく用いることが出来る。
【0021】
特に、α―メチルスチレン、4−イソプロペニルトルエン、1,3−ジイソプロペニルベンゼンは20℃前後の温度において液体であり、ジエチル亜鉛組成物の調整を容易に行なうことが出来る。
【0022】
本発明に用いられる添加物は、単独の添加で充分な効果が得られるが、複数を混合して用いても差し支えない。
【0023】
ここで、イソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物の添加量は、ジエチル亜鉛の性能が維持され、熱安定化効果が得られる範囲であれば、特に制限は無いが、通常、ジエチル亜鉛に対して、100ppm〜20wt%、好ましくは200ppm〜10wt%,より好ましくは 500ppm〜5wt%であれば,熱安定性に優れたジエチル亜鉛組成物を得ることができる。
【0024】
イソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物の添加量が、少なすぎると熱安定性向上の充分な効果が得られない場合があったり、多すぎると添加量を増加した効果が得られない場合もあるので、熱安定性の所望の効果を得るための適量を添加することが望ましい。
【0025】
本発明のジエチル亜鉛組成物は、熱安定性の加速試験として一般に用いられるARC測定(加速速度熱量測定:Accelerating Rate Calorimetry)結果の測定値から、180℃以下の低温において優れた熱安定性を有している。ARCテストの測定値の温度依存性より、温度が下がるほどよりジエチル亜鉛組成物の熱安定性の効果が発現される。
【0026】
本発明に使用されるジエチル亜鉛は、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等の重合触媒用途や、医薬、機能性材料等の中間体等の製造において有機合成の反応試薬として用いられている一般に工業材料として知られているものを用いることが出来る。
【0027】
また、本発明においては、MOCVD法等により酸化亜鉛薄膜を形成する方法で使用され、CIGS太陽電池のバッファ層、透明導電膜、色素増感太陽電池の電極膜、薄膜Si太陽電池の中間層、透明導電膜等の太陽電池における各種機能膜、光触媒膜、紫外線カット膜、赤外線反射膜、帯電防止膜等の各種機能膜、化合物半導体発光素子、薄膜トランジスタ等の電子デバイス等に使用されるような、工業材料よりも高純度のジエチル亜鉛も用いることが出来る。
【0028】
本発明のジエチル亜鉛組成物の調製においては、ジエチル亜鉛とイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物である添加物とを混合すればよく、例えば、ジエチル亜鉛に前述の添加物を添加する等、添加の方法においては特に制限は無い。
例えば、保存安定性の向上を目的する場合においては、あらかじめ、ジエチル亜鉛に添加物を添加する方法を用いることが出来る。
【0029】
また、例えば、反応等に使用する場合、使用の直前にジエチル亜鉛に添加物を添加することも可能である。
【0030】
また、本発明のジエチル亜鉛組成物の調製の温度においては、ジエチル亜鉛の熱分解の影響が少ない70℃以下が望ましい。通常、−20℃〜35℃で本発明の組成物の調製を行なうことが出来る。また、圧力についても、特に制限は無いが、反応等、特殊な場合を除いては、通常、0.1013MPaなど、大気圧付近でジエチル亜鉛と本発明の組成物の調製を行なうことが出来る。
【0031】
本発明のジエチル亜鉛組成物の保管・運搬容器、貯蔵タンク、配管等の設備における使用機材、使用雰囲気はジエチル亜鉛に用いているものをそのまま転用可能である。例えば、前述の使用機材の材質はSUS、炭素鋼、チタン、ハステロイ等の金属や、テフロン(登録商標)、フッ素系ゴム等の樹脂等を用いることができる。また、使用雰囲気は、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス等がジエチル亜鉛と同様に用いることができる。
【0032】
また、本発明のジエチル亜鉛組成物は、ジエチル亜鉛の使用に際して用いることが出来る公知の溶媒に溶解して使用することが出来る。前記溶媒の例として、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の飽和炭化水素や、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等の炭化水素化合物、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル系化合物等を挙げることが出来る。
【0033】
本発明のジエチル亜鉛組成物の用途としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等の重合触媒用途や、医薬、機能性材料等の中間体等の製造において有機合成の反応試薬としての用途や、また、MOCVD法等により酸化亜鉛薄膜を形成する方法で使用され、CIGS太陽電池のバッファ層、透明導電膜、色素増感太陽電池の電極膜、薄膜Si太陽電池の中間層、透明導電膜等の太陽電池における各種機能膜、光触媒膜、紫外線カット膜、赤外線反射膜、帯電防止膜等の各種機能膜、化合物半導体発光素子、薄膜トランジスタ等の電子デバイス等に使用されるような酸化物形成用途や、ZnS等、II−VI族の電子デバイス用薄膜形成用途等、これまでジエチル亜鉛が使用されている用途と同様のものを挙げることが出来る。
【発明の効果】
【0034】
本発明のイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物を添加したジエチル亜鉛組成物は、熱安定性に優れ、ジエチル亜鉛が熱分解することにより発生する金属亜鉛粒子の析出が極めて少ない。その結果、製品純度の低下,貯蔵容器の汚染、製造設備配管の閉塞等の問題を防ぐことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0036】
[測定機器]
DSC測定は、DSC6200(セイコーインスツルメンツ株式会社製)を用いて行なった。
ARC測定は、ARC2000(ADL社製(Authur D Little))を用いて行なった。
【0037】
[ジエチル亜鉛組成物の調製]
ジエチル亜鉛(東ソー・ファインケム株式会社製)と種々のイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物(市販試薬)とを窒素雰囲気下、室温において所定の濃度でガラス容器に秤量した。添加物をジエチル亜鉛に溶解して、ジエチル亜鉛組成物を調製した。
【0038】
ジエチル亜鉛への添加物の添加率(重量%)は、以下の式で定義したものを用いた。
添加物の添加率(重量%)=(添加物重量/(添加物重量+ジエチル亜鉛重量))×100
【0039】
前述の方法で調製したジエチル亜鉛組成物について、DSC測定(示差走査熱量測定:Differential Scanning Calorimetry)、ARC測定(加速速度熱量測定:Accelerating Rate Calorimetry)および長期熱安定性試験を行ない、添加物の熱安定性効果を評価した。
【0040】
[参考例1]
[ジエチル亜鉛のDSC測定による熱安定性試験]
窒素雰囲気下、ジエチル亜鉛を、SUS製DSCセルに秤収して密閉した。得られたサンプルについてDSC測定を、30〜450℃を測定温度範囲として10℃/分の昇温速度で熱分析測定を行なった。それぞれのサンプルの分解温度は、DSC測定の初期発熱温度で観測される。添加物を添加していないジエチル亜鉛のみのサンプルの初期発熱温度を表1に示す。
【0041】
[実施例1〜5]
[ジエチル亜鉛組成物のDSC測定による熱安定性試験]
参考例1と同様にして、窒素雰囲気下、種々の本発明のイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物を添加したジエチル亜鉛組成物を、SUS製DSCセルに秤収して密閉した。得られたサンプルについてDSC測定を、30〜450℃を測定温度範囲として10℃/分の昇温速度で参考例1と同様の熱分析測定を行なった。各サンプルの初期発熱温度を表1に示す。
本発明のイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物を添加したジエチル亜鉛組成物のサンプルの初期発熱温度は、参考例で得られたジエチル亜鉛のみのサンプルの初期発熱温度よりも高く、本発明の組成物は、ジエチル亜鉛のみのサンプルよりも分解の開始温度が高い。本結果より添加物を添加したジエチル亜鉛組成物の高い熱安定性が確認された。
【0042】
[比較例1〜2]
実施例1〜5と同様にして、イソプロペニル基を側鎖に有していない芳香族化合物として、実施例1から5の化合物からイソプロペニル基を水素に置き換えたベンゼン、トルエンを添加したジエチル亜鉛組成物について同様の検討を行った。それぞれのサンプルの初期発熱温度を表1に示す。
比較例1〜2の結果より、これらのサンプルは、いずれも本発明のイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物を添加したジエチル亜鉛組成物のサンプルの初期発熱温度よりも低く、本発明の組成物よりも熱安定性が劣っていた。この結果より、イソプロペニル基を側鎖に有していることが熱安定性に対して極めて高い効果があることが確認された。
【0043】
[比較例3〜5]
実施例1〜5と同様にして、特許文献1〜3に記載の化合物であるアントラセン、アセナフテン、アセナフチレンを添加したジエチル亜鉛組成物について同様の検討を行った。それぞれのサンプルの初期発熱温度を表1に示す。
これらのサンプルは、本発明のイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物を添加したジエチル亜鉛組成物のサンプルの初期発熱温度よりも低く、既存の添加物の添加した組成物は本発明の組成物よりも熱安定性が劣っていた。
【0044】
【表1】

【0045】
[比較例6〜11]
特許文献1〜3に記載の化合物であるアントラセン、アセナフテン、アセナフチレンを添加したジエチル亜鉛組成物について添加物の添加率を変えて、実施例1〜5と同様の熱分析測定を行なった。各サンプルの初期発熱温度を表2に示す。
これらのサンプルは、本発明のイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物を添加したジエチル亜鉛組成物のサンプルの初期発熱温度よりも低く、既存の添加物の添加した組成物は、添加物の添加率が低くなっても、本発明の組成物よりも熱安定性が劣っていることが確認された。
【0046】
【表2】

【0047】
[実施例6〜20]
添加物の添加率を変えて、実施例1〜5と同様の熱分析測定を行なった。各サンプルの初期発熱温度を表3に示す。
本発明のイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物を添加したジエチル亜鉛組成物のサンプルの初期発熱温度は、添加物の添加率を変化させても、参考例で得られたジエチル亜鉛のみのサンプルの初期発熱温度よりも高く、本発明の組成物は、ジエチル亜鉛のみのサンプルよりも分解の開始温度が高い。
実施例6〜19の結果より、添加物の添加率を変化させた場合においても、本発明の添加物を添加したジエチル亜鉛組成物の高い熱安定性が確認された。
【0048】
また、芳香族化合物の側鎖Rにメトキシ基のような酸素を含むものを添加したジエチル亜鉛組成物のサンプルの初期発熱温度は、参考例で得られたジエチル亜鉛のみのサンプルの初期発熱温度よりも高く、本発明の組成物は、ジエチル亜鉛のみのサンプルよりも分解の開始温度が高く、実施例20の結果より、芳香族化合物の側鎖にメトキシ基のような酸素を含むものを添加物とした場合においても、本発明の添加物を添加したジエチル亜鉛組成物の高い熱安定性が確認された。

【0049】
【表3】

【0050】
[参考例2]
[ジエチル亜鉛のARC測定による熱安定性試験]
窒素雰囲気下、ジエチル亜鉛をハステロイC製ARCボンベに秤収し、密閉した。得られたサンプルについてARC測定を、測定開始温度50℃、測定終了温度350℃、昇温ステップ温度5℃、待機時間10分、検索検出感度0.02℃/分、データ出力間隔0.2℃、測定最大圧力170bar、窒素雰囲気で行なった。得られたARC測定データにおいて、サンプルの初期発熱温度を表3の参考例2に示す。
【0051】
[実施例21〜23]
[ジエチル亜鉛組成物のARC測定による熱安定性試験]
参考例2と同様にして、本発明のイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物を添加したジエチル亜鉛組成物について参考例2と同様の検討を行った。得られたARC測定データにおいて、サンプルの初期発熱温度を表4の実施例21〜23に示す。
本発明のイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物を添加したジエチル亜鉛組成物の初期発熱温度は、ジエチル亜鉛のみのサンプルの初期発熱温度よりも高く、本発明のジエチル亜鉛組成物は熱安定性が優れていることが確認された。
【0052】
【表4】

【0053】
[実施例24〜50および参考例3〜11]
実施例21〜23および参考例2で得られたARC測定データを用いて、各温度における最大発熱速度到達時間(TMR:Time to Maximum Rate)をジエチル亜鉛および種々のジエチル亜鉛組成物について算出した。TMRの算出においては、J.E。Huffの方法を用い、自己発熱速度とTMRを低温側に外挿する場合の式を求め、各温度における(Φ)補正後に得られた自己発熱速度とTMRを算出する方法を用いた。
ARC測定温度の範囲外(50℃未満)の値は、50℃、60℃、70℃、80℃の4点の各データから得られた近似式を用いてTMRを算出した。
【0054】
添加物を添加していないジエチル亜鉛のTMRの値を1としたものに対して、本発明のイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物を添加したジエチル亜鉛組成物のTMRの値を前述の値に対する相対値として各温度において算出した。即ち、添加物を添加したジエチル亜鉛組成物のTMRの相対値が1よりも大きいほど、最大発熱速度到達時間がかかることとなり、ジエチル亜鉛組成物が添加物を添加しないジエチル亜鉛に対して熱安定性を有することを示す。
【0055】
[実施例24〜26および参考例3]
120℃における添加物を添加していないジエチル亜鉛のTMRの値を1とした(参考例3)場合の、各ジエチル亜鉛組成物の120℃での最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値を表5に示した。
表5の実施例24〜26より、各ジエチル亜鉛組成物では最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値が1よりも大きいことより、本発明の添加物を添加することによって得られたジエチル亜鉛組成物は高い熱安定性があることが確認された。
【0056】
【表5】

*添加物のないジエチル亜鉛の最大発熱速度到達時間(TMR)の値を1として算出した相対値
【0057】
[実施例27〜29および参考例4]
100℃における添加物を添加していないジエチル亜鉛のTMRの値を1とした(参考例4)場合の、各ジエチル亜鉛組成物の100℃での最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値を表6に示した。
表6の実施例27〜29より、各ジエチル亜鉛組成物では最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値が1よりも大きいことより、本発明の添加物を添加することによって得られたジエチル亜鉛組成物は高い熱安定性があることが確認された。
【0058】
【表6】

*添加物のないジエチル亜鉛の最大発熱速度到達時間(TMR)の値を1として算出した相対値
【0059】
[実施例30〜32および参考例5]
80℃における添加物を添加していないジエチル亜鉛のTMRの値を1とした(参考例5)場合の、各ジエチル亜鉛組成物の80℃での最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値を表7に示した。
表7の実施例30〜32より、各ジエチル亜鉛組成物では最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値が1よりも大きいことより、本発明の添加物を添加することによって得られたジエチル亜鉛組成物は高い熱安定性があることが確認された。
【0060】
【表7】

*添加物のないジエチル亜鉛の最大発熱速度到達時間(TMR)の値を1として算出した相対値
【0061】
[実施例33〜35および参考例6]
60℃における添加物を添加していないジエチル亜鉛のTMRの値を1とした(参考例6)場合の、各ジエチル亜鉛組成物の60℃での最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値を表8に示した。
表8の実施例33〜35より、各ジエチル亜鉛組成物では最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値が1よりも大きいことより、本発明の添加物を添加することによって得られたジエチル亜鉛組成物は高い熱安定性があることが確認された。
【0062】
【表8】

*添加物のないジエチル亜鉛の最大発熱速度到達時間(TMR)の値を1として算出した相対値
【0063】
[実施例36〜38および参考例7]
40℃における添加物を添加していないジエチル亜鉛のTMRの値を1とした(参考例7)場合の、各ジエチル亜鉛組成物の40℃での最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値を表9に示した。
表9の実施例36〜38より、各ジエチル亜鉛組成物では最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値が1よりも大きいことより、本発明の添加物を添加することによって得られたジエチル亜鉛組成物は高い熱安定があることが確認された。
【0064】
【表9】


*添加物のないジエチル亜鉛の最大発熱速度到達時間(TMR)の値を1として算出した相対値
【0065】
[実施例39〜41および参考例8]
30℃における添加物を添加していないジエチル亜鉛のTMRの値を1とした(参考例8)場合の、各ジエチル亜鉛組成物の30℃での最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値を表10に示した。
表10の実施例39〜41より、各ジエチル亜鉛組成物では最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値が1よりも大きいことより、本発明の添加物を添加することによって得られたジエチル亜鉛組成物は高い熱安定性があることが確認された。
【0066】
【表10】

*添加物のないジエチル亜鉛の最大発熱速度到達時間(TMR)の値を1として算出した相対値
【0067】
[実施例42〜44および参考例9]
25℃における添加物を添加していないジエチル亜鉛のTMRの値を1とした(参考例9)場合の、各ジエチル亜鉛組成物の25℃での最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値を表11に示した。
表11の実施例42〜44より、各ジエチル亜鉛組成物では最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値が1よりも大きいことより、本発明の添加物を添加することによって得られたジエチル亜鉛組成物は高い熱安定性があることが確認された。
【0068】
【表11】

*添加物のないジエチル亜鉛の最大発熱速度到達時間(TMR)の値を1として算出した相対値
【0069】
[実施例45〜47および参考例10]
20℃における添加物を添加していないジエチル亜鉛のTMRの値を1とした(参考例10)場合の、各ジエチル亜鉛組成物の20℃での最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値を表12に示した。
表12の実施例45〜47より各ジエチル亜鉛組成物では最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値が1よりも大きいことより、本発明の添加物を添加することによって得られたジエチル亜鉛組成物は高い熱安定性があることが確認された。
【0070】
【表12】

*添加物のないジエチル亜鉛の最大発熱速度到達時間(TMR)の値を1として算出した相対値
【0071】
[実施例48〜50および参考例11]
10℃における添加物を添加していないジエチル亜鉛のTMRの値を1とした(参考例11)場合の、各ジエチル亜鉛組成物の10℃での最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値を表13に示した。
表13の実施例48〜50より、各ジエチル亜鉛組成物では最大発熱速度到達時間(TMR)の相対値が1よりも大きいことより、本発明の添加物を添加することによって得られたジエチル亜鉛組成物は高い熱安定性があることが確認された。
【0072】
【表13】

*添加物のないジエチル亜鉛の最大発熱速度到達時間(TMR)の値を1として算出した相対値
【0073】
[実施例51〜52および参考例12]
[ジエチル亜鉛組成物の長期熱安定性試験]
ガラス内挿容器を備えた200ml耐圧オートクレーブに、ジエチル亜鉛組成物の調製に記載の方法で調製したサンプルを約40g仕込み、70℃で32日間加熱貯蔵する加速試験を行なった。参考例として添加物を添加していないジエチル亜鉛についても同様のサンプルを200ml耐圧オートクレーブに仕込んで同様の加速試験を行なった(参考例12)。試験終了後、窒素雰囲気下で開封し、各サンプルにおいて生成した析出物の析出状態を目視で確認した。さらに、窒素雰囲気下、ジエチル亜鉛を除去し、析出物をヘキサンで洗浄し、残存する析出物を乾燥した。残存する析出物は、ICP分析より亜鉛金属であることを確認した。析出した亜鉛が回収可能な場合は秤量により、回収不可能なほど微量な場合は、10%硝酸水溶液で容器を洗浄し、硝酸溶液中の亜鉛の絶対量を定量した。
【0074】
添加物を添加していないジエチル亜鉛の熱分解によって生成した析出物の量を1としたものに対して、添加物を添加したジエチル亜鉛組成物の熱分解によって生成した析出物の量を前述の値に対する相対量として算出した。即ち、添加物を添加したジエチル亜鉛組成物の熱分解によって生成した析出物の量を前述の値に対する相対量が1よりも小さいほど、ジエチル亜鉛組成物が添加物を添加しないジエチル亜鉛に対して熱安定性を有することを示す。
【0075】
各サンプルの析出した亜鉛の相対量を表14に示した。表14の実施例51〜52より、添加物を添加したジエチル亜鉛組成物の熱分解によって生成した析出物の量は、添加物を添加していないジエチル亜鉛の熱分解によって生成した析出物の量の50分の1未満であった。この結果より、本発明の添加物を添加することによって得られたジエチル亜鉛組成物は、長期間において高い熱安定性があることが確認された。
【0076】
【表14】


*添加物のないジエチル亜鉛のみの熱分解による析出物の量を1として算出した相対量

【0077】
[実施例53〜55および比較例12〜14]
[実施例53〜55]
本発明のイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物として、1、3-ジイソプロペニルベンゼンを添加したジエチル亜鉛に、さらにジエチル亜鉛の熱安定性を向上させる添加物とは異なる種類の炭化水素であるヘキサンや、芳香族炭化水素化合物であるトルエンが共存させたサンプルを、それぞれ表15のように調整して、実施例1〜5と同様の熱分析測定を行なった。各サンプルの初期発熱温度を表15に合わせて示す。
【0078】
[比較例12〜14]
実施例53〜55において、本発明の1、3-ジイソプロペニルベンゼンを添加していないこと以外は、実施例53〜55と同様のサンプルを表15のように調整し、実施例1〜5と同様の熱分析測定を行なった。各サンプルの初期発熱温度を表15に合わせて示す。
【0079】
実施例53〜55および比較例12〜14の結果より、本発明のイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物は、ジエチル亜鉛の熱安定性を向上させる添加物とは異なる種類の炭化水素であるヘキサンや、芳香族炭化水素化合物であるトルエンが共存する場合においてもジエチル亜鉛の熱安定性を向上させる添加物として効果があり、本発明の添加物を添加したジエチル亜鉛組成物の高い熱安定性がジエチル亜鉛の熱安定性を向上させる添加物とは異なる種類の炭化水素であるヘキサンや、芳香族炭化水素化合物であるトルエンが共存する場合においても確認された。
【0080】
【表15】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエチル亜鉛に添加物としてイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物が添加されたジエチル亜鉛組成物。
【請求項2】
添加物が、下記一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)で表されるイソプロペニル基を側鎖に有する芳香族化合物からなる群より選ばれる1つまたは2以上の化合物である、請求項1記載のジエチル亜鉛組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

(式(1)、式(2)、式(3)中、Rはそれぞれ独立して、水素、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐したアルケニル基(アルケニル基にはイソプロペニル基も含む)、炭素数6〜14のアリル基である)
【請求項3】
添加物が、α―メチルスチレン、4−イソプロペニルトルエン、1,3−ジイソプロペニルベンゼン、1、4―ジイソプロペニルベンゼンおよび2−イソプロペニルナフタレンからなる群より選ばれる1つまたは2以上の化合物である、請求項1または請求項2に記載のジエチル亜鉛組成物。
【請求項4】
ジエチル亜鉛への添加物の添加率が100ppm〜20wt%である、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のジエチル亜鉛組成物。
【請求項5】
ジエチル亜鉛の熱安定性を向上させる方法とて、添加物として請求項1〜3記載の化合物を用い、請求項4の添加率で添加することを特徴とする、ジエチル亜鉛の熱安定化の方法。
【請求項6】
ジエチル亜鉛の熱安定性を向上させる添加物として、請求項1〜3記載の構造を有することを特徴とする化合物。
【請求項7】
請求項1〜4記載のジエチル亜鉛組成物において、ジエチル亜鉛組成物を構成する添加物とは異なる種類の炭素数5〜25の飽和及び/または不飽和炭化水素及び炭素数6〜30の芳香族炭化水素化合物あるいはエーテル系化合物が共存する、請求項1〜4記載のジエチル亜鉛組成物。
【請求項8】
請求項5記載のジエチル亜鉛の安定化方法において、ジエチル亜鉛に熱安定性に効果のある添加物とは異なる種類の炭素数5〜25の飽和及び/または不飽和炭化水素及び炭素数6〜30の芳香族炭化水素化合物あるいはエーテル系化合物がジエチル亜鉛に共存する、請求項5記載のジエチル亜鉛の熱安定化の方法。
【請求項9】
請求項6記載のジエチル亜鉛において、ジエチル亜鉛の熱安定性を向上させる添加物とは異なる種類の炭素数5〜25の飽和及び/または不飽和炭化水素及び炭素数6〜30の芳香族炭化水素化合物あるいはエーテル系化合物が共存する場合におけるジエチル亜鉛の熱安定性を向上させる添加物として、請求項6記載の構造を有することを特徴とする化合物。

【公開番号】特開2011−74069(P2011−74069A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193110(P2010−193110)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(301005614)東ソー・ファインケム株式会社 (38)
【Fターム(参考)】