説明

ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)−デキストランを放射標識するための組成物

本発明は、テクネチウム−99mでジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)−デキストランを放射標識し、DTPA−デキストランコールドキットを安定化するための組成物に関する。本組成物は、99mTc過テクネチウム酸を還元するための塩化第一スズイオン、第二スズイオンを第一スズイオンに還元して還元環境を維持するためのアスコルビン酸、放射化学的収率に干渉せずに嵩を増やして凍結乾燥組成物を安定化するためのα,α−トレハロース、および強酸性条件下でテクネチウム−99mをトランスキレートして高い放射化学的純度でのDTPA−デキストランの放射標識を促進するグリシンを含む。更に、本発明はこの組成物の製造方法および使用方法に関する。99mTc過テクネチウム酸により凍結乾燥組成物を再構成することで、pH3〜4の組成物中で放射標識された99mTc−DTPA−デキストランが得られる。本発明は、希釈剤バイアルを含み、この希釈剤を使用することで、pHが穏やかな酸性pHにシフトし、注射時の痛みが少なくなり、医師は効力を調整し易くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍学分野、より具体的には癌検出剤の放射標識に関する。
【背景技術】
【0002】
メラノーマおよび乳癌を診断するための一般的な方法としてセンチネルリンパ節生検が急速に普及してきている(Vera, D. R. et al. (2001) J. Nucl. Med. 42, 951-959)。この技術はまだ標準化されておらず、通常、99mTcコロイドおよび青色色素を使用する。コロイドイメージング剤中および本発明中で用いられる放射性同位体99mテクネチウムは複数の望ましい特性を有する。すなわち、入手が用意であり、比較的低コストであり、イメージングの質が優れており、半減期が6時間と短い。この放射性トレーサーは手術前にセンチネルリンパ節の位置を確認するために使用され、その後、手術中にセンチネルリンパ節の切開部を正確に特定するために使用される。青色色素は、リンパ管およびリンパ節から迅速に排除され、センチネルリンパ節として選択される放射活性リンパ節を視覚的に確認するために使用される。この生検手技は個々の医師で異なるため、一貫性のある一連の技能を有する医師を養成することが難しく、そのため、これらの生検は幅広い偽陰性率が報告されている(すなわち0〜12%、上記のVera, D. R.参照)。
【0003】
このセンチネルリンパ節生検技術を標準化するためにはもう1つのハードルがあり、それはセンチネルリンパ節の検出またはセンチネルリンパ節に取り込ませるために特別に設計された青色色素または99mTc標識薬剤が存在しないことである。現在、FDA(米国食品医薬品局)は、センチネルリンパ節診断用の如何なる色素または99mTc標識薬剤も承認していない。そのため、以下の放射性医薬品が適応外(off−label)で使用されている:99mTc硫黄コロイド、ろ過した99mTc硫黄コロイド、99mTc三硫化アンチモン、および99mTc標識アルブミンマイクロコロイドの複数の標品(注:コロイドは粘着性の非標的化粒子である)。これらの薬剤はいずれも、注射部位における迅速なクリアランスまたはセンチネルリンパ節への取込みが多いという理想的な特性を示さない(Hoh, C. K., et al. (2003) Nucl. Med. Biol. 30, 457-464)。
【0004】
したがって、最適なセンチネルリンパ節検出の目標を満たすように設計された(すなわち、注射部位におけるクリアランスが迅速であり遠位リンパ節への蓄積が少ない)核イメージング診断キットの開発は、乳癌およびメラノーマの処置において満たされていない医学的ニーズである。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、放射標識後の放射化学的純度が高く、1個の凍結乾燥バイアルおよび液体希釈剤バイアルを含む「インスタント」キットとして使い易い、DTPA等の二官能性キレート剤とコンジュゲートされたデキストランを含む組成物を提供する。本発明はまた、診断用イメージング剤としての取扱いおよび投与を容易にして医薬用途または臨床用途を促進するのに十分な再構成後の安定性および長期保存安定性を提供する。
【0006】
99mTc過テクネチウム酸ナトリウムを添加すると、本発明は、デキストラン分子上の複数のアミノ末端化された鎖(leash)に5個のカルボン酸アーム(carboxylic arm)の1個によるアミド結合を介してコンジュゲートされている二官能性リガンドDTPAが高い放射化学的純度を示す(すなわち、90%を超える99mTc−DTPA−デキストラン純度)。フリーのDTPAは脱プロトン化されたカルボン酸基5個全てを配位させ、八座リガンドとして例えば111インジウム等の重金属イオンに結合していることが明らかであるが(更に3個の窒素原子を含む−H. R. Maecke, et al. (1989) J. Nucl. Med. 30, 1235-1239参照)、七座リガンドDTPAは、結合の熱力学的安定性が低く、99mTcイオンへの結合が競合され易く、放射化学的純度が低くなり得る。
【0007】
pHを約2〜4に下げ、非競合的な構成要素をスクリーニングして理想的なトランスキレート剤としてグリシン(pHバッファーとしても働く)を同定し、以下の事実を利用することで、高い放射化学的純度の99mTc−DTPA−デキストランが得られた:(1)99mTcへの競合リガンドの分布が会合速度定数により決まることおよび(2)DTPA−デキストラン錯体からの99mTcの解離速度定数が非常に遅く、pH依存性であること。したがって、より強く放射性同位体に結合するDTPA−デキストランに放射性同位体を移すグリシンへの強酸性条件下での一時的結合およびこの「インスタント」キットのpHをキットの希釈剤を用いて穏やかな酸性条件にシフトさせた後にテクネチウム−99mが保持される(解離速度定数が遅いため)ことで、DTPA−デキストランの高効率の放射標識が向上する。
【0008】
本発明は更に、注射時に痛みを生じさせる強い酸性条件(すなわち約3〜4のpH)から十分に耐えられる穏やかな酸性条件(すなわちpH>約5)にpHをシフトさせることで患者の快適さを可能にするリン酸緩衝生理食塩水希釈剤を提供する(M. Stranz and E. S. Kastango (2002) Int. J. Pharm. Compound. 6(3), 216-220)。
【0009】
本開示は更に、過剰な第一スズイオンまたは第二スズイオンを含む放射標識DTPA−デキストラン標品を更に安定化する例えばL−アスコルビン酸等の還元剤を提供し、これにより、SnコロイドまたはSn4+等のその他の放射化学的不純物の形成が防止される。本発明はまた、製剤中にL−アスコルビン酸を含めることで、薬剤物質およびその構成要素の酸化分解ならびに放射標識された薬品の自己放射線分解を防ぐ。
【0010】
更に、本発明は、不定形(amorphous)の二糖凍結乾燥ケーキの形態のDTPA−デキストランにとって安定且つ審美的に満足な環境を提供し、99mTc過テクネチウム酸ナトリウムによる迅速な再構成および緩衝生理食塩水希釈剤の添加による使用し易い透明な非微粒子液体の生成を可能にする。本発明はまた、凍結乾燥バイアルに医薬品グレードの窒素ガスをバックフィル(backfill)することで不活性ガスのヘッドスペースを提供し、本発明の保存寿命期間中にわたり、第一スズイオンを更に安定化して99mTc過テクネチウム酸ナトリウム(または99mTcO)を還元する能力を余分に提供する。
【0011】
したがって、本発明の方法は、1個の凍結乾燥バイアルをpH緩衝希釈剤で更に再構成して最終的な溶液pHをシフトさせて少なくとも6時間安定であり且つ患者の快適さを向上させる溶液を得る、高い放射化学的純度のDTPA−デキストランの99mTc(III)(およびおそらく99mTc(IV))錯体を調製する改良された方法であり(Russell, CD. (1980) J. Nucl. Med. 21, 354-360;Russell, CD. and Speiser, A.G. (1982) Int. J. Appl. Radiat. Isot. 33, 903-906)。このDTPA−デキストランの凍結乾燥コールドキット製剤は、窒素環境下で固体白色凍結乾燥ケーキ形態の99mTc過テクネチウム酸ナトリウムの還元に必要な塩化第一スズを安定化し、長期間の保存安定性を有する、「インスタント」キットである。このキットは、強酸性条件下における99mTc過テクネチウム酸のSn2+還元により高い放射化学的純度を得、リン酸緩衝生理食塩水で希釈して再構成後の溶液pHを中性側にシフトさせた後の99mテクネチウム−DTPA−デキストラン錯体の放射化学的収率90%超を維持する。
【0012】
本発明のプロセス、組成物、およびキットの性質および利点を更に深く理解するために、添付の図面と関連付けて以下の詳細な説明を参照すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】再構成された99mテクネチウム標識Lymphoseek(登録商標;オハイオ州ダブリンのネオプローブ・コーポレーションの登録商標;米国特許第6,409,990号)リガンド薬品(99mTc−DTPA−マンノシル−デキストラン)の典型的なサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)溶出プロフィールを示す図である。
【図2】凍結乾燥Lymphoseekリガンド薬品のプラセボを用いた、10ミリキュリーの99mTc過テクネチウム酸で放射標識された99mテクネチウム標識DTPA標準の典型的な溶出プロフィールを示す図である。
【図3】最初のパイロット製剤の3つの賦形剤(シトラート、マンニトール、およびL−システイン)が顕著な99mTc標識ピークを示すことを示す図である。
【図4】最初の薬品製剤と液体の薬剤物質製剤パイロットの比較を示す図である。
【図5】リン酸ナトリウムpHバッファーならびに種々の組合せのトランスキレート剤(シトラート)、還元剤(アスコルビン酸)、および増量剤(ポリエチレングリコール(PEG)8000)を含む液体DTPA−マンノシル−デキストラン薬剤物質プラセボ製剤パイロットの、SEC放射化学的純度測定法によって測定されるSEC放射化学的溶出プロフィールを縦に並べて示した図である。
【図6】リン酸ナトリウムpHバッファーを含む対応する液体DTPA−マンノシル−デキストラン薬剤物質プラセボ製剤パイロットのSEC放射化学的溶出プロフィールを縦に並べて示した図である。
【図7A】pH4の20mM酢酸ナトリウムバッファー(ACE)、タルトラート、およびPEG8000を含むDTPA−マンノシル−デキストラン薬剤物質およびプラセボの液体製剤パイロットのSEC放射化学的溶出プロフィールを縦に並べて示した図である。
【図7B】pH4の20mM酢酸ナトリウムバッファー(ACE)、タルトラート、およびPEG8000を含むDTPA−マンノシル−デキストラン薬剤物質およびプラセボの液体製剤パイロットのSEC放射化学的溶出プロフィールを縦に並べて示した図である。
【図8】pH4および6の20mM酢酸ナトリウムバッファーを含むDTPA−マンノシル−デキストラン薬剤物質およびプラセボの液体製剤パイロットのSEC放射化学的溶出プロフィールを縦に並べて示した図である。
【図9A】第一級アミンを有する還元糖および両性イオンアミノ酸、すなわちグルコサミンナトリウム(GlcNH)およびグリシン(Gly)を用いたスクリーニング実験を示す図である。
【図9B】第一級アミンを有する還元糖および両性イオンアミノ酸、すなわちグルコサミンナトリウム(GlcNH)およびグリシン(Gly)を用いたスクリーニング実験を示す図である。
【図10A】2つの終濃度での賦形剤グリシンおよびアスコルビン酸ナトリウムの範囲に関する実験を示す図である。GlyおよびGlyはそれぞれ0.5および2.0mgグリシン/mLであり、AAおよびAAはそれぞれ1.5および0.38mg/mLアスコルビン酸ナトリウムである。
【図10B】2つの終濃度での賦形剤グリシンおよびアスコルビン酸ナトリウムの範囲に関する実験を示す図である。GlyおよびGlyはそれぞれ0.5および2.0mgグリシン/mLであり、AAおよびAAはそれぞれ1.5および0.38mg/mLアスコルビン酸ナトリウムである。
【図11】pH5〜4の20mM酢酸ナトリウムバッファーならびにグリシン、アスコルビン酸ナトリウム、およびα,α−トレハロースを含む液体薬剤物質製剤パイロットのSEC放射化学的溶出プロフィールを縦に並べて示した図である。
【図12】12.5mCiの99mTc過テクネチウム酸を添加したDMD薬剤物質製剤(25μMのDTPA−マンノシル−デキストラン(0.5mg/mL)、pHバッファー、0.5mg/mLのグリシン、0.5mg/mLのアスコルビン酸ナトリウム、2%(w/v)α,α−トレハロース、38.5mmの塩化ナトリウム、および75μg/mLのSnCL・2HOを含む)のSEC放射化学的溶出プロフィールを縦に並べて示した図である。pHバッファーは、(上のパネルから順に)pH4の酢酸バッファー、pH3のリン酸バッファー、およびpH2のリン酸バッファーである。
【図13】以下の賦形剤を含むpH3、2、および4のDMD薬剤物質製剤のSEC放射化学的溶出プロフィールを縦に並べて示した図である:25μMのDTPA−マンノシル−デキストラン(0.5mg/mL)、0.5mg/mLのグリシン、0.5mg/mLのアスコルビン酸ナトリウム、2%(w/v)のα,α−トレハロース、および75μg/mLのSnCL・2HO(およびpH4では10mM酢酸ナトリウム)。 図面は後述する実施例中で更に詳細に説明される。
【発明の具体的説明】
【0014】
センチネルリンパ節診断用の商業的「インスタント」キットの開発の鍵は、センチネルリンパ節の最適な検出に必要な特性を有するイメージング剤の合理的設計である。そのような特性とは、小さい分子直径および高い受容体親和性であり、これにより、注射部位でのクリアランス速度が速く且つ遠位リンパ節への蓄積が少ない放射性医薬品が得られる(前述のVera, D. R.)。本発明では、使用される薬剤物質は、放射標識を送達するためにデキストランプラットフォームを使用する。このデキストラン骨格は、医薬品グレードであり、非常に親水性が高く、電荷がなく、柔軟な、平均分子量約9500のポリマーである。これらの物理的性質は全て、膜壁を横切る移動を減らし、注射部位における迅速なクリアランスを促進する。デキストランポリマーは、DTPA基に結合しているアミン末端化テザーにコンジュゲートされ、分子に高い受容体親和性を付与し、99mテクネチウムと錯体を形成する。99mTc−DTPA−マンノシル−デキストランは信号密度が高く、バックグラウンドに対する信号の比率が大きいため、センチネルリンパ節をよりよく検出することが可能になる。
【0015】
別のアミン末端化テザーにコンジュゲートされるマンノシル基を添加することで、DTPA−マンノシル−デキストランに結合特異性が付与され、代替物な非標的化イメージング剤と差別化される。DTPA−マンノシル−デキストランはインビトロでマンノース末端化糖タンパク質受容体に強く結合する(前述のVera, D. R.)。ウサギの体内分布研究により、99mTc−DTPA−マンノシル−デキストランはリンパ管中に拡散し、センチネルリンパ節に流入し、センチネルリンパ節中に存在するマクロファージおよび樹状細胞中のマンノース結合糖タンパク質受容体に結合することが示されている(前述のHoh, C. K.;Fiete, D. and Baenziger, J. U. (1997) J. Biol. Chem. 272(23), 14629-14637;Ramakrishna, V. et al. (2004) J. Immunol. 172, 2845-2852)。したがって、99mTc−DPTA−マンノシル−デキストランは、センチネルリンパ節検出のための優れた標的化99mTc標識診断薬である(前述のHoh, C. K.)。99mTc−DTPA−マンノシル−デキストランの臨床前および第I相試験では、複数回の液体移動および複数のバイアルを用いた放射標識手順を用いたが、この投薬形態は商業的使用には望ましくないものであった。
【0016】
この重要な核イメージング剤を商業化するために、組成物(製剤)およびこのLymphoseek(登録商標)リガンド薬品組成物の製造方法を開発した。これも本発明の対象である。99mテクネチウム標識核イメージング「インスタント」キットの開発は、高い放射化学的効率と非特異的99mTc標識材料(すなわち、99mTcコロイドまたは99mTc標識製剤賦形剤)の形成との微妙なバランスである。また、還元型99mテクネチウムが99mTcOに再度酸化されるのを防ぐ必要がある。そこで、不活性窒素環境下で第一スズイオンを安定化するために凍結乾燥製剤を開発した。
【0017】
本発明では、組成物は、新たに同定したトランスキレート剤のグリシンを強酸性条件下で使用することでこの微妙なバランスを達成している。トランスキレート剤とは、還元型99mテクネチウムに一時的に結合し、より強いキレート剤またはリガンドへのこの放射性同位体の移動を容易化する、弱いキレート剤である。還元型99mテクネチウムのリガンドは、5個のカルボン酸基の1個でデキストランのアミン末端化テザーに結合した七座二官能性リガンドである、誘導体化されたジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)である。このリガンドは当業者に周知である。これは、ペプチドおよびタンパク質を放射標識するための「インスタント」キットに含められてきた(Hansen et al.に付与された米国特許第5,328,679号;ZamoraおよびMarekに付与された米国特許第6,685,912(B2)号;およびWinchellに付与された米国特許第4,364,920号)。これらの米国特許では、DTPAは、通常その炭素骨格を介して共有結合された無水物の形態の、ペプチドおよびタンパク質にコンジュゲートされた二官能性キレート剤である。
【0018】
これらの特許は、当該技術分野で公知の幅広いトランスキレート剤、例えばシトラート、タルトラート、ホスファート、ホスホナート、グルコヘプトナート、およびアスコルビン酸を記載している。しかし、これらのトランスキレート剤は穏やかな酸性から中性のpHの製剤中で幅広く使用されており、活性成分の放射標識に高効率で干渉し得る。トランスキレート剤としてアスコルビン酸を使用するための最適pHはpH4.5〜6.2である(Liang et al. (1987) Nucl. Med. Biol. 14, 555-562)。これは、アスコルビン酸のカルボン酸基のpKaがpH4.10であることに由来する(CRC:Handbook of Chemistry and Physics, 75th Edition, David R. Lide, Ph.D. (CRC Press, London))。グリシンのカルボン酸基のpKaは2.34である。グリシンのカルボン酸基は強酸性条件下でも機能的なままである(例えば、pH2では部分的に脱プロトン化されており、pH4では完全に脱プロトン化されている)。本発明の好ましい実施形態では、アスコルビン酸は完全に脱プロトン化されている。したがって、本組成物は、グリシンを最適なトランスキレート剤として用いつつ、アスコルビン酸の潜在的干渉を減らし、この酸化防止剤の有益な特性を利用する。
【0019】
共有結合されたDTPAが還元型99mテクネチウムに結合する時、酸性条件下における主要な酸化状態はおそらく99mTc(III)であり、これは、実効電荷がゼロの安定な錯体を生じると考えられる(Russell, C.D. (1980) J. Nucl. Med. 21, 354-360)。pH2の液体組成物は、DTPA−デキストランを放射標識し、希釈剤を添加するとより高いpHへとシフトする。しかし、2.7以下のpHでは、DTPA基が完全に脱プロトン化され、pH2の凍結乾燥製剤は完全に崩壊すると考えられる(Hnatowich, D.J. et al. (1995) J. Nucl. Med. 36, 2306-2314)。したがって、好ましい実施形態では、高い放射化学的効率を可能にするように組成物をpH約3〜約4にし、一方、再構成された「インスタント」キットをリン酸緩衝生理食塩水希釈剤で希釈することでpHは患者に十分耐えられるであろう約5以上のpHにシフトされる。本願中の全ての成分はUSPグレード(米国薬局方)であることが望ましい。また、「q.s.」は、「十分な量」という標準的な薬学的意味である。
【実施例】
【0020】
実施例1
99mTc標識DTPA−マンノシル−デキストランおよびDTPAの溶出プロフィール
図1は、再構成した99mテクネチウム標識Lymphoseekリガンド薬品(99mTc−DTPA−マンノシル−デキストラン)、ロットNMK001の、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて放射活性(NaI、1000cps/ボルトに設定)検出器により測定した、典型的な溶出プロフィールを示す図である。このSEC放射化学的純度測定法の条件は以下の通りである:TSKゲルカラム(トーソー・バイオサイエンス社(Tosoh Bioscience)製、G3000PWXL(7.8×30cm、6μm、カラム温度25±5℃))を、均一濃度の移動相として50mMリン酸バッファー(pH7.2)および300mM塩化ナトリウムと共に用いる。凍結乾燥バイアルを、10ミリキュリーの99mTc過テクネチウム酸0.8ccで再構成し、混合し、周囲室温で少なくとも10分間放射標識し、その後、0.2ccのリン酸緩衝生理食塩水でサンプルを部分的に中和する。冷蔵した薬品サンプル15μLを注入し、0.6mL/分、実行時間40分でクロマトグラフィーにかけた。99mTc−DTPA−マンノシル−デキストラン(99mTc−DMD)ピークの保持時間は約12〜12.5分であり、9〜15分にまたがり、約15〜15.5分の放射活性ピークに溶出する99mTc標識された賦形剤によるテーリングの肩が見られる。
【0021】
この溶出プロフィールは、同じカラムおよび移動相を用い、屈折率検出器を用いる効力測定方法のものと非常に類似している(UV/VISの吸収がないため)。99mTc−DTPA−マンノシル−デキストランの溶出ピークが広いのは、デキストランポリマーの不均一性(heterogegity)によるものであり、デキストラン上のアミノ末端化された鎖(leash)へのマンノシルおよびDTPA基の結合の不均一性により更に悪化されている(Vera, D. R. et al. (2001) J. Nucl. Med. 42, 951-959)。DTPA−マンノシル−デキストラン製剤の目標は、バルク液体薬剤物質製剤中において95%を超える放射化学的純度および再構成された凍結乾燥薬品中において90%を超える放射化学的純度を達成することである。
【0022】
図2は、10ミリキュリーの99mTc過テクネチウム酸で放射標識された99mテクネチウム標識DTPA標準の典型的な溶出プロフィールを示す図であり、凍結乾燥Lymphoseekリガンド薬品プラセボ(すなわち、4.5mMのL−グリシン(pH3)、2.5mMのL(+)−アスコルビン酸ナトリウム、2%(w/v)α,α−トレハロース、および75μg/mLの塩化第一スズ二水和物)を用い、上記のSEC放射化学的純度測定法を用いる放射活性(NaI)検出器により測定した。99mTc−DTPAピークの保持時間は約15分であり、14〜16分に溶出し、これは99mTcで標識された低分子量賦形剤のほとんど全ての保持時間とほぼ同じである(データ示さず)。
【0023】
実施例2
最初のパイロット製剤:干渉する賦形剤の研究
図3中、一番上の放射化学的溶出プロフィールは、10ミリキュリーの99mTc過テクネチウム酸で再構成してSEC放射化学的純度測定法にかけた最初の凍結乾燥製剤パイロット(5μM(0.1mg/mL)のDTPA−マンノシル−デキストラン、20mMのクエン酸ナトリウム(pH5.6)、5.7mMのL−システインナトリウム、2%(w/v)D−マンニト−ル、および75μg/mLの塩化第一スズ(二水和物))を示している(この最初の凍結乾燥薬品製剤パイロットはSEC放射化学的純度測定法を展開する直前に用意した)。この溶出プロフィールは、99mTc−DMDピークの放射化学的純度が約25%未満であることを明らかに示している。
【0024】
パイロット製剤中で干渉している可能性のある賦形剤を突き止めるために、以下のスクリーニング法(添加順)を用いた:(1)薬剤物質のプラセボ製剤では、キャップの付いた1.5mLのプラスチック製試験管に50μLの脱ガスした生理食塩水を添加し;薬剤物質製剤では、1.2mg/mLのDTPA−マンノシル−デキストランを含む脱ガスした生理食塩水50μLを添加してDMDの終濃度を0.3mg/mLとし;(2)各種賦形剤を試験するために、4倍濃縮した脱ガス溶液を50μL添加し;(3)99mTc過テクネチウム酸を還元するために、300μg/mLの塩化第一スズ(二水和物)を含む0.01Nの脱ガスした塩酸50μLを添加し、SnCLを添加した直後に、(4)還元型99mTc過テクネチウム酸で製剤を放射標識するために、50ミリキュリーの99mTc過テクネチウム酸を50μL添加して99mTc過テクネチウム酸の終濃度を12.5mCiとした(注:溶液は窒素ガスを少なくとも1時間通気して脱ガスした)。その後、混合して周囲温度で少なくとも10分間静置した後、キャップの付いたHPLCオートサンプラーバイアルに移してSEC放射化学的純度測定法を行った。
【0025】
図3は、最初のパイロット製剤の3つの賦形剤が顕著な99mTc標識ピークを示すことを示している。一番上の放射化学的溶出プロフィールから下に向かって、2番目の溶出プロフィールは、RT約14.5分に顕著な99mTc−シトラートのピークを示し、これにより、一番上のパターンにおけるRT約14.5分の99mTc標識干渉のかなりの部分が説明され得る。シトラートはpH5〜6におけるDTPAの公知のトランスキレート剤である(Hnatowich, D. J., Chapter 8, pg. 175, Cancer Imaging with Radiolabeled Antibodies (Goldenberg, D. M., ed., 1990: Kluwer Academic Publishers, Boston/Dordrecht/London))が、本製剤中で使用するには強すぎるようである。3番目の放射化学的溶出プロフィールでは、D−マンニトールは99mTcと競合するようであり、RT約16分に溶出している。この予想外の干渉は、この天然産物中に存在する不純物によるものであり得る。4番目および5番目の放射化学的溶出プロフィールでは、2つの異なるL−システイン濃度、すなわち、終濃度でそれぞれ0.25および1mg/mLのL−システインを使用した。4番目の溶出プロフィールはいくらかの干渉結合を示しているが、5番目の1mg/mLのL−システインの溶出プロフィールはシステインが99mTcに結合してシトラートのトランスキレート化に干渉することを明確に示しており、保持時間21〜23分に溶出している。6番目の放射化学的溶出プロフィールは、シトラート製剤に1mg/mLのL(+)−アスコルビン酸ナトリウム二水和物を添加したものであり、アスコルビン酸は99mTc−シトラートに干渉しないようである。
【0026】
図4は、最初の薬品製剤と液体の薬剤物質製剤パイロットを比較した図である。一番上の放射化学的溶出プロフィールは、最初の薬品製剤のものであり、2番目のプロフィールは、12.5mCiの99mTc−過テクネチウム酸を還元するためにSnCLを添加した、クエン酸ナトリウムを含む生理食塩水のものである。3番目および4番目の放射化学的溶出プロフィールでは、DTPA−マンノシル−デキストラン薬剤物質は部分的に放射標識されており、約14.5分に顕著な99mTc−シトラートの溶出が見られる。したがって、クエン酸ナトリウムの使用は、pHバッファー/トランスキレート剤として好ましい選択肢ではない。
【0027】
実施例3
DTPA−マンノシル−デキストランの放射標識向上のためのpHバッファー、トランスキレート剤、増量賦形剤のスクリーニング
図5は、SEC放射化学的純度測定法により測定される、リン酸ナトリウムpHバッファーならびに種々の組合せのトランスキレート剤、還元剤、および増量剤を含むDTPA−マンノシル−デキストラン薬剤物質の液体プラセボ製剤パイロットの放射化学的溶出プロフィールを縦に並べて示した図である。一番上の放射化学的溶出プロフィールは、pH4の20mMリン酸ナトリウムバッファーおよび1.5mg/mLのアスコルビン酸ナトリウムを用いた場合の小さな99mTc標識干渉ピークを示している。2番目〜6番目の溶出プロフィールは、20mMリン酸ナトリウム(pH4)、75μg/mLのSnCL・2HO、および12.5mCiの99mTc過テクネチウム酸と以下の各潜在的賦形剤を示すものである:1mg/mLのクエン酸ナトリウム;1%のPEG8000;1mg/mLのクエン酸ナトリウムおよび1.5mg/mLのアスコルビン酸ナトリウム;1.5mg/mLのアスコルビン酸ナトリウムおよび1%のPEG8000;ならびに1.5mg/mLのアスコルビン酸ナトリウム、1mg/mLのクエン酸ナトリウム、および1%のPEG8000。これらは全て、顕著な99mTc標識干渉ピークを示しており、99mTc−PEG8000はRT約14分という早い時間に溶出し、99mTc−シトラートはより低分子量側の保持時間約15分に溶出している。
【0028】
図6には、リン酸ナトリウムpHバッファーを含む対応するDTPA−マンノシル−デキストラン薬剤物質の液体プラセボ製剤パイロットの放射化学的溶出プロフィールが縦に並べて示されている。図6中の0.3mg/mLすなわち15mMのDMDを含むDTPA−マンノシル−デキストラン製剤では、放射化学的溶出プロフィールは、薬物物質の少し顕著な放射標識を示している。上から3番目のプロフィールはバックグランドレベルの99mTc−DMDを示しており、ホスファートおよびPEG8000が満足のゆくトランスキレート剤として機能しないことを示している。5分の1のpHバッファー強度では、シトラートは薬剤物資の放射標識効率が低くなり、これらの製剤中でまだ干渉している。更に、PEG8000は、明らかにそのヒドロキシル基で薬剤物質の収率に干渉しており、増量剤として好ましくない。リン酸ナトリウムは凍結乾燥に理想的なpHバッファーではないので、一般的に安全とみなされている(GRAS)別のpHバッファーをスクリーニングした。
【0029】
図7Aおよび7Bでは、DTPA−マンノシル−デキストラン薬剤物質およびプラセボの、pH4の20mM酢酸ナトリウムバッファーを含む液体製剤パイロットの放射化学的溶出プロフィールが分散されて縦に並べられている。図7A中、一番上の放射化学的溶出プロフィールは、潜在的トランスキレート剤である酒石酸ナトリウム1.5mg/mLを含む薬剤物質製剤のものであり、薬剤物質の放射標識の向上および99mTc−タルトラートの顕著な干渉ピークを示している(対応するプラセボ製剤については4番目の溶出プロフィール参照)。図7A中の2番目および3番目の溶出プロフィールはアスコルビン酸ナトリウムおよびPEG8000の存在下でほとんど差を示さない。図7B中、放射化学的溶出プロフィールは、アスコルビン酸ナトリウムおよびPEG8000の組合せとタルトラートを用いた薬剤物質製剤では薬剤物質の放射標識効率が下がることを示している。最後に、DTPA標準は、pH4で酢酸ナトリウムおよびアスコルビン酸ナトリウムと一緒の場合、小さなテーリングエッジの肩を有する。したがって、酢酸pHバッファー中での潜在的トランスキレート剤としての酒石酸ナトリウムの選択は満足なものではない。
【0030】
図8中には、DTPA−マンノシル−デキストラン薬剤物質およびプラセボのpH4および6の20mM酢酸ナトリウムバッファーを含む液体製剤パイロットの放射化学的溶出プロフィールも分散されて縦に並べられている。一番上および2番目の放射化学的溶出プロフィールは、pH6において1.5mg/mLのアスコルビン酸ナトリウムの存在が薬剤物質の放射化学的純度を高めることを示しているが、3番目および4番目のプロフィールは、アスコルビン酸が、それぞれRT約13.5分および約15分における99mTc−アスコルビン酸の顕著な干渉ピークおよび小さな干渉ピークに寄与し得ることを示している。5番目の溶出プロフィールは、放射化学的純度がpH感受性であり、アスコルビン酸ナトリウム存在下のpH4では薬剤物質が主に放射標識されることを示している。5番目のプロフィールは、薬剤物質ピークのテーリングエッジ(trailing adge)のわずかな肩およびRT約16分の小さな99mTc標識ピークに観察されるように、99mTc−DMDピークと共溶出するいくつかの干渉材料を含み得る。
【0031】
図9Aおよび9Bでは、第一級アミンを有する還元糖および両性イオンアミノ酸、すなわちグルコサミンナトリウムおよびグリシンを用いたスクリーニング実験を行った。これは、99mテクネチウムがアミンおよびアミドの窒素、カルボキシラートの酸素、ならびにチオラートおよびチオエーテルの硫黄(チオラートの硫黄に強い選択性)と安定な錯体を形成するため(Giblin, M. F. et al. (1998) PNAS USA 95, 12814-12818)、これらの賦形剤が99mテクネチウムと一時的な相互作用をいくらか有するであろうという根拠のある推測に基づき行われた。図9Aは、アスコルビン酸ナトリウム(1.5mg/mL)の非存在下および存在下でpH4の20mM酢酸ナトリウムバッファーと1.5mg/mLのグルコサミンナトリウムおよびグリシンのいずれかとを含むDTPA−マンノシル−デキストラン薬剤物質の液体プラセボ製剤パイロットを示す。これらの賦形剤は、3番目のグルコサミンナトリウムだけの溶出プロフィールがバックグラウンドの放射活性より大きい以外は、RT約15分に小さな99mTc標識ピークを有するバックグランドレベルの放射活性を示す。図9B中、pH4の20mM酢酸ナトリウムバッファーと1.5mg/mLのグルコサミンナトリウムまたはグリシンとを含む液体薬剤物質製剤パイロットの放射化学的溶出プロフィールはほぼ同じであり、トランスキレート剤として99mTc−DMDピーク(RT12.4分)を効率的に放射標識する能力を示している。グルコサミンナトリウムはGRAS賦形剤ではないので、以降の製剤では探求しなかった。グリシンが潜在的な非干渉トランスキレート剤として同定された。
【0032】
グリシンおよびアスコルビン酸ナトリウムは、薬剤物質の放射化学的純度の向上と両立するようであるので、これらの賦形剤の範囲を調べた。グリシンおよびアスコルビン酸ナトリウムを2つの終濃度で評価した。GlyおよびGlyは、それぞれ0.5および2.0mg/mLであり、AAおよびAAは、それぞれ1.5および0.38mg/mLである。グリシンの#1および#2の薬剤物質製剤(すなわち、15μMのDTPA−マンノシル−デキストラン、20mMの酢酸ナトリウム(pH4)、75g/mLのSnCL・2HO、および12.5mCiの99mmTc過テクネチウム酸)では、SEC放射化学的純度測定法により測定されるGlyおよびGlyの2つの放射標識実験の平均はそれぞれ90.7および88.7%99mTc−DMDである。Gly存在下において、AAおよびAA薬剤物質製剤の2つの放射標識実験の平均はそれぞれ80.3および90.3%99mTc−DMD純度である(図10Aおよび10B参照)。
【0033】
凍結乾燥に適した増量剤のスクリーニングを、トランスキレート剤としてグリシン、酸化防止剤/還元剤としてアスコルビン酸ナトリウムを含む20mM酢酸ナトリウム(pH4〜5)の製剤中で行った。PEG2000およびポリビニルピロリドン等の重合体賦形剤がDTPA−マンノシル−デキストランの放射標識効率に干渉することが判明した(データ示さず)。最終的に、薬剤物質液体製剤の潜在的な非干渉性増量剤としてα,α−トレハロース(2%w/v)が同定された。図11中、pH5〜4の20mM酢酸ナトリウムバッファーならびにグリシンおよびアスコルビン酸ナトリウムを含む薬剤物質液体製剤パイロットの放射化学的溶出プロフィールは、99mTc−DMDの放射化学的純度に対して2%のα,α−トレハロースは干渉があったとしてもほとんどないことを示している。更に、酢酸ナトリウム製剤(15μMのDTPA−マンノシル−デキストラン、20mMの酢酸ナトリウム、1mg/mLのグリシン、1mg/mLのアスコルビン酸ナトリウム、2%(w/v)のα,α−トレハロース、38.5mMの塩化ナトリウム、75μg/mLのSnCL・2HO、および12.5mCiの99mTc過テクネチウム酸)は顕著なpH感受性があり、pH5.0、4.5、および4.0でそれぞれ86.8、88.4、および93.8%の99mTc−DMD純度を示している。これにより、凍結乾燥薬品キット製剤中での潜在的使用に適した賦形剤を同定するためのスクリーニングプロセスが完了した。次のステップは、製剤を最適化し、凍結乾燥キット形態の実現可能性を実証し、再構成手順を構築することである。
【0034】
実施例4
凍結乾燥DTPA−マンノシル−デキストラン薬品の放射標識向上のための製剤の最適化
低pHで99mTc−DMDの放射化学的純度が向上する酢酸バッファー製剤の明白なpH感受性を研究する必要があった。最初のpH実験ではpH2および3の10mMリン酸ナトリウムならびに対照としてpH4の20mM酢酸ナトリウムを用いた。図12は、12.5mCiの99mTc過テクネチウム酸を添加したDMD薬剤物質製剤(25μMのDTPA−マンノシル−デキストラン(0.5mg/mL)、pHバッファー、0.5mg/mLのグリシン、0.5mg/mLのアスコルビン酸ナトリウム、2%(w/v)のα,α−トレハロース、38.5mMの塩化ナトリウム、および75μg/mLのSnCL・2HOを含む)の放射化学的溶出プロフィールを縦に並べて示した図である。一番上の溶出プロフィールはpH4の酢酸製剤を示しており、これはSEC放射化学的純度測定法による測定で99mTc−DMD純度が96.9%である。この製剤は、本発明者らの薬剤物質液体製剤の目標を満たす(すなわち、95%を超える99mTc−DMD純度)。残念ながら、pH3および2の10mMリン酸ナトリウム製剤はRT約14.0分に顕著な99mTc標識干渉ピークを有する(図12参照)。その後、グリシン/塩酸が潜在的な非干渉トランスキレート剤としてだけでなく好適な酸性pHバッファーとしても機能することを突き止めた。図13は、以下の賦形剤を含むpH3、2、および4のDMD薬剤物質製剤の放射化学的溶出プロフィールを縦に並べて示した図である:25μMのDTPA−マンノシル−デキストラン(0.5mg/mL)、0.5mg/mLのグリシン、0.5mg/mLのアスコルビン酸ナトリウム、2%(w/v)のα,α−トレハロース、および75μg/mLのSnCL・2HO(およびpH4では10mM酢酸ナトリウム)。幸運にも、酸性pHバッファーおよびトランスキレート剤として塩酸グリシンを用いたことで、pH3およびpH2の薬剤物質製剤がそれぞれ97.6%および97.1%の99mTc−DMD純度を示し、これは薬剤物質製剤の所望の目標を満たす(図13参照)。図13中ではpH4の酢酸製剤が薬剤物質製剤の目標を満たさなかったが(95%超に対して93.6%の99mTC−DMD純度)、これは、製剤の調製における日毎の変動、溶液の不完全な脱ガス、塩化第一スズ二水和物の不十分な混合等によるものであり得る。pH4の製剤中で酢酸バッファーに加えて塩酸グリシンバッファーを用いてもよい。
【0035】
クラスIの3mL容ガラス製バイアルに、滅菌ろ過した本pH実験物1.05mLを分注した。これらのバイアルの首に栓を置き、バイアルをVirTis凍結乾燥器の棚上に置いて凍結乾燥させた。凍結乾燥サイクル完了後、バイアルに窒素ガスをバックフィルし、栓をした。その後、栓をしたバイアルにアルミニウムシールを圧着(crimp)した。目視検査で、酢酸(pH4)およびグリシン(pH3)の薬品製剤バイアルの凍結乾燥ケーキは、不定形(amorphous)構造を維持しており、低残留水分にまで乾燥されているようであった。一方、グリシン(pH2)の薬品製剤バイアルは完全に崩壊していた(すなわち構造がなかった)。本発明の好ましい実施形態はpH3の薬品製剤(すなわち、12.5〜25μMのDTPA−マンノシル−デキストラン(0.25〜0.5mg/mL)、0.5mg/mLのグリシン(pH3)、0.5mg/mLのアスコルビン酸ナトリウム、2%(w/v)のα,α−トレハロース、および75μg/mLのSnCL・2HO)である。
【0036】
実施例5
凍結乾燥DTPA−マンノシル−デキストラン薬品の放射標識における使いやすさ向上のための、リン酸緩衝生理食塩水希釈剤の使用を含む、再構成手順の構築
Lymphoseekリガンド薬品製剤は最終pHが約3であり、非経口薬に推奨されるpH(Stranz, M. and Kastango, E. S. (2002) Int. J. Pharm. Compound. 6(3), 216-220)よりも低いため、99mTc過テクネチウム酸を用いた再構成後に、より痛みが少なく害の少ないpH(例えばpH5〜9)へとpHを中和する希釈剤を使用することに決定した。0.9%塩化ナトリウムまたは等張生理食塩水を用いてモリブデン−99ジェネレータから99mTc過テクネチウム酸ナトリウムを溶出させる。輸液看護学会(Infusion Nursing Society)の推奨を満たして1mLの99mTc過テクネチウム酸ナトリウムで再構成した後に500mOsm\L未満になるようにLymphoseekリガンド薬品を処方する。ヒトの非経口薬との使用に適した希釈剤としてグリア・ラボラトリーズ社(Greer Laboratories)の注射用緩衝生理食塩水を同定した。この希釈剤の配合は、0.107%のリン酸ナトリウム(七水和物)、0.036%のリン酸カリウム(望ましくはUSP−NF、米国薬局方−国民医薬品集)、0.5%の塩化ナトリウム、および0.4%のフェノールである。凍結乾燥させたLymphoseekリガンド薬品のバイアルを10〜50mCiの99mTc過テクネチウム酸ナトリウム0.7ccを用いて周囲室温で少なくとも10分間再構成し、断続的に混合し、その後、0.3ccの注射用緩衝生理食塩水で希釈することが推奨される。Lymphoseek(登録商標)リガンド薬品は、再構成後少なくとも12時間安定性を有するが、再構成された薬品は6時間以内の投与が推奨される(データ示さず)。したがって、中和された99mTc標識Lymphoseekリガンド薬品は内皮注射で患者に十分に耐えられると考えられる。
【0037】
種々の実施形態を参照してプロセス、組成物、およびキットを説明したが、本開示の範囲および本質から逸脱することなく、種々の変更および要素の同等物による代替が可能であると当業者には理解されよう。更に、本開示の本質的範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本開示の教示に適応させるために多くの改変が可能である。したがって、本開示は、開示されている特定の実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲に含まれる全ての実施形態を含むことが意図される。本願中では、特に断りのない限り、米国の測定系を使用している。また、本明細書中で参照した全ての引用文献を明示的に参照により本明細書に援用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)−デキストランをテクネチウム−99で放射標識するための組成物であって、
(a)0.50mg/バイアル以下の濃度のDTPA−デキストラン、
(b)2%(w/v)以下の濃度の非還元性二糖の群から選択される糖、
(c)濃度が約0.5mg/バイアルである、非スルフヒドリル酸化防止剤、
(d)第一スズ塩の二水和物形態の濃度が75マイクログラム/バイアル以下である、第一スズ塩、
(e)約0.5mg/バイアル以下の濃度のpHバッファーの群から選択される、pHバッファー、および
(f)不活性ガスで脱ガスおよび脱気された注射用蒸留水(WFI)
を含んでなる、組成物。
【請求項2】
前記DTPA−デキストランが、複数のDTPA基を含み、該DTPA基が約2:1〜12:1のモル範囲でデキストランに接合されてなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記DTPA−デキストランが、平均分子量が約5,000〜20,000ダルトンのデキストランを含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記DTPA−デキストランが、DTPA−マンノシル−デキストランであり、該DTPA−マンノシル−デキストランが、接合されたマンノース基をDTPA−デキストランに対して約2:1〜12:1のモル比の範囲で含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記非還元性二糖が、α,α−トレハロース二水和物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記非スルフヒドリル酸化防止剤が、L(+)−アスコルビン酸のナトリウム塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記第一スズ塩が、塩化第一スズ二水和物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記pHバッファーおよびトランスキレート剤が、グリシンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記脱気されたWFIに用いられる前記不活性ガスが、窒素である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
長期保存のためにDTPA−デキストランのコールドキットを安定化する方法であって、
(a)目標体積の約90%の脱ガスおよび脱気された注射用蒸留水を含む容器に、
(i)2%(w/v)以下の濃度の非還元性二糖の群から選択される糖、
(ii)約0.5mg/バイアル以下の濃度のpHバッファーの群から選択されるpHバッファー
を含んでなる水性組成物を添加し、
(b)濃度が約0.5mg/バイアルの非スルフヒドリル酸化防止剤を添加し、
(c)不活性ガスの散布を維持しながら、6Nの塩酸を用いて溶液のpHを目標pHである3.2±0.2に調整し、
(d)第一スズ塩の二水和物の形態の濃度が75マイクログラム/バイアル以下の第一スズ塩を添加し、
(e)0.50mg/バイアル以下の濃度のDTPA−デキストランを添加し、
(f)不活性ガスの散布を維持しながら、6Nの塩酸を用いて溶液のpHを目標pHである3.2±0.2に調整し、
(g)脱ガスおよび脱気された注射用蒸留水を用いて製剤の体積を目標体積の100%に調整し、
(h)0.22ミクロンのフィルターを用いて前記水性組成物をろ過し、1.0mL±10%の前記水性組成物をガラス製バイアルに充填し、前記バイアルの首に栓を置き、
(i)工程aにおいて、凍結乾燥により、生成物の水分の大部分を除去し、残留水分を約1%未満の水分量にまで低下させ、
(j)工程bにおいて、前記バイアルに栓をする前に、前記凍結乾燥生成物に約11.5p.s.i.まで不活性ガスをバックフィルし、
(k)工程cにおいて、前記凍結乾燥生成物バイアルをアルミニウムシールで圧着し、
(l)工程dにおいて、前記圧着シールした凍結乾燥生成物バイアルを2〜8℃または25℃で保存すること
を含んでなる、方法。
【請求項11】
前記非還元性二糖が、α,α−トレハロース二水和物である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記pHバッファー兼トランスキレート剤が、グリシンである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記非スルフヒドリル酸化防止剤が、L(+)−アスコルビン酸のナトリウム塩である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第一スズ塩が、塩化第一スズ二水和物である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記DTPA−デキストランが、複数のDTPA基を含み、該DTPA基が、約2:1〜12:1のモル比でデキストランに接合されてなる、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記DTPA−デキストランが、平均分子量が約5,000〜約20,000ダルトンのデキストランを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記DTPA−マンノシル−デキストランが、接合されたマンノース基をDTPA−デキストランに対して約2:1〜12:1のモル比の範囲で含んでなる、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
診断用の放射性医薬品として使用するために99mTc過テクネチウム酸ナトリウム溶液および希釈剤を用いてDTPA−デキストランコールドキットを放射標識し、患者の快適さのために最終溶液pHを調整する方法であって、
(a)水性過テクネチウム酸ナトリウム(Tc99m)組成物であって、
(i)体積0.7mL中、1mmolのDTPA−デキストラン当たり約100キュリーを超える過テクネチウム酸ナトリウム(Tc99m)、
(ii)最終体積1.0mL中の用量0.2mL中、Tc99m線量範囲約0.3〜5.0ミリキュリーのTc99mの許容
を含んでなる水性過テクネチウム酸ナトリウム(Tc99m)組成物を添加し、
(b)水性の緩衝生理食塩水希釈剤組成物であって、
(i)0.5%(w/v)のUSPの塩化ナトリウム、
(ii)0.107%のリン酸ナトリウム七水和物、
(iii)0.036%のリン酸カリウム、
(iv)0.4%のフェノール、
(v)最終体積までの十分な量(q.s.)の注射用蒸留水(wfi)の添加、および
(vi)必要に応じてphを約7.0に調整するために濃水酸化ナトリウムまたは塩酸の添加
を含んでなる水性の緩衝生理食塩水希釈剤組成物を0.3mlの体積で添加すること
を含んでなる、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−516328(P2012−516328A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−547973(P2011−547973)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/000222
【国際公開番号】WO2010/087959
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(594012483)ネオプローブ コーポレイション (1)
【氏名又は名称原語表記】NEOPROBE CORPORATION
【Fターム(参考)】