説明

ジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体、それらの調製プロセスおよび使用

一般式[Rh(ジエン)(HO)]Xのジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体であって、式中、ジエンは環状ジエンであり、Xは配位していないアニオンである。本発明の目的は、ジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体を調製するための新規のプロセスによって達成され、このプロセスは、ロジウム(I)−オレフィン化合物を、水性溶媒混合物中の銀塩と反応させる工程を包含し、この銀塩が、反応混合物に固体として添加されずに、溶液中で調製され、この形状で添加されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体、それらを調製するためのプロセス、ならびに、それらの触媒反応における使用および異種触媒を調製するための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的に生産される化学物質の80%以上は、触媒プロセスの助けを借りて生産される。触媒プロセスは、概して、対応する化学量論的な有機反応より経済的であり、かつ環境に優しい。
【0003】
同種触媒として金属化合物を使用する同種触媒プロセスにおいて、この触媒の広範な適用は、広範な可能なリガンド系を必要とする。従って、広範なリガンド系のうちからの最適な選択は、同種触媒プロセスにおける高い収率および選択性を達成することが必要であり、それと同時に、広く使用可能である前駆金属化合物に対する必要もまた高まる。従って、この触媒系の連続的な改善およびそれらを調製するためのプロセスに対する必要性は、明確である。
【0004】
同種触媒プロセスおよび先行技術において記載される反応の大部分は、不飽和なC−C、C−O、C−SおよびC−N結合の、対称性の水素添加反応または非対称性の水素添加反応に関する。工業的に大いに注目される、このような反応のための前駆金属化合物が、例えば、モノマーおよびポリマーの、ルテニウム(II)錯体あるいは単核または二核のロジウム(I)−オレフィン錯体によって提供される。
【0005】
ロジウム(I)−オレフィン錯体は、例えば、対称性の水素添加反応または非対称性の水素添加反応、ヒドロホルミル化、ヒドロシリル化およびカップリング反応における触媒として広範に使用される。多数のロジウム(I)−オレフィン錯体は、例えば、非特許文献1に記載されるように、当該分野において公知である。これら公知の錯体の全てが、ロジウムに配位し、そして金属をその各々の酸化状態において安定させる、オレフィン単位を有する。
【0006】
このような錯体中に存在する代表的なオレフィンは、例えば、1,5−シクロオクタジエン(COD)、1,3−シクロオクタジエン、ノルボルナジエン(NBD)、シクロオクタトリエン、ブタジエン、種々のアルキル化ブタジエン誘導体および/または置換ブタジエン誘導体、ならびにエチレンである。最も頻繁に使用されるジエンの1つは、1,5−シクロオクタジエン(COD)である。
【0007】
上記の錯体中のロジウムは、常に形式的な酸化状態+1を有するので、アニオン性の対イオンは、常に必然的に存在している。これらのアニオンのうち、ロジウムに配位しているアニオン(例えば、ハライド、シリルまたはアルコキシアニオン、酢酸塩またはスルホン酸塩)と、配位していないアニオン(例えば、PF、BF、B(Cおよび他のホウ酸塩誘導体ならびに種々のスルホン酸塩、硝酸塩および過塩素酸塩)との間が区別され得る。
【0008】
純粋にオレフィン性に配位された錯体(すなわち、オレフィンまたは対イオンのみがロジウムに配位している錯体)は別として、オレフィンおよびさらなるリガンドの両方がロジウムに配位している混合型錯体もまた公知である。これらのさらなるリガンドは、例えば、ホスフィンまたは亜リン酸リガンド、アミン、アルサン(arsane)あるいは配位している有機溶媒であり得る。
【0009】
この型の種々の混合型錯体が、先行技術において記載されている。例えば、上記ロジウムがまた、ジエン(通常は、CODまたはNBD)またはホスフィンに加えて、有機溶媒としてのメタノール、エタノール、アセトンまたはアセトニトリルによって二重に配位される錯体(例えば、非特許文献2を参照)。先行技術において記載されるこのような錯体は、一般式[Rh(ジエン)L]Xまたは[Rh(キラルホスフィンリガンド)(L)]Xの一方によって表される組成物に対応し、上記式において、ジエンは1,5−シクロオクタジエン(COD)またはノルボルナジエン(NBD)であり、Lはアセトン、アセトニトリル、メタノールまたはエタノールであり、そしてXはBFおよびCFSOから選択されるアニオンである。
【0010】
先行技術において記載される化合物のいくつかは、溶液中において、NMR分光法によって、中間体として(すなわち、インサイチュ調製物として(例えば、Lがメタノールまたはアセトンである場合については、非特許文献3)か、あるいは水素添加反応における触媒の前駆物質として、仮定または同定された。これらの錯体の単離および分離による特徴づけは、例えば、Lがアセトンである場合における、それらの推定される低い安定性に起因して、これまで成功しなかった。
【0011】
非特許文献4および非特許文献5は、[Rh(COD)]CFSOの使用を記載している。しかしながら、この化合物の構造および調製方法は未確定のままであり、また、先行技術からは推論され得ない。
【0012】
非特許文献6は、[Rh(COD)]CFSOの調製および使用を開示する。この記載される化合物の構造は明らかではない。得られた分析データは上で提案された構造と一致しない。式[Rh(COD)(L)]CFSO(ここでLは固体として溶媒に配位している)の錯体の単離は記載されない;この化合物は単に溶液中で仮定される。
【0013】
非特許文献7において、Koelleらは、種々のロジウム(I)のオレフィン−アコ錯体の調製を記載する。具体的には、[Rh(COD)(HO)(p−トルエンスルホン酸塩)]の調製、単離および使用が開示される。さらに、Koelleらは、一般式[Rh(ジエン)L]Xの一連の錯体のインサイチュでの調製を記載し、ここで、ジエンは1,5−シクロオクタジエン(COD)またはノルボルナジエン(NBD)であり、Lはアセトンまたは水であり、そしてXはp−CH(C)SO(トシル化、OTs)、CFSOまたはBFのうちから選択されるアニオンである。これらの化合物は、固体銀塩を用いて、水とエタノールとの溶媒混合物において調製され、より詳細には記載されない。言及される化合物のいくつかは、中間体として仮定されるか、または、NMR分光法研究に基づき、溶液中でのみ仮定された。対照的に、このビスアコ錯体の実験的な確認は首尾よく実施されなかった。モノオレフィン(例えば、エチレンまたは開鎖1,3−ジエン(例えば、イソプレン))と対応する錯体を調製することだけが可能であった。
【0014】
Koelleらによると、式[Rh(COD)(HO)]Xの錯体を単離しようとする試みは失敗に終わり、そしてアニオンXがOTsの場合において、錯体[Rh(COD)(HO)OTs]、すなわちモノアコ錯体を誘導した。この錯体の構造は、X線構造分析によって確認され、決定された構造は以下の図式に示される:
【0015】
【化1】


【非特許文献1】Houben−Weyl、「Methoden der organischen Chemie」、第4版、Vol.XIII/9b、「Metallorganische Verbindungen」
【非特許文献2】Osbornら、Angew.Chemie,1987,99,p.1208−1209
【非特許文献3】Schrockら、J.Am.Chem.Soc.,1971,93,p.2397−2407
【非特許文献4】Bergbreiterら、Tetrahedron Letters,1997,38(21),p.3703−3706
【非特許文献5】Bergbreiterら、Chemical Industries,75(Catalysis of Organic Reactions)(Dekker),1998,p.403−414
【非特許文献6】Harryら、Inorganica Chimica Acta,1985,97,p.143−150
【非特許文献7】Koelle、Chem.Ber.,1995,128,p.911−917
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、新しいジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の目的は、ジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体を調製するための新規のプロセスによって達成され、このプロセスは、ロジウム(I)−オレフィン化合物を、水性溶媒混合物中の銀塩と反応させる工程を包含し、この銀塩が、反応混合物に固体として添加されずに、溶液中で調製され、この形状で添加されることを特徴とする。さらに、本発明は、一般式(I):
[Rh(ジエン)(HO)]X (1)
のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体の調製を提供し、ここで、ジエンは環状ジエンであり、Xは配位していないアニオンである。本発明はまた、触媒反応における、本発明のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体の使用を提供する。
【0018】
一般式(1)における環状ジエンのように、錯体中の中心金属原子に配位することができる任意の環状ジエンを使用することが可能である。本発明によると、使用される環状ジエンは、例えば、5〜12個の炭素原子および2つのC−C二重結合を環中に有する環状炭化水素であり得る。本発明によると、この2つのC−C二重結合が共役していない環状ジエンが好ましい。本発明に従って使用され得る環状ジエンの例としては、1,4−シクロヘキサジエン、1,4−シクロヘプタジエン、1,5−シクロオクタジエン(COD)、ノルボルナジエン(NBD)および種々のカンフェン誘導体が挙げられ得る。本発明の目的に対し特に好ましい環状ジエンは、1,5−シクロオクタジエン(COD)およびノルボルナジエン(NBD)である。1,5−シクロオクタジエン(COD)が特に好ましい。
【0019】
式(1)における基Xは、配位していないアニオンである。本発明によると、Xは、金属錯体中(特にロジウム化合物中、特にロジウム(I)化合物中が好ましい)に配位していない形状で存在することができるアニオンとして当該分野で公知の任意のアニオンであり得る。本発明の目的のために使用され得る配位していないアニオンの例としては、CFSO、BF、B(C、B(C(CF、B(C、PF、SbFおよびClOが挙げられ得る。テトラフルオロホウ酸塩(BF)およびトリフルオロメチルスルホン酸塩(トリフレート、CFSO)が、特に好ましい。
【0020】
本発明の特に好ましい実施形態において、式(1)中の上記ジエンは、1,5−シクロオクタジエン(COD)であり、かつ上記アニオンはBFである。この式[Rh(COD)(HO)]BFの錯体は、1,5−シクロオクタジエンビスアコロジウム(I)テトラフルオロボレートの名称であり、以下の構造を有する:
【0021】
【化2】


【0022】
さらに、本発明の特に好ましい実施形態において、式(1)中の上記ジエンは、1,5−シクロオクタジエン(COD)であり、かつ上記アニオンはCFSOである。この式[Rh(COD)(HO)]CFSOの錯体は、1,5−シクロオクタジエンビスアコロジウム(I)トリフルオロメチルスルホネートまたはトリフレートの名称であり、以下の構造を有する:
【0023】
【化3】


【0024】
記載される新規のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体は、溶液中か、任意の溶媒(例えば、ハロゲン含有溶媒、水、アルコールおよびエーテル)における懸濁液中のいずれかで調製され得、好ましくは水、メタノールもしくはエタノールのようなアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサンおよびジエチルエーテルのようなエーテル、またはアセトン中の溶液として、あるいはそれらの混合物中の溶液としてか、または単離物質として調製され得る。本発明のこのジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体は、好ましくは固体として調製される。
【0025】
アニオン性リガンドを金属錯体中に導入するための、当業者に公知の1つの方法は、金属交換(transmetallation)反応である。これは、所望の錯体のカチオンおよび置換可能なアニオンで作製された前駆化合物が、この錯体に導入されるべきアニオンの適切な金属塩と反応するという原理に基づく。従来、銀塩は、適切な銀塩を通常は固体として反応混合物に添加することによって、種々のアニオンを金属錯体中に導入するための金属塩として特に有用であることが見出されている。
【0026】
本発明のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体を調製するための本発明のプロセスは、金属交換試薬として働く適切な銀塩が、反応混合物に固体として添加されずに、溶液中で調製され、この形状で添加されることを特徴とする。本発明に従う使用のための銀塩溶液を調製するために、銀含有出発化合物、特に好ましくは酸化銀(AgO)のような塩基性銀塩を、出発化合物がAgOの場合において水を除き、そして所望の銀塩の溶液を得るために、適切な溶媒中の適切な酸と反応することが好ましい。適切な酸として、ジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体中に導入されるべき、配位していないアニオンに対応する酸(例えば、AgCFSOの溶液を調製するためのトリフルオロメタンスルホン酸)が選択される。
【0027】
AgOを適切な酸と反応することによる銀塩の調製は、好ましくは水性媒体中において実施される。本発明の目的のための水性媒体は、単独溶媒としての水、および水が混合物の主要な成分であり、そして1つ以上の水混和性溶媒と混合される全ての溶媒混合物を包含する。このような水混和性溶媒の例は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールおよびtert−ブタノールのようなアルコール、テトラヒドロフランまたはジオキサンのようなエーテル、およびアセトンである。さらに、本発明に従う使用のための水性媒体は、溶媒混合物が同種の相を形成する限り、水および少なくとも1つの水と混和性ではないさらなる溶媒と共に水混和性溶媒を含み得る。本発明に従って使用され得るこのような水混和性溶媒の例は、ジエチルエーテルおよびメチルtert−ブチルエーテルである。本発明に従う銀塩溶液を調製するために溶媒としての水を使用することが、特に好ましい。
【0028】
各々の酸は、好ましくは、上記銀塩溶液を調製するために、酸化銀に対して過剰で使用される。この酸の過剰は、0.5モル当量までであり得、そして好ましくは、0.01モル当量〜0.15モル当量の範囲である。個々の場合における酸化銀に対する特に好ましい酸の過剰は、使用される酸の型に依存し得;特に、銀塩は添加が完了した後に、完全に溶解しているべきである。本発明に従う方法によってAgBF溶液を調製するために、酸HBFは、特に好ましくは、酸化銀に対して約0.03モル当量の過剰で使用され、一方、本発明に従うAgCFSO溶液の調製について、特に好ましいCFSOHの過剰は、約0.07モル当量である。
【0029】
本発明のプロセスにおける出発物質として使用され得るロジウム(I)−オレフィン化合物は、原則としては、金属交換反応において本発明に従う銀塩溶液と反応して、本発明のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体を形成し得る、全てのロジウム(I)−オレフィン化合物である。本発明の目的のために好ましいロジウム(I)−オレフィン化合物として、一般式[Rh(ジエン)Y]の錯体(ここで、YはCl、BrまたはIであり、かつジエンは上で定義した通りである)を使用することが可能である。金属交換反応のための出発化合物として働き得る特に好ましいロジウム(I)−オレフィン化合物は、二量体のロジウム錯体[Rh(COD)Cl]である。
【0030】
ロジウム(I)−オレフィン化合物と銀塩の反応が本発明のプロセスによってその中で実行され得る水性溶媒混合物として、水が構成要素として存在する全ての溶媒混合物が使用可能である。本発明に従って使用され得る溶媒混合物のさらなる構成要素として、全ての水混和性溶媒が使用可能である。この水性溶媒混合物は、好ましくは、10体積%までの少なくとも1種のアルコール性溶媒と共に水を含む。好ましいアルコール性溶媒としては、特に、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールおよびtert−ブタノールを本発明に従って使用することが可能である。
【0031】
本発明のプロセスにおいて、水性溶媒混合物中の適切な銀塩とのロジウム(I)−オレフィン化合物の反応は、好ましくは、あらかじめ調製された銀塩溶液を、本発明に従う水性溶媒混合物中のロジウム(I)−オレフィン化合物の溶液または懸濁液に添加することによって実施される。水性溶媒混合物中のロジウム(I)−オレフィン化合物の溶液または懸濁液への銀塩溶液の添加において、銀塩溶液の総量は全てが一度に添加され得るか、あるいは銀塩溶液は比較的長時間にわたって(例えば、1時間まで)滴下され得る。
【0032】
全ての銀塩溶液が添加された後、この反応混合物は適切な時間攪拌され、固体として沈殿している金属交換反応の副産物として形成された銀塩が生じる。所望のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体を単離するために、この沈殿した固体は引き続いて濾過して除かれ、適切な溶媒、好ましくは水で、必要な回数洗浄される。この溶媒は、所望のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体を固体として単離するために、生じた濾液から当該分野で公知の様式(例えば、ロータリーエバポレーターでの蒸発によって)で除去され得る。
【0033】
銀塩溶液の調製およびロジウム(I)−オレフィン化合物との反応の両方において、作業温度は、本発明に従って、生じる本発明のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体が分解しないように選択されるべきである。この理由のために、本発明のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体が溶液中に存在する限り、作業温度としては好ましくは40℃の温度を超えないべきである。これらの反応は、特に好ましくは室温で実施される。
【0034】
本発明のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体は、触媒反応、すなわち同種触媒作用および異種触媒作用の両方において、使用され得る。本発明のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体は、二重結合(例えば、C−C、C−O、C−NまたはN−Nの二重結合)の非対称性の触媒水素添加または対称性の触媒水素添加における使用のために特に適切である。適用の別の分野は、触媒ヒドロホルミル化反応およびヒドロシリル化を含む。
【0035】
さらに、本発明のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体は、他の触媒活性のある種に対する前駆物質として使用され得る。本発明のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体は、キラル非選択性の触媒活性のある種、ジアステレオ選択性の触媒活性のある種、またはエナンチオ選択性の触媒活性のある種を調製するために使用され得る。このような触媒活性のある種を生成するために、本発明のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体は、リガンド交換によって種々のアキラルリガンドおよびキラルリガンド(例えば、トリフェニルホスフィンリガンド、フェロセニルホスフィンリガンド、アルキルホスフィンリガンドまたはキラルホスフィンリガンド)と反応し得る。
【0036】
本発明のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体はまた、可溶性有機金属錯体を固定するために、当該分野で公知のプロセスのいずれかによって、異種触媒を調製するために使用され得る。特に好ましい実施形態において、本発明に従うジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体は、貴金属触媒に支持または固定されて使用され得る。
【実施例】
【0037】
(実施例1:[Rh(COD)(HO)]BFの調製)
4.63gのHBF水溶液(約50%強度、26.36mmolのHBF、AgOに対する過剰:0.03モル当量)および10gの蒸留水を、ガラスビーカー中に秤量する。さらに、2.96gのAgO(12.77mmol)を、紙箱(paper boat)上に秤量する。このAgOを、紙箱からHBF水溶液に1分間にわたって注意深く添加し、その後この混合物を強く攪拌する。AgBF溶液を得る。
【0038】
6.0gの[Rh(COD)Cl](41%のRh、2.46gのRh、23.9mmol)を、第2のガラスビーカー中に秤量し、10gの蒸留水および0.3gのエタノール(生じる溶液全体の約1.5体積%に相当する)中に、7分間の攪拌(RCT Basic、設定4〜5)によって懸濁する。第1の工程において調製したAgBF溶液全体を、攪拌しながら生じた懸濁液に注ぎ、沈殿物の形成を生じる。得られた淡黄色の懸濁液を、約30分間攪拌する。この沈殿物を、引き続いて濾過して除き、約5mlの蒸留水で2回洗浄する。この得られた溶液を、最後に、ロータリーエバポレーターにおいて減圧下、40℃で蒸発させる。7.96gの表題生成物を単離する(30.3%のRh、2.41gのRh、23.4mmol、収率:Rhに基づいて98%)。
【0039】
【化4】

Rhの百分率(ICP(誘導結合プラズマ)により測定):
理論上の百分率:30.82
実際の百分率:30.30
元素分析:
Cの百分率、理論値 28.77
Cの百分率、実測値 28.56
Hの百分率、理論値 4.83
Hの百分率、実測値 4.98。
【0040】
この錯体の構造を、X線結晶構造分析によって確認した。
【0041】
(実施例2:[Rh(COD)(HO)]CFSOの調製)
4.92gのAgO(21.26mmol)および10gの蒸留水を、ガラスビーカー中に秤量し、そして4.1mlのトリフルオロメタンスルホン酸(純度約98%、45.40mmol、AgOに対する過剰:0.07モル当量)と注意深く混合する。強く攪拌しながら、さらなる10gの蒸留水を添加する。AgCFSO溶液を得る。
【0042】
9.94gの[Rh(COD)Cl](41%のRh、4.08gのRh、39.6mmol)を、第2のガラスビーカー中に秤量し、10gの蒸留水および0.82mlのエタノール(生じる溶液全体の約0.5体積%に相当する)および12.7mlのメタノール(生じる溶液全体の約9.5体積%に相当する)中に、7分間の攪拌(RCT Basic、設定4〜5)によって懸濁する。第1の工程において調製したAgCFSO溶液全体を、攪拌しながら、30分間にわたって生じた懸濁液に注ぎ、そしてこのAgCFSO溶液を、各回につき5gの蒸留水で2回リンスする。沈殿物が形成する。得られた淡黄色の懸濁液を、約30分間攪拌する。この沈殿物を、引き続いて濾過して除き、約5mlの蒸留水で6回洗浄する。この得られた溶液を、最後に、ロータリーエバポレーターにおいて減圧下、40℃で蒸発させる。15.3gの表題生成物を橙色の固体として単離する(25.3%のRh、3.87gのRh、37.60mmol、収率:Rhに基づいて95%)。
【0043】
【化5】

Rhの百分率(ICP(誘導結合プラズマ)により測定):
理論上の百分率:25.97
実際の百分率:25.30
元素分析:
Cの百分率、理論値 27.28
Cの百分率、実測値 26.95
Hの百分率、理論値 4.07
Hの百分率、実測値 4.3
Sの百分率、理論値 8.09
Sの百分率、実測値 8.33。
【0044】
この錯体の構造を、X線結晶構造分析によって確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
[Rh(ジエン)(HO)]X (1)
のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体であって、ここで、ジエンは環状ジエンであり、Xは配位していないアニオンである、錯体。
【請求項2】
ジエンは、シクロオクタジエン(COD)またはノルボルナジエン(NBD)である、請求項1に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体。
【請求項3】
Xは、BFおよびCFSOから選択される配位していないアニオンである、請求項1または2に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体。
【請求項4】
1,5−シクロオクタジエンビスアコ−ロジウム(I)テトラフルオロボレートの名称を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体。
【請求項5】
1,5−シクロオクタジエンビスアコ−ロジウム(I)トリフルオロメチルスルホネートの名称を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体。
【請求項6】
前記錯体が固体の形状である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体を調製するためのプロセスであって、該プロセスは、ロジウム(I)−オレフィン化合物を、水性溶媒混合物中の銀塩と反応させる工程を包含し、該銀塩が、反応混合物に固体として添加されずに、溶液中で調製され、この形状で添加されることを特徴とする、プロセス。
【請求項8】
請求項7に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体を調製するためのプロセスであって、ここで、前記銀塩が、酸化銀(AgO)を、該ジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体の配位していないアニオンに対応する酸と反応させることによって溶液中で調製される、プロセス。
【請求項9】
請求項8に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体を調製するためのプロセスであって、ここで、前記酸が、前記酸化銀に対して0.5モル当量までの過剰で使用される、プロセス。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体を調製するためのプロセスであって、ここで、前記銀塩の調製が、水性媒体中で実施される、プロセス。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1項に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体を調製するためのプロセスであって、ここで、前記ロジウム(I)−オレフィン化合物が[Rh(COD)Cl]である、プロセス。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体を調製するためのプロセスであって、ここで、前記水性溶媒混合物が、10体積%までの少なくとも1種のアルコール性溶媒と共に水を含む、プロセス。
【請求項13】
請求項12に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体を調製するためのプロセスであって、ここで、前記アルコール性溶媒が、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールおよびtert−ブタノールから選択される、プロセス。
【請求項14】
触媒反応における、請求項1〜6のいずれか1項に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体の使用。
【請求項15】
異種触媒を調製するための、請求項1〜6のいずれか1項に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体の使用。
【請求項16】
キラル非選択性の触媒活性のある種、ジアステレオ選択性の触媒活性のある種、またはエナンチオ選択性の触媒活性のある種を調製するための、請求項1〜6のいずれか1項に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体の使用。
【請求項17】
前記ジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体が、リガンド交換によってアキラルリガンドおよび/またはキラルリガンドと反応する、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記アキラルリガンドおよび/またはキラルリガンドが、トリフェニルホスフィン、フェロセニルホスフィン、アルキルホスフィンまたはキラルホスフィンから選択される、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のジエン−ビス−アコ−ロジウム(I)錯体を、リガンド交換しながらアキラルリガンドおよび/またはキラルリガンドと反応させることによって得られる、キラル非選択性の触媒活性のある種、ジアステレオ選択性の触媒活性のある種、またはエナンチオ選択性の触媒活性のある種。
【請求項20】
請求項19に記載のキラル非選択性の触媒活性のある種、ジアステレオ選択性の触媒活性のある種、またはエナンチオ選択性の触媒活性のある種であって、ここで、前記アキラルリガンドおよび/またはキラルリガンドが、トリフェニルホスフィン、フェロセニルホスフィン、アルキルホスフィンまたはキラルホスフィンから選択される、触媒活性のある種。

【公表番号】特表2007−504104(P2007−504104A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524271(P2006−524271)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008964
【国際公開番号】WO2005/021153
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4、D−63457 Hanau、Germany
【Fターム(参考)】