説明

ジオクチルソジウムスルホサクシネート配合固形製剤

【課題】ビサコジル及びジオクチルソジウムスルホサクシネートを配合した固形製剤、特に、錠剤を製造するに際し、製剤全体としての収率を確保し、ジオクチルソジウムスルホサクシネートの含量低下を防止した製造方法を提供する。
【解決手段】ジオクチルソジウムスルホサクシネートを溶媒に溶解させ、15〜45質量%のジオクチルソジウムスルホサクシネート溶液を調製し、該溶液を造粒溶媒として、ジオクチルソジウムスルホサクシネートの1質量部に対して0.3質量部のビサコジルを配合した粉体に、該粉体の1kgあたり毎分700g以上の割合で添加して攪拌造粒することを特徴とするビサコジル及びジオクチルソジウムスルホサクシネート配合固形製剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形製剤の分野に関し、詳しくは、有効成分としてビサコジル及びジオクチルソジウムスルホサクシネートを配合した固形製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジオクチルソジウムスルホサクシネート(以下、適宜に「DSS」と略記する。)は、瀉下作用を有する有効成分として汎用されているが、ロウ状の物質であるため、そのまま固形製剤に配合すると含量の均一性を担保することが難しい。
【0003】
そこで、DSSを適当な溶媒に溶解させ、その溶液を粉体に噴霧して造粒する方法が一般的には採られている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、ビサコジルは大腸粘膜に直接作用し、腸の蠕動運動を促進して排便を促す瀉下成分として汎用されているが、水に極めて溶け難く、固形製剤として調製する際には、粉体に配合され、溶媒等を使って造粒される。
【0005】
ここで、DSSとビサコジルはともに瀉下作用を有する有効成分であるが、その作用機序が相違するため、腸の蠕動運動が低下しており、便の状態が硬い症状を呈する便秘症状の改善に極めて有効である。
【0006】
そして、DSSとビサコジルの物性に鑑み、ビサコジルを賦形剤等とともに粉体に配合し、DSSを溶解させた溶液を造粒溶媒として湿式造粒し、DSS及びビサコジルを配合した固形製剤として提供される(特許文献2参照)。
【0007】
ところで、湿式造粒の方法としては、撹拌造粒、流動層造粒、練合造粒が代表的な造粒法として知られている。このうち流動層造粒では、造粒溶媒に有効成分を溶解させた場合、流動中の粉体にこの有効成分が付着しないと、それは微粒子として筒体(造粒機)内を流動し、その一部は筒体上部に設置された布体(バグフィルター)の目を通過しロス、すなわち収率の低下を招来する可能性がある。また、練合造粒は、粉体を練り込むため、得られる顆粒は圧縮成形性が低下し、打錠用の顆粒を調製するには他の造粒法の方が好ましい。
【0008】
よって、DSS及びビサコジルを有効成分として配合した固形製剤、特に錠剤の製造方法としては、ビサコジルを配合した粉体に、DSSを溶解させた造粒溶媒を添加して攪拌造粒を行い、得られた顆粒に滑沢剤等を添加・混合して、圧縮成形(打錠)するという方法が採択される(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−210731号
【特許文献2】特開2005−255595号
【特許文献3】特開2004−123731号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、ビサコジルを5.2質量%配合した粉体に、粉体1kgあたり毎分105gの割合でDSSの34質量%溶液(水:エタノール=6:10)を造粒溶媒として噴霧し、攪拌造粒を行ったところ、予期に反し、得られた造粒物の収率が低下し、造粒物中のDSSの含量も低下した。
【0011】
そこで、本発明は、有効成分としてビサコジル及びDSSを配合した固形製剤、特に、打錠用顆粒、引いては錠剤を製造するに際し、製剤全体としての収率を確保し、DSSの含量低下を防止した製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ビサコジルを5.2質量%配合した粉体に、DSSを15〜45質量%溶解させた溶液を噴霧せず、これをビサコジル配合粉体1kgあたり毎分700g以上の割合で一気に添加し、攪拌造粒することによって得られた造粒物については、全体としての収率低下がなく、造粒物中のDSSの含量も高いレベルで保持できることを見出した。
【0013】
かかる知見により得られた本発明の態様は、ジオクチルソジウムスルホサクシネートを溶媒に溶解させ、15〜45質量%以上のジオクチルソジウムスルホサクシネート溶液を調製し、該溶液を造粒溶媒として、ジオクチルソジウムスルホサクシネートの1質量部に対して0.3質量部のビサコジルを配合した粉体に、該粉体の1kgあたり毎分700g以上の割合で添加して攪拌造粒することを特徴とするビサコジル及びジオクチルソジウムスルホサクシネート配合固形製剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、有効成分としてビサコジル及びDSSを配合し、製剤全体として95質量%以上、DSSの含量としても95質量%以上が確保された固形製剤(造粒物・顆粒・錠剤)が製造可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
「ビサコジル」は水に極めて溶け難く、本発明においては、公知の添加剤とともに造粒前の粉体に配合される。なお、ビサコジルとともに配合可能な公知の添加剤としては、乳糖、デンプン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。粉体中のビサコジルの配合量は、DSSの1質量部に対して0.3質量部であり、造粒前の粉体に占める割合は、5.2質量%である。また、ビサコジルの有効投与量は、1日あたり3〜15mgである。
【0016】
「ジオクチルソジウムスルホサクシネート(DSS)」は水に溶けやすいため、これは溶媒に溶解させて、造粒溶媒の方に配合される。この際、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース等の公知の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で溶解又は懸濁させてもよい。該溶液中のDSSの濃度は15〜45質量%である。15質量%未満では、添加する溶媒量が増えるため、造粒後の状態がスラリー状となるため好ましくなく、45質量%以上では、粉体に対する溶媒量が不十分であり好ましくない。また、DSSの有効投与量は、1日あたり24〜200mgである。
【0017】
「溶媒」はDSSを溶解できるものであれば特に限定はないが、水以外では残留性についての懸念がないエタノールが好ましい。もっとも、水単独では造粒後の湿体の乾燥に時間を要し、エタノール単独では、作業中に引火・爆発等の危険があるので、水とエタノールの混合液が最も好ましく、さらに、DSSの溶解度の点から、DSSと同量以上のエタノールを含有する水とエタノールの混合溶媒が好ましい。
【0018】
そして、DSSを配合した「造粒溶媒」の量は、ビサコジルを配合した造粒前粉体の1質量部に対して0.5〜1質量部が好ましい。1質量部を超えると溶媒過多となり、濡れた粉体が造粒機の内壁面へ付着し、収率の低下を招来する等ハンドリングに支障を生じるので好ましくない。0.5質量部以下では、粉体に対する溶媒量が不十分であり好ましくない。
【0019】
そして、本発明の最大の特徴として、造粒溶媒の添加速度(量)は、ビサコジルを配合した粉体の1kgあたり毎分700g以上にする設定する必要がある。例えば、造粒溶媒を添加するのにスプレーガン等を用い、添加速度が毎分700gを下回ると、粉体が粒子を形成せず、造粒粉体の収率が低下し、DSSの含量も低下するので好ましくない。
【0020】
「攪拌造粒」とは、槽内に挿入された対象物質に加液あるいは結合剤を添加し、撹拌羽根を回転させることにより、せん断・転動・圧密作用などを与えて目的とする造粒物を得る造粒法である。これには攪拌混合造粒機(商品名:バーチカルグラニュレーター)等の造粒装置が用いられる。
【0021】
本発明の製造方法で得られたビサコジル及びDSSを配合した粉体(顆粒)は、必要に応じて滑沢剤等を添加・混合し、これを分包充填して、顆粒剤や散剤として提供したり、ゼラチン製のカプセルに充填してカプセル剤として提供することも可能である。しかしながら、練合造粒した場合に比して圧縮成形性の高い打錠用顆粒を得られることが本発明の特徴であることに鑑みれば、これを打錠用の顆粒とし、圧縮成形(打錠)して錠剤として提供することに最も意義がある。
【0022】
その際、ビサコジル及びDSSを配合した粉体(顆粒)には、必要に応じて、通常の医薬品製造に使用される添加剤を加えることもできるし、得られた錠剤にはフィルムコートやシュガーコートを施すこともできる。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。
【0024】
実施例1
ビサコジル2.5g、乳糖13.3g、ヒドロキシプロピルセルロース5.1g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース8.2g、軽質無水ケイ酸6.7gを混合して造粒前粉体を得た。DSS8.2gをエタノール10.2gと精製水5.78gの混液に溶解させ、これを造粒溶媒として造粒前粉体1kgあたり毎分721gで添加し、攪拌造粒機(バーチカルグラニュレーター、パウレック製)を用いて造粒した。その後流動層乾燥機で乾燥させ、得られた顆粒に後末で造粒乳糖5g、軽質無水ケイ酸0.75g、ステアリン酸マグネシウム0.25gを添加・混合し、打錠用顆粒を得た。得られた顆粒をロータリー式打錠機(バーゴ19、菊水製作所製)を用いて打錠し、錠径5.0mm、1錠質量50mgの錠剤を得た。
【0025】
比較例1
ビサコジル2.5g、乳糖13.3g、ヒドロキシプロピルセルロース5.1g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース8.2g、軽質無水ケイ酸6.7gを混合して造粒前粉体を得た。DSS8.2gをエタノール10.2gと精製水5.78gの混液に溶解させ、これを造粒溶媒として造粒前粉体1kgあたり毎分105gで添加し、攪拌造粒機(バーチカルグラニュレーター、パウレック製)を用いて造粒した。その後流動層乾燥機で乾燥させ、得られた顆粒に後末で造粒乳糖5g、軽質無水ケイ酸0.75g、ステアリン酸マグネシウム0.25gを添加・混合し、打錠用顆粒を得た。得られた顆粒をロータリー式打錠機を用いて打錠し、錠径5.0mm、1錠質量50mgの錠剤を得た。
【0026】
比較例2
ビサコジル2.5g、乳糖6.6g、ヒドロキシプロピルセルロース10g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース10g、軽質無水ケイ酸6.7gを混合して造粒前粉体を得た。DSS8.2gをエタノール10.2gと精製水5.78gの混液に溶解させ、これを造粒溶媒として造粒前粉体1kgあたり毎分103gで添加し、攪拌造粒機(バーチカルグラニュレーター、パウレック製)を用いて造粒した。その後流動層乾燥機で乾燥させ、得られた顆粒に後末で造粒乳糖5g、軽質無水ケイ酸0.75g、ステアリン酸マグネシウム0.25gを添加・混合し、打錠用顆粒を得た。得られた顆粒をロータリー式打錠機を用いて打錠し、錠径5.0mm、1錠質量50mgの錠剤を得た。
【0027】
試験例
実施例及び比較例で得られた錠剤について、平均粒子径及び収率を測定し、HPLC法によりDSSの含量を測定した。その結果を表1に示す。
【0028】
ここで、平均粒子径とは、質量比が50%にあたる粒子径をいう。具体的には、サンプリングした顆粒(例えば5g)を、ふるい分け測定器(ロボットシフター、セイシン企業製)を用い、30M(500μm)、42M(355μm)、60M(250μm)、83M(180μm)、100M(150μm)、140M(106μm)、200M(75μm)及び282M(53μm)の順に積み重ねた篩上に置き、一定時間(例えば、3分間)振動を与えて分級し、30M篩残、42M篩残、60M篩残、83M篩残、100M篩残、140M篩残、200M篩残、282M篩残及び282M通過分の各質量を測定する。各質量を全質量(5g)で除し、100を乗じて質量%で表される。
【0029】
また、収率とは、乾燥後に理論上得られる固体質量に対し、実際に得られた顆粒の質量を割合で表したものである。
【0030】
【表1】

【0031】
上表1より、比較例1では造粒後の収率及びDSSの含量が約92%であった。
【0032】
一般的に、原料の粉体粒子同士を結びつけるために加える結合剤を増量させることで造粒物の粒子径は大きくなるが、比較例2では収率が90%以下、DSSの含量が約92%であった。
【0033】
一方、造粒溶媒の添加速度を毎分721gとした実施例1では、造粒後の収率及びDSSの含量がともに95%以上となり、良好な錠剤が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、ビサコジル及びDSSを有効成分として配合した固形製剤の提供を通じて、医薬品産業の発展に寄与するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオクチルソジウムスルホサクシネートを溶媒に溶解させ、15〜45質量%のジオクチルソジウムスルホサクシネート溶液を調製し、該溶液を造粒溶媒として、ジオクチルソジウムスルホサクシネートの1質量部に対して0.3質量部のビサコジルを配合した粉体に、該粉体の1kgあたり毎分700g以上の割合で添加して攪拌造粒することを特徴とするビサコジル及びジオクチルソジウムスルホサクシネート配合固形製剤の製造方法。

【公開番号】特開2012−224619(P2012−224619A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−85089(P2012−85089)
【出願日】平成24年4月4日(2012.4.4)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】