説明

ジオール化合物の製造方法

【課題】 本発明は、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート等のポリマー原料、樹脂添加剤、医農薬中間体原料、各種溶剤等として有用な1,5−ペンタンジオールや1,6−ヘキサンジオール等のジオール化合物を、工業的に安価な原料を使用し、簡便な方法により、高い選択率で製造する方法に関する。
【解決手段】 本発明の課題は、イリジウムを含有する第一金属化合物とレニウム、モリブデン及びバナジウムからなる群より選択された1種以上の金属を含有する第二金属化合物を含んでからなる反応触媒、及びこの反応触媒の存在下、水素と一般式(1)
【化1】


(式中、Rは水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基を示し、Zは、メチレン(−CH−)基を有する置換基を示す。)
で示されるヒドロキシメチル基を含有する環状エーテル化合物とを反応させることを特徴とするジオール化合物の製造方法により解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業的に安価な原料を使用し、且つ簡便な操作により、高い反応選択性と良好な反応生産性で目的とするジオール化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに環状エーテル化合物を出発原料として、ジオール化合物を製造する方法については、例えば、ヒドロキシメチル基を有する環状エーテル化合物を水素化分解する方法等が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、及び非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-046417号公報
【特許文献2】特開2003-183200号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Organic Syntheses Col.Vol.3,693ページ(1955)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、特許文献1では、ロジウムを含有する触媒とレニウム、モリブデン及びタングステンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属元素を用い、環状エーテル化合物からジオール化合物を得る方法が報告されている。
しかしながら、この方法では非常に高価なロジウムを触媒として使用しているだけでなく、反応生産性の指標として表される単位反応容積量の時間あたりの生産量として算出される空時収率(Space Time Yield:STY)が低い反応であるため経済的に好適な方法とは言い難かった。
【0006】
また、非特許文献1では、銅−クロム触媒を使用し、テトラヒドロフルフリルアルコールの水素化分解により、1,5−ペンタンジオールが得られることが報告されている。
しかしながら、この方法では低反応選択性及び/又は低収率であるだけでなく、人体に対して有毒な含クロム触媒(銅−クロム触媒)の使用や、反応温度として250〜300℃という高温が必要である製造条件から、工業的にも経済的にも好適な方法とは言い難かった。
【0007】
一方、特許文献2では、白金又はルテニウムをアルミナなどに担持させた触媒を用いて、2,5−ジエチル−3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−2−メタノールの水素化分解により、2,5−ジエチル−1,6−ヘキサンジオールが得られることが報告されている。 しかしながら、この方法もまた、反応温度として200℃或いは240℃という高温が必要であることや、非常に高価な白金やルテニウムを触媒として使用している製造条件から、工業的にも経済的にも有利な方法とは言い難かった。また、このような高温の反応条件では、例えば、炭素―炭素結合解裂(Degradation反応)等の副反応が促進することが知られており、その結果、目的物の反応選択性や収率が大きく低下するという問題点も有していた。
【0008】
上記より、これまでのジオール化合物の製造方法には、有毒な触媒又は高価な触媒の使用や非常に高温下での反応といった製造上の制約がある上、さらに低い反応選択性や不十分な反応収率といった様々な反応上の問題も依然として残っており、現在もなお、これらの諸問題を解決した工業的に好適なジオール化合物の製造方法が望まれている。
【0009】
そこで、本発明の課題は、工業的にも安価な原料を使用して、従来よりも簡便な操作、且つ低温の反応条件下にて、ヒドロキシメチル基を有する環状エーテル化合物からジオール化合物を高い反応選択性で製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、イリジウムを金属元素として含有する第一金属化合物と、レニウム、モリブデン及びバナジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有する第二金属化合物とから調製された特定の反応触媒の存在下、特定の環状エーテル化合物と水素とを反応させることにより上記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記〔1〕〜〔16〕に示す、ジオール化合物の製造方法、及び本発明の反応に使用できる工業的に好適な反応触媒を提供するものである。
【0011】
〔1〕 イリジウムを金属元素として含有する第一金属化合物と、レニウム、モリブデン及びバナジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有する第二金属化合物とから調製された反応触媒存在下、下記一般式(1)で示されるヒドロキシメチル基を有する1種以上の環状エーテル化合物と水素とを反応させることを特徴とする、下記一般式(2)で示されるジオール化合物の製造方法。
【0012】
【化1】

【0013】
〔式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5の炭化水素基を示し、nは、メチレン(−CH−)基の個数を示し、0又1のいずれかである。また、Zは、下記ZからZ
【0014】
【化2】

【0015】
からなる群より選ばれる1種の連結基を示す。また、式(1a)〜式(1d)中の波線は炭素原子との結合部位を示す。なお、一般式(1)で示される環状エーテル化合物を2種以上使用する場合、それらのZは、上記ZからZから選ばれる互いに異なる連結基であり、さらにそれらのRは、互いに同一の置換基であって、且つそれらのnは互いに同じ数である。〕
【0016】
【化3】

【0017】
〔式中、R、及びnは、前記と同義である。〕
【0018】
〔2〕 一般式(1)が、下記一般式(1a)で示されるヒドロキシメチル基を有する環状エーテル化合物である、上記〔1〕に記載のジオール化合物の製造方法。
【0019】
【化4】

〔式中、Rは水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基を示し、nは、メチレン(−CH−)基の個数を示し、0又1である。〕
【0020】
〔3〕 第一金属化合物が、三塩化イリジウム、四塩化イリジウム、及び六塩化イリジウム酸からなる群より選択された1種以上のイリジウムを金属元素として含有する金属化合物である、上記〔1〕又は〔2〕に記載のジオール化合物の製造方法。
【0021】
〔4〕 第二金属化合物が、テトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム、テトラオキソレニウム(VII)酸ナトリウム、七酸化二レニウム、三酸化レニウム、テトラコサオキソヘプタモリブデン(VI)酸アンモニウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸カリウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム、三酸化モリブデン、トリオキソバナジン(V)酸カリウム、トリオキソバナジン(V)酸ナトリウム 、ピロバナジン酸ナトリウム、及びテトラオキソバナジン(V)酸ナトリウムからなる群より選択された1種以上の金属化合物である、上記〔1〕又は〔2〕に記載のジオール化合物の製造方法。
【0022】
〔5〕 反応触媒として、第二金属化合物中のレニウム、モリブデン、及びバナジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属の原子量換算での使用量(但し、2種以上使用する場合は合計モル数)が、第一金属化合物中のイリジウムの原子量換算で1モルに対して、0.5〜30モルとなるように使用する、上記〔1〕から〔4〕のいずれか1つに記載のジオール化合物の製造方法。
【0023】
〔6〕 反応触媒が、第一金属化合物の含有金属元素であるイリジウムと、第二金属化合物の含有金属元素であるレニウム(Re)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)からなる群より選択された1種以上の金属元素とが担体に担持した担持型反応触媒である、上記〔1〕から〔5〕のいずれか1つに記載のジオール化合物の製造方法。
【0024】
〔7〕 担持型反応触媒が、イリジウム−モリブデン酸化物/シリカ(Ir−MoOx/シリカ)触媒、イリジウム−バナジウム酸化物/シリカ(Ir−VOx/シリカ)触媒、イリジウム−レニウム酸化物/活性炭(Ir−ReOx/C)触媒、イリジウム−モリブデン酸化物/活性炭(Ir−MoOx/C)触媒、イリジウム−バナジウム酸化物/活性炭(Ir−VOx/C)触媒、イリジウム−レニウム酸化物/アルミナ(Ir−ReOx/Al)触媒、イリジウム−モリブデン酸化物/アルミナ(Ir−MoOx/Al)触媒、イリジウム−バナジウム酸化物/アルミナ(Ir−VOx/Al)触媒からなる群より選択された1種以上の担持型反応触媒である、上記〔6〕に記載のジオール化合物の製造方法。
【0025】
〔8〕 一般式(2)で示されるジオール化合物が、1,5−ペンタンジオール又は1,6−ヘキサンジオールである、上記〔1〕から〔7〕のいずれか1つに記載のジオール化合物の製造方法。
【0026】
〔9〕 イリジウム(Ir)を金属元素として含有する第一金属化合物と、レニウム(Re)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)からなる群より選択された1種以上の金属元素を含有する第二金属化合物とを含む触媒である反応触媒。
【0027】
〔10〕 第一金属化合物の含有金属元素であるイリジウムの原子量換算で1モルに対する、第二金属化合物として含有するレニウム、モリブデン、及びバナジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属の原子量換算でのモル数(但し、2種以上使用する場合は合計モル数)が0.5〜30モルである、上記〔9〕に記載の反応触媒。
【0028】
〔11〕 第一金属化合物が、三塩化イリジウム、四塩化イリジウム、及びヘキサクロロイリジウム酸二水素(IV)からなる群より選択された1種以上のイリジウム元素を含有する金属化合物である、上記〔9〕又は〔10〕に記載の反応触媒。
【0029】
〔12〕 第二金属化合物が、テトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム、テトラオキソレニウム(VII)酸ナトリウム、七酸化二レニウム、三酸化レニウム、テトラコサオキソヘプタモリブデン(VI)酸アンモニウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸カリウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム、三酸化モリブデン、トリオキソバナジン(V)酸カリウム、トリオキソバナジン(V)酸ナトリウム 、ピロバナジン酸ナトリウム、及びテトラオキソバナジン(V)酸ナトリウムからなる群より選択された1種以上の金属化合物である、上記〔9〕から〔11〕のいずれか1つに記載の反応触媒。
【0030】
〔13〕 反応触媒が、第一金属化合物の含有金属元素であるイリジウムと第二金属化合物の含有金属元素であるレニウム(Re)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)からなる群より選択された1種以上の金属元素が担体に担持した担持型反応触媒である、上記〔9〕に記載の反応触媒。
【0031】
〔14〕 担持型反応触媒が、イリジウム−モリブデン酸化物/シリカ(Ir−MoOx/シリカ)触媒、イリジウム−バナジウム酸化物/シリカ(Ir−VOx/シリカ)触媒、イリジウム−レニウム酸化物/活性炭(Ir−ReOx/C)触媒、イリジウム−モリブデン酸化物/活性炭(Ir−MoOx/C)触媒、イリジウム−バナジウム酸化物/活性炭(Ir−VOx/C)触媒、イリジウム−レニウム酸化物/アルミナ(Ir−ReOx/Al2O3)触媒、イリジウム−モリブデン酸化物/アルミナ(Ir−MoOx/Al2O3)触媒、又はイリジウム−バナジウム酸化物/アルミナ(Ir−VOx/Al2O3)触媒である(ここで、それぞれの酸化物のxは酸化数を示し、任意の実数である)、上記〔13〕に記載の担持型反応触媒。
【0032】
〔15〕 シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア及び活性炭からなる群より選択された1種以上の担体に、三塩化イリジウム、四塩化イリジウム、及び六塩化イリジム酸からなる群より選択された1種以上のイリジウムを金属元素として含有する第一金属化合物の水溶液を含侵させ、次いで水分を留去した後、これにテトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム、テトラオキソレニウム(VII)酸ナトリウム、七酸化二レニウム、三酸化レニウム、テトラコサオキソヘプタモリブデン(VI)酸アンモニウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸カリウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム、三酸化モリブデン、トリオキソバナジン(V)酸カリウム、トリオキソバナジン(V)酸ナトリウム、ピロバナジン酸ナトリウム、及びテトラオキソバナジン(V)酸ナトリウムからなる群より選択された1種以上の金属元素を含有する第二金属化合物の水溶液を含侵させた混合物を調製し、次いで水分を留去した後、得られた固体をさらに焼成する、上記〔14〕に記載の担持型反応触媒の製造方法。
【0033】
〔16〕 ポリエステル、ポリカーボネート、ポリカーボネートジオール、ポリウレタンから選ばれるいずれかのポリマー合成用原料である、上記〔1〕から〔8〕のいずれか1つに記載の方法で製造された前記一般式(2)示されるジオール化合物。
【発明の効果】
【0034】
本発明の製造方法及び反応触媒により、例えば、高温反応機器等の特殊な製造装置を用いることなく、汎用的な製造装置を用い、工業的に簡便な操作にて、目的とするジオール化合物を高い反応選択性と良好な反応生産性で製造することができる。
【0035】
特に本発明は、環状エーテル化合物の解裂の際に、ヒドロキシメチル基が結合した炭素と隣の酸素の間を選択的に解裂させることが出来る反応触媒として、安価なイリジウム元素を含む反応触媒を見出した発明でもある。
即ち、本発明のイリジウム元素を含む反応触媒を使用することにより、従来の方法では副生物であった1,2−ジオール化合物の生成を抑制することが可能となり、目的物とするジオール化合物をより高い反応選択率で製造することができる。
また、本発明の製造方法は、安価な反応試剤を使用する利点のほかに、反応生産性の指標として表される前記空時収率(STY)が従来の方法よりも高く、従って、経済的にも、工業的にも好適なジオール化合物の製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
<一般式(1)で示されるヒドロキシメチル基を有する環状エーテル化合物>
本発明において、出発原料として使用されるヒドロキシメチル基を有する環状エーテル化合物は、下記一般式(1)で示される。
【0037】
【化5】

【0038】
〔式中、Rは水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基を示し、Zは、下記ZからZ
【0039】
【化6】

【0040】
から選ばれる置換基であって、nは、メチレン(−CH−)基の個数を示し、0又1である。波線は炭素原子との結合部位を示す。〕
一般式(1)で示されるヒドロキシメチル基を有する環状エーテル化合物として、好ましくは、下記一般式(1a)から(1d)からなる群より選ばれる1種以上のヒドロキシメチル基を有する環状エーテル化合物が挙げられる。
【0041】
【化7】

【0042】
〔式中、Rは水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基を示し、nは、メチレン(−CH−)基の個数を示し、0又1である。〕
一般式(1)で示されるヒドロキシメチル基を有する環状エーテル化合物において、Rは、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示し、具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、Sec−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、Sec−ペンチル基が挙げられる。なお、これらのアルキル基は位置異性体を含む。
【0043】
一般式(1)で示されるヒドロキシメチル基を有する環状エーテル化合物の具体例としては、フルフリルアルコール、2,3−ジヒドロフルフリルアルコール、3,4−ジヒドロフルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、5−メチルテトラヒドロフルフリルアルコール、5−エチルテトラヒドロフルフリルアルコール、5−プロピルテトラヒドロフルフリルアルコール、5−ブチルテトラヒドロフルフリルアルコール、5−ペンチルテトラヒドロフルフリルアルコール、4H−ピラン−2−メタノール、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−2−メタノール、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−6−メタノール、テトラヒドロピラン−2−メタノール、6−メチルテトラヒドロピラン−2−メタノール、6−エチルテトラヒドロピラン−2−メタノール、6−プロピルテトラヒドロピラン−2−メタノール、6−ブチルテトラヒドロピラン−2−メタノール、6−ペンチルテトラヒドロピラン−2−メタノール等が挙げられるが、好ましくはフルフリルアルコール、3,4−ジヒドロフルフリルアルコール、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−2−メタノールテトラヒドロフルフリルアルコール、5−メチルテトラヒドロフルフリルアルコール、テトラヒドロピラン−2−メタノール、より好ましくはテトラヒドロフルフリルアルコール、テトラヒドロピラン−2−メタノールが使用される。
【0044】
また、本発明では、出発原料である前記一般式(1)で示されるヒドロキシメチル基を有する環状エーテル化合物を2種以上使用してもよい。この場合、使用される2種以上の一般式(1)で示される環状エーテル化合物において、Z、R及びnはそれぞれ異なるものを使用しても良いが、好ましくはZが上記ZからZから選ばれるそれぞれ互いに異なる連結基であり、さらに
それらのRは、互いに同一の置換基であって、且つそれらのnは互いに同じ数である2種以上の一般式(1)で示される環状エーテル化合物を使用する。
【0045】
従って、本発明の反応では、目的物とする一般式(2)で示されるジオール化合物が、例えば、1,5−ペンタンジオールである場合、出発原料である一般式(1)で示される環状エーテル化合物としては、フルフリルアルコール、2,3−ジヒドロフルフリルアルコール、3,4−ジヒドロフルフリルアルコール、及びテトラヒドロフルフリルアルコールからなる群より選ばれるヒドロキシメチル基を有する1種以上の環状エーテル化合物を使用することが出来る。また同様に、例えば、1,6−ペンタンジオールを目的物とする場合、出発原料である一般式(1)で示される環状エーテル化合物としては、4H−ピラン−2−メタノール、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−2−メタノール、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−6−メタノール、及びテトラヒドロピラン−2−メタノールからなる群より選ばれるヒドロキシメチル基を有する1種以上の環状エーテル化合物が使用される。
【0046】
<反応触媒>
本発明で使用される反応触媒は、イリジウム(Ir)を金属元素として含有する第一金属化合物と、レニウム(Re)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有する第二金属化合物とから調製された触媒であって、イリジウム(Ir)を金属元素として含有する第一金属化合物と、レニウム(Re)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有する第二金属化合物とを含む反応触媒である。
【0047】
さらに、本発明の反応触媒は、前記第一金属化合物に含有する金属元素であるイリジウム(Ir)と、第二金属化合物に含有するレニウム(Re)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)からなる群より選ばれる1種以上の金属元素とを含んだものが担体に担持された担持型反応触媒も含む。
【0048】
〔イリジウム(Ir)を金属元素として含有する第一金属化合物〕
本発明で使用されるイリジウム(Ir)を金属元素として含有する第一金属化合物は、必須成分としてイリジウム元素を含有する金属触媒である。従って触媒がイリジウム元素を含有する限り、その物質形態は特に限定されず、例えば、金属単体、合金、塩、錯体、又はイリジウムが担体に担持されている担持型触媒等、何れの場合であってもよい。
【0049】
本発明で使用されるイリジウム(Ir)を金属元素として含有する第一金属化合物としては、例えば、三塩化イリジウム、三臭化イリジウム、四塩化イリジウム、四臭化イリジウム、イリジウム酸アンモニウム塩、ヘキサアンミンイリジウム3塩化物、ペンタアンミンクロロイリジウム2塩化物、六塩化イリジウム3アンモニウム、六塩化イリジウム3カリウム、六塩化イリジウム3ナトリウム、四塩化イリジウム2アンモニウム、六塩化イリジウム2アンモニウム、六塩化イリジウム2カリウム、六塩化イリジウム酸、六塩化イリジウム2ナトリウム等が挙げられるが、経済性及び取り扱いの容易さを考慮して、好ましくは三塩化イリジウム、四塩化イリジウム、及び六塩化イリジウム酸からなる群より選ばれる1種以上のイリジウムを金属元素として含有する金属化合物、より好ましくは三塩化イリジウム、又は六塩化イリジウム酸が使用される。なお、前記第一金属化合物は水和物を使用してもよい。また、これらの金属化合物は市販品をそのまま使用してもよいが、別途焼成等を行なって前処理を行なって使用してもよい。
【0050】
(第一金属化合物の使用量)
前記第一金属化合物の使用量は、前記一般式(1)で示されるヒドロキシメチル基を有する1種以上の環状エーテル化合物(但し、2種以上使用する場合はその合計)1モルに対して、好ましくは0.001〜0.5モル、より好ましくは0.01〜1.0モル使用される。
【0051】
〔レニウム、モリブデン及びバナジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有する第二金属化合物〕
本発明で使用されるレニウム、モリブデン及びバナジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有する第二金属化合物は、必須成分としてモリブデン及びバナジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有する金属触媒である。従って、触媒にこれらの金属元素を含有する限り、その物質形態は特に限定されず、例えば、金属単体、合金、塩、錯体、又はこれらの金属元素が担体に担持されている担持型触媒等、何れの場合であってもよい。
【0052】
前記第二金属化合物のうち、
(A)レニウムを金属元素として含有する第二金属化合物としては、
例えば、三塩化レニウム、五塩化レニウム、テトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム、テトラオキソレニウム(VII)酸ナトリウム、六塩化レニウム3カリウム、六塩化レニウム2カリウム、二酸化レニウム、三酸化レニウム、七酸化二レニウム等が使用される。
(B)モリブデンを金属元素として含有する第二金属化合物としては、
例えば、五塩化モリブデン、テトラコサオキソヘプタモリブデン(VI)酸アンモニウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸カリウム、テトラオキソモリブデン酸カルシウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸マグネシウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸リチウム、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等が使用される。
(C)バナジウムを金属元素として含有する第二金属化合物としては、
例えば、三塩化バナジウム、酸化バナジウム、三酸化二バナジウム、二酸化バナジウム、五酸化二バナジウム、五酸化二バナジウム、三臭化バナジウム、ピロバナジン酸カリウム、テトラオキソバナジン(V)酸カリウム、トリオキソバナジン(V)酸カリウム、トリオキソバナジン(V)酸ナトリウム、ピロバナジン酸ナトリウム、トリオキソバナジン(V)酸リチウム等が使用される。
【0053】
なお、前記(A)〜(C)の第二金属化合物は水和物を使用してもよい。また、これらの金属化合物は市販品をそのまま使用してもよいが、別途焼成等を行なって前処理を行なって使用してもよい。
【0054】
前記第二金属化合物として、好ましくはテトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム、テトラオキソレニウム(VII)酸ナトリウム、七酸化二レニウム、三酸化レニウム、テトラコサオキソヘプタモリブデン(VI)酸アンモニウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸カリウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム、三酸化モリブデン、トリオキソバナジン(V)酸カリウム、トリオキソバナジン(V)酸ナトリウム、ピロバナジン酸ナトリウム、及びテトラオキソバナジン(V)酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上の金属化合物、さらに好ましくは、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム、七酸化二レニウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム、及びトリオキソバナジン(V)酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上の金属化合物が使用される。
【0055】
(第二金属化合物の使用量)
前記第二金属化合物の使用量は、前記一般式(1)で示されるヒドロキシメチル基を有する1種以上の環状エーテル化合物(但し、2種以上使用する場合はその合計)1モルに対して、好ましくは0.001〜0.5モル、さらに好ましくは0.01〜0.3モル、より好ましくは0.01〜0.2モル、特に好ましくは0.01〜0.1モル使用される。
【0056】
また、本発明の反応触媒において、第一金属化合物の含有金属元素であるイリジウムと、第二金属化合物の含有金属元素であるレニウム(Re)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)からなる群より選ばれる1種以上の金属元素の担体への担持割合は、特に制限されないが、具体的には、第二金属化合物中のレニウム、モリブデン、及びバナジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属の原子量換算での使用量(但し、2種以上使用する場合は合計モル数)が、第一金属化合物中のイリジウムの原子量換算で1モルに対して、好ましくは0.5〜30モル、さらに好ましくは1〜20モル、より好ましくは1〜10モル、特に好ましくは1〜5モル、特により好ましくは1.3〜3.3モルとなるように使用する。なお、本発明の反応触媒は前記の金属モル比を有する反応触媒を使用することで、経済的にも好適な使用量であって、さらに出発原料の転化率及び目的物の選択率が高く、その上適度な反応時間で効率よくジオール化合物を製造することができる。
すなわち、前記の金属モル比を有する反応触媒を使用する本発明の製造方法は、反応生産性の指標として表される前記空時収率(STY)が高いジオール化合物の製造方法である。
【0057】
<第一金属化合物と第二金属化合物を含む担持型の反応触媒:担持型反応触媒>
さらに、本発明では、前記第一金属化合物の含有金属元素であるイリジウムと、第二金属化合物の含有金属元素であるレニウム(Re)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)からなる群より選ばれる1種以上の金属元素とを担体に担持させた担持型反応触媒を本発明の反応触媒として使用することができる。
【0058】
本発明の担持型反応触媒においては、担体の種類は特に限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ(アルミノシリケート)、セリア、マグネシア、カルシア、チタニア、シリカチタニア(チタノシリケート)、ジルコニア及び活性炭、ゼオライト、メソ孔体(メソポーラス-アルミナ、メスポーラス-シリカ、メスポーラス-カーボン)等が使用される。
【0059】
前記担体として、好ましくはシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア及び活性炭からなる群より選ばれる1種以上の担体が使用される。また、前記担体は、多孔質であることが、反応効率上望ましい。なお、前記担体は単独で使用しても、或いは2種以上を併用して使用することもできる。
【0060】
このような第一金属化合物と第二金属化合物を含む担持型反応触媒として、具体的に好ましくはイリジウム−レニウム酸化物/シリカ(Ir−ReOx/SiO)触媒、イリジウム−モリブデン酸化物/シリカ(Ir−MoOx/シリカ)触媒、イリジウム−バナジウム酸化物/シリカ(Ir−VOx/シリカ)触媒、イリジウム−レニウム酸化物/活性炭(Ir−ReOx/C)触媒、イリジウム−モリブデン酸化物/活性炭(Ir−MoOx/C)触媒、イリジウム−バナジウム酸化物/活性炭(Ir−VOx/C)触媒、イリジウム−レニウム酸化物/アルミナ(Ir−ReOx/Al2O3)触媒、イリジウム−モリブデン酸化物/アルミナ(Ir−MoOx/Al2O3)触媒、イリジウム−バナジウム酸化物/アルミナ(Ir−VOx/Al2O3)触媒が使用され、より好ましくはイリジウム−レニウム酸化物/シリカ(Ir−ReOx/SiO)触媒、イリジウム−モリブデン酸化物/シリカ(Ir−MoOx/シリカ)触媒、イリジウム−バナジウム酸化物/シリカ(Ir−VOx/シリカ)触媒が使用される。ここで、例えば、ReOx等におけるxは酸化数を示し、任意の実数である。
また、本発明の反応では、前記担持型反応触媒を単独で使用しても、或いは2種以上を併用しても、さらに前記の第一金属化合物や第二金属化合物と併用しても、何れの場合であってもよい。
【0061】
(担持型反応触媒の調製方法)
本発明の担持型反応触媒は、市販品があれば、それをそのまま使用することもできるが、例えば、Chem.Commun.,2009、2035−2037ページに記載の金属元素を担体に担持する方法等を参照して、別途担持型反応触媒を調製して使用してもよい。
【0062】
本発明では担持型反応触媒を調製して使用しているが、その製造方法としては、例えば、前記担体に前記第一金属化合物の水溶液及び前記第二金属化合物の水溶液を含侵させた混合物から、水分を留去した後、得られた固体をさらに焼成する等がある。ここで、前記担体への前記第一金属化合物の水溶液と前記第二金属化合物の水溶液の含侵の順序等は特に制限されず、例えば、前記第一金属化合物の水溶液と前記第二金属化合物の水溶液を同時に含侵させてもよい。
【0063】
具体的な前記担持型反応触媒の製造方法としては、好ましくはシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア及び活性炭からなる群より選ばれる1種以上の担体に、三塩化イリジウム、四塩化イリジウム、及び六塩化イリジウム酸からなる群より選ばれる1種以上のイリジウムを金属元素として含有する第一金属化合物の水溶液を含侵させ、次いで水分を留去した後、これにテトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム、テトラオキソレニウム(VII)酸ナトリウム、七酸化二レニウム、三酸化レニウム、テトラコサオキソヘプタモリブデン(VI)酸アンモニウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸カリウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム、三酸化モリブデン、トリオキソバナジン(V)酸カリウム、トリオキソバナジン(V)酸ナトリウム 、ピロバナジン酸ナトリウム、及びテトラオキソバナジン(V)酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有する第二金属化合物の水溶液を含侵させた混合物を調製し、次いで水分を留去した後、得られた固体をさらに焼成する製造方法が使用される。
なお、前記第一金属化合物の水溶液、及び前記第一金属化合物の水溶液を調製する場合に使用する水は、例えば、純水、超純水、又はイオン交換水等が使用されるが、その使用量は特に制限されない。
【0064】
前記担持型反応触媒の製造において、水分を留去する温度、及び前記得られた固体の焼成温度は、使用する第一金属化合物及び/又は第二金属化合物の種類等により異なるが、好ましくは−5〜800℃、より好ましくは50〜600℃である。また、前記温度での触媒調製の時間は、好ましくは0.1〜20時間、さらに好ましくは0.25〜15時間、より好ましくは0.25〜10時間、特に好ましくはより好ましくは0.25〜5時間である。
【0065】
(担持型反応触媒に含有する第一金属化合物の含有金属元素(以下、第一金属元素と称することがある)であるイリジウムと第二金属化合物の含有金属元素(以下、第二金属元素と称することがある)であるレニウム(Re)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)からなる群より選ばれる1種以上の金属元素のモル比)
本発明の担持型反応触媒において、第一金属化合物の含有金属元素であるイリジウムと、第二金属化合物の含有金属元素であるレニウム(Re)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)からなる群より選ばれる1種以上の金属元素の担体への担持割合は、特に制限されないが、具体的には、第一金属元素であるイリジウム(Ir)の原子量換算で1モルに対する、第二金属元素として含有するレニウム(Re)、モリブデン(Mo)、及びバナジウム(V)からなる群より選ばれる1種以上の金属の原子量換算でのモル数(但し、2種以上使用する場合は合計モル数)が、好ましくは0.5〜30モル、さらに好ましくは1〜20モル、より好ましくは1〜10モル、特に好ましくは1〜5モル、特により好ましくは1.3〜3.3モルとなるように使用する。
【0066】
(担持型反応触媒の使用量)
本発明で使用される担持型反応触媒の使用量は、前記一般式(1)で示されるヒドロキシメチル基を有する環状エーテル化合物1モルに対して、好ましくは0.001〜20g、さらに好ましくは0.001〜10g、より好ましくは0.005〜6g、特に好ましくは0.005〜1g使用される。
【0067】
(担持型反応触媒を使用する場合の反応方式)
前記担持型反応触媒を使用した場合、反応方式は、連続式、又は回分式(バッチ式)のいずれの方式で行っても良く、また反応スタイルは、液相懸濁反応、又は固定床流通反応のいずれの反応スタイルでも行うことができる。なお、製造設備、製造装置は、上記の反応方式、反応スタイルで実施可能であれば、特に限定されない。
【0068】
本発明は担持型反応触媒を上記記載の条件で使用することで、出発原料の転化率及び目的物の選択率が高く、且つ適度な反応時間でジオール化合物を製造方法ことができる。
即ち、本発明の方法は、反応生産性の指標として表される前記空時収率(STY)が高いジオール化合物の製造方法である。
【0069】
<使用する水素>
本発明のジオール化合物は、水素を使用して製造される。使用する水素の量は、一般式(1)で示されるヒドロキシメチル基を有する環状エーテル化合物1モルに対して、それ以上の使用量(モル)であれば特に制限されない。なお、本発明の反応は、水素気圧下で行われるが、その水素圧力は、好ましくは大気圧〜20MPa、より好ましくは1〜15MPaである。
【0070】
<反応溶媒>
本発明の製造方法において、反応溶媒は使用しても、或いは使用しなくても何れの場合であってもよい。
(反応溶媒の種類)
反応溶媒を使用する場合、使用される反応溶媒としては、例えば、水;エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、エチレングリコール等のアルコール類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等の炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル-2-ピロリドン等のアミド類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類、塩化メチレン、ジクロロエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類等が使用される。また、これらの反応溶媒は、1種又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0071】
前記反応溶媒として、好ましくは水であるが、特に本発明の反応を反応触媒として前記担持型反応触媒に用いて液相中で行う場合、例えば、前記担持型反応触媒の分散性を調整する目的等により、好ましくは水又は水と上記溶媒を複数組み合わせた溶媒を使用する。
(反応溶媒の使用量)
前記反応溶媒の使用量は、一般式(1)で示されるヒドロキシメチル基を有する環状エーテル化合物1gに対して、好ましくは0.05〜500g、さらに好ましくは0.05〜100g、より好ましくは0.05〜50g、特に好ましくは0.1〜20g使用される。
【0072】
<反応温度、反応圧力>
本発明の反応における反応温度は、好ましくは25〜230℃、好ましくは25〜210℃、より好ましくは60〜210℃、特に好ましくは80〜200℃である。なお、本発明は、水素気圧下で行われるため、反応圧力は前記水素圧力と同じ範囲であり、好ましくは大気圧〜20MPa、さらに好ましくは0.5〜15MPa、より好ましくは1〜15MPa、特に好ましくは1〜10MPaである。
【0073】
<反応時間>
本発明における反応時間は、反応温度、反応圧力、基質濃度(一般式(1)で示される環状エーテル化合物の濃度)、触媒量、又は反応装置等によって異なるため、特に制限されない。
【0074】
しかしながら、本発明の反応は、反応時間を延ばすことで転化率も向上する反面、それに伴って逐次反応物や分解物も増加する傾向にあるため、好ましくは0.5〜30時間、さらに好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは0.5〜5時間、特に好ましく0.5〜2.5時間である。
【0075】
<反応終了後の処理方法>
本発明の製造方法により得られたジオール化合物は、反応終了後、例えば、ろ過、分液・抽出、濃縮等の後処理を行った後、蒸留やカラムクロマトグラフィー等により精製することもできる。本発明の製造方法において得られたジオールは、生産効率の観点から、蒸留により精製することが特に好ましい。
【0076】
上記の本発明の製造方法により、特定の反応条件下、適度な反応時間で反応を実施することにより、出発原料の転化率及び目的物の選択率が高く、また副生物の選択率が非常に低い方法でジオール化合物を製造することができる。
【0077】
<本発明で製造される一般式(2)で示されるジオール化合物>
上記より、本発明の方法で製造される前記一般式(2)や一般式(2a)で示されるジオール化合物は、副生物(不純物)含量が極めて低いことが特長として挙げられる。従って、例えば、本発明の方法で製造された1,5−ペンタンジオールや1,6−ヘキサンジオールは、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリカーボネートジオール、ポリウレタンからなる群から選ばれる1種以上のポリマー合成用原料(モノマー)として使用した場合、高分子化反応に影響を与えることが少ない為、特に有用である。また、本発明のジオール化合物は、ポリマー合成用原料のみならず、例えば、医農薬用原料、樹脂用添加剤、コート剤用添加物、各種溶剤等としても有用である。
【実施例】
【0078】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0079】
なお、本実施例中でのジオールの定性及び定量分析は全てガスクロマトグラフィーを使用して行った(GC−14A:島津製作所社製、GCカラム:TC-WAX、GC検出器:FID)。また定量分析する際は、エチレングリコールモノエチルエーテルを内部標準物質として測定を行い、内部標準化法により、出発原料の転化率、反応目的物及び反応副生物の選択率等を算出した。
【0080】
〔実施例1:1,5−ペンタンジオールの合成〕
オートクレーブに50mlのガラス製内筒管を入れ、その中に三塩化イリジウムn水和物(石津試薬製、イリジウム含量53%)44.4mg(0.12mmol)、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム127.5mg(0.44mmol)及び5%テトラヒドロフルフリルアルコール(以降、THFAと称することもある)水溶液5.00g(2.45mmol)を入れ、管内を窒素置換後、120℃で、1時間加熱撹拌した。その後一旦冷却し、次いで、水素ガスで8MPaまで加圧した後、120℃で2時間加熱撹拌した。反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。最後に、得られた濾液をガスクロマトグラフィーで定量を行った結果、出発原料(THFA)転化率は46.8%、1,5−ペンタンジオール選択率は81.6%であった。なお、副生物である1,2−ペンタンジオールは、全く生成していなかった。
【0081】
〔実施例2〜14:1,5−ペンタンジオールの合成〕
実施例1で使用したテトラオキソレニウム(VII)酸カリウムを、下記表1中の化合物に代え、さらに反応時間及び反応触媒の金属モル比を下記表1記載のように代えた以外は全て実施例1と同様の方法にて反応を行った。以下にその結果を示す。
【0082】
【表1】

*1:イリジウム化合物は、テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)1モルに対して、5%モル使用。
*2:反応触媒の金属モル比=〔第二金属元素であるレニウム(Re)、モリブデン(Mo)、及びバナジウム(V)からなる群より選ばれる1種以上の金属の原子量換算による使用量(モル)〕/〔第一金属元素であるイリジウム(Ir)の原子量換算による使用量(モル)〕にて算出。
*3:THFA:テトラヒドロフルフリルアルコール。
*4:1,5PeD:1,5−ペンタンジオール。
*5:STY(g/L/hr)=1,5PeDの生成量(g)/反応容積量(L)/反応時間(hr)にて算出。
【0083】
〔実施例15:1,5−ペンタンジオールの合成〕
オートクレーブに50mlのガラス製内筒管を入れ、その中に四塩化イリジウム(和光試薬製、イリジウム含量99.5%)40.9mg(0.12mmol)、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム2水和物44.4mg(0.18mmol)及び5%テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)水溶液5.00g(2.45mmol)を入れ、管内を窒素置換後、120℃で、1時間加熱撹拌した。一旦冷却後、水素で8MPaまで加圧した後、120℃で2時間加熱撹拌した。反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。最後に、得られた濾液をガスクロマトグラフィーで定量を行った結果、出発原料(THFA)転化率は58.7%、1,5−ペンタンジオール選択率は78.0%であった。なお、副生物である1,2−ペンタンジオールは、全く生成していなかった。
【0084】
〔実施例16:1,5−ペンタンジオールの合成〕
オートクレーブに50mlのガラス製内筒管を入れ、その中に四塩化イリジウム(和光試薬製、イリジウム含量99.5%)40.9mg(0.12mmol)、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム141.6mg(0.49mmol)及び5%テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)水溶液5.00g(2.45mmol)を入れ、菅内を窒素置換後、120℃で、1時間加熱撹拌した。その後一旦冷却し、次いで水素で8MPaまで加圧した後、120℃で2時間加熱撹拌した。反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。最後に、得られた濾液をガスクロマトグラフィーで定量を行った結果、出発原料(THFA)転化率は12.7%、1,5−ペンタンジオール選択率は67.2%であった。なお、副生物である1,2−ペンタンジオールは、全く生成していなかった。
【0085】
〔比較例1:1,5−ペンタンジオールの合成;特許文献1で使用されたロジウムを金属触媒種として使用〕
オートクレーブに50mlのガラス製内筒管を入れ、その中に三塩化ロジウム3水和物(和光試薬製、ロジウム含量99.5%)32.2mg(0.12mmol)、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム127.5mg(0.44mmol)及び5%テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)水溶液5.00g(2.45mmol)を入れ、管内を窒素置換後、120℃で、1時間加熱撹拌した。その後一旦冷却し、次いで、水素で8MPaまで加圧した後、120℃で2時間加熱撹拌した。反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。最後に、得られた濾液をガスクロマトグラフィーで定量を行った結果、THFA転化率は13.9%、1,5−ペンタンジオール選択率は94.2%であった。なお、副生物である1,2−ペンタンジオールは、全く生成していなかった。
【0086】
〔比較例2〜3:1,5−ペンタンジオールの合成〕
比較例1で使用したテトラオキソレニウム(VII)酸カリウムを下記表2中の化合物に替え、さらに反応時間及び反応触媒の金属モル比を下記表2記載のように替えた以外は全て比較例1と同様の方法にて反応を行った。以下にその結果を示す。
【0087】
【表2】

*1:ロジウム化合物(RhCl3)は、テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)1モルに対して、5%モル使用。
*2:反応触媒の金属モル比=〔第二金属元素であるレニウム(Re)、モリブデン(Mo)、及びバナジウム(V)からなる群より選ばれる1種以上の金属の原子量換算による使用量(モル)〕/〔第一金属元素であるイリジウム(Ir)の原子量換算による使用量(モル)〕にて算出。
*3:THFA:テトラヒドロフルフリルアルコール。
*4:1,5PeD:1,5−ペンタンジオール。
*5:STY(g/L/hr)=1,5PeDの生成量(g)/反応容積量(L)/反応時間(hr)にて算出。
【0088】
〔比較例4:1,5−ペンタンジオールの合成;三塩化イリジウム使用、第二金属化合物未使用〕
オートクレーブに50mlのガラス製内筒管を入れ、その中に三塩化イリジウムn水和物(石津試薬製、イリジウム含量53%)44.4mg(0.12mmol)と5%テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)水溶液5.00g(2.45mmol)を入れ、管内を窒素置換後、120℃で、1時間加熱撹拌した。その後一旦冷却し、次いで水素で8MPaまで加圧した後、120℃で2時間加熱撹拌した。反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。最後に、得られた濾液をガスクロマトグラフィーで定量を行った結果、出発原料(THFA)転化率は3.2%、1,5−ペンタンジオール選択率は30.2%であった。なお、副生物として1,2−ペンタンジオールは、選択率30.8%で生成していた。
【0089】
〔比較例5:1,5−ペンタンジオールの合成;四塩化イリジウム使用、第二金属化合物未使用〕
オートクレーブに50mlのガラス製内筒管を入れ、その中に四塩化イリジウム(和光試薬製、イリジウム含量99.5%)40.9mg(0.12mmol)と5%テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)水溶液5.00g(2.45mmol)を入れ管内を窒素置換後、120℃で、1時間加熱撹拌した。その後一旦冷却し、次いで、水素で8MPaまで加圧した後、120℃で2時間加熱撹拌した。こ反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。最後に、得られた濾液をガスクロマトグラフィーで定量を行った結果、出発原料(THFA)転化率は2.2%、1,5−ペンタンジオール選択率は17.8%であった。なお、副生物として1,2−ペンタンジオールは、選択率35.6%で生成していた。
【0090】
〔比較例6:1,5−ペンタンジオールの合成;第一金属化合物未使用、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム使用〕
オートクレーブに50mlのガラス製内筒管を入れ、その中にテトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム2水和物44.4mg(0.18mmol)及び5%テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)水溶液5.00g(2.45mmol)を入れ、系内を窒素置換後、120℃で、1時間加熱撹拌した。その後一旦冷却し、次いで水素で8MPaまで加圧した後、150℃で2時間加熱撹拌した。反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。最後に、得られた濾液をガスクロマトグラフィーで定量を行った結果、出発原料(THFA)転化率は0%であった。なお、1,5−ペンタンジオール及び副生物である1,2−ペンタンジオールは、全く生成していなかった。
【0091】
〔実施例17:1,5−ペンタンジオールの合成;テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム使用〕
オートクレーブに50mlのガラス製内筒管を入れ、その中に三塩化イリジウムn水和物(石津試薬製、イリジウム含量53%)44.4mg(0.12mmol)、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム2水和物41.6mg(0.202mmol)及び5%テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)水溶液5.00g(2.45mmol)を入れ、水素で8MPaまで加圧したした後、120℃で2時間加熱撹拌した。反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過し、得られた濾液をガスクロマトグラフィーで定量を行った結果、出発原料(THFA)転化率は63.8%、1,5−ペンタンジオール選択率は73.7%であった。なお、副生物である1,2−ペンタンジオールは、全く生成していなかった。
【0092】
〔実施例18:1,6−へキサンジオールの合成〕
オートクレーブに50mlのガラス製内筒管を入れ、その中に三塩化イリジウムn水和物(石津試薬製、イリジウム含量53%)44.4mg(0.12mmol)、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム2水和物41.6mg(0.202mmol)及び5%テトラヒドロピラン−2−メタノール(以降、THPMと称することもある)水溶液5.00g(2.15mmol)を入れ、管内を窒素置換後、120℃で、1時間加熱撹拌した。その後一旦冷却し、次いで、水素ガスで8MPaまで加圧した後、120℃で2時間加熱撹拌した。反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過した。最後に、得られた濾液をガスクロマトグラフィーで定量を行った結果、出発原料(THPM)転化率は26.1%、1,6−ヘキサンジオール選択率は79.4%であった。なお、副生物である1,2−ヘキサンジオールは、全く生成していなかった。
【0093】
〔比較例7:1,6−へキサンジオールの合成;特許文献1で使用されたロジウムを金属触媒種として使用〕
実施例18で用いた三塩化イリジウムn水和物(石津試薬製、イリジウム含量53%)を、三塩化ロジウム3水和物(和光試薬製、ロジウム含量99.5%)32.2mg(0.12mmol)に代えた以外は、全て実施例18と同様の方法で反応を行った。得られた濾液をガスクロマトグラフィーで定量を行った結果、出発原料(THPM)転化率は2.8%、1,6−ヘキサンジオール選択率は88.1%であった。なお、副生物である1,2−ヘキサンジオールは、全く生成していなかった。
【0094】
〔実施例19:4%イリジウム−4%レニウム/SiO担持型触媒の調製〕
シリカ(SiO;富士シリシア化学株式会社製、CARiACT G−6)1.5gに六塩化イリジウム酸・6水和物(HIrCl・6H2O;和光純薬製)0.61g(0.31mmol)を水1.13gに溶解させた水溶液を含侵させ、110℃で12時間乾燥した。得られた粉体物にテトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム0.086g(0.32mmol)を水1.13gに溶解させたレニウム水溶液を含侵させ、110℃で12時間乾燥した後、さらに500℃で3.5時間焼成し、4%イリジウムと4%レニウムがシリカに担持した4%イリジウム−4%レニウム/SiO触媒を調製した。
【0095】
〔実施例20:担持型触媒を用いた1,5−ペンタンジオールの合成〕
オートクレーブに50mlのガラス製内筒管を入れ、その中に実施例19で調製した4%イリジウム−4%レニウム/SiO触媒30mgと水6gを加えたものを、水素で1MPaまで加圧したした後、200℃で1時間加熱撹拌した。これを一旦室温まで冷却し、水素を放圧した後、10%テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)水溶液6.00g(5.87mmol)を入れ、水素で8MPaまで加圧したした後、150℃で4時間加熱撹拌した。反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過し、得られた濾液をガスクロマトグラフィーで定量を行った結果、出発原料(THFA)転化率は45.1%、1,5−ペンタンジオール選択率は88.2%であった。なお、副生物である1,2−ペンタンジオールは、全く生成していなかった。
【0096】
〔実施例21:4%イリジウム−2.8%レニウム/SiO担持型触媒の調製〕
シリカ(SiO;富士シリシア化学株式会社製、CARiACT G−6)1.5gに六塩化イリジウム酸・6水和物(HIrCl・6HO;和光純薬製)0.61g(0.31mmol)を水1.13gに溶解させた水溶液を含侵させ、110℃で12時間乾燥した。この粉体にテトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム0.060g(0.22mmol)を水1.13gに溶解させた水溶液を含侵させ、110℃で12時間乾燥した後、さらに500℃で3.5時間焼成し、4%イリジウム−2.8%レニウム/SiO2担持型触媒を調製した。
【0097】
〔実施例22:担持型触媒を用いた1,5−ペンタンジオールの合成〕
オートクレーブに50mlのガラス製内筒管を入れ、その中に実施例21で調製した4%イリジウム−2.8%レニウム/SiO担持型触媒30mgと水6gを加えたものを、水素で1MPaまで加圧したした後、200℃で1時間加熱撹拌した。これを一旦室温まで冷却し、水素を放圧した後、10%テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)水溶液6.00g(5.87mmol)を入れ、水素で8MPaまで加圧したした後、150℃で4時間加熱撹拌した。反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過し、得られた濾液をガスクロマトグラフィーで定量を行った結果、出発原料(THFA)転化率は55.0%、1,5−ペンタンジオール選択率は88.4%であった。なお、副生物である1,2−ペンタンジオールは、全く生成していなかった。
【0098】
〔実施例23:担持型触媒を用いた1,5−ペンタンジオールの合成〕
オートクレーブに50mlのガラス製内筒管を入れ、その中に実施例21で調製した4%イリジウム−2.8%レニウム/SiO担持型触媒150mgと水2gを加えたものを、水素で1MPaまで加圧したした後、200℃で1時間加熱撹拌した。これを一旦室温まで冷却し、水素を放圧した後、テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)2.00g(29.4mmol)を入れ、水素で8MPaまで加圧したした後、150℃で4時間加熱撹拌した。反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過し、得られた濾液をガスクロマトグラフィーで定量を行った結果、出発原料(THFA)転化率は54.0%、1,5−ペンタンジオール選択率は89.4%であった。なお、副生物である1,2−ペンタンジオールは、全く生成していなかった。
【0099】
〔実施例24:1,5−ペンタンジオールの合成;テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム使用〕
オートクレーブに50mlのガラス製内筒管を入れ、その中に三塩化イリジウムn水和物(石津試薬製、イリジウム含量53%)222mg(0.61mmol)、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム2水和物208mg(0.86mmol)及び40%テトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)水溶液2.50g(9.79mmol)を入れ、水素で8MPaまで加圧したした後、120℃で2時間加熱撹拌した。反応終了後、得られた反応液を室温まで冷却し、次いでメンブランフィルター(0.45μm)付き注射器で濾過し、得られた濾液をガスクロマトグラフィーで定量を行った結果、出発原料(THFA)転化率は75.5%、1,5−ペンタンジオール選択率は55.2%であった。なお、副生物である1,2−ペンタンジオールは、全く生成していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、工業的に安価で、且つ簡便な操作により、高い反応選択性と良好な反応生産性で目的とするジオール化合物を製造する方法に関する。
【0101】
発明の方法で製造されるジオール化合物としては、例えば、1,5−ペンタンジオールや1,6−ヘキサンジオール等が挙げられるが、これらはポリエステル、ポリカーボネート、ポリカーボネートジオール、ポリウレタン等のポリマー用原料、医農薬用原料、樹脂用添加剤、コート剤用添加物、各種溶剤等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリジウムを金属元素として含有する第一金属化合物と、レニウム、モリブデン及びバナジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有する第二金属化合物とから調製された反応触媒存在下、下記一般式(1)で示されるヒドロキシメチル基を有する1種以上の環状エーテル化合物と水素とを反応させることを特徴とする、下記一般式(2)で示されるジオール化合物の製造方法。
【化1】

〔式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5の炭化水素基を示し、nは、メチレン(−CH−)基の個数を示し、0又1のいずれかである。また、Zは、下記ZからZ
【化2】

からなる群より選ばれる1種の連結基を示す。また、式(1a)〜式(1d)中の波線は炭素原子との結合部位を示す。なお、一般式(1)で示される環状エーテル化合物を2種以上使用する場合、それらのZは、上記ZからZから選ばれる互いに異なる連結基であり、更にそれらのRは、互いに同一の置換基であって、且つそれらのnは互いに同じ数である。〕
【化3】

〔式中、R、及びnは、前記と同義である。〕
【請求項2】
一般式(1)が、下記一般式(1a)で示されるヒドロキシメチル基を有する環状エーテル化合物である、請求項1に記載のジオール化合物の製造方法。
【化4】

〔式中、Rは水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基を示し、nは、メチレン(−CH−)基の個数を示し、0又1である。〕
【請求項3】
第一金属化合物が、三塩化イリジウム、四塩化イリジウム、及び六塩化イリジウム酸からなる群より選択された1種以上のイリジウムを金属元素として含有する金属化合物である、請求項1又は2に記載のジオール化合物の製造方法。
【請求項4】
第二金属化合物が、テトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム、テトラオキソレニウム(VII)酸ナトリウム、七酸化二レニウム、三酸化レニウム、テトラコサオキソヘプタモリブデン(VI)酸アンモニウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸カリウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム、三酸化モリブデン、トリオキソバナジン(V)酸カリウム、トリオキソバナジン(V)酸ナトリウム 、ピロバナジン酸ナトリウム、及びテトラオキソバナジン(V)酸ナトリウムからなる群より選択された1種以上の金属化合物である、請求項1又は2に記載のジオール化合物の製造方法。
【請求項5】
反応触媒として、第二金属化合物中のレニウム、モリブデン、及びバナジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属の原子量換算での使用量(但し、2種以上使用する場合は合計モル数)が、第一金属化合物中のイリジウムの原子量換算で1モルに対して、0.5〜30モルとなるように使用する、請求項1から4のいずれか1項に記載のジオール化合物の製造方法。
【請求項6】
反応触媒が、第一金属化合物の含有金属元素であるイリジウムと、第二金属化合物の含有金属元素であるレニウム(Re)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)からなる群より選択された1種以上の金属元素とが担体に担持した担持型反応触媒である、請求項1から5のいずれか1項に記載のジオール化合物の製造方法。
【請求項7】
担持型反応触媒が、イリジウム−モリブデン酸化物/シリカ(Ir−MoOx/シリカ)触媒、イリジウム−バナジウム酸化物/シリカ(Ir−VOx/シリカ)触媒、イリジウム−レニウム酸化物/活性炭(Ir−ReOx/C)触媒、イリジウム−モリブデン酸化物/活性炭(Ir−MoOx/C)触媒、イリジウム−バナジウム酸化物/活性炭(Ir−VOx/C)触媒、イリジウム−レニウム酸化物/アルミナ(Ir−ReOx/Al)触媒、イリジウム−モリブデン酸化物/アルミナ(Ir−MoOx/Al)触媒、イリジウム−バナジウム酸化物/アルミナ(Ir−VOx/Al)触媒からなる群より選択された1種以上の担持型反応触媒である、請求項6に記載のジオール化合物の製造方法。
【請求項8】
一般式(2)で示されるジオール化合物が、1,5−ペンタンジオール又は1,6−ヘキサンジオールである、請求項1から7のいずれか1項に記載のジオール化合物の製造方法。
【請求項9】
イリジウム(Ir)を金属元素として含有する第一金属化合物と、レニウム(Re)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)からなる群より選択された1種以上の金属元素を含有する第二金属化合物とを含む触媒である反応触媒。
【請求項10】
第一金属化合物の含有金属元素であるイリジウムの原子量換算で1モルに対する、第二金属化合物として含有するレニウム、モリブデン、及びバナジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属の原子量換算でのモル数(但し、2種以上使用する場合は合計モル数)が0.5〜30モルである、請求項9に記載の反応触媒。
【請求項11】
第一金属化合物が、三塩化イリジウム、四塩化イリジウム、及びヘキサクロロイリジウム酸二水素(IV)からなる群より選択された1種以上のイリジウム元素を含有する金属化合物である、請求項9又は10に記載の反応触媒。
【請求項12】
第二金属化合物が、テトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム、テトラオキソレニウム(VII)酸ナトリウム、七酸化二レニウム、三酸化レニウム、テトラコサオキソヘプタモリブデン(VI)酸アンモニウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸カリウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム、三酸化モリブデン、トリオキソバナジン(V)酸カリウム、トリオキソバナジン(V)酸ナトリウム 、ピロバナジン酸ナトリウム、及びテトラオキソバナジン(V)酸ナトリウムからなる群より選択された1種以上の金属化合物である、請求項9から11のいずれか1項に記載の反応触媒。
【請求項13】
反応触媒が、第一金属化合物の含有金属元素であるイリジウムと第二金属化合物の含有金属元素であるレニウム(Re)、モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)からなる群より選択された1種以上の金属元素が担体に担持した担持型反応触媒である、請求項9に記載の反応触媒。
【請求項14】
担持型反応触媒が、イリジウム−モリブデン酸化物/シリカ(Ir−MoOx/シリカ)触媒、イリジウム−バナジウム酸化物/シリカ(Ir−VOx/シリカ)触媒、イリジウム−レニウム酸化物/活性炭(Ir−ReOx/C)触媒、イリジウム−モリブデン酸化物/活性炭(Ir−MoOx/C)触媒、イリジウム−バナジウム酸化物/活性炭(Ir−VOx/C)触媒、イリジウム−レニウム酸化物/アルミナ(Ir−ReOx/Al2O3)触媒、イリジウム−モリブデン酸化物/アルミナ(Ir−MoOx/Al2O3)触媒、又はイリジウム−バナジウム酸化物/アルミナ(Ir−VOx/Al2O3)触媒である(ここで、それぞれの酸化物のxは酸化数を示し、任意の実数である)、請求項13に記載の担持型反応触媒。
【請求項15】
シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア及び活性炭からなる群より選択された1種以上の担体に、三塩化イリジウム、四塩化イリジウム、及び六塩化イリジム酸からなる群より選択された1種以上のイリジウムを金属元素として含有する第一金属化合物の水溶液を含侵させ、次いで水分を留去した後、これにテトラオキソレニウム(VII)酸アンモニウム、テトラオキソレニウム(VII)酸カリウム、テトラオキソレニウム(VII)酸ナトリウム、七酸化二レニウム、三酸化レニウム、テトラコサオキソヘプタモリブデン(VI)酸アンモニウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸カリウム、テトラオキソモリブデン(VI)酸ナトリウム、三酸化モリブデン、トリオキソバナジン(V)酸カリウム、トリオキソバナジン(V)酸ナトリウム、ピロバナジン酸ナトリウム、及びテトラオキソバナジン(V)酸ナトリウムからなる群より選択された1種以上の金属元素を含有する第二金属化合物の水溶液を含侵させた混合物を調製し、次いで水分を留去した後、得られた固体を更に焼成する、請求項14に記載の担持型反応触媒の製造方法。
【請求項16】
ポリエステル、ポリカーボネート、ポリカーボネートジオール、ポリウレタンから選ばれるいずれかのポリマー合成用原料である、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法で製造された前記一般式(2)示されるジオール化合物。

【公開番号】特開2012−97080(P2012−97080A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221892(P2011−221892)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】