説明

ジクロフェナクおよびヒドロキシ脂肪酸ポリオキシアルキレンエステルを含む医薬製剤

本発明は、ジクロフェナクの製薬学的に許容し得る塩と、ヒドロキシ脂肪酸の少なくとも一種のポリオキシアルキレンエステルと、水と、任意選択的な共溶媒とを含む医薬製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクロフェナクを含む医薬製剤に関する。
【0002】
更に特に、本発明は、優れた透過性および生体利用効率特性を有する局所投与用のジクロフェナク水溶液を含む医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
ジクロフェナクは、2-[(2, 6-ジクロロフェニル)アミノ]フェニル酢酸として化学的に既知の非ステロイド性抗炎症薬(「NSAID」)である。ジクロフェナクは、NSAIDの酢酸系に属する。この薬剤は、Ciba-Geigy(チバガイギー)社の科学者により1960年代に開発され、ヨーロッパおよび米国においてCataflam(商品名)およびVoltaren(商品名)を含む様々な商品名でNovartis(ノバルティス)社により世界中で販売されている。
【0004】
ジクロフェナクは、その優れた鎮痛特性のために、慢性および急性の痛み発現の両方を含む様々なタイプの痛みを治療するために広く使用されている。この薬剤は、関節リウマチ、変形性関節症および強直性脊椎炎のような筋骨格および関節の障害;特に、滑液包炎および腱炎のような関節周囲障害;捻挫、筋挫傷のような軟部組織障害;および一部の外科手術後のものなどの他の痛み症状の治療のために投与される。
【0005】
ジクロフェナクは、通常錠剤もしくは胃液に耐える塗膜で覆われた錠剤の形状で経口で、若しくは直腸内に注射により、または局所的に投与される。ジクロフェナクの経口投与は、胃腸の出血および潰瘍、肝臓および腎臓の損傷ならびに中枢神経系および皮膚の障害などの深刻な副作用を特に長期間の使用後に生起し得る。
【0006】
従って、経口投与に伴う副作用を最小化する目的で、ジクロフェナクの非経口送達が近年盛んに研究されている。
【0007】
局所製剤は魅力的な選択肢である。その理由は、肝臓の初回通過代謝を避け、経口投与に伴う副作用を低減し、より高い患者コンプライアンスを伴い、場合によっては薬剤の治療効果を向上させるからである。
【0008】
しかしながら、ジクロフェナクの局所投与の有効性は、この薬剤が皮膚透過することの困難性およびジクロフェナクの水への低い溶解性により制限される。
【0009】
いくつかの特許および特許出願は、ジクロフェナクの溶解性を向上させるための数種の成分を含有するゲル局所製剤により、上述の課題の解決を試みた。
【0010】
米国特許第4,711,906号明細書は、特に非経口投与用の液状ジクロフェナク調製物を開示し、該調製物がジクロフェナクまたはその塩の一つ、所要に応じて更なる医薬品有効成分および補助物質を溶媒に溶解した溶液からなり、該溶媒が10〜70重量%、好適には20〜50重量%の(a)プロピレングリコールおよび(b)ポリエチレングリコールの混合物と、90〜30重量%、好適には80〜50重量%の水とからなり、この溶媒混合物におけるプロピレングリコール:ポリエチレングリコールの重量比が9.5:0.5から0.5:9.5、好適には3:1から1:3、特に好適には2:1から1:2の間である。
【0011】
米国特許第4,917,886号明細書は、活性成分として少なくとも一つの酸性官能基を有する約0.1〜約10重量%の非ステロイド性抗炎症化合物と、2〜4の炭素原子を有する約10〜約50重量%の水溶性で揮発性の低級アルカノールと、約3〜約15重量%の任意選択的な自己乳化脂質または脂質混合物と、約0.5〜約2重量%のゲル構造形成剤と、約1〜約20重量%の共溶媒と、約40〜約80重量%の水と、もし脂質層が自己乳化しない場合には任意選択的な約0.5〜約5重量%の乳化剤と、所要に応じて非必須の構成要素とを含有する局所投与可能な製薬学的組成物を開示する。
【0012】
欧州特許第147,476号明細書は、活性成分としてのジクロフェナクナトリウム、媒質としての水、低級アルカノールおよびグリコール、ゲル化剤としてのカルボキシビニルポリマー、ならびに中和剤としての弱塩基物質から調製されることを特徴とする外用のゲル調製物を開示する。かかる文献の外用ゲル調製物は、使用上良好な安定性および快適な感触を有し、皮膚吸収により優れた抗炎症性および鎮痛性効果を示す。
【0013】
欧州特許第488,089号明細書は、圧縮ガス容器中に推進剤ガスと共にパッケージ化され、これから噴霧機を通して推進剤ガスによって泡立てられ、ジクロフェナク含有泡として送達することができる局所投与用のジクロフェナク調製物を開示する。
【0014】
欧州特許第600,395号明細書は、ジクロフェナクもしくはその塩類、二塩基酸のエステル、低級アルコールならびに非イオン性ポリマーまたは(a) 500,000以上の分子量を有するヒドロキシプロピルセルロース1.5-4重量%、(b) 1,250,000以上の分子量を有するヒドロキシエチルセルロース2-4重量%および(c) 500,000以上の分子量を有するヒドロキシプロピルセルロースおよび1,250,000以上の分子量を有するヒドロキシエチルセルロースの混合物1.5-4重量%からなる群から選択した非イオン性ポリマーの混合物を含み、5,000-35,000cpsの粘度および5 dyn/cm2以上の降伏値を有する抗炎症性および鎮痛性のゲル調製物を開示する。
【0015】
欧州特許第788,794号明細書は、組成物がジクロフェナクナトリウムのようなジクロフェナクの水溶性塩、水ならびに脂肪酸ジアルキルアミドおよび/またはそのポリエチレン付加体を含有することを特徴とする液体製剤、クリーム、軟膏またはパップ型絆創膏のような外用剤組成物を開示する。
【0016】
欧州特許第834,312号明細書は、少なくとも一種の溶媒および少なくとも一種の可溶化剤を含有する炎症および痛みの局所治療用のジクロフェナクまたはその塩類をベースとする薬剤を開示する。溶媒は、水、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ならびに任意選択的なC2-6の多価アルコールおよびそのポリエステル、エステルおよびエーテル、ならびにグリセリドおよび/またはそのエトキシル化誘導体の混合物である。可溶化剤は、少なくとも一種のリン脂質である。
【0017】
欧州特許第1,003,499号明細書は、主成分として2〜4個のC原子を有するアルキルアルコールの少なくとも一種と、短鎖のN アルキルピロリドンの少なくとも一種と、長鎖のアルキルラジカルで置換したピロリドンの少なくとも一種とを含有する溶媒混合物に溶解した活性成分としてのジクロフェナクを含む局所投与用の製薬学的調製物を開示する。
【0018】
米国特許出願公開第2005/239894号明細書は、(a) 0.02〜0.4%(w/w)のジクロフェナクナトリウム塩、(b) 少なくとも50%(w/w)の水、(c) 0〜30%(w/w)の少なくとも一種のC2-C4アルカノール、(d) 3〜20%(w/w)のプロピレングリコールおよびポリエチレングリコール(200-20000)からなる群から選択したグリコール溶媒、(e) 0.2〜3%(w/w)のカルボマー類からなる群から選択した少なくとも一種のゲル化剤、(f) 2〜8%(w/w)のエマルション-ゲルの油相を形成する少なくとも一種の脂質、(g) 1〜5%(w/w)の少なくとも一種の非イオン界面活性剤、および(h) 組成物全体のpHを6.5〜8に調節するためにアンモニア、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムからなる群から選択した塩基性薬剤を含む局所使用を目的とする製薬学的組成物を開示する。
【0019】
国際公開第2006/134406号は、約1%の濃度のジクロフェナクナトリウムおよび6〜2の間の割合でのプロピレングリコールおよびメトセルの混合物を含む皮膚を介したジクロフェナクの局所、局部投与用のゲル組成物を開示する。該組成物はまた、製薬学的に許容し得る賦形剤を含む。
【0020】
国際公開第2004/057950号は、約0.1%〜約5%のジクロフェナク、約0.5%〜約20%のリン脂質、約0.1%〜約10%のビタミンE、約1%〜約20%のアルキレングリコール、および約1%〜約50%の(C1-C6)アルコールを含むウマの跛行、舟嚢炎、変形性関節症またはその組み合わせを治療するための局所製剤を開示する。更に特に、該製剤は約1%のジクロフェナク塩、約5%のプロピレングリコール、約6%のエタノール、約1%のビタミンE酢酸塩、約10%のリン脂質および約77%の水を含むことができる。
【0021】
国際公開第01/12229号は、有効量のジクロフェナクのような一つまたは複数の疎水性活性成分をグリセロールおよびポリグリセロール誘導体と共にゲル様特性を有する粒子の水分散液の形状で含む経口または局所投与用の医薬製剤を開示する。
【0022】
国際公開第2008/004231号は、60%のキシリトール、2%のSolutol HS-15(商標)および水からなるビヒクルに添加したジクロフェナクナトリウムを含む医薬製剤を開示する。
【0023】
国際公開第2006/056889号は、60%のキシリトール、2%のSolutol HS-15(商標)、2%のLutrol(Pluronic) F-68(商標)および水からなるビヒクルに添加したジクロフェナクナトリウムを含む医薬製剤を開示する。
【0024】
欧州特許第420798号明細書は、ジクロフェナクナトリウムを0.1% w/vの量で含む医薬製剤(実施例1, 27および28)、およびSolutol HS-15(商標)を0.5または2% w/vの量で含む医薬製剤(実施例5, 10, 13, 14, 15, 16, 19および23)を開示する。欧州特許第420798号明細書は、量にかかわりなくジクロフェナクおよびSolutol HS-15(商標)の両方を含む例を全く含まない。更に、欧州特許第420798号明細書は、0.1% w/v超のジクロフェナクまたは2% w/v超のSolutol HS-15(商標)を含む例を含まない。
【0025】
ジクロフェナクナトリウム塩を含むゲル局所製剤は、商品名Dolaut(商標)としてイタリアで販売されている。該製剤は、可溶化剤として大豆レシチンを、また共溶媒としてアルコール類およびグリコール類を含む。製剤に関する更なる詳細は、米国特許第5958379号明細書中に見つけることができ、少なくとも一種の活性物質、リン脂質またはリン脂質混合物からなる少なくとも一つのゲル形成剤、アルコールまたは容易に気化するアルコール混合物および水を含有する噴霧可能な液体製薬学的組成物を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】米国特許第4,711,906号明細書
【特許文献2】米国特許第4,917,886号明細書
【特許文献3】欧州特許第147,476号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第488,089号明細書
【特許文献5】欧州特許第600,395号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第788,794号明細書
【特許文献7】欧州特許第834,312号明細書
【特許文献8】欧州特許第1,003,499号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2005/239894号明細書
【特許文献10】国際公開第2006/134406号
【特許文献11】国際公開第2004/057950号
【特許文献12】国際公開第01/12229号
【特許文献13】国際公開第2008/004231号
【特許文献14】国際公開第2006/056889号
【特許文献15】欧州特許第420798号明細書
【特許文献16】米国特許第5958379号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
出願人は、従来技術でなされたいくつかの努力にも拘らず、優れた透過性および生体利用効率特性を有するジクロフェナクの局所投与用の医薬製剤を開発する必要性がいまだに存在すると考えた。
【0028】
出願人はまた、治療すべき皮膚および/または粘膜表面上に噴霧および/または霧化し得る液状製剤の形状で高濃度、例えば2%w/v以上、更には4%w/v以上のジクロフェナクを含む局所投与用の医薬製剤の需要がいまだに存在すると考えた。
【課題を解決するための手段】
【0029】
出願人は、上述の課題がジクロフェナクの製薬学的に許容し得る塩、ヒドロキシ脂肪酸の少なくとも一種のポリオキシアルキレンエステルおよび水の水溶液を含む医薬製剤により克服され得ることを見出した。
【0030】
本発明の医薬製剤は、主成分として水を含む。
【0031】
出願人は、驚くべきことに、本発明の医薬製剤が優れた透過性および生体利用効率特性を有することを見出した。
【0032】
更に、出願人は、驚くべきことに、本発明の医薬製剤が安定で、遊離のジクロフェナクの溶液からの分離または沈殿なしに生成物の全有効寿命の間保存し得ることを見出した。
【0033】
更に、出願人は、驚くべきことに、本発明の医薬製剤が4%w/v以上のような高い量のジクロフェナクを安定した状態で溶液中に維持することが可能となることを見出した。
【0034】
好適な実施形態によれば、本発明の医薬製剤は、共溶媒、好適には製薬学的に許容し得るグリコール類および多価アルコール類からなる群から選択したものを含む。
【0035】
従って、本発明は、1%〜5%(w/v)のジクロフェナクの製薬学的に許容し得る塩と、3%〜30%(w/v)のヒドロキシ脂肪酸の少なくとも一種のポリオキシアルキレンエステルと、主成分としての水と、任意選択的に共溶媒とを含む水溶液からなる医薬製剤に関する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、実施例に開示した医薬製剤1、2および3の拡散プロファイルを示す。縦座標値は、累積透過量をミリグラム平方センチメートル(mg/cm2)で表し、横座標値は、経過時間を時間(h)で表す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の医薬製剤は、以下に記載した一つまたは複数の好適な特徴を示し得る。
【0038】
ジクロフェナクの製薬学的に許容し得る塩は、製薬学的に許容し得る有機または無機塩基を有するジクロフェナクのあらゆる可溶性塩を含むのが有利である。
【0039】
製薬学的に許容し得る無機塩基の代表的な例は、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムおよびカリウムの水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩、例えば水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムである。
【0040】
製薬学的に許容し得る有機塩基の代表的な例は、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N, N-ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N-エチルモルホリン、N-エチルピペリジン、N-メチルグルカミン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジン、N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリジン、イソプロピルアミン、リジン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミンおよびトロメタミンである。
【0041】
本発明の医薬製剤は、ジクロフェナクのナトリウム、カリウム、ピロリジン、ピペリジン、N-ヒドロキシエチレンピロリジン、N-ヒドロキシエチレンピペリジン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エチレンジアミンおよびジエチルアミン塩から選択したジクロフェナク塩を含むのが有利である。
【0042】
本発明の医薬製剤における製薬学的に許容し得るジクロフェナク塩の濃度は、好適には1%〜5%(w/v)の間、より好適には2%〜4%(w/v)の間である。本発明の医薬製剤におけるジクロフェナク塩の濃度は、約4%(w/v)であるのが有利である。
【0043】
本明細書で用いる「%(w/v)」という表現は、100容量部(ミリリットルで表される)当たりの重量部(グラムで表される)を意味する。従って、例えば5%(w/v)のジクロフェナクを含む水溶液は、100mlの水溶液が5グラムのジクロフェナクを含有することを意味する。
【0044】
好適には、ヒドロキシ脂肪酸の少なくとも一種のポリオキシアルキレンエステルは、8〜30の炭素原子、好適には14〜24の炭素原子を有するヒドロキシ脂肪酸を200〜6,000、好適には400〜1,500の範囲の分子量を有するポリオキシアルキレンでエステル化することから得られる。
【0045】
ヒドロキシ脂肪酸は、ヒドロキシカプリル酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキジン酸、ヒドロキシベヘン酸、ヒドロキシリグノセリン酸、ヒドロキシミリストレイン酸、ヒドロキシパルミトレイン酸、ヒドロキシオレイン酸、ヒドロキシリノレイン酸、ヒドロキシアラキドン酸、ヒドロキシエイコサペンタエノン酸、ヒドロキシエルシン酸およびヒドロキシドコサヘキサエン酸からなる群から選択されるのが有利である。特に有用なヒドロキシ脂肪酸は、ヒドロキシステアリン酸である。
【0046】
ポリオキシアルキレンは、ポリエチレングリコール200(PEG 200)、ポリエチレングリコール300(PEG 300)、ポリエチレングリコール400(PEG 400)、ポリエチレングリコール600(PEG 600)、ポリエチレングリコール660(PEG 660)、ポリエチレングリコール1000(PEG 1000)、ポリエチレングリコール1500(PEG 1500)、ポリエチレングリコール3000(PEG 3000)、ポリエチレングリコール3350(PEG 3350)、ポリエチレングリコール4000(PEG 4000)、ポリエチレングリコール6000(PEG 6000)、およびその混合物からなる群から選択されるのが有利である。
【0047】
好適な実施形態によれば、ポリオキシアルキレンは、ポリエチレングリコール400(PEG 400)、ポリエチレングリコール600(PEG 600)、ポリエチレングリコール660(PEG 660)、ポリエチレングリコール1000(PEG 1000)、ポリエチレングリコール1500(PEG 1500)およびその混合物を含む。
【0048】
本発明の好適な実施形態によれば、ヒドロキシ脂肪酸の少なくとも一種のポリオキシアルキレンエステルは、Solutol HS15(商標)(ポリエチレングリコール660ヒドロキシステアレート)、ポリエチレングリコールおよび12-ヒドロキシステアリン酸のポリグリコールエステルならびにその混合物からなる群から選択される。
【0049】
Solutol HS-15(商標)は、BASF社(Parsippany, ニュージャージー)により製造されたポリエチレングリコール660ヒドロキシステアレートである。遊離のポリエチレングリコールおよびそのモノエステルとは別に、ジエステルもまた検出可能である。製造業者によれば、Solutol HS-15(商標)の典型的なロットは、約30%の遊離のポリエチレングリコールおよび70%のポリエチレングリコールエステルを含有する。
【0050】
本発明の医薬製剤におけるヒドロキシ脂肪酸の少なくとも一種のポリオキシアルキレンエステルの濃度は、好適には3%〜30%(w/v)、より好適には5%〜25%(w/v)、最も好適には10%〜20%(w/v)である。ポリオキシアルキレンヒドロキシ脂肪酸エステルの濃度は、約15%(w/v)であるのが有利である。
【0051】
好適には、共溶媒が製薬学的に許容し得るアルコール類および多価アルコール類、例えばエタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、グリセロール、プロピレングリコール、1, 3-ブチレングリコールおよびその混合物からなる群から選択される。
【0052】
本発明の医薬製剤は、2-プロパノール、グリセロールまたはその混合物を含むのが有利である。より好適には、本発明の医薬製剤に用いる共溶媒は、2-プロパノールおよびグリセロールの混合物である。
【0053】
本発明の医薬製剤における共溶媒の濃度は、好適には3%〜30%(w/v)、より好適には5%〜25%(w/v)、最も好適には10%〜20%(w/v)である。共溶媒の濃度は、15%〜20%(w/v)の範囲であるのが有利である。
【0054】
本発明の医薬製剤は、主成分として水を含む、すなわち重量パーセントとして表される水分量が、各構成要素単独の単一量よりも高く、好適には他の全ての構成要素の総量以上とする。好適な実施形態によれば、本発明の医薬製剤は、30%(w/v)超、より好適には50%(w/v)超、および最も好適には65%〜96%(w/v)の量の水を含む。
【0055】
本発明の医薬製剤のpHは、好適には7〜9、より好適には7.5〜8.5の範囲である。
【0056】
本発明の医薬製剤は、当業界で一般に既知でかつ用いられているいくつかの添加物を更に含む。本発明に係る医薬製剤のかかる非必須の添加物は、例えば、安定化剤、酸化防止剤、pH調整剤、緩衝剤、界面活性剤、着色剤および/または香料である。
【0057】
本発明による医薬製剤は、局所投与用の調製物として通常用いる調製物の形状に製剤化することができる。有用な調製物の形状は、様々な溶液、軟膏、クリーム、スプレー、泡、パップ型絆創膏などを含むのが有利であるが、特にこれらに限定されない。溶液およびスプレー形状の局所投与用調製物が特に好適である。
【0058】
本発明の医薬製剤は、例えば、関節リウマチ、変形性関節症および強直性脊椎炎のような筋骨格および関節の障害;滑液包炎および腱炎のような関節周囲障害;捻挫および筋挫傷のような軟部組織障害;および一部の外科手術後のものなどの他の痛みの症状の治療用を含む慢性および急性の痛みなどを含む様々なタイプの痛みの治療用の鎮痛剤として使用することができる。
【0059】
以下の実施例は、本発明を実施する少なくとも一つの方法を例示するが、添付の請求の範囲により定められる、保護を求める事項を何ら制限することはない。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
医薬製剤1は、Dolaut(商標)の商標名でGienne Pharma社より販売された市販の医薬製剤とした。
【0061】
医薬製剤2〜5は、下記の表1の成分を含有していた。表示されるように、水以外の全ての量をw/v%で表す。
【0062】
【表1】

【0063】
2-プロパノールおよびグリセロールを除いて、全ての成分を容器に注ぎ込むことによって、医薬製剤2〜5を調製した。連続撹拌下で、生成した混合物を約45℃まで加熱し、この温度で約30分間保持した。その後、生成した混合物を撹拌しながら25℃まで冷却してほぼ透明な溶液Aを得た。次いで、2-プロパノールおよびグリセロールを混合することによって得た溶液Bを、撹拌しながら、溶液Aにゆっくりと加えた。添加後、撹拌を25℃で約10分間続けて、無色透明な溶液を得た。製剤5のpHを5%w/vクエン酸溶液で所望の値に制御、調節した。容量を、0.1M リン酸緩衝液を用いた製剤4を除いて、精製水で100mlとした。
【0064】
ジクロフェナクナトリウムの皮膚透過性の比較のために、フランツ型拡散セルを用いてブタの皮膚を透過させる標準的な拡散実験を行った。
【0065】
(HPLC分析)
ジクロフェナクナトリウムの定量のために、H. Ka'hlig, et al, "Rheology and NMR self-diffusion experiments as well as skin permeation of diclofenac-sodium and cyproterone acetate of new gel preparations" , J. Pharm. Sci. 94 288-296 (2005)に記載の方法を用いた。
【0066】
分析を、自動オートサンプラISS-200、ポンプおよびUVダイオードアレイ検出器からなるHPLC (Perkin Elmer, US)により行った。Nucelosil 100-5C18を充填したカラム(240 mm×4 mm)を、アセトニトリルおよびリン酸緩衝液からなるpH 5 (40:60, v/v)の移動層を流速1.0ml/minで用いて、45℃で溶出した。ジクロフェナクの濃度を、未知物質のピーク面積を標準検量線と比較することによって定めた。標準溶液は、0.23から0.014mg/mlの間のジクロフェナクを含有した。ピーク面積の線形回帰分析により0.999の相関係数を得た。サンプル(20μl)を、レセプタチャンバーから引き出し、オートサンプラによって直接注入した。
【0067】
(パラメータ)
ストック溶液:2.281mg/mlのメタノール
カラム:Nucleosil C18
移動相:アセトニトリル/リン酸-緩衝液 pH=5(40:60/v:v)
UV-検出 λmax:230nm
流速:1.0ml/min
保持時間:約10分
【0068】
(皮膚調製)
ブタ腹部の皮膚を剃毛し、その後1.2 mmに設定した採皮刀(GB 228R, Aesculap)を用いて調製した。皮膚を使用するまで冷凍庫に-20℃で保存した。実験の2時間前に、サンプルを解凍した。
【0069】
(拡散セルの準備)
約1 cm2の透過領域を有するフランツ型拡散セル(Permegear(パーメギア), USA)およびブタの皮膚を用いて、標準的な拡散実験を行った。レセプターコンパートメントを2mlの0.012Mリン酸緩衝液(pH 7.4)で満たした。切除した皮膚を、角質層が最上層、すなわち、腹部側がレセプターコンパートメントに面するようにセルに載せた。拡散セルを、皮膚表面温度の32℃に保ち、磁気撹拌子により撹拌した。所定の時間間隔(2、4、6、8および24時間)で、アクセプター媒質を分析用に取り出し、新たなアクセプター媒質で置換した。所要に応じて、アクセプター媒質での適当な希釈を追加的に行った。投与された製剤の各量は、10mgのジクロフェナクナトリウムに相当した。3つの並列試験を、各産物について行った。以下の表および図1に、試験の平均結果および標準偏差を示す。
【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【0073】
製剤4および5の結果は、製剤3の結果と実質的に同様であった。表2〜4のデータは、本発明の製剤2および製剤3が優れた透過性を示すことを明確に表している。透過した製剤2のジクロフェナクの量は、製剤1のほぼ1.5倍の量であり、製剤3における量は2倍超である。
【0074】
製剤5のサンプルを、25mlの琥珀ガラス瓶中にパッケージした。サンプルを、40℃および75%の相対湿度で6か月の加速劣化試験、25℃および60%の相対湿度で1年の長期劣化試験に供した。試験終了時に、固体粒子の分解または分離は観察されなかった。更に、医薬品原薬(API)の分析(HPLC)は、ICH (www.ich.org)安定性試験仕様(額面量の±5%)に準拠していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1%〜5%(w/v)のジクロフェナクの製薬学的に許容し得る塩と、3%〜30%(w/v)のヒドロキシ脂肪酸の少なくとも一種のポリオキシアルキレンエステルと、主成分としての水とを含む水溶液からなる医薬製剤。
【請求項2】
前記製剤が共溶媒を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
前記ヒドロキシ脂肪酸の少なくとも一種のポリオキシアルキレンエステルが、8〜30の炭素原子を有するヒドロキシ脂肪酸を200〜6,000の範囲の分子量を有するポリオキシアルキレンでエステル化することから得られることを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項4】
前記ヒドロキシ脂肪酸が14〜24の炭素原子を有し、前記ポリオキシアルキレンが400〜1,500の範囲の分子量を有することを特徴とする請求項3に記載の医薬製剤。
【請求項5】
前記ヒドロキシ脂肪酸がヒドロキシカプリル酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキジン酸、ヒドロキシベヘン酸、ヒドロキシリグノセリン酸、ヒドロキシミリストレイン酸、ヒドロキシパルミトレイン酸、ヒドロキシオレイン酸、ヒドロキシリノレイン酸、ヒドロキシアラキドン酸、ヒドロキシエイコサペンタエン酸、ヒドロキシエルシン酸およびヒドロキシドコサヘキサエン酸からなる群から選択されることを特徴とする請求項3または4に記載の医薬製剤。
【請求項6】
前記ポリオキシアルキレンがポリエチレングリコール200(PEG 200)、ポリエチレングリコール300(PEG 300)、ポリエチレングリコール400(PEG 400)、ポリエチレングリコール600(PEG 600)、ポリエチレングリコール660(PEG 660)、ポリエチレングリコール1000(PEG 1000)、ポリエチレングリコール1500(PEG 1500)、ポリエチレングリコール3000(PEG 3000)、ポリエチレングリコール3350(PEG 3350)、ポリエチレングリコール4000(PEG 4000)、ポリエチレングリコール6000(PEG 6000)、およびその混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項3または4に記載の医薬製剤。
【請求項7】
前記ヒドロキシ脂肪酸の少なくとも一種のポリオキシアルキレンエステルがSolutol HS15(商標)(ポリエチレングリコール660ヒドロキシステアレート)、ポリエチレングリコールおよび12-ヒドロキシステアリン酸のポリグリコールエステル、ならびにその混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項8】
前記ジクロフェナク塩が、ジクロフェナクのナトリウム、カリウム、ピロリジン、ピペリジン、N-ヒドロキシエチレンピロリジン、N-ヒドロキシエチレンピペリジン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エチレンジアミンおよびジエチルアミン塩から選択されることを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項9】
前記共溶媒が、製薬学的に許容し得るアルコール類および多価アルコール類からなる群から選択される前記請求項のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項10】
前記共溶媒が、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、グリセロール、プロピレングリコール、1, 3-ブチレングリコールおよびその混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項9に記載の医薬製剤。
【請求項11】
前記共溶媒が、2-プロパノール、グリセロールまたはその混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項10に記載の医薬製剤。
【請求項12】
前記製剤が、2%〜4%(w/v)の範囲の量の前記ジクロフェナクの製薬学的に許容し得る塩を含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項13】
前記製剤が、5%〜25%(w/v)の範囲の量の前記ヒドロキシ脂肪酸の少なくとも一種のポリオキシアルキレンエステルを含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一つに記載の医薬製剤。
【請求項14】
前記製剤が、3%〜30%(w/v)の範囲の量の前記共溶媒を含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項15】
前記製剤が、10%〜20%(w/v)の範囲の量の前記共溶媒を含むことを特徴とする請求項14に記載の医薬製剤。
【請求項16】
前記製剤が、7〜9の範囲のpH値を有することを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項17】
前記製剤が、溶液、軟膏、クリーム、スプレー、泡、パップ型絆創膏を含む局所製剤の群から選択されることを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の医薬製剤。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2012−510439(P2012−510439A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537921(P2011−537921)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064971
【国際公開番号】WO2010/060798
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(505473673)アドヴァンス ホールディングス リミテッド (2)
【Fターム(参考)】