説明

ジクロフェナクナトリウムを封入した後眼部到達用ポリマーコーティングリポソーム

【課題】外眼部投与であっても後眼部に薬物が到達する点眼剤として利用可能なリポソームであって、そのリポソームが確実に薬物を封入することが可能で、またその薬物を長時間保持できる安定性の高いリポソームを含む医薬組成物の提供。
【解決手段】(A)リン脂質と(B)膜強化物質を構成成分として含み、(C)薬物として非ステロイド性抗炎症薬を封入し、平均粒子径が1μm以下であることを特徴とする後眼部到達用リポソームあるいは(E)ポリマーによりコーティングを施したリポソームである。このリポソームは安定性が高く、薬物を確実に封入でき、また長時間保持可能であることから、外眼部投与であっても、後眼部における薬物の移行性が向上できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソームを用いた後眼部炎症性疾患用医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
黄斑変性症、糖尿病性網膜症、ブドウ膜炎等の後眼部炎症性疾患に対する薬剤治療では、結膜下注射、テノン嚢下注射、硝子体注射等の侵襲的局所投与が臨床利用されており、点眼による非侵襲的局所投与は行われていない。これは通常の水性点眼液では薬物の生物学的利用能が低いことに加え、薬物の後眼部移行を阻止するための眼のバリア機能が存在しているために、薬物の後眼部到達量が極めて少ないことによる。
侵襲的局所注射は硝子体出血、網膜剥離、感染症等の合併症を引き起こす可能性があり、そのような懸念のない、点眼により後眼部移行性を高める製剤の登場が望まれている。
リポソームを点眼に利用することは報告されていたが、後眼部まで薬剤を到達させることに成功した例はなかった。リポソームの平均粒子径をサブミクロンサイズとすることで、後眼部疾患の予防または治療に有効な薬物を封入し、後眼部到達が可能なリポソーム製剤が製造可能であることが見いだされた(特許文献1)。
しかし、本発明者らが精査したところ、リポソーム中に薬物を封入するには前述した方法では確実ではないこと、また薬物を封入したリポソームは未封入のリポソームと性質が異なることが判明した。
つまり、薬物によってはリポソームの構成成分により薬物の封入率やリポソーム径が変化する現象が起き、薬物濃度によってはリポソームが凝集する現象が起こるため問題となることがわかった。
【特許文献1】WO2009/107753
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、点眼による非侵襲的局所投与による薬剤治療を可能とするためには、水溶液中において安定性が高く、目標とする患部まで薬剤を確実に到達することが可能なリポソームを含む医薬組成物が必要である。
特に、外眼部投与であっても後眼部に到達する後眼部炎症性疾患用医薬組成物を提供するために、安定性の高いリポソームが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記課題を達成しうるという知見に基づいて完成されたものであり、以下に示す発明によって達成されるものである。
1. (A)リン脂質及び(B)膜強化物質を構成成分として含み、(C)薬物として非ステロイド性抗炎症薬を封入し、平均粒子径が 1 μm 以下であることを特徴とする後眼部到達用リポソーム。
2. (D)電荷物質を構成成分として含む1記載の後眼部到達用リポソーム。
3. (E)ポリマーによってコーティングされた1記載の後眼部到達用リポソーム。
4. (A)リン脂質が、ジステアロイルフォスファチジルコリン、ジパルミトイルフォスファチジルコリン、ジミリストイルフォスファチジルコリン、ジラウロイルフォスファチジルコリン、エッグフォスファチジルコリン、水素添加フォスファチジルコリンよりなる群から少なくとも 1 種類を含む1〜3記載のリポソーム。
5. (B)膜強化物質が、コレステロール、ジヒドロコレステロール、コレステロールエステル、コレスタノール、デヒドロコレステロール、ラノリン脂肪酸コレステリル、イソステアリン酸コレステリル、12-ヒドロキシステアリン酸コレステリル、リシノール酸コレステリル、マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル、フィトステロール、シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、ラノステロール、2, 4-ジヒドロラノステロール、1-O-ステロールグルコシド、1-O-ステロールマルトシド、1-O-ステロールガラクトシドからなる群から少なくとも 1 種類を含む1〜3記載のリポソーム。
6. (D)電荷物質が、ジセチルフォスフェート、ジパルミトイルフォスファチジルグリセロール及びこれらの誘導体からなる群から少なくとも 1 種類を含む2記載のリポソーム。
7. (E)ポリマーが、ポリビニルアルコール、末端疎水化ポリビニルアルコールによってコーティングされた3記載のリポソーム。
8. 1〜7記載のリポソームを含む医薬組成物。
9. 剤形が点眼剤である、8記載の医薬組成物。
10.(C)薬物がジクロフェナク、ブロムフェナク、インドメタシン、プラノプラフェン、またはこれらの薬学的に許容可能な塩からなる群から選ばれる少なくとも 1 つを封入した1記載のリポソームを含む医薬組成物。
【発明の効果】
【0005】
本発明のリポソームあるいはポリマーコーティングリポソームは、非ステロイド性坑炎症薬と共に後眼部に到達可能であり、かつ十分な組織中濃度を有している。また、本発明の医薬組成物を点眼した場合、薬物の前眼部移行量は、通常の点眼用水性組成物を点眼した場合と比べ抑制される。すなわち、本発明のリポソームあるいはポリマーコーティングリポソームを含む医薬組成物は、標的組織への到達性が高く、薬物の副作用の軽減が期待される。これにより、非侵襲的局所投与法である点眼による、後眼部炎症性疾患の治療が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に用いる(A)リン脂質は、本発明の効果が得られれば特に制限はないが、ジステアロイルフォスファチジルコリン( L-α-distearoyl phosphatidilcholine、以下、DSPCとする。)、ジパルミトイルフォスファチジルコリン、ジミリストイルフォスファチジルコリン、ジラウロイルフォスファチジルコリン、エッグフォスファチジルコリン( Egg phosphatidylcholine、以下、EPC とする。)、水素添加フォスファチジルコリンが好ましい。また、DSPC 及び EPC がさらに好ましく、DSPC が長時間薬物を保持できるリポソームを調製可能であることから、特に好ましい。
【0007】
本発明に用いる(A)リン脂質の使用濃度は、通常 1 mM 〜 200 mM の範囲が好ましく、10 mM 〜 50 mM の範囲がサブミクロンサイズのリポソームを調製可能な点でさらに好ましい。
【0008】
本発明に用いる(B)膜強化物質は、本発明の効果が得られれば特に制限はないが、コレステロール、ジヒドロコレステロール、コレステロールエステル、コレスタノール、デヒドロコレステロール、ラノリン脂肪酸コレステリル、イソステアリン酸コレステリル、12-ヒドロキシステアリン酸コレステリル、リシノール酸コレステリル、マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル、フィトステロール、シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、ラノステロール、2, 4-ジヒドロラノステロール、1-O-ステロールグルコシド、1-O-ステロールマルトシド、1-O-ステロールガラクトシド等が挙げられ、好ましくはコレステロールである。
【0009】
本発明における(B)膜強化物質の使用濃度範囲は、適度な硬さのリポソームを調製可能なため、0.01 mM 〜 100 mM が好ましく、0.1 mM 〜 10 mM がより好ましい。
【0010】
本発明に用いる(C)薬物(あるいは薬剤)としては、非ステロイド性抗炎症薬(以下、NSAIDS とする。)としては、好ましくはアリール酢酸誘導体(例えばブロムフェナク、ブフェキサマク、ジクロフェナク、イブフェナク、エトドラク、フェルビナク、インドメタシン)、アリールカルボン酸(例えばケトロラク)、アリールプロピオン酸誘導体(例えばプラノプラフェン)、サリチル酸誘導体(例えばアスピリン、アセチルサリチル酸カルシウム、サリチル酸グリコール、アセチルサリチル酸フェニル、サリチル酸フェニル、サラセタミド、サリチルアミド-O-酢酸、サリチル硫酸、サルサレート、スルファサラジン)、チアジンカルボキサミド(例えばアンピロキシカム、ドロキシカム、イソキシカム、ロルノキシカム、ピロキシカム、テノキシカム、メロキシカム)、これらの薬学的に許容可能な塩、これらの組み合わせ、これらの混合物が挙げられるが、これらに限られるわけではない。
NSAIDSでさらに好ましくは、ブロムフェナク、ジクロフェナク、インドメタシン、プラノプラフェン、あるいはこれらの薬学的に許容可能な塩である。
【0011】
本発明のリポソームに封入する(C)薬物の濃度範囲としては、特に制限はないが、好ましくは 0.01 〜 20 mg/mL であり、より好ましくは 0.1 〜 10 mg/mL である。(C)薬物の濃度範囲として、1 〜 5 mg/mL である場合に、リポソームに確実に封入し、長時間保持可能である点で特に好ましい。
【0012】
本発明に用いる(D)電荷物質としては、薬物によっては薬物を封入するために電荷物質を添加してもよい。
(D)電荷物質としては、負電荷物質としてジセチルフォスフェート( Dicetyl
phosphate 、以下、DCP ともいう。)、ジパルミトイルフォスファチジルグリセロールが好ましく、正電荷物質としてステアリルアミンなどが好ましい。
【0013】
本発明における(D)電荷物質の使用濃度範囲は、本発明の効果が得られれば特に制限はないが、好ましくは0.01
mM 〜100 mM 、より好ましくは 0.05 〜 10 mM であって、リポソームに適度な電荷を附加する点で 0.1 mM 〜 4 mM が特に好ましい。
【0014】
本発明に用いられる(E)ポリマーとして、好ましいポリマーは、ポリビニルアルコール(以下、PVA ともいう。)、末端を疎水化したポリビニルアルコールであって、好ましい理由は高い分散状態の安定したリポソームを調製可能な点である。
前述のポリビニルアルコールを疎水化する方法として、ヘキシル基、C16H33S- のような疎水基で末端を処理したものがさらに好ましく、C16H33S- で疎水化した末端をもつポリビニルアルコール(以下、PVA-R ともいう。)が特に好ましい。
【0015】
本発明の組成物において、(E)ポリマーの使用濃度範囲は、水などの溶媒や緩衝液に溶解することが可能な、0.001 〜 50 ( w/v )%の範囲が好ましく、0.01 〜 10 ( w/v )%の範囲がリポソームの表面に適度な厚さのコーティング層を形成する点でさらに好ましい。
【0016】
本発明のリポソームにおいて、構成成分の(A)リン脂質または(B)膜強化物質のモル比を(A)/(B)とした場合に、好ましくは(A)40 〜 1 /(B)10 〜 0.5、さらに好ましくは(A)30 〜 5 /(B)5 〜 0.5 である。
また、(D)電荷物質を加えた場合のモル比は、(A)リン脂質と(B)膜強化物質及び(D)電荷物質のモル比は(A)mM /(D)mM /(B)mM とした場合に、好ましくは(A)40 〜1 /(D)10 〜 0 /(B)10 〜 0.1、さらに好ましくは(A)30 〜 5 /(D)5 〜 0 /(B)5 〜 0.5である。
【0017】
本発明のより好ましい実施態様は、10 〜 50 mM ( 0.79 〜 3.95 ( w/v )%)の(A)リン脂質、及び/または 0.01 〜 10 mM ( 0.04
〜 0.39 ( w/v )%)の(B)膜強化物質で構成されたリポソームに、(C)薬物として0.1 〜 10 mg/mL を封入したリポソームを含む医薬水性組成物である。
あるいは上記のリポソームを 0.1 〜 2 ( w/v )%の(E)ポリマーによってコーティングしても良い。
【0018】
前記とは別に本発明のより好ましい実施態様は、10 〜 50 mM の(A)リン脂質、0.1 〜 10 mM の(B)膜強化物質、0.01 〜 10 mM の(D)電荷物質で構成されたリポソームに、0.1 〜 10 mg/mL の(C)薬物を封入したリポソームを含む医薬水性組成物である。
【0019】
本発明のリポソームの調製法は、薬物を封入するために、薄膜水和法、酢酸カルシウム勾配法が好ましい。確実に薬物を封入するためには酢酸カルシウム勾配法によりリポソームを調製することがさらに好ましい。
上記調製法により作成したリポソームは凍結融解を繰り返す凍結融解法により、リポソーム内に薬物の封入率が高いリポソームである Froze and Thawed liposome (以下、FT Lip という。)を調製することが可能である。
調製したリポソームを高圧下でメンブレンフィルターに通すことにより均一に細分化し、サブミクロンサイズとすることが可能であるエクストルーダーを用いるエクストルージョン法が好ましい。また、エクストルージョン法以外にも、超音波照射法を適用しても良い。
更に上記調製法を組み合わせることも可能である。
特に好ましい方法としては、酢酸カルシウム勾配法、凍結融解法、エクストルージョン法の組み合わせである。
【0020】
酢酸カルシウム勾配法を用いたリポソーム調製法は、次のような工程を含む。
適当な容器にリポソームの構成成分を添加し、クロロホルム等の有機溶媒に溶解後、ロータリーエバポレーターにかけ、加熱及び減圧下において溶媒を除去し、容器内に薄膜を形成させ、その薄膜を温水浴において酢酸カルシウム水溶液で水和する。
その後、リポソーム懸濁液を HBSS-MES 緩衝液を透析液として、透析すると、リポソーム内外の酢酸の濃度勾配により、リポソーム内の酢酸が透析液に溶出し、リポソーム内は pH 値が上昇する。リポソーム懸濁液に低 pKa もしくは弱酸性の薬物を加えることにより、非解離型の薬物が内相で解離状態となることで、薬物がリポソーム内に取り込まれる。よって、薬物を封入したリポソームとなる。
【0021】
HBSS とは、ハンクス平衡塩溶液( Hank’s balanced salt solution )である。
MES とは、2-Morpholinoethanesulfonic acid, monohydrate である。
【0022】
本発明におけるリポソームの平均粒子径は 1 μm 以下であることが好ましく、より好ましくは 500 nm 以下であり、80 〜
300 nm であることがさらに好ましく、100 〜 200
nm が特に好ましい。
【0023】
本発明のリポソームを含む組成物を調製するにあたり、医薬組成物として許容し得る等張化剤、可溶化剤、保存剤及び安定化剤などを必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において本発明の組成物に添加することができる。等張化剤としては、ブドウ糖等の糖類、プロピレングリコール、グリセリン、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどが挙げられる。可溶化剤としては、ポリソルベート 80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。保存剤としては塩化ベンザルコニウ厶、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジンなどの逆性石鹸類、パラヒドロキシ安息香酸メチル、パラヒドロキシ安息香酸プロピル、パラヒドロキシ安息香酸ブチル等のパラベン類、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウムなどの有機酸及びその塩類が挙げられる。また、その他の添加剤としては、ポリビニルアルコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールもしくはポリアクリル酸ナトリウ厶等の増粘剤、エチレンジアミン四酢酸及びそれらの医薬品として許容される塩、トコフェロール及びその誘導体、亜硫酸ナトリウムなどの安定化剤が挙げられる。
【0024】
本発明の医薬組成物は、その特性を生かして点眼剤、眼軟膏、点鼻剤、点耳剤、注射剤などの剤形で使用することが好ましく、最も好ましい剤形は点眼剤である。
【0025】
以下に、本発明のリポソームの調製法を例示する。
【実施例】
【0026】
<実施例1及び実施例2>
〔酢酸カルシウム勾配法によるリポソーム調製法〕
ナスフラスコに、リン脂質( DSPC あるいは EPC )、膜強化物質としてコレステロールを、任意の量はかりとり、クロロホルムに溶解させた。その溶液をロータリーエバポレーターにより、40 ℃の水浴上でクロロホルムを減圧留去し、脂質薄膜を調製した。脂質薄膜を一晩減圧乾燥した後で、70 ℃の水浴中で 120 mM 酢酸カルシウム水溶液 2 mL を用いて水和し、10 ℃で
30 分間インキュベートして、Multi-lamella vesicle liposome (以下、MLV とする。)懸濁液とした。
MLV 懸濁液を -100 ℃の予備凍結機で 5 分間凍結した後、40 ℃の水浴中で 5 分間融解させ、浴槽型超音波により、37 kHz で 30 秒処理した。このサイクルを 4 回繰り返し、マイクロサイズのリポソームとし、FT Lip 懸濁液とした。FT Lip 懸濁液をエクストルーダーによって粒子径を調整し、Submicron
sized small uni-lamella vesicle liposome (以下、ssLipとする。)懸濁液とした。
ssLip懸濁液 1
mL を透析チューブ( MWCO : 12 〜 14,000 )に入れ、100 mL HBSS-MES 緩衝液に浸し、2 時間の透析を 2 回行なった。透析チューブから ssLip 懸濁液 1 mLを採取し、HBSS-MES
緩衝液と ssLip 懸濁液を等量混合した後、ジクロフェナクナトリウム水溶液を任意の薬物濃度となるように加えた。
調製した懸濁液を
37 ℃で 10 分間、10 ℃で 1 時間保存し、ジクロフェナクナトリウムを封入したリポソーム懸濁液を得た。
上記において、リン脂質として DSPC を使用したリポソーム懸濁液を実施例1、リン脂質として EPC を使用したリポソーム懸濁液を実施例2とし、表1に組成を示した。
【0027】
<比較例1〜6>
〔薄膜水和による負電荷リポソーム調製法〕
ナスフラスコに、リン脂質( DSPC あるいは EPC )、負電荷物質としてジセチルフォスフェート、膜強化物質としてコレステロールを、リン脂質 / 負電荷物質 / 膜強化物質= 8
/ 2 / 1 のモル比となるように量りとり、適当量のクロロホルムに溶解した。その溶液をロータリーエバポレーターにより、40 ℃の水浴上でクロロホルムを減圧留去し、脂質薄膜を調製した。脂質薄膜を一晩減圧乾燥して、70 ℃の水浴中でジクロフェナクナトリウム水溶液を用いて任意の薬物濃度となるように水和し、10 ℃で30分間インキュベートし、MLV
懸濁液とした。MLV 懸濁液をエクストルーダーにより粒子径を調整し、ssLip 懸濁液とした。
【0028】
〔薄膜水和法による正電荷リポソーム調製法〕
ナスフラスコに、リン脂質( DSPC あるいは EPC )、正電荷物質としてステアリルアミン、膜強化物質としてコレステロールを、リン脂質 / 正電荷物質 / 膜強化物質= 8
/ 0.2 / 1 のモル比となるように量りとり、適当量のクロロホルムに溶解した。その溶液をロータリーエバポレーターにより、40 ℃の水浴上でクロロホルムを減圧留去し、脂質薄膜を調製した。脂質薄膜を一晩減圧乾燥して、70 ℃の水浴中で 0.1 ( w/v )%ジクロフェナクナトリウム水溶液 2 mL を用いて水和し、10 ℃で
30 分間インキュベートし、MLV 懸濁液とした。MLV 懸濁液をエクストルーダーにより粒子径を調整し、ssLip 懸濁液とした。
【0029】
〔薄膜水和法による中性リポソーム調製法〕
ナスフラスコに、リン脂質( DSPC あるいは EPC )、膜強化物質としてコレステロールを、リン脂質 / コレステロール= 8 / 1 のモル比となるように量りとり、適当量のクロロホルムに溶解した。その溶液をロータリーエバポレーターにより、40 ℃の水浴上でクロロホルムを減圧留去し、脂質薄膜を調製した。脂質薄膜を一晩減圧乾燥して、70 ℃の水浴中で 0.1 ( w/v )%ジクロフェナクナトリウム水溶液 2 mL を用いて水和し、10 ℃で
30 分間インキュベートし、MLV 懸濁液とした。MLV 懸濁液をエクストルーダーにより粒子径を調整し、ssLip 懸濁液とした。
【0030】
薬物をジクロフェナクナトリウムとし、薄膜水和‐エクストルージョン法により調製したリポソームであって、リン脂質が DSPC である ssLip 懸濁液において、負電荷リポソームを比較例1、正電荷リポソームを比較例2、中性リポソームを比較例3とした。また、リン脂質が EPC である ssLip 懸濁液において、負電荷リポソームを比較例4、正電荷リポソームを比較例5、中性リポソームを比較例6とした。
【0031】
<比較例7>
ジクロフェナクナトリウム 0.1 g を精製水 100 mL に溶解した 0.1 %ジクロフェナクナトリウム水溶液を比較例7とした。
【0032】
<試験例1 リポソームにおけるジクロフェナクナトリウムの封入率>
後述表1の実施例1及び実施例2、比較例1〜6のリポソーム懸濁液をメタノールで 100 倍希釈し、希釈液のジクロフェナクナトリウム濃度を HPLC 法により測定した。これを薬物全濃度として算出した。
上記実施例1及び実施例2、比較例1〜6のリポソーム懸濁液を超遠心機により分離した。その上澄みをメタノールで 100 倍希釈し、ジクロフェナクナトリウム濃度をHPLC 法で測定した。これを未封入薬物濃度とした。
薬物全濃度、未封入薬物濃度から次の式により薬物封入率を求めた。

薬物封入率(%)=(薬物全濃度−未封入薬物濃度)/薬物全濃度×100

【0033】
後述表1の実施例1及び実施例2、比較例1〜6のリポソームの平均粒子径は、Zetasizer nano ZS ( MALVERN INSTRUMENT Ltd.,
UK )を用いて、DLS 法により、調製時に測定した。
【0034】
後述表1の実施例1及び実施例2、比較例1〜6のリポソームのζ電位は、Zetasizer nano ZS ( MALVERN INSTRUMENT Ltd.,
UK )を用いて、レーザードップラー法により測定した。

以上の結果を、表1に示した。
【表1】

【0035】
表1より、薄膜水和法で調製したリポソームの中でも比較例5が示すように、薬物封入率は 90.4 %であった。酢酸カルシウム勾配法で調製したリポソームである実施例1及び実施例2は、比較例5よりも薬物封入率が高く、実施例1では 93.3 %、実施例2では 99.4 %であった。
表1より、サブミクロンサイズのリポソームであっても、薬物を封入することは可能であった。また、酢酸カルシウム勾配法により調製したリポソームである実施例1及び実施例2のほうが、やや高い薬物封入率を示すことがわかった。
【0036】
<試験例2 放出試験>
実施例1及び実施例2、比較例3及び比較例6のリポソーム懸濁液と、比較例7のジクロフェナクナトリウム水溶液のそれぞれを透析チューブ( MWCO : 12 〜 14,000 )へ入れた。透析液をリン酸緩衝生理食塩水 49.5 mL とし、透析チューブを浸して静かに透析液を攪拌した。各時間において透析液
200 μL を分取し、替わりに新しいリン酸緩衝生理食塩水を補充した。分取した透析液 200 μL はメタノールで等倍希釈して、HPLC 法でジクロフェナクナトリウム濃度を測定した。これをリポソームから放出した薬物濃度とした。下記計算式より薬物放出率を求めた。

薬物放出率(%)=リポソームから放出したジクロフェナクナトリウム濃度/全ジクロフェナクナトリウム濃度×100

結果を図1に示した。
【0037】
比較例3は試験開始から約 1 時間で 8 割の薬物を放出した。比較例6は試験開始から約 6 時間で 8 割の薬物を放出した。実施例1及び実施例2は、試験開始から 0.5時間まで薬物放出が見られなかった。実施例2では 24 時間を経過して約 8 割の薬物を放出した。実施例1では 24 時間経過しても薬物の放出は 5 割であった。
実施例1、実施例2と比較例6の薬物放出率を比較すると、リポソーム調製時において、表1のように同程度の薬物封入率を示していても、酢酸カルシウム勾配法によって調製したリポソームのほうがリポソーム内の薬物保持能が高いことが明らかである。
これによって、酢酸カルシウム勾配法によって調製したリポソームは、ゆっくりと薬物を放出することが可能であるから、医薬組成物として徐放性に優れたリポソームを作成可能である。
【0038】
<試験例3 安定性試験>
実施例1及び実施例2、比較例3及び比較例6のリポソーム懸濁液を 10 ℃で保存し、各日の薬物封入率と粒子径を前述と同様に測定した。薬物封入率の結果を図2に示した。
【0039】
図2より、比較例3は試験開始から7日まで 50 %の薬物封入率を示した。比較例6は試験開始から 7 日まで一定して 80 %の薬物封入率を示した。比較例に対して、実施例1及び実施例2では、7 日間一定して 100 %の薬物封入率を維持していた。
【0040】
実施例2は、7 日間一定して約 100 nm の粒子径を維持していた。
【0041】
酢酸カルシウム勾配法によって調製したリポソーム、実施例1及び実施例2は、内部に確実に薬物を封入するだけでなく、薬物を長時間保持できることが明らかであった。
実施例1においては、実施例2よりも長時間薬物を保持できることが示された。
【0042】
実施例1において、粒子径を小さくし、安定性を向上するため、発明者らはリポソームにポリマーをコーティングする方法を見出した。
【0043】
〔ポリマーコーティングしたリポソームの調製法〕
ナスフラスコに、リン脂質として DSPC、膜強化物質としてコレステロールを、任意のモル比となるように量りとり、適当量のクロロホルムに溶解した。その溶液をロータリーエバポレーターにより、40 ℃の水浴上でクロロホルムを減圧留去し、脂質薄膜を調製した。
脂質薄膜を一晩減圧乾燥して、70 ℃の水浴中で 120 mM 酢酸カルシウム溶液 2 mL を用いて水和し、10 ℃で
30 分間インキュベートし、MLV 懸濁液とした。
MLV懸濁液を -100 ℃の予備凍結機で 5 分間凍結した後、40℃の水浴中で5分間融解させ、浴槽型超音波によって、37 kHz で 30 秒処理した。このサイクルを 4 回繰り返し、マクロサイズのリポソームとし、FT Lip 懸濁液とした。FT Lip 懸濁液をエクストルーダー( Lipex Biomembranes 社製)により粒子径を調整し、ssLip 懸濁液とした。
0.2、1.0、2 % PVA 水溶液、0.2、1.0、2 % PVA-R 水溶液のうち 1 種類を
ssLip 懸濁液 1 mL に添加し、20 分間攪拌して等量混合した。その液を 10 ℃で 1 〜 10 時間保存し、ポリマーコーティング-ssLip 懸濁液とした。
ポリマーコーティング-ssLip 懸濁液 1 mL を透析チューブ( MWCO:12 〜 14,000 )に入れ、100 mL HBSS-MES 緩衝液に浸し、2 時間の透析を 2 回行なった。透析チューブからポリマーコーティング-ssLip 懸濁液を採取し、ジクロフェナクナトリウムを薬物濃度が 1 mg/mL となるように加えた。
調製した懸濁液を 37 ℃で 10 分間、10 ℃で 1 時間保存し、薬物を封入したリポソーム懸濁液を得た。調製したリポソーム懸濁液を表2に示した。
【0044】
<実施例3〜6、比較例8>
1.0 % PVA 水溶液でリポソームをコーティングした ssLip 懸濁液を実施例3とした。
1.0 % PVA-R 水溶液でリポソームをコーティングした ssLip 懸濁液を実施例4とした。
0.2 % PVA 水溶液でリポソームをコーティングした ssLip 懸濁液を実施例5とした。
0.2 % PVA-R 水溶液でリポソームをコーティングした ssLip 懸濁液を実施例6とした。
0.1 %ジクロフェナクナトリウム水溶液及び 1 % PVA-R 水溶液を混合したものを、比較例8とした。
【0045】
<試験例4 ポリマーコーティングリポソームにおけるジクロフェナクナトリウムの薬物封入率及び安定性>
試験例1と同様に、実施例1、実施例3及び実施例4の薬物封入率、粒子径、ζ電位を測定した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
PVA または PVA-R でコーティングしたリポソームである実施例3及び実施例4は、比較例3のリポソームより薬物封入率が高く、実施例1とほぼ同等であった。よって、90 %を超える薬物を保持することが可能であった。
実施例3及び実施例4は粒子径がそれぞれ 134.8 nm、176.7 nm であって、比較例3と同等である。
ポリマーコーティングを施しても、薬物を封入したサブミクロンサイズのリポソームを調製できることが明らかとなった。
また、実施例3及び実施例4は、10 ℃で 7 日間保存しても、一定した粒子径を保持していた。
【0048】
<試験例5 ポリマーコーティングリポソームの薬物放出試験>
試験例2と同様に、実施例1〜6、比較例7及び比較例8において放出試験を行なった。各例より放出したジクロフェナクナトリウム濃度を測定し、薬物放出率を求めた。結果を図3に示した。
【0049】
比較例7及び比較例8は、1 時間経過後に 80 %程度の薬物を放出した。
実施例1〜6は、試験開始から 0.5 時間まで薬物の放出が見られなかった。
薬物を封入したリポソームである実施例1と、薬物を封入し PVA 0.2 %あるいは PVA-R 0.2 %をコーティングしたリポソームである実施例5及び実施例6は、試験開始から 8 時間を経過した時点で 30 %程度の薬物を放出するのみであって、ほぼ同等の薬物放出率であった。
PVA 1.0 %あるいは PVA-R 1.0 %をコーティングしたリポソームの実施例3及び実施例4は、試験開始から 8 時間を経過した時点で 20 %程度の薬物を放出した。
【0050】
試験例4及び試験例5の結果から、リポソームを PVA 1.0 %及び PVA-R 1.0 %でコーティングすることにより、リポソーム中に薬物を長時間保持することが可能であることが明らかとなった。また、ポリマーコーティングを施したリポソームは、サブミクロンサイズの粒子径を有し、安定性にも優れていた。
【0051】
<試験例6 高濃度ジクロフェナクナトリウムを封入したポリマーコーティングリポソームの薬物封入率>
前述したポリマーコーティングしたリポソームの調製法に従って、1.5、2、3、5 mg/mL ジクロフェナクナトリウム水溶液を封入したポリマーコーティングリポソームを調製し、試験例1と同様に薬物封入率を求めた。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3の結果より、ポリマーコーティングを施さないリポソーム、比較例9においては、ジクロフェナクナトリウム濃度が 1.5 mg/mL である場合に、粒子径は 500 nm 以上であり、封入率は 80 %未満であった。また、ポリマーコーティングを施さないリポソームにおいて、ジクロフェナクナトリウム濃度が 2.0 mg/mL 以上になると、凝集する傾向が見られた。
PVA コーティングポリマーである実施例7〜9においては、ジクロフェナクナトリウム濃度は 3.0 mg/mL であっても、80 %を越える薬物封入率であった。実施例11において、ジクロフェナクナトリウム濃度が 5.0 mg/mL という高濃度であっても、薬物封入率は 90 %であった。
PVA-R コーティングポリマーである実施例10、実施例12においては、ジクロフェナクナトリウム濃度は 5.0 mg/mL という高濃度であっても、薬物封入率は 90 〜 97 %であった。
リポソームにおいて、リン脂質濃度を上げることにより、高濃度の薬物を封入することが可能となった。
リポソームにおいて、ポリマーコーティングを施すことにより、リポソームの凝集を抑制することが可能となり、高濃度薬物を確実に封入できることが明らかとなった。
【0054】
<試験例7 高濃度のジクロフェナクナトリウムを封入したポリマーコーティングリポソームの薬物放出試験>
5.0 μg/mL ジクロフェナクナトリウム水溶液を比較例Aとし、実施例11、実施例12、比較例Aにおいて、試験例5と同様に薬物放出試験を行なった。
結果を図4に示した。
【0055】
比較例Aは、試験開始から約
1 時間で 8 割の薬物を放出した。実施例11及び実施例12は、試験開始から 8 時間を経過しても薬物の放出は 5 割であった。

【0056】
<試験例8 リポソームにおけるブロムフェナクナトリウムの薬物封入率>
薬物をブロムフェナクナトリウムとし、前述した酢酸カルシウム勾配法でリポソーム懸濁液を調製した。実施例13〜16における粒子径、ζ電位、薬物封入濃度及び薬物封入率を測定した。
薬物封入濃度は、次の式により求めた。

薬物封入濃度(
μg/mL )=薬物全濃度−未封入薬物濃度

薬物封入率は、試験1と同様に求めた。薬物封入率は、薬物封入濃度が各々のリポソームに確実に封入した実比率を示している。
その結果を表4に示した。
【0057】
薬物をブロムフェナクナトリウムとし、薄膜水和法で調製したリポソーム懸濁液を比較例10、比較例11とし、酢酸カルシウム勾配法であり、電荷物質としてジセチルフォスフェートを 5.1 mM 添加したリポソーム懸濁液を比較例12として、上記と同様に測定した。その結果を表4に示した。
【表4】

【0058】
表4より、実施例13〜16と比較例10、比較例11の薬物封入濃度を比較すると、本発明のリポソームは添加した薬物の 8 〜 9 割を封入可能であったが、比較例は1 〜 2 割であった。よって、本発明において、ブロムフェナクナトリウムを封入するリポソームの調製法は、薬物を確実に封入することができる方法として酢酸カルシウム勾配法が優れていることが明らかとなった。
酢酸カルシウム勾配法によって調製したリポソームにおいて、実施例13〜16と比較例12を比較すると、負電荷物質であるジセチルフォスフェートを添加し、成分の比率がリン脂質 / 電荷物質 / 膜強化物質= 8 /
0 〜 1 / 1 の範囲で構成された本発明のリポソームは薬物封入濃度が高かったが、リン脂質 / 電荷物質 / 膜強化物質= 8 /
2 / 1 の比率であって、負電荷物質のモル比を高くすると、薬物封入濃度は低下することがわかった。
【0059】
次に、ブロムフェナクナトリウムが 2.0、3.0 あるいは 5.0
mg/mL の濃度になるよう添加し、試験例8と同様に調製したリポソームにおける薬物封入濃度を求めた。その結果を表5に示した。
【0060】
【表5】

【0061】
負電荷物質としてジセチルフォスフェートを 5.1 mM 添加し、リン脂質 / 電荷物質 / 膜強化物質= 8 / 2 / 1 の比率で添加し調製したリポソームである比較例13は、表4の結果と同様に、薬物封入濃度がリポソーム調製時に添加した薬物濃度の 3 割と低値を示した。
リン脂質、DSPC が 20.4 mM であり、リン脂質 / 電荷物質 / 膜強化物質= 16 〜 8 / 0 〜 1 / 1 の比率である本発明の実施例17〜23は、2.0 〜 3.0 mg/mL であるブロムフェナクナトリウムを封入することが可能であった。リン脂質を40.8 mM とした実施例24は、5.0 mg/mL という高濃度であっても、リポソーム中にブロムフェナクナトリウムを 8 割以上封入することが可能であった。
【0062】
<試験例9 ブロムフェナクナトリウムを封入したポリマーコーティングリポソームの薬物放出試験>
1.0 mg/mL ブロムフェナクナトリウム水溶液を比較例Bとし、実施例13、実施例15及び比較例Bにおいて、試験例5と同様に薬物放出試験を行なった。
結果を図5に示した。
【0063】
比較例Bは、試験開始から約 1 時間で 8 割の薬物を放出した。実施例13は、試験開始から 8 時間を経過しても薬物放出率は約 2 割であった。実施例15は、試験開始から 8 時間を経過しても薬物放出率は約 3 割であった。
酢酸カルシウム勾配法により調製したブロムフェナクナトリウム封入リポソームは、大部分の薬物をリポソームの内水相に保持しており、封入した薬物を徐々に放出することが明らかとなった。また、リポソーム組成中の負電荷脂質の量を調整することで、封入したブロムフェナクナトリウムの放出率を制御できることが明らかとなった。
【0064】
<試験例10 薬物を封入したリポソーム点眼後の後眼部への移行性評価試験>
前述した実施例1を、ジクロフェナクナトリウムを封入したリポソーム点眼液とし、実施例3を PVA コーティングリポソームによる点眼剤、実施例4を PVA-R コーティングリポソームによる点眼剤として、計 3 種類を用意した。また、比較例としてジクロフェナクナトリウムを有効成分とする点眼剤である、ジクロード(登録商標)点眼液 0.1 %(わかもと製薬株式会社製)を比較例12とした。
実施例1、実施例3、実施例4は、試験日より 2 日前に調製したものを使用した。
実施例1、実施例3、実施例4、比較例12の薬物動態を以下の通りに評価した。
体重が 2.02 〜 2.38 kg である雄性の日本白色種ウサギの結膜嚢内に、実施例3及び実施例4または比較例12を 50 μL 点眼した(異なる点眼液を左右眼に点眼、各点眼剤 n = 4 眼)。点眼後 0.5、1、2、4 時間に網・脈絡膜及び房水を採取し、それぞれのジクロフェナク濃度を分析した。
網・脈絡膜における結果を図6に示す。
房水における結果を図7に示す。
【0065】
網・脈絡膜における点眼後 0.5 時間において、実施例4投与群のジクロフェナク濃度は比較例12投与群よりも高濃度で検出され、実施例1投与群よりもわずかに高い濃度で検出された。
網・脈絡膜における点眼後 0.5 時間において、実施例3投与群のジクロフェナク濃度は、比較例12投与群よりも高濃度で検出された。
点眼後 1 時間以降の各採取時間における実施例1投与群、実施例3投与群、実施例4投与群、比較例12投与群の全ては、同様の網・脈絡膜中ジクロフェナク濃度推移を示した。
【0066】
房水において、実施例1投与群、実施例3投与群、実施例4投与群のジクロフェナク濃度が比較例12投与群のジクロフェナク濃度よりも低い値で推移していた。
【0067】
以上のことから、ポリマーコーティングしたリポソーム及びコーティングしていないリポソームに薬物を封入することによって、前眼部移行が抑制され、後眼部(網・脈絡膜)移行が向上したと考えられた。
【0068】
<試験例11 高濃度薬物を封入したリポソーム点眼後の後眼部への移行性評価試験>
前述した実施例11を PVA コーティングリポソームによる点眼剤、実施例12を PVA-R コーティングリポソームによる点眼剤として用意した。また、5.0 mg/mL ジクロフェナクナトリウム水溶液を比較例Cとした。
実施例11及び実施例12は、試験日より 2 日前に調製したものを使用した。
実施例11、実施例12、比較例Cの薬物動態を以下の通りに評価した。
体重が 2.02 〜 2.38 kg である雄性の日本白色種ウサギの結膜嚢内に、実施例11及び実施例12または比較例Cを 50 μL 点眼した(異なる点眼剤を左右眼に点眼、各点眼剤 n = 6 眼)。点眼後 0.5、1、2 時間に網・脈絡膜及び房水を採取し、それぞれのジクロフェナク濃度を分析した。
網・脈絡膜における結果を図8に示す。
房水における結果を図9に示す。
【0069】
網・脈絡膜における点眼後 1 時間において、実施例11投与群のジクロフェナク濃度は、比較例C投与群よりも高濃度で検出され、実施例12投与群のジクロフェナク濃度は、比較例C投与群よりも僅かに高い値で検出された。
【0070】
房水において、実施例11投与群及び実施例12投与群のジクロフェナク濃度は比較例C投与群のジクロフェナク濃度よりも低い濃度で推移していた。
房水中における点眼後
1 時間において、実施例11投与群は実施例12投与群よりも低い濃度で検出された。
【0071】
以上のことから、ポリマーコーティングしたリポソーム及びコーティングしていないリポソームに薬物を封入することによって、前眼部移行が抑制され、後眼部(網・脈絡膜)移行が向上したと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の医薬水性組成物に含まれる NSAIDS を封入したリポソームは、安定性が高く、長時間薬物を保持することが可能であるから、外眼部投与であっても後眼部に到達可能であり、後眼部炎症を治療する点眼剤として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】調製法の異なるリポソームにおいて、ジクロフェナクナトリウムを封入した際の薬物放出率を示したものである。
【図2】調製法の異なるリポソームにおいて、ジクロフェナクナトリウムを封入した際の薬物濃度を 7 日間測定したものである。
【図3】リポソーム及びポリマーコーティングを施したリポソームにジクロフェナクナトリウムを封入した際の薬物放出率を示したものである。
【図4】ポリマーコーティングを施したリポソームに高濃度ジクロフェナクナトリウムを封入した際の薬物放出率を示したものである。
【図5】負電荷物質の比率が異なるリポソームにおいてブロムフェナクナトリウムを封入した際の薬物放出率を示したものである。
【図6】日本白色種ウサギに実施例1、3、4、及び比較例12を単回点眼した場合の網・脈絡膜中ジクロフェナク濃度の推移を示したものである。
【図7】日本白色種ウサギに実施例1、3、4、及び比較例12を単回点眼した場合の房水中ジクロフェナク濃度の推移を示したものである。
【図8】日本白色種ウサギに実施例11、12、及び比較例Cを単回点眼した場合の網・脈絡膜中のジクロフェナク濃度の推移を示したものである。
【図9】日本白色種ウサギに実施例11、12、及び比較例Cを単回点眼した場合の房水中ジクロフェナク濃度の推移を示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)リン脂質及び(B)膜強化物質を構成成分として含み、(C)薬物として非ステロイド性抗炎症薬を封入し、平均粒子径が 1 μm 以下であることを特徴とする後眼部到達用リポソーム。
【請求項2】
(D)電荷物質を構成成分として含む請求項1の後眼部到達用リポソーム。
【請求項3】
(E)ポリマーによってコーティングされた請求項1の後眼部到達用リポソーム。
【請求項4】
(A)リン脂質が、ジステアロイルフォスファチジルコリン、ジパルミトイルフォスファチジルコリン、ジミリストイルフォスファチジルコリン、ジラウロイルフォスファチジルコリン、エッグフォスファチジルコリン、水素添加フォスファチジルコリンよりなる群から少なくとも 1 種類を含む請求項1〜3記載のリポソーム。
【請求項5】
(B)膜強化物質が、コレステロール、ジヒドロコレステロール、コレステロールエステル、コレスタノール、デヒドロコレステロール、ラノリン脂肪酸コレステリル、イソステアリン酸コレステリル、12-ヒドロキシステアリン酸コレステリル、リシノール酸コレステリル、マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル、フィトステロール、シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、ラノステロール、2, 4-ジヒドロラノステロール、1-O-ステロールグルコシド、1-O-ステロールマルトシド、1-O-ステロールガラクトシドよりなる群から少なくとも1種類を含む請求項1〜3記載のリポソーム。
【請求項6】
(D)電荷物質が、ジセチルフォスフェート、ジパルミトイルフォスファチジルグリセロール及びこれらの誘導体よりなる群から少なくとも 1 種類を含む請求項2記載のリポソーム。
【請求項7】
(E)ポリマーが、ポリビニルアルコール、末端疎水化ポリビニルアルコールによりコーティングされた請求項3記載のリポソーム。
【請求項8】
請求項1〜7記載のリポソームを含む医薬組成物。
【請求項9】
剤形が点眼剤である、請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
(C)薬物が、ジクロフェナク、ブロムフェナク、インドメタシン、プラノプラフェン、またはこれらの薬学的に許容可能な塩からなる群から選ばれる少なくとも 1 つを封入した請求項1に記載のリポソームを含む医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−246464(P2011−246464A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100715(P2011−100715)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000100492)わかもと製薬株式会社 (22)
【Fターム(参考)】