説明

ジシクロペンタジエンの精製方法

【課題】 蒸留精製されたジシクロペンタジエン含有留分の色相を改善できるジシクロペンタジエンの精製方法を提供すること。
【解決手段】 上記課題を解決するジシクロペンタジエンの精製方法は、蒸留精製されたジシクロペンタジエン含有留分を、不活性ガス又は炭素数1〜3の炭化水素ガスと接触させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジシクロペンタジエンの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記構造式で示されるジシクロペンタジエン(DCPD)は、例えば、エチリデンノルボルネン、シクロオレフィンポリマーなどの化合物を製造するための出発原料として汎用されているが、用途によっては高純度のものが必要とされる場合もある。
【化1】



ジシクロペンタジエン(DCPD)
【0003】
高純度のDCPDを製造する方法として、例えば、下記特許文献1には、ナフサの熱分解により得られるC5留分中に含まれるシクロペンタジエンを二量化してジシクロペンタジエンとし、その後、複数の蒸留塔によって蒸留を繰り返す方法が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特公平7−39354号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高純度のDCPDを使用する場合は一般的に、純度のみならず色相が良好であることが要求される。ジシクロペンタジエンの製造における経済性を考慮すると蒸留工程は少ないことが望ましいが、そうした場合に色相を改善する方法について検討された例はない。
【0006】
本発明は、蒸留精製されたジシクロペンタジエン含有留分の色相を改善できるジシクロペンタジエンの精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ジシクロペンタジエンを含む被蒸留物から一回の蒸留によって高純度ジシクロペンタジエンを得る方法を検討するなかで、蒸留塔の塔頂部から蒸留分離された有色の留分に特定のガスを接触させることにより、色の除去が可能であり、色相に優れたジシクロペンタジエンを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のジシクロペンタジエンの精製方法は、蒸留精製されたジシクロペンタジエン含有留分を、不活性ガス又は炭素数1〜3の炭化水素ガスと接触させることを特徴とする。
【0009】
本発明のジシクロペンタジエンの精製方法によれば、蒸留精製されたジシクロペンタジエン含有留分の色相を改善することができ、色相に優れたジシクロペンタジエンを得ることが可能となる。
【0010】
また、本発明のジシクロペンタジエンの精製方法は、気液接触装置などの設備で十分な色相改善効果を得ることができることから、吸着剤の使用や晶析による方法などに比べて運転コスト及び設備的コストの点で有利である。
【0011】
本発明のジシクロペンタジエンの精製方法において、上記留分を窒素又はメタンと接触させることが好ましい。これらのガスは、石油精製や石油化学の工場において入手や取り扱いが容易であり安価である点で好ましい。
【0012】
また、本発明のジシクロペンタジエンの精製方法においては、分解ガソリンの二量化反応による反応生成物由来の被蒸留物から蒸留精製されたものを上記留分とすることができる。なお、本明細書において分解ガソリンとは、エチレン装置の副生物であるC5〜C9留分を意味する。
【0013】
上記留分の色相を改善できることにより、分解ガソリンの二量化反応による反応生成物から付加価値の高いジシクロペンタジエンをより多く経済性よく得ることが可能となる。
【0014】
また、本発明のジシクロペンタジエンの精製方法において、上記留分が、ジシクロペンタジエンを85〜99質量%含み、シクロペンタジエン及びメチルシクロペンタジエンを合計で0.1〜10質量%含むことができる。本発明によれば、このような留分からも、シクロペンタジエン及びメチルシクロペンタジエンなどの軽質不純物が十分除去され且つ色相に優れたジシクロペンタジエンを得ることができる。この場合、より高純度のジシクロペンタジエンを取り出した残りの留分から、効率よく有用なジシクロペンタジエンを回収でき、ジシクロペンタジエンの製造における経済性を更に向上させることが可能となる。
【0015】
また、本発明のジシクロペンタジエンの精製方法は、上記留分の色相がAPHAで100を超え、その色相をAPHAで100以下にすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、蒸留精製されたジシクロペンタジエン含有留分の色相を改善できるジシクロペンタジエンの精製方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
図1は、本発明のジシクロペンタジエンの精製方法が実施されるジシクロペンタジエンの精製装置の一例を示すフロー図である。図1に示される精製装置100は、ジシクロペンタジエンが含まれる被蒸留物を蒸留する蒸留塔10、及び、蒸留塔10で蒸留精製されたジシクロペンタジエンを含む第1の留分と不活性ガス又は炭素数1〜3の炭化水素ガスとを接触させる蒸留塔20を備えている。そして、蒸留塔10には、ジシクロペンタジエンが含まれる被蒸留物を蒸留塔10に供給するための供給ラインL1が接続されている。また、蒸留塔10と蒸留塔20とが移送ラインL2で接続されており、この移送ラインL2を通じて、蒸留塔10で蒸留精製されたジシクロペンタジエンを含む第1の留分が蒸留塔20に供給される。更に、蒸留塔10には、蒸留塔10で蒸留精製されたジシクロペンタジエンを含む第2の留分を取り出す回収ラインL3が接続されている。また、蒸留塔20には、蒸留塔20に不活性ガス又は炭素数1〜3の炭化水素ガスを供給するための供給ラインL5と、蒸留塔20から色相が改善されたジシクロペンタジエン含有液を取り出す回収ラインL6と、蒸留塔20から軽質分を取り出す回収ラインL7とが接続されている。そして、蒸留塔20において、本発明のジシクロペンタジエンの精製方法が実施される。
【0019】
ジシクロペンタジエンが含まれる被蒸留物としては、分解ガソリンの二量化反応による反応生成物由来のもの、シクロペンタジエンやメチルシクロペンタジエンなど、ジシクロペンタジエンよりも軽質な留分を不純物として含んでいるジシクロペンタジエン含有液を用いることができる。
【0020】
回収ラインL3から高純度のジシクロペンタジエンを一回の蒸留によって効率よく得る観点から、被蒸留物は、分解ガソリンの二量化反応による反応生成物由来のものであることが好ましい。なお、分解ガソリンとは、エチレン装置の副生物であるC5〜C9留分を意味する。更に、同様の観点から、分解ガソリンは、LPGクラッカーから得られるものが好ましい。なお、LPGクラッカーとは、C2留分、C3留分及びC4留分を原料としたエチレン装置のことをいう。
【0021】
更に本実施形態においては、上記被蒸留物として、LPGクラッカーの分解ガソリンの二量化反応による反応生成物から未反応のC5留分及びBTX留分を除去したものを、蒸留塔10に供給することが好ましい。未反応のC5留分およびBTX留分は、通常の蒸留精製によりそれぞれ除去できる。
【0022】
上記の被蒸留物においては、イソプロペニルノルボルネン(IPNB)とプロペニルノルボルネン(PNB)の合計含有量が、ジシクロペンタジエンに対して4質量%未満の割合であることが好ましい。
【0023】
なお、上記反応生成物由来の被蒸留物には、イソプロペニルノルボルネン(IPNB)及びプロペニルノルボルネン(PNB)以外に、メチルテトラヒドロインデン(MeTHI)、メチルジシクロペンタジエン(MeDCPD)などが含まれる可能性がある。これらの化合物はそれぞれ、下記構造式で示される化合物を指す。
【0024】
【表1】



【0025】
蒸留塔10としては、公知の蒸留塔を使用できる。蒸留塔10では、上記被蒸留物を、例えば、シクロペンタジエン(CPD)及びメチルシクロペンタジエン(MeCPD)などの軽質不純物とジシクロペンタジエンとを含む第1の留分、高濃度でジシクロペンタジエンを含む第2の留分、MeTHI及びMeDCPDなどの重質不純物を含む重質留分(常圧で沸点172℃以上の留分)のように分別する。CPD及びMeCPDなどの軽質不純物とジシクロペンタジエンとを含む第1の留分は、移送ラインL2を通じて蒸留塔20に移送され、高濃度でジシクロペンタジエンを含む第2の留分は、回収ラインL3を通じて製品として回収される。
【0026】
蒸留塔10の理論段数は、30〜60段とすることができ、還流比と蒸留段数の関係の最適化の観点から40〜50段とすることが好ましい。ただし、組成によって最適な段数は異なるので適宜変更が可能である。また、蒸留塔10における蒸留は、塔頂における圧力10〜15kPaA、塔頂における温度90〜105℃及び塔底における温度120〜135℃の条件で、還流比を4〜8倍、好ましくは6〜7倍として実施することが好ましい。
【0027】
本実施形態においては、上記被蒸留物を、第1の留分がDCPDを80〜99質量%含有するように蒸留することが好ましく、85〜95質量%含有するように蒸留することがより好ましい。
【0028】
また、本実施形態においては、上記被蒸留物を、塔頂からフィード段までの任意の箇所からサイドカットする条件で蒸留して、蒸留塔のサイドから第2の留分を取得することできる。効率的な蒸留とする点で、上記被蒸留物を、塔頂から3〜10段下の位置からサイドカットする条件で蒸留して、蒸留塔のサイドから第2の留分を取得することが好ましい。この場合、高濃度でジシクロペンタジエンを含む第2の留分におけるジシクロペンタジエンの含有量が93質量%以上であり、MeDCPDの含有量が1.0質量%未満となるように蒸留することが好ましい。そして、この条件で塔頂留分から得られる、CPD及びMeCPDなどの軽質不純物とジシクロペンタジエンとを含む第1の留分を蒸留塔20で精製することが好ましい。この場合、高純度のDCPD製品として得られる第2の留分の色相をより優れたものにすることができ、且つ、第1の留分からは本発明の精製方法によって色相が改善されたDCPDを十分に得ることができる。
【0029】
第1の留分の色相を基準に蒸留を行う場合、第1の留分の色相はAPHAで100を超えることが通常であるが、200以上であっても構わない。なお、APHAは、ASTM D1209に規定の色測定法により測定される。この場合も、高純度のDCPD製品として得られる第2の留分の色相をより優れたものにすることができ、且つ、第1の留分からは本発明の精製方法によって色相が改善されたDCPDを十分に得ることができる。
【0030】
蒸留塔20では、本発明のジシクロペンタジエンの精製方法が実施される。本実施形態においては、充填塔である蒸留塔を用いているが、気液接触が可能であり、所定の液体を取り出すことができる容器であれば特に限定されることなく用いることができる。例えば、棚段塔である蒸留塔が挙げられる。
【0031】
蒸留塔20の理論段数は、効率的な分離の観点から、10〜30段とすることが好ましく、15〜25段とすることが好ましい。ただし、組成によって最適な段数は異なるので適宜変更が可能である。本実施形態においては、第1の留分を蒸留塔20の塔頂から、不活性ガス又は炭素数1〜3の炭化水素ガスを蒸留塔20の塔底からそれぞれ供給することができる。
【0032】
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、二酸化炭素を用いることができる。炭素数1〜3の炭化水素ガスとしては、メタン、エタン、プロパンを用いることができる。本実施形態においては、入手や取り扱いが容易である点で、窒素、メタン、エタンが好ましく、窒素及びメタンがより好ましい。
【0033】
第1の留分と、不活性ガス又は炭素数1〜3の炭化水素ガスとの接触は、常温、常圧で実施できるが、CPD及びMeCPDなどの軽質不純物をより効率的に除去する点で、第1の留分を60〜90℃に予備加熱してから蒸留塔20に供給することが好ましい。
【0034】
蒸留塔20への第1の留分の流量と不活性ガス又は炭素数1〜3の炭化水素ガスの流量は、上記ガスが第1の留分に対して体積比で50〜200倍の割合となるよう設定することが好ましい。
【0035】
上記の気液接触工程を経て、蒸留塔20から色相が改善され、高純度のジシクロペンタジエンを含有するジシクロペンタジエン含有液が回収ラインL6を通じて回収される。本実施形態においては、ジシクロペンタジエン含有液の色相は、APHAで100以下であることが好ましく、60以下であることがより好ましい。
【0036】
図2は、本発明のジシクロペンタジエンの精製方法が実施されるジシクロペンタジエンの精製装置の他の例を示すフロー図である。図2に示されるジシクロペンタジエンの精製装置110は、ジシクロペンタジエンの精製装置100における回収ラインL3が設けられていないこと以外はジシクロペンタジエンの精製装置100と同様の構成を有している。
【0037】
本実施形態においては、蒸留塔10で蒸留精製されたジシクロペンタジエンを含む留分が蒸留塔20において本発明のジシクロペンタジエンの精製方法により精製される。
【0038】
ジシクロペンタジエンの精製装置110においても、第2の留分の取得を省略していること以外はジシクロペンタジエンの精製装置100と同様の条件でジシクロペンタジエンの精製を行うことができる。
【0039】
蒸留塔10における蒸留は、塔頂における圧力10〜15kPaA、塔頂における温度90〜105℃及び塔底における温度120〜135℃の条件で、還流比を4〜8倍、好ましくは6〜7倍として実施することが好ましい。
【0040】
本実施形態においては、L1を通じて供給される上記被蒸留物を、L2から取り出される上記留分がDCPDを80〜99質量%含有するように蒸留することが好ましく、85〜95質量%含有するように蒸留することがより好ましい。この場合、蒸留塔20での本発明に係る精製及び蒸留精製によって、高純度且つ色相に優れたDCPD製品を効率よく得ることができる。
【0041】
また、上記留分の色相はAPHAで通常100を超えるが、200以上であっても構わない。この場合においても、蒸留塔20での本発明に係る精製及び蒸留精製によって、高純度且つ色相に優れたDCPD製品を効率よく得ることができる。
【0042】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限られず、他の実施形態としてもよい。本発明のジシクロペンタジエンの精製方法は、例えば、微量の軽質不純物に起因する着色のあるジシクロペンタジエン含有留分の色相改善方法や、軽質不純物の分離除去が不完全なジシクロペンタジエン含有留分から軽質不純物を除去する方法として利用できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
LPGクラッカーで副生した分解ガソリンの二量化反応による反応生成物からC5留分及びBTX留分を除去した留分から、蒸留精製され、表2に示す組成を有するジシクロペンタジエン含有留分を用意した。このジシクロペンタジエン含有留分の色相は、APHAで200+であった。
【0045】
理論段数10段の蒸留塔に、予め65℃の加熱した上記のジシクロペンタジエン含有留分を200ml/minの流量で塔頂から供給し、窒素を2.6L/hの流量で塔底から供給し、気液接触を行った。そして、198ml/minの流量で回収留分を得た。この回収留分の色相は、APHAで約50であった。また、回収留分は、表2に示すように、DCPD含有量は十分維持しながらCPD及びMeCPDの含有量が低減されていることが確認された。なお、組成分析は、ガスクロマトグラフによって行った。
【0046】
【表2】



【0047】
(実施例2)
実施例1と同様の被蒸留物から蒸留により、表3に示す組成を有するジシクロペンタジエン含有留分を用意した。このジシクロペンタジエン含有留分の色相は、APHAで200+であった。
【0048】
理論段数20段の蒸留塔に、予め90℃の加熱した上記のジシクロペンタジエン含有留分を310L/hの流量で塔頂から供給し、メタンを35kg/hの流量で塔底から供給し、気液接触を行った。そして、300L/hの流量で回収留分を得た。この回収留分の色相は、APHAで50であった。また、回収留分は、表3に示すように、DCPD含有量が多く、CPD及びMeCPDの含有量が低減されていることが確認された。
【0049】
【表3】



【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明のジシクロペンタジエンの精製方法を実施するジシクロペンタジエンの精製装置の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明のジシクロペンタジエンの精製方法を実施するジシクロペンタジエンの精製装置の他の例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0051】
10…蒸留塔、20…蒸留塔、100,110…ジシクロペンタジエンの精製装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留精製されたジシクロペンタジエン含有留分を、不活性ガス又は炭素数1〜3の炭化水素ガスと接触させる、ジシクロペンタジエンの精製方法。
【請求項2】
前記留分を、窒素又はメタンと接触させる、請求項1に記載のジシクロペンタジエンの精製方法。
【請求項3】
前記留分が、分解ガソリンの二量化反応による反応生成物由来の被蒸留物から蒸留精製されたものである、請求項1又は2に記載のジシクロペンタジエンの精製方法。
【請求項4】
前記留分が、ジシクロペンタジエンを85〜99質量%含み、シクロペンタジエン及びメチルシクロペンタジエンを合計で0.1〜10質量%含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のジシクロペンタジエンの精製方法。
【請求項5】
前記留分の色相がAPHAで100を超え、その色相をAPHAで100以下にする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のジシクロペンタジエンの精製方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−155784(P2010−155784A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333399(P2008−333399)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(509002394)ニッセキ・ケミカル・テキサス・インク (2)
【Fターム(参考)】