説明

ジスピロジベンゾナフタセン化合物及びこれを使用した有機発光素子

【課題】熱安定性が高く、薄膜時のアモルファス性が高い新規な有機化合物、およびそれを用いた発光効率が高く駆動電圧の低い有機発光素子の提供。
【解決手段】下式で示されるジスピロジベンゾナフタセン化合物。


〔式中、R1乃至R8は水素原子、炭素数1乃至4のアルキル基の群からそれぞれ独立に選ばれる。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジスピロジベンゾナフタセン化合物及びこれを使用した有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は陽極と陰極と、それら両電極間に配置される有機化合物層とを有する素子である。有機発光素子は、前記各電極から注入させる正孔(ホール)及び電子が有機化合物層である発光層内で再結合することで励起子が生成し、励起子が基底状態に戻る際に光が放出される。有機発光素子の最近の進歩は著しく、駆動電圧が低く、多様な発光波長、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能である。
【0003】
燐光発光する有機発光素子(以下、燐光素子と称す)は発光層中に燐光発光材料を有し、その三重項励起子由来の発光が得られる有機発光素子である。燐光発光する有機発光素子の発光効率には更なる改善の余地がある。
【0004】
非特許文献1には、以下に示す化合物A−1の合成法が記載されている。
また、特許文献1には、燐光素子用材料として化合物A−1にアリール基が置換した化合物、例えば化合物A−2が記載されている。
【0005】
【化1】

【0006】
【化2】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of American Chemical Society,Vol.52,1930 P2881
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第02/088274号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されている化合物A−1、または非特許文献1に開示されている化合物A−2はジスピロアントラセン化合物である。化合物A−1は対称性が高い構造の為に、薄膜にした場合に白化現象(結晶化)を起こし、有機発光素子の駆動電圧が高くなる。
【0010】
一方、化合物A−2は、化合物A−1にアントラセンを含む芳香族炭化水素基が導入された構造である。アントラセンの持つ最低励起三重項準位(以下、T1エネルギーと称す)は約680nmである。従って、化合物A−2を青色の燐光素子の材料(特に、ホスト材料)に使用した場合、発光効率が低下する。
【0011】
本発明のジスピロジベンゾナフタセン化合物は、T1エネルギーが高く、安定なアモルファス膜を形成し得る新規な芳香族多環化合物を提供することを目的とする。また、それを有し、発光効率が高く、かつ駆動電圧の低い、燐光有機発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
よって本発明は、
下記一般式[1]で示されることを特徴とするジスピロジベンゾナフタセン化合物を提供する。
【0013】
【化3】


[1]
【0014】
〔式[1]において、R1乃至R8は水素原子、炭素数1乃至4のアルキル基の群からそれぞれ独立に選ばれる。〕
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、T1エネルギーが高く、化学的に安定で結晶性の低い安定なアモルファス膜を形成し得る、新規な芳香族多環化合物を提供できる。また、本発明の化合物は、母骨格の中に最低励起一重項準位と最低励起三重項準位のエネルギーギャップ(以下、Δ(S1−T1)と称す)が小さいトリフェニレン骨格を有する新規な構造である。従って、本発明の新規な芳香族多環化合物を燐光素子のホスト材料に用いることで、発光効率が高く、かつ駆動電圧の低い有機発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】有機発光素子と、有機発光素子に接続するスイッチング素子を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るジスピロジベンゾナフタセン化合物は、下記一般式[1]で示される。
【0018】
【化4】


[1]
【0019】
〔式[1]において、R1乃至R8は水素原子、炭素数1乃至4のアルキル基の群からそれぞれ独立に選ばれる。〕
【0020】
式[1]の実線が示すように、特定のベンゼン環毎に、それぞれR1乃至R8を有する。
【0021】
炭素数1乃至4のアルキル基として、例えばメチル基、エチル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基などが挙げられる。
【0022】
一般式[1]で表されるジスピロジベンゾナフタセン化合物は、化合物A−1または化合物A−2に比べ、以下の3点の性質に優れる。
【0023】
一つ目は、安定なアモルファス膜を形成することができるということである。
化合物A−1はC2対称性があり分子の対称性が高く、分子が小さいため、結晶化しやすい構造といえる。一方、本発明に係る化合物は対称性がない構造でかつ化合物A−1より分子が大きいため、結晶化しにくい構造である。したがって、一般式[1]で表される化合物は、真空蒸着やスピンコート法により製膜されると結晶化しにくい、安定したアモルファス膜になる。
【0024】
二つ目は熱安定性が高いということである。
化合物A−2は母骨格のジスピロアントラセンに対し、自由回転できる置換基(アントラセニル基)が結合している。一方、本発明に係る一般式[1]で表される化合物はR(式中のR1乃至R8)を除き、自由回転できる結合がない。そしてRはアリール基ではない。そのため熱エネルギーによる結合の開裂しにくい。
【0025】
三つ目はT1エネルギーが高いことである。
本発明に係る一般式[1]で表される化合物は、Rが水素原子である場合、T1エネルギーは446nm(2.78eV)であり、非常に高い。例えば化合物A−2のようにアリール基(アントラセニル基)を有する場合、そのアリール基由来の低いT1エネルギーを持つことになるが、一般式[1]で表される化合物は低いT1エネルギーのアリール基が置換しないため、T1エネルギーが高い。
【0026】
尚、T1エネルギーの測定はトルエン溶液(1×10−4mol/l)を77Kに冷却し、励起波長350nmにて燐光発光成分を測定し、第一発光ピークをT1エネルギーとしている。装置は日立製分光光度計U−3010を用いる。
【0027】
上記3点以外に、本発明に係る化合物は、最低励起一重項準位(S1)と最低励起三重項準位(T1)のエネルギーギャップ(以下、Δ(S1−T1)と称す)が小さい。
【0028】
発明者が考えるその理由と効果について以下に述べる。
【0029】
まず、下記に本発明に係る化合物の母骨格を示す。本発明の化合物は、基本的にユニットIと2つのユニットIIの計3つのユニットから構成される。そして、この2つのユニットIIがユニットIに対してねじれてスピロ構造を形成している。
【0030】
スピロ構造を形成する炭素、即ち、下記構造式中に1、2で示した位置の炭素原子は4級炭素であるため、この部分でユニットIとユニットIIの共役は切れることになる。
【0031】
また、スピロ構造の為にジベンナフタセンの電子的性質は失われ、下記構造式中の矢印で示すようにベンゼンとトリフェニレンに分断されることになる。従って、本発明のジスピロジベンゾナフタセン化合物は、トリフェニレン自体の性質が強く反映された物性を示す。
【0032】
【化5】

【0033】
表1にトリフェニレンと他の芳香族炭化水素のT1エネルギーとΔ(S1−T1)の値を示す。表1にしめすようにトリフェニレンは、ベンゼン以外の他の芳香族炭化水素にない、高T1エネルギー(427nm)を有し、且つΔ(S1−T1)が小さい(83nm)。
【0034】
そのためT1エネルギーが470nm以下という高い値を持ち、且つΔ(S1−T1)が120nm以下という小さい値を持つ。
【0035】
【表1】

【0036】
T1エネルギーが470nm以下という高い値を持つことで、青色燐光発光するゲスト材料を有する有機発光素子の発光層のホスト材料として好ましく用いることができる。青色燐光発光するゲスト材料は発光ピーク波長が470nm以下であるからである。
【0037】
青色発光は発光スペクトルの最大ピーク波長が470nm以下であるが、ホスト材料として用いる場合、ホスト材料のT1エネルギーがゲスト材料のT1エネルギーよりも高いことが好ましい。ホスト材料のT1エネルギーが波長換算して470nmよりも大きい場合(エネルギーが低い場合)には、ホスト材料からゲスト材料へT1エネルギーが移動する際にT1エネルギーの漏れが生じる。本発明のジピロジベンゾナフタセン化合物のT1エネルギーは470nm以下であることから、青燐光素子に好適に使用できる。
【0038】
Δ(S1−T1)が大きい化合物を、燐光発光する有機発光素子のホスト材料として使用した場合、駆動電圧が高くなる。電子はホスト材料のS1エネルギーの軌道を移動してホールと再結合する。そもそもS1エネルギー順位はT1エネルギー順位よりも高い。Δ(S1−T1)が大きいと、より具体的にはS1エネルギー順位が高いと有機発光素子の駆動電圧が高く磨るなる。
【0039】
したがって、青色燐光する有機発光素子の低電圧化のために、その発光層のホスト材料として用いられる化合物は、Δ(S1−T1)が小さいものが好ましい。Δ(S1−T1)は好ましくは120nm以下であり、更に好ましくは100nm以下である。Δ(S1−T1)が120nm以上であると、T1エネルギーは高いが、S1も高いことになり、有機発光素子が高電圧化してしまう。なおホスト材料のS1は、350nm以上、つまりそのエネルギー順位より低い準位である。これはそのエネルギー順位よりも励起エネルギーが高い紫外領域を発光するように有機発光素子を設計しないからである。
【0040】
また、本発明のジスピロジベンゾナフタセン化合物は、構成ユニットのトリフェニレンの性質が反映される。具体的にはこの化合物のΔ(S1−T1)が、トリフェニレン自体のΔ(S1−T1)(83nm)に近似した値、即ち、120nm以下の値、好ましくは100nm以下の値を持つ。
【0041】
本発明の化合物を有機発光素子の発光層のホスト材料に用いることについて説明する。
【0042】
本発明の化合物、即ちジスピロジベンゾナフタセン化合物は、主として有機発光素子の発光層に用いられる。
【0043】
このとき発光層は複数種の成分から構成されていてよく、それらを主成分と副成分とに分類することができる。主成分とは発光層を構成する全化合物の中で重量比が最大の化合物であり、ホスト材料と呼ぶ。
【0044】
副成分とは主成分以外の化合物である。副成分はゲスト材料(または、ドーパント材料と呼ぶ)、発光アシスト材料、電荷注入材料と呼ぶことができる。発光アシスト材料と電荷注入材料は同一の構造の有機化合物であっても異なる構造の有機化合物であっても良い。また、副成分はゲスト材料と区別する意味で第2または第3のホスト材料と呼ぶこともできる。
【0045】
ここでゲスト材料とは、発光層内で発光を担う化合物である。これに対してホスト材料とは、発光層内でゲスト材料の周囲にマトリックスとして存在する化合物であって、主にキャリアの輸送、及びゲスト材料への励起エネルギー供与を担う化合物である。
【0046】
ゲスト材料の濃度は、発光層の構成材料の全体量を基準として、0.01wt%以上50wt%以下であり、好ましくは0.1wt%以上20wt%以下である。さらに好ましくは、濃度消光を防ぐためにゲスト材料の濃度は10wt%以下であることが望ましい。またゲスト材料はホスト材料からなる層全体に均一に含まれてもよいし、濃度勾配を有して含まれてもよいし、特定の領域に部分的に含ませてゲスト材料を含まないホスト材料層の領域を設けてもよい。
【0047】
本発明のジスピロジベンゾナフタセン化合物は、先述したように発光層のホスト材料として用いることが好ましい。
【0048】
以下に本発明の化合物であるジスピロジベンゾナフタセン化合物の具体的な構造式を例示する。
【0049】
【化6】

【0050】
また、本発明のジスピロジベンゾナフタセン化合物を有機発光素子に用いる場合には、直前の精製として昇華精製を行うことが好ましい。なぜなら有機化合物の高純度化において昇華精製は精製効果が大きいからである。このような昇華精製においては、一般に有機化合物の分子量が大きいほど高温が必要とされ、この際高温による熱分解などを起こしやすい。従って有機発光素子に用いられる有機化合物は、過大な加熱なく昇華精製を行うことができるように、分子量が1000以下であることが好ましい。
【0051】
本実施形態に係る有機発光素子は一対の電極である陽極と陰極とそれらの間に配置された有機化合物層とを有し、この有機化合物層が本発明に係る有機化合物を有する素子である。
【0052】
本発明に係る有機化合物を用いて作製される有機発光素子としては、基板上に、順次陽極、発光層、陰極を設けた構成のものが挙げられる。他にも順次陽極、正孔輸送層、電子輸送層、陰極)を設けた構成のものが挙げられる。また順次陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極を設けたものや順次陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極を設けたものが挙げられる。また順次、陽極、正孔輸送層、発光層、正孔・エキシトンブロッキング層、電子輸送層、陰極を設けたものが挙げられる。ただしこれら5種の多層型の例はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明に係る化合物を用いた有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。本発明に係る化合物は先述したように発光層のホスト材料として用いる以外に、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、正孔・エキシトンブロッキング層、電子輸送層などに適宜用いられてもよい。
【0053】
ホスト材料として用いられる場合、ゲスト材料は先述の青色燐光発光するゲスト材料である以外に、440nmから530nmの領域に発光ピークを持つ青色〜緑色の燐光発光するゲスト材料が使用できる。
【0054】
ゲスト材料が燐光発光するということは以下の方法によって確認できる。燐光は発光寿命が長い(μSオーダーである)ため、励起エネルギーが溶媒分子との衝突、分子の振動、酸素などによって失活し、室温で酸素雰囲気下からは発光がほとんど観察できないか、観察されたとしても非常に弱い。よって、燐光発光を確認するために、希薄溶液(10−3mol/l以下)を窒素置換した後に、液体窒素などで冷やし、UV(紫外線)ランプを使用して強く発光するか目視にて観察する。
【0055】
本実施形態に係る有機発光素子は本発明に係る有機化合物以外にも、必要に応じて従来公知の正孔注入性材料あるいは輸送性材料あるいはホスト材料あるいはゲスト材料あるいは電子注入性材料あるいは電子輸送性材料等を一緒に使用することができる。これら材料は低分子系でも高分子系でもどちらでもよい。
【0056】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0057】
正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料としては、正孔移動度が高い材料であることが好ましい。正孔注入性能あるいは正孔輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0058】
ホスト材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレン誘導体、縮合環芳香族化合物(例えばナフタレン誘導体、フェナントレン誘導体、フルオレン誘導体、クリセン誘導体、など)、有機金属錯体(例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、有機イリジウム錯体、有機プラチナ錯体等)およびポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体、ポリ(チエニレンビニレン)誘導体、ポリ(アセチレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0059】
ゲスト材料としては、以下に示す、燐光発光性のIr錯体や、プラチナ錯体等が挙げられる。
【0060】
【化7】

【0061】
また、蛍光発光性のドーパントを用いることもでき、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、アントラセン誘導体、ルブレン等)、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、スチルベン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、及びポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられる。
【0062】
電子注入性材料あるいは電子輸送性材料としては、正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料の正孔移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入性能あるいは電子輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0063】
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物である。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0064】
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0065】
本実施形態に係る有機発光素子において、本実施形態に係る有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により層を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で形成する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0066】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0067】
本発明に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。照明装置は、発光効率、輝度、平均演色評価数、寿命などの照明素子目標値をクリアするための実用レベルの素子開発が盛んに行われており、本発明に係る化合物を照明装置に用いることができる。さらに、照明装置には背景が透けて見えるシースルー型の照明パネルや折り曲げ可能なフレキシブル型の照明パネルも含まれる。
【0068】
他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や、液晶表示装置のバックライトなどに本発明に係る化合物を有する有機発光素子を用いることができる。
【0069】
表示装置は本発明に係る有機発光素子を表示部に有する。表示部とは画素を有しており、該画素は本発明に係る有機発光素子を有する。表示装置はPC等の画像表示装置として用いることができる。
【0070】
表示装置はデジタルカメラやデジタルビデオカメラ等の撮像装置の表示部に用いられてもよい。撮像装置は該表示部と撮像するための撮像光学系を有する撮像部とを有する。
表示部は撮像するあるいは撮像した画像を表示するためのものである。画像は画像情報として入力部からアナログ入力され、デジタル情報として表示部に入力される。前記表示部は複数の画素を有し、画素が有機発光素子に相当する。有機発光素子とスイッチング素子とは接続されている。このように画像を画像情報として入力し、表示部が表示する画像入力装置に本発明に係る有機発光素子は用いられる。
【0071】
図1は有機発光素子を画素部に有する画像表示装置の断面模式図である。本図では二つの有機発光素子と二つのTFTとが図示されている。一つの有機発光素子は一つのTFTと接続している。
【0072】
図中符号3は画像表示装置、38はスイッチング素子であるTFT素子、31は基板、32は防湿膜、33はゲート電極、34はゲート絶縁膜、35は半導体層、36はドレイン電極、37はソース電極、39は絶縁膜である。また310はコンタクトホール、311は陽極、312は有機層、313は陰極、314は第一の保護層、そして315は第二の保護層である。
【0073】
画像表示装置3は、ガラス等の基板31上に、その上部に作られる部材(TFT又は有機層)を保護するための防湿膜32が設けられている。防湿膜32を構成する材料は酸化ケイ素又は酸化ケイ素と窒化ケイ素との複合体等が用いられる。防湿膜32の上にゲート電極33が設けられている。ゲート電極33はスパッタリングによりCr等の金属を製膜することで得られる。
【0074】
ゲート絶縁膜34がゲート電極33を覆うように配置される。ゲート絶縁膜34は酸化シリコン等をプラズマCVD法又は触媒化学気相成長法(cat−CVD法)等により製膜し、パターニングして形成される膜である。パターニングされてTFTとなる領域ごとに設けられているゲート絶縁膜34を覆うように半導体層35が設けられている。この半導体層35はプラズマCVD法等により(場合によっては例えば290℃以上の温度でアニールして)シリコン膜を製膜し、回路形状に従ってパターニングすることで得られる。
【0075】
さらに、それぞれの半導体層35にドレイン電極36とソース電極37が設けられている。このようにTFT素子38はゲート電極33とゲート絶縁層34と半導体層35とドレイン電極36とソース電極37とを有する。TFT素子38の上部には絶縁膜39が設けられている。次に、コンタクトホール(スルーホール)310は絶縁膜39に設けられ、金属からなる有機発光素子用の陽極311とソース電極37とが接続されている。
【0076】
この陽極311の上には、発光層を含む多層あるいは発光層単層の有機層312と、陰極313とが順次積層されており、画素としての有機発光素子を構成している。
有機発光素子の劣化を防ぐために第一の保護層314や第二の保護層315を設けてもよい。
【0077】
本実施形態に係る表示装置においてスイッチング素子に特に制限はなく、MIM素子、a−Si型のトランジスタ素子等でもよい。他にもスイッチング素子は半導体性である面に設けられてもよい。半導体性の面とは例えばシリコン基板の面である。シリコン基板は例えば単結晶シリコン基板である。
【実施例】
【0078】
以下、本発明について実施例を用いて詳細に説明する。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
<実施例1>(例示化合物1の合成)
例示化合物1を下記スキームに従って合成した。
【0080】
原料となる化合物E−1の2,3−ジブロモアントラキノンは、Tetrahedron Letters,45(12),2511−2513(2004)に記載の方法により容易に合成することができる。もう一つの原料である化合物E−2は、和光純薬工業株式会社から市販品を購入して使用した。
【0081】
まず、化合物E−1と化合物E−2との鈴木カップリング反応によって化合物E−3を得た。化合物E−4以降の合成方法は詳細に説明する。
【0082】
【化8】

【0083】
[化合物E−4の合成]
300ml三ツ口フラスコに、化合物E−3,12.6g(28.6mmol)、DBU(1,8−ジアザビシクロ−5.4.0−ウンデカ−7−エン)7.0g(46.0mmol)、Pd(TPP)2Cl2(ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム−ジクロライド)(4.67mmol)、脱水DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)100mlを入れ、160℃で7時間撹拌した。反応後、溶媒を除去し、クロロホルム100mlを投入し、1h還流してろ過した。ろ液をカラムクロマトグラム法(充填材:シリカゲル,展開溶媒:クロロホルム)で精製して黄褐色固体を得た。更にメタノールで再結晶して黄色固体の化合物E−4、5.5g(収率53.7%)を得た。
【0084】
得られた化合物の同定は質量分析によって行った。
[MALDI−TOF−MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)]
実測値:m/z=358 計算値:C2614=358.1
【0085】
[例示化合物1の合成]
300ml三ツ口フラスコに、2−ブロモビフェニル5.4g(23.2mmol)、脱水テトラヒドロフラン(以下、THFと称す)50ml入れ、ドライアイス/メタノールバスを使用して−75℃まで冷却した。前記THF溶液に、濃度1.6mol/Lのn−ブチルリチウム14.5mlを滴下し、−75℃を保持して2時間撹拌して化合物E−5のTHF溶液を得た。
【0086】
次いで、前記の−75℃に保持されたTHF溶液に、化合物E−40.83g(2.3mmol)を投入し、室温まで昇温して15時間撹拌した。反応終了後、溶媒を除去し、クロロホルム100mlを投入し、カラムクロマトグラム法(充填材:シリカゲル,展開溶媒:クロロホルム)で原点除去の処理を行った。溶媒除去後、少量のクロロホルムに溶解させメタノール200mlを投入して、赤褐色固体を析出させ、化合物E−6クルード品1.2gを得た。
【0087】
次いで100mlフラスコに、上記クルード品1.2g、氷酢酸40ml、塩酸3mlを入れ1時間還流した。反応液を氷中に投入して一晩放置した。析出した固体をろ過し、カラムクロマトグラム法(充填材:シリカゲル,展開溶媒:クロロホルム)で精製して淡黄色固体を得た。更にメタノールで再結晶して白色固体の例示化合物1,0.35g(収率24%,化合物E−4基準)を得た。
【0088】
得られた化合物の同定は質量分析によって行った。また、S1エネルギーとT1エネルギーの測定を行い、Δ(S1−T1)を算出した。更に、薄膜を作成して結晶化の有無を目視で観察した。
[MALDI−TOF−MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)]
実測値:m/z=632 計算値:C5032=632.3
[S1とT1エネルギーの測定およびΔ(S1−T1)の算出]
S1エネルギー;360nm
T1エネルギー;446nm
Δ(S1−T1)=86nm
尚、S1エネルギーの測定はトルエン溶液(1×10−4mol/l)を室温で、励起波長310nmにて蛍光発光成分を測定し、第一発光ピークをS1エネルギーとした。装置は日立製分光光度計U−3010を用いた。
【0089】
また、T1エネルギーの測定はトルエン溶液(1×10−4mol/l)を77Kに冷却し、励起波長350nmにて燐光発光成分を測定し、第一発光ピークをT1エネルギーとした。装置は日立製分光光度計U−3010を用いた。
【0090】
[薄膜観察]
例示化合物1のクロロホルム0.2wt%調整液を作り、ガラス板上に前記クロロホルム溶液約5滴落として、スピンコーターを使用して2000回転/1分の速さで1分回転させた。その後、ガラス板を100℃のオーブン中で1時間乾燥させて、ガラス上に形成された薄膜の状態を目視で観察したところ白化は認められず、透明なアモルファス膜であることが確認できた。
【0091】
<実施例2>(例示化合物10の合成)
例示化合物10を以下の方法で合成した。
【0092】
式中の化合物E−4は実施例1に記載の方法に準拠して合成した。化合物E−8以降の合成方法は詳細に説明する。
【0093】
【化9】

【0094】
[例示化合物E−10の合成]
300ml三ツ口フラスコに、2−ブロモ−4’−ターシャリービフェニル5.1g(17.6mmol)、脱水テトラヒドロフラン50ml入れ、ドライアイス/メタノールバスを使用して−75℃まで冷却した。前記THF溶液に、濃度1.6mol/Lのn−ブチルリチウム11mlを滴下し、−75℃を保持して2時間撹拌して化合物E−7のTHF溶液を得た。
【0095】
次いで、前記の−75℃に保持されたTHF溶液に、化合物E−40.65g(1.8mmol)を投入し、室温まで昇温して15時間撹拌した。反応終了後、溶媒を除去し、クロロホルム100mlを投入し、カラムクロマトグラム法(充填材:シリカゲル,展開溶媒:クロロホルム)で原点除去の処理を行った。溶媒除去後、少量のクロロホルムに溶解させメタノール200mlを投入して、赤褐色固体を析出させ、化合物E−8クルード品0.9gを得た。
【0096】
次いで100mlフラスコに、上記クルード品0.9g、氷酢酸40ml、塩酸3mlを入れ1時間還流した。反応液を氷中に投入して一晩放置した。析出した固体をろ過し、カラムクロマトグラム法(充填材:シリカゲル,展開溶媒:クロロホルム)で精製して淡黄色固体を得た。更にメタノールで再結晶して白色固体の例示化合物10、0.31g(収率23%,化合物E−4基準)を得た。
【0097】
得られた化合物の同定は質量分析によって行った。また、S1エネルギーとT1エネルギーの測定を行い、Δ(S1−T1)を算出した。更に、薄膜を作成して結晶化の有無を目視で観察した。
[MALDI−TOF−MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)]
実測値:m/z=744 計算値:C5846=744.4
[S1とT1エネルギーの測定およびΔ(S1−T1)の算出]
S1エネルギー;361nm
T1エネルギー;450nm
Δ(S1−T1)=89nm
尚、S1エネルギーの測定はトルエン溶液(1×10−4mol/l)を室温で、励起波長310nmにて蛍光発光成分を測定し、第一発光ピークをS1エネルギーとした。装置は日立製分光光度計U−3010を用いた。
【0098】
また、T1エネルギーの測定はトルエン溶液(1×10−4mol/l)を77Kに冷却し、励起波長350nmにて燐光発光成分を測定し、第一発光ピークをT1エネルギーとした。装置は日立製分光光度計U−3010を用いた。
【0099】
[薄膜観察]
例示化合物10のクロロホルム0.2wt%調整液を作り、ガラス板上に前記クロロホルム溶液約5滴落として、スピンコーターを使用して2000回転/1分の速さで1分回転させた。その後、ガラス板を100℃のオーブン中で1時間乾燥させて、ガラス上に形成された薄膜の状態を目視で観察したところ白化は認められず、透明なアモルファス膜であることが確認できた。
【0100】
<実施例3>
本実施例では、基板上に順次陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔・エキシトンブロッキング層/電子輸送層/陰極が設けられた構成の有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0101】
ガラス基板上に、陽極としてITOをスパッタ法にて膜厚120nmで製膜したものを透明導電性支持基板(ITO基板)として使用した。このITO基板上に、以下に示す有機化合物層及び電極層を、10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に製膜した。このとき対向する電極面積は3mmになるように作製した。
正孔注入層(40nm) 化合物HT−1
正孔輸送層(10nm) 化合物HT−2
発光層(30nm) ホスト材料;例示化合物1、ゲスト材料:G−1 (ホスト材料に対するゲスト材料の重量比;10%)
正孔・エキシトンブロッキング層(10nm) 化合物ET−1
電子輸送層(30nm) 化合物ET−2
金属電極層1(1nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
【0102】
【化10】

【0103】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、印加電圧をかけたところ、電圧は5.4V時の発光輝度が1000cd/m、発光効率は21cd/Aで、CIE色度座標(0.21,0.38)の青発光が観測された。
【0104】
<実施例4>
発光層のホスト材料(例示化合物1)に変えて、例示化合物10を使用した以外は、実施例3と同様にして有機発光素子を作成した。
【0105】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、印加電圧をかけたところ、電圧は5.2V時の発光輝度1000cd/m、発光効率は20cd/Aで、CIE色度座標(0.22,0.38)の青発光が観測された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で示されることを特徴とするジスピロジベンゾナフタセン化合物。
【化1】


[1]
〔式[1]において、R1乃至R8は水素原子、炭素数1乃至4のアルキル基の群からそれぞれ独立に選ばれる。〕
【請求項2】
陽極と陰極と、前記陽極と陰極の間に配置される有機化合物層とを有し、前記陽極と陰極の間から発光する有機発光素子において、前記陽極と前記陰極の間には前記有機化合物層とは別の層を有し、前記有機化合物層はホスト材料とゲスト材料とを有する発光層であり、前記ホスト材料が請求項1に記載のジスピロジベンゾナフタセン化合物であることを特徴とする有機発光素子。
【請求項3】
前記ゲスト材料は燐光発光する化合物であることを特徴とする請求項2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
複数の画素を有し、前記画素は、請求項2または請求項3のいずれか一項に記載の有機発光素子と該有機発光素子に接続されたスイッチング素子とを有する表示装置。
【請求項5】
画像を表示するための表示部と画像情報を入力するための入力部とを有し、前記表示部は複数の画素を有し、前記画素は請求項2または請求項3のいずれか一項に記載の有機発光素子と該有機発光素子と接続するスイッチング素子とを有することを特徴とする画像入力装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−240951(P2012−240951A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111505(P2011−111505)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】