説明

ジスルフィドポリマーの製造方法及びジスルフィドコポリマー

【課題】正極物質として利用可能な、新規なジスルフィドポリマーの製造方法、及び、新規なジスルフィドコポリマーを提供する。
【解決手段】下記式(1)で示される2個以上のチオスルホン酸エステル結合(−S−SO−)を有するチオスルホン酸エステルモノマーと、下記式(2)で示される2個以上のチオール基(−SH)を有するチオールモノマーとをアミン類の存在下で混合して、下記式(3)で示される構造を有するジスルフィドポリマーを合成する。A及びBは有機基であり、異なっている場合には、ジスルフィドコポリマーが得られる。合成を無溶媒条件で行うことができる。
A(−S−SO−R (1)
B(−SH) (2)
(−S−A−S−S−B−S−) (3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の正極物質として利用可能なジスルフィドポリマーの製造方法及びジスルフィドコポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題などから新しいエネルギー材料の開発が期待されている。なかでも電気自動車などの基盤となる次世代二次電池の開発は緊急を要する研究事項である。現在、もっとも汎用的に使用されている二次電池の正極材料はリチウムコバルト酸などの無機酸化物であるが、これらはその希少な金属資源などが問題となっている。そこで、資源の豊富さや環境面を配慮した新しい有機系の正極材料の開発が求められている。
【0003】
ジスルフィド結合(−S−S−)を有する材料(ジスルフィド系材料)は様々な用途で利用されているが、近年、二次電池の陽極活物質としての活用の可能性が注目されている。ジスルフィド結合上で酸化−還元サイクルを電気化学的に起こすと充放電現象が起こるが、この結合を主成分としたポリマーを陽極活物質として用いた二次電池は従来のリチウムイオン二次電池の性能を上回ることが期待されている(非特許文献1、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−82329号公報
【特許文献2】特開2007−234338号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. Liu, S. J.Visco, L. C. De Jonghe, J. Electrochem. Soc., 138, 1896-1901 (1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ジスルフィド系材料は、これまで期待されながら、実用化に向けては合成上の問題などのために目立った進展が見られていない。
【0007】
例えば、ジスルフィドを主成分としたポリマーを合成する例としてはチオールの酸化が知られているが、副反応が進行してしまうことが多く、ジスルフィド結合上の電子環境の変更を目的としてコポリマーや、複数の有機基導入を行なうためには他の合成法が必要とされるのが現状である。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、正極物質として利用可能な、新規なジスルフィドポリマーの製造方法、及び、新規なジスルフィドコポリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るジスルフィドポリマーの製造方法は、以下の特徴を有する。
【0010】
下記式(1)で示される2個以上のチオスルホン酸エステル結合(−S−SO−)を有するチオスルホン酸エステルモノマーと、下記式(2)で示される2個以上のチオール基(−SH)を有するチオールモノマーとをアミン類の存在下で混合して、下記式(3)で示される構造を有するジスルフィドポリマーを合成する。
【0011】
A(−S−SO−R (1)
式(1)において、Aは有機基を示す。Rは各置換基においてそれぞれ独立して有機基を示し、同一であっても異なっていてもよい。aは2以上の整数を示す。
【0012】
B(−SH) (2)
式(2)において、Bは有機基を示す。bは2以上の整数を示す。
【0013】
(−S−A−S−S−B−S−) (3)
式(3)において、Aは式(1)のAと、Bは式(2)のBとそれぞれ同一であり、nは1以上の整数を示す。A及びBは同一であっても異なっていてもよい。
【0014】
更なる発明は、前記ジスルフィドポリマーの合成を無溶媒条件で行うことを特徴とする。
【0015】
更なる発明は、前記アミン類は、アニリン類であることを特徴とする。
【0016】
更なる発明は、前記チオスルホン酸エステルモノマーは、環内にジスルフィド結合を有する環状ジスルフィド化合物、又は、2個以上のジスルフィド結合を有するジスルフィド化合物と、スルフィン酸塩とを、無溶媒条件でヨウ素存在下にて混合して得られたものであることを特徴とする。
【0017】
更なる発明は、前記2個以上のジスルフィド結合を有するジスルフィド化合物は、2個以上のチオール基を有するチオール化合物とチオスルホン酸エステルとを無溶媒条件でアミン類の存在下にて混合して得られたものであることを特徴とする。
【0018】
更なる発明は、前記チオスルホン酸エステル結合は、ベンゼンチオスルホン酸エステル結合であることを特徴とする。
【0019】
更なる発明は、式(1)中のAは、アルキレン基又はアリール基であり、式(2)中のBは、アルキレン基又はアリール基であることを特徴とする。
【0020】
更なる発明は、前記チオスルホン酸エステルモノマーは、下記に示す構造の化合物のいずれかであり、
【0021】
【化1】

【0022】
前記チオールモノマーは、下記に示す構造の化合物のいずれかであることを特徴とする。
【0023】
【化2】

【0024】
本発明に係るジスルフィドコポリマーは、下記式(3)で示される構造を有する。
【0025】
(−S−A−S−S−B−S−) (3)
式(3)において、A及びBは、それぞれ異なる構造の有機基であり、nは1以上の整数を示す。
【0026】
更なる発明は、式(3)中のAは、アルキレン基又はアリール基であり、式(2)中のBは、アルキレン基又はアリール基であることを特徴とする。
【0027】
更なる発明は、式(3)中のA及びBは、下記に示す括弧内の構造のいずれかであることを特徴とする。
【0028】
【化3】

【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、正極物質として利用可能なジスルフィドポリマーを容易に製造することができる。また、正極物質として利用可能な新規なジスルフィドコポリマーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ジスルフィドポリマーを用いた電池の原理を示す概略図である。
【図2】無溶媒反応の一例を示す説明図である。
【図3】無溶媒反応の一例を示し、(a)は反応前、(b)は反応後の写真である。
【図4】実施例1のジスルフィドポリマーを用いた電池の充放電挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係るジスルフィドポリマーの製造方法は、第一のモノマーとして、下記式(1)で示される2個以上のチオスルホン酸エステル結合(−S−SO−)を有するチオスルホン酸エステルモノマーを用いる。
【0032】
A(−S−SO−R (1)
式(1)において、Aは有機基を示す。Rは各置換基においてそれぞれ独立して有機基を示し、同一であっても異なっていてもよい。aは2以上の整数を示す。
【0033】
式(1)中のAは、チオスルホン酸エステル結合におけるS原子と少なくとも2箇所で結合する有機基であれば特に限定されるものではないが、アルキレン基又はアリール基であることが好ましい。aは、2以上の整数であるが、6以内であることが好ましく、2又は3であることが好ましい。
【0034】
有機基Aとしては、例えば、a=2である場合、エチレン基(CHCH)、1,3−プロピレン基(CHCHCH)、1,4−ブチレン基(CHCHCHCH)、1,4−フェニレン基(p−C)、1,3−フェニレン基(m−C)、1,2−フェニレン基(o−C)、などを挙げることができる。また、a=2である場合の有機基Aとして、ピリジン環の2つの水素原子が置換されたピリジニレン基、例えば、2,3−ピリジニレン基(CN)、2,4−ピリジニレン基(CN)、2,5−ピリジニレン基(CN)、3,5−ピリジニレン基(CN)や、あるいは、ナフタレン環の2つの水素原子が置換されたナフチレン基、例えば、1,5−ナフチレン基(C10)、1,8−ナフチレン基(C10)なども挙げることができる。また、a=3の場合における有機基Aとしては、1,3,5−トリ置換ベンゼン基(C)、トリ置換−トリフェニレン基、トリ置換−1,3,5−トリアジン基などを挙げることができる。なお、トリ置換とは3つの水素原子が置換された構造を示し、例えば、1,3,5−トリ置換ベンゼン基は、ベンゼン環の1,3,5位の水素が置換された構造のことである。
【0035】
有機基Rとしては、例えば、アルキル基、アリール基などが挙げられ、具体的には、例えば、メチル基(CH)、エチル基(C)、フェニル基(C)、などが挙げられる。特に、合成上、式(1)におけるチオスルホン酸エステル結合は、ベンゼンチオスルホン酸エステル結合であることが好ましく、この場合、Rはフェニル基(C)となる。
【0036】
チオスルホン酸エステルモノマーの具体例を以下に挙げる。
【0037】
【化4】

【0038】
チオスルホン酸エステルモノマーの好ましい一例は、環内にジスルフィド結合(−S−S−)を有する環状ジスルフィド化合物とスルフィン酸塩とを、無溶媒条件でヨウ素存在下にて混合して得られたものである。環状ジスルフィド化合物が1,2−ジチアンであり、スルフィン酸塩がベンゼンスルフィン酸ナトリウムである例の反応式を下記に示す。
【0039】
【化5】

【0040】
チオスルホン酸エステルモノマーの好ましい他の一例は、2個以上のジスルフィド結合(−S−S−)を有するジスルフィド化合物とスルフィン酸塩とを、無溶媒条件でヨウ素存在下にて混合して得られたものである。ジスルフィド化合物は、アルキルジスルフィド基を有するものであってよく、例えば、メチルジスルフィド基を有するものであってよい。また、2個以上のジスルフィド結合を有するジスルフィド化合物は、2個以上のチオール基を有するチオール化合物とチオスルホン酸エステルとを無溶媒条件下でアミン類の存在下にて混合して得られたものを用いることができる。アミン類としては、1級アミン(R−NH)、2級アミン、3級アミンのいずれか1種以上を用いることができ、例えば、アニルン類、トリエチルアミン、ピリジンなどを用いることができるが、このうちアニリン類を好ましく用いることができ、具体的には、例えば、アニリン、トルイジン、クロロアニリンなどを用いることができる。2個以上のチオール基を有するチオール化合物が、1,2−ベンゼンジチオール、1、4−ベンゼンジチオール、又は、1,3,5−ベンゼントリチオールであり、チオスルホン酸エステルが、ベンゼンチオスルホン酸メチルエステルであり、スルフィン酸塩がベンゼンスルフィン酸ナトリウムである例の一連の反応式を下記に示す。
【0041】
【化6】

【0042】
チオスルホン酸エステルモノマーの合成では、上記の反応式に示すように、原料として使用したチオスルホン酸エステル(上記反応式ではベンゼンチオスルホン酸メチルエステル)が主生成物とともに得られる。このチオスルホン酸エステルは原料として再利用可能であり、効率よくチオスルホン酸エステルモノマーを合成することが可能である。
【0043】
ジスルフィド化合物をスルフィン酸塩でチオスルホン酸エステル化してチオスルホン酸エステルモノマーを合成する場合、スルフィン酸塩の量は、ジスルフィド化合物に対して、モル比で当量の0.9〜1.1倍の範囲内に設定することができる。なお、当量とは官能基数に対応する量である。また、ヨウ素の量はスルフィン酸塩に対してモル比で0.5〜1倍の量を用いることができる。ジチオスルホン酸エステル化の反応条件としては、反応温度を例えば40℃以上80℃以下、反応時間を12〜96時間の範囲内に設定することができる。スルフィン酸塩としては、上記反応式に示すベンゼンスルフィン酸ナトリウムなどの、アリールスルフィン酸のアルカリ金属塩などを使用することができる。
【0044】
また、チオール化合物とチオスルホン酸エステルからジスルフィド化合物を合成する場合、チオスルホン酸エステルの量は、モル比で当量の0.9〜2.0倍の範囲内に設定することができる。また、アミン類の量は、チオスルホン酸エステルに対してモル比で1〜2倍の量を用いることができる。ジスルフィド合成の反応条件としては、反応温度を例えば10℃以上40℃以下、反応時間を1〜120分の範囲内に設定することができる。
【0045】
本発明に係るジスルフィドポリマーの製造方法は、第二のモノマーとして、下記式(2)で示される2個以上のチオール基(−SH)を有するチオールモノマーを用いる。
【0046】
B(−SH) (2)
式(2)において、Bは有機基を示す。bは2以上の整数を示す。
【0047】
式(2)中のBは、チオール基におけるS原子と少なくとも2箇所で結合する有機基であれば特に限定されるものではないが、アルキレン基又はアリール基であることが好ましい。bは、2以上の整数であるが、6以内であることが好ましく、2又は3であることが好ましい。
【0048】
有機基Bとしては、例えば、b=2である場合、エチレン基(CHCH)、1,3−プロピレン基(CHCHCH)、1,4−ブチレン基(CHCHCHCH)、1,4−フェニレン基(p−C)、1,3−フェニレン基(m−C)、1,2−フェニレン基(o−C)、などを挙げることができる。また、a=2である場合の有機基Aとして、ピリジン環の2つの水素原子が置換されたピリジニレン基、例えば、2,3−ピリジニレン基(CN)、2,4−ピリジニレン基(CN)、2,5−ピリジニレン基(CN)、3,5−ピリジニレン基(CN)や、あるいは、ナフタレン環の2つの水素原子が置換されたナフチレン基、例えば、1,5−ナフチレン基(C10)、1,8−ナフチレン基(C10)なども挙げることができる。また、a=3の場合における有機基Aとしては、1,3,5−トリ置換ベンゼン基(C)、トリ置換−トリフェニレン基、トリ置換−1,3,5−トリアジン基などを挙げることができる。なお、トリ置換とは3つの水素原子が置換された構造を示し、例えば、1,3,5−トリ置換ベンゼン基は、ベンゼン環の1,3,5位の水素が置換された構造のことである。
【0049】
チオールモノマーの具体例を以下に挙げる。これらの名称は、1,2−エタンジチオール、1,4−ブタンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、1,2−ベンゼンジチオール、1,3,5−ベンゼントリチオール、である。
【0050】
【化7】

【0051】
下記式(3)で示される構造を有するジスルフィドポリマーは、アミン類の存在下で式(1)のモノマーと式(2)のモノマーとを混合することにより合成される。
【0052】
(−S−A−S−S−B−S−) (3)
式(3)において、Aは式(1)のAと、Bは式(2)のBとそれぞれ同一であり、nは1以上の整数を示す。ただし、A及びBは同一であっても異なっていてもよい。
【0053】
この合成は、無溶媒条件で行うことが好ましい。無溶媒条件により副反応を抑制することができる。ただし、副生成物が生成しない範囲で溶媒を使用してもよい。なお、無溶媒反応は、通常、固体反応(固相反応)にすることができる。
【0054】
アミン類としては、1級アミン(R−NH)、2級アミン、3級アミンのいずれか1種以上を用いることができ、例えば、アニルン類、トリエチルアミン、ピリジンなどを挙げることができる。このうち、アニリン類が好ましい。アニリン類としては、例えば、アニリン、トルイジン、クロロアニリンなどを用いることができる。なお、トルイジン、クロロアニリンは、o(オルト)、m(メタ)、p(パラ)のいずれでもよい。
【0055】
合成反応は、実験室レベルでは、乳鉢に各成分を加えて乳棒ですり合わせ混合することにより行うことができる。均一に混合した後、試験管に入れて放置してもよいし、撹拌を続けてもよい。反応温度は0〜50℃の範囲又は10〜40℃の範囲、例えば室温(25℃付近)とすることができる。反応時間は、1分以上、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上にすることができる。反応時間は、1時間以上又は3時間以上であってもよい。反応時間は、12時間以下、6時間以下、3時間以下、又は、1時間以下であってもよい。合成反応(ジスルフィド結合の形成)は速やかに進行する。また、乳鉢による合成は実験室レベルの合成であり、産業レベル(大量合成)では、撹拌機能の付いた反応器を用いることができる。反応後は、溶媒抽出、カラム分離、結晶化などの適宜の方法でポリマーを精製することができる。
【0056】
式(1)で示される2個以上のチオスルホン酸エステル結合を有するチオスルホン酸エステルモノマーと、式(2)で示される2個以上のチオール基を有するチオールモノマーとの混合比は、モル比で、2:1〜1:2、又は3:2〜2:3にすることができる。また、アミン類は、チオスルホン酸エステルモノマーに対してモル比で1〜2倍の量を用いることができる。
【0057】
ジスルフィドポリマーにおいて、式(3)におけるnは1以上の整数であるが、2以上、3以上又は10以上であってもよく、また、nとしては、例えば、nが20以上800以下であってよい。また、ジスルフィドポリマーの分子量は、重量平均分子量で、例えば、5000以上100000以下であってよい。
【0058】
ジスルフィドポリマーの合成の反応式の一例を以下に挙げる。これらの反応ではモル換算での収率が70%以上であることが確認されている。まず、ホモポリマーの例を示す。
【0059】
【化8】

【0060】
次に、コポリマー(交互共重合体)の例を示す。
【0061】
【化9】

【0062】
以下、合成反応のメカニズムを詳述する。なお、本発明は以下のメカニズムに限定されるものではない。
【0063】
有機ジスルフィドは、チオールのS原子に対する求核反応(クロスカップリング反応)により合成される。このとき従来の合成方法では、下記の反応メカニズム1のように、チオールが生成物に対しても攻撃してジスルフィド結合の開裂−再結合が生じ、結果として、目的物とは別に、不均化した生成物が得られる。これは溶媒中の反応で見られる現象である。得られた生成物は、通常、分離困難なものとなる。
【0064】
[反応メカニズム1]
【0065】
【化10】

【0066】
しかしながら、本発明では、チオスルホン酸エステルとチオールを用い、アミン類の存在下、好ましくは無溶媒条件で有機ジスルフィドを合成する反応を利用する。この反応のメカニズムを下記の反応メカニズム2に示す。
【0067】
[反応メカニズム2]
【0068】
【化11】

【0069】
この反応では、特に無溶媒条件の下では、アミン類とチオールの結晶を混合すると生じる−S−H・・・HN−間の相互作用によってチオールは求核力が制御され、チオスルホン酸部位の2価硫黄のみを選択的に攻撃するために、不均化が抑制される。この反応を式(1)のモノマーと式(2)のモノマーとの重合に利用することにより、有機基Aと有機基Bとが交互に配置されたジスルフィドポリマーが得られるものである。このとき、有機基A及び有機基Bとして、異なる有機基を用いれば、有機基Aと有機基Bとが交互に配置する構造で合成が進行することになって、交互共重合体が得られるものである。
【0070】
ところで、チオスルホン酸エステルモノマーにおけるチオスルホン酸エステル結合は、ヨウ素を用いたクロスカップリング反応を利用することができる。このカップリング反応の一般反応式、及び、反応メカニズム(反応メカニズム3)を下記に示す。この反応自体は溶媒中でも無溶媒でも進行する。
【0071】
[ヨウ素を用いたクロスカップリングの反応式]
【0072】
【化12】

【0073】
[反応メカニズム3]
【0074】
【化13】

【0075】
チオスルホン酸エステル結合を2個以上有する場合、溶媒存在下では、生成物がヨウ素によって更なる酸化を受けて分解してしまう。1,2−ジチアンを用いて溶媒中で反応を行った場合における反応メカニズムを下記の反応メカニズム4に示す。
【0076】
[反応メカニズム4]
【0077】
【化14】

【0078】
しかしながら、無溶媒条件下では、上記のような更なる酸化が進行せず、下記反応メカニズム5のように、目的とするチオスルホン酸エステル結合を2個以上有する化合物が得られるのである。
【0079】
[反応メカニズム5]
【0080】
【化15】

【0081】
以上のように、上記の各化合物、ポリマーは、無溶媒条件で合成が可能である。したがって、合成効率を高めることができるものである。また、無溶媒合成は、有機溶媒を使用しなかったり、有機溶媒の使用量を減らしたりすることができ、環境への負荷を低減させて製造を行うことができるものである。
【0082】
本発明によって得られるジスルフィドポリマーは、上記式(3)で示される構造を有するものであるが、特に、交互共重合体である下記のジスルフィドコポリマーを好ましく得ることができる。
【0083】
(−S−A−S−S−B−S−) (3)
この式(3)において、A及びBは、それぞれ異なる構造の有機基であり、nは1以上の整数を示す。
【0084】
AとBとが異なる有機基であると、ジスルフィド結合の電子環境を制御することが可能となる。
【0085】
A及びBが同一である場合、ジスルフィドポリマーは下記の式(4)のように表すことができる。なお、式(4)におけるnは、式(3)におけるnの2倍と考えてよい。
【0086】
(−S−A−S−) (4)
式(4)において、Aは有機基であり、nは1以上の整数を示す。
【0087】
式(3)及び式(4)で表されるジスルフィドポリマーにおいては、Aは、アルキレン基又はアリール基であってもよく、Bは、アルキレン基又はアリール基であってもよい。これらの置換基は既に説明したものと同じ構造のものにすることができる。具体的には、A及びBは、下記に示す括弧内の構造のいずれかであってよい。
【0088】
【化16】

【0089】
ジスルフィドポリマーの具体例を以下に示す。まず、ホモポリマーの例を示す。
【0090】
【化17】

【0091】
次に、コポリマー(交互共重合体)の例を示す。
【0092】
【化18】

【0093】
ジスルフィドポリマーは、充放電特性を示し、二次電池の正極物質として利用可能である。正極は、例えば、ジスルフィドポリマーとPVDF(ポリフッ化ビニリデン)とカーボンブラックとを含んで構成することが可能である。正極中のジスルフィドポリマーの含有量は、例えば、1〜50質量%程度にすることができる。
【0094】
図1は、ジスルフィドポリマーを用いた電池の原理を示す模式図である。この電池は、リチウムイオン電池に応用したものであり、負極にリチウム(Li)を用い、正極物質として有機ジスルフィドポリマーを用いたものである。正極では、放電時には、S−S結合が開裂して電力が生じる。一方、充電時には、開裂したS,Sは、Liの作用により再結合され、S−S結合が再生される。このようにジスルフィド結合の開裂−再結合による充放電特性によって、電池の利用が可能となるのである。そして、硫黄原子の半径(88pm)は、従来の正極材料であるコバルト原子の半径(152pm)よりも格段に小さく、1つの原子が電子1個を受けると考えると、理論上、コバルト原子に対して遥かに高容量の正極材料を形成することが可能となるものである。
【実施例】
【0095】
[使用機器]
1H,13C NMRは、JEOL製 JNM-MY60FT及びJEOL製JNM-GSX 500N NMR spectrometerを用いた。赤外分光光度計は、Hitachi-Nicolet製 FT-IR 5020及び日本分光株式会社製 FT/IR-4100STを用いた。質量分析装置は、JEOL製 JMS SX-102 (EI,FAB) 及び島津製作所製 GC-MS QP5050Aを用いた。融点測定器は、柳本製作所製 微量融点測定器MP-S3を用いた。無溶媒における合成実験の実施に関しては、共栓付き試験管に試薬を詰めたものをドライサーモユニットTAITEC社製 Dry Thermo Unit DTU-1Cを用いて反応速度をコントロールしながら行なった。反応の確認は、Merck社製アルミシートSilicagel 60 F254を用いた薄層クロマトグラフィーによって行なった。無溶媒反応では、図2に示すような、めのう乳鉢1と乳棒2とを用い各試料を混合した。収率(%)はモル換算(mol%)とした。これらの実験設備によって、無溶媒環境での合成や生成物の分析等を実施した。
【0096】
[メチルベンゼンチオスルホン酸エステル(化合物1)の合成]
5 mL共栓付試験管にジメチルジスルフィド(188 mg,2.0 mmol)とベンゼンスルフィン酸ナトリウム(984 mg, 6.0 mmol)、ヨウ素(1.01 g, 4.0 mmol)を入れた後、試験管ミキサーで撹拌し、ドライサーモユニットで50℃に保ち1日反応させた。下層に固化した反応物をスパーテルで十分に砕いてからジクロロメタン50 mLで抽出し、チオ硫酸ナトリウム水溶液で1回、食塩水で2回洗浄した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し、エバポレーターで溶媒を減圧留去することで無色透明油状の、下記反応式に示す「化合物1」を得た(652 mg, 収率87%)。
【0097】
1H NMR (CDCl3, 60 MHz):δ 7.6-7.9 (d, 5H), 2.5 (s,3H).
MS (EI): m/z [M]+= 188 (65), 141 (100), 125 (13).
化合物1の合成の反応式を示す。
【0098】
【化19】

【0099】
[アルキルジスルフィド(化合物2)の合成]
めのう乳鉢上に「化合物1」(1.88 g, 10mmol)と1,2-エタンジチオール(471 mg, 5.0 mmol)を入れて撹拌した後に、p-トルイジン(803 mg, 7.5 mmol)を加えて5分間十分にすり合わせた。得られた反応物をn-ヘキサン:ジクロロメタン=1:3で抽出し、抽出液を直接シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:ジクロロメタン=1:3)で精製した。溶媒を減圧留去することで無色透明油状の、下記反応式に示す「化合物2」を得た(763 mg, 収率82%)。
【0100】
1H NMR (CDCl3, 60 MHz):δ 3.01 (s, 4H), 2.44 (s,6H).
MS (EI): m/z [M]+= 139 (94), 124 (22), 107 (100).
化合物2の合成の反応式を示す。
【0101】
【化20】

【0102】
[アリールジスルフィド(化合物3)の合成 (1,4-phenylene)]
50 mL共栓付三角フラスコに「化合物1」(903 mg,4.8 mmol)と1,4-ベンゼンジチオール(284 mg, 2.0 mmol)を入れた後、p-トルイジン(514 mg, 4.8 mmol)とn-ヘキサン5 mLを加えて10分間十分に撹拌させた。得られた反応物をn-ヘキサン20 mLで抽出し、抽出液を直接シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン)で精製した。溶媒を減圧留去することで黄色油状の、下記反応式に示す「化合物3」を得た(389 mg, 収率83%)。
【0103】
IRγmax (KBr): 484 cm-1 (S-S).
1H NMR (CDCl3, 60 MHz):δ 7.4-8.1 (m, 4H), 2.4 (s,6H).
MS (EI): m/z [M]+= 234 (100), 187 (77), 140 (32).
化合物3の合成の反応式を示す。
【0104】
【化21】

【0105】
[アリールジスルフィド(化合物4)の合成 (1,2-phenylene)]
めのう乳鉢上に「化合物1」(451 mg, 2.4mmol)と1,2-ベンゼンジチオール(142 mg, 1.0 mmol)を入れて撹拌した後に、p-トルイジン(257 mg, 2.4 mmol)を加えて5分間十分にすり合わせた。反応物を試験管に移し、n-ヘキサン20 mLを数回に分けて加え、すりつぶしながら抽出した。この抽出液を直接カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン)にて精製し、溶媒を減圧留去することで黄色油状の、下記反応式に示す「化合物4」を得た(150 mg, 収率64%)。
【0106】
IRγmax (KBr): 475, 438 cm-1 (S-S).
1H NMR (CDCl3, 60 MHz):δ 6.1-6.5 (d, 4H), 1.3 (s,6H).
化合物4の合成の反応式を示す。
【0107】
【化22】

【0108】
[ethyleneユニットを有するジチオスルホン酸エステル(化合物5)の合成]
5 mL共栓付試験管に「化合物2」(745 mg, 4.0mmol)とベンゼンスルフィン酸ナトリウム (1.96 g, 12 mmol)、ヨウ素(2.03 g, 8.0 mmol)を入れた後、試験管ミキサーで撹拌し、ドライサーモユニットで50℃に保ち2日間置いた。反応物を十分に砕いてからジクロロメタン50 mLで抽出し、チオ硫酸ナトリウム水溶液で1回、食塩水で2回洗浄した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し、溶媒を減圧留去させると目的物の「化合物5」と、副生成物の「化合物1」とが生成した。これをカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:ジクロロメタン=2:3)で分離することで無色個体の、下記反応式に示す「化合物5」を得た(1.07 g, 収率71%)。
【0109】
mp: 79-80 ℃
IRγmax (KBr): 1326, 1142, 1075 cm-1.
1H NMR (CDCl3, 60 MHz):δ 7.7-7.9 (d, 10H), 3.3 (s,4H).
化合物5の合成の反応式を示す。
【0110】
【化23】

【0111】
[1,4-butyleneユニットを有するジチオスルホン酸エステル(化合物6)の合成]
5 mL共栓付試験管に1,2-ジチアン(120 mg, 1.0 mmol)とベンゼンスルフィン酸ナトリウム(820 mg,5.0 mmol)、ヨウ素(1.01g,4.0 mmol)を入れた後、試験管ミキサーで撹拌し、ドライサーモユニットで50℃に保ち1日置いた。反応物を十分に砕きながらジクロロメタン50 mlで抽出し、チオ硫酸ナトリウム水溶液で1回、食塩水で2回洗浄した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し、溶媒を減圧留去することで無色結晶状の、下記反応式に示す「化合物6」を得た(362 mg, 収率90%)。
【0112】
mp: 92-93 ℃(文献値 :93-94 ℃)
IRγmax (KBr): 1329, 1143, 1078 cm-1.
1H NMR (CDCl3, 500 MHz):δ 7.91 (d, 4H, J = 7.5 Hz),7.65 (dd, 4H, J = 7.5, 7.5 Hz) , 7.57 (dd, 4H, J = 7.5, 7.5 Hz), 2.93 (t, 4H, J= 7.0 Hz), 1.65 (quintet, 4 H, J = 3.5 Hz).
13C NMR (126 MHz):δ 142.65, 133.82, 129.39, 126.92, 35.15,27.48.
MS (FAB): m/z [M+H]+= 403.
HRMS (EI): m/z [M]= 403.0177.
なお、mpにおける参照文献は、Hayashi, S.,Ueki, H., Harano, S., Komiya, J., Iyama, S., Harano, K. and Miyata, K., Chem.Pharm. Bull. 12, 1271-1276(1964). である。
【0113】
化合物6の合成の反応式を示す。
【0114】
【化24】

【0115】
[1,4-phenyleneユニットを有するジチオスルホン酸エステル(化合物7)の合成]
5 mL 共栓付試験管に「化合物3」(468 mg, 2.0mmol)とベンゼンスルフィン酸ナトリウム(1.96 g, 12 mmol)、ヨウ素 (2.03 g, 8 mmol)を入れた後、試験管ミキサーで撹拌し、ドライサーモユニットで50℃に保ち3日間置いた。反応物を十分に砕きながらジクロロメタン50 mLで抽出し、チオ硫酸ナトリウム水溶液で1回、食塩水で2回洗浄した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し、溶媒を減圧留去させると目的物の「化合物7」と、副生成物の「化合物1」とが生成した。これをカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:ジクロロメタン=1:3)で分離することで白色粉末状の、下記反応式に示す「化合物7」を得た(632 mg, 収率74%)。
【0116】
mp: 165-167 °C
IRγmax (KBr): 1326, 1144, 1074 cm-1.
1H NMR (CDCl3, 60 MHz):δ 7.2-8.5 (m, 14 H).
MS (EI): m/z [M]+= 422 (56),297 (25), 281 (36), 141 (100), 125 (55).
HRMS (EI): m/z [M]= 421.9791.
化合物7の合成の反応式を示す。
【0117】
【化25】

【0118】
[1,2-phenyleneユニットを有するジチオスルホン酸エステル(化合物8)の合成]
5 mL 共栓付試験管に「化合物4」(234 mg, 1mmol)とベンゼンスルフィン酸ナトリウム(984 mg, 6 mmol)、ヨウ素(1.01 g, 4 mmol)を入れた後、試験管ミキサーで撹拌し、ドライサーモユニットで50℃に保ち2日間置いた。反応物を十分に砕きながらジクロロメタン50 mLで抽出し、チオ硫酸ナトリウム水溶液で1回、食塩水で2回洗浄した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し、溶媒を減圧留去させると目的物の「化合物8」と、副生成物の「化合物1」とが生成した。これをカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:ジクロロメタン=2:3)で分離することで白色結晶状の、下記反応式に示す「化合物8」を得た(319 mg, 収率75%)。
【0119】
mp: 152-154 °C
IRγmax (KBr): 1326, 1141,1075 cm-1.
1H NMR (CDCl3, 60 MHz):δ 7.2-7.7 (m, 14 H).
化合物8の合成の反応式を示す。
【0120】
【化26】

【0121】
[実施例1]
[ジスルフィドポリマー(重合体9)の合成) (ethylene)]
めのう乳鉢上に「化合物5」(449 mg, 1.2mmol)と1,2-エタンジチオール(94 mg, 1.0 mmol)を入れて混合した後に、p-トルイジン(160 mg, 1.5 mmol)を加えて5分間十分にすり合わせた。得られた反応物をジクロロメタンで抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)にて精製した。溶媒を減圧留去することで、無色結晶状の固体の、下記反応式に示す「重合体9」を得た(157 mg, 収率85%)。
【0122】
IRγmax (KBr): 2912, 481 cm-1.
1H NMR (CDCl3, 60 MHz):δ 3.0 (s, 4H).
MS (EI): m/z [M]+= 233 (19), 141 (26), 125 (27),109 (9).
重合体9の合成の反応式を示す。
【0123】
【化27】

【0124】
[実施例2]
[ジスルフィドポリマー(重合体10)の合成 (1,4-butylene)]
めのう乳鉢上に「化合物6」(483 mg, 1.2mmol)と1,4-ブタンジチオール(122 mg, 1.0 mmol)を入れて混合した後に、p-トルイジン(160 mg, 1.5 mmol)を加えて5分間十分にすり合わせた。得られた反応物をジクロロメタンで抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)にて精製した。溶媒を減圧留去することで、白色アモルファス状の固体の、下記反応式に示す「重合体10」を得た(211 mg、収率86%)。
【0125】
IRγmax (KBr): 2925 , 2852 cm-1.
1H NMR (CDCl3, 60 MHz):δ 2.7 (s, 4H), 1.8 (s, 4H).
MS (EI): m/z [M]+= 120 (100),105 (2).
重合体10の合成の反応式を示す。
【0126】
【化28】

【0127】
[実施例3]
[ジスルフィドポリマー(重合体11)の合成 (1,4-butylene,1,4-phenylene)]
めのう乳鉢上に「化合物6」(483 mg, 1.2mmol)と1,4-ベンゼンジチオール(142 mg, 1.0 mmol)を入れて混合した後に、p-トルイジン(160 mg, 1.5 mmol)を加えて5分間十分にすり合わせた。得られた反応物をジクロロメタンで抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)にて精製した。溶媒を減圧留去することで、黄色アモルファス状の固体の、下記反応式に示す「重合体11」を得た(206 mg、収率72%)。
【0128】
IRγmax (KBr): 2923 , 485 cm-1 .
1H NMR (CDCl3, 60 MHz):δ 7.4 (s, 4H), 2.6 (s, 4H),1.7 (s, 4H).
MS (EI): m/z [M]+= 140 (6), 120 (100).
重合体11の合成の反応式を示す。
【0129】
【化29】

【0130】
[実施例4]
[ジスルフィドポリマー(重合体12)の合成 (1,4-butylene,1,2-phenylene)]
めのう乳鉢上に「化合物6」(483 mg, 1.2mmol)と1,2-ベンゼンジチオール(142 mg, 1.0 mmol)を入れて混合した後に、p-トルイジン(160 mg, 1.5 mmol)を加えて5分間十分にすり合わせた。得られた反応物をジクロロメタンで抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)にて精製した。溶媒を減圧留去することで、無色アモルファス状の固体の、下記反応式に示す「重合体12」を得た(241 mg、収率85%)。
【0131】
IRγmax (KBr): 2924 , 436 cm-1.
1H NMR (CDCl3, 60 MHz):δ 7.3-7.6 (d, 4H), 2.7 (s,4H), 1.7 (s, 4H).
MS (EI): m/z [M]+=260 (11), 184 (14), 140 (38), 120(100).
重合体12の合成の反応式を示す。
【0132】
【化30】

【0133】
[実施例5]
[ジスルフィドポリマー(重合体13)の合成 (1,2-phenylene,1,4-phenylene)]
めのう乳鉢上に「化合物7」(270mg, 0.64mmol)と1,2-ベンゼンジチオール(75 mg, 0.53 mmol)を入れて混合した後に、p-トルイジン(128 mg, 0.80 mmol)を加えて5分間十分にすり合わせた。得られた反応物をジクロロメタンで抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン)にて精製した。溶媒を減圧留去することで、薄黄色アモルファス状の固体の、下記反応式に示す「重合体13」を得た(241 mg、収率85%)。
【0134】
IRγmax (KBr): 486 cm-1 (S-S).
1H NMR (CDCl3, 60 MHz):δ 7.3 (s, 8H).
MS (EI): m/z [M]+= 560 (1), 420 (1), 280 (17), 216(16), 184 (9), 140 (100).
重合体13の合成の反応式を示す。
【0135】
【化31】

【0136】
[実施例6]
[ジスルフィドポリマー(重合体14)の合成]
上記と同様の方法により、「化合物7」と1,4-ベンゼンジチオールから、下記反応式に示す「重合体14」を得た。
【0137】
重合体14の合成の反応式を示す。
【0138】
【化32】

【0139】
[無溶媒反応の様子]
図3は無溶媒反応(チオスルホン酸エステル化)の進行の様子を示し、(a)は反応前、(b)は反応後の試験管の写真である。白色の固体混合物が反応し、褐色(茶褐色)に変化している。
【0140】
[ポリマーの充放電性能評価]
図4に、実施例1(重合体9)のジスルフィドポリマーを陽極活物質として用いたリチウムイオン電池の充放電評価の結果を示す。試験では、下記条件にて充電(c)−放電(d)を4サイクル行った(1c-1d-2c-2d-3c-3d-4c-4d)。
【0141】
Voltage: 1.5-4 V
Cathode: 10% active material (Disulfide polymer)
70% Carbon black
20% PVDF
Anode: Li metal
Electrolyte: LiPF6
【0142】
実施例1のポリマーを陽極活物質として用いると、プラトー電位範囲は十分に確認できないものの、充放電容量が280〜240AhKg−1と、実用化されているリチウム遷移金属活物質を超える結果が得られた。また、直鎖型ジスルフィド化合物は繰り返し耐久性が良い化学種であることが確認された。
【0143】
また、同様に、実施例6(重合体14)を用いたリチウムイオン電池においても、充放電性が確認された。この電池では、高い電池容量が確認され、さらにプラトー電位範囲も観測された。なお、プラトー電位範囲とは、放電時の電位が一定に維持する状態のことである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される2個以上のチオスルホン酸エステル結合(−S−SO−)を有するチオスルホン酸エステルモノマーと、下記式(2)で示される2個以上のチオール基(−SH)を有するチオールモノマーとをアミン類の存在下で混合して、下記式(3)で示される構造を有するジスルフィドポリマーを合成することを特徴とする、ジスルフィドポリマーの製造方法。
A(−S−SO−R (1)
式(1)において、Aは有機基を示す。Rは各置換基においてそれぞれ独立して有機基を示し、同一であっても異なっていてもよい。aは2以上の整数を示す。
B(−SH) (2)
式(2)において、Bは有機基を示す。bは2以上の整数を示す。
(−S−A−S−S−B−S−) (3)
式(3)において、Aは式(1)のAと、Bは式(2)のBとそれぞれ同一であり、nは1以上の整数を示す。A及びBは同一であっても異なっていてもよい。
【請求項2】
前記ジスルフィドポリマーの合成を無溶媒条件で行うことを特徴とする、請求項1に記載のジスルフィドポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記アミン類は、アニリン類であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のジスルフィドポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記チオスルホン酸エステルモノマーは、環内にジスルフィド結合を有する環状ジスルフィド化合物、又は、2個以上のジスルフィド結合を有するジスルフィド化合物と、スルフィン酸塩とを、無溶媒条件でヨウ素存在下にて混合して得られたものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のジスルフィドポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記2個以上のジスルフィド結合を有するジスルフィド化合物は、2個以上のチオール基を有するチオール化合物とチオスルホン酸エステルとを無溶媒条件でアミン類の存在下にて混合して得られたものであることを特徴とする、請求項4に記載のジスルフィドポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記チオスルホン酸エステル結合は、ベンゼンチオスルホン酸エステル結合であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のジスルフィドポリマーの製造方法。
【請求項7】
式(1)中のAは、アルキレン基又はアリール基であり、式(2)中のBは、アルキレン基又はアリール基であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のジスルフィドポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記チオスルホン酸エステルモノマーは、下記に示す構造の化合物のいずれかであり、
【化1】

前記チオールモノマーは、下記に示す構造の化合物のいずれかであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のジスルフィドポリマーの製造方法。
【化2】

【請求項9】
下記式(3)で示される構造を有するジスルフィドコポリマー。
(−S−A−S−S−B−S−) (3)
式(3)において、A及びBは、それぞれ異なる構造の有機基であり、nは1以上の整数を示す。
【請求項10】
式(3)中のAは、アルキレン基又はアリール基であり、式(2)中のBは、アルキレン基又はアリール基であることを特徴とする、請求項9に記載のジスルフィドコポリマー。
【請求項11】
式(3)中のA及びBは、下記に示す括弧内の構造のいずれかであることを特徴とする、請求項9に記載のジスルフィドコポリマー。
【化3】


【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−229329(P2012−229329A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98185(P2011−98185)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2010年11月6日 2010年日本化学会西日本大会実行委員会発行の「2010年 日本化学会西日本大会 講演要旨集」に発表 2011年2月5日 化学工学会第13回学生発表会(西日本地区)実行委員会発行の「第13回化学工学会学生発表会(西日本地区)研究発表講演要旨集」に発表 2011年3月4日 国立大学法人島根大学発行の「山陰発技術シーズ発表会 in 島根2011 資料集」に発表 2011年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第91春季年会(2011)講演予稿集(DVD−ROM)」に発表
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】