説明

ジチエノベンゾジチオフェン誘導体及びこれを用いた有機薄膜トランジスタ

【課題】 溶媒への溶解性に優れることから容易に有機半導体材料等への展開が可能となると共に、高キャリア移動度が期待できる新規なジチエノベンゾジチオフェン誘導体及びこれを用いた有機薄膜トランジスタを提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体。
【化1】


(ここで、置換基R及びRは同一又は異なって、n−ヘプチル基、n−オクチル基、炭素数10のアルキル基、炭素数12のアルキル基及び炭素数14のアルキル基からなる群より選択される置換基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料等の電子材料への展開が可能なジチエノベンゾジチオフェン誘導体、これを用いた有機薄膜トランジスタに関するものであり、特に溶媒への溶解性に優れることから容易に有機半導体材料等への展開が可能となる新規なジチエノベンゾジチオフェン誘導体及びこれを用いた有機薄膜トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜トランジスタに代表される有機半導体デバイスは、省エネルギー、低コスト及びフレキシブルといった無機半導体デバイスにはない特徴を有することから近年注目されている。この有機半導体デバイスは、有機半導体層、基板、絶縁層、電極等の数種類の材料から構成され、中でも電荷のキャリア移動を担う有機半導体層は該デバイスの中心的な役割を有している。そして、有機半導体デバイス性能は、この有機半導体層を構成する有機材料のキャリア移動度により左右されることから、高キャリア移動度を与える有機材料の出現が所望されている。
【0003】
また、有機半導体層を作製する方法としては、高温真空下、有機材料を気化させて実施する真空蒸着法、有機材料を適当な溶媒に溶解させその溶液を塗布する塗布法、等の方法が一般的に知られている。そして、塗布法においては、塗布は高温高真空条件を用いることなく印刷技術を用いても実施することができる。そのため、塗布法は印刷によりデバイス作製の大幅な製造コストの削減を図ることができることから、経済的に好ましいプロセスである。そして、このような塗布法に使用される有機半導体材料は、低分子系、高分子系があり、1.0重量%以上の溶解度を持つことが好ましい。一般的にキャリア移動度が高い低分子系材料の方が好ましいが、1.0重量%以上の溶解度を有し高移動度を与える低分子の有機半導体材料の種類は極めて限られているのが現状である。
【0004】
そして、低分子系材料としては、例えば、ヘキサン等の無極性溶媒にも高溶解度を示すビス((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン(例えば非特許文献1参照。)、ジアルキル置換ベンゾチエノベンゾチオフェン(例えば特許文献1参照。)、ジヘキシルジチエノベンゾジチオフェン(例えば特許文献2参照。)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表特許WO2008/047896号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献2】WO2010/000670号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】アプライド フィジックス レターズ(米国)、2007年、91巻、063514−1〜063514−3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1に記載されたビス((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセンは、ヘキサン等の無極性溶媒にも高溶解度を示す反面、移動度が0.05〜1.8cm/Vsと製膜条件により大きく変動するという課題を有するものであった。また、特許文献1に記載されたジアルキル置換ベンゾチエノベンゾチオフェンは、スピンコート膜として100℃以上に熱処理することで1.0cm/Vs以上の移動度を達成することは可能であるが、熱処理を施さない場合は0.08〜0.17cm/Vsと低いものであり、融点が120〜130℃と低く、耐熱性にも課題を有するものであった。特許文献2に提案のジヘキシルジチエノベンゾジチオフェンは、ドロップキャスト法により0.112cm/Vsの移動度を示すが、室温での溶媒に対する溶解度に課題を有する。
【0008】
また、有機エレクトロルミネッセンス等のディスプレイを駆動するには、トランジスタは少なくとも0.5cm/Vsの移動度が必要とされるが、熱処理することなく安定して高移動度を与え且つ室温で1.0重量%以上の溶解度を有する有機半導体材料は知られておらず、このような有機半導体材料の出現が所望されている。
【0009】
そこで、本発明は、溶媒への溶解性に優れることから容易に有機半導体材料等への展開が可能となる新規な有機半導体材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、新規なジチエノベンゾジチオフェン誘導体が高キャリア移動度を与えると共に、溶媒に対して優れた溶解性を示すことを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で示されることを特徴とするジチエノベンゾジチオフェン誘導体及びそれを用いてなる有機薄膜トランジスタに関するものである。
【0012】
【化1】

(ここで、置換基R及びRは同一又は異なって、n−ヘプチル基、n−オクチル基、炭素数10のアルキル基、炭素数12のアルキル基及び炭素数14のアルキル基からなる群より選択される置換基を示す。)
以下に本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体は上記一般式(1)で示される誘導体であり、置換基R及びRは同一又は異なって、n−ヘプチル基、n−オクチル基、炭素数10のアルキル基、炭素数12のアルキル基及び炭素数14のアルキル基からなる群より選択される置換基である。ここで、置換基R、Rが、n−ヘプチル基、n−オクチル基、炭素数10のアルキル基、炭素数12のアルキル基及び炭素数14のアルキル基以外の置換基である場合、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体は、溶媒に対する溶解性が低いものとなる、キャリア移動度に期待できないものとなる、等の課題を有するものとなる。
【0014】
そして、置換基R及びRの具体的例示としては、例えばn−ヘプチル基、n−オクチル基;n−デシル基、メチルノニル基、ジメチルオクチル基、エチルオクチル基等の炭素数10のアルキル基;n−ドデシル基、メチルウンデシル基、ジメチルデシル基、エチルデシル基等の炭素数12のアルキル基;n−テトラデシル基、メチルトリデシル基、ジメチルドデシル基、エチルドデシル基等の炭素数14のアルキル基等を挙げることができ、その中でも特に溶媒に対する溶解性に優れ、高キャリア移動度を与えるジチエノベンゾジチオフェン誘導体となることから、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基であることが好ましい。
【0015】
本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体の具体的例示としては、以下のものを挙げることができる。
【0016】
【化2】

そして、より好ましいものとしては、ジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−オクチルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−デシルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ドデシルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−テトラデシルジチエノベンゾジチオフェン、等を挙げることができる。
【0017】
本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体は、ドロップキャスト法、特にインクジェット法による製膜に適したものとなることから、室温で溶媒に対し1重量%以上の溶解度を示すものであることが好ましく、その際の溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、メシチレン、ビフェニル、エチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、オクチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素溶剤;o−ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶剤;テトラヒドロフラン(以下、THFと記す。)、ジオキサン等のエーテル系溶剤;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと記す。)等のアミド系溶剤;等が挙げられ、中でも高沸点の溶液を得ることが可能となることから、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の炭素数7〜13の芳香族炭化水素溶媒であることが好ましく、特にトルエン、キシレンであることが好ましい。ここで、室温とは、一般的に常温とも称されるものであり、例えば20〜28℃の温度を挙げることができる
上記に挙げた溶剤と一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体を混合し、加熱・攪拌することにより、一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体の溶液を調製することができる。加熱・攪拌する際の温度は30〜150℃が好ましく、特に好ましくは40〜100℃である。攪拌する際の一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体の濃度は、0.1〜10.0重量%であることが好ましい。
【0018】
本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体の製造方法としては、該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体を製造することが可能であれば如何なる製造方法を用いることも可能であり、その中でも特に容易に高純度のジチエノベンゾジチオフェン誘導体を製造することが可能となることから、少なくとも下記(A)〜(D)の工程を経る製造方法により、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体を製造することが好ましい。
【0019】
(A)工程;パラジウム触媒の存在下、3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体と1,4−ジブロモ−2,5−ジフルオロベンゼンにより1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンを製造する工程。
【0020】
(B)工程;硫化アルカリ金属塩の存在下、(A)工程により得られた1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンの分子内環化によりジチエノベンゾジチオフェンを製造する工程。
【0021】
(C)工程;触媒として塩化アルミニウムの存在下、(B)工程により得られたジチエノベンゾジチオフェンと塩化アシル化合物とのフリーデルクラフツアシル化反応により、ジチエノベンゾジチオフェンのジアシル体を製造する工程。
【0022】
(D)工程;(C)工程により得られたジチエノベンゾジチオフェンのジアシル体を還元反応に供し、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体を製造する工程。
【0023】
そして、好ましい製造方法のより具体的な製造スキームを以下に示す。
【0024】
【化3】

ここで、(A)工程は、パラジウム触媒の存在下、3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体と1,4−ジブロモ−2,5−ジフルオロベンゼンのクロスカップリングにより1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンを製造する工程である。
【0025】
3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体は、例えばイソプロピルマグネシウムブロマイド、エチルマグネシウムクロライド、フェニルマグネシウムクロライド等の有機金属試薬を用い、2,3−ジブロモチオフェンの2位の臭素をマグネシウムハライドに交換後、塩化亜鉛と金属交換することで調製することができる。また、該有機金属試薬の代わりにマグネシウム金属を用い、2,3−ジブロモチオフェンのグリニャール試薬を調製することも可能である。2,3−ジブロモチオフェンのグリニャール試薬を調製する条件としては、例えばTHF又はジエチルエーテル等の溶媒中、−80℃〜70℃の温度範囲内で実施することができる。該グリニャール試薬の溶液に塩化亜鉛を反応させることで3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体を調製することができる。塩化亜鉛はそのままの状態でもよいし、THFあるいはジエチルエーテル溶液であってもかまわない。温度としては、−80℃〜30℃の範囲内で実施できる。
【0026】
パラジウム触媒の存在下、調製された3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体と1,4−ジブロモ−2,5−ジフルオロベンゼンをクロスカップリングすることにより1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンを合成することができる。その際のパラジウム触媒としては、例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリフェニルホスフィン)ジクロロパラジウム等を挙げることができ、反応温度としては、20℃〜80℃の範囲内で実施することができる。
【0027】
(B)工程は、硫化アルカリ金属塩の存在下、1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンの分子内環化によりジチエノベンゾジチオフェンを製造する工程である。
【0028】
該硫化アルカリ金属塩としては、例えば硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化リチウム、硫化ルビジウム、その水和物等を挙げることができ、該分子内環化反応は、例えばNMP、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中、80℃〜200℃の温度範囲で行うことができる。
【0029】
(C)工程は、触媒として塩化アルミニウムの存在下、ジチエノベンゾジチオフェンと塩化アシル化合物とのフリーデルクラフツアシル化反応により、ジチエノベンゾジチオフェンのジアシル体を製造する工程である。
【0030】
該塩化アシル化合物としては、例えば塩化ヘプタノイル、塩化オクタノイル、塩化デカノイル、塩化ドデカノイル、塩化テトラデカノイル等を挙げることができる。該フリーデルクラフツアシル化反応は、例えばジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、トルエン等の溶媒中、0℃〜40℃の温度範囲で行うことができる。
【0031】
(D)工程は、ジチエノベンゾジチオフェンのジアシル体を還元反応に供し、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体を製造する工程である。
【0032】
ジチエノベンゾジチオフェンのジアシル体の還元反応は、例えば還元剤としてヒドラジンを用い、ジエチレングルコール、エチレングリコール又はトリエチレングリコール中、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム存在下、80℃〜250℃の温度範囲で行うことができる。また、例えば還元剤として水素化リチウムアルミニウム/塩化アルミニウムを用い、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル又はTHFの溶媒中、−10℃〜80℃の温度範囲で行うことができる。
【0033】
さらに、製造したジチエノベンゾジチオフェン誘導体は、カラムクロマトグラフィー等に供することにより精製することができ、その際の分離剤としては、例えばシリカゲル、アルミナ、溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、クロロホルム等を挙げることができる。
【0034】
また、製造したジチエノベンゾジチオフェン誘導体は、さらに再結晶により精製してもよく、再結晶の回数としては好ましくは2〜5回である。再結晶の回数を増やすことで純度を向上させることができる。再結晶に用いる溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等を挙げることができ、これらの任意の割合の混合物であってもよい。再結晶法としては、加熱によりジチエノベンゾジチオフェン誘導体の溶液を調製し(その際の溶液の濃度は0.01〜10.0重量%の範囲が好ましく、0.05〜5.0重量%の範囲がより好ましい。)、該溶液を冷却することでジチエノベンゾジチオフェン誘導体の結晶を析出させ単離するが、単離する際の最終的な冷却温度は−20℃から40℃の範囲にあることが好ましい。なお、純度を測定する際には液体クロマトグラフィーにより分析することにより測定することが可能である。
【0035】
本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体は、高いキャリア移動度を与えることから有機半導体材料としての優れた特定を有すると共に、溶媒への高い溶解性を有することからドロップキャスト法、特にインクジェット法、等の方法により容易に効率よく、有機半導体層を形成することが可能となる。
【0036】
そして、有機薄膜トランジスタは、基板上に、ソース電極及びドレイン電極を付設した有機半導体層とゲート電極とを絶縁層を介し積層することにより得られており、該有機半導体層に本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体よりなる有機半導体層を用いることにより、有機薄膜トランジスタとすることが可能である。
【0037】
図1に一般的な有機薄膜トランジスタの断面形状による構造を示す。ここで、(A)は、ボトムゲート−トップコンタクト型、(B)は、ボトムゲート−ボトムコンタクト型、(C)は、トップゲート−トップコンタクト型、(D)は、トップゲート−ボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタであり、1は有機半導体層、2は基板、3はゲート電極、4はゲート絶縁層、5はソース電極、6はドレイン電極を示し、本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体よりなる有機半導体層は、いずれの有機薄膜トランジスタにも適用することが可能である。
【0038】
そして、基板としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマレート)、ポリ(ジエチルフマレート)、ポリ(ジイソプロピルマレエート)、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、セルローストリアセテート等のプラスチック基板;ガラス、石英、酸化アルミニウム、シリコン、ハイドープシリコン、酸化シリコン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物等の無機材料基板;金、銅、クロム、チタン、アルミニウム等の金属基板、等を挙げることができる。なお、ハイドープシリコンを基板に用いた場合、その基板はゲート電極を兼ねることができる。
【0039】
ゲート電極としては、例えばアルミニウム、金、銀、銅、ハイドープシリコン、スズ酸化物、酸化インジウム、インジウムスズ酸化物、クロム、チタン、タンタル、クロム、グラフェン、カーボンナノチューブ等の無機材料;ドープされた導電性高分子(例えばPEDOT−PSS)等の有機材料を挙げることができる。
【0040】
ゲート絶縁層としては、例えば酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマス等の無機材料基板;ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマレート)、ポリ(ジエチルフマレート)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン等のプラスチック材料を挙げることができる。また、これらのゲート絶縁層の表面は、例えばオクタデシルトリクロロシラン、デシルトリクロロシラン、デシルトリメトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、β−フェネチルトリクロロシラン、β−フェネチルトリメトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン等のシラン類;ヘキサメチルジシラザン等のシリルアミン類で修飾処理したものであっても使用することができる。一般的にゲート絶縁層の表面処理を行うことにより、有機半導体材料の結晶粒径の増大及び分子配向の向上のため、キャリア移動度及び電流オン・オフ比の向上、並びに閾値電圧の低下という好ましい結果が得られる。
【0041】
ソース電極及びドレイン電極の材料としては、ゲート電極と同様の材料を用いることができ、ゲート電極の材料と同じであっても異なっていてもよく、異種材料を積層してもよい。また、キャリアの注入効率を上げるために、これらの電極材料に表面処理を実施することもできる。例えば、ベンゼンチオール、ペンタフルオロベンゼンチオールを挙げることができる。
【0042】
そして、有機半導体層として、本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体よりなる有機半導体層とする際には、例えばスピンコート、キャストコート、インクジェット等のドロップキャスト法;ブレードコート;ディップコート、スクリーン印刷、グラビア印刷、等の方法を用いることが可能であり、中でも容易に効率よく有機半導体層とすることが可能となることから、スピンコート、キャストコート、インクジェット等のドロップキャスト法であることが好ましく、特にインクジェットであることが好ましい。また、その際の有機半導体層の膜厚に制限はなく、好ましくは1nm〜1μm、特に好ましくは10nm〜300nmである。
【0043】
また、本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体を含む有機半導体層は塗布乾燥後、40〜150℃にアニール処理することも可能である。
【0044】
本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体は、電子ペーパー、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、ICタグ(RFIDタグ)用等のトランジスタの有機半導体層用途;有機ELディスプレイ材料;有機半導体レーザー材料;有機薄膜太陽電池材料;フォトニック結晶材料等の電子材料に利用することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明の新規なジチエノベンゾジチオフェン誘導体は、高いキャリア移動度を与えると共に、溶媒への溶解性に優れることから容易に有機半導体薄膜を製造することが可能となり、有機薄膜トランジスタに代表される半導体デバイス材料としてその効果は極めて高いものである。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
生成物の同定にはH−NMRスペクトル及びマススペクトルを用いた。なお、H−NMRスペクトルの測定は日本電子製の(商品名)JEOL GSX−270WB(270MHz)を用いた。マススペクトル(MS)は日本電子製の(商品名)JEOL JMS−700を用いて、試料を直接導入し、電子衝突(EI)法(70エレクトロンボルト)で測定した。
【0048】
反応の進行の確認等は薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー(GC)及びガスクロマトグラフィー−マススペクトル(GCMS)分析を用いた。
【0049】
ガスクロマトグラフィー分析
装置;島津製作所製、(商品名)GC14B
カラム;J&Wサイエンティフィック社製、(商品名)DB−1,30m
ガスクロマトグラフィー−マススペクトル分析
装置;パーキンエルマー製、(商品名)オートシステムXL(MS部;ターボマスゴールド)
カラム;J&Wサイエンティフィック社製、(商品名)DB−1,30m。
【0050】
ジチエノベンゾジチオフェン誘導体の純度測定は液体クロマトグラフィー分析を用いた。
装置;東ソー製(コントローラー;PX−8020、ポンプ;CCPM−II、デガッサー;SD−8022)
カラム;東ソー製、(商品名)ODS−100V、5μm、4.6mm×250mm
カラム温度;23℃
溶離液;ジクロロメタン:アセトニトリル=4:6(容積比)
流速;1.0ml/分
検出器;UV(東ソー製、(商品名)UV−8020、波長;254nm)。
【0051】
実施例1
(1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンの合成((A)工程))
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器にイソプロピルマグネシウムブロマイド(東京化成工業製、0.80M)のTHF溶液4.5ml(3.6mmol)及びTHF10mlを添加した。この混合物を−75℃に冷却し、2,3−ジブロモチオフェン(和光純薬工業製)873mg(3.61mmol)を滴下した。−75℃で30分間熟成後、塩化亜鉛(シグマ−アルドリッチ製、1.0M)のジエチルエーテル溶液3.6ml(3.6mmol)を滴下した。徐々に室温まで昇温した後、生成した白色スラリー液を減圧濃縮し、10mlの軽沸分を留去した。得られた白色スラリー液(3−ブロモチエニル−2−ジンククロライド)に、1,4−ジブロモ−2,5−ジフルオロベンゼン(和光純薬工業製)272mg(1.00mmol)、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)39.1mg(0.0338mmol、1,4−ジブロモ−2,5−ジフルオロベンゼンに対し3.38モル%)及びTHF10mlを添加した。60℃で8時間反応を実施した後、容器を水冷し3N塩酸3mlを添加することで反応を停止させた。トルエンで抽出し、有機相を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(ヘキサンからヘキサン/ジクロロメタン=10/1)、さらにヘキサン/トルエン=6/4から再結晶精製し、1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンの薄黄色固体227mgを得た(収率52%)。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=7.44(d,J=5.4Hz,2H),7.39(t,J=7.8Hz,2H),7.11(d,J=5.4Hz,2H)。
MS m/z: 436(M,100%),276(M−2Br,13)。
【0052】
(ジチエノベンゾジチオフェンの合成((B)工程))
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼン200mg(0.458mmol)、NMP10ml、及び硫化ナトリウム・9水和物(和光純薬工業製)240mg(1.00mmol)を添加した。得られた混合物を170℃で6時間加熱し、得られた反応混合物を室温に冷却した。トルエンと水を添加後、分相し、有機相を2回水洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮後、得られた残渣をヘキサンで洗浄を2回実施し、ジチエノベンゾジチオフェンの淡黄色固体95mgを得た(収率69%)。
H−NMR(CDCl,60℃):δ=8.28(s,2H),7.51(d,J=5.2Hz,2H),7.30(d,J=5.2Hz,2H)。
MS m/z: 302(M,100%),270(M−S,5),151(M/2,10)。
【0053】
(ジn−オクタノイルジチエノベンゾジチオフェンの合成((C)工程))
100mlシュレンク反応容器にジチエノベンゾジチオフェン86.8mg(0.286mmol)及びジクロロメタン14mlを添加した。この混合物を氷冷し、塩化アルミニウム(和光純薬工業製)134mg(1.00mmol)及び塩化オクタノイル(和光純薬工業製)140mg(0.858mmol)を添加した。得られた混合物を室温で30時間攪拌後、氷冷し水を添加することで反応を停止させた。得られたスラリー混合物にトルエンを添加し分相した。黄色スラリー液の有機相を水洗浄後、減圧濃縮した。得られた残渣をヘキサン/トルエン=1/1及びメタノールで洗浄し、減圧乾燥した後、ジn−オクタノイルジチエノベンゾジチオフェンの黄色固体137mgを得た(収率86%)。
H−NMR(重ベンゼン,80℃):δ=7.73(s,2H),7.26(s,2H),2.58(t,J=7.2Hz,4H),1.71(m,4H),1.28(m,16H),0.86(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 554(M,100%),470(M−C13+1,43),455(M−C15,15)。
【0054】
(ジn−オクチルジチエノベンゾジチオフェンの合成((D)工程))
100mlシュレンク反応容器にジn−オクタノイルジチエノベンゾジチオフェン108mg(0.194mmol)、水酸化カリウム223mg(3.97mmol)、ジエチレングリコール12ml、及びヒドラジン・1水和物(和光純薬工業製)412mg(8.23mmol)を添加し、120℃で1時間攪拌後、さらに230℃で30時間攪拌した。室温に冷却後、トルエン及び水を添加分相後、有機相の水洗浄を3回繰り返した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(ヘキサン/トルエン=10/1、容積比)、ヘキサン(和光純薬工業製ピュアーグレード)から1回再結晶精製した。さらにヘキサン/トルエン(何れも和光純薬工業製ピュアーグレード)=10/1(容積比)から2回及びクロロホルムから2回再結晶精製し、ジn−オクチルジチエノベンゾジチオフェンの白色鱗片状結晶21mgを得た(収率21%)。なお、ヘキサン/トルエン=10/1再結晶では、粗生成物1mgに対し該混合溶媒0.23mlを使用した。再結晶の最終冷却温度は何れも室温(27℃)とした。
【0055】
得られたジn−オクチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより99.4%であった。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.16(s,2H),7.00(s,2H),2.96(t,J=7.2Hz,4H),1.71(m,4H),1.28(m,20H),0.88(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 526(M,100%),427(M−C15,48),328(M−2C15,35)。
融点:180.7〜181.2℃。
【0056】
得られたジn−オクチルジチエノベンゾジチオフェン15.0mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.48gを添加し、60℃に加熱溶解後、室温下(27℃)に放置した。完全に溶解しておりドロップキャスト、インクジェットによる製膜に適した化合物であることを確認した。
【0057】
得られたジn−オクチルジチエノベンゾジチオフェン3.0mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.4gを添加し、50℃に加熱し化合物を溶解させることでジn−オクチルジチエノベンゾジチオフェンを含む有機半導体材料を作製した(0.21重量%無色溶液)。液体クロマトグラフィー分析よりジn−オクチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は99.4%であった。さらに該溶液を空気下で48時間放置後、液体クロマトグラフィー分析を行ったが純度の低下はなく、酸化物は検出されなかった。
【0058】
そして、空気下、直径2インチのn型にハイドープしたシリコン基板(セミテック製、抵抗値;0.001〜0.004Ω、表面に200nmのシリコン酸化膜付き)上に、得られた有機半導体材料0.5mlをシリンジに充填し、0.2μmのフィルターを通した溶液をドロップキャストした。室温下(27℃)で自然乾燥し、膜厚58nmのジn−オクチルジチエノベンゾジチオフェンの薄膜を作製した。
【0059】
該有機薄膜にチャネル長45μm、チャネル幅1500μmのシャドウマスクを置き、金を真空蒸着することで電極を形成し、ボトムゲート−トップコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。
【0060】
作製した有機薄膜トランジスタの電気物性を半導体パラメーターアナライザー(アジレントテクノロジー社製、(商品名)B1500A)を用いて、ドレイン電圧(Vd=−50V)で、ゲート電圧(Vg)を+5〜−60Vまで1V刻みで走査し、伝達特性の評価を行った。正孔のキャリア移動度は1.28cm/V・s、電流オン・オフ比は8.1×10であった。
【0061】
実施例2
実施例1の(A)、(B)工程と同様の方法により、ジチエノベンゾジチオフェンを得た。
【0062】
(ジn−デカノイルジチエノベンゾジチオフェンの合成((C)工程))
塩化オクタノイルの代わりに塩化デカノイル(和光純薬工業製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、ジn−デカノイルジチエノベンゾジチオフェンの黄色固体を収率84%で得た。
H−NMR(重ベンゼン,80℃):δ=7.72(s,2H),7.26(s,2H),2.58(t,J=7.2Hz,4H),1.71(m,4H),1.28(m,24H),0.86(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 610(M,100%),498(M−C17+1,41),483(M−C19,16)。
【0063】
(ジn−デシルジチエノベンゾジチオフェンの合成((D)工程))
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に塩化アルミニウム(和光純薬工業製)251mg(1.88mmol)、水素化リチウムアルミニウム(和光純薬工業製)102mg(2.68mmol)、ジエチルエーテル10mlを添加した。この混合物に室温下、ジn−デカノイルジチエノベンゾジチオフェン192mg(0.314mmol)とジエチルエーテル25mlの懸濁混合物を投入した。30℃で48時間攪拌後、水冷し水を添加して反応を停止させた。さらに3N塩酸添加後、トルエンで抽出し、有機相を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(ヘキサン/トルエン=10/1、容積比)、ヘキサン(和光純薬工業製ピュアーグレード)から2回再結晶精製した。さらにトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)から2回再結晶精製し、ジn−デシルジチエノベンゾジチオフェンの淡黄色鱗片状結晶75mgを得た(収率41%)。なお、再結晶では、粗生成物1mgに対し該溶媒0.26mlを使用した。再結晶の最終冷却温度は何れも室温(27℃)とした。
【0064】
得られたジn−デシルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより99.5%であった。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.16(s,2H),7.00(s,2H),2.94(t,J=7.2Hz,4H),1.76(m,4H),1.27(m,28H),0.88(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 582(M,100%),455(M−C19,43),328(M−2C19,23)。
融点:169.6〜170.2℃。
【0065】
得られたジn−デシルジチエノベンゾジチオフェン18.2mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.50gを添加し、60℃に加熱溶解後、室温下(27℃)に放置し溶液を調製した。完全に溶解しておりドロップキャスト、インクジェットによる製膜に適した化合物であることを確認した。
【0066】
ジn−オクチルジチエノベンゾジチオフェンの代わりにジn−デシルジチエノベンゾジチオフェンを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は1.50cm/V・s、電流オン・オフ比は1.0×10であった。
【0067】
実施例3
実施例1の(A)、(B)工程と同様の方法により、ジチエノベンゾジチオフェンを得た。
【0068】
(ジn−ドデカノイルジチエノベンゾジチオフェンの合成((C)工程))
塩化オクタノイルの代わりに塩化ドデカノイル(和光純薬工業製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、ジn−ドデカノイルジチエノベンゾジチオフェンの黄色固体を収率87%で得た。
H−NMR(重ベンゼン,80℃):δ=7.72(s,2H),7.25(s,2H),2.58(t,J=7.2Hz,4H),1.71(m,4H),1.28(m,32H),0.86(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 667(M,100%),526(M−C1021+1,39),511(M−C1123,15)。
【0069】
(ジn−ドデシルジチエノベンゾジチオフェンの合成((D)工程))
ジn−オクタノイルジチエノベンゾジチオフェンの代わりにジn−ドデカノイルジチエノベンゾジチオフェンを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、ジn−ドデシルジチエノベンゾジチオフェンの淡黄色鱗片状結晶を収率38%で得た。
【0070】
得られたジn−ドデシルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより99.6%であった。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.15(s,2H),6.99(s,2H),2.94(t,J=7.2Hz,4H),1.76(m,4H),1.27(m,36H),0.88(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 639(M,100%),483(M−C1123,37),328(M−2C1123,18)。
融点:160.2〜160.6℃。
【0071】
得られたジn−ドデシルジチエノベンゾジチオフェン19.4mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.87gを添加し、60℃に加熱溶解後、室温下(27℃)に放置し溶液を調製した。完全に溶解しておりドロップキャスト、インクジェットによる製膜に適した化合物であることを確認した。
【0072】
ジn−オクチルジチエノベンゾジチオフェンの代わりにジn−ドデシルジチエノベンゾジチオフェンを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は1.46cm/V・s、電流オン・オフ比は1.1×10であった。
【0073】
比較例1
実施例1の(A)、(B)工程と同様の方法により、ジチエノベンゾジチオフェンを得た。
【0074】
(ジn−ヘキサノイルジチエノベンゾジチオフェンの合成)
塩化オクタノイルの代わりに塩化ヘキサノイル(和光純薬工業製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、ジn−ヘキサノイルジチエノベンゾジチオフェンの黄色固体を収率70%で得た。
H−NMR(重ベンゼン,80℃):δ=7.73(s,2H),7.26(s,2H),2.58(t,J=7.2Hz,4H),1.71(m,4H),1.28(m,8H),0.86(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 498(M,100%),442(M−C+1,46),427(M−C11,13)。
【0075】
(ジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンの合成)
ジn−オクタノイルジチエノベンゾジチオフェンの代わりにジn−ヘキサノイルジチエノベンゾジチオフェンを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、ジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンの白色固体を収率31%で得た。
【0076】
得られたジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより99.1%であった。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.17(s,2H),7.00(s,2H),2.97(t,J=7.2Hz,4H),1.78(m,4H),1.28(m,12H),0.88(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 470(M,100%),399(M−C11,57),328(M−2C11,47)。
融点:190.2〜190.4℃。
【0077】
得られたジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン16.5mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.63gを添加し、60℃で加熱溶解後、室温下(27℃)に放置したところ、直ちに固体分の析出が見られ、ドロップキャスト、インクジェットによる製膜には適さない化合物であった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の新規なジチエノベンゾジチオフェン誘導体は、高いキャリア移動度を与えると共に、溶媒への溶解性に優れることから容易に有機半導体薄膜を製造することが可能となり、有機薄膜トランジスタに代表される半導体デバイス材料としての適用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】;有機薄膜トランジスタの断面形状による構造を示す図である。
【符号の説明】
【0080】
(A):ボトムゲート−トップコンタクト型有機薄膜トランジスタ
(B):ボトムゲート−ボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタ
(C):トップゲート−トップコンタクト型有機薄膜トランジスタ
(D):トップゲート−ボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタ
1:有機半導体層
2:基板
3:ゲート電極
4:ゲート絶縁層
5:ソース電極
6:ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とするジチエノベンゾジチオフェン誘導体。
【化1】

(ここで、置換基R及びRは同一又は異なって、n−ヘプチル基、n−オクチル基、炭素数10のアルキル基、炭素数12のアルキル基及び炭素数14のアルキル基からなる群より選択される置換基を示す。)
【請求項2】
ジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−オクチルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−デシルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ドデシルジチエノベンゾジチオフェン及びジn−テトラデシルジチエノベンゾジチオフェンからなる群より選択される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のジチエノベンゾジチオフェン誘導体。
【請求項3】
炭素数7〜13の芳香族系炭化水素溶媒に対し、室温で1重量%以上の溶解度を示すことを特徴とする請求項1又は2に記載のジチエノベンゾジチオフェン誘導体。
【請求項4】
トルエンに対し、室温で1重量%以上の溶解度を示すことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のジチエノベンゾジチオフェン誘導体。
【請求項5】
基板上に、ソース電極及びドレイン電極を付設した請求項1〜4のいずれかに記載のジチエノベンゾジチオフェン誘導体からなる有機半導体層とゲート電極とを絶縁層を介して積層したものであることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項6】
有機半導体層が、請求項1〜4のいずれかに記載のジチエノベンゾジチオフェン誘導体の溶液をドロップキャスト法に供することにより形成された有機半導体層であることを特徴とする請求項6に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項7】
p型トランジスタであることを特徴とする請求項5又は6に記載の有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−206953(P2012−206953A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72227(P2011−72227)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】