説明

ジチエノベンゾジチオフェン誘導体溶液及び有機半導体層

【課題】 高いキャリア移動度を与えると共に容易に効率よく有機半導体層を製膜することが可能となるドロップキャスト製膜用溶液を提供する。
【解決手段】 純度98%以上を有する下記一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体0.01〜10重量%及び炭素数7〜13の芳香族系炭化水素99.99〜90重量%からなるドロップキャスト製膜用溶液。
【化1】


(ここで、置換基R及びRは同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料等の電子材料への展開が可能な高純度なジチエノベンゾジチオフェン誘導体からなるドロップキャスト製膜用溶液及びこれからなる有機半導体層に関するものであり、特に純度が高いことから、高キャリア移動度を与えうる有機材料として期待できるジチエノベンゾジチオフェン誘導体からなるドロップキャスト製膜用溶液、有機半導体層及び有機薄膜トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜トランジスタに代表される有機半導体デバイスは、省エネルギー、低コスト及びフレキシブルといった無機半導体デバイスにはない特徴を有することから近年注目されている。この有機半導体デバイスは、有機半導体層、基板、絶縁層、電極等の数種類の材料から構成され、中でも電荷のキャリア移動を担う有機半導体層は該デバイスの中心的な役割を有している。そして、有機半導体デバイス性能は、この有機半導体層を構成する有機材料のキャリア移動度により左右されることから、高キャリア移動度を与える有機材料の出現が所望されている。
【0003】
また、有機半導体層を作製する方法としては、高温真空下、有機材料を気化させて実施する真空蒸着法、有機材料を適当な溶媒に溶解させその溶液を塗布する塗布法、等の方法が一般的に知られている。そして、塗布法においては、塗布は高温高真空条件を用いることなく印刷技術を用いても実施することができる。そのため、塗布法は印刷によりデバイス作製の大幅な製造コストの削減を図ることができることから、経済的に好ましいプロセスとして期待される反面、溶液状態から溶媒が揮発し、有機半導体材料の薄膜が析出生成することから元来の材料純度がその性能に大きく影響する製法となる。
【0004】
そして、有機半導体材料、それを用いた有機半導体デバイスとしては、例えばジチエノベンゾジチオフェン誘導体及びそれからなる半導体材料(例えば特許文献1参照。)、ジヘキシルジチエノベンゾジチオフェンの真空蒸着法によるトランジスタ(例えば特許文献2参照。)、等が提案されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2010/000670号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献2】特開2009/54810号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1には、ジヘキシルジチエノベンゾジチオフェンが、ディップコート法では1.4cm/Vsという高いホール移動度を示す反面、ドロップキャスト法においては、移動度が0.112cm/Vsに一桁低下することが記載されている。これは、ディップコート法が、溶液中に基板を浸し、ゆっくり基板を引き上げることで基板上に塗布膜を製造する方法であることから、材料に含まれる不純物が溶液中に残り、基板上には純度がより高まった材料の薄膜が形成され、高移動度が得られたと考えられる。一方、ドロップキャスト法においては、基板上で溶液を乾燥することから材料中に含まれる不純物もそのまま含まれる薄膜が形成されることにより、ディップコート法に比べ低い移動度となるものと考えられる。しかし、生産性に優れるインクジェット等の印刷プロセスにより製造を行う際には、ドロップキャスト法にて0.5cm/Vs以上の高移動度を有することが必要となる。また、特許文献2に提案されたトランジスタは、移動度が0.28cm/Vsにとどまるものであり、より高キャリア移動度を与える有機材料の出現が所望される状況に変わりはない。
【0007】
そこで、本発明は、生産性に優れるドロップキャスト法によっても高キャリア移動度を与える有機材料のドロップキャスト製膜用溶液及びそれを用いてなる有機半導体層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、高純度を有するジチエノベンゾジチオフェン誘導体の芳香族系炭化水素溶液からなるドロップキャスト製膜用溶液から製膜してなる有機半導体層が、高キャリア移動度を示すことを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明は、純度98%以上を有する下記一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体0.01〜10重量%及び炭素数7〜13の芳香族系炭化水素99.99〜90重量%からなることを特徴とするドロップキャスト製膜用溶液及びそれを用いてなる有機半導体層に関するものである。
【0010】
【化1】

(ここで、置換基R及びRは同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基を示す。)
以下に本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のドロップキャスト製膜用溶液は、純度98%以上を有する上記一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体0.01〜10重量%及び炭素数7〜13の芳香族系炭化水素99.99〜90重量%からなるものである。
【0012】
本発明のドロップキャスト製膜用溶液を構成するジチエノベンゾジチオフェン誘導体は、上記一般式(1)で示される誘導体であり、純度98%以上、好ましくは99%以上を有するものである。ここで、純度が98%未満である場合、溶液から製膜した有機半導体層、有機半導体デバイスは、キャリア移動度の低いものとなる。
【0013】
また、置換基R及びRは同一又は異なって炭素数1〜20のアルキル基であり、例えばメチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等の直鎖アルキル基;イソブチル基、tert−ブチル基、ネオペンチル基、2−エチルヘキシル基、2−エチルオクチル基、2−エチルデシル基等の分岐アルキル基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロウンデシル基、パーフルオロドデシル基、パーフルオロテトラデシル基等のパーフルオロアルキル基;ペンタデカフルオロオクチル基、オクタデカフルオロデシル基、2−エチルパーフルオロヘキシル基等の一部の水素がフッ素に置換されたフッ素化アルキル基を挙げることができ、好ましくは炭素数4〜18のアルキル基であり、例えばブチル基、ヘプチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロウンデシル基、パーフルオロドデシル基であり、特に好ましくは炭素数4〜12のアルキル基であり、例えばブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロデシル基である。ここで、炭素数20を越えるアルキル基又はアルキル基以外の置換基である場合、溶液とすること自体が困難であったり、たとえ溶液としても製膜した有機半導体層、有機半導体デバイスはキャリア移動度の低いものとなる。
【0014】
該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体の具体的例示としては、以下のものを挙げることができる。
【0015】
【化2】

そして、より好ましくは以下のものを挙げることができる。
【0016】
【化3】

該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体の製造方法としては、該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体を製造することが可能であれば如何なる製造方法を用いることも可能であり、その中でも特に容易に高純度のジチエノベンゾジチオフェン誘導体を製造することが可能となることから、少なくとも下記(A)〜(D)工程を経る製造方法により、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体を製造することが好ましい。
【0017】
(A)工程;パラジウム触媒の存在下、3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体と1,4−ジブロモ−2,5−ジフルオロベンゼンにより1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンを製造する工程。
【0018】
(B)工程;硫化アルカリ金属塩の存在下、(A)工程により得られた1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンの分子内環化によりジチエノベンゾジチオフェンを製造する工程。
【0019】
(C)工程;触媒として塩化アルミニウムの存在下、(B)工程により得られたジチエノベンゾジチオフェンと塩化アシル化合物とのフリーデルクラフツアシル化反応により、ジチエノベンゾジチオフェンのジアシル体を製造する工程。
【0020】
(D)工程;(C)工程により得られたジチエノベンゾジチオフェンのジアシル体を還元反応に供し、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体を製造する工程。
【0021】
そして、好ましい製造方法のより具体的な製造スキームを以下に示す。
【0022】
【化4】

ここで、(A)工程は、パラジウム触媒の存在下、3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体と1,4−ジブロモ−2,5−ジフルオロベンゼンのクロスカップリングにより1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンを製造する工程である。
【0023】
3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体は、例えばイソプロピルマグネシウムブロマイド、エチルマグネシウムクロライド、フェニルマグネシウムクロライド等の有機金属試薬を用い、2,3−ジブロモチオフェンの2位の臭素をマグネシウムハライドに交換後、塩化亜鉛と金属交換することで調製することができる。また、該有機金属試薬の代わりにマグネシウム金属を用い、2,3−ジブロモチオフェンのグリニャール試薬を調製することも可能である。2,3−ジブロモチオフェンのグリニャール試薬を調製する条件としては、例えばテトラヒドロフラン(以後、THFと記す。)又はジエチルエーテル等の溶媒中、−80℃〜70℃の温度範囲内で実施することができる。該グリニャール試薬の溶液に塩化亜鉛を反応させることで3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体を調製することができる。塩化亜鉛はそのままの状態でもよいし、THFあるいはジエチルエーテル溶液であってもかまわない。温度としては、−80℃〜30℃の範囲内で実施できる。
【0024】
パラジウム触媒の存在下、調製された3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体と1,4−ジブロモ−2,5−ジフルオロベンゼンをクロスカップリングすることにより1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンを合成することができる。その際のパラジウム触媒としては、例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリフェニルホスフィン)ジクロロパラジウム等を挙げることができ、反応温度としては、20℃〜80℃の範囲内で実施することができる。
【0025】
(B)工程は、硫化アルカリ金属塩の存在下、1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンの分子内環化によりジチエノベンゾジチオフェンを製造する工程である。
【0026】
該硫化アルカリ金属塩としては、例えば硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化リチウム、硫化ルビジウム、その水和物等を挙げることができ、該分子内環化反応は、例えばN−メチルピロリドン(以後、NMPと記す。)、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中、80℃〜200℃の温度範囲で行うことができる。
【0027】
(C)工程は、触媒として塩化アルミニウムの存在下、ジチエノベンゾジチオフェンと塩化アシル化合物とのフリーデルクラフツアシル化反応により、ジチエノベンゾジチオフェンのジアシル体を製造する工程である。
【0028】
該塩化アシル化合物としては、例えば塩化ブチリル、塩化バレロイル、塩化ヘプタノイル、塩化ヘキサノイル、塩化オクタノイル、塩化デカノイル、塩化ドデカノイル、塩化テトラデカノイル等を挙げることができる。該フリーデルクラフツアシル化反応は、例えばジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、トルエン等の溶媒中、0℃〜40℃の温度範囲で行うことができる。
【0029】
(D)工程は、ジチエノベンゾジチオフェンのジアシル体を還元反応に供し、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体を製造する工程である。
【0030】
ジチエノベンゾジチオフェンのジアシル体の還元反応は、例えば還元剤としてヒドラジンを用い、ジエチレングルコール、エチレングリコール又はトリエチレングリコール中、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム存在下、80℃〜250℃の温度範囲で行うことができる。また、例えば還元剤として水素化リチウムアルミニウム/塩化アルミニウムあるいは水素化ホウ素ナトリウム/塩化アルミニウムを用い、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル又はTHFの溶媒中、−10℃〜80℃の温度範囲で行うことができる。
【0031】
さらに、製造したジチエノベンゾジチオフェン誘導体は、カラムクロマトグラフィー等に供することにより精製することができ、その際の分離剤としては、例えばシリカゲル、アルミナ、溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、クロロホルム等を挙げることができる。
【0032】
また、製造したジチエノベンゾジチオフェン誘導体は、さらに再結晶により精製してもよく、再結晶の回数としては好ましくは2〜5回である。再結晶の回数を増やすことで純度を向上させることができる。再結晶に用いる溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等を挙げることができ、これらの任意の割合の混合物であってもよい。再結晶法としては、加熱によりジチエノベンゾジチオフェン誘導体の溶液を調製し(その際の溶液の濃度は0.01〜10.0重量%の範囲が好ましく、0.05〜5.0重量%の範囲がより好ましい。)、該溶液を冷却することでジチエノベンゾジチオフェン誘導体の結晶を析出させ単離するが、単離する際の最終的な冷却温度は−20℃から40℃の範囲にあることが好ましい。なお、純度を測定する際には液体クロマトグラフィーにより分析することにより測定することが可能である。
【0033】
本発明のドロップキャスト製膜用溶液を構成する炭素数7〜13の芳香族系炭化水素としては、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼン、ブチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、クロロベンゼン、キュメン等を挙げることができ、中でもトルエンであることが好ましい。ここで、炭素数7未満の芳香族系炭化水素である場合、該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体の溶解性に劣ると共に、乾燥が早すぎる為、膜の結晶性が低下する。一方、炭素数13を越える芳香族系炭化水素である場合、沸点が高くなることから製膜時におけるジチエノベンゾジチオフェン誘導体の熱的安定性に課題が発生する。該炭素数7〜13の芳香族炭化水素は、100〜250℃の沸点、特に105〜240℃の沸点、を有するものであることが好ましい。また、芳香族系炭化水素以外である場合にも、溶解性、沸点等に課題が発生する。
【0034】
本発明のドロップキャスト製膜用溶液は、該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体0.01〜10重量%及び該炭素数7〜13の芳香族系炭化水素99.99〜90重量%からなるものである。ここで、該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体が0.01重量%未満である場合、希薄な溶液となることから、製膜が困難となる。一方、該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体が10重量%を越える場合、溶液とすること自体が困難となったり、高濃度となるためにその取り扱いが難しくなる。
【0035】
本発明のドロップキャスト製膜用溶液を製造する際には、純度98.0%以上のジチエノベンゾジチオフェン誘導体と炭素数7〜13の芳香族系炭化水素を混合攪拌することにより調製することが可能である。混合攪拌する際の温度としては10〜150℃が好ましく、特に好ましくは20〜100℃である。
【0036】
本発明のドロップキャスト製膜用溶液は、該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体自体が適度の凝集性を有することから比較的に低温で調製することが可能、且つ耐酸化性があることから、塗布法による有機薄膜の製造に好適に適用できる。即ち、雰囲気から空気を除く必要がないことから塗布工程を簡略化することができる。又、本発明のドロップキャスト製膜用溶液は、例えばポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、ポリメチルメタクリレート等のポリマーをバインダーとして存在させることもできる。さらに本発明のドロップキャスト製膜用溶液は、優れた塗布性を有することから、0.005〜20ポアズの範囲の粘度にあることが好ましい。
【0037】
本発明のドロップキャスト製膜用溶液は、ドロップキャストにより所望の領域に塗布後、乾燥することにより該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体からなる高キャリア移動度を有する有機半導体層を容易に製膜することが可能である。その際の塗布温度に特に制限はなく、例えば10〜150℃の間で好適に行うことができる。また、ドロップキャストの具体的方法にも制限はなく、例えばスピンコート、キャストコート、インクジェット、等の方法により有機半導体層を製膜することが可能である。また、塗布した後の該芳香族系炭化水素の乾燥は、加熱、気流、及び自然乾燥等の方法により実施できる。さらに、該芳香族系炭化水素の気化速度を調節することで、該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体の結晶成長を制御することができる。有機半導体層の膜厚に制限はなく、好ましくは1nm〜1μm、特に好ましくは10nm〜300nmである。
【0038】
また、得られる有機半導体層は塗布乾燥後、40〜150℃にアニール処理することも可能である。
【0039】
該有機半導体層は、有機半導体デバイス、特に有機薄膜トランジスタの有機半導体層とすることができる。そして、有機薄膜トランジスタは、基板上に、ソース電極及びドレイン電極を付設した有機半導体層とゲート電極とを絶縁層を介し積層することにより得られており、該有機半導体層に本発明のドロップキャスト製膜用溶液より製膜した有機半導体層を用いることにより、有機薄膜トランジスタとすることが可能である。
【0040】
図1に一般的な有機薄膜トランジスタの断面形状による構造を示す。ここで、(A)は、ボトムゲート−トップコンタクト型、(B)は、ボトムゲート−ボトムコンタクト型、(C)は、トップゲート−トップコンタクト型、(D)は、トップゲート−ボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタであり、1は有機半導体層、2は基板、3はゲート電極、4はゲート絶縁層、5はソース電極、6はドレイン電極を示し、本発明のドロップキャスト製膜用溶液よりなる有機半導体層は、いずれの有機薄膜トランジスタにも適用することが可能である。
【0041】
そして、基板としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマレート)、ポリ(ジエチルフマレート)、ポリ(ジイソプロピルマレエート)、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、セルローストリアセテート等のプラスチック基板;ガラス、石英、酸化アルミニウム、シリコン、ハイドープシリコン、酸化シリコン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物等の無機材料基板;金、銅、クロム、チタン、アルミニウム等の金属基板、等を挙げることができる。なお、ハイドープシリコンを基板に用いた場合、その基板はゲート電極を兼ねることができる。
【0042】
ゲート電極としては、例えばアルミニウム、金、銀、銅、ハイドープシリコン、スズ酸化物、酸化インジウム、インジウムスズ酸化物、クロム、チタン、タンタル、クロム、グラフェン、カーボンナノチューブ等の無機材料;ドープされた導電性高分子(例えばPEDOT−PSS)等の有機材料を挙げることができる。
【0043】
ゲート絶縁層としては、例えば酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマス等の無機材料基板;ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマレート)、ポリ(ジエチルフマレート)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン等のプラスチック材料を挙げることができる。また、これらのゲート絶縁層の表面は、例えばオクタデシルトリクロロシラン、デシルトリクロロシラン、デシルトリメトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、β−フェネチルトリクロロシラン、β−フェネチルトリメトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン等のシラン類;ヘキサメチルジシラザン等のシリルアミン類で修飾処理したものであっても使用することができる。一般的にゲート絶縁層の表面処理を行うことにより、有機半導体材料の結晶粒径の増大及び分子配向の向上のため、キャリア移動度及び電流オン・オフ比の向上、並びに閾値電圧の低下という好ましい結果が得られる。
【0044】
ソース電極及びドレイン電極の材料としては、ゲート電極と同様の材料を用いることができ、ゲート電極の材料と同じであっても異なっていてもよく、異種材料を積層してもよい。また、キャリアの注入効率を上げるために、これらの電極材料に表面処理を実施することもできる。例えば、ベンゼンチオール、ペンタフルオロベンゼンチオールを挙げることができる。
【0045】
そして、有機半導体層として、本発明のドロップキャスト製膜用溶液を製膜してなる有機半導体層とする際には、例えばスピンコート、キャストコート、インクジェット等のドロップキャスト法を用いることが可能であり、中でも容易に効率よく有機半導体層とすることが可能となることから、特にインクジェットであることが好ましい。また、その際の有機半導体層の膜厚に制限はなく、好ましくは1nm〜1μm、特に好ましくは10nm〜300nmである。
【0046】
本発明のドロップキャスト製膜用溶液は、電子ペーパー、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、ICタグ(RFIDタグ)用等のトランジスタの有機半導体層用途;有機ELディスプレイ材料;有機半導体レーザー材料;有機薄膜太陽電池材料;フォトニック結晶材料等の電子材料に利用することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明のドロップキャスト製膜用溶液は、高いキャリア移動度を与えると共に容易に効率よく有機半導体層を製膜することが可能となることから、有機薄膜トランジスタに代表される半導体デバイス材料としてその効果は極めて高いものである。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
生成物の同定にはH−NMRスペクトル及びマススペクトルを用いた。なお、H−NMRスペクトルの測定は日本電子製の(商品名)JEOL GSX−270WB(270MHz)を用いた。マススペクトル(MS)は日本電子製の(商品名)JEOL JMS−700を用いて、試料を直接導入し、電子衝突(EI)法(70エレクトロンボルト)で測定した。
【0050】
反応の進行の確認等は薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー(GC)及びガスクロマトグラフィー−マススペクトル(GCMS)分析を用いた。
【0051】
ガスクロマトグラフィー分析
装置;島津製作所製、(商品名)GC14B
カラム;J&Wサイエンティフィック社製、(商品名)DB−1,30m
ガスクロマトグラフィー−マススペクトル分析
装置;パーキンエルマー製、(商品名)オートシステムXL(MS部;ターボマスゴールド)
カラム;J&Wサイエンティフィック社製、(商品名)DB−1,30m
ジチエノベンゾジチオフェン誘導体の純度測定は液体クロマトグラフィー分析を用いた。
装置;東ソー製(コントローラー;PX−8020、ポンプ;CCPM−II、デガッサー;SD−8022)
カラム;東ソー製、(商品名)ODS−100V、5μm、4.6mm×250mm
カラム温度;23℃
溶離液;ジクロロメタン:アセトニトリル=4:6(容積比)
流速;1.0ml/分
検出器;UV(東ソー製、(商品名)UV−8020、波長;254nm)。
【0052】
合成例1(1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンの合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器にイソプロピルマグネシウムブロマイド(東京化成工業製、0.80M)のTHF溶液4.5ml(3.6mmol)及びTHF10mlを添加した。この混合物を−75℃に冷却し、2,3−ジブロモチオフェン(和光純薬工業製)873mg(3.61mmol)を滴下した。−75℃で30分間熟成後、塩化亜鉛(シグマ−アルドリッチ製、1.0M)のジエチルエーテル溶液3.6ml(3.6mmol)を滴下した。徐々に室温まで昇温した後、生成した白色スラリー液を減圧濃縮し、10mlの軽沸分を留去した。得られた白色スラリー液(3−ブロモチエニル−2−ジンククロライド)に、1,4−ジブロモ−2,5−ジフルオロベンゼン(和光純薬工業製)272mg(1.00mmol)、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)39.1mg(0.0338mmol、1,4−ジブロモ−2,5−ジフルオロベンゼンに対し3.38モル%)及びTHF10mlを添加した。60℃で8時間反応を実施した後、容器を水冷し3N塩酸3mlを添加することで反応を停止させた。トルエンで抽出し、有機相を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(ヘキサンからヘキサン/ジクロロメタン=10/1)、さらにヘキサン/トルエン=6/4から再結晶精製し、1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンの薄黄色固体227mgを得た(収率52%)。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=7.44(d,J=5.4Hz,2H),7.39(t,J=7.8Hz,2H),7.11(d,J=5.4Hz,2H)。
MS m/z: 436(M,100%),276(M−2Br,13)。
【0053】
合成例2(ジチエノベンゾジチオフェンの合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に合成例1で得た1,4−ジ(3−ブロモチエニル)−2,5−ジフルオロベンゼン200mg(0.458mmol)、NMP10ml、及び硫化ナトリウム・9水和物(和光純薬工業製)240mg(1.00mmol)を添加した。得られた混合物を170℃で6時間加熱し、得られた反応混合物を室温に冷却した。トルエンと水を添加後、分相し、有機相を2回水洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮後、得られた残渣をヘキサンで洗浄を2回実施し、ジチエノベンゾジチオフェンの淡黄色固体95mgを得た(収率69%)。
H−NMR(CDCl,60℃):δ=8.28(s,2H),7.51(d,J=5.2Hz,2H),7.30(d,J=5.2Hz,2H)。
MS m/z: 302(M,100%),270(M−S,5),151(M/2,10)。
【0054】
実施例1
100mlシュレンク反応容器に合成例2で得られたジチエノベンゾジチオフェン86.8mg(0.286mmol)及びジクロロメタン14mlを添加した。この混合物を氷冷し、塩化アルミニウム(和光純薬工業製)134mg(1.00mmol)及び塩化ヘキサノイル(和光純薬工業製)115mg(0.858mmol)を添加した。得られた混合物を室温で30時間攪拌後、氷冷し水を添加することで反応を停止させた。得られたスラリー混合物にトルエンを添加し分相した。黄色スラリー液の有機相を水洗浄後、減圧濃縮した。得られた残渣をヘキサン/トルエン=1/1及びメタノールで洗浄し、減圧乾燥した後、ジn−ヘキサノイルジチエノベンゾジチオフェンの黄色固体99.8mgを得た(収率70%)。
H−NMR(重ベンゼン,80℃):δ=7.73(s,2H),7.26(s,2H),2.58(t,J=7.2Hz,4H),1.71(m,4H),1.28(m,8H),0.86(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 498(M,100%),442(M−C+1,46),427(M−C11,13)。
【0055】
そして、100mlシュレンク反応容器にジn−ヘキサノイルジチエノベンゾジチオフェン97mg(0.194mmol)、水酸化カリウム223mg(3.97mmol)、ジエチレングリコール12ml、及びヒドラジン・1水和物(和光純薬工業製)412mg(8.23mmol)を添加し、120℃で1時間攪拌後、さらに220℃で30時間攪拌した。室温に冷却後、トルエン及び水を添加分相後、有機相の水洗浄を3回繰り返した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(ヘキサン)、さらにヘキサン(和光純薬工業製ピュアーグレード)から3回再結晶精製した。なお、1回目及び2回目の再結晶の最終冷却温度は0℃とし、3回目は7℃とした。3回目の再結晶では粗生成物1mgに対し、ヘキサン0.6mlを使用し、ジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンの白色固体35mgを得た(収率38%)。
【0056】
得られたジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより99.1%であった。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.17(s,2H),7.00(s,2H),2.97(t,J=7.2Hz,4H),1.78(m,4H),1.28(m,12H),0.88(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 470(M,100%),399(M−C11,57),328(M−2C11,47)。
融点:190.2〜190.4℃。
【0057】
なお、非特許文献(アドバンスト マテリアルズ、2009年、21巻、213−216頁)によればシリカゲルカラムクロマトグラフィー精製後の同一化合物の融点は150〜155℃と温度幅が広く、7%以上の不純物を含むことが示唆された。
【0058】
空気下、10mlサンプル管にジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン3.0mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.4gを添加し、50℃に加熱し化合物を溶解させることでジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン/トルエンからなるドロップキャスト製膜用溶液を調製した(0.21重量%無色溶液)。液体クロマトグラフィー分析よりジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンの純度は99.1%であった。さらに該溶液を空気下で48時間放置後、液体クロマトグラフィー分析を行ったが純度の低下はなく、酸化物は検出されなかった。
【0059】
空気下、直径2インチのn型にハイドープしたシリコン基板(セミテック製、抵抗値;0.001〜0.004Ω、表面に200nmのシリコン酸化膜付き)上に、該ドロップキャスト製膜用溶液0.5mlをシリンジに充填し、0.2μmのフィルターを通した溶液をドロップキャストした。室温下(27℃)で自然乾燥し、膜厚55nmのジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンの薄膜からなる有機半導体層を作製した。
【0060】
該有機半導体層にチャネル長45μm、チャネル幅1500μmのシャドウマスクを取り付け、金を真空蒸着することで電極を形成し、ボトムゲート−トップコンタクト型の有機薄膜トランジスタを作製した。
【0061】
作製した有機薄膜トランジスタの電気物性を半導体パラメーターアナライザー(アジレントテクノロジー社製B1500A)を用いて、ドレイン電圧(Vd=−50V)で、ゲート電圧(Vg)を+10〜−60Vまで1V刻みで走査し、伝達特性の評価を行った。正孔のキャリア移動度は1.1cm/V・s、電流オン・オフ比は1.0×10であった。
【0062】
比較例1
シリカゲルカラムクロマトグラフィーでのみ精製を行った以外は、実施例1と同様の方法によりジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンを得た。
【0063】
得られたジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより92.3%であり、融点は155〜160℃であった。
【0064】
そして、空気下、10mlサンプル管にジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン3.0mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.4gを添加し、50℃に加熱し化合物を溶解させることでジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン/トルエンからなる溶液を調製した。液体クロマトグラフィー分析よりジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンの純度は92.3%であった。
【0065】
該溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型の有機薄膜トランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は0.0042cm/V・s、電流オン・オフ比は1.0×10であった。
【0066】
比較例2
シリカゲルカラムクロマトグラフィー及びヘキサンで1回再結晶精製した以外は、実施例1と同様の方法によりジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンを得た。
【0067】
得られたジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより96.6%であり、融点は179〜182℃であった。
【0068】
そして、空気下、10mlサンプル管にジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン3.0mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.4gを添加し、50℃に加熱し化合物を溶解させることでジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン/トルエンからなる溶液を調製した。液体クロマトグラフィー分析よりジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンの純度は96.6%であった。
【0069】
該溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型の有機薄膜トランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は0.037cm/V・s、電流オン・オフ比は1.0×10であった。
【0070】
実施例2
塩化ヘキサノイルの代わりに塩化ヘプタノイル(和光純薬工業製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりジn−ヘプタノイルジチエノベンゾジチオフェンの黄色固体を収率85%で得た。
H−NMR(重ベンゼン,80℃):δ=7.74(s,2H),7.24(s,2H),2.58(t,J=7.2Hz,4H),1.71(m,4H),1.28(m,12H),0.86(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 526(M,100%),456(M−C11+1,46),441(M−C13,13)。
【0071】
そして、ジn−ヘキサノイルジチエノベンゾジチオフェンの代わりにジn−ヘプタノイルジチエノベンゾジチオフェンを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェンの白色固体を収率34%で得た。
【0072】
得られたジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより99.5%であった。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.15(s,2H),6.98(s,2H),2.97(t,J=7.2Hz,4H),1.78(m,4H),1.28(m,16H),0.88(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 498(M,100%),413(M−C13,50),328(M−2C13,41)。
融点:185.4〜185.9℃。
【0073】
空気下、10mlサンプル管に得られたジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェン3.0mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.4gを添加し、50℃に加熱し化合物を溶解させることでジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェン/トルエンからなるドロップキャスト製膜用溶液を調製した(0.21重量%無色溶液)。液体クロマトグラフィー分析よりジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は99.5%であった。さらに該溶液を空気下で48時間放置後、液体クロマトグラフィー分析を行ったが純度の低下はなく、酸化物は検出されなかった。
【0074】
該溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のトランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は1.3cm/V・s、電流オン・オフ比は5.0×10であった。
【0075】
比較例3
シリカゲルカラムクロマトグラフィーでのみ精製を行った以外は、実施例2と同様の方法によりジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェンを得た。
【0076】
得られたジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより93.8%であり、融点は153〜158℃であった。
【0077】
そして、空気下、10mlサンプル管に得られたジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェン3.0mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.4gを添加し、50℃に加熱し化合物を溶解させることでジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェン/トルエンからなるドロップキャスト製膜用溶液を調製した。液体クロマトグラフィー分析よりジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は93.8%であった。
【0078】
該溶液を用いた以外は、実施例2と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のトランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は0.0051cm/V・s、電流オン・オフ比は1.0×10であった。
【0079】
比較例4
シリカゲルカラムクロマトグラフィー及びヘキサンで1回再結晶精製した以外は、実施例2と同様の方法によりジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェンを得た。
【0080】
得られたジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより96.8%であり、融点は177〜180℃であった。
【0081】
そして、空気下、10mlサンプル管に得られたジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェン3.0mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.4gを添加し、50℃に加熱し化合物を溶解させることでジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェン/トルエンからなるドロップキャスト製膜用溶液を調製した。液体クロマトグラフィー分析よりジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は96.8%であった。
【0082】
該溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のトランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は0.046cm/V・s、電流オン・オフ比は1.0×10であった。
【0083】
実施例3
塩化ヘキサノイルの代わりに塩化ブチリル(和光純薬工業製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりジn−ブタノイルジチエノベンゾジチオフェンの黄色固体を収率88%で得た。
H−NMR(重ベンゼン,80℃):δ=7.74(s,2H),7.24(s,2H),2.58(t,J=7.2Hz,4H),1.71(m,4H),0.86(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 442(M,100%),414(M−C+1,51),399(M−C,18)。
【0084】
そして、ジn−ヘキサノイルジチエノベンゾジチオフェンの代わりにジn−ブタノイルジチエノベンゾジチオフェンを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェンの白色固体を収率38%で得た。
【0085】
得られたジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより99.6%であった。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.16(s,2H),6.99(s,2H),2.97(t,J=7.2Hz,4H),1.78(m,4H),1.28(m,4H),0.88(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 414(M,100%),371(M−C,61),328(M−2C,49)。
融点:200.8〜201.3℃。
【0086】
空気下、10mlサンプル管に得られたジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン3.0mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.4gを添加し、50℃に加熱し化合物を溶解させることでジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン/トルエンからなるドロップキャスト製膜用溶液を調製した(0.21重量%無色溶液)。液体クロマトグラフィー分析よりジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は99.6%であった。さらに該溶液を空気下で48時間放置後、液体クロマトグラフィー分析を行ったが純度の低下はなく、酸化物は検出されなかった。
【0087】
該溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のトランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は1.2cm/V・s、電流オン・オフ比は7.0×10であった。
【0088】
比較例5
シリカゲルカラムクロマトグラフィーでのみ精製を行った以外は、実施例3と同様の方法によりジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェンを得た。
【0089】
得られたジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより93.8%であり、融点は161〜165℃であった。
【0090】
そして、空気下、10mlサンプル管に得られたジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン3.0mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.4gを添加し、50℃に加熱し化合物を溶解させることでジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン/トルエンからなるドロップキャスト製膜用溶液を調製した。液体クロマトグラフィー分析よりジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は93.8%であった。
【0091】
該溶液を用いた以外は、実施例3と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のトランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は0.0084cm/V・s、電流オン・オフ比は1.0×10であった。
【0092】
比較例6
シリカゲルカラムクロマトグラフィー及びヘキサンで1回再結晶精製した以外は、実施例3と同様の方法によりジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェンを得た。
【0093】
得られたジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより96.8%であり、融点は185〜190℃であった。
【0094】
そして、空気下、10mlサンプル管に得られたジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン3.0mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.4gを添加し、50℃に加熱し化合物を溶解させることでジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン/トルエンからなるドロップキャスト製膜用溶液を調製した。液体クロマトグラフィー分析よりジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は96.8%であった。
【0095】
該溶液を用いた以外は、実施例3と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のトランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は0.056cm/V・s、電流オン・オフ比は1.0×10であった。
【0096】
実施例4
塩化ヘキサノイルの代わりに塩化バレロイル(和光純薬工業製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法によりジn−ペンタノイルジチエノベンゾジチオフェンの黄色固体を収率84%で得た。
H−NMR(重ベンゼン,80℃):δ=7.74(s,2H),7.25(s,2H),2.58(t,J=7.2Hz,4H),1.71(m,4H),1.28(m,4H),0.86(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 470(M,100%),428(M−C+1,49),413(M−C,20)。
【0097】
そして、ジn−ヘキサノイルジチエノベンゾジチオフェンの代わりにジn−ペンタノイルジチエノベンゾジチオフェンを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェンの白色固体を収率39%で得た。
【0098】
得られたジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより99.5%であった。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.17(s,2H),7.00(s,2H),2.97(t,J=7.2Hz,4H),1.78(m,4H),1.28(m,8H),0.88(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 442(M,100%),385(M−C,58),328(M−2C,46)。
融点:195.6〜196.1℃。
【0099】
空気下、10mlサンプル管に得られたジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン3.0mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.4gを添加し、50℃に加熱し化合物を溶解させることでジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン/トルエンからなるドロップキャスト製膜用溶液を調製した(0.21重量%無色溶液)。液体クロマトグラフィー分析よりジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は99.5%であった。さらに該溶液を空気下で48時間放置後、液体クロマトグラフィー分析を行ったが純度の低下はなく、酸化物は検出されなかった。
【0100】
該溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のトランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は1.0cm/V・s、電流オン・オフ比は5.0×10であった。
【0101】
比較例7
シリカゲルカラムクロマトグラフィーでのみ精製を行った以外は、実施例4と同様の方法によりジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェンを得た。
【0102】
得られたジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより93.8%であり、融点は161〜165℃であった。
【0103】
そして、空気下、10mlサンプル管に得られたジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン3.0mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.4gを添加し、50℃に加熱し化合物を溶解させることでジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン/トルエンからなるドロップキャスト製膜用溶液を調製した。液体クロマトグラフィー分析よりジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は93.8%であった。
【0104】
該溶液を用いた以外は、実施例4と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のトランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は0.0091cm/V・s、電流オン・オフ比は1.0×10であった。
【0105】
比較例8
シリカゲルカラムクロマトグラフィー及びヘキサンで1回再結晶精製した以外は、実施例4と同様の方法によりジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェンを得た。
【0106】
得られたジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより96.8%であり、融点は181〜185℃であった。
【0107】
そして、空気下、10mlサンプル管に得られたジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン3.0mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.4gを添加し、50℃に加熱し化合物を溶解させることでジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン/トルエンからなるドロップキャスト製膜用溶液を調製した。液体クロマトグラフィー分析よりジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は96.8%であった。
【0108】
該溶液を用いた以外は、実施例4と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のトランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は0.061cm/V・s、電流オン・オフ比は1.0×10であった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のドロップキャスト製膜用溶液は、高いキャリア移動度を与えると共に容易に効率よく有機半導体層を製膜することが可能となることから、有機薄膜トランジスタに代表される半導体デバイス材料としての適用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】;有機薄膜トランジスタの断面形状による構造を示す図である。
【符号の説明】
【0111】
(A):ボトムゲート−トップコンタクト型有機薄膜トランジスタ
(B):ボトムゲート−ボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタ
(C):トップゲート−トップコンタクト型有機薄膜トランジスタ
(D):トップゲート−ボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタ
1:有機半導体層
2:基板
3:ゲート電極
4:ゲート絶縁層
5:ソース電極
6:ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度98%以上を有する下記一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体0.01〜10重量%及び炭素数7〜13の芳香族系炭化水素99.99〜90重量%からなることを特徴とするドロップキャスト製膜用溶液。
【化1】

(ここで、置換基R及びRは同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基を示す。)
【請求項2】
ジチエノベンゾジチオフェン誘導体が、ジメチルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン、ジ2−エチルヘキシルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ノニルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−オクチルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−デシルジチエノベンゾジチオフェン及びジn−ドデシルジチエノベンゾジチオフェンからなる群より選択されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体であることを特徴とする請求項1に記載のドロップキャスト製膜用溶液。
【請求項3】
芳香族系炭化水素が、トルエンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のドロップキャスト製膜用溶液。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のドロップキャスト製膜用溶液をドロップキャスト法に供し、製膜してなることを特徴とする有機半導体層。
【請求項5】
ドロップキャスト法が、インクジェット法であることを特徴とする請求項4に記載の有機半導体層。
【請求項6】
純度98%以上を有する下記一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体からなることを特徴とする請求項4又は5に記載の有機半導体層。
【化2】

(ここで、置換基R及びRは同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基を示す。)
【請求項7】
基材上に、ソース電極及びドレイン電極を付設した請求項4〜6のいずれかに記載の有機半導体層とゲート電極とを絶縁層を介して積層したものであることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−209329(P2012−209329A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72228(P2011−72228)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】