説明

ジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物及びこれを用いた有機薄膜トランジスタ

【課題】溶媒への溶解性に優れ、高キャリア移動度が期待できる新規なジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物及びこれを用いた有機薄膜トランジスタを提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体99〜80重量%及び特定式で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体1〜20重量%からなることを特徴とするジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物。


(ここで、置換基R及びRは、同一又は異なって、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基及びn−オクチル基からなる群より選択される置換基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料等の電子材料への展開が可能なジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物、これを用いた有機薄膜トランジスタに関するものであり、特に溶媒への溶解性に優れ、高キャリア移動度を与えうることから容易に有機半導体材料等への展開が可能となる新規なジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物及びこれを用いた有機薄膜トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜トランジスタに代表される有機半導体デバイスは、省エネルギー、低コスト及びフレキシブルといった無機半導体デバイスにはない特徴を有することから近年注目されている。この有機半導体デバイスは、有機半導体層、基板、絶縁層、電極等の数種類の材料から構成され、中でも電荷のキャリア移動を担う有機半導体層は該デバイスの中心的な役割を有している。そして、有機半導体デバイス性能は、この有機半導体層を構成する有機材料のキャリア移動度により左右されることから、高キャリア移動度を与える有機材料の出現が所望されている。
【0003】
また、有機半導体層を作製する方法としては、高温真空下、有機材料を気化させて実施する真空蒸着法、有機材料を適当な溶媒に溶解させその溶液を塗布する塗布法、等の方法が一般的に知られている。
【0004】
塗布法においては、塗布は高温高真空条件を用いることなく印刷技術を用いても実施することができる。そのため、塗布法は印刷によりデバイス作製の大幅な製造コストの削減を図ることができることから、経済的に好ましいプロセスである。そして、このような塗布法に使用される有機半導体材料は、低分子系、高分子系があり、1.0重量%以上の溶解度を持つことが好ましい。一般的にキャリア移動度が高い低分子系材料の方が好ましいが、1.0重量%以上の溶解度を有し高移動度を与える低分子の有機半導体材料の種類は極めて限られているのが現状である。
【0005】
そして、低分子系材料としては、例えば、トルエン等の炭化水素溶媒にも高溶解度を示すビス((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセン(例えば非特許文献1参照。)、ジアルキル置換ベンゾチエノベンゾチオフェン(例えば特許文献1参照。)、ジヘキシルジチエノベンゾジチオフェン(例えば特許文献2参照。)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再公表特許WO2008/047896号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献2】WO2010/000670号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ジャーナル オブ ポリマー サイエンス、パートB、ポリマー フィジックス、2006年、44巻、3631〜3641頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、非特許文献1に記載されたビス((トリイソプロピルシリル)エチニル)ペンタセンは、ヘキサン等の無極性溶媒にも高溶解度を示す反面、120℃以上に加熱すると薄膜が変質し、移動度が1.0cm/Vsから0.2cm/Vsへ低下するという課題を有するものであった。また、特許文献1に記載されたジアルキル置換ベンゾチエノベンゾチオフェンは、スピンコート膜として100℃以上に熱処理することで1.0cm/Vs以上の移動度を達成することは可能であるが、熱処理を施さない場合は0.08〜0.17cm/Vsと低いものであり、融点が120〜130℃と低く、耐熱性にも課題を有するものであった。特許文献2に提案のジヘキシルジチエノベンゾジチオフェンは、ドロップキャスト法により0.112cm/Vsの移動度を示すが、室温での溶媒に対する溶解度に課題を有する。
【0009】
また、有機エレクトロルミネッセンス等のディスプレイを駆動するには、トランジスタは少なくとも0.5cm/Vsの移動度が必要とされ、デバイス作製に電極形成等の加熱工程があり用いる材料は少なくとも150℃の耐熱性を持つことが要求されるが、150℃以上の耐熱性を持ち且つ室温で1.0重量%以上の溶解度を有する有機半導体材料は知られておらず、このような有機半導体材料の出現が所望されている。
【0010】
そこで、本発明は、溶媒への溶解性に優れることから容易に有機半導体材料等への展開が可能となる新規な有機半導体材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、新規なジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物が高キャリア移動度を与えると共に、溶媒に対して優れた溶解性を示すことを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体99〜80重量%及び下記一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体1〜20重量%からなるジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物及びそれを用いてなる有機薄膜トランジスタに関するものである。
【0013】
【化1】

(ここで、置換基R及びRは同一又は異なって、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基及びn−オクチル基からなる群より選択される置換基を示す。)
【0014】
【化2】

(ここで、置換基R及びRは同一又は異なって、エチル基、n−プロピル基及びn−ブチル基からなる群より選択される置換基を示す。)
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物は、上記一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体99〜80重量%及び上記一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体1〜20重量%からなるものであり、特に取り扱い性、溶解性に優れるとともに、高キャリア移動度を与えるものとなることから、一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体99〜90重量%及び一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体1〜10重量%からなるものであることが好ましい。ここで、一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体が99重量%を超えるものである場合、得られる組成物は溶媒に対する溶解性に劣るものとなり、塗布法(例えばインクジェット法)による製膜に課題を有する。一方、一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体が80重量%未満である場合、得られる組成物は、高キャリア移動度を与えることができない。
【0016】
本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物を構成する上記一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体の置換基R及びRとしては、同一又は異なって、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基及びn−オクチル基からなる群より選択される置換基である。そして、その中でも特に高キャリア移動度を与えるジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物となることから、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基からなる群より選択されることが好ましく、さらに置換基R及びRは同一で、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基からなる群より選択されることが好ましい。該一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体の具体的例示としては、ジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェン、n−ペンチル−n−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン、n−ペンチル−n−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェン等を挙げることができ、中でも、ジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェンであることが好ましい。
【0017】
本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物を構成する上記一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体の置換基R及びRとしては、同一又は異なって、エチル基、n−プロピル基及びn−ブチル基からなる群より選択される置換基である。そして、その中でも特に高溶解度を与えるジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物となることから、n−プロピル基及び/またはn−ブチル基であることが好ましい。該一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体の具体的例示としては、ジn−プロピルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン、n−プロピル−n−ブチルジチエノベンゾジチオフェン等をあげることができ、中でも、ジn−プロピルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェンであることが好ましい。
【0018】
そして、本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物を構成する一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体と一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体の具体的な好ましい組み合わせとしては、高キャリア移動度を与え且つ溶媒に対する高溶解度を示すことから、例えばジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンとジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェンとジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ヘプチルジチエノベンゾジチオフェンとジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン、ジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンとジn−プロピルジチエノベンゾジチオフェン等の組み合わせである。
【0019】
本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物は、塗布法、ドロップキャスト法、特にインクジェット法による製膜に適したものとなることから、室温で溶媒に対し1重量%以上の溶解度を示すものであることが好ましく、その際の溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、メシチレン、ビフェニル、エチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、オクチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素溶媒;o−ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒;テトラヒドロフラン(以下、THFと記す。)、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと記す。)等のアミド系溶媒;等が挙げられ、中でも高沸点の溶液を得ることが可能となることから、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の炭素数7〜13の芳香族炭化水素溶媒であることが好ましく、特にトルエン、キシレンであることが好ましい。ここで、室温とは、一般的に常温とも称されるものであり、例えば20〜24℃の温度を挙げることができる。
【0020】
本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物の溶液を調製する際には、ジチエノベンゾジチフォフェン誘導体組成物と上記に挙げた溶媒とを混合し、加熱・攪拌するほかに、上記に挙げた溶媒と一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体及び(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体を混合し、加熱・攪拌することにより、調製することができる。加熱・攪拌する際の温度は30〜150℃が好ましく、特に好ましくは40〜100℃である。攪拌する際のジチエノベンゾジチオフェン誘導体の濃度は、0.1〜10.0重量%であることが好ましい。
【0021】
本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物を構成する上記一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体及び上記一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体の製造方法としては、これらジチエノベンゾジチオフェン誘導体を製造することが可能であれば如何なる製造方法を用いることも可能であり、その中でも特に容易に高純度のジチエノベンゾジチオフェン誘導体を製造することが可能となることから、少なくとも下記(A)〜(D)の工程を経る製造方法により、これらジチエノベンゾジチオフェン誘導体を製造することが好ましい。
【0022】
(A)工程;パラジウム触媒の存在下、3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体と1,4−ジブロモ−2,5−ジフルオロベンゼンにより1,4−ジ(3−ブロモ−2−チエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンを製造する工程。
【0023】
(B)工程;硫化アルカリ金属塩の存在下、(A)工程により得られた1,4−ジ(3−ブロモ−2−チエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンの分子内環化によりジチエノベンゾジチオフェンを製造する工程。
【0024】
(C)工程;触媒として塩化アルミニウムの存在下、(B)工程により得られたジチエノベンゾジチオフェンと塩化アシル化合物とのフリーデルクラフツアシル化反応により、ジチエノベンゾジチオフェンのジアシル体を製造する工程。
【0025】
(D)工程;(C)工程により得られたジチエノベンゾジチオフェンのジアシル体を還元反応に供し、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体を製造する工程。
【0026】
そして、好ましい製造方法のより具体的な製造スキームを以下に示す。
【0027】
【化3】

ここで、(A)工程は、パラジウム触媒の存在下、3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体と1,4−ジブロモ−2,5−ジフルオロベンゼンのクロスカップリングにより1,4−ジ(3−ブロモ−2−チエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンを製造する工程である。
【0028】
3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体は、例えばエチルマグネシウムクロライド、イソプロピルマグネシウムブロマイド、フェニルマグネシウムクロライド等の有機金属試薬を用い、2,3−ジブロモチオフェンの2位の臭素をマグネシウムハライドに交換後、塩化亜鉛と金属交換することで調製することができる。また、該有機金属試薬の代わりにマグネシウム金属を用い、2,3−ジブロモチオフェンのグリニャール試薬を調製することも可能である。2,3−ジブロモチオフェンのグリニャール試薬を調製する条件としては、例えばTHF又はジエチルエーテル等の溶媒中、−80℃〜70℃の温度範囲内で実施することができる。該グリニャール試薬の溶液に塩化亜鉛を反応させることで3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体を調製することができる。塩化亜鉛はそのままの状態でもよいし、THFあるいはジエチルエーテル溶液であってもかまわない。温度としては、−80℃〜30℃の範囲内で実施できる。
【0029】
パラジウム触媒の存在下、調製された3−ブロモチオフェン−2−亜鉛誘導体と1,4−ジブロモ−2,5−ジフルオロベンゼンをクロスカップリングすることにより1,4−ジ(3−ブロモ−2−チエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンを合成することができる。その際のパラジウム触媒としては、例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリフェニルホスフィン)ジクロロパラジウム等を挙げることができ、反応温度としては、20℃〜80℃の範囲内で実施することができる。
【0030】
(B)工程は、硫化アルカリ金属塩の存在下、1,4−ジ(3−ブロモ−2−チエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンの分子内環化によりジチエノベンゾジチオフェンを製造する工程である。
【0031】
該硫化アルカリ金属塩としては、例えば硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化リチウム、硫化ルビジウム、その水和物等を挙げることができ、該分子内環化反応は、例えばNMP、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中、80℃〜200℃の温度範囲で行うことができる。
【0032】
(C)工程は、触媒として塩化アルミニウムの存在下、ジチエノベンゾジチオフェンと塩化アシル化合物とのフリーデルクラフツアシル化反応により、ジチエノベンゾジチオフェンのジアシル体を製造する工程である。
【0033】
該塩化アシル化合物としては、例えば塩化アセチル、塩化プロピオニル、塩化ブチリル、塩化ペンタノイル、塩化ヘキサノイル、塩化ヘプタノイル、塩化オクタノイル等を挙げることができる。該フリーデルクラフツアシル化反応は、例えばジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、トルエン等の溶媒中、0℃〜40℃の温度範囲で行うことができる。
【0034】
(D)工程は、ジチエノベンゾジチオフェンのジアシル体を還元反応に供し、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体を製造する工程である。
【0035】
ジチエノベンゾジチオフェンのジアシル体の還元反応は、例えば還元剤として水素化ホウ素ナトリウム/塩化アルミニウムを用い、THF、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル又はメチルターシャリーブチルエーテルの溶媒中、−10℃〜80℃の温度範囲で行うことができる。また、例えば還元剤としてヒドラジンを用い、ジエチレングルコール、エチレングリコール又はトリエチレングリコール中で、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムの存在下、80℃〜250℃の温度範囲で行うこともできる。
【0036】
さらに、製造したジチエノベンゾジチオフェン誘導体は、カラムクロマトグラフィー等に供することにより精製することができ、その際の分離剤としては、例えばシリカゲル、アルミナ、溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジクロロメタン等を挙げることができる。
【0037】
また、製造したジチエノベンゾジチオフェン誘導体は、さらに再結晶により精製してもよく、再結晶の回数としては好ましくは2〜5回である。再結晶の回数を増やすことで純度を向上させることができる。再結晶に用いる溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等を挙げることができ、これらの任意の割合の混合物であってもよい。再結晶法としては、加熱によりジチエノベンゾジチオフェン誘導体の溶液を調製し(その際の溶液の濃度は0.01〜10.0重量%の範囲が好ましく、0.05〜5.0重量%の範囲がより好ましい。)、該溶液を冷却することでジチエノベンゾジチオフェン誘導体の結晶を析出させ単離するが、単離する際の最終的な冷却温度は−20℃から40℃の範囲にあることが好ましい。なお、純度を測定する際には液体クロマトグラフィーにより分析することが可能である。
【0038】
本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物は、高いキャリア移動度を与えることから有機半導体材料としての優れた特性を有すると共に、溶媒への高い溶解性を有することから塗布法、ドロップキャスト法、特にインクジェット法、等の方法により容易に効率よく、有機半導体層を形成することが可能となる。
【0039】
そして、有機薄膜トランジスタは、基板上に、ソース電極及びドレイン電極を付設した有機半導体層とゲート電極とを絶縁層を介し積層することにより得られており、該有機半導体層に本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物よりなる有機半導体層を用いることにより、有機薄膜トランジスタとすることが可能である。
【0040】
図1に一般的な有機薄膜トランジスタの断面形状による構造を示す。ここで、(A)は、ボトムゲート−トップコンタクト型、(B)は、ボトムゲート−ボトムコンタクト型、(C)は、トップゲート−トップコンタクト型、(D)は、トップゲート−ボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタであり、1は有機半導体層、2は基板、3はゲート電極、4はゲート絶縁層、5はソース電極、6はドレイン電極を示し、本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物よりなる有機半導体層は、いずれの有機薄膜トランジスタにも適用することが可能である。
【0041】
そして、基板としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマレート)、ポリ(ジエチルフマレート)、ポリ(ジイソプロピルマレエート)、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、セルローストリアセテート等のプラスチック基板;ガラス、石英、酸化アルミニウム、シリコン、ハイドープシリコン、酸化シリコン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物等の無機材料基板;金、銅、クロム、チタン、アルミニウム等の金属基板、等を挙げることができる。なお、ハイドープシリコンを基板に用いた場合、その基板はゲート電極を兼ねることができる。
【0042】
ゲート電極としては、例えばアルミニウム、金、銀、銅、ハイドープシリコン、スズ酸化物、酸化インジウム、インジウムスズ酸化物、クロム、チタン、タンタル、グラフェン、カーボンナノチューブ等の無機材料;ドープされた導電性高分子(例えばPEDOT−PSS)等の有機材料を挙げることができる。
【0043】
ゲート絶縁層としては、例えば酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマス等の無機材料基板;ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマレート)、ポリ(ジエチルフマレート)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン等のプラスチック材料を挙げることができる。また、これらのゲート絶縁層の表面は、例えばオクタデシルトリクロロシラン、デシルトリクロロシラン、デシルトリメトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、β−フェネチルトリクロロシラン、β−フェネチルトリメトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のシラン類;ヘキサメチルジシラザン等のシリルアミン類で修飾処理したものであっても使用することができる。一般的にゲート絶縁層の表面処理を行うことにより、有機半導体材料の結晶粒径の増大及び分子配向の向上のため、キャリア移動度及び電流オン・オフ比の向上、並びに閾値電圧の低下という好ましい結果が得られる。
【0044】
ソース電極及びドレイン電極の材料としては、ゲート電極と同様の材料を用いることができ、ゲート電極の材料と同じであっても異なっていてもよく、異種材料を積層してもよい。また、キャリアの注入効率を上げるために、これらの電極材料に表面処理を実施することもできる。例えば、ベンゼンチオール、ペンタフルオロベンゼンチオールを挙げることができる。
【0045】
さらに、本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物は、ポリマーバインダーを共存させたものであってもよく、該ポリマーバインダーとしてはポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタクリレート等を好適なものとしてあげることができる。該ポリマーバインダーの使用量としては、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物に対して、1〜1000重量%であることが好ましい。
【0046】
そして、有機半導体層として、本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物よりなる有機半導体層とする際には、例えばスピンコート、キャストコート、インクジェット等のドロップキャスト法;ブレードコート;ディップコート、スクリーン印刷、グラビア印刷、等の方法を用いることが可能であり、中でも容易に効率よく有機半導体層とすることが可能となることから、スピンコート、キャストコート、インクジェット等のドロップキャスト法であることが好ましく、特にインクジェットであることが好ましい。また、その際の有機半導体層の膜厚に制限はなく、好ましくは1nm〜1μm、特に好ましくは10nm〜300nmである。
【0047】
また、本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物を含む有機半導体層は塗布乾燥後、40〜150℃にアニール処理することも可能である。
【0048】
本発明のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物は、電子ペーパー、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、ICタグ(RFIDタグ)用等のトランジスタの有機半導体層用途;有機ELディスプレイ材料;有機半導体レーザー材料;有機薄膜太陽電池材料;フォトニック結晶材料等の電子材料に利用することができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明の新規なジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物は、高いキャリア移動度を与えると共に、溶媒への溶解性に優れることから容易に有機半導体薄膜を製造することが可能となり、有機薄膜トランジスタに代表される半導体デバイス材料としてその効果は極めて高いものである。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
生成物の同定にはH−NMRスペクトル及びマススペクトルを用いた。なお、H−NMRスペクトルの測定は日本電子製の(商品名)JEOL GSX−270WB(270MHz)を用いた。マススペクトル(MS)は日本電子製の(商品名)JEOL JMS−700を用いて、試料を直接導入し、電子衝突(EI)法(70エレクトロンボルト)で測定した。
【0052】
反応の進行の確認等は薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー(GC)及びガスクロマトグラフィー−マススペクトル(GCMS)分析を用いた。
【0053】
ガスクロマトグラフィー分析
装置;島津製作所製、(商品名)GC14B
カラム;J&Wサイエンティフィック社製、(商品名)DB−1,30m。
【0054】
ガスクロマトグラフィー−マススペクトル分析
装置;パーキンエルマー製、(商品名)オートシステムXL(MS部;ターボマスゴールド)
カラム;J&Wサイエンティフィック社製、(商品名)DB−1,30m。
【0055】
ジチエノベンゾジチオフェン誘導体の純度測定は液体クロマトグラフィー分析を用いた。
装置;東ソー製(コントローラー;PX−8020、ポンプ;CCPM−II、デガッサー;SD−8022)
カラム;東ソー製、(商品名)ODS−100V、5μm、4.6mm×250mm
カラム温度;23℃
溶離液;ジクロロメタン:アセトニトリル=4:6(容積比)
流速;1.0ml/分
検出器;UV(東ソー製、(商品名)UV−8020、波長;254nm)。
【0056】
合成例1
(1,4−ジ(3−ブロモ−2−チエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンの合成((A)工程))
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器にエチルマグネシウムクロライド(シグマ−アルドリッチ製、2.0mol/l)のTHF溶液1.9ml(3.8mmol)及びTHF10mlを添加した。この混合物を−75℃に冷却し、2,3−ジブロモチオフェン(和光純薬工業製)873mg(3.61mmol)を滴下した。15℃で20分間熟成後、塩化亜鉛(和光純薬工業製)491mg(3.60mmol)を投入した。15℃で15分間反応後、26℃で10分間熟成させた。得られた白色スラリー液(3−ブロモ−2−チエニル−2−ジンククロライド)に、1,4−ジブロモ−2,5−ジフルオロベンゼン(和光純薬工業製)272mg(1.00mmol)、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)23.1mg(0.0200mmol、1,4−ジブロモ−2,5−ジフルオロベンゼンに対し2.00モル%)を添加した。60℃で3時間反応を実施した後、容器を水冷し3N塩酸3mlを添加することで反応を停止させた。トルエンで抽出し、有機相を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーでろ過した(トルエン)。ろ液の濃縮で得られた残渣をヘキサン洗浄、さらにヘプタン/トルエン=2/1から再結晶精製し、1,4−ジ(3−ブロモ−2−チエニル)−2,5−ジフルオロベンゼンの薄黄色固体262mgを得た(収率60%)。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=7.44(d,J=5.4Hz,2H),7.39(t,J=7.8Hz,2H),7.11(d,J=5.4Hz,2H)。
MS m/z: 436(M,100%),276(M−2Br,13)。
【0057】
合成例2
(ジチエノベンゾジチオフェンの合成((B)工程))
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器にNMP10ml及び硫化ナトリウム・9水和物(和光純薬工業製)240mg(1.00mmol)を添加した。この混合物を170℃で2時間加熱し、水を系外に留去した。得られた混合物を室温に冷却後、1,4−ジ(3−ブロモ−2−チエニル)−2,5−ジフルオロベンゼン200mg(0.458mmol)を添加し、170℃で6時間加熱した。得られた反応混合物を室温に冷却した。トルエンと水を添加後、分相し、有機相を2回水洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮後、得られた残渣をヘキサンで洗浄を2回実施し、ジチエノベンゾジチオフェンの淡黄色固体95mgを得た(収率69%)。
H−NMR(CDCl,60℃):δ=8.28(s,2H),7.51(d,J=5.2Hz,2H),7.30(d,J=5.2Hz,2H)。
MS m/z: 302(M,100%),270(M−S,5),151(M/2,10)。
【0058】
合成例3
(ジn−ヘキサノイルジチエノベンゾジチオフェンの合成((C)工程))
100mlシュレンク反応容器にジチエノベンゾジチオフェン86.8mg(0.286mmol)及びジクロロメタン14mlを添加した。この混合物を氷冷し、塩化アルミニウム(和光純薬工業製)134mg(1.00mmol)及び塩化ヘキサノイル(和光純薬工業製)115mg(0.854mmol)を添加した。得られた混合物を室温で30時間攪拌後、氷冷し水を添加することで反応を停止させた。得られたスラリー混合物にヘキサンを添加し分相した。得られた有機相の黄色スラリー液の上澄み液を除去後、残渣にメタノールを添加し、攪拌後静置した。上澄み液を除去し得られた残渣を減圧乾燥した後、ジn−ヘキサノイルジチエノベンゾジチオフェンの黄色固体128mgを得た(収率90%)。
H−NMR(重ベンゼン,80℃):δ=7.73(s,2H),7.26(s,2H),2.58(t,J=7.2Hz,4H),1.71(m,4H),1.28(m,8H),0.86(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 498(M,100%),442(M−C+1,46),427(M−C11,13)。
【0059】
合成例4
(ジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体)の合成((D)工程))
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器にジn−ヘキサノイルジチエノベンゾジチオフェン120mg(0.241mmol)、塩化アルミニウム(和光純薬工業製)177mg(1.33mmol)、水素化ホウ素ナトリウム(和光純薬工業製)84.0mg(2.22mmol)、及びTHF6mlを添加した。この混合物を加熱還流下で3時間攪拌後、水冷し水を添加して反応を停止させた。トルエンで抽出し、有機相を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムろ過し(トルエン)、減圧濃縮し、得られた残渣をヘキサン熱洗浄、さらにトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)から4回再結晶精製し、ジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンの淡黄色鱗片状結晶39.7mgを得た(収率35%)。
【0060】
得られたジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより99.55%であった。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.17(s,2H),7.00(s,2H),2.97(t,J=7.2Hz,4H),1.78(m,4H),1.28(m,12H),0.88(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 470(M,100%),399(M−C11,57),328(M−2C11,47)。
融点:190.2〜190.4℃。
【0061】
合成例5
(ジn−ペンタノイルジチエノベンゾジチオフェンの合成((C)工程))
合成例3の塩化ヘキサノイル(和光純薬工業製)に代わりに、塩化ペンタノイル(和光純薬工業製)を用いた以外は、合成例3と同様の操作を繰り返し、ジn−ペンタノイルジチエノベンゾジチオフェンの黄色固体を得た(収率92%)。
H−NMR(重ベンゼン,80℃):δ=7.73(s,2H),7.26(s,2H),2.58(t,J=7.2Hz,4H),1.71(m,4H),1.35(m,4H),0.90(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 470(M,100%),428(M−C+1,49),413(M−C,20)。
【0062】
合成例6
(ジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体)の合成((D)工程))
合成例4のジn−ヘキサノイルジチエノベンゾジチオフェンに代わり、合成例5で得られたジn−ペンタノイルジチエノベンゾジチオフェンを用いた以外は、合成例4と同様の操作を繰り返し、ジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェンの淡黄色鱗片状結晶を得た(収率35%)。
【0063】
得られたジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより99.48%であった。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.16(s,2H),7.00(s,2H),2.94(brs,4H),1.78(m,4H),1.36(m,8H),0.92(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 442(M,100%),385(M−C,51),328(M−2C,44)。
融点:197.9〜198.3℃。
【0064】
合成例7
(ジn−ブタノイルジチエノベンゾジチオフェンの合成((C)工程))
合成例3の塩化ヘキサノイルに代わりに、塩化ブチリル(和光純薬工業製)を用いた以外は、合成例3と同様の操作を繰り返し、ジn−ブタノイルジチエノベンゾジチオフェンの黄色固体を得た(収率93%)。
H−NMR(重ベンゼン,80℃):δ=7.78(s,2H),7.25(s,2H),2.55(t,J=7.2Hz,4H),1.73(m,4H),0.92(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 442(M,100%),414(M−C+1,51),399(M−C,18)。
【0065】
合成例8
(ジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン(一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体)の合成((D)工程))
合成例4のジn−ヘキサノイルジチエノベンゾジチオフェンに代わりに、合成例7で得られたジn−ブタノイルジチエノベンゾジチオフェンを用いた以外は、合成例4と同様の操作を繰り返し、ジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェンの淡黄色結晶を得た(収率36%)。
【0066】
得られたジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェンの純度は液体クロマトグラフィーより99.44%であった。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.16(s,2H),7.00(s,2H),2.95(t,J=7.2Hz,4H),1.73(m,4H),1.46(m,4H),0.97(t,J=7.0Hz,6H)。
MS m/z: 414(M,100%),371(M−C,61),328(M−2C,49)。
融点:205.0〜205.2℃。
【0067】
合成例9
(ジn−プロピオニルジチエノベンゾジチオフェンの合成((C)工程))
合成例3の塩化ヘキサノイルに代わりに、塩化プロオニルを用いた以外は、合成例3と同様の操作を繰り返し、ジn−プロピオニルジチエノベンゾジチオフェンの固体を得た。
【0068】
合成例10
(ジn−ブロピルジチエノベンゾジチオフェン(一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体)の合成((D)工程))
合成例4のジn−ヘキサノイルジチエノベンゾジチオフェンに代わりに、合成例9で得られたジn−プロピオニルジチエノベンゾジチオフェンを用いた以外は、合成例4と同様の操作を繰り返し、ジn−プロピルジチエノベンゾジチオフェンの結晶を得た。
【0069】
実施例1
合成例4で得られたジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン14.7mgと合成例8で得られたジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン0.78mgを混合し、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体/一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体=95重量%/5重量%)を得た。そして、該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物の全量とトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.39gを混合し、50℃に加熱溶解後、室温下(23℃)に12時間放置した。結晶の析出は見られず1.17重量%の溶液状態を保持していたことから、インクジェットによる製膜に適した材料であることを確認した。
【0070】
また、ジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン17.5mg(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体95重量%)、ジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン0.92mg(一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体5重量%)及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)9.10gを混合し、40℃に加熱しジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物溶液を調製した(0.20重量%)。
【0071】
そして、空気下、直径2インチのn型にハイドープしたシリコン基板(セミテック製、抵抗値;0.001〜0.004Ω、表面に200nmのシリコン酸化膜付き)上に、得られたジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物溶液0.5mlをシリンジに充填し、0.2μmのフィルターを通した溶液をドロップキャストした。室温下(23℃)で自然乾燥し、膜厚58nmのジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン95重量%及びジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン5重量%からなるジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物の薄膜を作製した。
【0072】
該有機薄膜にチャネル長45μm、チャネル幅1500μmのシャドウマスクを置き、金を真空蒸着することで電極を形成し、ボトムゲート−トップコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。
【0073】
作製した有機薄膜トランジスタの電気物性を半導体パラメーターアナライザー(アジレントテクノロジー社製、(商品名)B1500A)を用いて、空気中、ドレイン電圧(Vd=−50V)で、ゲート電圧(Vg)を+10〜−60Vまで0.5V刻みで走査し、伝達特性の評価を行った。正孔のキャリア移動度は1.14cm/V・s、電流オン・オフ比は5.6×10であった。
【0074】
実施例2
合成例6で得られたジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン18.5mgと合成例8で得られたジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン0.97mgを混合し、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体/一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体=95重量%/5重量%)を得た。そして、該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物の全量とトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.73gを混合し、50℃に加熱溶解後、室温下(23℃)に12時間放置した。結晶の析出は見られず1.11重量%の溶液状態を保持していたことから、インクジェットによる製膜に適した材料であることを確認した。
【0075】
また、ジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン17.1mg(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体95重量%)、ジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン0.90mg(一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体5重量%)及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)9.00gを混合し、40℃に加熱し溶液を調製した(0.20重量%)。
【0076】
そして、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は0.89cm/V・s、電流オン・オフ比は2.1×10であった。
【0077】
実施例3
合成例6で得られたジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン9.54mgと合成例8で得られたジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン1.06mgを混合し、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体/一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体=90重量%/10重量%)を得た。そして、該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物の全量とm−キシレン(シグマ−アルドリッチ製脱水グレード)0.927gを混合し、50℃に加熱溶解後、室温下(23℃)に12時間放置した。結晶の析出は見られず1.13重量%の溶液状態を保持していたことから、インクジェットによる製膜に適した材料であることを確認した。
【0078】
また、ジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン6.89mg(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体90重量%)、ジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン0.77mg(一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体10重量%)及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)3.83gを混合し、40℃に加熱し溶液を調製した(0.20重量%)。
【0079】
そして、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は0.72cm/V・s、電流オン・オフ比は1.9×10であった。
【0080】
実施例4
合成例6で得られたジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン9.01mgと合成例8で得られたジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン1.59mgを混合し、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体/一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体=85重量%/15重量%)を得た。そして、該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物の全量とトルエン(シグマ−アルドリッチ製脱水グレード)0.913gを混合し、50℃に加熱溶解後、室温下(23℃)に12時間放置した。結晶の析出は見られず1.15重量%の溶液状態を保持していたことから、インクジェットによる製膜に適した材料であることを確認した。
【0081】
また、ジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン6.51mg(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体85重量%)、ジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン1.15mg(一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体15重量%)及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)3.83gを混合し、40℃に加熱し溶液を調製した(0.20重量%)。
【0082】
そして、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は0.70cm/V・s、電流オン・オフ比は1.7×10であった。
【0083】
実施例5
合成例4で得られたジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン9.54mgと合成例10で得られたジn−プロピルジチエノベンゾジチオフェン1.06mgを混合し、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体/一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体=90重量%/10重量%)を得た。そして、該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物の全量とトルエン(シグマ−アルドリッチ製脱水グレード)0.927gを混合し、50℃に加熱溶解後、室温下(23℃)に12時間放置した。結晶の析出は見られず1.13重量%の溶液状態を保持していたことから、インクジェットによる製膜に適した材料であることを確認した。
【0084】
また、ジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン6.89mg(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体90重量%)、ジn−プロピルジチエノベンゾジチオフェン0.77mg(一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体10重量%)及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)3.83gを混合し、40℃に加熱し溶液を調製した(0.20重量%)。
【0085】
そして、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は1.07cm/V・s、電流オン・オフ比は4.5×10であった。
【0086】
実施例6
合成例6で得られたジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン9.01mgと合成例10で得られたジn−プロピルジチエノベンゾジチオフェン1.59mgを混合し、ジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体/一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体=85重量%/15重量%)を得た。そして、該ジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物の全量とトルエン(シグマ−アルドリッチ製脱水グレード)0.913gを混合し、50℃に加熱溶解後、室温下(23℃)に12時間放置した。結晶の析出は見られず1.15重量%の溶液状態を保持していたことから、インクジェットによる製膜に適した材料であることを確認した。
【0087】
また、ジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン6.51mg(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体85重量%)、ジn−プロピルジチエノベンゾジチオフェン1.15mg(一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体15重量%)及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)3.83gを混合し、40℃に加熱し溶液を調製した(0.20重量%)。
【0088】
そして、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は0.69cm/V・s、電流オン・オフ比は1.71×10であった。
【0089】
比較例1
合成例4で得られたジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン15.5mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.40gを混合し、50℃に加熱溶解後、室温下(23℃)に3時間放置した。鱗片状結晶が析出していたことから、ろ過した。溶液部分を濃縮したところ、8.77mgを回収した。従って、ジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンの室温での溶液濃度は0.62重量%であった。ジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェンは、1.0重量%以上の溶解度を示さないことからインクジェットによる製膜には適さない化合物であった。
【0090】
また、該ジn−ヘキシルジチエノベンゾジチオフェン0.88mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)435mgを混合し、50℃に加熱し溶液を調製した(0.20重量%)。
【0091】
そして、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は1.28cm/V・s、電流オン・オフ比は5.1×10であった。
【0092】
比較例2
合成例6で得られたジn−ペンチシルジチエノベンゾジチオフェン16.3mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.54gを混合し、50℃に加熱溶解後、室温下(23℃)に4時間放置した。鱗片状結晶が析出していたことから、ろ過した。溶液部分を濃縮したところ、10.3mgを回収した。従って、ジn−ペンチシルジチエノベンゾジチオフェンの室温での溶液濃度は0.66重量%であった。ジn−ペンチシルジチエノベンゾジチオフェンは、1.0重量%以上の溶解度がないことからインクジェットによる製膜には適さない化合物であった。
【0093】
また、該ジn−ペンチシルジチエノベンゾジチオフェン0.84mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)421mgを添加し、50℃に加熱し溶液を調製した(0.20重量%)。
【0094】
そして、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は0.94cm/V・s、電流オン・オフ比は2.5×10であった。
【0095】
比較例3
合成例8で得られたジn−ブチシルジチエノベンゾジチオフェン21.4mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)1.53gを混合し、40℃に加熱溶解後、室温下(23℃)に12時間放置した。結晶の析出は見られず1.38重量%の溶液状態を保持していた。ジn−ブチシルジチエノベンゾジチオフェンは、1.0重量%以上の溶解度を示すことからインクジェットによる製膜に適した材料であることを確認した。
【0096】
また、該ジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン0.85mg及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)425mgを添加し、50℃に加熱し溶液を調製した(0.20重量%)。
【0097】
そして、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は0.27cm/V・s、電流オン・オフ比は1.2×10であった。従って移動度が0.5cm/V・sに達しなかったことから性能的に不充分な材料であった。
【0098】
比較例4
合成例6で得られたジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン7.42mgと合成例8で得られたジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン3.18mgを混合し、組成物(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体/一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体=70重量%/30重量%)を得た。そして、該組成物の全量とトルエン(シグマ−アルドリッチ製脱水グレード)0.913gを混合し、50℃に加熱溶解後、室温下(23℃)に12時間放置した。結晶の析出は見られず1.15重量%の溶液状態を保持していた。該組成物は、1.0重量%以上の溶解度を示すことからインクジェットによる製膜に適した材料であることを確認した。
【0099】
また、ジn−ペンチルジチエノベンゾジチオフェン5.36mg(一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体70重量%)、ジn−ブチルジチエノベンゾジチオフェン2.30mg(一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体30重量%)及びトルエン(和光純薬工業製ピュアーグレード)3.83gを混合し、40℃に加熱し溶液を調製した(0.20重量%)。
【0100】
そして、実施例1と同様の方法により、ボトムゲート−トップコンタクト型のp型有機薄膜トランジスタを作製した。正孔のキャリア移動度は0.37cm/V・s、電流オン・オフ比は1.3×10であった。従って移動度が0.5cm/V・sに達しなかったことから性能的に不充分な材料であった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の新規なジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物は、高いキャリア移動度を与えると共に、溶媒への溶解性に優れることから容易に有機半導体薄膜を製造することが可能となり、有機薄膜トランジスタに代表される半導体デバイス材料としての適用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】;有機薄膜トランジスタの断面形状による構造を示す図である。
【符号の説明】
【0103】
(A):ボトムゲート−トップコンタクト型有機薄膜トランジスタ
(B):ボトムゲート−ボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタ
(C):トップゲート−トップコンタクト型有機薄膜トランジスタ
(D):トップゲート−ボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタ
1:有機半導体層
2:基板
3:ゲート電極
4:ゲート絶縁層
5:ソース電極
6:ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体99〜80重量%及び下記一般式(2)で示されるジチエノベンゾジチオフェン誘導体1〜20重量%からなることを特徴とするジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物。
【化1】

(ここで、置換基R及びRは、同一又は異なって、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基及びn−オクチル基からなる群より選択される置換基を示す。)
【化2】

(ここで、置換基R及びRは、同一又は異なって、エチル基、n−プロピル基及びn−ブチル基からなる群より選択される置換基を示す。)
【請求項2】
炭素数7〜14の芳香族系炭化水素溶媒に対し、室温で1重量%以上の溶解度を示すことを特徴とする請求項1に記載のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物。
【請求項3】
基板上に、ソース電極及びドレイン電極を付設した請求項1又は2のいずれかに記載のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物からなる有機半導体層とゲート電極とを絶縁層を介して積層したものであることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
有機半導体層が、請求項1又は2のいずれかに記載のジチエノベンゾジチオフェン誘導体組成物の溶液をドロップキャスト法に供することにより形成された有機半導体層であることを特徴とする請求項3に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
p型トランジスタであることを特徴とする請求項3又は4に記載の有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−69752(P2013−69752A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205764(P2011−205764)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】