説明

ジハロマロノニトリルの製造方法

【課題】安全で、高収率なジハロマロノニトリルの製造方法を提供する。
【解決手段】マロノニトリルまたはモノハロマロノニトリルとハロゲンの単体とを反応させてジハロマロノニトリルを得る段階を含むジハロマロノニトリルの製造方法であって、2相以上の溶媒系を用いて前記反応を行うことを特徴とする、ジハロマロノニトリルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジハロマロノニトリルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジハロマロノニトリルは、テトラシアノエチレン((CN)C=C(CN)、TCNE)を工業的に製造するための原料、光分解性ポリマー樹脂の添加剤、医農薬原料、さらには化学反応におけるハロゲン化剤として用いられている。
【0003】
ジハロマロノニトリルの製造方法としては、例えば、N,N−ジハロ−β−アミノプロピオニトリル(XNCHCHCN)を原料とした製造方法(特許文献1)や、マロノニトリル(CH(CN))を原料とした製造方法(非特許文献1〜4)などが知られている。前記非特許文献1〜4には、マロノニトリルとBrまたはClとを氷水中で反応させ、ジブロモマロノニトリル(CBr(CN))またはジクロロマロノニトリル(CCl(CN))を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第311516号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chem.Ber.1922,55巻,1255頁〜1261頁
【非特許文献2】Acta Chem.Scand.1962,16巻,346頁〜350頁
【非特許文献3】J.Org.Chem.1964,29巻,2272頁〜2273頁
【非特許文献4】Org.Synth.Coll.1963,4巻,877頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記先行技術文献の方法では、いずれも、ジハロマロノニトリルを十分な収率で得られていない。例えば、前記非特許文献2においては、ジブロモマロノニトリルの収率は69%であり、前記非特許文献3においては、ジクロロマロノニトリルの収率は74%である。
【0007】
本発明者は、マロノニトリルと臭素との反応を水中で行い、ジブロモマロノニトリルを得る反応条件を検討した。その際、ジブロモマロノニトリルの生成と共にジブロモマロノニトリルの加水分解体であると考えられるアミド体、2,2−ジブロモ−2−シアノアセトアミドの副生も確認した。さらに、本発明者は、非特許文献3に記載されている実験条件に対して、使用する水の量を少なくしてマロノニトリルと臭素との反応を検討した。その際には、急激に反応温度が上昇し、前記2,2−ジブロモ−2−シアノアセトアミドのさらなる加水分解体である2,2−ジブロモマロン酸の副生も確認した。このように、マロノニトリルおよび臭素の水中における濃度が高くなると、反応を制御するのは困難となる。このことから、本発明者らは、従来の方法においてジハロマロノニトリルを十分な収率で得られない原因の一つは、生成したジハロマロノニトリルが水中で加水分解されるためであることを見出した。
【0008】
上記の知見に鑑み、本発明は、反応を制御し、安全かつ高収率でジハロマロノニトリルを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、マロノニトリルとハロゲンの単体との反応を2相以上の溶媒系で行うことにより、原料および生成物が2以上の相に分配され、副反応が起こりにくく、反応が安全に進行しうることを見出した。すなわち、本発明の一形態は、マロノニトリルとハロゲンの単体とを反応させてジハロマロノニトリルを得る段階を含むジハロマロノニトリルの製造方法であって、2相以上の溶媒系を用いて前記反応を行うことを特徴とする、ジハロマロノニトリルの製造方法である。本反応は、中間体としてモノハロマロノニトリルを経由するものである。よって、本発明の製造方法は原料をマロノニトリルに限ることなく、モノハロマロノニトリルまたはマロノニトリルとモノハロマロノニトリルとの混合物を原料とする、ジハロマロノニトリルの製造方法にも適用できることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反応を制御しやすく、安全に、かつ高収率でジハロマロノニトリルを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に関わる実施形態は、下記反応式(1)に示すように、マロノニトリル(CH(CN))とハロゲンの単体(X)とを反応させてジハロマロノニトリル(CX(CN))を得る段階を含むジハロマロノニトリルの製造方法であり、2相以上の溶媒系を用いて前記反応を行うことを特徴とする。
【0012】
【化1】

【0013】
前記反応式(1)に示される反応は、中間体であるモノハロマロノニトリル(CHX(CN))の生成を経由して、ジハロマロノニトリルを生成するものである。そのため、本発明の製造方法は、下記反応式(2)に示す、モノハロマロノニトリル(CHY(CN))のハロゲン化によりジハロマロノニトリルを得る方法にも適用することができる。
【0014】
【化2】

【0015】
一般的に、マロノニトリルは、水などのプロトン性極性溶媒への溶解性が高い。そのため、従来、マロノニトリルを原料としてジハロマロノニトリルを生成する反応は、前記非特許文献1〜4に記載されるように、水中で行なわれており、その反応は下記反応式(3)で示される。
【0016】
【化3】

【0017】
しかしながら、前述したように、前記非特許文献1〜4に記載の方法では、いずれもジハロマロノニトリルの収率が十分ではない。その原因の一つとしては、生成したジハロマロノニトリルが、前記反応式(3)に示した副生するハロゲン化水素により、下記反応式(4)および(5)のような加水分解が促進され、2,2−ジハロ−2−シアノアセトアミドおよび/または2,2−ジハロマロン酸を副生するためと考えられる。
【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
また、一般的に、マロノニトリルとハロゲンの単体との反応は発熱反応であり、その発熱量は非常に大きい。
【0021】
したがって、前記非特許文献1〜4の方法のように、マロノニトリルとハロゲンの単体とを直接反応させた場合、その反応熱は十分に除熱されず、反応温度が上昇する。その結果、反応が暴走するなど、反応を制御するのが困難となる。
【0022】
ここで、マロノニトリルは、同一炭素原子上に強電子求引性基であるシアノ基を有している。一般的に、シアノ基のα炭素上に陰イオン(アニオン)が発生した際、当該陰イオンは共役安定化される。そのため、当該マロノニトリルまたは中間に生成するモノハロマロノニトリルは、そのシアノ基のα炭素上に陰イオンを生じやすく、マロノニトリルまたはモノハロマロノニトリルとハロゲンの単体との反応において、当該陰イオンが反応を促進させ、ジハロマロノニトリルを生成すると考えられる。
【0023】
マロノニトリルとハロゲンの単体との反応を、例えば、水と有機溶媒との2相溶媒系で行った場合、原料であるマロノニトリルは、水および有機溶媒の両相に易溶であり、ハロゲンの単体は有機溶媒に易溶である。そのため、マロノニトリルとハロゲンの単体との反応は有機相中で進行するが、水と有機溶媒の質量比および/または水と有機溶媒に対する分配係数により、有機溶媒中のマロノニトリルとハロゲンの単体の濃度を制御することができる。その結果、水溶液中で反応させた場合に確認された反応の蓄積や、急激な反応温度の上昇を伴う反応の暴走を抑制でき、反応を安全に進行させることができる。一方、反応によって生成するジハロマロノニトリルは有機溶媒に易溶であり、副生するハロゲン化水素は水に易溶である。そのため、マロノニトリルとハロゲンの単体との反応によって生成したジハロマロノニトリルは速やかに有機相に移動し、副生したハロゲン化水素は速やかに水相に移動するため、ジハロマロノニトリルとハロゲン化水素との接触が抑えられる。その結果、ジハロマロノニトリルの加水分解が抑制され、収率が向上しうる。さらに、必要に応じて、反応温度や攪拌速度を調整することにより前記反応をより適切に抑制することができる。以上から思料するに、前記2相溶媒系の効果は2相以上の溶媒系を用いる場合にも適用できる。
【0024】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0025】
本発明で用いる2相以上の溶媒系は、例えば水と疎水性溶媒により形成されるような、2成分の溶媒により単純に2相が形成されるような溶媒系に限定されるものではない。一般に有機合成に用いられる溶媒を複数種類組み合わせて2相以上を形成する溶媒系であってもよく、各相を形成する主な溶媒成分が複数種類存在するような混合溶媒の相を形成するものであってもよい。形成される各相が反応温度において液体であれば好適に用いることができる。当該溶媒系は、反応中、目視では1相であったとしても、静置により分離する2相以上の溶媒系も含む。好ましくは2相または3相であり、特に好ましくは2相である。前記2相以上の溶媒系は、水、有機溶媒、イオン液体、フルオラス溶媒などの群から選択して形成される2相以上の溶媒系であり、前記有機溶媒としては、例えば、n−ブタン、2−メチルプロパン、シクロブタン、n−ペンタン、2−メチルブタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、3−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、シクロヘキサン、n−へプタン、2,2−ジメチルペンタン、2,2,3−トリメチルブタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカンなどの炭素数4〜18(以下、「C4〜C18」のように記載する)の直鎖状、分枝状の脂肪族炭化水素または脂環式炭化水素;ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジオクチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、メチル(t−ブチル)エーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどのC2〜C18の直鎖状、分枝状もしくは環状のエーテル;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエタン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロヘキサン、クロロシクロヘキサン、ジブロモメタン、ブロモホルム、四臭化炭素、1,2−ジブロモエタン、テトラブロモエタン、1−ブロモプロパン、1−ブロモブタン、1−ブロモヘキサン、ブロモシクロヘキサン、ヨードメタン、ジヨードメタン、ヨードホルム、四沃化炭素、1,2−ジヨードエタン、テトラヨードエタン、1−ヨードプロパン、1−ヨードブタン、1−ヨードヘキサン、ヨードシクロヘキサン、ブロモフルオロメタン、フルオロヨードメタン、ブロモクロロメタン、クロロヨードメタン、ブロモヨードメタン、ジクロロフルオロメタンなどのC1〜C18のハロゲン化脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、デュレン、エチルベンゼン、クメン、t−ブチルベンゼン、1,3−ジ(t−ブチル)ベンゼンなどのC6〜C14の芳香族炭化水素;フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、1,2−ジフルオロベンゼン、1,3−ジフルオロベンゼン、1,4−ジフルオロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,3−ジクロロベンゼン、1,4−ジクロロベンゼン、1,2−ジブロモベンゼン、1,3−ジブロモベンゼン、1,4−ジブロモベンゼン、1,2−ジヨードベンゼン、1,3−ジヨードベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1,3−ブロモクロロベンゼン、トリフルオロベンゼン、トリクロロベンゼン、トリブロモベンゼン、トリヨードベンゼン、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、p−(トリクロロメチル)クロロベンゼン、2−ブロモトルエンなどのC6〜C18のハロゲン化芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、1−デカノール、1−ドデカノール、シクロヘキサノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテルなどのC1〜C12のアルコール;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのC2〜C12のニトリル化合物などであり、前記イオン液体としては、1,3−ジメチルイミダゾリウムメチルサルフェート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメチルサルフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチルー3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメチルサルフェート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメチルサルフェート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメチルサルフェート、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフェート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメチルサルフェート、1−ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシルピリジニウムテトラフルオロボレート、1−メチル(t−ブチル)ピペリジニルビストリフルオロメタンスルフォニルイミド、1−メチル(t−ブチル)ピロリジニルビストリフルオロメタンスルフォニルイミド、トリヘキシルテトラデシルホスフォニウム、ビストリフルオロメタンスルフォニルイミドなどであり、前記フルオラス溶媒としては、パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−1,2−ジメチルシクロヘキサン、パーフルオロデカリンなどである。これらの溶媒の組み合わせの中でも、安定性、入手容易性、経済的な観点から、水と有機溶媒からなる2相溶媒系が好ましく、有機溶媒として、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエタン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロヘキサン、クロロシクロヘキサン、ジブロモメタン、ブロモホルム、四臭化炭素、1,2−ジブロモエタン、テトラブロモエタン、1−ブロモプロパン、1−ブロモブタン、1−ブロモヘキサン、ブロモシクロヘキサン、ヨードメタン、ジヨードメタン、ヨードホルム、四沃化炭素、1,2−ジヨードエタン、テトラヨードエタン、1−ヨードプロパン、1−ヨードブタン、1−ヨードヘキサン、ヨードシクロヘキサンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素;フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、1,2−ジフルオロベンゼン、1,3−ジフルオロベンゼン、1,4−ジフルオロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,3−ジクロロベンゼン、1,4−ジクロロベンゼン、1,2−ジブロモベンゼン、1,3−ジブロモベンゼン、1,4−ジブロモベンゼン、1,2−ジヨードベンゼン、1,3−ジヨードベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1,3−ブロモクロロベンゼン、トリフルオロベンゼン、トリクロロベンゼン、トリブロモベンゼン、トリヨードベンゼン、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素などの非プロトン性有機溶媒が好ましく、クロロホルム、四塩化炭素、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロヘキサン、ブロモホルム、四臭化炭素、1−ブロモプロパン、1−ブロモブタン、1−ブロモヘキサン、ヨードメタン、ジヨードメタン、1−ヨードプロパン、1−ヨードブタン、1−ヨードヘキサン、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼンがより好ましく、クロロホルム、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−ブロモプロパン、1−ブロモブタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼンが特に好ましい。前記溶媒の群から選択される1以上の有機溶媒と水の組み合わせからなる2相溶媒系で反応を行うことで、反応がより効率的に進行し、さらに精製が容易になる。また、前記溶媒の群から選択される1の有機溶媒と水の組み合わせからなる2相溶媒系を用いることが溶媒回収などの観点から好ましい。
【0026】
前記水には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸カリウムなどのような金属塩を添加して極性をさらに高めてもよい。
【0027】
2相以上の溶媒系で反応させる形態についても特に限定されず、2相以上の各界面の少なくとも一部が互いに接触していればよい。例えば、バッチ型反応容器を用いて回分式の形態をとってもよく、フロー型反応装置を用いて連続的な形態をとってもよい。好ましくは、バッチ型反応容器を用いて反応を行う形態である。
【0028】
2相以上の溶媒系で用いる溶媒の質量比は、原料や生成物の溶解度、溶媒の取り扱い易さに応じて選択すればよく、特に限定されない。しかし例えば、水と有機溶媒の組み合わせからなる溶媒系を用いる場合では、その質量比(水/有機溶媒)が0.5以上であればジハロマロノニトリルの収率が向上し、30以下であれば反応を制御しやすい。質量比がこの範囲内であれば環境や経済的な観点からも好ましいが、より好ましくは0.75〜20であり、特に好ましくは1〜10である。
【0029】
また、水と有機溶媒の組み合わせからなる溶媒系における各溶媒の合計使用量は、マロノニトリル1質量部に対して、好ましくは1質量部〜100質量部であり、より好ましくは2質量部〜50質量部、特に好ましくは5質量部〜30質量部である。水および有機溶媒の合計使用量が1質量部以上であればマロノニトリルとハロゲンの単体の濃度が適当となり反応を制御しやすく、100質量部以下であれば後処理が容易となり、前記範囲内であることはマロノニトリルまたはモノハロマロノニトリルからジハロマロノニトリルへの転換率が向上し、副反応が起こりにくい。
【0030】
本発明において、各原料の添加方法は、特に限定されない。反応進行のしやすさ、生成物の分離のしやすさなどに応じて選択するとよい。
【0031】
本発明の反応温度は、原料や反応の形態に応じて選択すればよく、特に限定されない。反応速度や反応の選択性の観点から、好ましくは−20〜50℃、より好ましくは−10〜30℃、特に好ましくは0〜10℃である。溶媒系を構成する各相の1つが水相である場合は、反応温度は好ましくは0〜50℃、より好ましくは0〜30℃、特に好ましくは0〜10℃である。反応温度が−20℃以上(溶媒系を構成する各相の1つが水相である場合は0度以上)であれば反応が効率よく進行し、50℃以下であれば加水分解などの副反応は極めて進行しにくく、前記範囲内であれば高収率でジハロマロノニトリルを得ることが可能となる。
【0032】
本発明の第1実施形態は、原料としては前記反応式(1)に示されるように、マロノニトリル(CH(CN))とハロゲンの単体(X)とを用いるものである。また前述したように、本反応は中間体としてモノハロマロノニトリルを経由することから、このマロノニトリルに代えて、シアノ基のα炭素上の水素原子の1つがハロゲン原子で置換されているモノハロマロノニトリル(CHY(CN))を用いても、またはマロノニトリルとモノハロマロノニトリルの混合物も用いてもよい。ここで、YはF、Cl、BrまたはIのいずれであり、好ましくはClまたはBrである。
【0033】
ハロゲンの単体(X)の種類は、Cl、BrまたはIが用いられうる。好ましくはClまたはBrである。ClまたはBrを用いると高収率で対応するジハロマロノニトリルが得られる。原料としてモノハロマロノニトリルを用いる場合は、置換されたハロゲン原子と同種のハロゲン原子からなるハロゲンの単体であってもよいし、異なるハロゲン原子からなるハロゲンの単体であってもよい。好ましくは同種のハロゲン原子からなるハロゲンの単体である。
【0034】
本発明の第1実施形態において、前記ハロゲンの単体の使用量は、特に限定されないが、マロノニトリルに対して、1.4〜3.0モル当量が好ましく、より好ましくは1.6〜2.4モル当量であり、特に好ましくは1.8〜2.2モル当量である。前記ハロゲンの単体の使用量が1.4モル当量以上であればジハロマロノニトリルの収率を向上させることができ、3.0モル当量以下であれば未反応のハロゲン量が少なくなることにより後処理が容易となり、前記範囲内であることは環境や経済的な観点から好ましい。
【0035】
本発明の第2実施形態は、下記反応式(6)に示すように、前述のマロノニトリルとハロゲンの単体およびハロゲンの単体以外の酸化剤([O])とを反応させてジハロマロノニトリルを得る段階を含むジハロマロノニトリルの製造方法であり、2相以上の溶媒系を用いて前記反応を行うことを特徴とする。
【0036】
【化6】

【0037】
ハロゲンの単体は強力な酸化剤(ハロゲン化剤)であり、前記反応式(1)に示すように、マロノニトリルおよび中間体のモノハロマロノニトリルを容易に酸化(ハロゲン化)し、それらの対応するジハロマロノニトリルおよびハロゲン化水素を生成する。また、下記反応式(7)に示すように、ハロゲンの単体以外の酸化剤がハロゲン化水素を酸化し、対応するハロゲンの単体を生成する。当該ハロゲンの単体は、未反応のマロノニトリルおよび中間体のモノハロマロノニトリルを酸化(ハロゲン化)し、それらの対応するジハロマロノニトリルおよびハロゲン化水素を生成する。すなわち、前記反応式(1)に示す反応および下記反応式(7)に示す反応は繰り返され、反応系内のハロゲン化水素の濃度は低減される。そのため、ジハロマロノニトリルの加水分解がより抑制され、また、ハロゲンの原子効率およびジハロマロノニトリルの収率が向上する。したがって、当該ジハロマロノニトリルの製造方法は、ハロゲンの単体および/またはハロゲン化水素の廃棄量が少なく、高収率でジハロマロノニトリルを製造することができるため、環境や経済的な観点から好ましい。
【0038】
【化7】

【0039】
本発明の第2実施形態において、前記ハロゲンの単体以外の酸化剤の種類は、ハロゲン化水素を酸化してハロゲンの単体を与えるものであれば特に限定されない。例えば、過酸化水素、過酢酸、次亜塩素酸ナトリウム、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸、オキソンまたはt−ブチルヒドロペルオキシドなどであり、好ましくは過酸化水素である。過酸化水素は、安価であるだけでなく、下記反応式(8)に示すように、酸化剤として作用した後は水のみを生成するものであることから、環境や経済的な観点から好ましい。過酸化水素を、水相を持つ溶媒系と組み合わせて使用する場合、生成した水が水相の一部となり処理されるため、副生物の種類を増やすことがないため、特に好ましい。反応を繰り返し行う場合、反応後に分液した水相を次のバッチで使用することで、水相に溶存するハロゲン化水素や未反応のマロノニトリルを再利用することができる。このような操作を繰り返した場合、酸化剤として作用した後の生成物が反応系に蓄積することの影響(例えば、製品へ混入して純度を低下させることなど)を考慮する必要がない。
【0040】
【化8】

【0041】
本発明の第2実施形態において、前記ハロゲンの単体以外の酸化剤の使用量は、副生するハロゲン化水素を酸化すればよく、特に限定されない。ハロゲンの単体以外の酸化剤の好ましい使用量は、最初に用いるハロゲンの単体の使用量に依存するが、例えばマロノニトリルに対してハロゲンの単体を0.7〜1.5モル当量用いる場合には、好ましくは、マロノニトリルに対して0.2〜2.5モル当量であり、より好ましくは0.3〜2.0モル当量であり、特に好ましくは0.4〜1.5モル当量である。前記ハロゲンの単体以外の酸化剤の使用量が0.2モル当量以上であるときは反応が効率よく進み、2.5モル当量以下であるときは後処理が容易となり、前記範囲内であればハロゲンの原子効率の高い反応になる。
【0042】
本発明の第2実施形態において、ハロゲンの単体の種類は、本発明の第1実施形態における記載と同様である。
【0043】
本発明の第2実施形態において、前記ハロゲンの単体の使用量は、特に限定されないが、マロノニトリルに対して、0.7〜1.5モル当量であり、より好ましくは0.8〜1.3モル当量であり、特に好ましくは0.9〜1.2モル当量である。ハロゲンの単体の使用量が0.7モル当量以上であればジハロマロノニトリルの収率を向上させることができ、1.5モル当量以下であれば後処理が容易となり、前記範囲内であることは環境や経済的な観点から好ましい。
【0044】
本発明の第2実施形態において、前記ハロゲンの単体以外の酸化剤の添加方法は、特に限定されず、初めから反応系内に存在していてもよいし、途中で添加してもよい。好ましくは初めから反応系内に存在する状態で反応を行う。
【0045】
本発明の第3実施形態は、下記反応式(9)に示すように、マロノニトリルとハロゲン化水素およびハロゲンの単体以外の酸化剤とを反応させてジハロマロノニトリルを得る段階を含むジハロマロノニトリルの製造方法であり、2相以上の溶媒系を用いて前記反応を行うことを特徴とする。
【0046】
【化9】

【0047】
前記反応式(7)に示すように、ハロゲン化水素とハロゲンの単体以外の酸化剤はハロゲンの単体を生成する。当該ハロゲンの単体が、前記反応式(1)に示すようにマロノニトリルおよび中間体のモノハロマロノニトリルを酸化し、それらの対応するジハロマロノニトリルおよびハロゲン化水素を生成する。その後、前記反応式(7)に示す反応および前記反応式(1)に示す反応が繰り返され、反応系内のハロゲン化水素の濃度は低減される。そのため、ジハロマロノニトリルの加水分解がより抑制され、また、ハロゲン化水素の原子効率が向上する。したがって、当該ジハロマロノニトリルの製造方法は、ハロゲン化水素の廃棄量が少なく、環境や経済的な観点から好ましい。また、揮発性の高いハロゲンの単体を直接の原料として取り扱うことがなく、操作上有利である。
【0048】
前記ハロゲン化水素としては、HCl、HBrまたはHIが用いられうる。好ましくはHClまたはHBrである。原料としてモノハロマロノニトリルを用いる場合は、置換されたハロゲン原子と同種のハロゲン原子からなるハロゲン化水素であってもよいし、異なるハロゲン原子からなるハロゲン化水素であってもよい。好ましくは同種のハロゲン原子からなるハロゲン化水素である。また、溶媒系を構成する溶媒の1つとして水が使用される場合には、ハロゲン化水素酸を用いてもよい。
【0049】
本発明の第3実施形態において、前記ハロゲンの単体以外の酸化剤の種類は、ハロゲン化水素を酸化してハロゲンの単体を与えるものであれば特に限定されず、前記第2実施形態で例示したハロゲンの単体以外の酸化剤を用いることができ、好ましくは過酸化水素である。過酸化水素は、安価であるだけでなく、下記反応式(10)に示すように、酸化剤として作用した後は水のみを生成するものであることから、環境や経済的な観点から好ましい。過酸化水素を、水相を持つ溶媒系と組み合わせて使用する場合、生成した水が水相の一部となり処理されるため、副生物の種類を増やすことがないため、特に好ましい。反応を繰り返し行う場合、反応後に分液した水相を次のバッチで使用することで、水相に溶存するハロゲン化水素や未反応のマロノニトリルを再利用することができる。このような操作を繰り返した場合でも、酸化剤として作用した後の生成物が反応系に蓄積することの影響(例えば、製品へ混入して純度を低下させることなど)を考慮する必要がない。
【0050】
【化10】

【0051】
本発明の第3実施形態において、前記ハロゲンの単体以外の酸化剤の使用量は、前記ハロゲン化水素を酸化すればよく特に限定されない。好ましくは、マロノニトリルに対して1.4〜6.0モル当量であり、より好ましくは1.6〜5.0モル当量であり、特に好ましくは1.8〜4.5モル当量である。前記ハロゲンの単体以外の酸化剤の使用量が1.4モル当量以上であるときは反応が効率よく進み、6.0モル当量以下であるときは後処理が容易となり、前記範囲内であれば原子効率の高い反応になる。
【0052】
本発明の第3実施形態において、前記ハロゲン化水素の使用量は、特に限定されないが、マロノニトリルに対して、1.4〜8.0モル当量であり、より好ましくは1.6〜6.0モル当量であり、特に好ましくは1.8〜5.0モル当量である。前記ハロゲン化水素の使用量が1.4モル当量以上であればジハロマロノニトリルの収率を向上させることができ、8.0モル当量以下であれば後処理が容易となり、前記範囲内であることは環境や経済的な観点から好ましい。
【0053】
本発明の第3実施形態において、前記ハロゲンの単体以外の酸化剤の添加方法は、特に限定されず、初めから反応系内に存在していてもよいし、途中で添加してもよい。好ましくは他の反応原料が存在する反応系内に徐々に添加していく方法である。
【0054】
前記第1〜第3実施形態において反応系内に生成したジハロマロノニトリルは、溶媒系の各相の質量と分配係数に応じて溶解している。これら各相を分液することでジハロマロノニトリルと、未反応原料や副生物とを容易に分離することができる。例えば、水と有機溶媒の組み合わせからなる2相溶媒系の場合では、ジハロマロノニトリルは、主に有機溶媒相に溶解しており、ハロゲン化水素やマロノニトリルは主に水相に溶解しているため、分別して回収しやすい。
【0055】
なお、前述した第1〜第3実施形態において、原料としてマロノニトリルとモノハロマロノニトリルの混合物またはモノハロマロノニトリルを用いる場合には、反応に供するハロゲンの単体、ハロゲン化水素およびハロゲンの単体以外の酸化剤の好ましい使用量は、原料中に占めるモノハロマロノニトリルの割合に応じて変動する。マロノニトリルに代えて全てモノハロマロノニトリルを用いる場合には、反応に供するハロゲンの単体、ハロゲン化水素およびハロゲンの単体以外の酸化剤の好ましい使用量は、前記マロノニトリルを用いた場合の半量となる。マロノニトリルの一部をモノハロマロノニトリルに代えて、これらの混合物を用いる場合には、モノハロマロノニトリルが占める割合に相当するハロゲンの単体、ハロゲン化水素およびハロゲンの単体以外の酸化剤についての使用量のみ、前記マロノニトリルを用いた場合の半量となる。
また、前記第1〜第3実施形態において製造されたジハロマロノニトリルは、必要に応じて精製されうる。ジハロマロノニトリルの精製方法は特に限定はされないが、その後の用途に応じて好ましい純度のジハロマロノニトリルが得られる方法を選択するとよい。例えば精密蒸留や有機溶媒による再結晶である。
【0056】
さらにまた、前記第1〜第3実施形態において反応系内に生成し、またはジハロマロノニトリルの分離後に残留するハロゲン化水素を多く含む相(例えば、水相)は、前記実施形態2または3における次バッチの反応に容易に再利用することができる。
【0057】
前記実施形態1〜3において製造されたジハロマロノニトリル(CX(CN))は、例えば、テトラシアノエチレン((CN)C=C(CN))の原料として用いられうる。テトラシアノエチレンの製造方法は、特に限定されないが、例えば、ジハロマロノニトリルを溶媒中で加熱することにより二量化させる方法である。溶媒としては、本発明において非極性溶媒として用いられるものと同様の溶媒が使用可能である。そのため、本発明の方法によってジハロマロノニトリルを合成した後、有機相から生成物を分離することなくテトラシアノエチレンの合成を行うことができる。
【0058】
テトラシアノエチレンは、分子内に多数のπ電子を含み、強い電子求引性を有する化合物である。この特徴を利用して、電荷移動錯体や有機超電導体の研究に用いられる他、金属光沢を有する色素化合物の原料として用いられている。さらに、有機磁性材料の原料など、電子部品用途でも用いられており、将来的に、有機EL材料などの半導体材料の原料としての用途も期待されている。
【実施例】
【0059】
<実施例1>
滴下漏斗と攪拌子とを備える反応器にマロノニトリル(32.3g、0.49mol)、水(300g)およびクロロベンゼン(50g)を投入し、攪拌しながら約1℃に冷却した。次いで、1.96モル当量の臭素(153.3g、0.96mol)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、反応混合物を24時間1℃に維持して反応を進行させた。反応終了後、反応混合物から有機相を分離し、水相を50gおよび30gのクロロベンゼンをそれぞれ用いて2度洗浄した。分離した有機相を洗浄液と混合し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で解析したところ、ジブロモマロノニトリルの収率はマロノニトリルを基準として98%であった。
【0060】
<実施例2>
1.90モル当量の臭素(148.6g、0.93mol)を滴下したことを除いては実施例1と同様にしてジブロモマロノニトリルを合成した。ジブロモマロノニトリルの収率はマロノニトリルを基準として91%であった。
【0061】
<実施例3>
反応混合物を24時間10℃に維持したことを除いては実施例1と同様にしてジブロモマロノニトリルを合成した。ジブロモマロノニトリルの収率はマロノニトリルを基準として98%であった。
【0062】
<実施例4>
水の量を200gとしたことを除いては実施例1と同様にしてジブロモマロノニトリルを合成した。ジブロモマロノニトリルの収率はマロノニトリルを基準として99%であった。
【0063】
<実施例5>
滴下漏斗と攪拌子とを備えた反応器にマロノニトリル(10.0g、0.15mol)、水(100g)および1−クロロブタン(40.7g)を投入し、攪拌しながら約6℃に冷却した。次いで、1.98モル当量の臭素(48.0g、0.30mol)を30分かけて滴下した。滴下終了後、反応混合物を24時間6℃に維持して反応を進行させた。反応終了後、反応混合物から有機相を分離した後、水相を21.5gの1−クロロブタン、24.0gの1−クロロブタンおよび21.7gのクロロベンゼンをこの順で用いて合計3回洗浄した。分離した有機相を洗浄液と混合し、HPLCで解析したところ、ジブロモマロノニトリルの収率はマロノニトリルを基準として90%であった。
【0064】
<実施例6>
反応溶媒として用いる1−クロロブタン(40.7g)に代えて、クロロホルム(50g)を用いたことを除いては実施例5と同様にしてジブロモマロノニトリルを合成した。ジブロモマロノニトリルの収率はマロノニトリルを基準として92%であった。
【0065】
<実施例7>
滴下漏斗と攪拌子とを備えた反応器にマロノニトリル(6.8g、0.10mol)と4.33モル当量の臭化水素酸(20%、180.6g)、およびクロロベンゼン(30.5g)を投入し、攪拌しながら約6℃に冷却した。次いで、2.03モル当量の過酸化水素水(34.5%、20.6g)を30分かけて滴下した。滴下終了後、反応混合物を24時間6℃に維持して反応を進行させた。反応終了後、反応混合物から有機相を分離した後、水相を各々15.0gのクロロベンゼンを用いて3度洗浄した。分離した有機相を洗浄液と混合し、HPLCで解析したところ、ジブロモマロノニトリルの収率はマロノニトリルを基準として98%であった。
【0066】
<実施例8>
滴下漏斗と攪拌子とを備えた反応器にマロノニトリル(10.1g、0.15mol)、水(100.5g)、およびクロロベンゼン(42.3g)を投入し、攪拌しながら約3℃に冷却した。次いで、1.10モル当量の臭素(26.8g、0.168mol)を10分かけて滴下し、その後1.26モル当量の過酸化水素水(34.5%、19.0g)を5分間かけて滴下した。滴下終了後、反応混合物を24時間6℃に維持して反応を進行させた。反応終了後、反応混合物から有機相を分離した後、水相を計82.1gのクロロベンゼンを用いて3度洗浄した。分離した有機相を洗浄液と混合し、HPLCで解析したところ、ジブロモマロノニトリルの収率はマロノニトリルを基準として90%であった。
【0067】
<比較例1>
滴下漏斗と攪拌子とを備えた反応器にマロノニトリル(120g、1.82mol)、水(152g)を投入し、攪拌しながら約10℃に冷却した。次いで、2.33モル当量の臭素(678g、4.24mol)を2時間かけて滴下した。その後、反応混合液を約10℃で維持していたが、数時間後に反応の暴走が原因と思われる突沸が起こり、反応混合液が反応器外に散逸した。このことにより反応を継続することができなかった。
【0068】
【表1】

【0069】
前記実施例および比較例の結果を比較すると、溶媒として単一の溶媒だけを用いた場合に比べて、2相溶媒系を用いると、反応を制御しやすく、安全かつ高収率でジハロマロノニトリルを製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マロノニトリルまたはモノハロマロノニトリルとハロゲンの単体とを反応させてジハロマロノニトリルを得る段階を含むジハロマロノニトリルの製造方法であって、
2相以上の溶媒系を用いて前記反応を行うことを特徴とする、ジハロマロノニトリルの製造方法。
【請求項2】
前記ハロゲンの単体が、ハロゲン化水素とハロゲンの単体以外の酸化剤とから生成されるハロゲンの単体を含むことを特徴とする、請求項1に記載のジハロマロノニトリルの製造方法。
【請求項3】
前記酸化剤が、過酸化水素、過酢酸、次亜塩素酸ナトリウム、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸、オキソンおよびt−ブチルヒドロペルオキシドからなる群から選択される1以上であることを特徴とする、請求項2に記載のジハロマロノニトリルの製造方法。
【請求項4】
前記2相以上の溶媒系が、水、有機溶媒、イオン液体、およびフルオラス溶媒からなる群から2以上の溶媒を選択して形成されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のジハロマロノニトリルの製造方法。
【請求項5】
前記2相以上の溶媒系が、水を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のジハロマロノニトリルの製造方法。
【請求項6】
前記2相以上の溶媒系が、水および有機溶媒からなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のジハロマロノニトリルの製造方法。
【請求項7】
前記2相以上の溶媒系を構成する少なくとも1相が、水を主とする相であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のジハロマロノニトリルの製造方法。