説明

ジヒドロキシクロロトリアジンの塩の製造

本発明は、ジヒドロキシクロロトリアジンの塩を製造する方法に関する。前記方法は、アルカリ水溶液中での塩化シアヌルの加水分解及びその後の中性pHでのジヒドロキシクロロトリアジンの一塩の結晶化を含む。前記結晶化は、いわゆる分散助剤の使用で改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジヒドロキシクロロトリアジン(DHCT)の塩を製造する方法に関する。本発明の方法は、水溶液中での塩化シアヌル(CYC)の部分加水分解、引き続きDHCTの一塩の結晶化により行われる。
【0002】
ジヒドロキシクロロトリアジン(DHCT)及びその塩は、例えばセルロースベースの繊維建築材料において使用される防火化合物を製造するための、有機合成における重要な中間体である(独国特許(DE)第10155066号明細書)。
【0003】
英国特許第(GB)第896814号明細書には、NaOH溶液が計量供給されるCYC懸濁液から出発するDHCTの塩を製造する多様な方法が記載されている。この取り組みを用いる欠点は、アセトンが水中のCYC懸濁液を製造するために使用される、すなわち反応は水/アセトン中で実施されることである。報告された反応温度は≦30℃である。純度は報告されているが、しかしどのようにして決定したか、及び副生物が何であるか(残留する水分/塩又は有機副生物?)は述べられていない。故に最終生成物の品質は、前記特許のデータから評価することは難しい。
【0004】
Horrobin他は、J. Chem. Soc. 1963, 8, 4130-45に"The hydrolysis of some chloro-1,3,5-triazines: mechanism, structure and reactivity"に関して報告している。
この論文には、DHCTのナトリウム塩を合成する、すなわちCYC粉末をNaOH溶液に添加することによる別の方法が記載されている。製造された溶液は、単に4.6%濃度に過ぎず、このことは、この濃度でのDHCT塩の沈殿及び単離に関して何らかの問題を与えない。
【0005】
欧州特許出願公開(EP-A1)第0 597 312号明細書は、トリアジン誘導体でのゼラチンに関する。記載されたDHCT一ナトリウム塩合成はHorrobin他に類似している。単に4.6%溶液が製造されるに過ぎず、かつ生成物は単離されるのではなく、使用のためにさらに希釈される。
【0006】
乏しい生成物純度及び使用される溶液の低い濃度を背景に、記載された方法は、大工業的規模での実施には不利であるように思われる。
【0007】
本発明の課題は、特に、工業的規模でこれらの化合物を製造するのに適していると思われるジヒドロキシクロロトリアジンの塩を製造するさらなる方法を提供することである。対象となる方法は、先行技術の方法よりも経済的及び生態学的に優れているべきである。前記方法は、極めて高い収率及び純度でのジヒドロキシクロロトリアジン塩の製造を保証すべきであり、かつ理想的には、実施されうるために別のいずれかの有機溶剤を必要としないべきである。
【0008】
この課題及びさらに特記されていないが先行技術から自明である課題は、対象となる請求項1の特徴を有する方法により達成されることを見出した。本発明の方法の好ましい実施態様は、請求項1に付随する従属請求項2〜4において特許の保護が請求されている。
【0009】
水溶液中での塩化シアヌルの部分加水分解及びその後のジヒドロキシクロロトリアジンの一塩が支配的であるpH範囲での沈殿によりジヒドロキシクロロトリアジンの塩を製造する方法であって、前記沈殿が有機分散助剤の存在で実施されることを特徴とする前記方法は、前述の課題を達成するのに極めて単純でさらに有利な方法である。ジヒドロキシクロロトリアジンの一塩の結晶化における有機分散助剤の添加は、極めて意外なことに、さもなければ必要な有機溶剤の使用を、これらの塩の収率又はそれらの純度が結果として不利な影響を受けることなく不要にする。それどころか、本発明の方法はさらに、先行技術のデータと比較して純度及び収率を高め、これは、容易に結晶化する固体が、添加される分散助剤によって得られるという事実に帰する。分散助剤を添加しない、Cibaの取り組み(室温(R.T.)での中和、しかしアセトン又は事前の再沈殿なし)は、特に高濃度が選択される場合に、沈殿されたジヒドロキシクロロトリアジンは、混合物がもはや撹拌可能ではないほどねばつくようになる。結果として、一部の箇所が、さらなる中和の過程で過剰に酸性化されるようになり、その際により大量の副生物が生じる。
一塩から、その他の一塩又は二塩は、当業者の裁量で別の工程において容易に製造可能である。
【0010】
当業者は、どの分散助剤が本発明の方法のために考慮されるかは知っている。典型的な分散助剤は、例えば、Cognis、Clariant、Goldschmidt又はBASFから入手可能である。好ましくは、
・ポリアクリル塩
・脂肪酸エステル
からなる群から選択される分散助剤が使用される。
【0011】
脂肪酸エステルエトキシラート、脂肪酸ポリグリコールエステル及びポリアクリル酸塩の使用が極めて特に好ましい。対象となる反応において分散助剤として、EO単位4〜15個を有する脂肪酸ポリグリコールエステルを使用することが非常に好ましい。
【0012】
本発明の方法を実施する好ましい方法は、塩化シアヌルが水溶液中へ計量供給され、かつ無機塩基でアルカリ化されることである。目下、反応の開始時の強いpH変動、ひいては副生物の形成が回避されることができるように、塩化シアヌルが添加される前に、水溶液が緩衝系と混合されることが有利である。有利な緩衝系は、8〜9のpH範囲で緩衝作用を有するものを含む。水溶液をNaHCO3で緩衝することは極めて特に有利である。
添加される緩衝系の量は、当業者の裁量である。塩化シアヌルを基準として、5〜30mol%の量が有利であり、10〜25mol%の量が好ましく、かつ15〜20mol%の量が最も好ましい。
【0013】
塩化シアヌルの添加の間に又はその添加に引き続いて、反応混合物のpHは、11.5〜13.5、好ましくは12〜13及び最も好ましくは12.5±0.2の範囲で保持/調節される。塩基及び塩化シアヌルの同時の添加は、効率的に制御可能な反応及び生産規模での安全な手順を可能にし、かつ類似して副生物の形成を防止し、そういうわけでこの取り組みは好ましい。
pHは、無機塩基で調節されることができ、その場合にその後のカチオンをジヒドロキシクロロトリアジンの一塩中に含有する。
アルカリ金属はカチオンとして好ましく、かつNa+はこの点について極めて特に好ましい。
【0014】
水酸化物が塩基として使用される。水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0015】
加水分解は好ましくは、加水分解が十分に迅速であり、かつ2,4,6−トリヒドロキシ−1,2,3−トリアジン(シアヌル酸)を副生する完全加水分解のリスクが最適に相殺される温度インターバルで行われる。与えられた状況において、加水分解温度は有利には20℃〜60℃、好ましくは30℃〜50℃及び最も好ましくは40±5℃に調節される。
【0016】
ジヒドロキシクロロトリアジンの一塩を沈殿させるために、ついで分散助剤は溶液に添加され、その後に溶液のpHは、DHCTの一塩が支配的である範囲に調節される。これに関連して支配的であるとは、平衡で存在するDHCTのその他の誘導体の全合計と比較して、>50mol%、好ましくは>70mol%、より好ましくは>80mol%及び最も好ましくは>90mol%の意味である。これは有利には、6.5〜8.5、好ましくは7〜8及び最も好ましくは7.5±0.2のpH範囲の場合である。酸性化は、好ましくはこのために当業者に知られている無機酸を用いて行われることができ、その場合に例は塩酸、硫酸及びリン酸である。このためには塩酸を使用することが極めて特に好ましい。
【0017】
溶液又は生じる懸濁液はその後に、0〜25℃の範囲、好ましくは5〜20℃の範囲及び最も好ましくは12.5±2.5℃の範囲の値に冷却される。結晶化が終了した後に、生成物は、ろ別及び乾燥されることができる。乾燥された固体は、ジヒドロキシクロロトリアジンの純粋な一塩75〜80%を含有する。
【0018】
既に挙げたように、こうして得られたジヒドロキシクロロトリアジン一塩は、他の一塩又は相応する二塩に変換されることができる。
【0019】
対象となる方法は、先行技術の方法と比較して卓越した純度及び高収率で、ジヒドロキシクロロトリアジンの効率的にろ過できる一塩を得ることを可能にする。冒頭で論じたCiba特許に提示された方法を追試することによりジヒドロキシクロロトリアジンの純粋な一塩を単に73%含む乾燥された固体が得られる。塩化シアヌルを基準とした塩の収率は79%に過ぎない。
本発明の方法は、対照的に、ジヒドロキシクロロトリアジンの一塩75〜80%を含む固体をもたらす。固体の別の成分は、極めて実質的に副生物不含の中和塩及び水である。この場合の収率は、使用される塩化シアヌルを基準として80%〜90%の範囲である。例えばシアヌル酸のような有機不純物は、述べたように、少量でのみ存在するにすぎない。
さらに、本発明の方法により、塩化シアヌルが、純水中で事前処理(溶解/沈殿)なし及び有機溶剤の添加なしで反応されることができることが達成され、このことはより費用対効果が大きく、環境により優しくかつ技術的により単純である。さらに、前記のより高い収率を達成することは、補助的な沈殿及び塩の添加を必要とせず;又はより高い収率ですら、場合により、塩を添加することにより達成されることができた。
【0020】
本発明の意味での水溶液は、主成分としての水を含むが、しかし付加的に別の水溶性有機溶剤を含有していてもよい溶液の意味であると理解されるべきである。反応物に対して不活性な有機溶剤が有利であり、その場合に例はケトン(アセトン、MIBK)及びエーテル(THF、DME)である。別の有機溶剤を添加せずに水を使用することが非常に好ましい。
【0021】
実施例
例1:
水615.7gをNaHCO3 8.3gと混合し、40℃に加熱する。CYC 18.4g(0.1mol)を固体形で添加し、懸濁させる。ついで、20%水酸化ナトリウム水溶液を、pHが12.3〜12.7に保持されるようにpH制御しながら添加する。5minのインターバルで、CYCの残余を、NaOHを計量供給により添加する間に18.4gの部分で添加する。それに応じて全CYC添加(5×18.4g)を、約25minの期間に亘って行う。その後、さらにNaOH溶液を、pHが約12.5で一定になるまで添加する。全部で20%NaOH溶液337.9gが反応のために必要とされる。
反応時間:1.5h
CYC転化率:100%。
【0022】
生成物の沈殿:溶液を、Genagen(登録商標) O 060 0.01質量%と混合する。40℃に温度制御した溶液のpHを濃HClで7.5に徐々に調節する。溶液をその後に10℃に冷却し、その後1時間撹拌してから、生成物を吸引しながらろ別し、60℃/10mbarで乾燥させる。
ろ過時間:<3min
CYCを基準とした単離収率:104.7%
組成:DHCT−Na 84.8%
シアヌル酸 0.1%
水 6.5%
塩含量 8.6%
CYCを基準としたDHCT−Na収率:88.7%。
【0023】
比較例1 − 低濃度
Ciba特許の例1と同じ二ナトリウム塩の製造。
反応時間:4h
CYC転化率:100%。
【0024】
Ciba特許と同じ生成物の沈殿:溶液を、撹拌しながら、R.T.で10N HClでpH 7に調節し、10℃に冷却する。ろ過後、さらに生成物を、NaCl 10gを溶液100gに添加することにより補助的に沈殿させる。乾燥を60℃/10mbarで行う。
ろ過時間:<3min
CYCを基準とした単離収率:108.6%
組成:DHCT−Na 72.9%
シアヌル酸 0.1%
水 14.7%
塩含量 12.3%
CYCを基準としたDHCT−Na収率:79.2%。
【0025】
比較例2 − 匹敵しうる濃度
我々の例1と同じ濃度での二ナトリウム塩の製造、しかしCiba特許の例1と同じ沈殿。
反応時間:1.5h
CYC転化率:100%。
【0026】
Ciba特許に類似した生成物の沈殿:溶液を、撹拌しながら、R.T.で10N HClでpH 7に調節し、10℃に冷却する。ろ過後、さらに生成物を、NaCl 10gを溶液100gに添加することにより補助的に沈殿させる。乾燥を60℃/10mbarで行う。
【0027】
ろ過時間:11min(ねばつくコンシステンシー)
CYCを基準とした単離収率:114.4%
組成:DHCT−Na 76.6%
シアヌル酸 0.5%
水 12.1%
塩含量 10.8%
CYCを基準としたDHCT−Na収率:87.6%。
【0028】
比較例3
我々の例1と同じ濃度での二ナトリウム塩の製造、我々の例1とも同じ沈殿、しかし分散助剤を使用しない。
反応時間:1.5h
CYC転化率:100%。
【0029】
生成物の沈殿:40℃に温度制御した溶液のpHを、濃HClで7.5に徐々に調節する。溶液をその後に10℃に冷却し、その後に1時間撹拌してから、生成物を吸引しながらろ別し、60℃/10mbarで乾燥させる。
ろ過時間:10min(ねばつくコンシステンシー)
CYCを基準とした単離収率:108.5%
組成:DHCT−Na 81.4%
シアヌル酸 0.4%
水 8.2%
塩含量 10%
CYCを基準としたDHCT−Na収率:88.3%。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中での塩化シアヌルの部分加水分解及びその後のジヒドロキシクロロトリアジンの一塩が支配的であるpH範囲での沈殿によりジヒドロキシクロロトリアジンの塩を製造する方法において、
沈殿を有機分散助剤の存在で実施することを特徴とする、ジヒドロキシクロロトリアジンの塩を製造する方法。
【請求項2】
分散助剤が、
・ポリアクリル塩
・脂肪酸エステル
からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
水溶液をNaHCO3で緩衝してから、塩化シアヌルを添加する、請求項2及び/又は3記載の方法。
【請求項4】
加水分解温度を、20℃〜60℃、好ましくは30℃〜50℃及び最も好ましくは40±5℃に調節する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2008−536887(P2008−536887A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507045(P2008−507045)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【国際出願番号】PCT/EP2006/061294
【国際公開番号】WO2006/111467
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany