説明

ジヒドロキシベンゼンの精製方法およびジヒドロキシベンゼンの製造方法

【課題】ヒドロキシアセトフェノンを効率よく除去可能なジヒドロキシベンゼンの精製方法を提供すること。
【解決手段】下記の工程を含むジヒドロキシベンゼン(以下DBという。)の精製方法。第一抽出工程:粗DB1に水2を添加して、抽出溶剤(I)に接触させて抽出に付し、DB等を含む第一区分5を得る。蒸留工程:第一区分を蒸留に付し、水等を含む第三区分7と、DB等を含む第四区分とに分離し、次いで、第四区分8を蒸留に付し、精製されたDBと、ヒドロキシアセトフェノンが濃縮されたDBである第六区分10に分離する。油水分離工程:第三区分を油水分離してケトン類を含む第七区分11を得る。第二抽出工程:第六区分に水を添加して、第七区分に接触させて抽出に付し、DB及び水を含む第九区分16を得る。回収工程:第二抽出工程で得た第九区分を第一抽出工程の入口に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジヒドロキシベンゼン中に含まれるヒドロキシアセトフェノンを効率よく除去することができるジヒドロキシベンゼンの精製方法およびジヒドロキシベンゼンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レゾルシンに代表されるジヒドロキシベンゼンは、ジイソプロピルベンゼンを酸化する工程とジ(2−ジヒドロペルオキシ−2−プロピル)ベンゼンを分解する工程を含む方法によって製造される。このようにして製造されたジヒドロキシベンゼン中には、微量の不純物として、イソプロピルフェノール、ヒドロキシアセトフェノン等が含まれている。一方、ジヒドロキシベンゼンは、用途により高水準の製品純度を有することが求められており、高度に精製されたジヒドロキシベンゼンを得るための精製方法の開発がなされてきた(例えば、特許文献1参照)。
このような不純物の除去方法として、芳香族炭化水素にケトン類を添加した混合抽剤を利用する抽出分離が用いられ、例えば、特許文献2には、ジイソプロピルベンゼンを酸化する工程とジ(2−ジヒドロペルオキシ−2−プロピル)ベンゼンを分解する工程を含むプロセスから得られた粗ジヒドロキシベンゼンを蒸留に付し、低沸側からアセトンを含む区分を得、高沸側からジヒドロキシベンゼンを含む区分を得る工程(第一工程)、第一工程で得たジヒドロキシベンゼンを含む区分を蒸留に付し、低沸側からジヒドロキシベンゼンを含む区分を得、高沸側から重質分を含む区分を得る工程(第二工程)、第二工程で得たジヒドロキシベンゼンを含む区分に水を追加した後、トルエンとケトン類に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼンを含む水相と、不純物を含む油相に分離する工程(第三工程)、第三工程で得たジヒドロキシベンゼンを含む水相を蒸留に付し、ジヒドロキシベンゼンを含む区分と水を含む区分を得る工程(第四工程)を含むジヒドロキシベンゼン中の不純物除去方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭61−18537号公報
【特許文献2】特開2004−123600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献2に記載の方法では、イソプロピルフェノールを効果的に除去することができるものの、トルエンのような芳香族炭化水素にメチルイソブチルケトンのようなケトン類を添加した混合抽剤をジヒドロキシベンゼン水溶液と接触させた場合、該水溶液中のジヒドロキシベンゼン濃度が高いと水溶液中にケトン類が移動して抽出溶剤相へのヒドロキシアセトフェノンの除去能力が低下し、一方、該水溶液中のジヒドロキシベンゼン濃度が低いとジヒドロキシベンゼンと水の分離に過大なエネルギーが必要となるため、効率的にヒドロキシアセトフェノンを除去する点で更なる改良が求められていた。
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、ジヒドロキシベンゼン中に含まれるヒドロキシアセトフェノンを効率よく除去することができるジヒドロキシベンゼンの精製方法およびジヒドロキシベンゼンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、不純物としてイソプロペニルフェノール及びヒドロキシアセトフェノンを含む粗ジヒドロキシベンゼンから精製されたジヒドロキシベンゼンを得る、ジヒドロキシベンゼンの精製方法であって、下記第一抽出工程、下記蒸留工程、下記油水分離工程、下記第二抽出工程及び下記回収工程を含み、下記第一抽出工程及び下記第二抽出工程におけるジヒドロキシベンゼン水溶液中のジヒドロキシベンゼン濃度が、下記式(1)を満たすジヒドロキシベンゼンの精製方法に係るものである。
第一抽出工程:粗ジヒドロキシベンゼンに水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Aとした後、芳香族炭化水素及びケトン類を含む抽出溶剤(I)に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン、ヒドロキシアセトフェノン、ケトン類及び水を含む第一区分と、イソプロペニルフェノール及び芳香族炭化水素を含む第二区分とに分離する工程
蒸留工程:第一抽出工程で得た第一区分を蒸留に付し、水及びケトン類を含む第三区分と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分とに分離し、次いで、第四区分を蒸留に付し、精製されたジヒドロキシベンゼンである第五区分と、ヒドロキシアセトフェノンが濃縮されたジヒドロキシベンゼンである第六区分とに分離する工程
油水分離工程:蒸留工程で得た第三区分を油水分離してケトン類を含む第七区分と、水を含む第八区分とに分離する工程
第二抽出工程:蒸留工程で得た第六区分に水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Bとした後、芳香族炭化水素を含む抽出溶剤(II)並びに油水分離工程で得た第七区分及び/またはケトン類に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン及び水を含む第九区分と、ヒドロキシアセトフェノン、芳香族炭化水素及びケトン類を含む第十区分とに分離する工程
回収工程:第二抽出工程で得た第九区分からジヒドロキシベンゼンを回収する工程または第二抽出工程で得た第九区分を第一抽出工程の入口に供給する工程

>C (1)
(式中、Cは、ジヒドロキシベンゼン水溶液A中のジヒドロキシベンゼンの濃度[重量%]を表し、Cは、ジヒドロキシベンゼン水溶液B中のジヒドロキシベンゼンの濃度[重量%]を表す。)
【0006】
また、本発明は、下記の工程を含むジヒドロキシベンゼンの製造方法であって、下記の精製工程が上記のジヒドロキシベンゼンの精製方法を用いる、ジヒドロキシベンゼンの製造方法に係るものである。
酸化工程:ジイソプロピルベンゼンを酸化して、ジイソプロピルベンゼンジヒドロペルオキシドを含む酸化油を得る工程
分解工程:酸化工程で得た酸化油を酸性触媒の存在下に分解し、ジヒドロキシベンゼンを含む分解反応液を得る工程
精製工程:分解工程で得た分解反応液を精製して、精製されたジヒドロキシベンゼンを得る工程
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ジヒドロキシベンゼン中に含まれるヒドロキシアセトフェノンを効率よく除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】トルエン相と水相へのメチルイソブチルケトンの分配比を示す図である。
【図2】実施例1のフローの概略図である。
【図3】比較例1のフローの概略図である。
【図4】実施例2のフローの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0010】
本発明のジヒドロキシベンゼンの精製方法は、不純物としてイソプロペニルフェノール及びヒドロキシアセトフェノンを含む粗ジヒドロキシベンゼンから精製されたジヒドロキシベンゼンを得る、ジヒドロキシベンゼンの精製方法であって、下記第一抽出工程、下記蒸留工程、下記油水分離工程、下記第二抽出工程及び下記回収工程を含み、下記第一抽出工程及び下記第二抽出工程におけるジヒドロキシベンゼン水溶液中のジヒドロキシベンゼン濃度が、下記式(1)を満たすものである。
第一抽出工程:粗ジヒドロキシベンゼンに水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Aとした後、芳香族炭化水素及びケトン類を含む抽出溶剤(I)に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン、ヒドロキシアセトフェノン、ケトン類及び水を含む第一区分と、イソプロペニルフェノール及び芳香族炭化水素を含む第二区分とに分離する工程
蒸留工程:第一抽出工程で得た第一区分を蒸留に付し、水及びケトン類を含む第三区分と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分とに分離し、次いで、第四区分を蒸留に付し、精製されたジヒドロキシベンゼンである第五区分と、ヒドロキシアセトフェノンが濃縮されたジヒドロキシベンゼンである第六区分とに分離する工程
油水分離工程:蒸留工程で得た第三区分を油水分離してケトン類を含む第七区分と、水を含む第八区分とに分離する工程
第二抽出工程:蒸留工程で得た第六区分に水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Bとした後、芳香族炭化水素を含む抽出溶剤(II)並びに油水分離工程で得た第七区分及び/またはケトン類に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン及び水を含む第九区分と、ヒドロキシアセトフェノン、芳香族炭化水素及びケトン類を含む第十区分とに分離する工程
回収工程:第二抽出工程で得た第九区分からジヒドロキシベンゼンを回収する工程または第二抽出工程で得た第九区分を第一抽出工程の入口に供給する工程

>C (1)
(式中、Cは、ジヒドロキシベンゼン水溶液A中のジヒドロキシベンゼンの濃度[重量%]を表し、Cは、ジヒドロキシベンゼン水溶液B中のジヒドロキシベンゼンの濃度[重量%]を表す。)
【0011】
本発明における粗ジヒドロキシベンゼンとは、不純物として少なくともイソプロペニルフェノール及びヒドロキシアセトフェノンを含有する。不純物としては、イソプロペニルフェノール及びヒドロキシアセトフェノン以外の不純物が含まれていてもよい。
【0012】
粗ジヒドロキシベンゼン中のイソプロペニルフェノールの濃度として、好ましくは、0.1〜20重量%であり、ヒドロキシアセトフェノンの濃度として、好ましくは、0.1〜10重量%である。
【0013】
本発明における粗ジヒドロキシベンゼンを得る方法としては、例えば、ベンゼンとプロピレンとを反応させてジイソプロピルベンゼンとし、該ジイソプロピルベンゼンを酸化してジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドとし、該ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドを酸分解してジヒドロキシベンゼンとアセトンとする方法(例えば、特開昭53−23939号公報参照。)が挙げられる。
【0014】
ジヒドロキシベンゼンとしては、例えば、レゾルシン、ハイドロキノン、カテコール等が挙げられ、産業上重要である観点から、好ましくは、レゾルシンである。レゾルシンは主に接着剤の主要原料として使用される。
【0015】
本発明における第一抽出工程は、粗ジヒドロキシベンゼンに水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Aとした後、芳香族炭化水素及びケトン類を含む抽出溶剤(I)に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン、ヒドロキシアセトフェノン、ケトン類及び水を含む第一区分と、イソプロペニルフェノール及び芳香族炭化水素を含む第二区分とに分離する工程である。第二区分にもケトン類の一部が含まれる場合もあるが、抽出溶剤(I)に含まれるケトン類の大部分、例えば、50%以上は第一区分に分配する。
【0016】
粗ジヒドロキシベンゼンに水を添加して得られる水溶液A中のジヒドロキシベンゼンの濃度(C)として、好ましくは、40〜70重量%であり、より好ましくは、40〜60重量%である。該濃度が低すぎる場合(すなわち、ジヒドロキシベンゼンに対する水の比率が高い場合)、後工程の蒸留工程で水及びケトン類を含む第三区分と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分とに分離するために必要な加熱エネルギー量が多く、また同工程における蒸留塔は大規模なものが必要となり経済性が悪く、一方該濃度が高すぎる場合(すなわち、ジヒドロキシベンゼンに対する水の比率が低い場合)、抽出工程におけるイソプロペニルフェノール及びヒドロキシアセトフェノンの除去能力が低下し、精製効率の悪化を引き起こし、また溶液温度が低下した場合、例えば外気温の低下時等において溶液中のジヒドロキシベンゼンの析出を引き起こし、配管の閉塞トラブル等を招くことがある。
【0017】
抽出溶剤(I)としては、芳香族炭化水素及びケトン類を含むものであり、他の溶剤を含んでいてもよい。芳香族炭化水素としては、例えば、トルエン、キシレン、シメン、トリイソプロピルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン等が挙げられ、抽出効率、分液性の観点から、好ましくは、トルエンであり、ケトン類として、好ましくは、ジヒドロキシベンゼンより沸点が低いケトン類であり、より好ましくは、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、更に好ましくは、メチルイソブチルケトンである。
【0018】
抽出の具体的方法については、公知の抽出塔を用いて抽出する方法が挙げられ、例えば、抽出塔の塔頂部付近から粗ジヒドロキシベンゼンと水とからなる溶液を供給し、塔底部付近から抽出溶剤(I)を供給し、両者を抽出塔内で向流接触させて抽出する方法等が挙げられる。抽出塔としては、所定の抽出理論段を有していればよく、例えば、内部に多孔板を設置した多孔板抽出塔、邪魔板を設置したバッフル塔、回転円板を取り付けたRDC塔等が挙げられる。
【0019】
別の抽出する方法としては、例えば、接触混合装置(ミキサー)を用いて、粗ジヒドロキシベンゼンと水とからなる溶液と、抽出溶剤(I)とを接触混合し、次いで油水分離するミキサーセトラー方式を用いて抽出する方法等が挙げられる。接触混合装置(ミキサー)としては、例えば、攪拌機、スタティックミキサー、ラインミキサー等の市販の一般的な混合装置が挙げられる。接触混合後のミキサーセトラー方式には、油水分離装置(セトラー)を用いることができ、油水分離装置(セトラー)としては、充分油水を静置分離させるものであればよく、例えば、一般的なドラム、コアレッサ−等が挙げられる。
【0020】
抽出により、ジヒドロキシベンゼン、ヒドロキシアセトフェノン、ケトン類及び水を含む第一区分と、イソプロペニルフェノール及び芳香族炭化水素を含む第二区分とが得られる。上記の抽出塔を用いた場合、第一区分は抽出塔の塔底部付近から得られ、第二区分は抽出塔の塔頂部付近から得られる。
一方、ミキサーセトラーを用いた場合、第一区分はセトラーの水相側から得られ、第二区分は油相側から得られる。
【0021】
第一区分に含まれるジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンの濃度として、好ましくは、ジヒドロキシベンゼンの濃度が40〜70重量%であり、ヒドロキシアセトフェノンの濃度が0.05〜0.4重量%である(ただし、第一区分の全重量を100重量%とする。)。第二区分に含まれるイソプロペニルフェノールの濃度として、好ましくは、0.05〜5.0重量%である(ただし、第二区分の全重量を100重量%とする。)。
第二区分は芳香族炭化水素を含むため、そのまま第二抽出工程で抽出溶剤(II)として用いるか、または、蒸留に付して、精製された抽出溶剤を回収し、第一および/または第二抽出工程の抽出溶剤(I)および/または抽出溶剤(II)としてリサイクル使用してもよいが、効率のよい抽出溶剤の使用方法として、そのまま第二抽出工程で抽出溶剤(II)として用いることが好ましい。
【0022】
本発明における蒸留工程は、第一抽出工程で得た第一区分を蒸留に付し、水及びケトン類を含む第三区分と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分とに分離し、次いで、第四区分を蒸留に付し、精製されたジヒドロキシベンゼンである第五区分と、ヒドロキシアセトフェノンが濃縮されたジヒドロキシベンゼンである第六区分とに分離する工程である。
【0023】
蒸留工程を実施するためには、棚段塔、不規則充填塔、規則充填塔といった公知の蒸留塔が使用される。蒸留塔の主要な構成としては、棚段(シーブトレー、リップルトレー、バブルキャップトレー等)、不規則充填物(ラヒシリング、レッシリング、ポールリング等)、規則充填物(メラパック等)のような内部構造物を1種または2種以上組み合わせて設置した蒸留塔本体、塔底付近の液の一部を気化させるためのリボイラー、塔頂付近の留出蒸気を凝縮させるためのコンデンサーからなるものを例示することができる。このような蒸留塔を必要に応じて複数設置し、塔頂部付近、塔底部付近、またはサイドカットと呼ばれる塔頂と塔底の中間段付近から所望の区分を抜き出すことで分離を行う。具体例としては、前段の蒸留塔の塔頂部付近から水及びケトン類を含む第三区分が得られ、塔底部付近からジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分が得られ、次いで第四区分を後段の蒸留塔で蒸留に付し、蒸留塔の塔頂部付近から精製されたジヒドロキシベンゼンである第五区分が得られ、塔底部付近からヒドロキシアセトフェノンが濃縮されたジヒドロキシベンゼンである第六区分が得られる。後段の蒸留塔の塔頂部付近において得られるジヒドロキシベンゼン中に、ジヒドロキシベンゼンよりも沸点の低い不純物が存在する場合、第四区分を該蒸留塔へ供給する段と塔頂部付近の間に位置する段(サイドカット段)から第五区分を得ることが、精製されたジヒドロキシベンゼンの純度を高める観点から特に好ましい。
【0024】
このようにして得られた第五区分は、所望の品質を満たしている。また、第六区分中のヒドロキシアセトフェノンの濃度としては、通常、約5〜12重量%であり、ジヒドロキシベンゼンが、通常、約70〜95重量%である。
【0025】
本発明における油水分離工程は、蒸留工程で得た第三区分を油水分離してケトン類を含む第七区分と、水を含む第八区分とに分離する工程である。
【0026】
油水分離工程を実施するためには、水とケトン類の沸点差を利用した蒸留操作や、比重差を利用した液液分離操作などの分離操作を用いればよい。
蒸留操作を用いる場合には、棚段塔、不規則充填塔、規則充填塔といった公知の蒸留塔が使用される。蒸留塔の主要な構成としては、棚段(シーブトレー、リップルトレー、バブルキャップトレー等)、不規則充填物(ラヒシリング、レッシリング、ポールリング等)、規則充填物(メラパック等)のような内部構造物を1種または2種以上組み合わせて設置した蒸留塔本体、塔底付近の液の一部を気化させるためのリボイラー、塔頂付近の留出蒸気を凝縮させるためのコンデンサーからなるものを例示することができる。
また、液液分離操作としては、例えば、油水分離装置(セトラー)を用いることができ、油水分離装置(セトラー)としては、充分油水を静置分離させるものであればよく、例えば、一般的なドラム、コアレッサ−等が挙げられる。
油水分離工程で得られた第八区分は工程外へ排水してもよいが、水の効率的利用の観点から、そのまま、または不要成分を除去した後、第一抽出工程および/または第二抽出工程で用いられる水の少なくとも一部としてリサイクルすることが好ましく、第二抽出工程で用いられる水として全量リサイクルすることが特に望ましい。こうすることで、粗ジヒドロキシベンゼンの精製プロセス全体としての排水量が削減される。
【0027】
本発明における第二抽出工程は、蒸留工程で得た第六区分に水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Bとした後、芳香族炭化水素を含む抽出溶剤(II)並びに油水分離工程で得た第七区分及び/またはケトン類に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン及び水を含む第九区分と、ヒドロキシアセトフェノン、芳香族炭化水素及びケトン類を含む第十区分とに分離する工程である。
【0028】
第六区分にはジヒドロキシベンゼン、ヒドロキシアセトフェノンの他に、ジヒドロキシベンゼンやイソプロペニルフェノールが重合した重質化合物等が含まれる場合があるため、水を添加する前に重質カット処理や重質物の熱分解処理を行っても良い。
重質カット処理の方法としては、公知の蒸留による方法を挙げることができる。
熱分解処理の方法としては、熱交換器による加熱分解部と、熱分解生成物を回収するための気液分離部を組み合わせた方法等が挙げられる。
【0029】
第二抽出工程において、蒸留工程で得た第六区分に水を添加して得た、ジヒドロキシベンゼン水溶液B中のジヒドロキシベンゼンの濃度(C)としては、第二抽出工程におけるヒドロキシアセトフェノン除去能力に優れ、精製効率を向上させる観点から、第一抽出工程において、粗ジヒドロキシベンゼンに水を添加して得た、ジヒドロキシベンゼン水溶液A中のジヒドロキシベンゼンの濃度(C)よりも低いこと、すなわち、下記式(1)を満たすことが必要である。
>C (1)
(式中、Cは、ジヒドロキシベンゼン水溶液A中のジヒドロキシベンゼンの濃度[重量%]を表し、Cは、ジヒドロキシベンゼン水溶液B中のジヒドロキシベンゼンの濃度[重量%]を表す。)
【0030】
ジヒドロキシベンゼン水溶液B中のジヒドロキシベンゼンの濃度(C)として、好ましくは、5〜30重量%であり、より好ましくは、5〜20重量%である。
【0031】
抽出溶剤(II)としては、芳香族炭化水素を含むものであり、他の溶剤を含んでいてもよい。芳香族炭化水素としては、例えば、トルエン、キシレン、シメン、トリイソプロピルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン等が挙げられ、抽出効率、分液性の観点から、好ましくは、トルエンである。第一抽出工程で用いる抽出溶剤(I)における芳香族炭化水素と、第二抽出工程で用いる抽出溶剤(II)における芳香族炭化水素とは、同じであっても異なっていてもよい。また、抽出効率を高めるために、上記抽出溶剤(II)として、好ましくは、芳香族炭化水素とケトン類との混合溶剤である。ケトン類として、好ましくは、ジヒドロキシベンゼンより沸点が低いケトン類であり、より好ましくは、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、更に好ましくは、メチルイソブチルケトンである。
また、すでに述べたとおり、第一抽出工程で分離した第二区分をそのまま抽出溶剤(II)として用いてもよい。
【0032】
抽出の具体的方法については、公知の抽出塔を用いて抽出する方法が挙げられ、例えば、抽出塔の塔頂部付近からジヒドロキシベンゼンと水とからなる溶液を供給し、塔底部付近から抽出溶剤を供給し、両者を抽出塔内で向流接触させて抽出する方法等が挙げられる。抽出塔としては、所定の抽出理論段を有していればよく、例えば、内部に多孔板を設置した多孔板抽出塔、邪魔板を設置したバッフル塔、回転円板を取り付けたRDC塔等が挙げられる。
【0033】
別の抽出する方法としては、例えば、接触混合装置(ミキサー)を用いて、粗ジヒドロキシベンゼンと水とからなる溶液と、抽出溶剤とを接触混合し、次いで油水分離するミキサーセトラー方式を用いて抽出する方法等が挙げられる。接触混合装置(ミキサー)としては、例えば、攪拌機、スタティックミキサー、ラインミキサー等の市販の一般的な混合装置が挙げられる。接触混合後の油水分離には、公知の油水分離装置(セトラー)を用いることができる。
油水分離装置(セトラー)としては、充分油水を分離させるものであればよく、例えば、一般的なドラム、コアレッサ−等が挙げられる。
【0034】
抽出により、ジヒドロキシベンゼン及び水を含む第九区分と、ヒドロキシアセトフェノン、芳香族炭化水素及びケトン類を含む第十区分とが得られる。上記の抽出塔を用いた場合、第九区分は抽出塔の塔底部付近から得られ、第十区分は抽出塔の塔頂部付近から得られる。
一方、ミキサーセトラーを用いた場合、第九区分はセトラーの水相側から得られ、第十区分は油相側から得られる。
【0035】
第九区分に含まれるジヒドロキシベンゼンの濃度として、好ましくは、5〜30重量%である(ただし、第九区分の全重量を100重量%とする。)。第十区分に含まれるヒドロキシアセトフェノンの濃度として、好ましくは、0.1〜1.0重量%である(ただし、第十区分の全重量を100重量%とする。)。
【0036】
本発明において、第十区分はヒドロキシアセトフェノン、芳香族炭化水素及びケトン類を含むため、さらにリサイクル工程を設け、第十区分を蒸留に付して芳香族炭化水素及びケトン類を含む抽出溶剤(III)を回収し、該抽出溶剤(III)を第一抽出工程及び/または第二抽出工程で用いる抽出溶剤(I)及び/または抽出溶剤(II)としてリサイクル使用してもよい。
なお、粗ジヒドロキシベンゼン中のイソプロペニルフェノール等の不純物が第十区分に濃縮される場合は、精留を行うことが特に好ましい。
【0037】
本発明における回収工程は、第二抽出工程で得た第九区分からジヒドロキシベンゼンを回収する工程または第二抽出工程で得た第九区分を第一抽出工程の入口に供給する工程である。ジヒドロキシベンゼンを回収するとは、ジヒドロキシベンゼンを精製して、回収することを意味している。
【0038】
ジヒドロキシベンゼンを回収する方法としては、例えば、第九区分を蒸留に付して、水を含む区分と、ジヒドロキシベンゼンとに分離して、それぞれ回収する方法等が挙げられ、好ましくは、第二抽出工程で得た第九区分を蒸留に付し、水を含む第十一区分と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第十二区分とに分離し、次いで、第十二区分を蒸留に付し、ジヒドロキシベンゼンを回収する工程である。
蒸留を用いて回収を行う場合、蒸留操作は、棚段塔、不規則充填塔、規則充填塔といった公知の蒸留塔が使用される。蒸留塔の主要な構成としては、棚段(シーブトレー、リップルトレー、バブルキャップトレー等)、不規則充填物(ラヒシリング、レッシリング、ポールリング等)、規則充填物(メラパック等)のような内部構造物を1種または2種以上組み合わせて設置した蒸留塔本体、塔底付近の液の一部を気化させるためのリボイラー、塔頂付近の留出蒸気を凝縮させるためのコンデンサーからなるものを例示することができる。
ジヒドロキシベンゼンの組成が、ジヒドロキシベンゼンに要求される純度を満たしていない場合は、さらに追加の蒸留塔を設置して精留に付せばよい。こうすることにより、第九区分に含まれるジヒドロキシベンゼンを有効に回収できる。
【0039】
回収工程で得られた第十一区分は工程外へ排水してもよいが、そのまま、または不要成分を除去した後、第一抽出工程および/または第二抽出工程で用いられる水の少なくとも一部としてリサイクルしてもよい。第十一区分をリサイクルする場合、粗ジヒドロキシベンゼンの精製プロセス全体としての排水量が削減されるため好ましい。
【0040】
第二抽出工程で得た第九区分を第一抽出工程の入口に供給するとは、第二抽出工程で得た第九区分を第一抽出工程に添加する水の供給源の少なくとも一部として添加することを意味しており、同時に第九区分に含まれるジヒドロキシベンゼンを第一抽出工程に戻すことになる。
【0041】
回収のための独立した蒸留塔を必要としないため、設備費の抑制の観点から、回収工程として、好ましくは、第二抽出工程で得た第九区分を第一抽出工程の入口に供給する工程である。
【0042】
本願発明におけるリサイクル工程は、第二抽出工程で得た第十区分を蒸留に付して芳香族炭化水素及びケトン類を含む抽出溶剤(III)を回収し、該抽出溶剤(III)を第一抽出工程及び/または第二抽出工程で用いる抽出溶剤(I)及び/または抽出溶剤(II)の少なくとも1部としてリサイクルする工程である。
【0043】
リサイクル工程を設ける場合、第一抽出工程で分離した第二区分をそのまま第二抽出工程で抽出溶剤(II)として用い、次いで第二抽出工程で分離した第十区分をリサイクル工程で精留に付し、精製された抽出溶剤(III)を得て、該抽出溶剤(III)を第一抽出工程で用いる抽出溶剤(I)の少なくとも1部として循環使用することが、抽剤の使用量を抑制できるという観点から特に好ましい。
このようにすることで、第一抽出工程および第二抽出工程でそれぞれジヒドロキシベンゼンから除去されたイソプロペニルフェノール、ヒドロキシアセトフェノンおよびそれらの重合物からなる不純物が、抽出溶剤(I)および抽出溶剤(II)に蓄積することを防止し、抽剤の純度低下による第一抽出工程および第二抽出工程における抽出効率の低下を抑制できるのである。
【0044】
本願発明のリサイクル工程を実施するためには、公知の分離操作を用いれば良いが、一般的には蒸留操作が用いられる。蒸留操作には、棚段塔、不規則充填塔、規則充填塔といった公知の蒸留塔が使用される。蒸留塔の主要な構成としては、棚段(シーブトレー、リップルトレー、バブルキャップトレー等)、不規則充填物(ラヒシリング、レッシリング、ポールリング等)、規則充填物(メラパック等)のような内部構造物を1種または2種以上組み合わせて設置した蒸留塔本体、塔底付近の液の一部を気化させるためのリボイラー、塔頂付近の留出蒸気を凝縮させるためのコンデンサーからなるものを例示することができる。このようにして、蒸留塔の塔頂付近から抽出溶剤(III)を回収し、塔底付近から不純物が濃縮された区分を排出する。
【0045】
本発明の最大の特徴は、第一抽出工程及び第二抽出工程を組み合わせて用い、かつ第二抽出工程において芳香族炭化水素を含む抽出溶剤(II)並びに油水分離工程で得た第七区分及び/またはケトン類に接触させて抽出に付す点にある。
すなわち、従来の方法では、ヒドロキシアセトフェノンとジヒドロキシベンゼンとを含む水溶液(水相)を、芳香族炭化水素とケトン類からなる抽出溶剤(油相)に接触させてヒドロキシアセトフェノンを抽出溶剤に除去する際、該水溶液中のジヒドロキシベンゼン濃度が高いと、ケトン類が水溶液中に抽出されてしまい、抽出性能を著しく低下させてしまっていた。
【0046】
そこで、発明者らは、先に述べた水相と油相へのケトン類の分配について、水溶液中のジヒドロキシベンゼンの濃度の違いによる影響をモデル実験にて検証した。ジヒドロキシベンゼンとしてレゾルシンを、芳香族炭化水素としてトルエンを、ケトン類としてメチルイソブチルケトンをそれぞれ用い、水溶液として53重量%と15重量%の二種類のレゾルシン水溶液を用いた。
53重量%レゾルシン水溶液及び15重量%レゾルシン水溶液を、所定量のメチルイソブチルケトンを含んだトルエンに接触させて、混合したのち油水分離して、トルエン相(以下油相中)のメチルイソブチルケトンの濃度(重量%)とレゾルシン水溶液中(以下水相中)のメチルイソブチルケトンの濃度(重量%)をガスクロマトグラフにて測定した。結果を図1に示す。油相中に含まれるメチルイソブチルケトンの濃度が0〜20重量%の範囲において、油相中のメチルイソブチルケトンの濃度(重量%)(X)と水相中のメチルイソブチルケトンの濃度(重量%)(Y)はほぼ比例関係にあることから、メチルイソブチルケトンの分配比(Y/X)を求めた。
これにより、15重量%レゾルシン水溶液のような低いレゾルシン濃度領域においては、メチルイソブチルケトンの分配比は0.05となり、メチルイソブチルケトンの大部分は油相中に分配し、一方、53重量%レゾルシン水溶液のような高いレゾルシン濃度領域においては、メチルイソブチルケトンの分配比は0.5で、低い領域に比べてメチルイソブチルケトンは水相中に分配し易いことが示された。
【0047】
一方、ジヒドロキシベンゼン濃度が低いと、ケトン類の水溶液中への抽出は抑制されるが、後段の蒸留工程でジヒドロキシベンゼンと水を分離するためのエネルギーが増加するため、結果として、ヒドロキシアセトフェノンを効率よく除去することが出来なかったのである。
【0048】
発明者らは、鋭意研究の結果、第一抽出工程と第二抽出工程において、異なるジヒドロキシベンゼン濃度の水溶液を用い、かつ、ジヒドロキシベンゼン濃度の低い第二抽出工程に第七区分及び/またはケトン類を供給することによって、これらの問題が解決できることを見出した。すなわち、第一抽出工程の水溶液中のジヒドロキシベンゼン濃度を低くすることなくイソプロペニルフェノールを除去することができ、後段の蒸留工程でのジヒドロキシベンゼンと水を分離するためのエネルギーの増加がなく、かつ第二抽出工程ではケトン類の水相への移動が抑制され、ヒドロキシアセトフェノンの効率的な除去を妨げることがない。
ここで、本発明に拠らず、第一抽出工程及び第二抽出工程を組み合わせたのみでは、効果を得られない理由を説明する。第一抽出工程で用いる抽出溶剤(I)に油水分離工程で得た第七区分及び/またはケトン類に接触させて抽出を行った場合、ケトン類の大部分が芳香族炭化水素の相(油相)からジヒドロキシベンゼン水溶液相(水相)に移動するため、第一抽出塔及び第二抽出塔の内部を充分通過することがなく、効率的にヒドロキシアセトフェノンを除去することはできない。
【0049】
本発明は、ジヒドロキシベンゼンがレゾルシンである場合、産業上の利用の観点から好ましい。レゾルシンは主に接着剤の主要原料として使用される。
本発明は、ジヒドロキシベンゼンがハイドロキノンである場合、産業上の利用の観点から好ましい。ハイドロキノンは主に還元剤や重合防止剤、ゴムの酸化防止剤、薬剤原料等として使用される。
【0050】
本発明は、粗ジヒドロキシベンゼン中のイソプロペニルフェノール濃度が0.1〜20重量%であり、ヒドロキシアセトフェノン濃度が0.1〜10重量%である場合、特に効果的である。このような粗ジヒドロキシベンゼンの精製において、本発明の方法を用いない場合、すでに説明したとおりの問題が生じる。
本発明は、抽出溶剤(I)及び抽出溶剤(II)に含まれる芳香族炭化水素がトルエンである場合、抽出効率や分液性のみならず、抽出溶剤の入手しやすさの点でも特に好ましい。
【0051】
また、本発明は、下記の工程を含むジヒドロキシベンゼンの製造方法であって、下記の精製工程が上記のジヒドロキシベンゼンの精製方法を用いる、ジヒドロキシベンゼンの製造方法である。
酸化工程:ジイソプロピルベンゼンを酸化して、ジイソプロピルベンゼンジヒドロペルオキシドを含む酸化油を得る工程
分解工程:酸化工程で得た酸化油を酸性触媒の存在下に分解し、ジヒドロキシベンゼンを含む分解反応液を得る工程
精製工程:分解工程で得た分解反応液を精製して、精製されたジヒドロキシベンゼンを得る工程
また、上記の分解工程と精製工程を繋ぐ何れかの場所で、分解反応液に含まれる軽沸成分(例えばアセトン等)および重質成分(ジヒドロキシベンゼン、イソプロペニルフェノール等が重合した化合物)をそれぞれ蒸留等の分離操作によりあらかじめ分離しておくことが、効率的な精製の観点から好ましい。
【実施例】
【0052】
本発明を実施例により具体的に説明する。
【0053】
[実施例1](図2参照)
本願発明を採用した粗ジヒドロキシベンゼンの精製フローおよび概要である。
(I)反応工程
ベンゼンとプロピレンとを反応させてm−ジイソプロピルベンゼンとし、次いで、m−ジイソプロピルベンゼンを酸化してm−ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドとし、m−ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドを酸性触媒の存在下に、酸分解してレゾルシンとアセトンとを含む反応液とし、次いで蒸留に付し、アセトン等の軽沸化合物を除去して、m−イソプロペニルフェノール及びm−ヒドロキシアセトフェノンを含むレゾルシン(m−ジヒドロキシベンゼン)(以下、「粗レゾルシン」と記載する。)を得た。
(II)精製工程
第一抽出工程では、(I)反応工程で得られた粗レゾルシン(1)に第二抽出工程で得る第九区分(16)、および必要に応じて追加の水(2)を添加して53重量%のレゾルシン水溶液A(3)とし、抽出塔(101)の塔頂付近に供給し、トルエンとメチルイソブチルケトンを含む抽出溶剤(I)(4)を水溶液Aの重量の約0.5〜0.8倍の量で抽出塔(101)の塔底部付近に供給し接触させて抽出に付し、レゾルシン、m−ヒドロキシアセトフェノン、メチルイソブチルケトン及び水を含む第一区分(5)とm−イソプロペニルフェノール及びトルエンを含む第二区分(6)とに分離した。このとき、第一区分(5)は抽出塔の塔底部付近から、第二区分(6)は抽出塔の塔頂部付近から得た。このとき、抽出溶剤(I)中のメチルイソブチルケトン濃度は8.1重量%であった。
蒸留工程では、まず、第一抽出工程で得た第一区分(5)を前段蒸留に付し、水及びメチルイソブチルケトンを含む第三区分(7)とレゾルシン及びm−ヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分(8)とに分離した。
前段蒸留には、充填物形式の蒸留塔(102)を用いた。蒸留塔(102)の塔頂部付近から第三区分(7)を、塔底部付近から第四区分(8)を得た。
次いで、第四区分(8)を後段蒸留に付し、精製されたレゾルシンである第五区分(9)とm−ヒドロキシアセトフェノンを含むレゾルシンの第六区分(10)とに分離した。
後段蒸留には、充填物形式の蒸留塔(103)を用いた。蒸留塔(103)の塔頂部付近から第五区分(9)を、塔底部付近から第六区分(10)を得た。第五区分(9)の重量は、第四区分(8)の重量の0.7〜0.95倍の範囲で取り出した。
油水分離工程では、前段蒸留の塔頂部付近から得られた第三区分(7)が油水分離ドラム(105)に供給されて、メチルイソブチルケトンを含む第七区分(11)と水を含む第八区分(12)とに分離した。
第二抽出工程では、第六区分(10)に水(13)及び第八区分(12)を添加して15.0重量%のレゾルシン水溶液B(14)とし、抽出塔(104)の塔頂付近に供給し、第二区分(6)及び油水分離工程で得た第七区分(11)を抽出塔(104)の塔底部付近に供給し接触させて抽出に付し、レゾルシン及び水を含む第九区分(16)とm−ヒドロキシアセトフェノン、トルエン、及びメチルイソブチルケトンを含む第十区分(17)とに分離した。なお、第十区分(17)中のメチルイソブチルケトン濃度は7.0重量%であった。このとき、第九区分(16)は抽出塔の塔底部付近から、第十区分(17)は抽出塔の塔頂部付近から得た。
回収工程では、第二抽出工程で得る第九区分(16)を第一抽出工程で用いる水として利用し、同時に該区分に含まれるジヒドロキシベンゼンを第一抽出工程に回収した。
【0054】
[比較例1](図3参照)
油水分離工程後の第七区分(11)を第二抽出工程にはリサイクルせず、抽出溶剤(I)(4)にリサイクルする以外は、実施例1と同じ粗ジヒドロキシベンゼンの精製フローおよび概要であった。このとき、第十区分(17)中のメチルイソブチルケトン濃度は2.1重量%であった。
【0055】
実施例1および比較例1における抽出溶剤(I)(4)中のメチルイソブチルケトンの濃度(重量%)、第十区分(17)中のメチルイソブチルケトンの濃度(重量%)、製品レゾルシン(9)中のm−ヒドロキシアセトフェノンの濃度(重量ppm)を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1より、第一抽出工程に供給された抽出溶剤(I)に含まれるメチルイソブチルケトンの濃度は実施例、比較例ともに8.1重量%で同じ濃度であったが、第二抽出工程を通過した第十区分(17)中に含まれるメチルイソブチルケトンは、本発明を適用した実施例1では、7.0重量%であったのに対し、本発明に拠らない比較例1では2.1重量%であった。
この実施例1での第十区分(17)中のメチルイソブチルケトンの濃度結果は、これまでに述べた通り、第二抽出工程に供給されたメチルイソブチルケトンの水相への移動が抑制されていたことを示している。
以上のことから、第二抽出工程におけるm−ヒドロキシアセトフェノンの除去効率に差が生じ、実施例1では製品レゾルシン(第五区分)中のm−ヒドロキシアセトフェノン濃度は75重量ppmであり、比較例1では95重量ppmであり、本発明を適用した場合、m−ヒドロキシアセトフェノン濃度が20重量ppm低い製品を効率良く得ることができた。
【0058】
[実施例2](図4参照)
回収工程として、独立した蒸留塔を設置したこと以外、実施例1と同じ粗ジヒドロキシベンゼンの精製フローおよび概要である。
【符号の説明】
【0059】
(1)粗ジヒドロキシベンゼン(粗レゾルシン)
(2)水
(3)レゾルシン水溶液A
(4)抽出溶剤(I)
(5)第一区分
(6)第二区分
(7)第三区分
(8)第四区分
(9)第五区分
(10)第六区分
(11)第七区分
(12)第八区分
(13)水
(14)レゾルシン水溶液B
(15)抽出溶剤(II)
(16)第九区分
(17)第十区分
(18)第十一区分
(19)第十二区分
(20)回収されるジヒドロキシベンゼン
(101)第一抽出工程の抽出塔
(102)蒸留工程の前段蒸留の蒸留塔
(103)蒸留工程の後段蒸留の蒸留塔
(104)第二抽出工程の抽出塔
(105)油水分離工程の油水分離ドラム
(106)回収工程の前段蒸留の蒸留塔
(107)回収工程の後段蒸留の蒸留塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物としてイソプロペニルフェノール及びヒドロキシアセトフェノンを含む粗ジヒドロキシベンゼンから精製されたジヒドロキシベンゼンを得る、ジヒドロキシベンゼンの精製方法であって、下記第一抽出工程、下記蒸留工程、下記油水分離工程、下記第二抽出工程及び下記回収工程を含み、下記第一抽出工程及び下記第二抽出工程におけるジヒドロキシベンゼン水溶液中のジヒドロキシベンゼン濃度が、下記式(1)を満たすジヒドロキシベンゼンの精製方法。
第一抽出工程:粗ジヒドロキシベンゼンに水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Aとした後、芳香族炭化水素及びケトン類を含む抽出溶剤(I)に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン、ヒドロキシアセトフェノン、ケトン類及び水を含む第一区分と、イソプロペニルフェノール及び芳香族炭化水素を含む第二区分とに分離する工程
蒸留工程:第一抽出工程で得た第一区分を蒸留に付し、水及びケトン類を含む第三区分と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第四区分とに分離し、次いで、第四区分を蒸留に付し、精製されたジヒドロキシベンゼンである第五区分と、ヒドロキシアセトフェノンが濃縮されたジヒドロキシベンゼンである第六区分とに分離する工程
油水分離工程:蒸留工程で得た第三区分を油水分離してケトン類を含む第七区分と、水を含む第八区分とに分離する工程
第二抽出工程:蒸留工程で得た第六区分に水を添加して、ジヒドロキシベンゼン水溶液Bとした後、芳香族炭化水素を含む抽出溶剤(II)並びに油水分離工程で得た第七区分及び/またはケトン類に接触させて抽出に付し、ジヒドロキシベンゼン及び水を含む第九区分と、ヒドロキシアセトフェノン、芳香族炭化水素及びケトン類を含む第十区分とに分離する工程
回収工程:第二抽出工程で得た第九区分からジヒドロキシベンゼンを回収する工程または第二抽出工程で得た第九区分を第一抽出工程の入口に供給する工程

>C (1)
(式中、Cは、ジヒドロキシベンゼン水溶液A中のジヒドロキシベンゼンの濃度[重量%]を表し、Cは、ジヒドロキシベンゼン水溶液B中のジヒドロキシベンゼンの濃度[重量%]を表す。)
【請求項2】
下記リサイクル工程をさらに含む請求項1に記載のジヒドロキシベンゼンの精製方法。
リサイクル工程:第二抽出工程で得た第十区分を蒸留に付して芳香族炭化水素及びケトン類を含む抽出溶剤(III)を回収し、該抽出溶剤(III)を第一抽出工程及び/または第二抽出工程で用いる抽出溶剤(I)及び/または抽出溶剤(II)の少なくとも1部としてリサイクルする工程
【請求項3】
ジヒドロキシベンゼン水溶液A中のジヒドロキシベンゼンの濃度(C)が40〜70重量%であり、ジヒドロキシベンゼン水溶液B中のジヒドロキシベンゼンの濃度(C)が5〜30重量%である請求項1または2に記載の精製方法。
【請求項4】
回収工程が下記に記載の工程である請求項1〜3に記載の精製方法。
回収工程:第二抽出工程で得た第九区分を蒸留に付し、水を含む第十一区分と、ジヒドロキシベンゼン及びヒドロキシアセトフェノンを含む第十四区分とに分離し、次いで、第十二区分を蒸留に付し、ジヒドロキシベンゼンを回収する工程
【請求項5】
ジヒドロキシベンゼンがレゾルシンである請求項1〜4のいずれかに記載の精製方法。
【請求項6】
ジヒドロキシベンゼンがハイドロキノンである請求項1〜4のいずれかに記載の精製方法。
【請求項7】
粗ジヒドロキシベンゼン中のイソプロペニルフェノール濃度が0.1〜20重量%であり、ヒドロキシアセトフェノン濃度が0.1〜10重量%である請求項1〜6のいずれかに記載の精製方法。
【請求項8】
抽出溶剤(I)及び抽出溶剤(II)に含まれる芳香族炭化水素がトルエンである請求項1〜7のいずれかに記載の精製方法。
【請求項9】
抽出溶剤(I)に含まれるケトン類がメチルイソブチルケトンである請求項1〜8のいずれかに記載の精製方法。
【請求項10】
下記の工程を含むジヒドロキシベンゼンの製造方法であって、下記の精製工程が請求項1〜9のいずれかに記載のジヒドロキシベンゼンの精製方法を用いる、ジヒドロキシベンゼンの製造方法。
酸化工程:ジイソプロピルベンゼンを酸化して、ジイソプロピルベンゼンジヒドロペルオキシドを含む酸化油を得る工程
分解工程:酸化工程で得た酸化油を酸性触媒の存在下に分解し、ジヒドロキシベンゼンを含む分解反応液を得る工程
精製工程:分解工程で得た分解反応液を精製して、精製されたジヒドロキシベンゼンを得る工程

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−72073(P2012−72073A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216596(P2010−216596)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】