説明

ジヒドロキシ化合物の製造方法

【課題】4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールからジヒドロキシ化合物への変換率が高い、より効率的なジヒドロキシ化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】チタン化合物及び/又はスズ化合物の存在下、式(1)


(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、Zは炭素数1〜5のアルキル基を表わす。)で表わされるヒドロキシ安息香酸エステルと4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールとを、ヒドロキシル基を有していない溶媒中で反応させることを特徴とする式(3)で示されるジヒドロキシ化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジヒドロキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、式(3)

で示されるジヒドロキシ化合物が、エポキシ樹脂の原料であるジエポキシ化合物へ変換可能であることが記載されており、その製造方法として、酸の存在下に、ヒドロキシ安息香酸と4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールとを反応させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−074366
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールから式(3)で表わされるジヒドロキシ化合物への変換率が必ずしも充分満足できるものではなかった。そのため、4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールからジヒドロキシ化合物への変換率が高い、より効率的なジヒドロキシ化合物の製造方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下、本発明者は鋭意検討した結果、以下の本発明に至った。
[1]チタン化合物及びスズ化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物の存在下、式(1)

(式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、Zは炭素数1〜5のアルキル基を表わす。)
で表わされるヒドロキシ安息香酸エステルと、式(2)

で表わされる4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールとを、ヒドロキシル基を有していない溶媒中で反応させる、式(3)

(式中、R、R、R及びRは、上記と同じ意味を表わす。)
で示されるジヒドロキシ化合物の製造方法。
[2]ヒドロキシル基を有していない溶媒が、ヒドロキシル基を有していない芳香族ハロゲン化炭化水素溶媒及びヒドロキシル基を有していないエーテル溶媒からなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒である[1]記載の製造方法。
[3]反応が、スズ化合物の存在下で行われる[1]又は[2]記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールからジヒドロキシ化合物への変換率が高い、より効率的なジヒドロキシ化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、チタン化合物及びスズ化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物の存在下、式(1)

(式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、Zは炭素数1〜5のアルキル基を表わす。)
で表わされるヒドロキシ安息香酸エステル(以下、ヒドロキシ安息香酸エステル(1)と記すことがある)と、式(2)

で表わされる4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノール(以下、フェノール(2)と記すことがある)とを、ヒドロキシル基を有していない溶媒中で反応させる、式(3)

(式中、R、R、R及びRは、上記と同じ意味を表わす。)
で示されるジヒドロキシ化合物(以下、ジヒドロキシ化合物(3)と記すことがある)の製造方法である。
【0008】
炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が挙げられ、好ましくは、メチル基である。
〜Rが、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0009】
炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられ、好ましくは、メチル基またはエチル基である。Zは、メチル基またはエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0010】
ヒドロキシ安息香酸エステル(1)としては、4−ヒドロキシ安息香酸メチル、4−ヒドロキシ安息香酸エチル、4−ヒドロキシ安息香酸n−プロピル、4−ヒドロキシ安息香酸n−ブチル、4−ヒドロキシ−2−メチル安息香酸メチル、4−ヒドロキシ−2−メチル安息香酸エチル、4−ヒドロキシ−2−メチル安息香酸n−ブチル、4−ヒドロキシ−3−メチル安息香酸メチル、4−ヒドロキシ−3−メチル安息香酸エチル、4−ヒドロキシ−3−メチル安息香酸n−プロピル、4−ヒドロキシ−2−エチル安息香酸メチル、4−ヒドロキシ−3−エチル安息香酸n−プロピル、4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル安息香酸メチルが挙げられる。
【0011】
フェノール(2)としては、式(2’)

で表わされる化合物が好ましい。
【0012】
フェノール(2)は、通常、市販されているものが用いられる。また、式(2’)で示される化合物は、日本国特許第3930669号公報に記載される方法に従って製造することもできる。
フェノール(2)の使用量は、ヒドロキシ安息香酸エステル(1)1モルに対して、通常0.6モル〜10モルの範囲であり、好ましくは、0.8モル〜3モルの範囲である。
【0013】
ヒドロキシル基を有していない溶媒としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シメン等のヒドロキシル基を有していない芳香族炭化水素溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、2−クロロトルエン、3−クロロトルエン、4−クロロトルエン等のヒドロキシル基を有していない芳香族ハロゲン化炭化水素溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のヒドロキシル基を有していないケトン溶媒、1,4−ジオキサン、アニソール等のヒドロキシル基を有していないエーテル溶媒が挙げられる。好ましくは、ヒドロキシル基を有していない芳香族ハロゲン化炭化水素溶媒およびヒドロキシル基を有していないエーテル溶媒である。その使用量は、ヒドロキシ安息香酸(1)1重量部に対して、通常1重量部〜50重量部の範囲であり、好ましくは1重量部〜20重量部の範囲である。2種類以上のヒドロキシル基を有していない溶媒を併用してもよい。
【0014】
チタン化合物としては、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシドが挙げられる。
【0015】
スズ化合物としては、ジブチルスズオキシド、ジオクチルスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、ジフェニルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジクロリド、スズジ(2−エチルヘキサノエート)、スズジクロリドが挙げられる。
【0016】
チタン化合物及びスズ化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物の使用量は、ヒドロキシ安息香酸エステル(1)1モルに対して、通常0.001モル〜0.30モルの範囲である。
【0017】
ヒドロキシ安息香酸エステル(1)とフェノール(2)との反応は、常圧条件下でおこなってもよいし、加圧条件下でおこなってもよいし、減圧条件下でおこなってもよい。また、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で反応をおこなってもよい。
反応温度は、通常60℃〜250℃の範囲であり、好ましくは80℃〜200℃の範囲である。
反応時間は、チタン化合物及び/又はスズ化合物の使用量や反応温度等によっても異なるが、通常0.5時間〜72時間の範囲である。
反応の進行に伴って、アルコールが生成するが、生成するアルコールを反応系外へ除去しながら、当該反応を行うことが好ましい。生成するアルコールを反応系外へ除去する方法としては、生成するアルコールを留去する方法、モレキュラーシブス等の脱アルコール剤を用いる方法が挙げられる。
【0018】
反応終了後、例えば、反応混合物を濾過することにより、ジヒドロキシ化合物(3)を含む固体を得ることができる。得られたジヒドロキシ化合物(3)は、必要に応じて、溶媒での洗浄や再結晶等の通常の精製手段により、精製することができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明について、実施例を挙げてより詳細に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。
【0020】
[実施例1]


ディーンスターク装置を取り付けた反応容器内にて、4−ヒドロキシ安息香酸メチル47.0g(純度98.0%、303mmol)、4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノール60.2g(純度96.7%、303mmol)、ジブチルスズオキシド1.88g(7.55mmol)及び4−クロロトルエン235.1gを約25℃の室温で混合した。得られた混合物を還流しながら10時間攪拌した後、室温まで冷却した。尚、反応の進行に伴って生成したアルコールはディーンスターク装置を用いて反応容器から除去した。その後、析出した固体を濾過により分離することにより、粗生成物を得た。
得られた粗生成物をメタノール235gで2回洗浄した後、60℃で減圧乾燥させて、式(3−1)で表されるジヒドロキシ化合物(以下、ジヒドロキシ化合物(3−1)と記すことがある)を含む白色結晶83.9gを得た。
得られた結晶を液体クロマトグラフィーによって分析し、得られたクロマトグラフの面積百分率を算出したところ、92.5%であった。当該結晶中のジヒドロキシ化合物(3−1)の含有量を92.5重量%と仮定すると、4−ヒドロキシ安息香酸メチルを基準とするジヒドロキシ化合物(3−1)の収率は、82%であった。
【0021】
4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールからヒドロキシ化合物への変換率は、82%であった。
【0022】
[実施例2]
ディーンスターク装置を取り付けた反応容器内にて、4−ヒドロキシ安息香酸メチル47.0g(純度98.0%、303mmol)、4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノール60.2g(純度96.7%、303mmol)、ジブチルスズオキシド1.88g(7.55mmol)及びクロロベンゼン235.2gを約25℃の室温で混合した。得られた混合物を還流しながら10時間攪拌した後、室温まで冷却した。尚、反応の進行に伴って生成したアルコールはディーンスターク装置を用いて反応容器から除去した。その後、析出する固体を濾過により分離することにより、粗生成物を得た。
得られた粗生成物をメタノール235gで2回洗浄した後、60℃で減圧乾燥させて、ジヒドロキシ化合物(3−1)を含む白色結晶76.6gを得た。
得られた結晶を液体クロマトグラフィーによって分析し、得られたクロマトグラフの面積百分率を算出したところ、94.2%であった。当該結晶中のジヒドロキシ化合物(3−1)の含有量を94.2重量%と仮定すると、4−ヒドロキシ安息香酸メチルを基準とするジヒドロキシ化合物(3−1)の収率は、76%であった。
4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールからヒドロキシ化合物への変換率は、76%であった。
【0023】
[実施例3]
ディーンスターク装置を取り付けた反応容器内にて、4−ヒドロキシ安息香酸メチル47.0g(純度98.0%、303mmol)、4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノール60.2g(純度96.7%、303mmol)、ジブチルスズオキシド1.88g(7.55mmol)及びアニソール235.0gを約25℃の室温で混合した。得られる混合物を還流しながら10時間攪拌した後、室温まで冷却した。尚、反応の進行に伴って生成したアルコールはディーンスターク装置を用いて反応容器から除去した。その後、析出する固体を濾過により分離することにより、粗生成物を得た。
得られた粗生成物をメタノール235gで2回洗浄した後、60℃で減圧乾燥させて、ジヒドロキシ化合物(3−1)を含む白色結晶83.5gを得た。
得られた結晶を液体クロマトグラフィーによって分析し、得られたクロマトグラフの面積百分率を算出したところ、94.9%であった。当該結晶中のジヒドロキシ化合物(3−1)の含有量を94.9重量%と仮定すると、4−ヒドロキシ安息香酸メチルを基準とするジヒドロキシ化合物(3−1)の収率は、84%であった。
4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールからヒドロキシ化合物への変換率は、84%であった。
【0024】
[実施例4]
実施例1〜3において、ジブチルスズオキシドをチタンテトライソプロポキシドに代えること以外は、実施例1〜3と同様に実施することにより、ジヒドロキシ化合物(3−1)が得られる。
【0025】
[参考比較例1]
ディーンスターク装置を取り付けた反応容器内にて、4−ヒドロキシ安息香酸メチル2.53g(純度98.0%、16.3mmol)、4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノール3.13g(純度96.7%、15.7mmol)、ジブチルスズオキシド0.087g(0.349mmol)及び2−メチル−2−プロパノール37.5gを約25℃の室温で混合した。得られた混合物を還流しながら3時間攪拌した。
その後、得られた反応物を液体クロマトグラフィーによって分析し、得られたクロマトグラフの面積百分率を算出したところ、ジヒドロキシ化合物(3−1)の面積百分率は0%であり、その生成は認められなかった。
【0026】
[実施例5]
ディーンスターク装置を取り付けた反応容器内にて、4−ヒドロキシ安息香酸メチル40.0g(純度98.0%、258mmol)、4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノール52.0g(純度95.2%、258mmol)、ジブチルスズオキシド1.60g(6.44mmol)及びo−ジクロロベンゼン200.0gを混合し、還流しながら20時間攪拌した。尚、反応の進行に伴って生成したアルコールはディーンスターク装置を用いて反応容器から除去した。その後、室温まで冷却してメタノール40.0gを加え、析出する固体を濾過により分離することにより、粗生成物を得た。
得られた粗生成物をメタノール160.0gおよび2−プロパノール160.0で洗浄した後、60℃で減圧乾燥させて、ジヒドロキシ化合物(3−1)を含む白色結晶72.5gを得た。
得られた結晶を液体クロマトグラフィーによって分析し、得られたクロマトグラフの面積百分率を算出したところ、98.0%であった。当該結晶中のジヒドロキシ化合物(3−1)の含有量を98.0重量%と仮定すると、4−ヒドロキシ安息香酸メチルを基準とするジヒドロキシ化合物(3−1)の収率は、88%であった。
【0027】
4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールからヒドロキシ化合物への変換率は、88%であった。
【0028】
[実施例6]
ディーンスターク装置を取り付けた反応容器内にて、4−ヒドロキシ安息香酸メチル40.0g(純度98.0%、258mmol)、4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノール52.0g(純度95.2%、258mmol)、ジブチルスズオキシド1.60g(6.44mmol)及び2−クロロトルエン200.0gを混合し、還流しながら12時間攪拌した。尚、反応の進行に伴って生成したアルコールはディーンスターク装置を用いて反応容器から除去した。その後、室温まで冷却してメタノール40.0gを加え、析出する固体を濾過により分離することにより、粗生成物を得た。
得られた粗生成物をメタノール120.0gおよび2−プロパノール120.0で洗浄した後、60℃で減圧乾燥させて、ジヒドロキシ化合物(3−1)を含む白色結晶75.0gを得た。
得られた結晶を液体クロマトグラフィーによって分析し、得られたクロマトグラフの面積百分率を算出したところ、96.3%であった。当該結晶中のジヒドロキシ化合物(3−1)の含有量を96.3重量%と仮定すると、4−ヒドロキシ安息香酸メチルを基準とするジヒドロキシ化合物(3−1)の収率は、90%であった。
【0029】
4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールからヒドロキシ化合物への変換率は、90%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン化合物及びスズ化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物の存在下、式(1)

(式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表わし、Zは炭素数1〜5のアルキル基を表わす。)
で表わされるヒドロキシ安息香酸エステルと、式(2)

で表わされる4−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フェノールとを、ヒドロキシル基を有していない溶媒中で反応させる、式(3)

(式中、R、R、R及びRは、上記と同じ意味を表わす。)
で表わされるジヒドロキシ化合物の製造方法。
【請求項2】
ヒドロキシル基を有していない溶媒が、ヒドロキシル基を有していない芳香族ハロゲン化炭化水素溶媒及びヒドロキシル基を有していないエーテル溶媒からなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
反応が、スズ化合物の存在下で行われる請求項1又は2記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−60425(P2013−60425A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−180784(P2012−180784)
【出願日】平成24年8月17日(2012.8.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】