説明

ジヒドロキノキサリン誘導体の製造方法及びジヒドロキノキサリン誘導体

【課題】多工程を要さず、環境への負荷が少ないジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体の製造方法の提供、新規なジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体の提供および癌治療薬の提供。
【解決手段】2-ハロアニリン誘導体等の、隣接してハロゲンとアミノ基を置換基に有する(複素環)芳香族化合物と、α-アミノ酸誘導体とからワンポットの環化反応によってジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体を製造する方法。好ましくは銅触媒、塩基及び非プロトン性極性溶媒を用いる。新規なジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体。この誘導体は光学活性体であり得る。ジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体を有効成分とする癌治療薬。特に、ヒト子宮頸癌の治療に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジヒドロキノキサリン誘導体の新規な製造方法、新規なジヒドロキノキサリン誘導体およびジヒドロキノキサリン誘導体を有効成分とする癌治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ジヒドロキノキサリン誘導体は、薬理学上重要な含窒素複素環化合物の一つであり、その誘導体には医薬品候補化合物となるものが多い。抗アレルギー剤、抗炎症剤などの医薬品候補化合物となるものが多い。例えば、キノキサリン化合物Aはノルエピネフリンの再吸収阻害活性を示し、中枢神経系障害の予防及び治療薬として報告されており(Shelkun, R. M.ら、国際特許出願WO2006/016278号公報)、またキノキサリン化合物Bは血管新生や脈管形成に関与するVEGF(vascular endothelial growth factor)の阻害活性を有し、抗がん剤としての作用が報告されている(小瀬木ら、特開2007-099641号公報)。
【0003】
【化1】

【0004】
キノキサリンは1のような構造を持つ二環性複素環化合物であり、その誘導体には有用な薬理活性を持つものが多く存在している。キノキサリン化合物Cはグルタメート受容体の拮抗作用を示すことが報告されている(坂本ら、特開平7-165756号公報)。それ以外にも、例えば、抗がん剤2(Lakshmi, M. V.; Hsu, F. F.; Schut, A. J.; Zenser, V. T. Chem. Res. Toxicol., 2006, 19, 325-333.)や、中枢神経疾患治療薬3(Catarzi, D.; Colotta, V.; Varano, F.; Calabri, R. F.; Filacchioni, G.; Galli, A.; Costagli, C.; Carla, V. J. Med. Chem., 2004, 47, 262-272.)などが知られている。
【0005】
【化2】

【0006】
キノキサリン誘導体の合成法として、従来から金属触媒を用いた反応が知られている。例えば、Maらは2-ヨードトリフルオロアセトアニリドとピロール酸メチルからL-プロリンを配位子とし、ヨウ化第銅を触媒に用いるC-Nカップリング反応と加水分解のドミノ型反応によってキノキサリン誘導体を合成している (反応式(1))(Yuan, Q.; Ma, D. J. Org. Chem., 2008, 73, 5159-5162)。
【0007】
【化3】

【0008】
またZhaoらは、ヨウ化第一銅を触媒に用い、α-アミノ酸とo-ニトロヨードベンゼンのC-Nカップリングを行い、続いて、塩化スズ(II)によって還元反応を行うことで、キノキサリン誘導体を得ている (反応式(2))(Jiang, Q.; Jiang, D.; Jiang, Y.; Fu, H.; Zhao, Y. Synlett, 2007, 12, 1836-1842)。
【0009】
【化4】

【0010】
またTamarizらは、3-ニトロベンゼンアミンと2-メチルプロパンアルデヒドを出発物質にエナミンに導いた後、パラジウム触媒を用いたC-Nカップリングによってキノキサリン誘導体を得ている(反応式(3))(Soderberg C. G. B.; Wallace, M. J.; Tamariz, J. Org. Lett., 2002, 4, 1339-1342)。
【0011】
【化5】

【0012】
これらの従来のキノキサリン誘導体の合成法は、例えば、多工程を要する、毒性のある反応剤を用いるなど環境への負荷が大きい、あるいは出発物質が高価または入手が困難であるなどの問題点を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際特許出願WO2006/016278号公報
【特許文献2】特開2007-099641号公報
【特許文献3】特開平7-165756号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Lakshmi, M. V.; Hsu, F. F.; Schut, A. J.; Zenser, V. T. Chem. Res. Toxicol., 2006, 19, 325-333。
【非特許文献2】Catarzi, D.; Colotta, V.; Varano, F.; Calabri, R. F.; Filacchioni, G.; Galli, A.; Costagli, C.; Carla, V. J. Med. Chem., 2004, 47, 262-272。
【非特許文献3】Yuan, Q.; Ma, D. J. Org. Chem., 2008, 73, 5159-5162.
【非特許文献4】Jiang, Q.; Jiang, D.; Jiang, Y.; Fu, H.; Zhao, Y. Synlett, 2007, 12, 1836-1842。
【非特許文献5】Soderberg C. G. B.; Wallace, M. J.; Tamariz, J. Org. Lett., 2002, 4, 1339-1342。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、多工程を要せず、環境への負荷が少なく、および出発原料が安価で入手容易なキノキサリン誘導体の合成法を提供し、ならびに新規なジヒドロキノキサリン誘導体を提供するものである。また、本発明は、ジヒドロキノキサリン誘導体を有効成分とする新規な癌治療薬を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち、本発明は、一般式(I):
【0017】
【化6】

【0018】
[式中、Xは臭素、ヨウ素または塩素原子であり、Y1〜Y4は同一または異なって、炭素原子または窒素原子であり(ただし、Y1〜Y4の少なくとも2つは炭素原子である。)、
R1は水素原子、非置換または置換アルキル基、アルキルカルボニル基、ハロアルキルカルボニル基、ヨウ素、臭素以外のハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基またはニトロ基であり、
Rは水素原子、または非置換または置換アルキル基、アシル基、スルホニル基であり、
nは1〜4の整数である。]
で表される芳香族化合物と、一般式(II):
【0019】
【化7】

【0020】
[式中、R3は水素原子、または非置換もしくは置換アルキル基であり、
R4は水素原子、または非置換または置換アルキル基またはシクロアルキル基であり、
R3とR4とは一体となって環を形成してもよい。]
で表されるα‐アミノ酸誘導体を反応させる工程を含んで成る、
一般式(III):
【0021】
【化8】

【0022】
[式中、Y1〜Y4、R1〜R4およびnは、上記と同意義である。]
で表されるジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体の製造方法に関するものである。
ここで、R1および/またはRが置換アルキル基のときの置換基は、アリール基または窒素複素環である。
【0023】
本発明は、一般式(IV):
【0024】
【化9】

【0025】
[式中、R12は非置換または置換アルキル基であり、
R13〜R16は同一または異なって、水素原子、非置換または置換アルキル基、シクロアルキル基、アルキルカルボニル基、ハロアルキルカルボニル基、ヨウ素、臭素以外のハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基またはニトロ基である。]
で表されるジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体に関するものである。
ここでR12が置換アルキル基のときの置換基は、アリール基、ヒドロキシ置換アリール基、アルコキシ置換アリール基、窒素脂環式基または窒素複素環であり、R13〜R16が置換アルキル基のときの置換基はアリール基または窒素複素環である。
【0026】
本発明は、一般式(III)で表わされるジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体を有効成分とする新規な癌治療薬に関するものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、多工程を要せず及び環境への負荷が少ないジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体の合成法を提供し、および新規なジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体(III)を提供するものである。また、本発明は、ジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体(III)を有効成分とする新規な癌治療薬を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の光学活性なジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体である(2S, 3S)-3-sec-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン [A-1c]および(2S, 3R)-3-sec-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン [A-1a]のジアステレオマー混合物の1H-NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、芳香族化合物(I)とα‐アミノ酸誘導体(II)を反応させる工程を含んで成る、ジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体(III)の製造方法に関するものである。
ここで、R1および/またはRが置換アルキル基のときの置換基は、アリール基または窒素複素環である。
【0030】
以下、一般式(I)〜(III)中のY1〜Y4、R1〜R4およびnについて、生成物であるジヒドロキノキサリン-2‐オン誘導体(III)を用いて具体的に説明する。
【0031】
【化10】

【0032】
Y1〜Y4は同一または異なって、炭素原子または窒素原子である。ただし、Y1〜Y4の少なくとも2つは炭素原子である。式(III)中の縮合複素環の例を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
即ち、芳香族化合物原料である一般式(I)で表される化合物の芳香環の例としては、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環が挙げられる。
式(III)中の縮合複素環としては、例えば、ジヒドロキノキサリン環、ピリド[2,3-b]ジヒドロピラジン環、ピリド[3,4-b]ジヒドロピラジン環、ピラジノ[2,3-b]ジヒドロピラジン環、ピラジノ[2,3-b]ジヒドロピラジン環、ピリミジノ[4,5-b]ジヒドロピラジン環、ピリダジノ[3,4-b]ジヒドロピラジン環、ピリダジノ[4,5-b]ジヒドロピラジン環等が挙げられる。
【0035】
R1は水素原子、非置換または置換アルキル基、アルキルカルボニル基、ハロアルキルカルボニル基、臭素以外のハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基、またはニトロ基である。
アルキル基としては炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の、直鎖または分岐のアルキル基が挙げられる。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ペンチル基、オクチル基、ノニル基、2‐エチルヘキシル基等が挙げられる。
置換アルキル基としては、アリール基または窒素複素環で置換された炭素数1〜10のアルキル基であり、例えば炭素数6〜18のアリール基またはピロール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、インドール環、カルバゾール環等の窒素複素環で置換された炭素数1〜10のアルキル基、より具体的には、ベンジル基、2‐フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、3‐メチル‐4‐フェニルブチル基、2‐エチル‐6‐フェニルヘキシル基、3‐ピリジルプロピル基、3‐インドリルプロピル基等が挙げられる。
アルキルカルボニル基のアルキル基としては、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の、直鎖または分岐のアルキル基が挙げられる。アルキルカルボニル基の例として、アセチル基、プロパノイル基、オクタノイル基、7‐メチルオクタノイル基等が挙げられる。
ハロアルキルカルボニル基のハロゲン原子としてはフッ素または塩素が挙げられ、アルキル基としては、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の、直鎖または分岐のアルキル基が挙げられる。ハロアルキルカルボニル基の例としては、トリフルオロアセチル基、パーフルオロエチルカルボニル基、6‐トリフルオロメチルオクタノイル基、トリクロロアセチル基、パークロロエチルカルボニル基、6‐トリクロロメチルオクタノイル基等が挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素が挙げられる。
アルコキシ基としては、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の、直鎖または分岐のアルコキシ基が挙げられる。例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、オクチルオキシ基等が挙げられる。
ハロアルコキシ基としては、フッ素または塩素で置換された炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の、直鎖または分岐のアルコキシ基が挙げられる。例としては、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、ヘキサフルオロイソプロポキシ基、2-ペンタフルオロエチルヘキシルオキシ基、トリクロロメトキシ基、ペンタクロロエトキシ基、ヘキサクロロイソプロポキシ基、2-ペンタクロロエチルヘキシルオキシ基等が挙げられる。
アリールオキシ基のアリール基としては、炭素数6〜25のアリール基、好ましくは炭素数6〜15のアリール基、より好ましくは炭素数6〜12のアリール基が挙げられる。アリールオキシ基の例としては、フェニルオキシ基、4‐メチルフェニルオキシ基、4-オクチルフェニルオキシ基、2-メチルフェニルオキシ基、4‐メトキシフェニルオキシ基、ナフチル基等が挙げられる。
【0036】
nは2〜4の整数である。Y1〜Y4の内、炭素原子は2個以上含むことが必要であるから、置換数nは2〜4の整数となる。
【0037】
R〜R4は水素原子、または非置換または置換アルキル基であり、置換アルキル基のときの置換基は、アリール基または窒素複素環である。非置換または置換アルキル基としては、上記のR1と同様な例が挙げられる。R3とR4とは一体となって環を形成してもよく、例えば、ピロリジン環またはピペリジン環等を形成してよい。例示するならば、1,2,3,3a-テトラヒドロ-5H-ピロロ[1,2-a]キノキサリン-4-オン誘導体(IIIb)、1,2,3,3a-テトラヒドロ-5H-ピロロ[1,2-a]-6-アザキノキサリン-4-オン誘導体(IIIb-6N)、1,2,3,3a-テトラヒドロ-5H-ピロロ[1,2-a]-9-アザキノキサリン-4-オン誘導体(IIIb-9N)、7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン誘導体(IIIc)、7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]-4-アザキノキサリン-6-オン誘導体(IIIc-4N)、7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]-1-アザキノキサリン-6-オン誘導体(IIIc-1N)等が挙げられる。
【0038】
【化11】

【0039】
本発明は、新規なジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体(IV)に関するものである。
【0040】
【化12】

【0041】
式中、R12は非置換または置換アルキル基であり、置換基はアリール基、ヒドロキシ置換アリール基、アルコキシ置換アリール基、窒素脂環式基または窒素複素環である。
アルキル基としては、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の、直鎖または分岐の非置換または置換アルキル基が挙げられる。置換アルキル基としては、例えばベンジル基、p-ヒドロキシベンジル基、3,4-ジヒドロキシベンジル基、3-インドリル基等が挙げられる。
R13〜R16は同一または異なって、水素原子、非置換または置換アルキル基、アルキルカルボニル基、ハロアルキルカルボニル基、ヨウ素、臭素以外のハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基またはニトロ基であり、前記のR1と同様な例が挙げられる。
【0042】
次に、本発明のジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体の製造方法をさらに詳しく説明する。
本発明方法で使用する好ましい反応原料は次のとおりである。
芳香族化合物(I)は、好ましくは一般式(Ia):
【0043】
【化13】

【0044】
[式中、X, R1, R2 およびnは上記と同意義である。]
で表される2‐ハロアニリン誘導体であってよい。
【0045】
もう一方の原料であるα-アミノ酸誘導体(II)の例は、グリシン、アラニン、セリン、スレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン等のアミノ基が複素環の一部を構成していないアミノ酸に加えて、アミノ基が複素環の一部を構成しているアミノ酸(IIa):
【0046】
【化14】

【0047】
[式中、R5〜R7は同一または異なって、水素原子、非置換または置換アルキル基またはカルボニル基であり、それらの隣接する2つは環を形成してもよい。]で表されるプロリン誘導体、および(IIb):
【0048】
【化15】

【0049】
[式中、R8〜R11は同一または異なって、水素原子、非置換または置換アルキル基、またはカルボニル基であり、それらの隣接する2つは環を形成してもよい。]、で表されるピペコリン酸誘導体、を含んでいる。
【0050】
R5〜R11は同一または異なって、水素原子、非置換または置換アルキル基またはカルボニル基であり、例えば、R5〜R11の非置換または置換アルキル基としては、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の、直鎖または分岐のアルキル基が挙げられる。置換アルキル基としては、アリール基または窒素複素環で置換された炭素数1〜10のアルキル基が挙げられる。
カルボニル基としては、例えばアルキルカルボニル基として、アセチル基、プロパノイル基、オクタノイル基、7‐メチルオクタノイル基等が挙げられる。また、ハロアルキルカルボニル基としては、トリフルオロアセチル基、パーフルオロエチルカルボニル基、6‐トリフルオロメチルオクタノイル基等が挙げられる。
R5〜R内の、およびR8〜R11内の、それぞれ隣接する2つは環を形成してもよい。
【0051】
以上の原料の内、好ましい反応の組合せとして、例えば2‐ブロモアニリン誘導体(Ia)とα-アミノ酸誘導体(II)を反応させることにより得られる生成物は、一般式(IIIa):
【0052】
【化16】

【0053】
[式中、R1〜R4およびnは上記と同義である。]、
で表されるジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体であり、α-アミノ酸誘導体が(IIa)または(IIb)の場合には、得られる生成物はそれぞれ、一般式(IIIb):
【0054】
【化17】

【0055】
[式中、R1, R5〜R7、およびnは上記と同義である。]
で表されるテトラヒドロピロロ[1,2-a]キノキサリン-4-オン誘導体、または一般式(IIIc):
【0056】
【化18】

【0057】
[式中、R1, R8〜R11、およびnは上記と同義である]
で表されるペンタヒドロピリド[1,2-a]キノキサリン-5-オン誘導体である。
【0058】
本発明は、一方の原料である一般式(II)、(IIa)および(IIb)で表されるα-アミノ酸誘導体を光学活性体とすることにより、生成物のジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体を光学活性体として製造する方法に関するものである。光学活性α‐アミノ酸誘導体は天然の光学活性L‐アミノ酸から容易に誘導することができるため、安価に入手できる。得られる生成物の光学純度は、反応中のラセミ化の程度により左右される。ラセミ化の程度が低ければ高い光学活性を有する生成物が得られ、ラセミ化の程度が高ければ、得られる生成物の光学活性度は低くなる。ラセミ化の程度は、用いる塩基の強さ、反応温度または反応時間等によって変化し得ることから、当業者ならば所望の光学活性体を製造するための反応条件を適宜設定することができる。
【0059】
本発明の製造方法では、芳香族化合物(I)とα‐アミノ酸誘導体(II)との使用モル比は特に制限はないが、通常(I)と(II)のモル比は、1:10〜10:1、好ましくは1:3〜3:1、特に好ましくは1:2〜2:1である。実施例中の生成物の収率は、用いた芳香族化合物基準での生成物ジヒドロキノキサリン誘導体のモル収率で表わす。
【0060】
本発明の製造方法では、反応工程で触媒を使用してよく、好ましくは銅触媒を用いる。さらに好ましくは、銅触媒はCuCl、CuBrおよびCuIから選ばれた少なくとも1種のハロゲン化第一銅である。このうち、CuClが特に好ましい。
触媒に対する配位子としてBINOL(1,1’-ビナフトール)などの二座配位子を用いてもよい。
触媒の使用量は、原料の一般式(I)で表わされる芳香族化合物1モルに対して、0.001〜0.5モル、好ましくは0.03〜0.50モル、特に好ましくは0.05〜0.20モルである。反応速度は触媒の使用量に依存するが、触媒量が前記範囲を越えて多すぎると使用量に見合った効果が得られず経済的ではなく、一方、触媒量が前記範囲を大きく下回ると、十分な反応速度が得られずに所望の生成物を得ることが難しくなる。
【0061】
本発明の他の実施態様において、触媒に対する配位子としてDMEDA(N,N’-ジメチルエチレンジアミン)、TMEDA(N,N’-テトラメチルエチレンジアミン)、EDA(エチレンジアミン)などの二座配位子を用いてもよい。これらの配位子の内、特にDMEDAが好ましい。
【0062】
本発明の更なる実施態様において、触媒の使用量は、原料の一般式(I)で表わされる芳香族化合物1モルに対して、0.001〜0.5モル、好ましくは0.003〜0.30モル、更に好ましくは0.005〜0.20モルであってよい。反応速度は触媒の使用量に依存するが、反応温度、反応原料濃度、反応溶媒の種類等の因子にも当然に依存し得る。従って、触媒使用量の前記範囲は、反応温度、反応原料濃度、反応溶媒の種類等の因子に依存して変化し得る。
反応収率は反応速度や反応時間に依存するが、反応選択率(反応した原料の内、目的生成物へ添加した割合)にも依存する。反応選択率は触媒の種類、使用量に依存する他、反応温度、反応原料濃度、反応溶媒の種類等の因子にも依存して変化し得る。本発明に係る銅塩触媒は優れた反応選択率を示す。
【0063】
本発明の製造方法は、理論に束縛されるものではないが、次の反応式で表わすことができる。
【0064】
【化19】

【0065】
すなわち、本発明は脱HX反応および脱水反応を伴った環化反応である。従って、本発明では、反応工程で脱離するHXを、塩基を使用して中和することにより、反応全体を促進することができる。
ここで用いる塩基は、好ましくは無機塩基であり、より好ましくはリン酸塩または炭酸塩であり、特に好ましくはリン酸塩である。炭酸塩としては、炭酸セシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムから選ばれた少なくとも1種が好ましく、リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸ルビジウム、およびリン酸セシウムから選ばれた少なくとも1種が好ましい。特に、リン酸カリウムが塩基として本製造方法に適している。
塩基の使用量は、脱離するHXを中和する当量以上必要とする。前記式(V)によれば、脱離するHXの量の最大量は、反応原料である芳香族化合物およびα‐アミノ酸誘導体の内、少ない方の原料量に等しく、例えば、芳香族化合物の使用モル量の方が、α‐アミノ酸誘導体の使用量より少ないときには、芳香族化合物のモル量と当モル以上の塩基を用いることが好ましく、より好ましくは芳香族化合物の1〜3 倍モル程度用いる。塩基の使用量がこの範囲を大きく上回る場合には、例えば光学活性体を得ようとする場合、もう一方の原料であるα‐アミノ酸のラセミ化を引き起こす等、好ましくない結果を来す場合がある。
【0066】
本発明の製造方法では、反応工程で非プロトン性極性有機溶媒を使用するのが好ましい。非プロトン性極性有機溶媒は、特に限定するものではないが、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドおよびジメチルホルムアミドから選ばれた少なくとも1種である。
非プロトン性極性有機溶媒は、特に原料のα‐アミノ酸誘導体を溶解するのに適しており、反応が均一系で効率よく進行するのを促進する。非プロトン性極性有機溶媒の使用量は、所定の反応温度において全ての原料を均一に溶解する程度以上の量で用いることが好ましく、通常、出発原料の芳香族化合物およびα‐アミノ酸の合計100重量部に対して2000〜3000重量部、好ましくは2500〜3000重量部、より好ましくは1000〜3000重量部の範囲である。
【0067】
本発明の製造方法は、反応容器中に非プロトン性極性有機溶媒を仕込み、攪拌下、反応基質(芳香族化合物およびα‐アミノ酸誘導体)を添加して攪拌混合する。次いで反応容器を窒素等の不活性ガスで置換して、塩基および銅触媒を添加して、攪拌しつつ反応を継続する。ここで、溶媒、反応基質、塩基および触媒の添加順序に特に制限はない。反応温度は通常25℃〜250℃、好ましくは50℃〜200℃、特に好ましくは100℃〜180℃である。
反応時間は、通常15分〜24 時間、好ましくは30分〜12時間であり、反応の終了を薄層クロマトグラフ(TLC)、ガスクロマトグラフ(GC)または液体クロマトグラフ(LC)等で確認した後に、蒸留水または酸性水を反応容器に注入して反応を停止する。反応混合物を酢酸エチル、クロロホルム等の有機溶媒で抽出し、有機溶媒層を蒸留水、飽和塩化アンモニウム水等で洗浄し、無水硫酸ナトリウム等で乾燥する。乾燥剤をろ過し、溶媒を溜去して、粗生成物を得る。
【0068】
得られた粗反応物を蒸留、再結晶、カラムクロマト等の常法により精製して、精製された生成物であるジヒドロキノキサリン‐2‐オン誘導体を得る。
得られたジヒドロキノキサリン‐2‐オン誘導体を、H-NMR、13C-NMR、MS、FAB-MASS、旋光計等によって分析して、化学組成および化学構造を決定することができる。
ジヒドロキノキサリン‐2‐オン誘導体が光学活性体の場合の光学純度は、旋光計、H-NMR、13C-NMR、キラルカラムを用いたHPLC(高速液体クロマトグラフ)等によって決定することができる。
【0069】
本発明の新規ジヒドロキノキサリン‐2‐オン誘導体(IV)について詳細に説明する。
本発明に係る新規な化合物であるジヒドロキノキサリン‐2‐オン誘導体は、一般式(IV):
【0070】
【化20】

【0071】
[式中、R12は非置換または置換アルキル基であり、
R13〜R16は同一または異なって、水素原子、非置換または置換アルキル基、アルキルカルボニル基、ハロアルキルカルボニル基、臭素以外のハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基またはニトロ基である。]
で表されるジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体である。
【0072】
一般式(IV)で表わされるジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体の例としては、
【0073】
【化21】

【0074】
3-(4-ヒドロキシベンジル)-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン (A-3)、3-(3,4-ジヒドロキシベンジル)-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン (A-4)、
【0075】
【化22】

【0076】
3-sec-ブチル-7-トリフルオロメトキシ-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン (A-5)、3-sec-ブチル-6-メチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン (A-6)、
【0077】
【化23】

【0078】
または3-sec-ブチル-2-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロキノキサリン-6-カルボニトリル (A-7)
【0079】
【化24】

である、ジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体が挙げられる。
【0080】
次に、本発明の光学活性ジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体に関して詳細に説明する。
即ち、一般式(IV)のジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体における置換基R12の結合している3位の炭素原子は不斉炭素であり、光学活性なジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体となり得て、3位の炭素原子に関して3Rまたは3Sの配置を有する光学活性ジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体を得る。例えばR12がt-ブチル基の場合には、光学活性な3R体:(3R)-ジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体(IVa)または3S体:(3S)-ジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体(IVb)を得る。
【0081】
【化25】

【0082】
また、下記に示される3R体としての(3R)-3-tert-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(A-2a)、(3R)-3-p-ヒドロキシベンジル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(A-3a)、および(3R)-3-3,4-ジヒドロキシベンジル-3,4--ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(A-4a)、ならびに3S体としての(3S)-3-tert-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(A-2b)、(3S)-3-p-ヒドロキシベンジル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(A-3b)、および(3S)-3-3,4-ジヒドロキシベンジル-3,4--ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(A-4b)等で表される光学活性なジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体が本発明に含まれる。
【0083】
【化26】

【0084】
【化27】

【0085】
【化28】

【0086】
特にジヒドロキノキサリン-2‐オンの3位の置換基自体に不斉炭素が含まれる場合、例えば、A-1、A5〜A7のように3位に光学活性sec-ブチル基が置換している場合には、各不斉炭素について2つのR/Sの組合せとして、ジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体には計4つの光学活性体(A-1a、A-1b、A-1c、A-1d)が存在し得る。これをA-1について示せば、以下のとおりである。(2S, 3R)-3-Sec-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(A-1a)、(2R, 3S)-3-Sec-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(A-1b)、(2S, 3S)-3-Sec-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(A-1c)、(2R, 3R)-3-Sec-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(A-1d)。
【0087】
【化29】

【0088】
【化30】

【0089】
これらの内、A-1aとA-1b、およびA-1cとA-1dはそれぞれエナンショマー(鏡像体)の関係にあり、一方、例えばA-1aとA-1cおよびA-1dとはそれぞれジアステレオマーの関係にある。
【0090】
上記の光学活性なジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体は、ラセミ体から常法に基づく光学分割法によって製造することができる。または、既に説明したように、本発明の製造方法に従って、一般式(I)で示される芳香族化合物と光学活性なα−アミノ酸とから製造することもできる。
【0091】
次に、一般式(III)で表されるジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体を有効成分とする癌治療剤について説明する。
本発明で得られるジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体は、ヒト癌細胞の増殖抑制効果を示すことが見出された。本発明で得られるジヒドロキノキサリン誘導体は、特に、ヒト子宮頸部癌細胞HeLa.S3細胞株に対する細胞増殖抑制試験において優れた抑制効果を示す。例示すれば、以下のジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体が優れた癌細胞増殖抑制効果を示す(かっこ内は化合物番号を示す。):
3-iso-プロピル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(32)、
3-sec-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(4)、
3,3-ジメチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(6)、
3-sec-ブチル-6-シアノ-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(23)、
3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(14)、
3-(4-ヒドロキシベンジル)-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(8)、
3-(3,4-ジヒドロキシベンジル)-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(9)、
2-クロロ-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(20)、
2-メチル-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(24)、
2-シアノ-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(27)、
3-トリフルオロメトキシ-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(25)、
3-ニトロ-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(28)、
4-ヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン-3-スピロシクロヘキサン(33)、
7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]-4-アザキノキサリン-6-オン(34)、
1,2,3,3a-テトラヒドロ-5H-ピロロ[1,2-a]キノキサリン-4-オン(11)、
8-トリフルオロメトキシ-1,2,3,3a-テトラヒドロ-5H-ピロロ[1,2-a]キノキサリン-4-オン(35)。
【0092】
上記化合物の内、
3-iso-プロピル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(32)、
3-sec-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(4)、
2-クロロ-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(20)、
2-メチル-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(24)、
2-シアノ-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(27)、
1,2,3,3a-テトラヒドロ-5H-ピロロ[1,2-a]キノキサリン-4-オン(11)および
8-トリフルオロメトキシ-1,2,3,3a-テトラヒドロ-5H-ピロロ[1,2-a]キノキサリン-4-オン(35)が、特に優れた癌細胞抑制効果を示す。
【0093】
本試験方法が一般に、ヒト癌細胞に対する細胞増殖抑制効果のジェネラルスクリーニング試験として用いられることを勘案すると、本発明で得られるジヒドロキノキサリン誘導体は、ヒト癌細胞一般に対して増殖抑制効果を有し得ることを示す。
【実施例】
【0094】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
3-sec-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン (4)の合成:
【0095】
【化31】

【0096】
20 mlのナス型フラスコに2-ブロモアニリン(0.20 g, 1.16 mmol)、L-イソロイシン(0.31 g, 2.32mmol)、CuCl(11.5 mg, 0.12 mmol)、K3PO4(0.49 g, 2.32 mmol)、乾燥 DMSO (5 ml)を加え、窒素気流下、120 ℃で12時間反応させた。TLCにより反応の終了を確認した後、蒸留水を加え、反応を停止させた。次いで、反応混合液を酢酸エチルで抽出し、有機層を蒸留水、飽和塩化アンモニウムで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾過し、溶媒を留去して、黄色の液体を得た。これをシリカゲルカラム(ヘキサン:AcOEt=5:1)により精製して乾燥させると黄色の油状物質としてキノキサリン誘導体 4を0.20 g(0.99 mmol)得た。2‐ブロモアニリンのモル基準の収率は 85 %であった。
【0097】
実施例2〜13
実施例1におけるL-イソロイシン2.32mmolに代えて、表2〜5に示すα‐アミノ酸誘導体2.32mmol用いる他は、実施例1と同様に実験を行った。得られた結果を表2〜5に示す。
【0098】
【表2】

【0099】
【表3】

【0100】
【表4】

【0101】
【表5】

【0102】
実施例1〜13で得られた生成物の融点、旋光度、1H-NMR、13C-NMR、IR、およびFAB-MSの分析データを表6〜11に示す。
【0103】
【表6】

【0104】
【表7】

【0105】
【表8】

【0106】
【表9】

【0107】
【表10】

【0108】
【表11】

【0109】
実施例で得られた3-sec-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン (4)に関して、その光学純度を、図1に示した1H-NMRチャートから以下の様に決定した。
即ち、原料に用いたL-イソロイシンは、(2S, 3S)-L-(+)の絶対配置を持ち、2つの不斉炭素原子を有する。そこで、もし反応過程でL-イソロイシンのα位のエピ化が起こっているとすれば、生成物の3-sec-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン (4)は、ジアステレオマー混合物となる。
【0110】
【化32】

【0111】
図1のチャートには、δ0.89 ppmとδ0.97 ppmにメチル基のジアステレオマー対と考えられるトリプレットピークが現われ、その積分比から光学純度は63%と決定された。
【0112】
実施例14〜20
3-sec-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン (4)の合成における触媒、溶媒、反応温度および反応時間影響:
【0113】
【化33】

【0114】
実施例1に準じて、20 mlのナス型フラスコに2-ハロアニリン(1.16 mmol)、L-イソロイシン(0.31 g, 2.32mmol)、表9に示すハロゲン化第一銅(CuX: 0.12 mmol (10 mol% 2‐ブロモアニリン))、K3PO4(0.49 g, 2.32 mmol)、非プロトン性極性溶媒 (5 ml)を加え、窒素気流下、表9に示す温度・時間で反応させた。TLCにより反応の終了を確認した後、蒸留水を加え、反応を停止させた。次いで、反応混合液を酢酸エチルで抽出し、有機層を蒸留水、飽和塩化アンモニウムで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾過し、溶媒を留去して、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)により精製して乾燥させ3-sec-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン (4)を得た。得られた結果を、実施例1の結果を併せて表12に示す。
【0115】
【表12】

【0116】
実施例21〜24
【0117】
【化34】

【0118】
20 mlのナス型フラスコに表10に示す2-ブロモアニリン誘導体(1.16 mmol)、L-イソロイシン(0.31 g, 2.32mmol)、CuCl(11.5 mg:0.12 mmol (10 mol% vs. 2-ブロモアニリン誘導体)、K3PO4(0.49 g, 2.32 mmol)、乾燥DMSO (5 ml)を加え、窒素気流下、120 ℃で12時間反応させた。TLCにより反応の終了を確認した後、蒸留水を加え、反応を停止させた。次いで、実施例1と同様に処理して、精製ジヒドロキノキサリン誘導体を得た。結果を表11に示す。収率は2‐ブロモアニリン誘導体のモル基準で表示した。得られた生成物の分析値を表13〜15に示した。
【0119】
【表13】

【0120】
【表14】

【0121】
【表15】

【0122】
実施例25〜29
2-ハロアニリンに対し、2当量のピコリン酸を、10モル%のヨウ化第1銅(CuI)または臭化第1銅(CuBr)ならびに2当量の塩基(炭酸セシウム(Cs2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3))の存在下、溶媒中で120〜175℃、30分〜15時間反応をさせ、三環性の7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(12)を合成した。結果を表16に示す。
【0123】
【化35】

【0124】
【表16】

a) 2-ハロアニリンに対するmol収率
【0125】
実施例30〜41
2-ハロアニリン誘導体または2-ブロモ-3-アミノピリジンに対し、2当量のピコリン酸またはベンズ[4,5]ピコリン酸を、10モル%のヨウ化第1銅(CuI)ならびに2当量の炭酸セシウム(Cs2CO3)の存在下、DMSO中で125℃、5時間反応をさせ、三環性のキノキサリン-2-オンの誘導体を合成した。結果を表17に示す。
【0126】
【表17】

【0127】
得られた生成物の化学式を下記に示す。
【0128】
【化36】

【0129】
【化37】

【0130】
実施例42
30 mlのナス型フラスコに2-ブロモアニリン(340.2 mg, 1.97 mmol)、L-フェニルアラニン(646.4 mg, 3.94 mmol)、CuCl(2.0 mg, 0.02 mmol, 1 mol%)、K3PO4(836.3 mg, 3.94 mmol)、DMEDA(N,N7-ジメチルエチレンジアミン:34.0 mg , 0.2 mmol, 20 mol%), 乾燥 DMSO (7ml)を加え、セプタムで密閉し、120 ℃で24時間反応させた。TLCにより反応の終了を確認した後、蒸留水5 mlを加え、反応を停止させた。次いで、反応混合液を酢酸エチル70 mlで抽出し、有機層を蒸留水(7.5 ml×3)、飽和塩化アンモニウム(7.5 ml×3)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾過し、溶媒を留去すると、黄色の結晶を得た。これをシリカゲルカラム (hexane:AcOEt=7:3)により精製して乾燥させると白色の結晶として3-ベンジル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(0.47 g, 1.95 mmol, 収率=99 %)を得た。
生成物の分析結果を以下に示す。生成物は、[α]D=-45.90と、高い光学活性を有していた。
[α]D=-45.90 (c =0.5, CHCl);
1H NMR (400 MHz, CDCl3):δ 9.10(brs, 1H, NH),7.39-7.20(m, 6H, Ar), 6.93-6.89(m, 1H, Ar), 6.86-6.85 (m, 2H, Ar ), 6.60 (d, 1H, J=7.8 Hz, Ar), 4.30(brs, 1H, NH), 4.06 (dd, 1H, J=3.2, 11.2 Hz, CH), 3.26 (dd, 1H, J=2.9, 13.4 Hz, CH2), 2.85 (dd, 1H, J=11.2, 13.2 Hz, CH2);
13C NMR(136 MHz, CDCl3): δ 168.8, 136.8, 132.4, 129.4 (2C), 128.9 (2C), 127.0, 125.4, 124.1, 119.5, 115.5, 114.6, 57.8, 37.5
【0131】
実施例43〜50
実施例42において、触媒CuClの量、反応温度及び反応時間を表18に示すように変化させ、並びに、要すれば表18に示す配位子を添加して、実施例42に準じて2-ブロモアニリン(340.2 mg, 1.97 mmol)とL-フェニルアラニン(646.4 mg, 3.94 mmol)とを反応させた。反応終了後、実施例42と同様に後処理して、3-ベンジル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オンを単離取得した。得られた結果を実施例42と共に表18に示す。
【0132】
【表18】

【0133】
実施例51〜56
2-ハロアニリン(1当量)、α-アミノ酸(2当量)の種類を表19に示すように変える他は実施例47と同様に触媒CuCl (2-ハロアニリン基準に、1mol%)を用いて、無水DMSO中、110℃で12時間反応を行った。反応終了後、実施例42と同様に後処理して、表19に示すジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン誘導体を単離取得した。得られた結果を表19に示す。
【0134】
【表19】

【0135】
実施例57
ヒト子宮頸部癌細胞HeLa.S3細胞株を用いて、ジヒドロキノキサリン誘導体の細胞増殖阻害活性を検定した。得られた結果を表20〜22に示す。
【0136】
【表20】

【0137】
【表21】

【0138】
【表22】

【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明による製造方法は、医薬、農薬または機能性材料等として、またはそれらの中間体として有用な、ジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体の製造に用いることができる。本発明による新規なジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体は、それ自体が医薬、農薬または機能性材料物質等として、またはそれらの中間体として用いられ得る。本発明のジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体を有効成分とする癌治療薬は、ヒト子宮頸部癌等の癌治療に貢献し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】


[式中、Xは臭素、ヨウ素または塩素原子であり、Y1〜Y4は同一または異なって、炭素原子または窒素原子であり(ただし、Y1〜Y4の少なくとも2つは炭素原子である。)、
R1は水素原子、非置換または置換アルキル基、アルキルカルボニル基、ハロアルキルカルボニル基、ヨウ素、臭素以外のハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基またはニトロ基であり、
Rは水素原子、または非置換または置換アルキル基、アシル基、スルホニル基であり、nは1〜4の整数である。]
で表される芳香族化合物と、
一般式(II):
【化2】


[式中、R3は水素原子、または非置換もしくは置換アルキル基であり、
R4は水素原子、または非置換または置換アルキル基であり、
R3とR4とは一体となって環を形成してもよい。]
で表されるα‐アミノ酸誘導体とを、第一銅塩触媒および塩基の存在下で反応させる工程を含んで成る、
一般式(III):
【化3】


[式中、Y1〜Y4、R1〜R4およびnは、上記と同意義である。]
で表されるジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体の製造方法。
【請求項2】
第一銅塩が塩化第一銅である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第一銅塩の使用量が、一般式(I)で示される芳香族化合物1モル基準で0.001〜0.5モルである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
塩基がリン酸塩である、請求項1〜3のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項5】
DMEDA(N,N’-ジメチルエチレンジアミン)、TMEDA(N,N’-テトラメチルエチレンジアミン)またはEDA(エチレンジアミン)から選ばれた少なくとも1つの二座配位子を更に含んでなる、請求項1〜4のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項6】
二座配位子が、DMEDA(N,N’-ジメチルエチレンジアミン)である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
芳香族化合物が、
一般式(Ia):
【化4】


[式中、X, R1, R2 およびnは上記と同意義である。]
で表されるα−ブロモアニリン誘導体である請求項1〜6のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項8】
芳香族化合物が、
一般式(Ia-1):
【化5】


[式中、X, R1, R2 およびnは上記と同意義である。]
で表される2−アミノ−3−ブロモピリジリン誘導体である請求項1〜6のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項9】
芳香族化合物がα−ブロモアニリン誘導体であり、
α−アミノ酸が、
一般式(IIa):
【化6】


[式中、R5〜R7は同一または異なって、水素原子、非置換または置換アルキル基またはカルボニル基であり、それらの隣接する2つは環を形成してもよい。]
で表されるプロリン誘導体である請求項1〜6のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項10】
芳香族化合物がα−ブロモアニリン誘導体であり、
α−アミノ酸が、
一般式(IIb):
【化7】


[式中、R8〜R11は同一または異なって、水素原子、非置換または置換アルキル基、またはカルボニル基であり、それらの隣接する2つは環を形成してもよい。]
で表されるピペコリン酸誘導体である請求項1〜6のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項11】
一般式(II)、(IIa)および(IIb)で表されるα-アミノ酸誘導体が光学活性体であり、生成物のジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体が光学活性体である、請求項1〜10のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項12】
反応工程は非プロトン性極性有機溶媒を使用する、請求項1〜11のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項13】
非プロトン性極性有機溶媒は、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドおよびジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランおよびアセトニトリルから選ばれた少なくとも1種である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
一般式(IV):
【化8】


[式中、R12は非置換または置換アルキル基であり、
R13〜R16は同一または異なって、水素原子、非置換または置換アルキル基、アルキルカルボニル基、ハロアルキルカルボニル基、ヨウ素、臭素以外のハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基またはニトロ基である。]
で表されるジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体。
【請求項15】
ジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体は、3-2級ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン (A-1)、3-3級ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン (A-2)、
【化9】


3-(4-ヒドロキシベンジル)-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン (A-3)、3-(3,4-ジヒドロキシベンジル)-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン (A-4)、
【化10】

3-2級ブチル-7-トリフルオロメトキシ-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン (A-5)、3-2級ブチル-6-メチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン (A-6)、
【化11】

または3-2級ブチル-2-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロキノキサリン-6-カルボニトリル (A-7)
【化12】

である、請求項14に記載のジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体。
【請求項16】
ジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体は光学活性体である、請求項14または15に記載のジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体。
【請求項17】
一般式(III):
【化13】

[式中、Y1〜Y4、R1〜R4およびnは、上記と同意義である。]
で表されるジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体(III)を有効成分とする、癌治療薬。
【請求項18】
ジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体(III)が、
3-iso-プロピル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(32)、
3-sec-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(4)、
3,3-ジメチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(6)、
3-sec-ブチル-6-シアノ-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(23)、
3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(14)、
3-(4-ヒドロキシベンジル)-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(8)、
3-(3,4-ジヒドロキシベンジル)-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(9)、
2-クロロ-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(20)、
2-メチル-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(24)、
2-シアノ-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(27)、
3-トリフルオロメトキシ-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(25)、
3-ニトロ-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(28)、
4-ヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン-3-スピロシクロヘキサン(33)、
7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]-4-アザキノキサリン-6-オン(34)、
1,2,3,3a-テトラヒドロ-5H-ピロロ[1,2-a]キノキサリン-4-オン(11)および
8-トリフルオロメトキシ-1,2,3,3a-テトラヒドロ-5H-ピロロ[1,2-a]キノキサリン-4-オン(35)(かっこ内は化合物番号を示す。)
から選ばれる少なくとも1つの化合物である、請求項17に記載の癌治療薬。
【請求項19】
前記ジヒドロキノキサリン-2-オン誘導体(III)が、
3-iso-プロピル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(32)、
3-sec-ブチル-3,4-ジヒドロ-1H-キノキサリン-2-オン(4)、
2-クロロ-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(20)、
2-メチル-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(24)、
2-シアノ-7,8,9,10-テトラヒドロ-5H,6aH-ピリド[1,2-a]キノキサリン-6-オン(27)、
1,2,3,3a-テトラヒドロ-5H-ピロロ[1,2-a]キノキサリン-4-オン(11)および
8-トリフルオロメトキシ-1,2,3,3a-テトラヒドロ-5H-ピロロ[1,2-a]キノキサリン-4-オン(35)[かっこ内は化合物番号を示す。]
から選ばれる少なくとも1つの化合物である、請求項17に記載の癌治療薬。
【請求項20】
癌がヒト子宮頸部癌である、請求項17〜19のいずれか1つに記載の癌治療薬。

【図1】
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【公開番号】特開2011−20992(P2011−20992A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274622(P2009−274622)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】