説明

ジヒドロキノリン誘導体の製造方法及びその中間体

【課題】胃炎、胃潰瘍の治療薬として有用な2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸の工業的に有利な製造方法、そのための新規中間体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ハロメチルカルボスチリル化合物とジフェニルイミン化合物をC−Cカップリング反応させて新規中間体を得、これを酸性条件下で加水分解してカルボスチリルアミノ酸誘導体とし、アシル化反応後、常法処理することにより2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃炎、胃潰瘍の治療薬として有用な2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸[化合物(VI)、一般名:レバミピド]の製造方法、そのための新規中間体[化合物(I)]及びその製造方法に関する。
【化10】

(式中、Rは低級アルキル基を示す。)
【背景技術】
【0002】
化合物(VII)の製造方法はいくつか開示されている。しかしながら何れも、途中の工程、たとえばブロモメチルカルボスチリル化合物とアセトアミドマロン酸ジエチルとを反応させる工程において副反応が避けられず、収率が著しく下がる問題点や、続いて必要な脱炭酸反応において反応内容物が噴出する危険性、あるいは反応の長時間化等の問題点を有している。
【0003】
【特許文献1】特公昭63−35623号公報
【特許文献2】特開2004−131506号公報
【特許文献3】特表2004−518737号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、前記課題を解決し、工業的に有利な2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸の製造方法を提供すること、さらに、そのために有用な新規中間体とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討した結果、ハロメチルカルボスチリル化合物とジフェニルイミン化合物を反応させて新規中間体を得、これを酸処理してカルボスチリルアミノ酸誘導体とし、アシル化反応後、常法処理することにより所期の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成することができた。
【0006】
すなわち本発明によれば、
[1]式(I)
【化11】

(式中、Rは低級アルキル基を示す。)で表される2−(ジフェニルメチレンアミノ)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸のエステル誘導体、
[2]式(II)
【化12】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)で表される化合物と式(III)
【化13】

(式中、Rは前記と同じ。)で表される化合物とを反応させて式(I)
【化14】

(式中、Rは前記と同じ。)で表される化合物を製造する方法、
[3]式(I)
【化15】

(式中、Rは前記と同じ。)で表される化合物を酸性条件下で加水分解して式(IV)
【化16】

(式中、Rは水素原子又は前記のRを示す。)で表される化合物とし、この化合物(IV)と式(V)
【化17】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)で表される化合物とを反応させて、式(VI)
【化18】

で表わされる2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸又は式(VII)
【化19】

(式中、Rは前記と同じ。)で表される化合物を製造する方法、
[4]前記[3]で製造された前記式(VII)で表わされる化合物を加水分解して、前記式(VI)で表わされる2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸を製造する方法、
を提供することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、新規中間体の低級アルキル 2−(ジフェニルメチレンアミノ)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパノエート(I)を使用することにより、不可避的な副反応を伴なう工程や炭酸ガスが発生するなどの工程を回避することができ、目的とする2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸(VII)を、安全かつ高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の中間体、化合物(I)、(III)、(IV)及び(VII)のRとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基等が好ましく、中でもエチル基が好ましい。
また、化合物(II)のXとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素の何れも可能であるが、特に臭素が好ましい。また、化合物(V)のXとしては、塩素または臭素が好適である。
【0009】
本発明の新規中間体、化合物(I)の一原料である化合物(III)は、ジャーナル
・オブ・オーガニック・ケミストリー(Journal of Organic Chemistry),47,
2663−2666(1982)に記載の方法に従って製造することができる。
【0010】
化合物(II)と化合物(III)とを反応させて化合物(I)を得る反応は、通常、0℃〜30℃、好ましくは5℃前後で塩基の存在下、メタノール、エタノール、n−プロパノール等のアルコール類、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、トルエン等の有機溶媒中で行う。ここで使用する塩基としては、カリウムt−ブトキサイド、水酸化カリウム、炭酸カリウムなどが好適である。また、必要に応じてテトラエチルアンモニウムヨーダイド等の相間移動触媒を使用してもよい。
【0011】
化合物(I)を加水分解して化合物(IV)とする反応は、通常、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、酢酸等の酸の存在下、含水溶媒中で行うが、比較的高い温度、例えば80℃〜120℃で5時間前後反応すれば、Rが水素原子である化合物(IV)が得られる。一方、低い温度、例えば0℃〜30℃で2時間前後反応すれば、Rが低級アルキル基である化合物(IV)が得られる。使用する溶媒としては、水、含水のメタノール、エタノール、n−プロパノール等のアルコール類、アセトニトリル、アセトン又はこれらの混合溶媒が好適である。
【0012】
化合物(IV)を化合物(V)でアシル化して化合物(VI)又は化合物(VII)とする反応は、通常、0℃〜30℃で塩基の存在下、アセトニトリル、酢酸エチル、含水エタノール、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中で行う。塩基としては、トリエチルアミン等の低級アルキル三級アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が好適に使用することができる。
【0013】
化合物(VII)を加水分解して化合物(VI)とする反応は、通常、0℃〜30℃で塩基の存在下、含水有機溶媒中で加水分解し、最後に酸処理を行う。前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール等のアルコール類、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等が好適に使用することができ、酸処理用の酸としては塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、酢酸等が好ましい。
【実施例1】
【0014】
エチル 2−(ジフェニルメチレンアミノ)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパノエートの製造(1)
tert−ブトキシカリウム31gをN,N−ジメチルアミノホルムアミド300mlに溶解し、5℃で撹拌した。この溶液にエチル 2−(ジフェニルメチレンアミノ)アセテート69gを加えた。さらに4−(ブロモメチル)キノリン−2(1H)−オン60gを添加した。同温度で2時間撹拌後、反応液に水300mlを滴下し、析出した結晶を濾取し、乾燥して標題化合物105g(収率98%)を得た。
【0015】
融点:202℃〜205℃
IR(cm−1):1746,1649,1612,1551,1196,1155,777,706,689
1H−NMR(DMSO−d6)δ(ppm):1.15(3H,CH3CH2−),3.17+3.42(2H,CH2−),4.10(2H,CH3CH2−),4.25(1H,CH),6.27(1H,=CH),6.7−7.45(14H,芳香環)
13C−NMR(DMSO−d6)δ(ppm):14.89,36.07,61.61,65.23,116.19,119.23,122.14,123.11,124.89,127.65,128.86,128.91,128.94,129.18,130.78,131.32,135.59,139.14,139.40,147.62,161.76,170.71,170.99
Q−MS+(m/z):425.4(M+1)
【実施例2】
【0016】
エチル 2−(ジフェニルメチレンアミノ)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパノエートの製造(2)
炭酸カリウム45gをN,N−ジメチルホルムアミド300mlに溶解し、室温下で撹拌した。この溶液にエチル 2−(ジフェニルメチレンアミノ)アセテート69gを加えた。4−(ブロモメチル)キノリン−2(1H)−オン60gを添加した。同温度で27時間撹拌後、反応液に水300mlを滴下し、析出した結晶を濾取し、乾燥して標題化合物99g(収率93%)を得た。その融点、赤外線吸収スペクトル、NMRおよびマススペクトルのデータは、それぞれ実施例1のデータと一致した。
【実施例3】
【0017】
2−アミノ−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸・2塩酸塩・2水和物の製造
エチル 2−(ジフェニルメチレンアミノ)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパノエート100gを濃塩酸125gに加え、撹拌しながら5時間還流した後、放冷し、アセトン500mlを加えて析出した結晶を濾取し、乾燥して標題化合物79g(収率98%)を得た。
【0018】
IR(cm−1):3248,1732,1651,1607,1499,1366,907,764
1H−NMR(DMSO−d6)δ(ppm):3.40(2H,CH2−),4.10(1H,CH),6.53(1H,=CH),7.24(1H,芳香環),7.41(1H,芳香環),7.54(1H,芳香環),7.88(1H,芳香環)
13C−NMR(DMSO−d6)δ(ppm):33.32,52.31,116.61,119.07,122.68,123.71,124.89,131.14,139.66,145.52,161.82,170.43
水分値(カールフィシャー法):10.2%
【実施例4】
【0019】
エチル 2−アミノ−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパノエート塩酸塩の製造
エチル 2−(ジフェニルメチレンアミノ)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパノエート5gをエタノール15mlに加え、室温で撹拌下に濃塩酸1.1mlを加えた。2時間撹拌した後、アセトン25mlを加えて析出した結晶を濾取し、乾燥して標題化合物3.5g(収率92%)を得た。
【0020】
融点:219℃〜227℃
IR(cm−1):2816,1751,1647,1433,1285,1211,787,760
1H−NMR(DMSO−d6)δ(ppm):1.06(3H,CH3CH2−),3.28+3.55(2H,CH2),4.05(2H,CH3CH2−),4.20(1H,CH),6.48(1H,=CH),7.23(1H,芳香環),7.40(1H,芳香環),7.53(1H,芳香環),7.86(1H,芳香環),8.97(3H,NH3),11.84(1H,NH)
13C−NMR(DMSO−d6)δ(ppm):14.57,33.34,52.33,62.57,116.55,118.92,122.56,123.97,124.83,131.16,139.72,145.20,161.75,169.06
Q−MS+(m/z):261.3(M+1−HCl)
【実施例5】
【0021】
2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸の製造(1)
2−アミノ−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸・2塩酸塩・2水和物45gを、水酸化ナトリウム27.5gと水450mlからなる溶液に加え、これを撹拌しながら、4−クロロ安息香酸クロライド34.7gを滴下した。反応終了後、N,N−ジメチルホルムアミド450mlを加え、加温して均一溶液とし、濃塩酸を加えてpHを4付近に調製した。析出した結晶を濾取し、乾燥して標題化合物49g(収率99%)を得た。
【0022】
融点:288℃〜294℃(分解)
IR(cm−1):3280,1730,1644,1602,1540,760
1H−NMR(DMSO−d6)δ(ppm):3.25(1H,−CH2−),3.51(1H,−CH2−),4.77(1H,CH),6.48(1H,=CH),7.25(1H,芳香環),7.50−7.58(3H,芳香環),7.84−7.87(3H,芳香環),8.95(H,NHCO),11.70(1H,COOH)
13C−NMR(DMSO−d6)δ(ppm):33.52,52.59,116.55,119.19,122.38,122.62,124.69,129.15,129.93,131.01,133.01,137.09,139.62,148.05,162.03,166.09,173.38
【実施例6】
【0023】
エチル 2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパノエートの製造
エチル 2−アミノ−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパノエート1gをアセトニトリル10mlに加え、室温で撹拌下にトリエチルアミン0.82gを加えた。さらに、4−クロロベンゾイルクロライド0.71gを加え、同温度で2時間撹拌した後、水20mlを添加した。析出した結晶を濾取し、乾燥して標題化合物1.39g(収率91%)を得た。
【0024】
融点:259℃〜262℃
IR(cm−1):3303,1734,1674,1643,1528,1429,1246,1090,845,752
1H−NMR(DMSO−d6)δ(ppm):1.15(3H,CH3CH2−),3.28+3.44(2H,CH2−),4.11(2H,CH3CH2−),4.75(1H,CH),6.43(1H,=CH),7.19−7.83(8H,芳香環),9.02(1H,NH),11.68(1H,NH)
13C−NMR(DMSO−d6)δ(ppm):14.90,33.54,52.94,61.79,116.52,119.16,122.51,122.57,124.66,129.14,129.92,131.01,132.79,137.13,139.55,147.60,161.87,166.07,171.63
Q−MS+(m/z):399.3(M+1)
【実施例7】
【0025】
ソディウム 2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパノエートの製造
エチル 2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパノエート1gをメタノール10mlに加え、その上に、水酸化ナトリウム0.15gを水2mlに溶解した溶液を加えて、室温で5時間撹拌した。析出した結晶を濾取し、メタノールで洗浄後、乾燥して標題化合物0.95g(収率97%)を得た。
【実施例8】
【0026】
2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸の製造(2)
ソディウム 2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパノエート0.95gをN,N−ジメチルホルムアミド5mlと水5mlの混合溶媒に加え、80〜90℃で溶解後60℃まで冷却し、濃塩酸を滴下してpHを3〜4とした。析出した結晶を濾取し、乾燥して標題化合物0.85g(収率95%)を得た。その融点、赤外線吸収スペクトルおよびNMRのデータは、それぞれ実施例5のデータと一致した。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、胃炎、胃潰瘍の治療薬として有用な2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸を安全かつ高収率で、すなわち工業的有利に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、Rは低級アルキル基を示す。)で表される2−(ジフェニルメチレンアミノ)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸のエステル誘導体。
【請求項2】
式(II)
【化2】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)で表される化合物と式(III)
【化3】

(式中、Rは前記と同じ。)で表される化合物とを反応させて式(I)
【化4】

(式中、Rは前記と同じ。)で表される化合物を製造する方法。
【請求項3】
式(I)
【化5】

(式中、Rは前記と同じ。)で表される化合物を酸性条件下で加水分解して式(IV)
【化6】

(式中、Rは水素原子又は前記のRを示す。)で表される化合物とし、この化合物(IV)と式(V)
【化7】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)で表される化合物とを反応させて、式(VI)
【化8】

で表わされる2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸又は式(VII)
【化9】

(式中、Rは前記と同じ。)で表される化合物を製造する方法。
【請求項4】
請求項3で製造された前記式(VII)で表わされる化合物を加水分解して、前記式(VI)で表わされる2−(4−クロロベンズアミド)−3−(2−オキソ−1,2−ジヒドロキノリン−4−イル)プロパン酸を製造する方法。