説明

ジヒドロジャスモン酸塩及びその農学での使用

式(I)の水溶性塩からなる化合物であって、式中、R1はC110アルキル基又はC210アルケニル基であり、R1がペンタ−2−エニル基であるという条件で、Mは原子価nのカチオンであり、Mn+は、ナトリウム又はカリウム以外である。これらの塩は、農学的配合での使用に特に好適である。この配合物は、安息香酸誘導体及び/又は抗酸化剤をさらに含み得る。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化学化合物、これらの調製方法、及び特に農学的に有用な配合でのこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
植物が非生物的ストレス(これは、強烈な光、除草剤、オゾン、熱、低温、凍結、干ばつ、塩分、湛水及び重金属毒性であり得る)を受けるとき、植物は、酸化的ストレスを引き起こす活性酸素種(ROS)の産生を増大する。ROSは、植物の細胞成分に化学的損傷を生じさせる。
【0003】
植物が対処し得るレベルを超えてROSが生成されるとき、細胞内でタンパク質溶解が生じ、そして毒性アンモニアを生成し得る。これはまた、植物が外部環境から過度のアンモニウムを吸収するときにも生じ(通常、尿素又はアンモニウム含有肥料による施肥を通じて)、そして肥料使用の主要な限定要因である。
【0004】
ジャスモン酸及び類似の化合物、例えばジャスモン酸、メチルジャスモネート及びジヒドロメチルジャスモネートは、全身誘導抵抗性(Induced systemic Resistance)(ISR)と呼ばれるプロセスを刺激することが公知であり、これは、耐ストレス性及び耐病性の生成を助ける。
【0005】
しかし、ジャスモン酸及びその誘導体は一般的に油であり、これは水と混和せず、配合問題及び施用問題につながる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従って、次の式(I)
【化1】

(式中、R1はC110アルキル基又はC210アルケニル基であり、R1がペンタ−2−エニル基であるという条件で、Mは原子価nのカチオンであり、Mn+はナトリウム又はカリウム以外である)
の水溶性塩が提供される。
【0007】
特にMは、それから形成される塩が水溶性であるという条件で、金属カチオン、例えばアルカリ金属、特にカリウム若しくはナトリウム(nが1のとき)、又はアルカリ土類金属、例えばマグネシウム(nが2のとき)である。従ってMは、好適にはカルシウム以外である。この塩は、水混和性油の形態(例えば、カリウム塩及びナトリウム塩)であり得るか、又は固体(sold)、例えばマグネシウム塩の形態であり得る。
【0008】
Mは、好ましくはカリウム又はマグネシウムから選択され、最も好ましくはマグネシウムである。
【0009】
アルキル基又はアルケニル基R1は、直線又は分枝状であり得る。しかし好ましくは、R1は直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。
【0010】
特定の実施態様において、R1は5つの炭素原子を含む。これは好ましくはペンチル基から選択されて、式(I)の化合物をジヒドロジャスモネート塩とするか、又はこれはペンタ−2−エニル基であり、その結果式(I)の化合物は、ジャスモネート塩となる。
【0011】
好適には式(I)の化合物は、ジヒドロジャスモン酸の誘導体の水溶性塩である。従って、特に好ましい塩は、マグネシウムジヒドロジャスモネートである。この塩は、極めて良好なハンドリング及び流動性質を有し、これにより農芸化学的配合の場面で特に有用となる。
【0012】
さらに本発明に従って、次の式(II)
【化2】

(式中R1は、式(I)に関して定義される通りであり、そしてR2は、水素又はヒドロカルビル(hydrocarbyl)基から選択される)
の化合物を、次の式(III)
n+(OR3n (III)
(式中M及びnは、式(I)に関して定義される通りであり、そしてR3は、水素又はC13アルキル基、例えばメチルである)
の化合物と反応させることを含む式(I)の化合物を調製する方法が提供される。この反応は好適には溶媒中で達成され、これは、水又は有機溶媒、例えばアルカノール、特にメタノール若しくはトルエンであり得る。
【0013】
調製される個々の塩如何により、この反応は、適度な温度、例えば0℃〜50℃、簡便には室温で達成され得るか、又は高温、例えば50℃〜100℃、及び簡便には溶媒の還流温度で行われ得る。
【0014】
生成物は、好適には溶媒を蒸発させた後に固体として回収されるか、又は配合物に直接使用される水溶液の形態であり得るかのいずれかである。
【0015】
本明細書中で使用される用語「ヒドロカルビル」は、炭素及び水素を含む有機部分、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はアラルキル基、例えばベンジルをいう。用語「アルキル」は、好適には1〜20、及び好ましくは1〜10の炭素原子を含む直鎖又は分枝鎖をいう。同様に、用語「アルケニル」及び「アルキニル」は、好適には2〜20、及び好ましくは2〜10の炭素原子を含む不飽和ヒドロカルビル基をいう。用語「アリール」は、芳香族ヒドロカルビル基、例えばフェニル及びナフチルをいうのに対し、用語「アラルキル」は、アリール基で置換されるアルキル基、例えばベンジルをいう。
【0016】
2がヒドロカルビル基である特定の実施態様において、これは、C110アルキル基から選択され、そして好適にはC16アルキル基、例えばメチルである。
【0017】
式(III)の化合物は、公知の化合物、例えば水酸化カリウムであり、これは直接使用され得る。あるいは式(III)の化合物は、現場で生成され得る。これは特に、Mがマグネシウム塩であり、そしてR3がC13アルキル基、例えばメチルであるときに適用可能であり得る。本特許出願人らは、この化合物を調製する優れた方法は、触媒、例えばヨウ素の存在下でマグネシウムをC13アルカノール、例えばメタノールと反応させることであると見出した。この反応混合物を、好適には加熱して式(III)の化合物を形成し、それから同じアルカノール中の式(II)の化合物溶液が添加され、そして反応が開始する。
【0018】
式(II)の化合物は、公知の化合物であるか、又は慣用方法を用いて調製され得るかのいずれかである。
【0019】
式(II)の化合物において、R2は好ましくは水素である。このような化合物は、R2がヒドロカルビル基である式(II)の化合物の酸性化によって調製され得る。
【0020】
好適な反応条件は、熟練化学者に明らかであるが、本明細書中以下に例示される通りに、R2がヒドロカルビル基である式(II)の化合物を塩基、例えば水酸化ナトリウムと反応させ、次いで酸、例えば塩酸と反応させることを含み得る。
【0021】
式(I)の化合物はキラル中心を含み得、そして本発明は、光学活性形態を含むすべての形態、及びラセミ混合物を含むあらゆる比率のそれらの混合物を含む。
【0022】
式(I)の化合物は、ISR性質が所望であり得る農芸化学的配合で好適に使用される。本発明の化合物の水溶性性質は、従来のジャスモネートがこのように使用されているときに存在した配合問題及び利用可能性の難しさを克服する。
【0023】
従ってさらなる局面において、本発明は、式(I)の化合物及び農学的に受容可能なキャリアを含む農学的に受容可能な組成物を提供する。
【0024】
この組成物は、当該分野で公知の種々の形態をとる。例えばこれらとしては、プリル、吐粉性粉末、可溶性粉末又は錠剤、水溶性粒剤、顆粒水和剤、水和剤、粒剤(緩効性又は即効性)、可溶性濃縮物、微量液体、乳濁液、分散性濃縮物、乳剤(水中油型及び油中水型の両方)、ミクロエマルジョン、懸濁濃縮物、エーロゾル、カプセル懸濁液並びに種子処理剤が挙げられる。どのような場合においても選択される組成物のタイプは、予想される特定の目的如何による。
【0025】
この配合物に使用される農学的に受容可能なキャリアは、この配合物の性質如何により固体又は液体であり得る。
【0026】
例えば固形希釈剤としては、天然の粘土、カオリン、葉ろう石、ベントナイト、アルミナ、モンモリロン石、ケイソウ土(kieselguhr)、白亜、ケイソウ土(diatomaceous earths)、リン酸カルシウム、軽石、アタパルジャイト粘土、フーラー土、粉砕されたトウモロコシの穂軸、砂、ケイ酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム又は炭酸マグネシウム、重炭酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、石灰、フラワー、滑石、多糖並びに他の有機固形キャリア及び無機固形キャリアが挙げられ得る。
【0027】
液体希釈剤としては、水又は有機溶媒、例えばケトン、アルコール若しくはグリコールエーテルが挙げられ得る。これらの溶液は、界面活性剤を含み得る(例えば、水での希釈度を高めるか、又はスプレータンク中での結晶化を防ぐため)。
【0028】
組成物は、当該分野で周知の他のタイプの試薬、特に湿潤剤、懸濁剤及び/又は分散剤をさらに又は代わりに含み得る。
【0029】
本発明の化合物は、配合物中、又は他の農芸化学的化合物、例えば、除草剤、殺菌剤又は植物成長調整物質との混合物中のいずれかで他の農芸化学的化合物と組み合わされ得る。
【0030】
しかし特に、本発明の化合物及び密接に関連した化合物は、植物のストレスを軽減する他の試薬と組み合わされ、それによって式(I)の化合物の効果を高める。
【0031】
従って本発明のさらなる局面において、(i)次の式(IA)
【化3】

(式中、R1はC110アルキル基又はC210アルケニル基であり、Mは原子価nのカチオンである)の水溶性塩を含む化合物及び(ii)植物のストレスを軽減する試薬を含む農学的に受容可能な組成物が提供される。
【0032】
式(IA)の化合物の特定の例は、上記で定義された式(I)の化合物である。
【0033】
植物のストレスを軽減する試薬としては、安息香酸基を含む農学的に受容可能な化合物、又はその誘導体、すなわち次の式(V)
【化4】

(式中R4は、基OR7、SR7又はNR78で、ここでR7及びR8は、水素又はヒドロカルビルから独立して選択され、そしてR5及びR6は、水素、ヒドロカルビル基若しくは官能基から独立して選択されるか、又はR5及びR6は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、酸素、窒素若しくは硫黄から選択される1つ若しくはそれ以上のヘテロ原子を含み得る縮合環系を形成する)の化合物が挙げられる。
【0034】
特に、R4は基OR9で、式中R9は、水素又はC16アルキル、例えばメチルである。好ましくは、R4はOHである。
【0035】
本明細書中で使用される用語「官能基」は、反応性基、特に電子求引基、例えばOR10又はC(O)R10をいい、式中R10は水素又はC16アルキル、例えばメチルである。
【0036】
好適には、R5及びR6は水素であるか、又は一方が水素であり、そして他方が環のオルト位に配列する官能基、例えばOH又はC(O)CH3である。
【0037】
あるいは、R5及びR6は、それらが結合する炭素原子、好ましくは隣接する炭素原子と一緒になって縮合環系を形成し、これは好ましくは、5又は6の原子、好ましくは5つの原子を含む環であり、これらのうちの少なくともいくつかはヘテロ原子である。この環は、好適には事実上芳香族である。このタイプの環系の特定の例は、1,2,3−ベンゾチアジアゾールである。
【0038】
式(V)の化合物の特定の例としては、サリチル酸、アセチルサリチル酸(又は2−アセトキシ安息香酸)、サリチル酸メチル、安息香酸及びアシベンゾラル(acibenzolar)−S−メチル並びにそれらの農学的に受容可能な塩が挙げられる。特定の農学的に受容可能な塩としては、アルカリ金属塩、例えばカリウム又はナトリウム、アルカリ土類金属塩、例えばカルシウム又はマグネシウム、及びいくつかの有機酸塩、例えば酢酸塩が挙げられる。
【0039】
これらの化合物は、フィトアレキシン産生の刺激及びエチレン(ストレスホルモン)合成の軽減によって、植物の後天性系統抵抗性(SAR)を増大させることによって、植物の耐ストレス性及び耐病性を増大させることが示されている。
【0040】
しかしこれらの化合物は、細胞に損傷を生じさせ、そして酸化的ストレスを引き起こすROSの増大という望ましくない効果を有する。植物中でROSが生成されるとこれは有毒となり、そして最終的に、与えている非生物的ストレス耐性に関するその有効性の限定要因となるので、これは化合物の効果を限定する。例えば、与えているストレス耐性に関するアセチルサリチル酸の有効性は、使用されると酸化的ストレスを引き起こし、そして細胞質へのカルシウム流入を限定するために(これにより、酸化的ストレスによって増大されるタンパク質溶解又は肥料の使用のいずれかに起因して生成されるアンモニアに対して細胞の耐性を少なくする)限定されることが公知である。
【0041】
同様に、式(I)の化合物、例えばジャスモネート化合物は、ISRを誘発し得るが、これらの使用は、エチレン産生を増大する不利な面(和らげられなければ)を有し得、この産生は、細胞壁からサイトゾルへのカルシウム流入を増大することによって、一定の条件下で細胞壁を弱くする。細胞質内のカルシウム増大は、長引く非生物的ストレスの間に生成されるアンモニアを植物が中和するのを助けるが、カルシウムが細胞壁のカルシウムを補充するのに利用されないと(カルモジュリン結合部位に保持される)、細胞壁は結合性を失い、そして植物は生物的ストレスをより受けやすくなる。
【0042】
従って、特に好ましい実施態様において、本発明は、抗酸化化合物をさらに含む組成物を提供する。
【0043】
特に好適な抗酸化剤としては、アルギニン又はアルギニンが前駆体であるポリアミン、例えばプトレッシン(putriscine)、スペルミン及びスペルミジンが挙げられる。これらの化合物は、非生物的ストレスの間のROS生成と闘うために使用され得、そしてまた非生物的ストレス耐性に関与する抗酸化性質を有する。特に好ましい抗酸化剤は、アルギニンである。
【0044】
特に好ましい実施態様において、本発明は、(i)上記の式(I)の化合物、(ii)上記の式(V)の化合物及び(iii)抗酸化剤を含む組成物を提供する。
【0045】
好ましい式(I)の化合物、式(V)の化合物及び抗酸化剤は、上記に示した通りである。特に、式(I)の化合物は、マグネシウムジヒドロジャスモネートであり、式(V)の化合物は、アセチルサリチル酸であり、そして抗酸化剤は、アルギニンである。
【0046】
この組成物において、式(I)の化合物は、アルギニン(arganine)(これもまた供給される)から生成されるポリアミン(スペルミン、スペルミジン及びプトレッシン)の形成を増大し得る。このアルギニンは、即時に酸化的ストレスを軽減させ、そしてポリアミン(これは抗酸化剤である上、細胞壁の結合性を維持するカルシウムと類似の役割を果たし得、そのため細胞壁を保護し、そしてNH4毒性を制御する役割を有する)を産生するに十分なアルギニン(arganine)が確実に存在するようにする。
【0047】
さらに、式(I)の化合物と式(V)の化合物との組み合わせを供給することによって、エチレン生成が和らげられるために個々の化合物の有効性が改善され得る。
【0048】
組成物に使用される成分の比率は、これらの成分の厳密な性質如何により変化する。例えば成分(i)及び(ii)は、一般的に1:1w/w〜1:2w/wの比率で存在する。
【0049】
使用される抗酸化剤の量はまた、その性質如何により変化し得る。ホルモン効果を有する抗酸化剤、例えばスペルミン、スペルミジン及びプトレッシンは、好適にはかなり節約して、例えば成分(i)と等量で使用され得る。従ってこれらの組成物は、成分(i):(ii):(iii)を1:1:1w/w〜1:2:1w/wの比率で含む組成物を有し得る。
【0050】
しかし、好ましい抗酸化剤、例えばアルギニンは、より多い量、例えば成分(i)の20倍までの量で存在し得る。従って、この場合の好ましい組成物は、成分(i):(ii):(iii)が1:2:20w/w又は1:1:20w/wまで、例えば1:1:10w/w〜1:2:10w/wの範囲で存在する成分を有し得る。
【0051】
この組成物の成分は、一緒になって濃縮物を形成し得、これは次いで使用前に農学的に受容可能なキャリア、例えば水又は肥料と混合される。このような濃縮物は、本発明のさらなる局面を形成する。
【0052】
上記の組成物は、植物が非生物的ストレス状態の間にその成長及び発育を維持し得るために使用され得る。こうすることにより、この生成物は、収穫量、品質を改善し、そしてストレス状態の間の罹病率を軽減する。これは、活性酸素種、及び非生物的ストレス状態の間に増大するタンパク質溶解に対処する植物の能力を増強すること、並びに非生物的ストレス状態の間に細胞壁の結合性を維持することによって行う。
【0053】
従ってさらなる局面において、本発明は、非生物的ストレス状態の間に高等植物の成長及び/又は収穫量及び/又は品質を改善する方法を提供し、この方法は、式(I)の化合物をこの植物又はその環境に施すことを含む。
【0054】
好ましくは、式(I)の化合物は、上記の組成物中に含められる。
【0055】
この組成物は、ストレス状態が生じるか又は生じると予想されるときに施され得る。このような状態としては、強烈な光、除草剤、オゾン、熱、低温、凍結、干ばつ、塩分、湛水及び重金属毒性が挙げられる。
【0056】
特に、いくらかの試験において、本発明の組成物は、7未満のpHを有する酸性土、例えば砂質酸性土で成長する植物のストレスを軽減することが見出されている。
【0057】
さらに、上記の組成物は、窒素肥料又は窒素(ここでこの窒素は、尿素、アミン(NH2)又はアンモニウム(NH4)に由来する)を含む肥料の性能の改善を提供し得る。これは、天然肥料及び合成肥料の両方を含む。
【0058】
使用され得るアンモニア性窒素及び尿素性窒素の比率における主要な限定要因のうちの1つは、アンモニア毒性である。上記の組成物を適切な量で肥料に含めることによって、植物がアンモニア毒性に対峙する能力が改善され、これは、これらの肥料が施され得る量が増大することを意味する。
【0059】
従ってさらなる局面において、本発明は、窒素肥料又は窒素を含む肥料の性能を改善する方法を提供し、この方法は、上記の式(I)の化合物と組み合わせてこの肥料を植物又はその環境に施すことを含む。再び式(I)の化合物は、好適には上記の組成物中、そしてとりわけ式(V)の化合物及び抗酸化剤を含む組成物中にある。
【0060】
上記の組成物を含む肥料組成物は、本発明のさらなる局面を形成する。
【0061】
上記の化合物及び組成物はまた、例えば細菌性、ウイルス性及び真菌性の病原菌によって引き起こされる生物的ストレスからの農作物の損害を軽減し得る。
植物は、細胞壁が劣化するとより病気にかかりやすくなる。細胞壁は、長引く非生物的ストレス状態の間、すなわちカルシウムが細胞壁から細胞質に移動すると劣化する。上記の化合物及び組成物は、非生物的ストレス状態の間に強力な細胞壁を維持し、すなわちこれは感染の可能性を減少させる。
【0062】
従ってなおさらなる局面において、本発明は、生物的ストレスから農作物の損害を軽減する方法を提供し、この方法は、農作物に式(I)の化合物を与えることを含む。
【0063】
好ましくはこの式(I)の化合物は、上記の組成物に含められる。
【0064】
上記の式(I)の化合物又はこれを含む組成物は、好適には慣用方法を用いて施される。例えば組成物は、噴霧前にスプレータンクに添加されるか、又は点滴潅漑池に添加される。とりわけ本発明の組成物は、植物の根に、例えば根潅注として好適には施され得る。
【0065】
施される化合物又は組成物の量は、因子、例えば扱われている問題の性質、農作物及び条件如何により変化する。しかし一般に式(I)の化合物は、1回の施用につき1ヘクタール当たり0.005gと0.5gとの間、例えば1回の施用につき1ヘクタール当たり0.01g〜0.1gの量で農作物に施される。
【0066】
上記の化合物及び組成物は、広範な農作物の処理に使用されてこの農作物のストレスを軽減し得、そしてこのように成長の有益性を提供する。農作物の例としては、ガラス室の農作物又は保温された農作物、樹木農作物(例えば、ナシ状果及び核果農作物)並びに堅果農作物、例えばクルミ、ピスタチオ及びオリーブ、ココヤシ莢(coco pods)、ヤシ、例えばギネアアブラヤシ及びナツメヤシ、広葉農作物、例えばチャ、並びにもちろん畑作物、例えばコムギのような穀物、タバコ、綿及び野菜、例えばキャベツ及びレタスのようなアブラナ属、並びに根菜作物、例えばジャガイモ、ニンジン及びサトウダイコンが挙げられる。
【0067】
特に、上記の化合物及び組成物は、ストレスに関連した病気にかかっている農作物の処理に使用され得る。このような農作物の特定の例としては、黒ざや病及びサクランボ萎ちょう病のような病気にかかっているココヤシ莢が挙げられる。
【0068】
本発明は、添付の線図に関連して例としてここで特に記載される。
【0069】
実施例1
カリウムジヒドロジャスモネート塩の調製
工程1
メチルジヒドロジャスモネートからのジヒドロジャスモン酸の形成
【化5】

水酸化ナトリウムペレット(82.6g)を、撹拌しながらメタノール(425ml)に溶解した。この溶液を、メタノール(425ml)中のメチルジヒドロジャスモネート(425g)(F.D.Copelandより獲得)の撹拌溶液に添加した。この反応混合物を、室温で24時間撹拌した。この後、TLC分析(10:90の酢酸エチル(EtOAc):ヘキサン)により、すべての出発物質が消費されたことを確認した。反応混合物のpHが約1になるまで、1M塩酸水溶液をゆっくりと添加した。水/メタノール溶液を酢酸エチル(4×150ml)で抽出し、そして合わせた有機抽出物を乾燥させ(MgSO4)、そして真空下で蒸発させて、淡黄色油としてジヒドロジャスモン酸(397.0g、>99%)を得た。
この構造を、1H及び13C NMRを用いて確認した。
【0070】
工程2
ジヒドロジャスモン酸からのジヒドロジャスモン酸カリウム塩の10%wt水溶液の調製
【化6】

水酸化カリウム(5.29g)を、撹拌しながら水(225ml)に溶解した。これを、工程1に記載される通りに調製されたジヒドロジャスモン酸(20g)に添加して、ジヒドロジャスモン酸カリウム塩の10%wt水溶液を得た。
この構造を、1H及び13C NMRを用いて確認した。
【0071】
実施例2
ジヒドロジャスモン酸カリウム塩の別法による調製
【化7】

メチルジヒドロジャスモネート(10g)を、撹拌しながらトルエン(100ml)に溶解した。メタノール(22.lml)中の2M KOH溶液を添加し、そしてこの溶液を還流した。この反応混合物を18時間還流状態に維持し、その後TLC分析(10:90のEtOAc:ヘキサン)は、これ以上出発物質が存在しないことを示した。溶媒を真空下で除去して、黄色油としてジヒドロジャスモン酸カリウム塩を得た。
トルエン(3×100ml)を添加し、そして共沸の目的であらゆる残留している水を真空下で除去した。しかしカリウム塩は、黄色油として残留した。
この構造を、1H及び13C NMRを用いて確認した。
【0072】
実施例3
メチルジヒドロジャスモネートからのジヒドロジャスモン酸ナトリウム塩の形成
【化8】

水酸化ナトリウムペレット(3.53g)を、トルエン(20ml)中のメチルジヒドロジャスモネート(20g)溶液に添加する前に、撹拌しながらメタノール(20ml)に溶解した。この反応混合物を、室温で48時間撹拌し、その後TLC分析(10:90のEtOAc:ヘキサン)は、これ以上出発物質が存在しないことを示した。溶媒を真空下で除去して、黄色油としてジヒドロジャスモン酸ナトリウム塩を得た。トルエン(3×100ml)を添加し、そして共沸の目的であらゆる残留している水を真空下で除去した。しかしナトリウム塩は、淡黄色油として残留した。
【0073】
実施例4
ジヒドロジャスモン酸からのジヒドロジャスモン酸マグネシウム塩の形成
【化9】

二首の3L丸底フラスコに、マグネシウム削り屑及びメタノール(700ml)を窒素下で装入した。ヨウ素の結晶を2つ添加した。一旦反応が始まると、撹拌を開始し、そしてこの反応混合物を還流した。最初は暗褐色だった反応混合物は徐々に淡黄色になり、そして白色沈殿物が形成し始めた。すべてのマグネシウムが反応するまで加熱を続けた。この時点でこの反応混合物は、白色沈殿物を含むほぼ無色の溶液からなった。メタノール(700ml)中のジヒドロジャスモン酸(350g)溶液を一滴ずつ添加する前に、この反応混合物を室温に冷却した。次いでこの反応混合物を再び還流し、この温度で2時間維持し、次いで室温で一晩撹拌した。これにより、反応混合物を透明な淡黄色溶液として得た。メタノールを真空下で除去して、淡黄色油として生成物を得た。プロパン−2−オール(2×250ml)を添加し、そして真空下で除去して、あらゆる残留している水を除去し、そしてこれにより、淡黄色固体としてジヒドロジャスモン酸マグネシウム塩(368g、>99%)を得た。
【0074】
この構造を、1H及び13C NMRを用いて確認した。このマグネシウム塩の1H NMRは、化合物が水を含むことを示した。カールフィッシャー分析はこれを確認し、そしてこのマグネシウム塩が、水1.8%及び残留しているプロパン−2−オールを含むことを示した。
【0075】
実施例5
農学的配合物
次の成分の組み合わせが好適には一緒に配合されて、次の濃縮物を形成した:
配合物1
マグネシウムジヒドロジャスモネート 100g
アセチルサリチル酸 100g
アルギニン 1000g
配合物2
マグネシウムジヒドロジャスモネート 100g
安息香酸ナトリウム 100g
アルギニン 100g
配合物3
マグネシウムジヒドロジャスモネート 100g
サリチル酸ナトリウム 200g
スペルミン 100g
配合物4
マグネシウムジヒドロジャスモネート 100g
安息香酸ナトリウム 100g
L−アルギニン 500g
【0076】
これらの成分はすべて水溶性粉末であり、そのため配合は、直接混合することによって行われ得た。次いでこの濃縮物は、キャリア、例えば水又は肥料と混合され得、そして植物、例えば農作物又はその環境に施され得た。
【0077】
この配合物中の化合物の組み合わせは、細胞壁の結合性を維持しながら酸化的ストレスと闘うように設計された。これにより、非生物的ストレス状態への耐性が増大し、そしてSAR応答及びISR応答の両方をまた示すという一層の有益性を有した。
【0078】
実施例6
配合物4で処理した植物に対するストレスの効果を、土壌潅注として評価した。栽培品種レタスLactuca sativa変種のArctic Kingが、試験について選択された種であった。レタス植物を、4つの異なる成長媒体、低pHの酸性砂質土(pH4.27)、高pHの白亜質埴土(pH9.35)、Lufa 2.2(pH5.8)及びロックウール栽培ブロック(不活性)中の個々のポットで成長させた。
【0079】
植物に、特に砂質酸性土で成長する植物の矮化及び白化成長を引き起こす高温(30〜35℃)及び低湿レベルによってストレスを加えた。この植物を、良好な植物成長に必要とされるような3280ルクス〜10320ルクスの光強度に曝露し、光の条件は、16時間明るく、8時間暗くした。植物が膨張を維持するのに必要なだけ給水した。
【0080】
上記の配合物4を水に溶解して、次の配合物5を産生した:
配合物5
蒸留水(99.93%w/w)
L−アルギニン(00.05%w/w)
安息香酸ナトリウム(00.01%w/w)
マグネシウムジヒドロジャスモネート(00.01%w/w)
【0081】
配合物5を、次の量、0(コントロール)、0.2×量、1×量、5×量及び25×量で単独で試験し、×量は、1ha当たり生成物500mlであった。1ヘクタール当たりのレタス植物の密度を70,000(文献)、及び1ヘクタール当たりの×量を生成物500mLと仮定すると、各植物は生成物を7.14mg与えられることになった。生成物の希釈を、各植物が×量に関して各一日量で約7mgを与えられるように行った。
【0082】
すべての処理を、水溶液として試験植物に施し、そして10回反復した。ロックウールに施された潅注溶液を、この媒体の栄養素が不足していることに起因してHoaglands溶液を含む容量にした。3つの土壌用の潅注溶液を、脱イオン水中の容量にした。各植物に施される溶液10mLを、1日毎に受け皿に注いだ。
【0083】
各評価間隔(施用前及びその後は1週間毎)で、植物を、高さ(mm)、成長段階(BBCH)及び植物毒性効果について評価した。研究の最後に、根及び苗条の重量(フレッシュ及び乾燥)を計測した。
【0084】
この結果を、表1〜表5及び図1に示す。
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【0089】
Toxcalc V 05を用いて、処理植物とコントロール植物との間のあらゆる統計的な有意差を決定した。
【0090】
未処理の植物を超える植物の健康の著しい改善が、最初の施用後41日の砂質酸性土の植物への25×(12.5L/ha)処理で観察された。この改善は、植物の高さ(コントロールが263mmであるのに対して341mm)(また図1を参照のこと)及び植物毒性の軽減(コントロールが58%であるのに対して54%の白化)であった。砂質酸性土の植物に潅注としてすべての量で施される配合物は、植物の高さを改善し(100mL/ha、500mL/ha、2500mL/ha及び12500mL/haに対してそれぞれ23%、23%、15%及び30%)、そして平均の乾燥苗条重量を増大した(100mL/ha、500mL/ha、2500mL/ha及び12500mL/haに対してそれぞれ22%、16%、3%及び7%)。
【0091】
最も植物にストレスを加えるとみなされる成長媒体である砂質酸性土を、葉面施肥試験での使用に選択した。葉面施肥を、確実に均一に行うために手回し噴霧機を用いて施し、そして流出が開始するまで葉に噴霧した。しかし処理植物は、未処理の植物と比較して、試験されたすべての量で健康又はストレスの緩和に関して統計的に有意な改善を示さなかった。
【0092】
従ってこの試験において、根からの吸収を通じて施されるとき、砂質酸性土で成長する植物において、配合物5が植物の高さを改善し、そしてストレス(白化)を軽減させたことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】根からの吸収による砂質酸性土での植物の成長に対する本発明の配合物の効果の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、R1はC110アルキル基又はC210アルケニル基であり、R1がペンタ−2−エニル基であるという条件で、Mは原子価nのカチオンであり、Mn+はナトリウム又はカリウム以外である)
の水溶性塩からなる化合物。
【請求項2】
Mがカリウム又はマグネシウムである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Mがマグネシウムである、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
1がn−ペンチル基又はペンタ−2−エニル基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
1がn−ペンチルである、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
式(II):
【化2】

(式中R1は、式(I)に関して定義される通りであり、そしてR2は、水素又はヒドロカルビル基から選択される)
の化合物を、式(III):
n+(OR3n (III)
(式中M及びnは、請求項1に関して定義される通りであり、そしてR3は、水素又はC13アルキル基である)
の化合物と反応させることを包含する、請求項1〜5のいずれか1項に定義される式(I)の化合物を製造する方法。
【請求項7】
式(I)の化合物及び農学的に受容可能なキャリアを含有する、農学的に受容可能な組成物。
【請求項8】
組成物が、植物のストレスを軽減する試薬をさらに含有する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
試薬が式(V):
【化3】

(式中R4は、基OR7、SR7又はNR78で、ここでR7及びR8は、水素又はヒドロカルビルから独立して選択され、そしてR5及びR6は、水素、ヒドロカルビル基若しくは官能基から独立して選択されるか、又はR5及びR6は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、酸素、窒素若しくは硫黄から選択される1つ若しくはそれ以上のヘテロ原子を含み得る縮合環系を形成する)
の化合物である、請求項9に記載の組成物。
【請求項10】
式(V)の化合物が、サリチル酸、アセチルサリチル酸(若しくは2−アセトキシ安息香酸)、サリチル酸メチル、安息香酸又はアシベンゾラル−S−メチルである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
抗酸化化合物をさらに含有する、請求項7〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
抗酸化化合物が、アルギニン又はアルギニンが前駆体であるポリアミンである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1に定義される式(I)の化合物、(ii)請求項9に定義される式(V)の化合物及び(iii)抗酸化剤を含有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
マグネシウムジヒドロジャスモネート、アセチルサリチル酸及びアルギニンを含有する、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
成分の比率(i):(ii):(iii)が、1:1:1w/w〜1:2:20w/wである、請求項13または請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
(i)式(IA):
【化4】

(式中、R1はC110アルキル基又はC210アルケニル基であり、Mは原子価nのカチオンである)
の水溶性塩を含む化合物及び
(ii)植物のストレスを軽減する試薬
を含有する、農学的に受容可能な組成物。
【請求項17】
植物のストレスを軽減する試薬が、式(V):
【化5】

(式中R4は、基OR7、SR7又はNR78で、ここでR7及びR8は、水素又はヒドロカルビルから独立して選択され、そしてR5及びR6は、水素、ヒドロカルビル基若しくは官能基から独立して選択されるか、又はR5及びR6は、それらが結合する炭素原子と一緒になって、酸素、窒素若しくは硫黄から選択される1つ若しくはそれ以上のヘテロ原子を含み得る縮合環系を形成する)
の化合物である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
式(V)の化合物が、サリチル酸、アセチルサリチル酸(若しくは2−アセトキシ安息香酸)、サリチル酸メチル、安息香酸又はアシベンゾラル−S−メチルである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
抗酸化化合物をさらに包含する、請求項16〜18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
抗酸化化合物が、アルギニン又はアルギニンが前駆体であるポリアミンである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
請求項16に定義される式(IA)の化合物、(ii)請求項9に定義される式(V)の化合物及び(iii)抗酸化剤を含有し、ここでこの成分の比率(i):(ii):(iii)が、1:1:1w/w〜1:2:20w/wの範囲である、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
非生物的なストレス状態の中の高等植物の成長及び/又は収穫量及び/又は品質を改善する方法であって、請求項1〜5のいずれか1項に記載の式(I)の化合物又は請求項7〜21のいずれか1項に記載の組成物を、その植物又はその環境に施すことを包含する方法。
【請求項23】
窒素肥料又は窒素を含む肥料の性能を改善する方法であって、請求項1〜5のいずれか1項に記載の式(I)の化合物又は請求項7〜21のいずれか1項に記載の組成物を組み合わせて、上記肥料を植物又はその環境に施すことを包含する方法。
【請求項24】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の式(I)の化合物又は請求項7〜21のいずれか1項に記載の組成物を、植物又はその環境に与えることを包含する、生物的ストレスに由来する農作物の損害を軽減する方法。
【請求項25】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の式(I)の化合物又は請求項7〜21のいずれか1項に記載の組成物を含む肥料組成物。
【請求項26】
請求項1に定義される式(I)の化合物、並びに請求項9に定義される式(V)の化合物及び抗酸化剤のうちの1つ又は両方を含有する濃縮物。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2007−533720(P2007−533720A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508977(P2007−508977)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【国際出願番号】PCT/GB2005/001562
【国際公開番号】WO2005/102047
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(505471679)プラント・インパクト・ピーエルシー (6)
【Fターム(参考)】