説明

ジフルオロアセト酢酸のアルキルエステルを調製するための方法

本発明は、4,4−ジフルオロ−アセチル−酢酸アルキルエステルの三段階製造方法に関係する。第一段階では、4−クロロ−4,4−ジフルオロ−アセチル−酢酸アルキルエステルと式(III)P(ORのトリアルキル−ホスファイトとの反応が実施される(式中のRはC−Cアルキルであり、式(IV)のアルキル−ホスホン酸エステルを生成する場合にはこれらのR基は同じであってもよいし、異なっていてもよい。)。前述の式(IV)のアルキル−ホスホン酸エステルは第二段階で式(V)のアミンと反応させる(式中のRおよびRは、相互に独立して水素もしくはC−Cアルキルであり、または式(VI)のエナミンを形成する場合には共に結合して−CH−CH−O−CH−CH−であり、RおよびRは既に言及されている意味を有する。)。前述のエナミンは第三段階で酸の存在下において加水分解される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−クロロジフルオロ酢酸のアルキルエステルから別に得られる4−クロロ4,4−ジフルオロアセト酢酸のアルキルエステルから、4,4−ジフルオロアセト酢酸のアルキルエステル(4,4−ジフルオロ−3−オキソブタン酸のアルキルエステル)を調製するための新規な方法に関係する。
【背景技術】
【0002】
4,4−ジフルオロアセト酢酸エチルは、水素化ナトリウムの存在下においてジフルオロ酢酸エチルを酢酸エチルと反応させることにより得られることが既に知られている(Tetrahedron 2001、57、2689−2700参照)。しかし、この反応から得られる25%という収率は非常に不満足である。更に、副産物として得られるアセト酢酸エチルは所望の生成物から分離するのが難しい。
【0003】
また、エチル4,4−ジフルオロアセト酢酸は、亜鉛の存在下においてエチルジフルオロ酢酸をブロモ酢酸エチルと反応させることにより得られることも知られている(Tetrahedron 1996、52、119−130参照)。しかし、この反応の収率も望ましい状態からかなりかけ離れている。
【0004】
更に、上で言及されている両方法の共通の欠点は、使用されるジフルオロ酢酸エチルが非常に高価であり、このため、大規模な工業生産用の選択物としての魅力に欠けることである。
【0005】
また、芳香族の置換基としてのクロロジフルオロアセチル基は、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム二水和物で還元され得ることも知られている(Tetrahedron Lett.2001、42、4811−4814参照)。しかし、この反応は、4−クロロ−4,4−ジフルオロアセト酢酸エチルへ転換することができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、4,4−ジフルオロアセト酢酸のアルキルエステルを高い全収率において高純度で得ることができる新規で経済的な方法を利用できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
故に、本発明の主題は、構造式(I)
【0008】
【化11】

[式中、Rはアルキルを表す。]の4,4−ジフルオロアセト酢酸のアルキルエステルを調製するための方法であり、この方法は、
a)第一段階において、構造式(II)
【0009】
【化12】

[式中、Rは上で説明されている意味を有している。]の4−クロロ−4,4−ジフルオロアセト酢酸のアルキルエステルを、構造式(III)
P(OR (III)
[式中、RはC−Cアルキルを表し、ここで、残基Rは出現毎に同じであってよく、または異なっていてもよい。]のトリアルキルホスファイトと反応させ、
このようにして得られた構造式(IV)
【0010】
【化13】

[式中、RおよびRは上で説明されている意味を有している。]のアルキルホスホナートを、第二段階において、場合によって希釈剤の存在下において、構造式(V)
【0011】
【化14】

[式中、
およびRは相互に独立して水素もしくはC−C−アルキルを表し、または共に−CH−CH−O−CH−CH−、CH−CH−S−CH−CH−または−CH−CH−N(R)−CH−CH−を表し、
は水素またはC−C−アルキルを表す。]のアミンと反応させ、
このようにして得られた構造式(VI)
【0012】
【化15】

[式中、R、RおよびRは上で説明されている意味を有している。]のエナミンを、第三段階において、酸の存在下において加水分解される
ことを特徴とする。
【0013】
驚くべきことに、構造式(IV)のアルキルホスホナートは、酸加水分解によって所望の最終生成物に直接的に変換することができず、寧ろ、これらの条件下において分解が観測される。同じく驚くべきことは、本発明の方法の第二段階において、構造式(IV)のアルキルホスホナートおよび構造式(V)のアミンから、所望のアルキル4,4−ジフルオロアセトアセタートおよび対応するホスホンアミドは得られず、構造式(VI)のエナミンおよびリン酸ジエステルのアンモニウム塩が得られることである。このエナミンは、驚くべきことに、酸加水分解により容易に構造式(I)の4,4−ジフルオロ−アセトアセタートに変換される。このため、エナミンの単離は全く必要でない。
【0014】
従って、本発明の方法は、上で述べられている既知の調製手順の欠点を克服し、4,4−ジフルオロアセト酢酸のアルキルエステルを高い収率において高純度で与える。更に、この方法は、構造式(II)の4−クロロ−4−ジフルオロアセトアセタートのアルキルエステル中に不純物として存在し得るアセト酢酸のエステルを反応混合物から容易に取り除くことができるという利点も有している。変換中、アセト酢酸のエステルは構造式(III)のトリアルキルホスファイトと反応せず、蒸留により、構造式(IV)のアルキル
【0015】
4−クロロ−4,4−ジフルオロアセト酢酸エチル、亜リン酸トリメチルおよびジイソプロプリルアミンから始める、本発明の方法は以下の反応図式により示すことができる。
【0016】
【化16】

【0017】
本発明の方法により得られるアルキル4,4−ジフルオロアセトアセタートはエノール形ならびに構造式(I)で示されているケト形でも存在することができる:
【0018】
【化17】

【0019】
アルキル4,4−ジフルオロアセトアセタートに加え、これらの化合物の水和物も本発明の方法により得られる。
【0020】
【化18】

【0021】
従って、個々の水和物、ならびに(ケト形およびエノール形における)アルキル4,4−ジフルオロアセトアセタートも本発明の方法の生成物であると理解される。以降の化学に依存して、これら3つすべての形態の生成物を更に反応させることができ、または個別的に特定の形態のみを更に反応させることができる(以下参照)。
【0022】
本発明の第一段階(a)における開始材料として使用される構造式(II)のアルキル4−クロロ−4,4−ジフルオロアセトアセタートは既知である(Journal of Fluorine Chemistry 1992、56、271−284;Huaxue Xuebao 1983、41、729−729およびChemical Abstracts 1984、100、Abstract No.22308;EP−A 0 082 252号参照)。この化合物は、例えば、
b)構造式(VII)
【0023】
【化19】

[式中、Rは上で述べられている意味を有している。]のアルキルクロロジフルオロアセタートを、塩基の存在下において、および希釈剤の存在下において、構造式(VIII)
【0024】
【化20】

[式中、Rは上で述べられている意味を有している。]のアルキルアセタートと反応させる
ことにおいて調製されてよい。
【0025】
構造式(IV)のアルキルホスホナートおよび構造式(VI)のエナミンは新規である。これらの化合物は本発明の方法(a)により調製することができる。
【0026】
構造式(III)のトリアルキルホスファイト、構造式(V)のアミン、構造式(VII)のアルキルクロロジフルオロアセタート(可能な調製方法については調製実施例を参照のこと)および構造式(VIII)のアルキルアセタートは既知の合成化学物質である。
【0027】
本発明の方法(a)の第一段階において、構造式(II)のアルキル−4−クロロ−4,4−ジフルオロアセトアセタートが使用され、式中のRは好適にはC−C−アルキルを表し、より好適にはC−C−アルキルを表し、最も好適にはメチル、エチル、n−、イソ−プロピル、n−、イソ−、sec−、tert−ブチルを表し、特に最も好適にはメチルまたはエチルを表す。
【0028】
本発明の方法(a)の第一段階において、構造式(III)のトリアルキルホスファイトが使用され、式中のRは出現毎に同じものであってよく、または異なるものであってもよい。Rは好適にはメチル、エチル、n−、イソ−プロピル、n−、イソ−、sec−、tert−ブチルを表し、より好適にはメチルまたはエチルを表す。
【0029】
好適なアルキルホスホナートは構造式(IV)のような化合物であり、式中のRは、それぞれ、上で好適である、より好適である、最も好適である、および特に最も好適であるとして与えられている意味を有しており、式中のRは出現毎に同じものであってよく、または異なるものであってもよく、上で好適であるまたはより好適であるとして与えられている意味を有している。
【0030】
本発明の方法(a)の第二段階において、構造式(V)のアミンが使用され、式中のRおよびRは、相互に独立して、好適には水素、−CH−CH−O−CH−CH−、CH−CH−S−CH−CH−または−CH−CH−N(R)−CH−CH−を表し、より好適には水素、メチル、エチル、n−、イソ−プロピル、n−、イソ−、sec−、tert−ブチルを表し、または共に−CH−CH−O−CH−CH−を表し、最も好適には、相互に独立して、イソ−プロピル、イソ−、sec−、tert−ブチルを表し、または共に−CH−CH−O−CH−CH−を表し、特に最も好適には出現毎にイソ−プロピルを表す。構造式(V)において、Rは、好適には水素またはC−C−アルキルを表し、より好適には水素、メチル、エチル、n−、イソ−プロピル、n−、イソ−、sec−またはtert−ブチルを表す。
【0031】
好適なエナミンは構造式(VI)のような化合物であり、式中のRは、それぞれ、上で好適である、より好適である、最も好適である、および特に最も好適であるとして与えられている意味を有しており、式中のRおよびRは、それぞれ、上で好適である、より好適である、および最も好適であるとして与えられている意味を有している。
【0032】
本発明の方法(a)の第一段階
本発明の方法(a)の第一段階は、通常、更なる希釈剤を用いることなく実施される。しかし、希釈剤(例えば塩化メチレン)を追加して使用することも可能である。
【0033】
本発明の方法(a)の第一段階は比較的広い温度範囲内で実施することができる。一般に10℃から50℃までの温度、好適には20℃から40℃まで、より好適には20℃から30℃までの温度で実施される。最も好適には、第一段階における反応成分の反応は25℃から30℃までの温度で開始される。更なる反応は40℃から45℃までの温度で実施され、次いで、室温にまで冷却される。
【0034】
反応時間は決定的に重要ではなく、バッチのサイズに依存して広い範囲内で選択することができる。一般的に、反応物は150分までの時間にわたって混ぜ合わされ、好適には120分まで、より好適には90分までの時間にわたって混ぜ合わされる。更なる反応のための時間は、一晩(即ち、約16時間)の冷却を伴って、通常3時間である。
【0035】
後処理は通常の方法により実施される。本発明の方法(a)の第一段階では、先ず、減圧下において蒸発が実施され、この段階の生成物が蒸留により単離される。
【0036】
本発明の方法(a)の第一段階の実施においては、構造式(II)の1モルのアルキル4−クロロ−4,4−ジフルオロアセトアセタートに対し、一般的には0.5モルから5モルまでの間、好適には0.5モルから3モルまでの間、より好適には1モルから2モルまでの間、最も好適には1.2モルから1.7モルまでの間の構造式(III)のトリアルキルホスファイトが使用される。
【0037】
本発明の方法(a)の第二段階
本発明の方法(a)の第二段階は場合によって希釈剤の存在下において実施される。このような反応に対して不活性なあらゆる通常の有機溶媒が適している。好適には、場合によってハロゲン化された脂肪族、脂環式または芳香族の炭化水素、例えば石油エーテル、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、デカリン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンもしくはジクロロメタン;エーテル、例えばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、メチル−tert−アミルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンもしくはアニソール;ニトリル、例えばアセトニトリル、プロピオニトリル、n−もしくはイソ−ブチロニトリルまたはベンゾニトリル;アミド、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアニリド、N−メチルピロリドンもしくはヘキサメチルホスホルアミド;スルホキシド、例えばジメチルスルホキシド;またはスルホン、例えばスルホランが使用される。
【0038】
本発明の方法(a)の第二段階は広い温度範囲内で実施することができる。一般に10℃から100℃までの温度が使用され、好適には、反応成分が20℃から30℃までの温度で混合され、次いで、30℃から100℃まで、好適には50℃から75℃までの温度で反応させられる。
【0039】
反応時間は決定的に重要ではなく、バッチのサイズに依存して広い範囲にわたって選択することができる。一般に、反応物は数分から60分までの時間内で混合され、好適には10分から30分までの範囲内で混合され、次いで、数時間反応させられ、好適には24時間までの時間、より好適には20時間までの時間反応させられる。
【0040】
後処理は通常の方法により実施される。第二段階においては、反応混合物は室温にまで冷却され、塩化ナトリウム溶液および水で洗われ、この粗生成物が乾燥され、減圧下において蒸発される。次いで、構造式(VI)のエナミンは、蒸留により更なる不純物が取り除かれる。
【0041】
本発明の方法(a)の第二段階の実施においては、構造式(IV)の1モルのアルキルホスホナートに対して、一般的には2.5モルから5モルまでの間、好適には3モルから5モルまでの間、より好適には2モルから4モルまでの間の構造式(V)のアミンが使用される。
【0042】
本発明の方法(a)の第三段階
本発明の方法(a)の第三段階における加水分解は酸の存在下において実施され、好適には、場合によって水で希釈された硫酸、リン酸または塩酸の存在下において、より好適には塩酸の存在下において、最も好適には塩酸および水の混合物の存在下において実施される。
【0043】
本発明の方法(a)の第三段階は広い温度範囲にわたって実施することができる。一般的に、10℃から50℃までの温度が使用され、好適には20℃から30℃までの温度が使用される。
【0044】
反応時間は決定的に重要でなく、バッチのサイズに依存して広い範囲を選択することができる。一般的に、反応物は数分から60分までの時間にわたって混合され、好適には10分から30分までの時間にわたって混合され、数時間反応させられ、好適には24時間までの時間、より好適には20時間までの時間反応させられる。
【0045】
後処理は通常の方法により実施される。第三段階においては、反応混合物は、通常、適切な溶媒で抽出され、塩化ナトリウム溶液および炭酸水素ナトリウム溶液で洗われ、この粗生成物が乾燥され、減圧下において蒸発される。次いで、構造式(I)のアルキル4,4−ジフルオロアセトアセタートは、蒸留により更なる不純物が取り除かれる。
【0046】
本発明の方法(a)の第三段階の実施においては、構造式(VI)の1モルのエナミンに対して、一般に0.5モルおよび5モル、好適には1モルから5モルまでの間、より好適には1モルから2.5モルまでの間の酸が使用される。
【0047】
本発明の方法(b)
本発明の方法(b)においては、構造式(VII)のアルキルクロロジフルオロアセタートおよび構造式(VIII)のアルキルアセタートが使用され、式中のRは好適にはC−C−アルキルを表し、より好適にはC−C−アルキル、最も好適にはメチル、エチル、n−、イソ−プロピル、n−、イソ−、sec−、tert−ブチル、特に最も好適にはメチルまたはエチルを表す。
【0048】
本発明の方法(b)は適切な塩基の存在下において実施される。あらゆる通常の無機および有機塩基が適している。これらの塩基は、好適にはアルカリ土類およびアルカリ金属水素化物、アミド、アルコラート、例えば水素化ナトリウム、ナトリウムアミド、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムtert−ブチラートを含み、より好適にはリチウムジイソプロピルアミド(LDA)および水素化ナトリウムである。
【0049】
本発明の方法(b)は希釈剤の存在下において実施される。このような反応に対して不活性なあらゆる通常の有機溶媒が適している。好適には、場合によってハロゲン化された脂肪族、脂環式または芳香族の炭化水素、例えば石油エーテル、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、デカリン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンもしくはジクロロメタン;エーテル、例えばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、メチル−tert−アミルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンもしくはアニソール;ニトリル、例えばアセトニトリル、プロピオニトリル、n−もしくはイソ−ブチロニトリルまたはベンゾニトリル;アミド、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアニリド、N−メチルピロリドンもしくはヘキサメチルホスホルアミド;スルホキシド、例えばジメチルスルホキシド;またはスルホン、例えばスルホランが使用される。
【0050】
本発明の方法(b)は広い温度範囲にわたって実施することができる。一般に−80℃から+100℃までの温度が使用され、好適には−70℃から0℃までの温度が使用される。
【0051】
反応時間は決定的には重要でなく、バッチのサイズに依存して広い範囲を選択することができる。一般に、反応物は数分から180分までの時間にわたって混合され、好適には10分から90分までの時間にわたって混合され、数時間反応させられ、好適には24時間までの時間、より好適には16時間までの時間反応させられる。
【0052】
後処理は通常の方法により実施される。通常、反応混合物は中和され、相が分離され、塩化ナトリウム溶液で洗われ、この粗生成物が乾燥され、減圧下において蒸発される。次いで、構造式(II)のアルキル4−クロロ−ジフルオロアセトアセタートは、蒸留により更なる不純物が取り除かれる。
【0053】
本発明の方法(b)の実施においては、構造式(VII)の1モルのアルキルクロロジフルオロアセタートに対して、一般に0.5モルから5モルまでの間、好適には1モルから5モルまでの間、より好適には1モルから2.5モルまでの間の構造式(VIII)のアルキルアセタートが使用される。
【0054】
本発明の方法(a)および(b)のすべての段階は、通常、常圧で実施される。しかし、個々の段階またはすべての段階を高圧または減圧下−一般に0.1バールから50バールまでの間、1バールから10バールまでの間の圧力下で実施することもできる。
【0055】
本発明の方法(a)により得られるアルキル4,4−ジフルオロアセトアセタートは、ジフルオロメチル置換ピラゾリルカルボン酸およびチアゾリルカルボン酸誘導体の調製にとって貴重な中間体であり、前述の化合物は、順に、抗真菌活性を有する化合物の前駆体である(例えば、WO 02/08197号およびDE−A 102 15 292号参照)。
【0056】
例えば、アルキル4,4−ジフルオロアセトアセタートは、先ず、無水酢酸およびトリアルキルオルトホルマートを用いて、アルキル2−(ジフルオルアセチル)−3−アルコキシアクリラートに高い収率(エチルエステルを伴い90%以上、調製実施例参照)で変換することができる。メチルヒドラジンを用いる環化は1−メチル−3−ジフルオロメチル−ピラゾール−4−カルボン酸(エチルエステルの場合には、65%以上の収率で)を与える。不適切な異性体(1−メチル−5−ジフルオロメチル−ピラゾール−4−カルボン酸)は結晶化により分離することができる。この変換は以下の反応図式により示すことができる。
【0057】
【化21】

【0058】
また、アルキル4,4−ジフルオロアセトアセタートを先ず塩素化することもでき、このときには一および二塩素化生成物(アルキル2,2−ジクロロ−4,4−ジフルオロ−3−オキソブタノアートおよびアルキル2−クロロ−4,4−ジフルオロ−3−オキソブタノアート)が得られ、これらの両化合物は、アルキル3−メチル−4−ジフルオロメチルチアゾール−5−カルボキシラートを形成すべく、チオアセトアミドと略定量的に反応させることができる(以下の反応図式参照)。
【0059】
【化22】

【0060】
本発明によるアルキル4,4−ジフルオロアセトアセタートの調製、更にはジフルオロメチル置換ヘテロ環式化合物を調製するためのこれらのアルキル4,4−ジフルオロアセトアセタートの使用が、上述の説明を更に示す以下の実施例で検討される。しかし、これらの実施例を制限的な仕方で解釈すべきではない。
【0061】
調製実施例
【実施例1】
【0062】
段階1:
エチル3−[(ジメトキシホスホリル)オキシ]−4,4−ジフルオロブタ−3−エノアート(IV−1)の調製
【0063】
【化23】

【0064】
亜リン酸トリメチル(232.0g、1.87mol)を4−クロロ−4,4−ジフルオロアセト酢酸エチル(305.1g、含量77.0%、1.17mol)に、氷で冷却し、ガスを発生させながら、25℃から30℃において、90分間にわたり滴下させながら加える。攪拌を、先ず、30℃において1時間続け、次いで、40℃から45℃において3時間続ける。後処理のため、反応混合物を室温にまで冷却し(約16時間)、減圧下において蒸発させる。この粗生成物を蒸留により更に精製する。
【0065】
302.0g(97%、理論値の91%)のエチル3−[(ジメトキシホスホリル)オキシ]−4,4−ジフルオロブタ−3−エノアート(0.4hPaにおいて、沸点92−95℃)が得られる。
【0066】
段階2:
エチル3−(ジイソプロピルアミノ)−4,4−ジフルオロブタ−3−エノアート(VI−1)の調製
【0067】
【化24】

【0068】
ジイソプロピルアミン(15.2g、0.15mol)を100mlのメチル−tert−ブチルエーテル中におけるエチル3−[(ジメトキシホスホリル)オキシ]−4,4−ジフルオロブタ−3−エノアート(IV−1)(14.2g、97%、0.05mol)の溶液に10分間にわたって滴下させながら加える。還流下において19時間加熱した後、反応混合物を室温にまで冷却し、毎回10mlの10%塩化ナトリウム溶液を用いて2回洗い、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、減圧下において蒸発させる。更なる使用のため、この残分を蒸留した。
【0069】
8.8g(95%、理論値の67.4%)のエチル3−(ジイソプロピルアミノ)−4,4−ジフルオロブタ−3−エノアートが得られる(0.5hPaにおいて、沸点55−57℃)。
【0070】
段階2および3:
エチル3−(ジイソプロピルアミノ)−4,4−ジフルオロブタ−3−エノアート(VI−1)の単離を伴わない4,4−ジフルオロアセト酢酸エチル(I)の調製
【0071】
【化25】

【0072】
ジイソプロピルアミン(2811.6g、27.8mol)を、20℃において、メチル−tert−ブチルエーテル(18.5l)中におけるエチル3−[(ジメトキシホスホリル)オキシ]−4,4−ジフルオロブタ−3−エノアート(IV−1)(2570g、98.8%、9.26mol)の溶液に10分間にわたって滴下させながら加える。還流(57℃)下において20時間攪拌し続ける。次いで、冷却しながら20℃から25℃において、4080mlの水中における2037gの濃塩酸の溶液を滴下させながら加え、20時間攪拌し続ける。2つの相が形成され、次いで、これらの相を分離する。水性相を、毎回2.3lのメチル−tert−ブチルエーテルを用いて2回抽出する。これらを合わせた有機相を2.8lの10%塩化ナトリウム溶液、10%炭酸水素ナトリウム溶液および再び10%塩化ナトリウム溶液を用いて洗い、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、減圧下において蒸発させる。この粗生成物を蒸留により精製する。
【0073】
1179g(92%、理論値の76.6%)の4,4−ジフルオロアセト酢酸エチルが得られる。
【実施例2】
【0074】
4−クロロ−4,4−ジフルオルアセト酢酸エチル(II)の調製
【0075】
【化26】

【0076】
312.6g(3.09mol)のジイソプロピルアミンを1.55lのテトラヒドロフラン中に溶解し、−70℃に冷却する。この溶液に852.9g(3.08mol)のn−ブチルリチウム(n−ヘキサン中において2.5モル)を−60℃において80分間にわたり滴下させながら加え、−70℃において45分間攪拌し続ける。温度を短時間−20℃に上げ、直ちに再び−70℃に冷却する。次に、−60℃において、264.3g(3.0mol)の酢酸エチルが50分間にわたって滴下させながら加えられる。同じ温度で242.7gのクロロジフルオロ酢酸エチルが30分間にわたって滴下させながら加えられ、−65℃から−70℃で3時間攪拌し続け、次いで、温度が室温にまで高められる。−5℃に達したときに1500mlの4NのHClを加え、この反応混合物を16時間放置する。水性相(pH6−7)を分離し、有機相を750mlの2NのHClおよび1200mlの飽和塩化ナトリウム溶液で洗う。これらの有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、減圧下において蒸発させる。更なる精製のため、この粗生成物を蒸留する。
【0077】
282.9g(92%、理論値の86.3%)の4−クロロ−4,4−ジフルオロアセト酢酸エチルが得られる。
【実施例3】
【0078】
クロロジフルオロ酢酸エチル(VII)の調製
【0079】
【化27】

【0080】
504.3g(3.87mol)のクロロジフルオロ酢酸および5.0gのp−トルエンスルホン酸を775mlの塩化メチレン中に溶解し、室温において、311.6g(6.76mol)のエタノールを用いて30分間にわたり処理する(温度が33℃に上昇する)。還流下において、ウォータートラップを伴った状態で38時間攪拌し続け、次いで、室温にまで冷却する。後処理のため、水(200ml)、飽和炭酸水素ナトリウム溶液(200ml)および再び水(200ml)を用いて洗い、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、蒸留により溶媒を取り除く。最後に、分別蒸留により更なる精製が実施される。
【0081】
488.9g(98%、理論値の78.5%)のクロロジフルオロ酢酸エチル(沸点94−96℃)が得られる。
【実施例4】
【0082】
1−メチル−5−ジフルオロメチル−ピラゾール−4−カルボン酸の調製
0.7lのエタノール中における527.8g(11.45mol)のメチルヒドラジンの溶液を、−15℃から−5℃において、5.4lのエタノール中における2394g(10.35mol)の2−(ジフルオロアセチル)−3−エトキシアクリル酸エチルの溶液に3.5時間にわたって滴下させながら加え、16時間攪拌し続ける。次いで、560g(14mol)の水酸化ナトリウムおよび3.5lの水を加え、50℃において7時間攪拌し続ける。反応混合物を冷却し、減圧下において蒸発させる。残分を6lの水および7kgの氷中に取り、ジクロロメタン(3lで1回、2lで1回)で洗う。この氷冷水性相を濃塩酸でpH2に調節し、沈殿した生成物を濾過して取り出し、乾燥キャビネット内で乾燥させる。この粗生成物を還流下において8lのイソプロパノール(熱い)中に溶解し、冷却し、0℃から5℃で30分間攪拌し、濾過し、1.4lのイソプロパノール(5℃)で洗い、乾燥キャビネット内において40℃で乾燥させる。
【0083】
1226.4g(99.8%、理論値の67.1%)の1−メチル−5−ジフルオロメチルピラゾール−4−カルボン酸[LogP(pH2.3)=0.52]が得られる。
【実施例5】
【0084】
エチル3−メチル−4−ジフルオロメチルチアゾール−5−カルボン酸の調製
500mlのジクロルエタン中における2−クロロ−4,4−ジフルオロ−3−オキソブタン酸エチル(50.4%)および2,2−ジクロロ−4,4−ジフルオロ−3−オキソブタン酸エチル(68.2g、0.2mol、50.4%のモノクロロ化合物、19.2%のジクロロ化合物)の混合物に28g(0.27mol)のチオアセトアミドを加え、還流下において2時間加熱した後、16時間放置する。この後、300mlの飽和炭酸水素ナトリウム溶液を攪拌しながらゆっくりと加え、相を分離する。この有機溶液を硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下において蒸発させる。残った溶液を濾過し、20mlの塩化メチレンで洗い、減圧下において蒸発させる。
【0085】
53.4g(72%、理論値の86.7%)の3−メチル−4−ジフルオロメチル−チアゾール−5−カルボン酸エチル[LogP(pH2.3)=2.18]が得られる。
【0086】
上の表および調製実施例で報じられたlogP値の測定は、逆相カラム(C18)でのEEC Directive 79/831 Annex V.8A by HPLC(高性能液体クロマトグラフィー)に従って実施される。温度:43℃。
【0087】
この測定は、溶離液として0.1%のリン酸水溶液およびアセトニトリルを用い、pH2.3における酸性領域で実施される;10%のアセトニトリルから90%のアセトニトリルまでの直線勾配。
【0088】
キャリブレーションは、logP値が既知(2つの続いて使用されたアルカノン間の線形補間による、保持時間に基づくlogP値の測定)の非分枝状アルカン−2−オン(3個から16個までの炭素原子を有する)を用いて実施される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式(I)
【化1】

[式中、Rはアルキルを表す。]の4,4−ジフルオロアセト酢酸のアルキルエステルを調製するための方法であり、
第一段階において、構造式(II)
【化2】

[式中、Rは上で説明されている意味を有している。]の4−クロロ−4,4−ジフルオロアセト酢酸のアルキルエステルを、構造式(III)
P(OR (III)
[式中、RはC−Cアルキルを表し、ここで、残基Rは出現毎に同じであってよく、または異なっていてもよい。]のトリアルキルホスファイトと反応させ、
このようにして得られた構造式(IV)
【化3】

[式中、RおよびRは上で説明されている意味を有している。]のアルキルホスホナートを、第二段階において、場合によって希釈剤の存在下において、構造式(V)
【化4】

[式中、
およびRは相互に独立して水素もしくはC−C−アルキルを表し、または共に−CH−CH−O−CH−CH−、CH−CH−S−CH−CH−または−CH−CH−N(R)−CH−CH−を表し、
は水素またはC−C−アルキルを表す。]のアミンと反応させ、
このようにして得られた構造式(VI)
【化5】

[式中、R、RおよびRは上で説明されている意味を有している。]のエナミンを、第三段階において、酸の存在下において加水分解される
ことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
開始材料として前記第一段階で使用される構造式(II)のアルキル4−クロロ−4,4−ジフルオロアセトアセタートが、構造式(VII)
【化6】

[式中、Rは上で説明されている意味を有している。]のアルキルクロロジフルオロアセタートを、塩基の存在下において、および希釈剤の存在下において、構造式(VIII)
【化7】

[式中、Rは上で説明されている意味を有している。]のアルキルアセタートと反応させることにより調製される
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
RがC−C−アルキルを表す請求項1に記載の構造式(II)の化合物が使用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
RがC−C−アルキルを表す請求項1に記載の構造式(II)の化合物が使用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
Rがメチル、エチル、n−、イソ−プロピル、n−、イソ−、sec−、tert−ブチルを表す請求項1に記載の構造式(II)の化合物が使用され、
がメチル、エチル、n−、イソ−プロピル、n−、イソ−、sec−、tert−ブチルを表す請求項1に記載の構造式(III)の化合物が使用され、
およびRが相互に独立して水素、メチル、エチル、n−、イソ−プロピル、n−、イソ−、sec−、tert−ブチルを表し、または共に−CH−CH−O−CH−CH−を表す請求項1に記載の構造式(V)の化合物が使用される
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記第一段階が希釈剤を用いずに実施されることを特徴とする、請求項1、2、3、4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記第三段階における加水分解が硫酸、リン酸または塩酸の存在下において実施され、前記酸はそれぞれのケースにおいて場合によって水で希釈されていてよいことを特徴とする、請求項1、2、3、4、5または6に記載の方法。
【請求項8】
ジフルオロメチル置換ピラゾリルカルボン酸またはチアゾリルカルボン酸誘導体を調製するための、構造式(I)
【化8】

[式中、Rはアルキルを表す。]のアルキル4,4−ジフルオロアセトアセタートの使用。
【請求項9】
構造式(IV)
【化9】

[式中、
Rはアルキルを表し、
はC−C−アルキルを表し、ここで、前記残基Rは、出現毎に同じであってよく、または異なっていてもよい。]
のアルキルホスホナート。
【請求項10】
構造式(VI)
【化10】

[式中、
Rはアルキルを表し、
およびRは相互に独立して水素もしくはC−C−アルキルを表し、または共に−CH−CH−O−CH−CH−、CH−CH−S−CH−CH−または−CH−CH−N(R)−CH−CH−を表し、
は水素またはC−C−アルキルを表す。]
のエナミン。

【公表番号】特表2007−506673(P2007−506673A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518011(P2006−518011)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006607
【国際公開番号】WO2005/003077
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(302063961)バイエル・クロツプサイエンス・アクチエンゲゼルシヤフト (524)
【Fターム(参考)】